翌朝、頭に軽い衝撃が伝わってきて起きた。見てみると慧音の寝返りによる頭突きだった。まさか、この時から慧音の頭突きは健在だったのか……んなわけないか。
当の本人はというと、そのことを知って慌てて起きて後退り、謝り倒してきた。自分は石頭だからとか……自覚あるんだな。
「じゃ、行きますか」
「本当に着いて行ってもいいのか……?」
「いいのいいの」
『それにしてもどこに行くのですか?』
『あ、私はまだ寝てるわね。ふぁ~…』
ルーミアはまだ寝るらしい。それにしても何処に行くかって?そんなもの例によって決めていないに決まってるだろう。俺が決めるのも面倒くさいので、妹紅に聞いてみた。
「妹紅、何処がいい?」
「私が決めてもいいんですか?」
「ああ、言ってみろ」
「えっと…それじゃあ、命蓮寺っていうお寺に行ってみたいです。妖怪の山に居るときにちょくちょく噂で聞いてたんです。妖怪の駆け込み寺って」
「にゃあ…私も聞いた」
「ん、そこにするか。慧音もいいか?」
「私は零に着いて行くだけさ」
あら、そう。それにしても命蓮寺ね……えっと、誰がいたっけ?確か聖と鼠と船長と……雲?ああ、忘れた……見れば思い出すだろうさ。
それにしてもここから遠いな……歩いて三日は掛かりそうだ。ま、自由気ままな気楽な旅だ。時間は腐るほどあるんだからのんびり行こうかね。
じゃあまずは方角。この村から南西に真っすぐ歩けばいいんだな。途中大きな山をひとつ越えることになるが、俺達は全員まともじゃないので大丈夫だろう。
慧音の持って行きたいものとかを俺の腕輪に収納して早朝からレッツゴー。今回はアマテラスも出てきて慧音と話しながら歩くそうだ。妹紅も慧音のところに行ったし、ルーミアと三日月が俺の所にきて共に前を歩いている。三日月は頭の上でルーミアが左隣。
さて、既に村から出て二時間ちょっと経ったけど、後方の三人と別れた。つまりは迷子だ、三人が。俺達ではなく三人が。もう一度言おう、三人が迷子だ。
「何処行ったのかしら?」
「さぁ。でもアマテラスとは繋がってるし、直ぐに来ると思うんだけど、ルーミア」
「なに?」
「闇でも操って連れてきて」
「しょうがないわね……」
はぁ…と溜息をついてから闇を自在に操りだすルーミア。だって自分でするの面倒くさいもん。本来、こういうことをさせるためにルーミアを式にしたんだし。働いてくれ。
ルーミアが闇で何かを創りだしたんだが、なんだろうな。ぐにゃぐにゃと不自然に歪んで、形になってきてから止まったんだが、出来た姿が馬鹿でかい鴉。大きさで言えば普通の鴉の約三十倍くらい?それくらいだと思う。視覚を共有させて見つけさせるのだとか。
んじゃまあ、見つかる間も暇なので歩き続けておこうか。どうせ追い付いてくるでしょう。三日月弄りながら歩くこと二時間。山を抜けてそこそこ広いところに出て道を歩いている。そして見つけたのが、なんか丸い玉に屋根がついた物。どうも脚で踏みつぶしたらしく、粉々一歩手前になってるけど。
「ルーミア…なんか踏んだんだけど」
「なにを?…って、なにそれ?」
「宝塔…だと思いたかった物」
「へぇ~……誰かのかしら?」
「とりあえず証拠隠滅」
安定の隠し事。破片を拾い集めて収納の腕輪の中に入れておいた。腕輪の中が一番安全だからな。俺以外に取り出せる奴は絶対にいない。
さて、踏み潰したことも忘れ去っててくてく歩いていると、少し向こうになんか虎みたいなの発見。虎なんて珍しい…こんなところにいるわけないのに。ルーミアに少し断りを入れてから木々の合間を縫ってそこに行き、フリフリと動く虎柄を目にしながら……
「せい!」
「ふぎゃ!?」
近くの木を引っこ抜いてフルスイングした。勿論、殺さずに手加減したから、大丈夫だ、問題ない★
よし、これで何処かに売りつけて金でもぼったくろう。見世物小屋に直行してから、毛皮として売られる運命……いい夢見ろよ。
「よしよし…ゴチになります」
アマテラスが見ていたら、悪どいと言うだろう笑みを浮かべながら、茂みに隠れたソレの首根っこをむんずと掴んで持ち上げる。なんか首が異様に細いような……本当に虎か?タイガーか?もしかして某運命のゲームに出てくるトラじゃないだろうな?
よいしょと持ち上げて顔の前にぶら下げてみると……
「きゅ~……」
「………………虎?」
なんか目をバッテンにした女だった。ギャグ補正?なにこれ可愛いお持ち帰り。というかどこが虎……ああ、そういうことね。
体をジロジロ見てみると、腰のあたりに虎柄の布があった。もしかしたらなにか探しものをしていた時に、ソレが見えただけかもしれない。そして勘違いで木をぶち当てたと。…………罪悪感?なにそれ美味しいの?
まあいいや。ルーミアのところに戻ろう。木をポイっと捨てると、ズズゥン…と地面を揺らして倒れた。それにしてもなんで虎柄……そしてこの顔何処かで見たことあるような。
こいつも大阪のおばちゃんみたいな精神を持ってるのかもしれない。起きたら注意だな。もし仲良く慣れたのなら、虎のきぐるみでも着せてみようか…いや、パジャマ的なのがあったな。昔にサキがいろいろ買ってきたんだよな。
フードに耳と黒い目がついていて、手と足にはその動物のもふもふ手足、尻尾があればそれもお尻のところに付いている。
因みに、ゲンがゴリラでシュウが犬、サキが猫で永琳がウサギ。そして俺が狐。誰だ尻尾九本も付けた奴。とまあ、こんなかんじでそのシリーズが腕輪の中に入ってるんだよ。動物パジャマシリーズ。女二人はガチで可愛かったが、ゲンのゴリラは異様に似合っていた。でも気持ち悪い。吐き気がするくらい気持ち悪い。大事なことだから二回言った。
お、ルーミアいた。
「お~い、ルーミア」
「あ、御主人様。ネズミ捕まえたわよ」
「ネズミ?汚いから捨てなさい」
「それが少し違うネズミなの」
なになに?そんなに珍しいネズミなのか。見せてもらうことにした。
ルーミアが腕を上げると、そこには首根っこ掴まれた涙目のネズミ少女……ナズーリンがいた。いやまぁ…確かに違うネズミだ。しかし俺も対抗するものがあるんだよ。
「それなら俺もあるぞ。見ろ、頭に花咲かせた虎柄のもの着た大阪のおばちゃんみたいなやつ。きっと頭がパーなのか、花畑なのだろう」
「うわ…なにそれ怖い」
「ご主人!?」
突然ジタバタしだしたナズーリンを、ルーミアがひと睨みして黙らせると、マリオのごとく小さくなって黙りこんでしまった。それからそいつらが住んでいるという寺に案内してもらうことに。肩に担ぎながら歩き、ルーミアが掴んだまま運ばれているナズーリンのネズ耳と尻尾を片手で弄る。耳もふもふしたり、尻尾をくにくにしたり。
寺に着く最後らへんには、ナズーリンの声が聞こえなくなってきて小さく荒い息遣いしか聞こえなかった。ルーミア、ずっと首根っこ掴んでるから息できなくなってきてるんだよ。気づいてあげて。俺は言わないけど。
「やっと着いた。よし、田舎に泊まろう!」
「周りに住宅街がないんだけども」
「………突撃!隣の晩御飯!」
「隣に家がないわよ」
「となりのバナナ!」
「だから……」
「となりのト○ロ!」
「……………」
「文句多いな、ルーミア」
「何も言ってないんですけど!?」
となりのアクバル、隣のイケメン、となりのウチナーンチュ、隣の駅、となりのペドロ、となりのグリルなどなど…隣のほにゃららシリーズはまだまだある。レッツほにゃらら。
さて、気配でも探って人がいるところに行ってみようか。う~む……どこかの部屋の中に知ってる気配がある。これはあれだ……アマテラスと妹紅と慧音だ。よし、三日月。猫に不法侵入という概念はない…行って来い。
「にゃあ!」
頭から飛び降りた三日月はすぐさま走ってどこかに消えた。降りてきた際にナズーリンが怯えてたけど、猫は苦手なのだろうか……まあいいか。少しするとパタパタと迷子三人組と聖白蓮がやって来た。
どうもあのでかいカラスはここに案内したらしい。いや、もしかしたらすでについていたのかもしれない。というか待て、俺って昔に聖白蓮にあったことがあるんじゃないか?なんか少しだけ覚えている。
子供の頃から婆一歩手前まで一緒に居たような……命蓮も知ってるぞ、そう言えば。
「零さん、離れてしまってすみません」
「いやいい」
「あ、それと私は零さんの中に入っていますね」
そう言って俺の中に入り、中で入った理由を教えてくれた。寺で本物の神の名前言ったら面倒臭いことになりそうじゃね?ということですな。俺ってさ、他の世界では既にめちゃくちゃ有名だけど、この世界ではまだあまり広まってないんだよな。知ってるのは神だけじゃないか? 広まるのは未来だと思う。
ふと、聖白蓮を見てみると、いつの間にかナズーリンは開放されていたのか、なんかナズーリンを慰めていた。よほどルーミアが怖かったのだろうか。妖怪のトップレベルを優に超えてるから仕方がないかもしれないけど。
「聖~、誰か来たの~?」
「またお客さん?」
「今日は多いわね」
ん?また誰か来た。三人くらい来て、聖の方に向かっていったが、一人見覚えがある。アレは確か……
「あぁああぁぁぁぁぁあああッッ!!!!!」
「ぬ、ぬえ!?どうしました!?」
そんな聖の心配する声もなんのその。無視してダッシュしてロケットずつき。だが甘い……見切った!そこだ!
「質量のある残像ッ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
「ゲホォアッ!?」
「「「「星ーー(ご主人ー)ッ!!?」」」」
ぬえのロケットずつきを肩に担いでいた虎柄女でガード。脇に手を入れて目の前にかざしたのに、そのガードさえ突っ切って突撃してきた。ガード?一瞬目を覚ましたけど再び沈んだぜ。足元に転がっている。
仕方なくぬえを食らい、衝撃を逃がすように抱きしめたあとにくるくる回る。それから止まった。まったく……久しぶりだけど少しはしゃぎ過ぎじゃないだろうか。
都にいた時に、うるさかったので俺がはたき落として屈服させたあとにしばらく一緒に遊んだのだ。何して遊んだか?それはまぁ……イタズラしまくったに決まってるじゃないか。一ヶ月……都は混沌としていた。妖怪の仕業じゃないかと言われていたが、残念。神の仕業だ。
イタズラの範囲はかなり広く、一般人は勿論、陰陽師やかぐや姫、帝までなんでもござれだ。俺をあまりナメないでほしい。やると言ったらやる男…ソレが俺だ!
ある意味それを考えると、ぬえは凄い妖怪といえるかもしれない。アベノミクス……じゃなくて安倍晴明をイタズラ漬けにして帝を嵌めまくる。歩けばタライ、歩けば黒板消し、歩けば落とし穴……一緒に遊びまくったぜ。警備を増やしても意味なかったな。
「おっと……まったく、もう少しゆっくり来いよ」
「嫌!それにしても久しぶり!最後に会ったのは帝を厠でお尻を便器に嵌めて、お風呂で脱毛剤を使わせて、夜に枕を巨大豆腐に変えるっていうイタズラをして以来だね!」
「懐かしいなぁ……」
アレは楽しかった。八意印の超即効性脱毛剤を使わせた時は二人で笑い転げた。髪を触るたびに抜けて、全身つるっつるになっていた。泣いてたな。豆腐は頭が沈んで偉いことになっていた。窒息死しないために食いまくっていたのを憶えている。
「「「「「「うわぁ~…………」」」」」」
全員ぬえの言葉を聞いてドン引きしている。アマテラスはその時俺の中にいたので知っている。勿論大爆笑。腹筋崩壊したとか。大丈夫だ、俺とぬえもだから。
そうだ、せっかくだからぬえと一緒に足元のこいつをイタズラして起こすか。それをぬえに伝えると、ニヤリと笑って頷いた。それを言うと俺も笑っていたらしく、ぬえに頬を触られながら指摘された。他の奴ら?なんか青くなっている。
さて……何をしようか。
さて……何をしようか。
本当に……何をしようか。イタズラ?なにすればいいんだぁ……思いつかない!
面白く且つ、ちょっとだけ鬼畜な奴がいいですよね~。う~ん…悩みます。
頑張って考えておきますね。それでは~(^^)/~~~