「ネオジャパンだけ普通のガンダムでズルくない? 日本の要素なくない?」
そう国際ガンダムファイト連盟に文句をつけられたネオジャパンは、シャイニングガンダムの開発を断念。
ネオジャパンのファイターであるドモン・カッシュは、もっと日本的な要素を持つガンダムに乗って戦う事となったのだ。
『チボデー・クロケット!
貴様にガンダムファイトを申し込むッ!!』
ネオジャパン代表、ドモン・カッシュ。
彼がネオアメリカ代表であるチボデーに対し、そう宣戦布告してきたのは昨日の夜の事。
ボクシングのコロニーチャンプとして地球王者との統一戦に挑む予定であったチボデーに対し、リングにカッコよく乱入して宣戦布告を決め、「ヒャッハー!」とばかりに走って帰ってきた。
ファイトの約束もしっかり交わしてきたし、明日に控えたチボデーとの対戦が、今からとても楽しみなのである。
……しかしながらドモン・カッシュは、今とても大きな問題を抱えていた。
それは明日のチボデーとのガンダムファイトで乗る、機体の事。
まことに遺憾ながら、ドモンの愛機としてネオジャパンに用意されてしまった、自分のガンダムについての事なのだ。
「完成したわドモン!
これがネオジャパンの誇るモビルファイター、寿司ガンダムよ!」
「乗れるかバカ! なに作ってるんだお前ッ!!」
いま目の前で輝かんばかりの良い笑顔を見せているのは、レイン・ミカムラさん。
彼女は幼馴染でもあり、また今大会ではサポートクルーとして参加している、ドモンの相棒だ。
医者としての知識を持つばかりか、メカニック、射撃までこなす才媛。
まさにガンダムファイターであるドモンにとって、無くてはならない存在であるハズなのだが……。
「さぁ乗ってみてドモン!
今モビルトレースシステムをONにするわっ!」
「だから乗らんと言っとるだろうッ! なんで寿司なんだ!!」
このネオジャパンMF“寿司ガンダム“は、彼女の父であるミカムラ博士の協力のもと、レインの発案&デザインにより開発された。
まさに彼女の愛と情熱の詰まった、最高のガンダム。ネオジャパンの希望なのだ。
ドモンの背中をグイグイ押し、無理やりコクピットに乗せようとレインは奮闘する。
「ちょっと! ちょっとで良いから乗ってみて! きっと気に入るから!」と、フンスふんすと興奮している。
「ファイティングスーツは海苔で作ってみたわ!
海苔ってちょうど黒いしっ。お寿司なんだし!
最初ベタつくと思うけど、時間が経てばパリパリになるから!」
「なんて事をするんだ!! 普通のヤツでいいだろ!!」
「今は武装を取りつけていないから、ただの“酢飯ガンダム“だけど、
当日は色々な装甲を取り付ける予定よ!」
「付けんでいい! 乗らん! 普通のガンダムを寄越せレイン!!」
「足の裏には、イカを装着するのっ」
「ヌメるだろうそれ! 絶対歩きにくいぞ!!」
「コックピットは、イクラで出来ているわっ!」
「プチッといってしまう! 潰れてしまうぞ俺が!!」
前腕にマグロ。肩にもマグロ。胴体にはシメ鯖をあしらって青色を演出。そう熱の籠った説明をしていくレイン。
ちなみにビームサーベルの持ち手には、湯飲みよろしく魚の名前が沢山書いてあるらしい。
お寿司好きにはたまらない、大変夢のあるガンダムに仕上がっていた。食欲もそそる。
「……えっ、もしかしてドモン、乗りたくないの……?
お寿司嫌いだった……?」
「嫌いじゃない! 寿司は食う! でもガンダムは別だッ!!」
「そうよね……、お寿司が嫌いな人なんて、この世にいるハズ無いもの。
……それでねドモン? この寿司ガンダムに乗る時はね?」
「話を聞けレインッ!!!!
乗らん! 乗らんと言ってるんだ!!! 普通のガンダムを寄越せッ!!」
「普通って…………もしかしてドモン、軍艦巻きの事を言ってるの?
お寿司を食べに来ておいて、シーチキンやハンバーグ巻きばかりを?
お魚も食べなきゃダメよ?」
「わかったっ! 魚も食う! 今度食いに行こうなッ!!
だから俺に! ごく一般的なガンダムをッッ!!」
「えっ……なに? ……えっ」
――――貴方が分からない。 そう言わんばかりにキョトンとするレイン。
彼女の凄まじいまでの“お寿司への信頼感“が、言葉を理解するのを拒ませているのだ。
「えっと……。それはトロとかウニとか……そういう事じゃなく?」
「いったん寿司から離れろ!
今は値段の話をしてるワケじゃないんだ!!」
「……えっ、わからない。
だってドモンは明日……お寿司のガンダムに乗るのに」
「もう決定事項なんだな!? そうなんだなレイン!?
すでにお前の中でッ!!」
オーマイガッと天を仰ぐドモン。
いくら自分がコロニー格闘技の王者といえ、お寿司な機体でガンダムファイトを戦い抜く自信は無い。
それに自分の目的としてキョウジ・カッシュを探すという物もあるが、いったいどんな顔してお兄ちゃんに会えば良いというのか。こんなお寿司なガンダムに乗って。
そう天に向けてドモンが雄たけびを上げていると、やがてその様子を見ていたレインが自我を取り戻し、そしてなにやらプリプリと怒り始める。
どうやら自分の作ったガンダムを貶されてしまったと解釈したようで、大変お冠のご様子だ。
「なっ……、なんで嫌がるのよドモンっ!!
わがままなんて良くないっ! せっかく作ったのにっ!!」
「いやっ、それはまぁ……、努力は買うが……。
……あのな? レイン」
「そんなに乗りたくないんなら、もう乗せてあげないっ!!
ドモンなんて生身で戦えばいいんだわっ!!」
「無茶を言うなっ……! いくら俺でも、生身でガンダムの相手は!
それにガンダムファイトの国際条約も……!」
「それじゃあ私用に開発した“ゲイシャガンダム“に乗る!?
ドモンなんて変態になっちゃえば良いのよっ!!」
「もっと乗れるかそんな物!!
いったいどんな顔して、キョウジと会えば…………っておいレイン!!
このゲイシャガンダム、すごいクォリティーじゃないかッ!?
お前、自分のガンダムにだけ……どれだけお金をかけて……!!」
「うるさいっ! 乗れっ!! 乗りなさいお寿司のガンダムに!!
あんまりワガママ言うと……産むわよっ!?」
「何を!? なに産むつもりだお前!!
おまっ……ちょっとレイン! ……オイッ!!」
「産むわよ!? 本気なんだからね私っ!!
分かったらさっさとお寿司に乗りなさいドモン!! ……産むわよっ!?」
もうポカポカと叩かれながら、コックピットに押し込まれていくドモン。
「ムキャー!」っと怒るレインの前に、もう抵抗すら出来なかった。
取り合えずはそれから無事に試乗テストを終え、ドモンは自室でゆっくりと風呂に浸る。
一応頑張ってはみたものの、身体に染み付いた磯の香りは、中々落ちなかった。
……………………
………………………………………………
「改めて俺から、ガンダムファイトを申し込むぜ!
受けてくれるか、ジャパニーズ?」
「応ともっ!!」
そして翌日、ドモンはネオアメリカの無人地区にてチボデーと対峙していた。
さっきまでネオアメリカ側の刺客にドモンが暗殺されかかったりと色々あったのだが、チボデーが駆けつけてこれを撃退。現在に至る。
「さぁガンダムを出しやがれぇ!!
どんな相手だろうが、この“パンケーキガンダム“がブッ倒してやるぜぇ!!」
「パンケーキ!? パンケーキかそれッ!!」
チボデー。クロケットが搭乗するのは、アメリカ人が大好きなパンケーキを模したデザインのガンダム。
大小いつくものパンケーキがそのボディを形成しており、腹のコックピットのあたりには、とろけたバターが引っ付いている。大変に食欲をそそる。
「来ぉいドモン・カッシュぅ!!
俺ぁこのパンケーキガンダムで、アメリカンドリームを掴むんだぁーッ!!」
「無理だチボデー!! よく分からんが、きっと無理だッ!!」
思いとどまれとばかりにそう進言するも、ウオォォと雄たけびをあげるチボデーは聞く耳を持たない。
しょうがないのでドモンもガンダムを呼び寄せる事にした。お互い大変だなチボデー。
「来いッ、ガンダァァアアーーーームッ!!!!」
カッコよくパチッと指を鳴らし、天に向かってドモンが叫ぶ。
すると空から〈ギュィィ~ン!〉と音を立て、大きな大きなマグロのお寿司が飛んで来た。
即座にコアランダーへと乗り込み、マグロと合体するドモン。
「うおっ! なんだテメェ!? ジャパニーズSushiか!?」
突然のお寿司来訪に驚愕するチボデー。
コックピットの中で〈ゴゴゴゴ……〉と
「行くぞぉチボデー・クロケットぉ!! ガンダムファイトォォオオーーッ!!!!」
「「レディィィ~~~ッ…………ゴォォォオオオオーーーーーーッッ!!!!」」
即座に駆け出し、パンチを繰り出す両者。
お寿司のパンチと、パンケーキのパンチが空中でぶつかり合い、その力を拮抗させる。
「おっ……俺のパンチが押されてやがるッ!!
これがクールジャパンか!?」
「チボデー……この男を知っているか?
……あぁ知らないんだな。そりゃそうだ。俺もそんな気がしてた。
――――ではトドメだぁチボデーッ!!」
一応写真の画像を見せたものの「?」みたいな顔をされたので即座に戦闘に戻ったドモン。
寿司ガンダムの前腕(マグロのお寿司)から緑の光が溢れ、そのパワーを極限まで上昇させていく。
『俺のこの手がぁ、真っ赤に燃えるぅぅ~~~……!!
お前を倒せと輝き叫ぶぅぅ~~~……!!!!』
まるで米粒を繋ぎ合わせたようなお寿司ガンダムの指が、パンケーキガンダムの拳をメリメリと粉砕していく。
その衝撃と激痛にチボデーが「ノォォーー!!」と叫び声を上げる。
『 ――――――くらえっ! 2020年、東京オリンピックぅ……!
O・MO・TE・NA・SHIぃ~……、フィンガァァァアアアーーーーッッ!!!! 』
凄まじい光が辺りを包み込み、右腕を粉砕されたパンケーキガンダムが後ろに倒れ込む。
やがてその光がやみ、辺りが静寂を取り戻した時……そこにあったのは雄々しく立つ寿司ガンダムの姿。
マグロ型の前腕から〈プシュー!〉っと煙を吐き出す。
「……へっ。完敗だぜジャパニーズ。
いや……、寿司ガンダムよ」
和の心、クールジャパン――――
日本の誇る素晴らしい食文化が今、アメリカの象徴パンケーキという、巨大な敵に打ち勝ったのだ。
「そうだな……。またこの街から出直しだ。
でも俺は何度でも立ち上がり、必ずガンダムファイトの頂点に立ってみせる……。
このパンケーキガンダムと一緒に……!」
本当は「チボデー・クロケット、ナイスガイ!」と、そう言いたかったのだが……。
でも彼が乗るパンケーキガンダムの“あまりの弱さ“に、ちょっとドモンは口をモゴモゴしてしまう。
――――次はお互い、もっとマシなガンダム作ってもらおうな!!
そうチボデーと誓い合い、奇しくもドモンは、後のシャッフル同盟へ友情の布石を打つ事に成功。
砕けてほんのり焦げたパンケーキガンダムの腕からは、なにやら今も香ばしい匂いが立ち昇っている。
『オーゥ! ママの作ったパンケーキ! サイコーゥ!!』
そんな声が……どこからか聞こえた気がした。
……………………
………………………………………………
「――――出来たわドモン!
これが新しく作ったネオジャパンのMF、“とうふガンダム“よっ!!」
レインのあげる嬉しそうな声が、倉庫に響き渡る。
彼女の大豆に対する凄まじい信頼感が、このガンダムを作り上げたのだ。
「さぁ乗ってドモン! 今度はドモンも大好き、お豆腐よ!!
頭部のバルカンから、おネギが発射出来るのっ!」
いったい何が、彼女をそうさせるのかは分からない。
だが彼女がドモンの要望を聞いて新しいガンダムを制作してくれた事と、必ずなにかしらの日本テイストを取り入れてガンダムをデザインしている事だけは分かる。
しかしながら、豆腐……。
よりにもよって、今回はお豆腐のガンダムである。 弱い(確信)
「お豆腐はね? ヘルシーフードとして海外でも大人気なの!
まさに日本の誇る食べ物っ。大豆バンザイっ!!
さぁ乗ってみてドモンっ!
専用のビームライフルからは、醤油色の液体が出るのっ!」
「乗るかバカ!! いい加減にしろレイン!!」
――――なぜ貴方が怒っているのか分からない。 そんなピュアな瞳でキョトンとするレイン。
子供のような純粋な瞳で、ドモンを見つめている。なぜ喜んでくれないのだろうかと。
「もういいっ! 次からガンダムのデザインは、俺がやる!!」
「 !?!? 」
「……俺はそういう事は不得手だが、お前にやらせるよりはマシだッ!!
だから次からネオジャパンに、俺が希望した通りのガンダ…………」
『 ――――なんで!?!? なんでそんな事言うのドモン!?!? 』
思わずドモンが〈ビクゥ!〉としてしまう程の大声。
とんでもなくイノセントで、悲痛な叫び声が、辺りに木霊した。
『 私がガンダム作るよっ!?
ドモンのガンダムは、私が考えるのっっ!!!!
だって私とドモンはパートナーでしょう!?
ドモンは私が必要でしょう!? いないと困るよね!?
だから私が考えたガンダムに、ドモンは乗るの!!
それに乗ってドモンは戦うの!! ずっとずっと!
ずっと私がガンダム考えるっ!! ドモンそれに乗るっ!!
……ねっ? そうだよねドモン!? 私間違ってないよね!?
私のガンダムに乗って、ドモンは戦うんだよね!?
ドモンもそうしたいよね!? 私のガンダム嬉しいよね!?
私いらなくなんて、ないよねっ!?!? 』
「……………」
錯覚、かもしれないのだけれど……。
不意にドモンの脳内ビジョンに、包丁を握りしめて突進してくるレインの姿がハッキリと見えた気がした。
これは未来予知に近い感覚なのかもしれない。今も目を見開きながらグイグイ詰め寄ってくるレインをみて、ドモンはゴクリと唾をのむ。
『 私のガンダム好きだよね!?
ドモンは私のガンダム、だいすきだもんね!?
だって、いっしょうけんめい作ったもん私!!
ドモンがんばれって、ドモン負けるなって思って作ったもん!!
ドモンのためにって、がんばって考えたもん私!!
ドモンドモンドモンドモン!! 』
「…………」
次の相手は、ネオチャイナのサイサイシー……。
ドモンは暫し目の前の現実から逃避し、この“とうふガンダム“で、いったいどう戦ったら良いのかを考える。
とうふガンダムで戦って死ぬか、それともレインに刺されて死ぬか。
前門の虎、後門の狼である。
「 ガンダム乗るって言ってよ! でないと私、産むわよっ!! 」
よく分からないけれど産まれるのはなんか怖いので、渋々ドモンはとうふガンダムの所へ向かう。
後ろからレインに「産むぞこの野郎」とばかりに追い立てられ、コックピットへと続くはしごを登っていく。
彼の戦いは、ガンダムファイトは、まだ始まったばかりだ。
出来たらネオチャイナのガンダムも、弱かったらいいなぁ――――
そんな事を思いつつも、なんだか妙にプルプルしたガンダムに乗り込む、ドモンであった。