いま衛宮家の庭には、大型トラックのタイヤほどもある“巨大な鉄鍋“が用意されていた。
その大きく平たい鉄鍋は炎にくべられており、ボコボコと煮えたぎる高温の油で中が満たされている。
士郎を含めたジブリの面々が、その鉄鍋を遠巻きに取り囲む。
「 これぞ! 男塾名物“油風呂“ッ!!!! 」
地面に虎竹刀を突き立て、藤ねぇが怒声を放つ。
――――男塾名物、油風呂。これは男塾伝統の“根性試し“の儀である。
これに挑戦する者は、煮えたぎる油で満たされた鉄鍋の中へと入り、直に鍋底へと座り込まねばならない。ヘソから下は完全に浸かってしまう事だろう。
下からは常に火が焚かれ、しかもその油の水面には、儀の開始と共に“火の着いたローソク“を乗せた笹船が浮かべられるのだ。
……すなわち、もし参加者が熱さに耐えかねて身じろぎでもしようものならば、たちまちローソクを乗せた笹船は転覆。油に着火し、火だるまとなるのは必至。
この油風呂に挑む者は、ひたすらローソクの火が消えるまでの時間、ケツがこんがり揚げられる苦しみに耐え抜かなくてはならないのだ!
その根性ひとつを! 男塾魂をもって!!
「 さぁ誰か! この油風呂に挑む気概のある者はおらんか!? 」
藤ねぇが皆を見回すも、誰もが顔を背けるばかり。筋トレ大好きの士郎でさえも、グツグツと煮えたぎる油の熱気の前に怖気づいてしまう。
「よし、私がいこう」
「……アシタカッ!?」
アシタカが上着を脱ぎ去り、ズボンに手をかけながら前へ出る。士郎はその姿を驚愕の表情で見つめる。
「無茶だアシタカ! 出来るワケないッ!!
ケツをフライドチキンみたいにされちまうぞ!」
「士郎、心配はいらない。
タタリ神に矢を射る時、心を決めました」
アシタカはそんなワケのわからない事を言った。何の覚悟だろうか。
「いや、ぼくがやるよアシタカ」
「……パズー!?」
「よし! 行こう油風呂へ! 父さんは帰って来たよ!!」
まるで竜の巣に突っ込む時みたいに、パズーが油風呂の方へとずんずん歩いて行こうとする。
関係ないけれど、パズーの親父はいったい何をやっていたのか。
「やめろパズー! 森へ帰れ!! 退くも勇気だッ!!」
「離せっ! なにをするぅ~↑」
そう言ってポカポカと争い合う二人。
ぼくが行くんだ! いや私が行く! お互い一歩も譲らずに平行線を辿っていた、その時……。
『 ――――またんかぁーいっ!! 』
「「 !?!? 」」
突然響いた怒声に、アシタカとパズーがビクッとすくみ上る。振り向くとそこには、ポロポロの学生帽を被った人物の姿があった。
「 ワイが行くッ! お前らは黙って、そこで見とかんかぃ!! 」
その人物はバサッと上着を脱ぎ棄て、シャツとかぼちゃパンツ一丁の姿となる。そして士郎の元へと歩み寄り、男くさい笑顔でニコッと笑った。
「……ぽ……ポニョ!!!!」
「 あぁそうじゃ士郎くん! ポニョじゃ!! ワイはポニョじゃ!!
まぁるいお腹のっ、女の子じゃッッ!!!! 」
ボロボロの学生帽に、口に咥えた葉っぱ。そして何故か片目に傷跡のあるポニョが士郎達の前に現れる。
ワイが来たからにはもう安心じゃ! そう言わんばかりの男くさい笑顔で士郎の肩を叩くポニョ。
若干背丈か足りなかったので、二の腕の辺りをポスッとであったが。
「下がっとけ士郎くん……。ここはワイがやる」
「……だ、ダメだポニョ!! なに言ってんだよ!!
お前がやったら、フィッシュ&チップスになっちまうッ!!」
「じゃかぁしいわ士郎くんっ!! お前はこの男塾の、一号生筆頭……。
こんな所で失うワケにはっ、いかんのじゃいッ!!」
そう言ってポニョは勢いよく、そして男らしく油風呂の中へ飛び込む。
身体が子供ほどに小さいので、なにやら〈チャポン!〉みたいな音がした。
「……ぬ゛っ゛!! ん゛~~~~ッッ!!!!
…………おら藤村教官っ、さっさと始めたらんかいッッ!!」
高温の油に飛び込み、お腹の辺りまで浸かっているポニョ。その顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「よかろう! ではこれより男塾名物、油風呂開始!!」
藤ねぇが笹船のロウソクに火を着け、ポニョのいる鉄鍋へと浮かべた。
………………………………………………
「ぬわーーーっっ!! ぬわーーーーっっ!!!!」
「ポニョっ!? ポニョぉぉーー!!」
まるでパパスのような叫び声をあげるポニョ。その悲痛な姿に士郎が悲鳴をあげる。
「あああ~~~つい!! あああ~~~っつい!!」
「ポニョッ!! ポニョぉーーーッ!!」
若干カラッと揚げられ、おっさんみたいな声を出すポニョ。CV大塚〇夫みたいな声だ。士郎も悲鳴をあげ続けている。
「……へっ、心配いらんわぃ士郎くん……ッ!!
こんぐらいの風呂、いつも宗介と一緒に入っとるっちゅー……
……あっつ!! これあっつ!!!!」
「ポニョ!! もうやめてくれポニョ!!」
ポニョの油風呂が始まってから、もう数分が経過。
ポニョは胡坐の態勢でじっと腕を組み、阿修羅のような顔をしながら必死に頑張っているが、それでもロウソクはまだ半分ほどもある。とてもじゃないがもう耐えられない!
「遠坂っ、ガンドだ! ガンドであのロウソクの火を!!」
「えぇ! わかったわ士郎!!」
「――――まったらんかぁーーーい!!!!」
もう限界だとばかりに行動を起こそうとした二人、それをポニョのおっさんみたいな声が遮った。
「手出し無用じゃ、士郎くん……。部外者は引っ込んどれぃ」
「……で、でもポニョ!
このままじゃお前……、タルタルソースがマッチする感じに!」
「 ――――これはワイの戦いじゃろうがぃッ!!!!
黙って、……信じて見とってくれやッ! ……マスターッ!!」
「ぽ…………ポニョ……」
ポニョの食いしばった歯から、血が流れ落ちる。
額に浮き出た血管は破裂し、その眼は燃えるように赤く充血する。
「……もっと……はよぅ……駆けつけたかった……。
ワイも士郎くんと……いっしょに聖杯戦争……やりたかった……っ!」
「…………」
「ぶっちゃけもう……宗介とか置いて来た……。
邪魔や思って、家に置いて来た……。でも間に合わんかった……!」
「…………」
「でもな……見とってや……士郎くん……っ。
ワイは、士郎くんのごはん…………だいっっっすきやッッ!!!!
ポニョっ! 士郎くんっ! すきぃーーー♡」
地面に膝を付き、言葉を無くしている士郎。
何故か「ゴホォ!!」と謎の吐血をしたポニョが、次の瞬間カッと目を見開く。
「せやったらッ! ここがッ! ワイのッ! 晴れ舞台やろがぃ!!
ここがワイの難波グランド花月や!!」
「ポニョ……。ポニョぉぉおおおーーっ!!!!」
耐えて、耐えて、耐えて――――
そして今、ロウソクの炎が、最後に小さく揺らめく。
消える寸前、燃え尽きる寸前の、最後の煌きを見せる――――
『 見さらせぇぇえええッ!!
これが崖の上のポニョの、ド根性じゃぁぁあああーーーッッ!!!! 』
フッと煙だけを残し、燃え尽きたロウソクがポニョの勝利を告げる。
歓声を上げる仲間たちがポニョへと駆け寄り、少しだけカラッと揚がったお尻を引き上げた――――
……………………
………………………………………………
………………………………………………………………………………………………
「――――――あぁ、夢か」
衛宮家の居間。士郎はお昼寝から目を覚ました。
彼の隣にはテトが寄り添って眠り、そして胸の上には幸せそうに寝息を立てているポニョがいた。
「…………夢だったん……だよな?」
ポ~っとした頭で、しばらくまどろんでいた士郎。
すると士郎のすぐそばから、先にお昼寝から目を覚ましていたジブリのメンバー達の声が聞こえてきた。
「あ、士郎さんも起きた?
今私たち、ちょうど好きな漫画の話で盛り上がっていた所よ♪」
「シータはキャプテン翼、ぼくはドラゴンボールが大好きなんだ。
アシタカは聖闘士星矢が好きなんだってさ! なんか意外だよね!」
シータとパズーが朗らかに笑いかけてくる。少し目線を動かせば、ペガサス流星拳のマネをしているアシタカの姿が見えた。すごく様になっているように思える。
とりあえずはと上に乗っているポニョに気を付けつつ、士郎もゆっくりと身体を起こしていく。
「清太くん、あんなに痩せてるのにキン肉マンが好きなんだってさ!
ナウシカさんはベルサイユの薔薇とか言ってたけど……、
ジャンプにそんな漫画あったかな?」
どうだったかしらと首を捻るシータ。ウムム……と考えるパズー。
士郎もちゃんと読んだ事は無いのだが、あれはたしか少女漫画だったと思う。
「士郎くんはどんな漫画が好き? あっちでみんなで話そうよ!」
二人に手を引かれ、仲間たちの元へと連れられて行く士郎。
タオルケットをかけ直してもらい、スヤスヤと眠るポニョの方を見つめながら思う。
――――――意外とポニョは、“魁!男塾“が好きだったりしてな。
ためしに今度コミックスを読ませてみよう。
幼い女の子に対し、良からぬ事を思い付く士郎であった。