hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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16、聖杯戦争よりも……セガサターン、シロ!!

 

 

 その日、衛宮士郎は昼休みの屋上で、仲間達の声を耳にした。

 

 

「SEGAなんてダッセェーよなぁ遠坂!」

 

「そうよね慎二! プレステの方が面白いわよねー!」

 

 

 驚愕の表情を浮かべ、思わず握っていたお箸を「カラーン!」と落とす士郎。

 せっかくのタコさんウインナーが砂まみれになってしまった事にも気が付かずに、士郎は桜へと問いかける。

 

「……そ、そうなのか桜? SEGAはダサイのか?」

 

「…………ッ!」(目そらし)

 

 まるで縋るような目でこちらを見る士郎に、桜はその顔を直視する事が出来ず、ただただ押し黙ってしまう。

 士郎のSEGA好きを誰よりも知っているからこそ、桜には何も言う事が出来ない。しかしその無言こそが、SEGAに対する世間一般の現状を何よりも雄弁に語ってしまっていたのだ。

 

「……なんてこった」

 

 慎二や遠坂に悪気が無いのはわかってる。士郎達はとても仲の良いゲーム仲間だから。

 慎二は鉄拳シリーズが大好きで、遠坂はFFが好き。桜はポケモンに夢中。

 みんな士郎の大切な仲間で、本当に気の良い奴らだから。

 

 だがその言葉を聞いた瞬間、士郎は足元の地面が崩れ落ちたような気がした。バーチャファイターでリングアウト負けをした時のような心境だった。

 仲間達の笑う「あははは!」という声が、今はとても遠い。目の前が真っ暗になり、もう何も考えられない。

 

「SEGAって、ダサいのか……」

 

 その後昼休みを終えた士郎は、午後の授業、放課後の頼まれ事、弓道場の掃除などを確かにこなしていったハズなのだが、その時の事はもう何も憶えてはいない。

 呆然とし、フラフラと何も考えられないまま、それらの事をただ身体の動くままにこなしていったに過ぎなかったから。

 自分が何故か血まみれの状態で校舎の廊下に倒れていた事に気が付いた時でさえ、「SEGAって、ダサいのか?」とウワ言のように呟きながら、何事もなかったかのようにそのまま帰路に着いていった。

 

 そして気が付いてみれば、現在自分は見知らぬ青タイツの男に襲撃を受け、月明り差し込む自宅の蔵の中、今まさに心臓を貫かれようとしている所であった。

 

 

「じゃあな、坊主。今度は迷うなよ」

 

 

 士郎の心臓の位置に、槍の穂先が添えられる。自分の命は数秒後、確実に無くなっている事だろう。

 でもそんな事よりも、士郎は男に尋ねたい事がある。

 どうしても、どうしても死ぬ前に訊かなければならない事があるのだ。

 

「……なぁ、お兄さん?」

 

「ん? なんだ坊主、遺言か? それならお前を手にかける者の務めだ、聴いてやっても

 

「……SEGAって、ダサいか?」

 

 目の前のか弱き存在。ただ己の槍で機械的に狩るだけの存在。そんな少年の縋りつくような小さな慟哭に、ランサーは少しだけ目を見開く。

 

「バーチャロンは……、ソニックは……、サクラ大戦は……。

 SEGAのハードで出たあの沢山のゲーム達は、本当に面白くなかったのか?」

 

「教えてくれ、青いお兄さん。……SEGAはダサいのか?」

 

「SEGAの作ったあのゲーム達は、本当に価値の無い物だったのか?」

 

「…………………………」

 

 縋りつくような少年の言葉。まるで自分の命が消えようとしている事よりも、今まで自分がSEGAに貰った沢山の“思い出“の方が大切なのだと、そう言うかように。

 

「……知るかよ、そんな事。……じゃあな坊主」

 

 もうこの少年がたったの一瞬でも、苦しまないように。心安らかに逝けるようにと願いを込めて。ランサーは改めて、少年の心臓の位置へと槍を添えた。

 

 ランサーの最後の言葉がその口から紡ぎ終わるのと同時に、士郎の目から一筋の涙が零れる。

 ただランサーを見つめ、まるでその悲しみに心が追いついていないかのような綺麗な表情。

 その目から、月明りに照らされてキラキラとした一粒の涙がポタリと音を立てて、床へと落ちていった。

 

 

 

……………

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 セガサターン、シロ!! 』

 

 

 

 

 

「トォリャァァァァ!!」という凄まじい大声と共に、一人の男が光の中から飛び出す。

 男の飛び蹴りがランサーの身体に突き刺さり、「ホゲェッ!!」という呻き声を上げてランサーが外に吹き飛ばされた。

 

 あっけに取られた士郎をその場に捨て置き、白い胴着を着たその大男が、ランサーを追撃にかかる。

 

「トォリャァァ!!」

「トォリャァァァ!!」

「トォリャアアアァァァァ!!」

 

 男が連続してランサーを背負い投げる。

 右へ、左へ、そしてまた右へ。轟音と土煙を上げながら、振り子のように連続してゴッスンゴッスンとランサーの身体を地面に叩きつける。まるでKOFの大門五郎のように。

 

「……ゴッ! ……ぐべっ! ……オ゛ッ!!

 ちょっと待て!! ……フゴッ! ……って、何者だぁテメェはぁ!!」

 

 耳を塞ぎたくなる程に聞くに堪えない〈ゴシャア!! グシャア!!〉という破壊音が鳴り響く中、何度も何度も地面に叩きつけられながらも必死に男の手から抜け出したランサーが、やけくそのような声で胴着の男に問いかける。

 

「どこのサーヴァントだぁテメェはぁーッ!! いきなり沸いて出やがって!

 何者だってんだオメェはッ!!」

 

「何者……? そんな事より…、セガサターン、シロ!!」

 

 腕を組み、仁王立ちをする胴着の大男。

 その目には情熱の炎が宿り、一遍の曇りもなく愛と真剣遊戯への想いに満ち満ちている。

 

 

「テニスやカラオケ、ナンパに聖杯戦争……。 他にする事、あるだろうがッ!」

 

「……セガサターン、シロ!」

 

 

 彼の名は、『せがた三四郎』

 聖杯の標に従い冬木に舞い降りし、“SEGA“のサーヴァント。

 

 遊びの道に魂の全てを込めた、一人の男。

 真面目に遊ばぬ現代の若者達のその身体に、大企業SEGAの誇る傑作ゲーム機“セガサターン“の遊びを力ずくで覚えさせるべく降臨した、士郎のサーヴァントである。

 

「……せ、せがた、三四郎?」

 

「あぁそうだ士郎君、せがた三四郎だッ!」

 

 月明りに照らされた幻想的な風景の中で、せがた三四郎がニヒルに笑いかける。

 この光景を、士郎は例え地獄に落ちたとしても、忘れる事は無いだろう。

 

 そう思った矢先、士郎の身体はせがた三四郎の手によって、ドシャっと地面にぶん投げられた。

 

「……ッ! ぐぅはぁ!!」

 

「オイオイ! テメェ気が狂いやがったのか!!」

 

 サーヴァントが、自身のマスターを背負い投げ。

 そのあまりの光景に混乱しながらもせがた三四郎の元に突っかかっていくランサーだったが、突如ニンジャのように分身したせがた三四郎の身体をすり抜けてしまい、〈ドテェー!〉っと地面に転がってしまう。

 

 

「―――若者よ、真剣に取り組んでいる物があるか。命懸けで打ち込んでいる物があるか」

 

「――――セガサターン、シロ! ……指が折れるまで! 指が折れるまでッ!!」

 

「!?!? ……せ、せがた三四郎」

 

 

 手を差し伸べ、優しく士郎の身体を起こしてやるせがた三四郎。

 その瞳には真剣遊戯の厳しさ、そして限りない愛が称えられている。

 

 そして未だ地面に倒れ込むランサーを余所に、傍に転がっていたゲイボルグを拾い上げる、せがた三四郎。

 膝を使い、その槍を<バキィ!!>とへし折った。

 

「 ?!?! 」

 

 あまりの出来事に声も出ないランサー。そして士郎。

 やがて折れた槍を地面に〈ポイッ!〉っと投げ捨てたせがた三四郎が、ランサーの元へと歩みよる。

 そしてその足元に、ひとつの真っ白な“セガサターン“を置いた。

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 呆然と、自身の足元に置かれたセガサターンを見つめる、ランサー。

 せがた三四郎がランサーの顔を覗き込み、その目を真っすぐに見つめる。そして“全て判っているぞ“とでも言うような清々しい顔で「うむっ!」と頷いた。

 

冬木の星空、白い浮雲。 真っ赤に滾る、遊びの血――――

途中で投げ出す英霊共には、身体で覚えさせるぞ――――

 

 

 

『 セガサターン、シロ!! 』

 

 

 

 今ここに、衛宮士郎の聖杯戦争の幕は、切って落とされた。

 

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