hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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17、時を駆ける少女。

 

 

「行くのかよ、遠坂」

 

 

 柳洞寺の洞窟の中。私の背中に向かい、間桐慎二が声をかけた。

 

「えぇ。覚悟はもう出来てる」

 

 この腐れ縁とも言える大切な私の友人。彼には今まで散々協力をしてもらい、そして迷惑をかけてきた自覚がある。

 でもそれも、今日で全部おしまい。

 

「桜の事、よろしくね。あの子はなんだかんだ言いながらも、

 アンタが居ないと駄目なトコあるから」

 

「……ハッ! アイツがそんなタマかっての。

 今頃、僕が居なくて気が楽だ~とか言って、のんびり羽を伸ばしてるさ」

 

 アメリカ人みたいな仕草で悪態をつきながらも、どこか照れている所が見て取れる。

 今プイッと顔を背けている、この分かりにくい優しさを持つ友人。慎二が傍にいてくれれば、私の妹の事は何も心配いらない。心からそう信じられる。

 

 そしてこの世界に友人達を残して、私は今日“聖杯を使う“。

 

 私達三人の願いを叶える為、あとは今目の前にある聖杯に向かって、この手を伸ばすだけだ。

 

「……今更ゴチャゴチャ言うつもりはないけどさ。ただ気をつけていけよ。

 お前が下手こいて死にでもしたら、それこそ何にもならない。」

 

「あら、随分としおらしいじゃない間桐くん。

 いつもみたいに悪態はついてくれないの? らしくもない」

 

「……バッカ」

 

 思えば慎二には、今まで散々反対された。それでも惜しげなく私に協力はしてくれたけど、最後の最後まで私を説得してくれていた。

 

 ――――アイツはそんな事望んじゃいない。使うなら、お前の幸せの為に使えって。

 

 そんな事は私にも分かっている。彼が“やり直し“など望むハズがない事は。

 だからこれは、単なる私の我が儘だ。

 どうしても我慢が出来ない、納得出来ないというこの気持ちを押し通す為……、私は今から、私の全てを賭ける。

 そんな単なる、一人の女の子の我が儘なのだ。

 

 そういう意味でも、やはり私は彼とは違う。あの強かった彼とは、同じにはなれなかった。

 やはり士郎の心は真っすぐで、そしてどこまでも強かった。

 そんな事を、彼が居なくなってしまってから、私は思い知った。

 

「わかってると思うけど……やりすぎんなよ?

 いつもみたいにひっぱたいて無理やり引きずっていくんじゃ……衛宮が可哀想だ」

 

「失礼ね……。あの頃の私じゃあるまいし、もうそんな事しないわよ」

 

「……どうだか。会えて喜んでおかしくなって、

 そうしてまたポカやるお前の姿が目に浮かぶけどね、僕は」

 

「……んぐっ!!」

 

 ……確かにあの頃の私は、そういった部分が無きにしも非ずだったかもしれない。

 唯我独尊というか……、尻を蹴飛ばせば何とかなるわよ的な部分が……ほんのちょっとだけあったかもしれない。

 でも私もあれから成長したのだ。……それは分かって欲しい。

 もうあの頃の無力な私では無い。その為の研鑽も、しっかり積んできたつもり。

 

 

………………………………………………

 

 

 士郎が居なくなってから。士郎が私達をかばって、一人で死んでしまってから。

 それから私は彼の事をよく考える。一緒にいた頃よりも、ずっとずっと考える。

 

 そして私はいつも思う。

 あぁ、彼が目指していた“正義の味方“とは……、なんと困難で、儚い理想であることか。

 

――――誰かを助けたい。誰かの為になりたい。

 

 たったそれだけの望みを願う事が、どれほどの困難を伴い、苦悩を伴うことか。

 

 

 力があれば良い。強さがあれば良い。そんな単純な物であったなら、どれだけ良かっただろう。

 あの少年が夢見た“正義の味方“という理想。それは私が大人になればなる程、人生で経験を積んでいけばいくほどに、いかに成しえるのが困難かという事が身に染みて分かる。

 

 難しいね、士郎。誰かを救うって。

 誰かを助ける事って、こんなにも難しい事なんだね。

 

 ほんと、頭ひっぱたいて導いてやれるなら、こんなに楽な事はない。「そっちに行くな!」とケツを蹴っ飛ばし、無理やり道を正せるのならば、こんな簡単な事はない。

 でもきっと、それではダメなんだ。

 

 怪我をしないように守ってあげる事は、出来る。

 小さな子供にするように、身の危険から遠ざけてあげる事も、きっと出来る。

 

 でもそれじゃあ、貴方を救う事は出来ない。

 きっと貴方の痛みを、救い上げてあげる事は出来ない。

 

 

 ――――士郎、私ね? 貴方に“寄り添おう“と思ってる。

 

 ――――――今度は貴方の傍に、そっと寄り添ってみようと思ってる。

 

 

 貴方の頭をひっぱたくんじゃなく、無理やり引きずって行くんじゃなく……。今度は貴方の隣に、ただ寄り添ってみようと思ってる。

 

 そして、手を握ってあげる。ずっと一緒にいてあげる。

 つらい時も苦しい時も、ずっと私が傍にいてあげる。

 

 貴方みたいな壊れた人間の心は、きっと私には理解出来ない。

 そんな事はもう諦めてるの。ハナから全て理解しようだなんて思っていないの。

 

 でも、ずっと傍にいてあげるわ。ずっと私が見ててあげる。

 同じ物を見て、同じ物を食べて。そしてアンタと同じ物を感じるの。

 どう? 悪くないでしょ?

 

 

 貴方みたいに、全てを救おうだなんて思わない。

 全てを助けたいだなんて思えない。そこら辺はアンタと大分違うわね私。

 

 ただ私は、アンタの“心“を救いたい。

 守るんじゃなく、導くんじゃなく、貴方の心を救い上げたい。

 

 

 寄り添ってみたいの、士郎の心に。

 だからもう一度だけ、チャンスを頂戴? 可愛い彼女の我が儘を、きいて頂戴?

 

 

………………………………………………

 

 

「それじゃあ行ってくるわ慎二。第五次聖杯戦争に」

 

「おぅ行ってこい。衛宮によろしくな」

 

 

 聖杯に触れ、私の身体が光に包まれる。地面の感覚は無くなり、巨大な渦に呑み込まれたかのようにして、私の身体が何処かへと飛んで行く。

 

 そしてこの身体さえも、段々と形を変えていく。

 そう、それは私が高校生だった頃の形に。士郎と初めて言葉を交わした、あの頃の私に。

 

 私は時を遡る。貴方と共に戦った、あの聖杯戦争の最初の夜に。

 

 

 根源など要らない。遠坂の悲願など知るものか。

 そんな物は後でどうとでもしてやる。この私を、いったい誰だと思っているのか。

 

 遠坂凛。あの現代最高と言われし至高の魔術師、遠坂凛さまだ。

 世界中から引っ張りダコの人間だぞ。どんなもんじゃいなのだ。

 

 

 やがて光の渦が途切れ、私の身体は終着点にたどり着く。

 あの懐かしい冬木へ。あの少年だった頃の貴方のもとへ。

 

 

――――今いくわ士郎。まってて。

 

 

 今度は離さない。その手をずっと握っててあげるから。

 

 そしてやってきた、2000年代初頭の冬木。

 私の身体は遠坂邸の真上に出現し、そして屋根をブチ破って、ソファーの上に落ちた。

 

 

………………………………………………

 

 

「貴方の力を貸してくださいアーサー王。

 私の大切な友を守ってください。その剣にかけて」

 

 

 彼女が私の元へと召喚されたのは、もはや必然だったのかもしれない。

 同じ“過去を変えたい“という願い、そして「触媒は持ったか? ハンカチは?」とクドいくらいに慎二に確認されていた甲斐もあって……。

 

 今私の目の前には、とても懐かしい少女の姿がある。

 金色の髪と、青いドレスメイル。そして圧倒的な力を持つそのサーヴァントの名は、アルトリア。

 セイバーのクラスで召喚されし、誉れ高きブリテンの王。騎士の中の騎士。

 

 

 私は最初が肝心だと、両手を祈るようにして、いじらしいポーズを決める。

 これに心を動かされない騎士はいまい。そんな存在がこの世にいるハズがない。そんなヤツぁもはや騎士でもなんでもないのだ。

 私はウルウルと目を潤ませて、目の前にいる騎士さまに可愛らしくお願いをする。

 

 ドヤ! 守って差し上げたいやろがぃ! ドヤァー!!

 人生、時にはこういうのも大切なのだ! 私は学習したのだ!

 

 しかしながら、たった今召喚されたばかりのこの少女は、私の愛らしいお願いポーズを見て、なにやら戸惑っているというか呆れているというか……。

 とにもかくにも、なんだか非常に微妙な表情をしていた。

 

「……あの、いかがなされたのですわ? アーサー王?」

 

「言葉使いが変ですよ、凛。 貴方はそんな風ではなかったハズだ」

 

 

 ……この後きいたのだが、実はセイバーは私と同じく“この時代を経験済み“の存在であった。

 士郎と共に第五次を戦い、そしてその結果が納得いかないという事で、こうしてまた参加してきた存在であると言う。

 

「ほう……凛は二度目ですか。それならば私の方が先輩ですね。私は6度目です」

 

 こんな事を言ってはダメなのですが……士郎はすぐ死にに行きますから。困ったものだ。

「ウムム……」と唸るセイバーさん。どうやら今まで散々苦労してきているらしい。

 

「それでも士郎と共にいたいと、恥をしのんで、こうして出てきているのです。

 しかしまさか、此度は凛に召喚されるとは……」

 

 頬をプク~っと膨らませ、「どうしてくれるのですか」と恨みがましく見つめてくるセイバー。

 人の恋路を邪魔しちゃったのは悪かったが、私もアンタと似たような目的なので、どうか勘弁して欲しい。

 

「……と、とりあえず“士郎を守る“っていう目的は私も同じなんだからっ!

 どうか力を貸して頂戴セイバー! 大切な友を守る為に!」

 

「ほう……“友“」

 

「!?!?」

 

 頬を膨らませるどころか、もうジト目でこちらを睨んでくるセイバー。プンプンしているその姿は愛らしくはあるのだが、その身体から溢れ出す魔力は人外のそれだ。

 

「……時を遡り、危険を冒してまで救いに来ておいて、“友“。

 そうですか凛。貴方はとても友人思いだ。素晴らしい」

 

 あ、関係ないですがこれエクスカリバーって言うんです。そう言って風の結界を解き、刀身を見せつけてくるセイバー。

 なんだ、威嚇のつもりか。その剣で私を斬るつもりかセイバー。マスターだぞ私は。

 

「あ、わたし士郎とはいっぱいエッチしてますので。私にメロメロですので」

 

「今回はまだ会ってもいないでしょうがッ!! そんな事言ったら私だって!!」

 

 

 一瞬セイバーの目が、獲物を前にしたライオンのようになるのを見た。私は腹に力を込めて獅子王と相対する。

 そういえば令呪って、どうやって使うんだったかしらん? 久しぶりだし、試しに一個使ってやろうかしらん?

 

 そんな事を一瞬考えたけれど、なんかあったらごはん抜いてやればいいや!

 そう思い至る私であった。

 

 

………………………………………………

 

 

「とりあえずランサーの代わりに、アンタが衛宮家を襲撃してですね……。

 その恐怖から、士郎がサーヴァントの召喚に見事成功するという……」

 

「イヤですよ凛! なんなのですかそのプランは!!」

 

 

 だって仕方ないじゃない。私今回アーチャー召喚してないんだから。

 そしたらランサーが士郎を襲う理由がないじゃない? 召喚のきっかけが無いじゃない?

 

「アンタだって士郎がサーヴァント召喚出来ないと困るでしょ!?

 死んじゃうわよ彼! 速攻で!!

 イリヤだって、すぐにでも士郎を襲いたがってるハズなんだから!!」

 

「……でもそんな事をしたら、私は士郎に嫌われてしまうっ!!

 だったら凛がやれば良いではないですか!! ガーッと行けばいいではないですか!!」

 

「ざんねんでしたぁ~。私ただの人間ですぅ~。

 私に襲われても、士郎はおしっこチビッたりしません~!」

 

「私に襲われてもチビりません! 士郎はおしっこチビッたりしません!!」

 

 顔を真っ赤にして「ムキャー!」と怒るセイバー。

 アンタなんか好きな人に怖がられておしっこチビられたら良いのよ。どんだけ飯食うのよ。

 

「いいからさっさと士郎ん家行って、『エクスカリバァァーーッ!!』とか言いながら

 飛び蹴りかまして来なさいよ!!」

 

「何の意味があるのですかソレ!

 ただ知らない人に飛び蹴り喰らっただけじゃないですか士郎は!!」

 

 何でもいいから召喚させて来てよ。私の炊飯器の中身返してよ。

 

「そもそも凛が教えてあげれば済む事ではないですか!

 同級生なのだし、パパッと行って、パパッと儀式をしてきたら!!」

 

「え~。私この頃はあんまり士郎と面識ないしぃ~。

 いきなり家に押しかけて『オッス! オラ遠坂! いっちょ召喚してみっか!!』

 とかおかしいしぃ~」

 

 頑張りなさいよ。あんたサーヴァントでしょうが。私の作り置きのシチュー返してよ。

 

「……な、ならばせめて二人で行きませんか?

 こう、ちゃんと正面からピンポンを鳴らして、しっかり事情を説明すればきっと……」

 

「……仕方ない。菓子折り持って士郎んトコ行きますかぁ~」

 

 

 不毛な言い争いにピリオドを打ち、一つ大きく伸びをする私。

 

「貴方はなんだか、私の知っている凛と違います……」

 

 そんな事を言いながら、私に恐れおののいている様子のマイサーヴァント。

 当然だ、あれから何年人生経験を積んできたと思っているのか。外見はともかく、もう無力な小娘ではないぞ私は。

 

 

 アナタの手にぃ、赤いアザのようなモノがありませんかぁ~? まさしくそれは選ばれし者の証、聖痕なのでぇ~す。

 そんな怪しい宗教のような台詞を思い浮かべながら、私はイソイソと出かける準備をしていく。

 

 大丈夫よ士郎、今いくわ。

 信ジル 者ハ 救ワレ~ルのよ。

 

 

………………………………………………

 

 

 衛宮家に向かう道すがら、商店街の和菓子屋さんでどら焼きだの羊羹だのを買いながら、私は考える。

 それは私がセイバーを召喚してしまう時点で当然の懸念であり、この計画を実行するにあたっての最大の不安要素。

 ずばりそれは“士郎がどんなサーヴァントを召喚するかがわからない“という問題だ。

 

 

 私、そして一緒に計画を立ててくれた慎二や桜。私達にも色々と考えがあって、この“私がアルトリアを召喚する“というプランを実行している。

 確かに士郎がセイバーを召喚すれば、傷が回復したりカリバーンを投影出来たりと良い事も沢山ある。しかし後で思えば思う程、あの私達が過去に体験した第五次の戦いは、まさに薄氷を踏むような勝利であったのだ。

 

 あの時の士郎は、土壇場での爆発力には目を見張るものがあるものの……あまりにも未熟で不安定すぎた。もう一度同じ事をやって、同じように勝利を掴めるとは、とてもじゃないが思う事は出来ない。

 あの勝利は、奇跡に近い物だった。

 あの時代の全ての参加者、そして士郎の強い想いがあったからこそ成しえた、まさに一度きりの奇跡だったのだ。

 

 それならば士郎には本当に申し訳ない事なのだが……、今回は剣の英霊として最高クラスの格を持つアルトリアを、私に譲ってもらう。

 そうして、もうたとえ何があろうが誰が来ようが“私単独でも全部なんとかなる“というくらいの戦力を、まずは最優先で確保しておく事にしたのだ。

 

 いくつかある、アルトリアさんを私が召喚する事にした最大の理由が、まさにコレである。

 ……別に私がセイバーと士郎の仲を引き裂こうとか、恋敵を蹴落とそうとか、決してそんなんでは無い。ないったらない。

 

 しかし考えうる中で最善の作戦をとったつもりだとはいえ、それによって上記の通り、士郎がどんなサーヴァントを引いてくるのかが、まったくわからなくなってしまった。

 セイバーと契約している私がいる時点で、危機への備えに関しては万全だと言える程に問題は少ない。そもそも嬉しい(?)誤算として、“このセイバー“は冬木での戦闘経験が豊富なだけでなく、現時点ですでに士郎にウォンチューなのだ。

 たとえ黙ってても士郎の盾となり、また剣となってくれる事に相違ない。

 

 ただ、あの士郎に限ってあり得ない事だとは思うが……もし万が一、相性最悪の極悪人みたいな英霊を召喚してしまったとしたら?

 曲がりなりにも英雄が召喚されてくるとはいえ、第五次の戦いには聖杯の不備もあり、ライダーやキャスターといった反英雄が召喚されてしまったという確固たる前例もある。

 

 触媒という物を用いない場合“マスターと性質の近い英霊が召喚される“と一応は言われているモノの、過去の戦いの資料を鑑みれば『ホントにぃ~? マジでぇ~?』という程に信憑性を疑ってしまう。

 召喚された途端にマスター殺しを慣行するようなヤツも、過去にはいたと言うし。ぶっちゃけた話、これは結構あてには出来ないんじゃないかと思っている。

 

 あの善人を絵に描いたような士郎が反英雄的な者を召喚してしまうとは考えにくい。

 曲がりなりにも正義の味方を志し、冬木のブラウニーの異名を持つあの子ならば、きっと何もせずとも善性寄りの性質を持つ英霊の中から、サーヴァントが選ばれてくるハズ。

 しかし……やはりこれはどこまでいっても、未確定な事でしかない。

 

 ……どうしよ? なにかの間違いでナイチンゲールみたいな英霊を召喚しちゃったら……。

 善には違いない……間違いないが、あんな風なのを召喚しちゃったら本当にヤバイぞ。

 あのまごう事なき女傑とは、きっと会話すら成立せんぞ。

 

 同じ“善“と言っても、その思想や解釈は国や時代により様々。現代人から見たらとんでもない事が正義だとされた時代だってある。

 また世間的には善だと伝えられているだけで、中にはマザーテレサみたいな『ゴミクズ野郎じゃねーか』みたいな真実を持つ偉人だっているのだ。

 善は善でも、現代の価値観から見れば“独善“でしかないような精神を持つ英霊だって、沢山いるだろう。

「理想国家を作る」と言う大義名分をもって自国民の何割もを虐殺したカンボジアの独裁者ポルポトも、実は非常に温厚でとんでもない程の人格者だったと言う話もある。

 

 ゆえに、いわゆるサバイバーズ・ギルド的な心の欠損を持つ士郎が、そういったサーヴァントをブチ引いてしまいエライ事になる……という可能性もゼロではないのだ。

 心優しい善人が、その悩みゆえに変な宗教に引っ掛かる。そういった事が無いとは、決して言い切れないのである。

 

 

 それでも考えうる限り最善だとして、今回の作戦を取っているのだが……。はてさてどうなる事やら。

 たとえどんな事になっても、私とセイバーがいれば何とか出来るという自負はあるものの……。こればっかりは実際見てみない事にはなんともし難い。

 

 セイバーの希望でたい焼きなんかも露店で買ってあげたりしつつ、私達はテクテクと衛宮家への道を歩いていく。

 不安定な要素はあれど、この日の為に万全の態勢を敷いて来た。何年もの努力を重ねてきた。

 だから後は、行動するのみ。自分とこのセイバーの信じて戦うのみ。

 

 何があっても、私がついててあげるわ士郎。

 だからアンタは自らの望みを見つけ、そして叶えなさい。

 

 そう心の中で決意を新たにしているうち、やがて私達の目の前に、あの懐かしい衛宮家の門が見えてきた。

 そういやどこかでニワトリでも調達してこなきゃないけないなと、私が魔法陣の準備に想いを馳せているその時……、突然セイバーが風を切って走り出す。

 一瞬だけ見えた彼女の表情。それはあまりにも緊迫感に満ち、まごう事無く不測の事態が発生した事を示していた。

 

「 凛! サーヴァントの気配です!!

  士郎は既に、サーヴァントを召喚してしまっているッ!! 」

 

 手にしていた荷物も放り出し、私は即座に魔術回路を起動する。

 そして脚力強化、重力軽減、風圧軽減。ありとあらゆる魔術を一瞬で完成させ、私の身体は衛宮家に向かって駆け出していく。

 

「……おかしい、……何だこれは!?

 一体や二体では無い……複数のサーヴァントの気配がある!!」

 

 おそらくは冷や汗を流しながら、緊迫した声色でセイバーが告げる。

 本当は、今すぐ士郎の元に駆け付けたい。しかしまずは現状を把握しなければ。

 これは間違いなく、不測の事態の中でも最悪の類の物だ。私達は駆け出して行きたい心をグッと抑え、衛宮家の塀に取り付き、二人でソッと顔を覗かせる。

 

「ここからは何も見えない……でも誰かが話している声が聞こえるわ……。

 セイバー、正確な場所は分かる?」

 

「ここから20メートルほど前方に、多数のサーヴァントの気配があります。

 おそらくは……衛宮家の蔵の辺りだ!」

 

 うら若き少女二人が、人ん家の塀に手を掛けて、仲良く覗きをしている。この姿をご近所さんに見られれば大変に不名誉な事になろうが、今の私達にそんな事を気にしている余裕は無い。優雅もクソもあるか。

 

「……ここにいても仕方ないか。行くわよセイバー、心の準備をしておいて。

 士郎がサーヴァントを召喚したのだとしても、“複数“っていうのは明らかに異常よ。

 恐らく、十中八九は戦闘になる!」

 

「先行します、貴方は辺りを警戒しつつ追って来て下さい。

 この身はお二人の剣であり、盾です。必ずお守りします」

 

 力強い返事をし、私のサーヴァントが駆けていく。

 風のように消えて行ったセイバーを見送ってすぐ、私は私の中で、戦いに備え魔術を行使する。

 

 あらゆる身体強化を施し、平行して必要な魔術をあらかじめ唱えていく。

 未だ未熟な肉体なれど、この頭脳に宿る完成された魔術理論は健在だ。今の私は、あの無力な小娘では無い。

 士郎を守り、士郎に寄り添う。その為の研鑽の成果を今、発揮する時だ。

 

 ――――まってて士郎、今いくわ。

 

 勢いよく塀から飛び降り、着地の衝撃を感じる事もなく私は駆けだしていく。

 向かうべきはただひとつ、士郎の元へ。

 体感で十数年ぶりの再会となる士郎の姿を脳裏に浮かべつつ、はやる気持ちを抑えながら私は走る。

 

 今の私は、英霊だって殺してみせる。

 

 その覚悟と自負をもって、私の身体は士郎の元へと向かう。

 

 向かった…………のだけど。

 

 

………………………………………………

 

 

 まず辿り着いた私が見たのは、口をアングリさせて呆然と立ち尽くすセイバーの姿。

 そして次に気が付いたのは、なにやらワイワイと騒いでいる、幾人かの喚き声。

 

「セイバー! 状況は!?」

 

「……あっ。……えっと……凛」

 

〈キキィ~ッ!!〉とブレーキをかけて、セイバーの隣に並んだ私。その私の前方にあったのは、大勢の人に取り囲まれている、士郎の姿だった。

 

「……あっ! 士郎っ……

 

『 ダメじゃぁ~いッ! 士郎くんとはワシが契約するんじゃぁ~いッ!! 』

 

 思わず声を掛けようとした私を遮るように、見知らぬオッサンが大声をあげる。

 

『 うるせぇッ! 士郎くんとは俺が契約すんだよぉッ!!!!

  じゅ~~ねん早いんだよぉッ!!!! 』

 

 そして同じく見知らぬお兄さんが、そのオッサンに向かって大声を上げている。

 ちなみにそのオッサンとお兄さんは、“なんかカクカクしていた“。

 

「……凛。えっと……この者達は……?」

 

 セイバーがオロオロと戸惑いながら、眼前の者達を指さす。

 無理もない事だ。士郎を取り囲んでいる大勢の者達は、みんなカクカクしているのだから。

 

 別に動きがカクカクしているとかではない。“見た目が“カクカクしているのだ。

 まるでピューラーで皮を剥いた人参のように、この場にいる者達全員の身体が、なんかカクカクしているのだ。

 有り体にいえば、『こいつらポリゴンなのだ』

 

『 アキラ! その坊主と契約すんのは俺だ! 引っ込んでろ!! 』

 

『 うるせぇジェフリー!! 士郎くんは俺と契約すんだ! 八極拳教えてやんだ!! 』

 

 今度はジェフリーと呼ばれた投げ技が得意そうなオッサンと、アキラと呼ばれたハチマキをしたお兄さんが取っ組み合いを始める。両者ともカクカクだ。

 そしてどこからか「レディ! ファイト!」みたいなアナウンスが聞こえた気がした。

 

「え?! と……遠坂っ!? いやそんな事はいい! 助けてくれよ!!

 なんか拾ってきたセガサターンを蔵で修理してたら、

 いきなりこの人達が光の中から飛び出してきて……!」

 

『士郎くぅ~ん! ワタシと契約しまショー!!

 士郎くんジークンドーとかどうデス? ブルースリーは好き?』

 

『止めるねサラ! 士郎くんには中国拳法が似合うアル!!

 お姉さんが士郎くんを強くしてあげるネ! このパイ・チェンと契約するネ!!』

 

『ワタシが士郎くんと契約するのヨ!!』

 

『私が契約するネ!!』

 

 まるで花嫁が投げたブーケを取り合う未婚女性のように、両脇から士郎を引っ張り合う乙女達。

 しつこいようだが、両者ともすんごいカクカクしている。

 そしてその周りを、同じくカクカクした者達が取り囲み、ワーワーはやし立てていた。

 

 彼らこそは“バーチャファイター“。

 1993年に稼働の、セガが開発した3D対戦型アクションゲームに登場するキャラクター達。

 ドット絵が主流だったゲーム業界において、まだ人型のスムーズなアクションさえ珍しかった状況にもかかわらず2体の人型が格闘をくり広げるというその映像は、まさに当時の人々の度肝を抜いた。

 

 そして今私の目の前では、そのバーチャなファイター達が士郎を取り合い、熾烈な争いを繰り広げている。

 いつの間にかこの場には、石畳で出来た四角いリングが設営されており、そこから落ちてしまった者は問答無用でリングアウト。負けとなるルールらしかった。

 

「い、いきなりこの人達が現れてから、ずっとこうなんだ!!

 みんな、『自分と契約しろ! 自分と契約しろ!』って!

 自分こそ真のバーチャファイターだとか言って!!」

 

 なんだろう……? もしかして魔術の素人だった士郎の召喚には、なにか不備があったのだろうか?

 もしかして決まった一人を呼び出すハズだった召喚儀式が、契約も済まさない内に“候補“となる何人かをいっぺんに全部呼び出しちゃったとか? そんな事あるの?

 

『 オラオラァ! じゅ~ねん早いんだよぉ~!!!! 』

 

 向こうの方では先ほどジェフリーと呼ばれていたオッサンが、〈ゴインッ!!〉という金属を殴ったような音を立てながら、リング外に吹っ飛ばされている。

 

 さっきのは裡門頂肘か。あれ八極拳の技だもんね。私もよく使うわ。

 アキラさんたら、随分と強いのね。さすがバーチャの主人公だわ。

 

「と……とにかく助けてくれよ遠さ

 

『士郎くん! こっちを見るネ!!』

 

『そうヨ士郎くん! おねぇさんとお話してるデショ!!』

 

 そしてまた両手を引っ張られ、ポリゴンの女たちから大岡裁きをされる士郎。

 そっかぁ~。士郎ってばセイバーと組まない場合は、この人達を呼び出す事になるんだぁ~。

 

 えらいカクカクしてるわねぇ~。最初期のポリゴンだもんねぇ~。

 というか、ゲームのキャラクターって英霊になれるのねぇ~。そういえばよく世界を救ったりとかするもんね~。

 あれかな? 例えばソフトがワゴンセールに並んだら死亡扱いとかで、そこで英霊登録が可能になるとか? 夢が広がるわねぇ~。

 

 なるほどなるほど、バーチャファイターかぁ~。

 というか……士郎。

 

 

「 アンタのマスター適正、いったいどーなってんのよッッ!!!! 」

 

 

 

 

 なに呼び出してくれてんのよ士郎。どーゆう事なのよ。

 その少年的な心根から、ゲームのキャラを呼び出すという偉業を達成したの?

 私そんなヤツ初めて見たわよ。

 

 とりあえず一番ツッコミたかった事をツッコミ、こいつの魔術回路と頭いっぺん解剖したろかいと本気で思う私。

 今後の魔術の発展に、多大な功績を残せるに違いないわ。

 

 

 ひさしぶりね士郎。元気だった?

 

 これからは私が貴方に寄り添うわ。………って、言うてる場合か。

 

 






1万700文字もかけて、私はいったい何を書いているんでしょうか?
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