hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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19、ライダーと!! その2

 

 

「ライダー、いったい何をしているのです?」

 

 休日の衛宮家。少しばかり小腹が空いたと台所をゴソゴソしに来たセイバーさんは、居間でコタツに入っているライダーの姿を見かけた。

 

「~♪ ……あ、セイバー。おはようございます」

 

「おはようございますライダー。それで、貴方はいったい何を?」

 

 日曜日という事で、コタツでぬくぬくと寛いでいるのであろう事は見て取れた。しかしテーブルで何かの作業をしているライダーの表情がとても楽しそうに、また幸せそうに映ったのである。

 元女神の面目躍如と言わんばかりの、慈愛に溢れた優しい瞳。何か面白い事でもしているのだろうかと非常に気になってしまうセイバーだ。

 

「えぇ。ちょうど今は、愛用のメガネを磨いていた所です。

 今年の汚れは今年の内に。愛を込めて磨いているのです」

 

 今もライダーはニコニコしながらメガネを磨いている。

 専用のクリーナー、そしてやわらかい布。まるで職人さんのような手慣れた手つきでキュッキュと手入れをしていく。

 

「ほぅ、メガネですか。

 思えば貴方は、いつもメガネを大切にしているように思う。

 まるで戦士が愛剣を磨く時のような、そんな愛情を感じます」

 

 自分はメガネをかけてはいないけれど、それがとても大切な物だという事はセイバーにも分かる。

 そして物を大切に扱うその姿勢にも、すごく好感が持てる。

 普段は同じサーヴァントとしてライバル意識もある間柄。しかしこういった彼女の内面の美しさを、セイバーはとても好ましい物だと感じていた。

 なにより美しく知的な雰囲気を持つライダーには、メガネがとてもよく映えていると思う。

 

「しかし、先ほどは声をかけられるまで気が付かず、申し訳ありません。

 ……メガネをかけている者ならば、半径300メートル以内に来れば

 すぐに分かるのですが」

 

「えっ」

 

 言われた事の意味が分からず、素の声を出してしまうセイバー。

 

「あぁ、セイバーはメガネをかけてはいませんから。

 知らなかったとしても無理はありませんよ。

 ……我々メガネをかけている者同士は、お互いの位置を察知する事が出来るのです。

 オーラというか……メガネ同士の共鳴と申しましょうか」

 

「なんと!? メガネの者達にそのような能力がっ!?」

 

 今まで知らなかった知識に驚愕の表情を浮かべるセイバー。

 現代の知識を教えてくれた聖杯も、そのような事は教えてくれなかったぞ。

 

「サーヴァント同士は、近い位置ならばお互いを察知出来るでしょう?

 それと似たような感覚です。

 メガネを愛する者達には、そんな不思議な力があるのです」

 

「英霊でもないのに! 聖杯の力も借りずにそのような事を!?」

 

 メガネすごい。メガネかけてる人ってすごい。

 心から感服致した次第のセイバーだ。

 

「もちろん、並みのメガネの“オーナー“に出来る事ではありませんが。

 メガネをかける者達にも、純然たる“格“という物が存在しますから。

 ……上位の者であれば、近くにいるだけで現在位置やその人数、

 そして相手がどの程度の実力(メガネぢから)を持つオーナーなのかすら、

 感じ取る事が出来ます」

 

「なんと!? では今ライダーには、近隣にいるメガネの者達の位置が!?」

 

「えぇ。半径300メートル以内に、2人ほど居ますね。

 ……どちらも大した相手ではありません。

 私がひと睨みしただけで、道を譲ってしまう程度のオーナーです」

 

「 !?!? 」

 

 すごい人いた!

 私の身近に、こんなにもすんごい人が居たッ!!

 前々からただ者では無いと感じてはいたが、思っていた以上にライダーはすごいメガネさんだったのだ。セイバーは心からの尊敬を贈る。

 

「所詮、喫茶店のおしぼりや、ついでのようにお風呂でメガネを洗っている連中……。

 たとえ心を曇らせようとも、メガネだけは曇らせない――――

 たとえこの身が傷つこうとも、メガネだけは決して傷つけない――――

 そんな心構えなくしては、私の前に立つ事など、とてもとても……」

 

「カッコいい! カッコいいですライダー!!

 私は今、なにやら胸がキュンキュンしているのです!」

 

 子供のようにはしゃぐセイバーさん。目をキラッキラさせながら、尊敬のまなざしを浮かべてライダーの手を握る。

 

「セイバー? よくメガネをかけている人が、

 クイッとばかりにメガネ位置を直す仕草をするでしょう?

 ……その仕草を他人に視認されている時点で、実はまだまだ未熟者なのですよ。

 私がメガネをクイッとやる所を、一度でも貴方は見た事がありますか?」

 

「え? ……いえ、そういえばそのような仕草、一度も見た憶えが……」

 

 あのクイッとやる仕草は、正直とてもカッコいい。

 メガネをかける者のみに許された、とてもセクシーで知的な仕草だと思う。

 しかしながらその仕草をしているライダーを見た憶えが無く、またそれを“未熟“だとしてライダーは斬り捨てているのだ。

 

「上位のオーナーともなると、己のメガネ位置を乱すような無作法は決して致しません。

 重心、歩幅、あらゆる日常の動作……。

 その全てが、己のメガネを中心として最適化されているからです。

 私はたとえエヌマエリシュを放たれようとも、メガネをずらす事はありませんよ」

 

 本当かどうかは、わからない。

 あの世界が消し飛ぶような暴力を喰らい、メガネが無事でいられるのかどうかはセイバーには分からない。

 しかし、それを語るライダーの瞳には、一点の曇りもなく自信に満ち溢れている。

 凄まじいまでの説得力。自尊心よ!!

 たとえ天高く首を刎ねられようとも、この人のメガネは正位置にあるんじゃなかろうか?

 なんかセイバーは、そんな気がしていた。

 

「ただ、私も時折メガネに手をやる時は、ありますよ」

 

「えっ!? あるのですか!?

 だってライダーのメガネは、常に正位置にあるというのに!」

 

「メガネは常に正位置。それでも私は……、時折クイッとやる。

 それは位置を直す為ではなく、『メガネを愛でているのです』

 愛し、慈しみ、触れてやる……。

 愛馬の背中を優しく撫でるが如き、そんな愛ゆえの仕草。

 それが、私にとっての“メガネをクイッとやる“という事です。

 ……人前では、とても恥ずかしくて出来ませんが///」

 

「女神ッ! まさに地母神ではありませんかライダー!

 貴方こそ、真のメガネ女神です!」

 

 メガネ女神。女神メガネ。

 なにやら面白い日本語が、ここ冬木で産声をあげた。

 

「ライダー! 後生です!

 どうか私に、貴方がメガネをクイッとやる所を、見せて頂きたい!!」

 

「えっ……///

 そんな……恥ずかしいですセイバー……。

 例えるなら、我が子にお乳を与えている所を見られるような……///」

 

「おっ、お願いしますライダー! お願いしますお願いしますッ!!

 もう私、さきから胸のキュンキュンが限界ヨロシクなのです!

 どうか私に、愛の何たるかを教えて頂きたいッ!!」

 

 ホワット イズ ラーヴ!!

 セイバーはイギリス人らしく、イングリッシュでお願いした。

 

「……こ、こうですかセイバー///」クイッ!

 

「……ふ、ふぅおああああぁぁぁーーーーーーっっ!!!!」

 ふあぁぁぁぁ~~~~~~ん♡♡♡」

 

 セクシー! ライダーさん超セクシー!!

「色っぽい事、この上ございませぬっ!!」とばかりに、のけぞって身もだえするセイバー。

 関係ないけれど、いったいどうした騎士王よ。

 

「なんとしなやかな指先っ! なんと慈愛に満ちた仕草なのだろうかっ!

 この世から争いを消す事すら、可能だと思える!!!!」

 

 これを聞けば、天国の切嗣はひっくり返るだろうなと、ライダーは思った。

 

「この慈愛の心さえあれば……。

 私もメガネをかけていたならば……円卓が割れる事など無かったのだろうか?

 ライダーはどう思いますか?」

 

 聖杯戦争を勝ち抜き、「ピッタリのメガネをおくれ」と聖杯に願うセイバーを想像してみるライダー。

 私個人としては、とても素敵な願い事だと感じるが……。さぞ倒れていった者達も浮かばれない事だろう。

 聖杯を破壊したという士郎の判断は、正しかったのかもしれないな。ライダーは思う。

 

「なぜ私はメガネをかけてはいないのか……。

 なぜ精霊は、メガネではなくエクスカリバーを私に授けたのか……。

 ランスロット……モードレッド……私は……」

 

「えっと……セイバー?」

 

 そろそろ愛すべき同居人がおかしな事になってきたので、本腰を入れて助けてあげる事にしたライダー。

 彼女こそ、メガネの女神様である。

 

「決して聖なる物ではありませんが……、メガネならありますよセイバー?

 貴方もかけてみますか?」

 

「 !?!?!? 」

 

「私はいくつかのメガネを所持していますから。

 これは魔眼抑制の為の物で、度も入っていませんし。健康にも問題ありません。

 どのような感じの物なのか、一度体験しておきますか?」

 

「 らっ……らっ……ラララララ……ッッ!! 」

 

 次の瞬間、「ライダァーッ!!」と叫びながら胸に飛び込んでいくセイバー。

 貴方こそ真の地母神だと、グイグイと胸に顔を埋める。子供か。

 

「私は以前から、貴方にはきっとメガネが似合うだろうなと思っていたのです。

 清楚な白い服、その高潔な人柄、礼儀正しさ。

 まさにメガネをかけるに値する……、そんな方であると」

 

「ら……ライダー……ッ!」

 

 もうセイバーは、感激でどうにかなってしまいそうな様子だ。

 ヨシヨシと頭を撫でてやりながら、ライダーは予備のメガネを手渡してやる。

 

「メガネをかけた姿を、ぜひシロウにも見てもらいましょう。

 普段とは少し違う貴方に、シロウも惚れ直してしまうかも」

 

「おぉ……! おぉ~~っ!!」

 

 まるで戴冠でもするかのような仕草でメガネを受け取り、キラキラと目を輝かせるセイバー。

 そんな彼女の姿を、ライダーは微笑ましく見つめる。

 

「そして私から、ひとつ良い事を教えてあげます。

 実はメガネには“決め台詞“というか……、

 メガネをかけて言うと、とってもカッコいい台詞があるのですよ」

 

「なっ!? それはいったいどういった言葉なのですかライダー!!」

 

「うふふ♪ これはとても知的で、頼りがいのある、そんな台詞ですよ♪

 さぁ、シロウのもとに行きましょうか。

 あぁ……思った通り、貴方にはメガネがとてもよく似合う」

 

 メガネをかけさせて貰い、ふたりで意気揚々と士郎の元に向かう。

 こんなにもキュートなセイバーを見たら、シロウは卒倒してしまうかも。

 そんな想いに胸をウキウキさせながら、笑顔で歩いて行くライダーであった。

 

……………………

………………………………………………

 

「シロウ! こちらを見て下さい!」

 

 台所で洗い物をしていた士郎が、その声を聞いて後ろを振り返る。

 そこにあったのは、いつもとは少し違った雰囲気の、可愛らしい騎士王さまの姿。

 そしてセイバーはクイッとメガネを上げる仕草をし、満面の笑みで、言い放つ。

 

「 借金の返済でお困りの方は、

  過払い金が、戻ってくる事がありますっ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラーンとお玉を床に落とす士郎。

 未だ輝くような笑顔で、ニッコニコと笑っているセイバー。

 

(パーフェクト。 エクセレントですセイバー)

 

 その後ろで、うんうんと満足そうに頷くライダー。

 

 メガネの普及も出来たし、愛らしいセイバーの姿も見られた。決め台詞もバッチリ。

 さぞシロウも胸キュンし、メロメロとなった事だろう。

 

 今日はとても充実した一日ですねと、満足気なライダーさんであった。

 

 

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