アダムってなんか気持ち悪いし、そんなのでロボット作りたくない――――
そんな赤木リツコ博士のわがままにより、毎回エヴァとは全然関係ないロボットに乗せられて戦うシンジ君のお話。
「こ、このロボットに乗せる為に……、僕を呼んだって言うの父さん?」
碇さん家のシンジ君は、ただいまネルフの格納庫へと招待されていた。
ちなみに現在、第三新東京市に使徒進行中である。
「そうだ。これに乗れ、シンジ」
「嫌だよ父さん!」
「そう言わずに乗れ。がんばれ」
「嫌だって言ってるんだよ! 父さん!!」
シンジ君のお父さんである碇ゲンドウ氏は、けっこうアグレッシブにグイグイ来た。
「し、シンちゃん? そんな事言わずに一度乗ってみて?
お母さん達、けっこう頑張って作ってみたから」
その隣では、妻である碇ユイが必死に息子を説得する。
エヴァなんて作れなかったので、もちろんユイさんはご健在。現在は家族三人、仲良く一緒に暮らしているのだ!
「嫌だって言ってるんだよ母さん! こんなロボット乗れないよ!!」
「わがままを言うんじゃないのシンジ君! この街の未来は、
貴方の手にかかっているのよ!!」
目の前のロボットを見てプリプリと怒るシンジ君。そんな彼をネルフ作戦本部長である葛城お姉さんも必死で説得する。
「かかってないよそんなの!! だってこれ“ガンタンク“じゃないか!!
誰でも乗れるよこれ!!」
この度、久々に使徒がいらっしゃるという事で、ネルフ一同は頑張って、突貫工事でガンタンクを作ったのだ。
「なんでぼくが乗るんだよこれ! 別に14才じゃなくても乗れてしまうよこれ!!
そもそも何でガンタンクを作ったのさ父さん!!」
「……え? いやその……赤木博士の趣味でな」
ネルフの技術力と市民の血税という潤沢な資金を使い、赤木博士は大した原作知識もなく、見様見真似でガンタンクを作ったのだ。
「なんでだよリツコさん! なんでガンタンクにしたんだよ!!
せめてガンダムにしてよ!!」
「黙りなさいシンジ君。ガンタンクはかっこいいわ。私はそう思うわ」
ザクとかジムにはコアな愛好者がいるが、ガンタンクはどうなのだろう?
すくなくともMSのスペックでいえば、公式で可哀想なくらいにケチョンケチョンに言われているそうだが。
加えて言うと、赤木博士には最初から“エヴァンゲリオンを作ろう“という発想が無かった。
あんなアダムとかいう、白くてずんぐりむっくりな気持ち悪い生き物を参考にして、ロボットを作る?
冗談はよして欲しい。私はそんな物を作る為に、科学者になったワケではないのだ。
「シンジ君。私は貴方の為にガンタンクを作ったわ。乗りなさい」
「嫌だって言ってるんだよリツコさん!! ならリツコさんが乗ればいいじゃないか!!」
煙草をスーっと吹かしながら、プイッと目をそらすリツコさん。
アイアム科学者。私はノットパイロットなのだ。
「シンジ、私は自分達の作ったロボットに、息子を乗せてやるのが
夢だったのだ。ぜひ乗ってくれ」
「そうよシンジ。お母さんも夢だったのよ」
「嫌だって言ってるんだよ二人とも! どうするのさ! あのATフィールドとかいうの!
使徒には通常兵器とか通用しないんでしょ! これガンタンクでしょ!?」
二人は必死でシンジ君を説得するも、非常に痛い所を突かれてしまう。私達の息子って賢い。
「うむ、そこはあれだ。“コミュ力“で」
「 コミュ力!? 」
「ATフィールドは、なんか心の壁だとか言うぞシンジ。
お前のコミュ力を見せてやるといい。心を開かせてやれ」
「嫌だよコミュ力って! そもそも僕はガンタンクに乗って使徒と戦うんだよ!!
なんだよガンタンクに心を開く使徒って! そんなの使徒じゃないよ!!」
「――――シンジ君。ガンタンクはかっこいいわ」
「リツコさんの趣味は今いいんだよ! きいてないよ!!」
ちなみにシンジ君は、エヴァとかそんなのが無く今まで家族円満に幸せな生活をおくってきているので、人格形成はバッチリだ。
むしろこの中で一番コミュ力があるのはシンジ君だったりする。軍人とか科学者はみんな、どっかひねくれていると思う。
「碇くん。ならわたしも一緒に乗るわ」
「綾波っ!?」
「わたしも一緒にガンタンクに乗るの。碇くんといっしょ」
彼女は綾波レイ。ユイ博士のクローン的な存在らしい。
ユイさんいわく、「なんかクローン作ってみたら出来たゼ!! 息子の友達になってもらおう!!」という事で昔引き合わされた。今では仲の良い幼馴染のような存在だ。
「乗らなくていいんだよ綾波! 危ないよ!!」
「ダメ。わたしも碇くんといっしょにがんばる。碇くんといっしょ」
コミュ力の化身であるシンジ君に、レイちゃんはものっすごい懐いていた。
いつでも一緒にいたいのだ! 大好きなのだ!
「そもそもガンタンクって二人乗れるの!? 一人用じゃないの?! 知らないけど!?」
「大丈夫よシンジ君。レイを膝だっこしてあげれば、乗れるわ!!」
「戦いにくいでしょうがミサトさん!! 地球がかかってるんだよ! この戦いには!!」
「する。碇くんの膝だっこ、する」
「ほらぁ~もぉ~っ!! ほらぁ~~っ!!」
ミサトさんが余計な事を言うからですよと、シンジが叱咤する。「てへっ♪」っと舌を出すミサトさんの姿に、シンジはちょっとイラッときた。
対してレイのテンションはもうアゲアゲだ。膝だっこしてもらうまで、私は決して納得しないぞ。徹底抗戦もじさない構えである。
「もういいよ! 乗るよ!! 乗ればいいんでしょっ!!
ほら行くよ綾波っ、ガンタンク乗るよっ!」
「ごめんなさいね~シンジ君! 次回までには、違うロボットも作っておくからっ♪」
「そんなポンポンとロボット作れるもんなの!? もっと血税を大切にしてよ!!」
次回はいったいどんなロボットに乗る事になるのだろうか。
そんな事を考えながらシンジ君は、いそいそとプラグスーツに着替えに行くのだった。
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………………………………………………
「大人はみんな勝手だよ! 激おこスティックだよ!!」
なんだかんだ言いながらもガンタンクに乗り込み、リフトで射出されたシンジ君。
「シンジ君、まずは歩く事だけを考えて!!」
「歩けないよガンタンクは! キャタピラ走行なんだよ!!」
頑張ってコクピットでマニュアルを読み、ウィンウィンと前進していくシンジ君。
「碇くんすごいわ。ガンタンクを動かしてる」
「綾波が膝に乗ってるから前が見にくいよ!
なんで今ぼくの胸板にほっぺスリスリしてるの?! 可愛いけどやめてよ!!」
こんな時にでも、レイはシンジ君にべったりである。
これが、わたしの望んだ世界そのものよ。このまま一つになれたらいいのに。
「そうこう言ってるうちに、なんか使徒がいたよ!!
身体は真っ黒けで、顔だけが白いよ! 顔の形はなんかアリクイとかに似てるよ!」
第何使徒かとか、使徒の名前を聞き忘れて来たシンジ君。一生懸命に使徒の容姿を、口頭で説明する。
「手からビームとか出すよ! なんかパイルバンカーみたいな攻撃をするよ!!
ガンタンクの頭部が今ピンチに陥っているよ!!」
〈ゲッション! ゲッション!〉という音を立てて、使徒がガンタンクを破壊していく。手で振り払おうとしているものの、ガンタンクの手はなんか変な形だ。上手く振り払う事が出来ない。
「シンジ君! ATフィールドを中和して!」
「出来ないんだよガンタンクには! 最初期のモビルスーツなんだよ!!」
「なんかこう……あるでしょ!! 一度『ATフィィ~~ルドッ!!』とか叫びながら
殴ってみなさい!! 必殺技みたくの感じで!!」
「そうゆうヤツでもないんだよガンタンクは!!
それゲッターとかマジンガーとかのテンションだよ! リアルロボッツなんだよ!!」
とりあえず『ATフィ~ルド!!』とか言いながらジタバタ動いてみるものの、事態は一向に好転しない。引き続きガンタンクの頭部はゲッションゲッションされている。
「碇くん、わたしも言う。えっと……ATふぃ~~るど」
「可愛いけどやめてよ綾波! 今ぼく大変なんだよ!!」
とにかくなんかジタバタしている内に、ガンタンクのキャタピラで使徒の足をギョギョギョっとやる事に成功するシンジ君。いたいいたいと使徒が離れていく。
「……シンジ君。貴方、鋼鉄ジーグは知ってる?」
「アンタいい加減にしときなよリツコさん!
次回作ってきても、ゼッタイ乗らないからね!!」
もう頼れるのは、自分だけだ。頼れる大人なんか、生まれてこの方ぼくは見た事ないんだ。
『ひらけ、ひらけ、ひらけっ、ひらけっ、ひらけっ!!
開いてよ!! ガンタンクに心を開いてよッ!!!!』
そんな事を言いながら、一生懸命に使徒にゼロ距離砲撃をかますシンジ君。
そうこうしている内に名も知らぬ黒い使徒は、「いたいいたい」といった仕草をしながら、何故だか第三新東京市から撤退していってくれたのだ。
「やったわシンジ君! 使徒を撃退したわ!!」
「あぁ……。さすが私達の息子だ、シンジ」
「えぇ、そうですね貴方。シンジは自慢の息子ですわ」
「シンジ君……。貴方、ボトムズは観た事ある?」
通信機からは、頼りにならない大人達の歓喜の声が聞こえる。それに返事をしている余裕もなく、息をゼーハーさせながら、可愛らしくじゃれてくるレイの頭をいい子いい子としてあげているシンジ君。
構想だけはあったという、対使徒用、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン。
そんなロボットに乗る事も出来ず、少年は神話になる前に、窓辺から飛び立ってしまいそうだった。
「……エヴァ作ってよ! 乗るよ! 僕をエヴァンゲリオン初号機に乗せてください!!」
シンジの魂を込めたシャウトであったが、ネルフの大人達はだれも聞いちゃいなかった。
翌日、元気のないシンジ君の為に、レイが紫色の折り紙でエヴァンゲリオンを作ってくれた。
シンジはもう、笑えばいいと思った。