「次の提督さん……、いったいどんな方でしょうね?」ワクワク
「……あ、あぁ」
現在、例によって食堂で整列をしている我ら艦娘たち。私は隣にいる吹雪にそう返事を返す。
吹雪……しっかりしろ。元のお前に戻ってくれ。なにやら一周まわって楽しくなってきたというのかお前は。
「長門、期待しても無駄よ。私はもう人間に……。
ってあれ? 人間って一体どんな生き物だったかしら?」
「加賀」
吹雪を挟んだ隣。そこで加賀が冗談ではなく、真剣な表情で首を傾げている。
それもそのハズ。もうここ最近、私達は一度たりとも人間の姿を見ていない。
人間っていったいどんなのだっけ? となったとしても、全然おかしくない感じになっていた。
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先の“機関車トーマス提督“は、本当によくやってくれたと思う。
荷物の運搬は元より、力仕事全般に従事。なにより駆逐艦などの幼い娘たちのアイドルとして、我が鎮守府に沢山の笑顔をもたらしてくれた。
彼が任期を終えて鎮守府を去っていく時には、皆が手を振って彼を見送ったものだ。
――――しかしながら、その後が非常に問題であった。
次に提督としてこの鎮守府に送り込まれて来たのが、人語を解さないゴリラであった。ゴリラ提督だ。
即座にそのゴリラは大本営へと叩き返したが、その次に来たのが学習型人工知能を搭載したAIBO的なロボット。AIBO提督とでも言うべき存在であった。
挙句の果てに、次は牛乳パックで作った人形が送り込まれて来た。
あれだ、小学生が図画工作で作るようなヤツだ。通称“牛乳パック提督“の爆誕である。
しかも、彼は郵送されて来たのだ。車や列車に乗ってやって来たんじゃなく、普通に段ボール箱で送られてくる提督っていったい何なのだ。
ご丁寧に牛乳パック人形の胴体には、マジックで大きく“ていとく“と書かれていたし。
まるで「これが貴方達の提督ですよ~」と、そう言わんばかりに。
任期満了を待たずして、私は牛乳パック提督をグーで破壊した。そしてその足で大本営へと直行し、人事部のお偉いさんの首根っこを掴んでそこらじゅうを引きずり回してやった。
もう泣こうが叫ぼうが、ある程度引きずり回すまでは話も聞いてやらなかった。艦娘の怒りを思い知れとばかりに。
「意外と人間じゃなくてもイケるのか? ……と思いまして……」
やがて私の気の済むまで引きずり回された後、大本営人事部の男はエグエグしながら語り出す。
「トーマスでイケるんなら……。別に人間じゃなくても提督が務まるなら。
これって実は凄い事なんじゃないか? ……と思い至りまして……」
「そこで、一度どこまでイケるのかを試そうかと思って……。
もし牛乳パック提督でもイケるようなら、
これって革新的な人件費削減が実現し……」
私は再び、人事部の男を引きずり回した。
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色々と、言いたい事はあった。
お前は平和という物を、いったい何だと思っているのかと。
私たち艦娘の事は……今は良い。お前らが私たちをどう思っているのかは、この2年ほどでよく分かっているつもりだ。
しかしながら……「お前はそれで良いのか」と問いたい。
自分達人類の命運が
アレ、おかしいな? とは思わなかったのかと問いたいのだ。牛乳パックなんだぞアレは。
もし海の平和を取り戻す事が出来た時、その世界を救った提督が牛乳パックだったら一体どうすんだという事だ。
「艦娘たちを率いていたのは、牛乳パックでしたよ」と国民に説明出来るのか。ニュースや新聞で発表出来るのか。
「艦娘の力の源は、牛乳パックだった!?」と、私達に何か変なキャラでも付いたらどうする。
「むしろ艦娘じゃなく、牛乳パックが凄いんじゃないのか?」とかそんな論争を産んだらどうするのだ。
……そしてこの馬鹿者は、今更のように「……ハッ!?」みたいな表情をしやがった。もう一周いっとくかとばかりに、三度私はこいつを引きずり回す。
「いいのか!? 滅ぶぞっ!! 人類が滅んでも良いのか貴様ッ!!
真面目にやらんかッッ!!!!」
説教、ガチ説教だ。私ことビッグセブン長門の怒りが天地に木霊する。
それでも胸倉を掴まれながら「ゴリラまではOKでしたかっ? 牛乳パックが嫌だったんですか!?」とか必死に訊いてくる人事部の男。こいつの頭はいったいどうなっているのだろうか。
何だその無駄なアグレッシブさは。是非とも他で活かさないかそういう部分は。
もう艦娘をやめて、みんなでブタゴリラ提督の元に行ってしまおうか。そしてお野菜を作り、彼の八百屋で販売してもらおうかとも一瞬考える。
――――もう人類は駄目だ。衰退しました。……そんな風に思うも、ブタゴリラ提督に貰った“艦娘としての誇り“が私を踏み止まらせる。
ゆえに私は辛抱強く交渉していった。時に物理的な力も駆使して。
「わかりましたっ……人間でッ!
次の提督は人間でいきますっ! ……それでいいんでしょうっ!?」
もう鼻水をダーダー流し、ガン泣きしながら目の前の男が言う。そして話は終わりだとばかりにその場に蹲り、エグエグし始めてしまった。
なんで逆ギレやねん、なにが「それでいいんでしょう」やねんとは思ったが、私はもういたたまれなくなって、黙ってその場を後にした。
「うう゛っ……ぐすっ! 私はっ……私は諦めませんよっ……!!」
扉が閉まる瞬間……、ヤツのそんな不穏な呟きを聞いたような気がした。
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「……あ゛~。俺デビルマンになっちゃったよぉ~↓」
現在、食堂にてビシッと整列した私たち艦娘に向かい、本日到着した新提督が着任の挨拶を行っている。
その名は“実写版デビルマン提督“。
あの永〇豪的なアニメ調の見た目ではなく、日本映画界の特殊メイク技術の粋を集めて作られたようなリアルな質感のボディ。まごう事無くカッコいいと言える、その見た目。
しかしながらそのアクターとなる実写版デビルマン提督自身は、どうやら大変な“大根“のようで……、その凄く重要っぽい悲痛なセリフとは裏腹、まったく緊張感のない間延びした演技であった。
あ~、俺デビルマンになっちゃったよぉ~。(棒)
「――――ハッピイバースディ! デビルマン提督!!」
同じく壇上に控えていた大淀が、満面の笑みで実写版デビルマン提督に言い放つ。
……おそらくなのだが、きっとこのシーンは、劇中において本当に重要なシーンなのだろう。作中屈指の名シーンであるのだろう。現在「悔い無し!」とばかりにキラッキラした表情をしている大淀の様子からもそれを察する事が出来る。
……大淀よ、お前この映画のファンだったのか。己のファン根性の為に、この鎮守府を売り渡したというのか。
後でこいつも引きずり回してやろうと心に誓う。
「 ――――帰ってくださいっ、貴方はデビルマンなんかじゃない!! 」
「 デビルマンはそんなんじゃないもん! デビルマン馬鹿にしないで! 」
するとどうだ。この場にいる駆逐艦の娘らが、もう一斉に実写版デビルマン提督に石を投げ始めたではないか。
永〇豪先生の歴史的名作である原作デビルマンを愛する艦娘達の怒りが、いま実写版デビルマン提督に炸裂する。
あの映画を観た全ての者たちの悲しみ、落胆、怒り――――。その全てを代弁するかのようにして。
そして何故か、同じく壇上にいる大淀に対してもたくさんの石が投げられた。この裏切り者めとばかりに。
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「……え~っ、私がこの鎮守府の提督となったあかつきにはぁ~」
そして現在この食堂において、もう嵐のようなブーイングにより電撃的な速度で解任されてしまった実写版デビルマン提督に代わり、本日着任してきた新提督が挨拶を行っている。
「この鎮守府を~、笑顔溢れる“スマイル“な鎮守府にしたいと、
そう思っております~」
「さぁ皆さんご一緒にっ!!
顎の下にこう両手を当ててぇ~………スマイルッッ!!!!」キリッ!
この男の名は“マ〇ク赤坂提督“。
東京都知事選を始め、あらゆる選挙に立候補しては落選、立候補しては落選を繰り返している、自称“日本スマイル党総裁“を名乗る中年の男だ。
その踊るわ叫ぶわコスプレするわで繰り広げられる愉快な政見放送は、見る者に失笑、そして明日の職場での話題を提供しているそうな。
「さぁ艦娘の皆さん! ご一緒にぃ~! …………スマイルッッ!!!!」キリッ!
「「「………………」」」
「平和の第一歩は笑顔から!
さぁ~ご一緒に! …………スマイルッ!!!!」キリッ!
「「「………………」」」
艦娘の皆の視線が、もう氷点下まで下がっていくのを感じる。
「 ――――帰ってください!! 貴方なんかに投票しません!! 」
「 なんで政見放送で星条旗パンツとタンクトップ姿なの!?
貴方なんか提督にしません!!!! 」
もう嵐のように石やら紙コップやらを投げつける艦娘たち。
同じく壇上に控え、マ〇ク提督と同様にタンクトップ姿の大淀に対しても物が投げられる。
何が「スマイル!!」(キリッ!)だ。元ブラック鎮守府なめてるのか。
艦娘の怒りを想い知れ、真面目に選挙やれと、そう言わんばかりに皆で物を投げた。
「――――ブタゴリラ提督、心が折れそうだよ……」
貴方のもとに行きたい……貴方の顔が見たい……。
ブタゴリラ提督と共に八百屋さんで働く姿を思い描きながら……、私はそっとマ〇ク赤坂提督の襟元を掴み、窓の外へ放り投げた。
※実在の人物とは無関係です。いいね?