最終兵器彼女×サザエさんのクロスオーバー作品。
「フグ田くぅ~ん。ぼく最終兵器ぬ~ぃ、なっちゃったよぉ~う↓」
早朝、ぼくは会社に出社した途端、同僚から思いがけない告白をされた。
「え゛ぇ゛~っ!!(裏声) それは本当なのかぁいっ!?」
「そうなんどぅ~ぁフグ田くぅ~ん。
ぼくたちは~ぁ、恋してく~~ぅ↓」
いま目の前で意味の分からない事を口走っているこの男。彼はぼくの同僚であり、友人でもある“アナゴ“という男だ。
「いや~ぁ、困ったよぉ~う。
昨日ぅ、いきなり知らない人達に連れ去られてしまってぬ~ぇ。
身体を改造されてしまったのす~ぁ↓」
「なんだってぇーっ!?(裏声) か、身体の方は大丈夫なのかいアナゴ君っ!?」
「あぁ~っ、それは問題ないよぉ~う↓。
彼らは自衛隊か何かの人達どぅ~ぇ、悪い人じゃあ無かったす~ぃ。
改造されはしたけどぅお~う、なんか意外と大丈夫だっとぅ~ぁ↓」
心配するぼくを余所に、なにやらのほほんとした様子でアナゴ君は報告していく。いつも通りの仕草、いつも通りの信じられないくらい大きな唇で。
ぼくの方はもう驚きすぎて、仕事にかかるどころじゃなくなっている。
「今日はぼく電車じゃなくぅ~、徒歩で出社してきたんだよぉ~う。
なんか脚からセグウェイが出せるようになってぬ~ぇ↓」
「セグウェイっ!? 君の脚はいまセグウェイなのかい!?」
「そうさ~ぁ。以前より移動が楽になったよぉ~う。
人間生きていればぁ~、いい事もあるんだぬ~ぇ↓」
ガシャンガシャンと、脚からセグウェイを出したり引っ込めたりしてみせるアナゴ君。それが良い事なのかどうかはともかくとして、彼が人外な存在になったのは間違いないようだ。
「その他にも~ぉ、頭部がCDプレーヤーになったり~ぃ、
手のひらが掃除機になってたり~ぃ、
胴体に洗濯機が内蔵されてたりするよ~ぅ↓」
「別で使えばいいじゃないかっ!! なぜわざわざ身体の中に入れたんだいっ?!」
「ちなみに口の中は電子レンジになっていとぅ~ぇ、
食べた物は全部ホッカホカになるのす~ぁ↓」
「さっきから家電ばかりじゃないかアナゴ君っ!!
最終兵器ってそういう物なのかい!? ただ便利なだけじゃないかっ!!」
ぼくは温厚な自負があるけれど、この時ばかりはらしくもなく荒ぶる。
「仕方ないよぅフグ田くぅ~ん、日本は特に戦争なんかしていないからぬ~ぇ↓。
銃や兵器を装備する必要が無いのす~ぁ↓」
「じゃあなぜ君を改造したんだいっ!?!? 国家の重大な危機とかでは無いのかい!?」
「出来そうだったから~ぁ、試しにやってみたんだって~ぇ。
後でパナ〇ニックの人達から『ごめんね』とは言われたよ~ぅ↓」
「ごめんねで済ませたらダメだよ!! 親から貰った大事な身体だろう!?」
まぁまぁ、落ち着きたまえよフグ田くぅ~ん。とりあえず~う、そろそろ仕事を始めなくっちゃ~ぁ↓
そう窘め、アナゴ君が自分のデスクに向かって行く。納得いかないながら、ぼくも渋々それに追従していく。この国は国民の人権をなんだと思っているんだ。
しかしこの非常時であっても給料分の仕事はしなくてはならない。ぼくには愛する妻と家族がいるのだから。
「あ、終わったらぁ今夜いっぱいどうだ~ぁい?
いろいろとぅお~ぅ、相談したい事もあるしす~ぁ↓」
「…………」
書類仕事に勤しみつつ、何気ない口調で語りかけてくるアナゴ君。おちょこをクイッとやる例の仕草を見て、ぼくはなんとも言えない気持ちになる。
最終兵器になったと言っても、彼の仕事ぶりはいつも通り。マイペースその物だった。
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「いや~ぁ、参っちゃったよ~ぉ。
まさかこのぼくが最終兵器ぬ~ぃ、なるなんてぃ~ぇ↓」
いつもの居酒屋のテーブル席で、ぼくらは軽くビールジョッキを合わせる。
今日は仕事に身が入らず散々だったが、なんだかんだと一日の仕事を終えてきた。
今ぼくの目の前には、感慨深いと言ったように自身の身の上に想いを馳せるアナゴ君がいる。
ビールなんかを美味そうに飲んでいるが、改造人間(?)的にそれはOKなのかと少し不安になる。
「なにか~ぁ、いままでとは目に映る景色が違って見えるんどぅ~ぁ。
これもぼくが~ぁ、最終兵器になったせいなんだろぉぬ~ぇ。
そこいらの人間なんか~ぁ、いつでもブチ殺せる~ぅ↓」
なにやら物騒な事を呟いているアナゴ君。ぼくはビールを飲む事で、それを聞いていなかった事にする。
「ただ~ぁ……、少しだけ思うんだよ~ぅ。
あぁ、ぼくはも~う……、普通の人間では無くなってしまったっとぅ~ぇ↓」
ふと何気なく、ひとりで呟くような声色で言うアナゴ君。
ゆっくりとテーブルにジョッキを戻し、ここではないどこか遠くを見るように、視線を上げた。
「ぼくはも~ぅ、以前とはまったく違う存在どぅ~ぁ……。
……今でこそこうして~ぇ、いつも通り君とお酒を飲んでいるけれど~ぅ、
でもいったいいつまでぇ、君とこうしていられるんだろうっとぅぇ……。
ぼくはぁ、ぼくの“心“はぁ……、いつまで人のままでいられるんだろうっとぅ~ぇ」
彼の目に、涙が滲んでいるように見えた。
いつもの彼らしからぬ真剣な雰囲気を感じ、思わずぼくはビールジョッキを置く。
「……あ、アナゴ君……」
「力だ~ぁ……、力が全てどぅ~ぁ……。
ぼくはこの世界を粛清する力を持つ~ぅ、唯一無二の神たる存在ぬ~ぃ↓……」
一瞬声を掛けようかと思ったが、慌てて再びビールを煽る。
今の彼に触れてはいけない。そう本能として感じた。
「……正直ぃ、孤独は感じているよ~ぅ。
なんたってぼくはもうぅ、人では無くなってしまったのだからぬぇ~ぇ……。
でも平気さ~ぁ。なんたってぼくにはぁ、君という大事な友達がいるかるぁ~ぁ↓」
しばらくし、ようやくアナゴ君が再び笑顔を取り戻す。
そして少しだけ照れたような笑顔を浮かべ、まっすぐにぼくの顔を見つめた。
「な~ぁフグ田くぅ~ん? ぼく達は親友だるぉ~ぅ?
ずっとずっと~ぉ、ぼくと一緒にいてくれるだるぉ~ぅ↓」
その言葉に、ぼくは返答を返す事が出来ずにいた。
とりあえずはなんとか彼に苦笑を返し、酒とつまみのおかわりを注文してあげた。
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「マスオさん、どうかしたの?
今日はなんだか、思い悩んでいるように見えるけど」
時刻は深夜となり、そろそろ床に就こうかという時間帯。
しかしただ布団の上に座り項垂れているぼくを見て、サザエが心配そうに声を掛けてきた。
「……いや、なんでもないよ。
今日は仕事がキツくてね。少し疲れちゃっただけさ」
「そう? なら良いのだけど……。あまり無理はしないで頂戴ね。身体は大事よ?」
「わかっているさ。ありがとうサザエ」
サザエに微笑みを返し、いそいそと布団を被る。
確かに思い悩んでいる事はあるけれど、妻に心配をかけているようではいけない。サザエの言う通り、今日は早く眠ってしまおう。
「じゃあ電気消すわね。おやすみなさい貴方」
「あぁ、おやすみサザエ」
目を瞑り、心をリラックスさせて眠りが訪れるのを待つ。それでもふと心に浮かんでくるのは、今日のアナゴ君の事。
彼とは長い付き合いだけど、あんな顔をしている所を初めて見た。いつもお気楽な所がある彼だけれど、今日は情緒も少し不安定のように見えた。
あんな事になったなら、それは当然の事かもしれないと思う。
ぶっちゃけた話、彼は少し遠慮が無い所があるというか……忌憚のない言葉を使うのならば“ウザイ“男であったりするのだけれど……、それでも一緒にやってきた同僚であるのだし、心配か心配でないかと問われたならば、一瞬悩みはするけれどぼくは「心配だ」と答える。
いつも面倒事を持ってこられたり、その尻ぬぐいをするハメになったり、悪だくみの片棒を担がされたりと、よくよく考えてみればろくな事が無いが……。
「なんでぼくは彼と友人なんてやっているのだろう?」と、時折疑問に思ったりもするけれど……、それでもあんな事になってしまった彼の事を心配する気持ちも、また本当なんだ。
(ただ……“最終兵器“か……。
そんなワケの分からない事に、ぼくが力になれるとも思えないよ)
応援しよう、彼の事を――――
そう、心の中だけで応援しよう。それだけにしよう。
まさにこれは「心ばかりの」というヤツなんだ。
人間、「気持ちが何よりも大切だ」とも言うし、もうそれだけしていれば人生はOKなのかもしれない。今ぼくはそんな気がしているんだ、サザエ。
だからぼくは、彼の為に何かをしたりなんかしないぞ。絶対にしないぞ。
ぼくには守るべき大切な家族があるんだ。だからこの大切な時間と労力を、君の為に割くワケにはいかないんだ。絶対に割かないぞ。
だからアナゴ君、がんばって。ひとりで頑張っておくれ――――
何も出来ないぼくだけれど、心の中では応援しているから――――
そう決めた途端、なにやら心のつかえが〈ストーン!〉と落ちた気がした。
あのベトベトしたヘドロのような喋り声と、ニタニタとうざったい笑顔……そんな彼の姿が頭から消えていく。心に平穏が訪れる。
(今夜は、よく眠れそうだ)
そんな期待を胸に抱きつつ、ぼくはとても安らかな気持ちで、深く枕に頭を埋めていった。
「――――――マスオく~~ぅん! 開けとぅ~ぇ! ここを開けてくるぅ~ぇ↓」
〈バンバンバン!!〉と何かが窓を叩く音に飛び起きたぼくは、慌てて窓に駆け寄って、カーテンを開ける。
するとそこには、外から窓に顔面を押し付けている男の姿。
寒さに凍え、唇を紫色にして鼻水を足らしている、アナゴ君がいた。
「ぎゃああああああぁぁぁぁーーーーーーーッッ!!!!
貴方ぁーー!! 貴方ぁぁああああーーーッッ!!!!」
「う゛お゛ぉぉぁぁああああーーーーッッ!!!! サザエぇぇえええーーーッッ!!!!」
「マスオ君ここを開けとぅくれ~ぇい↓ ぼく妻に家を追い出されちゃったよ~ぅ↓」
身を寄せ合い、泣き叫ぶぼくら夫婦。そして今も我が家の窓をバンバン叩き続けるアナゴ君。
戦争なんて、起きてない。
“最終兵器“なんて大それた物の事なんか、分からない――――
それでも僕たちは、家族の事とか友情の事とか……。
そういった物に必死に置き換えながら、なんとかぼく達なりにこの現実と向き合っていったんだ。
窓を開けた途端、泣きながらぼくにしがみついて来た彼の身体は、冷たかった。
それは機械だからとか兵器だからとか、そういう事じゃなく……、きっとこの寒空の中、かみさんに家を追い出されてしまったからに違いなかった。
「――――ぼく達は~ぁ、恋してく~ぅ↓」
ぼくにはもう妻がいるし、そんな事を言う前にかみさんと仲直りしてきてくれ、と思った。