ぼくが通う会社は、駅から徒歩数分の場所にある。
電車を降り、駅を出て、人込みをかき分けるようにしてビル街を歩いていけば、そこにはぼくと同じ沢山のサラリーマン達の姿。
みな一様にスーツに身を包み、自身の会社を目指してえっちらおっちら歩いて行く。
名前も知らない彼らではあるけれど、同じサラリーマンとしての親近感、そしてある種の仲間意識のような物をいつも感じている。
今日も一日、頑張っていきましょう――――
ぼくはこの朝の光景が、ひそかに好きだった。
「――――うぉ~ぅい、フグ田く~ぅん↓」
……そんなぼくの感傷をブチ壊す声が、前方から聞こえる。
「はやく~ぅ、あんまりもたもた歩いてると遅刻してしまういょ~ぅ!
ぼくはセグウェイだからホントはもっと速く行けるんだけどぅ~ぉ、
わざわざ君のペースに合わせてあげてるんだずぅ~ぉ。
この心優す~ぃぼくぐ~ぅあ↓」
アナゴ君は、ウザい――――
「ご……ごめんよアナゴくん。すぐに行くよ」
「まったく~ぅ。でも良いってことす~ぅあ。
君と一緒ぬ~ぃ、こうしてのんびり通勤するというのむ~ぉ、
乙なものだかる~ぁ↓」
だが残念な事に、彼はぼくの友人だ。
お気楽だし、デリカシーも無いし、いつも調子の良い事ばかり言う。
おまけに仕事ぶりもマイペースで、成績も中の下。
世渡りだけが無駄に上手だけれど、ぼくが彼に好感を抱く為には、それは何のプラスにもならない。
彼自身は特に気にしてはいないようだけど。
口癖は「今夜いっぱいどうどぅ~ぁい↓」
座右の銘は、“他力本願“。
なんだか非常に関わり合いになりたくない、そんなタイプの男である。
「だけど、やっぱり明日からは別々に行こうよ。
君はセグウェイどころか、空を飛んだり人間バイクに変形したりするんだし……。
ぼくは別にひとりで……」
「いや~ぁ、その気遣いには感謝するけどぅ~ぉ、
でもやっぱ~ぁ、一緒に行かないとぅ~ぉ↓」
アナゴ君は、やにやら照れたように、はにかむ。
「――――ぼくはフグ田くんぬ~ぉ、親友だかる~ぁ↓」
アナゴ君は、ウザい――――
彼がぼくの家に押しかけ、そしてそのまま居候する事になったのは、つい昨晩の事。
でも、ぼくは未だに、この現状がよくわからないでいる。
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「助けてくるぇ~ぃフグ田く~ぅん!
ぼくが最終兵器になったって妻に伝えたるぅ~ぁ、
もう取り付く島もなく『出て行け』って追い出されとぅ~ぇ↓」
昨晩、我が家の窓を叩き、そして中へと入れてもらったアナゴ君は、もう涙も鼻水もダーダーと流しながら僕にしがみ着いて来た。
「人間でなくなったぼくを~ぅ、妻は受け入れる事が出来なかったんどぅ~ぁ!
ぼくにはもう~ぅ、どこにも居場所なんくぁ無いんだいょ~~ぅ↓」
おーいおいと泣きわめくアナゴ君。その声に驚いてワラワラと集まってくる家族のみんな。ぼくはもう、ただただ硬直しているほか無い。
「あっ、どうも~ぅ磯野家のみなすぁ~ん!
ぼくはマスオ君の親友どぅ~ぇ、同僚の~ぅ、アナゴといいます~ぅ↓」
お義父さんやお義母さんの顔を見た途端、ケロッと泣き止んで挨拶を行うアナゴ君。
「実は諸事情がありましとぅ~ぇ、
彼のご厚意どぇ~、しばらくこちらにご厄介になる事になりましと~ぅあ。
いや~ぁ、持つべき物は~ぁ、やはり友達ですぬ~ぁ↓」
「えっ」
言ってない。ぼくはそんなの一言も言ってない。
しかし彼の言葉は、無常にも続いていく。
「本当ぬ~ぃ、ご立派な息子さんどぅ~ぇ。
友達想いな彼には~ぁ、ぼかぁいつも助けてもらってばかりなんです~ぅ。
では今回も~ぅ、よろしくお世話になります~ぅ↓」
もう絶句しながら固まっているお義父さん。どういう事ですかと目で訴えてくるお義母さん。話が理解出来ない様子の寝ぼけ眼な子供たち。
「では今夜は~ぁ、とりあえずマスオ君の布団で一緒に寝させてもらいます~ぅ。
奥さんにはたいへん申し訳ないのですぐ~ぁ、
今日は妹さんとかと一緒ぬ~ぃ、別の部屋でお休み頂くという事どぅ~ぇ。
では皆さん~、おやすみなさう~ぃ↓」
そして「はいっ、解散っ!」とばかりにパンパンと手を叩くアナゴ君。
その何か逆らえない感じの謎の雰囲気に、意味もわからず従っていく家族のみんな。
ぼくが言葉なく呆けている間に、とても沢山の不本意な事が次々と決定していた。
「すーぁ寝よう寝よ~ぅ!
明日も早いんだからぬぇフグ田く~ぅん。おやすむ~ぃ♪」
いそいそと部屋の電気を落とし、モソモソと布団を被るアナゴ君。
未だ立ち尽くしたままのぼくを余所に、もうグースカというイビキ声が彼から響いてきた。
……そして朝になれば、先に起き出して勝手に朝食を作っていたアナゴ君の姿。
その最終兵器としての(?)多機能性を活かし、ミキサーやら圧力鍋やら大根おろし機といった家電機能を駆使して皆の朝食を作り上げた。
「いや~ぁ、これからずっとお世話になるのだかる~ぁ、これくらいは当然です~ぅ↓」とは彼の談。
料理自体は意外にも美味しく、皆にも大変好評だった。
朝食を食べ終わった後は、出勤までの時間タラちゃんと遊んでくれていたアナゴ君。
どうやらタラちゃんを始めとし、子供たちに大変好かれているようで……、早くもカツオくんなどは彼の事を「アナゴ兄さん!」と呼び始め、慕いだしている様子だ。
朝食作りに、子供たちの相手――――――
さっそく彼がこの家での“役割“獲得に乗り出し、ジワジワと外堀を埋めにきているのが分かった。
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「どうして……どうしてこんな事に……」
お昼。僕は自分のデスクでお弁当を広げつつ、頭を抱えている。
今日のお弁当はいつものサザエお手製の物では無く、アナゴ君が作った物らしかった。出勤時に彼が得意げに語っていたが、なぜ彼は照れ笑いなどを浮かべていたのだろうか。
ご飯には桜デンプを駆使して大きな「♡」のマークが描かれており、もうどんな顔をしてこれを食べれば良いのかがわからない。
このお弁当をチラ見した会社の同僚に「おっ、お熱いですなぁ~」と言われたが、もう言葉を返す気力も無い。
「この現状はいったい何なんだ……?
どうしてぼくは、こんな思いをしているんだ……?」
その原因は言わずもがな、アナゴ君である。
彼が我が家に住み着き、会社でも自宅でも四六時中ぼくにまとわりつき、心の平穏を奪っているからだ。
昨夜、寝床で「絶対に彼の手助けなどしないぞ」と決意を固めたにも関わらず、そんなぼくの意志などまるで紙屑も同然だったかのように、アナゴ君は敵の砦を破壊する戦車砲の如き攻撃力をもってぼくの日常を粉砕した。
「どうすれば良い……? いったいどうしたら良いんだ……?」
出て行って欲しい。我が家から超出て行って欲しい。
しかしながら彼は現在家を追い出されており、他に行く宛ても無いのだと言う。
いったいどのような伝え方をしたのかは分からないが、昨日彼は「ぼくは身体を改造され、人間じゃ無くなったんだよ」と自分の奥さんに伝え、そして大いに拒否されてしまった。
もう取り付く島もなく外に放り出され、「二度と帰って来るな、顔も見たくない」とまで言われたらしい。
元々彼の家はかかあ天下的な所があったようなのだが……それを差し引いても自分の夫が“最終兵器“になったなどと……、これはとても許容できる事では無かったのだろう。
「現状は、絶望的だ……。
でもなんとか仲を取り持って、アナゴくん夫婦を仲直りさせないと」
そうしなければ、死ぬ。
暖かい家庭、心休まる我が家――――一刻も早くそれを取り戻さなくては。
奥さんにも心を落ち着ける為の時間が必要だろうし、今すぐどうこうすると言うのは正直無理だと思う。
しかし、出来るだけ早く。可能な限り迅速に問題を解決し、ぼくの平穏を取り戻さなくては。
家族にも迷惑をかけてしまっているし、婿養子の身としてはお義父さんとお義母さんの視線も痛い。(これ絶対ぼくのせいでは無いと思うのだけれど)
「そうだ……! もしくは、彼を元の人間に戻す方法があれば……」
アナゴくんを連れ去ったという、自衛隊だかパナソ〇ックだかの人達。その人たちを探し出す事が出来れば……!
「――――うお~ぅい、フグ田く~ぅん↓」
必死で思考を回転させていた意識を、アナゴくんのお気楽な声がこの場に引き戻す。
何やら紙袋を持ったままの手を、こちらに向かってブンブン振っている。
「いや~ぁ、一緒にゴハン出来なくてごめんよ~ぅ。寂しかったるぉ~ぅ?
ちょっとぼく~ぅ、そこの文房具屋さんまで行ってたのす~ぁ↓」
「…………」
思わず真顔で彼を見つめてしまうが、彼には気にした様子は微塵も無い。
そして「はいこるぇ↓」と、持っていた紙袋をぼくに手渡した。
「ん゛ん~?(裏声) アナゴくん、何なんだいこれは?」
「これう~ぁ、ぼくから君へぬ~ぉ、プレゼントみたいな物す~ぁ↓
さぁフグ田く~ぅん、遠慮せず開けてごるぁ~ん↓」
ぼくは呆けたまま、言われるがままに紙袋を開封。するとそこから“だぁいあるぅい♡“と書かれた一冊のノートが出てきた。
「だ……ダイアリー? 日記帳かいこれは?」
「そうだよぅフグ田く~ぅん。なかなかイカすデザインだるぉ~ぅ?」
気に入ってくれたくぁ~ぃ↓」
「いや、デザインはいいんだけど……。何故ぼくにこれを?」
今日はぼくの誕生日でも無ければ、特にぼくには日記を付ける習慣も無い。そう首を傾げる。
「フグ田く~ぅん。なんたってぼくらう~ぁ、
これから一緒に暮らしていく仲だるぉ~ぅ?
だからぼくは考えたのす~ぁ。『もっと君と理解し合わなくっちゃ』って~ぇ↓」
そうウンウンと頷き、アナゴくんが照れ笑いを浮かべながら、言った。
「フグ田く~ぅん。これで今日からぼくとぅ、
「……交換日記ぃ?!?!」
思わず持っていたノート(だぁいあるぅい↓)を放り投げそうになる。そんなぼくに構わず、彼の満足そうな言葉は続いていく。
「今日から二人で日記を書いていっとぅ~ぇ、
それをお互いに見せ合うのす~ぁ。素敵だるぉ~ぅ↓」
「……待ってくれッ!! 君は正気かぃ?! 何故ぼくと君が交換日記なんかを?!」
「もちろんそれう~ぁ、ぼくらがより深く理解し合うためす~ぁ。
これで友情を深めれぶぅ~ぁ、もっともっと“親友“になれる~ぅ↓」
「ぼくらもうおっさんだよ?! アラサーのおっさん二人で交換日記を?!?!」
もうぼくは掴みかかるようにして抗議する。しかし彼は今も涼しい顔。
「わかってくる~ぇフグ田く~ぅん。これは物語りにとってぇ、非常に必要な要素なんど~ぁ↓」と意味の分からない事を言う。
「じゃあもうぼくは書き終わっているかる~ぁ、次は君の番だいょ~ぅ。
明日までに書いてくるようぬぃ~。しっかり頼んだいょ~ぅ↓」
スタスタと足音を立て、アナゴくんがこの場を去って行く。
「君はいったい、何を考えているんだ……。ぼくが必死になって悩んでるのに……」
愕然と膝から崩れ落ちたぼくは、しばらくこの場から、動く事が出来なかった。
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【フグ田くん、今日の朝ふと窓の方を見たら、一羽の小鳥が窓辺にとまっていてね? そのあまりの愛らしさに、ぼくは思わず涙がこぼれたんだ。君にも見せたかったなぁ。】
――――ウザい。
【今日一緒にいる時、ふと君の香りをフワッと感じる瞬間があったのだけど、いつも清潔な君からはシャンプーのとても良い香りがしたよ。今は同じ屋根の下に住んでいるのだし、きっと僕からも、君と同じシャンプーの香りが……】
――――――ウザい。そして気持ち悪い。
なんなんだこの文章は。これが30を間近に控えたオッサンの書く文章なのか。
今ぼくは自室にてこれを読み、そして頭を抱えている。
【あ、そうそう。今まで特には気にしてはいなかったけれど、僕が君を呼ぶ時の呼び方について。一応僕は会社にいる時は、君を“フグ田くん“と苗字で呼ぶ事にしているけれど……、でもやはりプライベートな時は“マスオくん“と呼んだ方が君は嬉しいかい?】
【一緒に暮らしていく上で苗字呼びというのは、なにやら距離感がある感じに受け取られてしまうだろうかと……少し気になってね。親友である僕としては、君の苗字も名前も大変趣のある良い響きだと……】
普段から鬱陶しい所のある彼であるが……、この日記の中では本当に楽しそうに僕に色々な事を話し、そしてグイグイ来た。
それは……まるで友達のように。本当の“親友同士“がするように……。
とにもかくにもぼくはペンを握り、試しにこの日記帳と向かい合ってみる事とする。
「え~っと…………アナゴくん、元気ですか? ぼくの方は今日会社で……」
だが次の瞬間、ぼくは衝動のまま〈ビリィィーッ!!〉とページを破り取った。
「や っ て ら れ る か」
日記帳を放り投げ、身体を布団の上に投げ出す。
本当はこのまま何も考えず寝てしまいたいけれど、彼は「明日までに頼んだいょ~ぅ↓」などと言っていたし……、書かないまま明日を迎えたらいったい何を言われる事やら。
しばし心を落ち着け、仕方ないから今一度向き合おうと、床の日記帳を拾い上げようとする。
その時……たまたま開いていたページにあった一文が、ぼくの目に入ってきのだ。
【――――フグ田くん……。ぼく、成長してる。】
でも正直、「知らんがな」と思った。
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「美味ぁ~ぅいッ! なぁんて美味しい豚の角煮定食なんどぅ~ぁ↓」
「そうか、気に入ってもらえて良かったよ、アナゴくん」
ある日の午後。僕らは昼食休憩にこの店を訪れ、豚の角煮に舌鼓を打っていた。
「進むぅぅ~~う! ごはんが進む君だいょ~ぅ!
こ~んな美味しいお店を隠していたなんとぅ~ぇ、君も人が悪いよ~ぅ↓」
「アハハ……ごめんごめん。
でも
「?」
あの晩から、もう数日が経つ。
彼はあいも変わらず我が家に居座り、ぼくに対して暴虐の限りを尽くしている。
家族の皆はなんだかんだありつつも、彼に非常に良くしてくれている。子供たちもアナゴくんの事が好きみたいだ。
でも……。
「ごめんよアナゴくん……。ぼくもう
「……ッ」
今日この場に彼を連れてきたのは……、この騒がしい彼にお気に入りの店を教え、そして店主に多大な迷惑をかける事を覚悟してまでここを訪れたのは……、こう彼に告げる為だった。
「限界なんだ、アナゴくん……。
君の事情は分かる、同情もする、……でもぼくには家族がある。
愛する妻と子供……、守らなきゃいけない家族がいるんだ」
「フグ田……くぅん……↓」
「だからもう、君の力にはなれない――――
婿養子であるぼくには、君をずっとあの家に置いてやる事は出来ないんだ。
……今日限りに、して欲しい」
どこかビジネスホテルでも取るのなら、いくらでも軍資金に協力しよう。
新しい部屋を探すのなら、ぼくも一緒に探す。保証人だって引き受けるさ。
……だけど、もうこれ以上君を置いておく事は出来ないんだ。
それをどうか、わかって欲しい……。僕は彼の目を見つめ、ハッキリと告げた。
「……そっかぁ。そうだよな~ぁ、フグ田く~ぅん↓」
軽く息を吐き、俯くアナゴくん。その表情は諦めと共に、なにやら少し照れ臭そうな……申し訳なさそうな顔に見えた。
そんなアナゴくんの姿を見て、胸が痛む心地がする。
けれど、これは言わなければならない事――――
ぼくはサザエの夫であり、タラちゃんの親だ。一番に守らなければならない人たちに迷惑をかけてまで、君の力になる事は出来ない。一緒には、いられない。
「ごめんよぉフグ田くぅん、……迷惑をかけてしまってぇ。
君に辛い想いをさせ、こんな事まで言わせてしまうなんてぇ……自分が情けないよ」
……ぼくらの関係は、終わるのかもしれない。
今までほとんど一方的に付きまとわれ、そして迷惑をかけられるばかりの関係ではあったけれど……それでも彼はまごう事無く、ぼくの“友人“だった。
決して彼の言うような親友などではなかったけれど……それでも彼と一緒にいて、楽しかった思い出も、確かにあるんだ。
そんなぼくらの関係は、友情は……今日で終わってしまうのかもしれない。
その全てを覚悟し、この残酷さに必死に耐えながら……。ぼくは一人の男として、彼に出ていくよう告げた。
「せっかくキングサイズのダブルベッドを注文していたのだけれどぅ~、
無駄になってしまったぬ~ぁ↓」
「……ちょっと待って! 何を勝手に注文してるのさッ?!?!」
「今日届くハズだったお揃いのパジャマ……、
というかもうあれはネグリジェなんどぁが……、
あれを一緒に着れなかったのだけは~ぁ、心残る~ぃ……↓」
「だから何を勝手に注文してるのッ?!
着ないよ?! ぼくはネグリジェなんか着ないよッ?! オッサンだよ?!」
もしかしたら、滑り込みセーフだったのでは? ギリギリ助かったのでは?
心の片隅で薄っすらと思う。
そうしているうちに、やがてアナゴくんがゆっくりと、伏せていた顔を上げる。
「……まぁでも~ぅ、無駄にはならないく~ぁ。
迷惑はかけられないから、あの家は出ていくしかないけれどぅ~ぉ……、
でもベッドやパジャマは、一緒に使えるしぬ~ぇ↓」
「…………え?」
一瞬、彼が何を言っているのか分からず硬直する。
「じゃあ張り切って部屋を探そうかフグ田く~ぅん!!
……ぼくと君、
「 え゛ぇ゛ーーッ!?!? 」(裏声)
思わずひっくり返った声が出るぼく。そんなぼくを余所に、アナゴくんの言葉は続いていく。
「じゃあ張り切って探さないとぬ~ぇ! 君はどんな部屋が良いんだ~ぅい?」
「ちょっと待ってくれアナゴくんッ!? どういう事だぃ?!?!
なんでぼくが部屋を探すんだッ?! しかも一緒に住むって?!?!」
「当然だる~ぉフグ田く~ぅん! ぼくらは親友なんだかる~ぁ!!
いうなれぶ~ぁ、“運命共同体“ってヤツす~ぅあ!!」
さっきまでのしおらしさは何処へやら。満面の笑みで宣言するアナゴくん。
「部屋を探すのもいいけどぅ~ぉ、
もういっその事、どっか遠くへ一緒に逃げちゃうのも良いかもしれないぬ~ぇ!!
君は漁師の見習いとかをやっとぅ~ぇ、
ぼくがラーメン屋の店員さんとかをするのはどうどぁ~い↓」
彼はもう、絶好調だ。
こうやってしまったアナゴくんを止める術を、ぼくは知らない。
「待ってくれアナゴくんッッ!! ……行かないっ! ぼくは行かないよっ?!?!」
「照れなくても良いよ~ぅフグ田く~ぅん!! これからもずっと一緒だいょ~う!!
ぼくはぜったい君を離さないずぉ~ぅ。地獄の底までぬ~ぇ↓」
ワーワー騒ぐぼくを無視し、アナゴくんは〈チャリーン!〉と豚の角煮定食のお代を置き、店からスタスタと去って行った。
………………………………………………
………………………………………………………………………………………………
「……お゛やっ?(裏声)
ねぇアナゴくん、君に封筒が届いてるよ?」
なんだかんだと昼食から帰って来たぼくらは、彼のデスクの上に郵便物が置いてあるのを発見した。
「ん~ん? ぼく宛てに手紙か~ぁい? わざわざ会社の住所ぬ~ぃ?」
「そりゃまぁ……君はいま家を追い出されてるし……。
そういう事もあるんじゃないかな?」
とりあえずアナゴくんに封筒を手渡し、ついでにペーパーナイフを渡してあげる。
彼は「~♪」と鼻歌なんか歌いながら、イソイソと開封していく。
『 ぶぅぅううううるぁぁああああああーーーーーーーッッッ!!!! 』
「 !?!? 」
封筒の中身を一目みた瞬間、口から色々な液体を噴出するアナゴくん。
「―――ごっぼぉあぁぁッ!!!!」(吐血)
「あ……アナゴくん?!?!
大丈夫かアナゴくん!! アナゴくぅぅぅーーーんッッ!!!!」
そして床に〈バターン!〉と倒れ伏すアナゴくん。
その身体はヒクヒクと痙攣しており、今にも死んでしまいそうに見えた。
「ちょっ……! どうしたんだアナゴくん!! いったい何がっ?!?!」
「コヒュー……コヒュー……」
プルプルと震える手で、アナゴくんがぼくに封筒を手渡す。
顔面蒼白となっているアナゴくんが心配ではあるのだが、とりあえずは意を決して内容物に目を通してみる。
――――――【離婚届】
「……………………………………あぁ……」
それは、彼の奥さんより送られた、全てが記入済みの離婚届けの書類。
黙って私と別れて。後は判を押すだけよ。……まるでこの物言わぬ紙きれが、そう言わんばかりの冷たい圧力を放っているようだった。
「は……はは……。 はははは……」
――――時は、進んでいく。
ぼくを置き去りにして。この上なく残酷な形で。
それは決して、この世界は決して……。
未熟なぼくらを、待っていてはくれなかった――――
「ははっ……笑えよ、フグータぁ~↓」
「 ベジータみたいに言うなッ!!!!
……ってしっかりするんだアナゴくんッ!? アナゴくぅぅぅーーんッッ!!!! 」