hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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 いっちょ流行り物、書いてみましょうか!


~ あらすじ ~


 異世界転生したぜ! さあ愛を探そう!









29、愛を求めて異世界転生(仮)

 

 

「――――愛はどこにあるんだッ!!!!」

 

 

 ここは駆け出しの冒険者が集う街“メキチコ“。

 胸がすくような晴天の空の下、一人の男の叫びが辺りに木霊する。

 

「どこだ!? 愛はどこにあるって言うんだ!!

 こちとらわざわざ、異世界転生までしてきたと言うのにッ!!」

 

 善良なメキチコ村の住人達がヒソヒソ話をしながら、出来るだけ男と関わらないように距離を取って通り過ぎていく中、ひたすら男は空に問いかける。

 ――――愛はどこだ! どこにある! 俺はいま猛烈に愛を求めているんだ! と。

 

「探すぞ、愛をッ!! 俺は愛を探しに行く! 決してそれを諦める事はないッ!!」

 

 実は異世界転生して来てからというもの、もう足を棒にして一日中歩き回っていたのだが、彼の求めている物はどこにも見当たらない。影も形も無い。

 とりあえず業を煮やした彼は、そこら辺にいた村人さんをひとりとっ捕まえ、話を訊いてみる事とする。

 

「やぁ旦那さん。愛がどこにあるのかを知りませんか?」

 

「ここはメキチコの村だぜ」

 

 右手を上げ、フランクに微笑みかけてみる異世界転生の男。しかしながら村人の男は、何故か男に地名を教えてくれた。

 

「ほぅ、ここはメキチコ村と言うのですね。ありがとう旦那さん、どうもご親切に。

 ……ところで貴方は、愛を知りませんか?」

 

「ここはメキチコの村だぜ」

 

 再び問いかけてみるも、村人さんからの反応は芳しくない。

 どうやらこの人は、“同じことを話すタイプ“の村人さんのようだ。

 

「分かりました。肝に銘じます。ここはメキチコという村なのですね。

 ところで旦那さん、貴方は愛と言う物を

 

「ここはメキチコの村だぜ」

 

「――――ガッデムッ!!!!」

 

 男の放つ逆水平チョップが村人さんに炸裂する。〈ドゴン!〉みたいな音が鳴り、豪快に吹き飛んでいった。ピクリとも動かなくなる。

 

「愛だと言っているだろう!! ……俺はッ! 貴方にッ! 愛はどこかと訊いたッ!!

 ……イカン、思わず渾身の逆水平チョップをお見舞いしてしまった。

 なんて事だ! 俺は暴力を振るうヤツが大嫌いだッ!!!!」

 

 己の頭を軽くポカッとやり、「テヘッ♪」とばかりにやる異世界転生の男。

 賭けても良いが、この村人は次に通りかかった時、また何食わぬ顔でここに立っているハズだ。何事も無かったように復活していて「ここはメキチコの村だぜ」と言ってくるに違いない。そういうタイプの村人のハズだ。

 だから別に大した問題じゃなかったのかもしれない。

 

「一応、彼の傍にリポ〇タンDを置いておこう。これでなんとかなるハズだ」

 

 まるでお供え物のように、倒れ伏した村人さんの傍にたまたま鞄に入っていたリポDを置く。

 彼が起きた時にでも飲み、元気を取り戻してくれると幸いである。復活の一助になるハズだ。

 

「さぁ次はどいつだ! どいつに話しかけよう?!

 誰に話しかけたらいい!? 誰が愛を知っているんだ!!」

 

 失敗してもめげずに、次々にそこら中の村人さん達に話しかけていく。しかしながら成果は芳しくない。どいつもこいつも「あら、ここは広場よ」とか「この先に行けばギルドがあるぜ?」とかを繰り返すばかり。

 

「ちきしょう! 異世界人はワケのわからないヤツばかりだッ!!

 愛はどこにある!? いったい愛はどこに行けばあるって言うんだ!!」

 

 不屈の闘志を燃やして訪ね回ってみるも、NPC達はただただ決められたセリフを話すばかりだ。彼の求める情報を教えてくれる者は居ない。

 

「……騙された? まさか俺は騙されたというのか?

 あの“女神“を自称する、浮世離れした雰囲気の女性にッ!!」

 

 突然「ハッ!」と言わんばかりの表情を浮かべ、彼はその場に立ち止まる。

 そして約24時間ほど前にあった、不思議な女性との出会いを回想する事とした。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「――――鳩山くん、残念ながら貴方は死んでしまいました。

 貴方の人生は、もう終わってしまったのです」

 

 まるで宇宙のド真ん中にでも作ったような、天井も壁も無い不思議な部屋。

 なぜ呼吸が出来ているのか不思議に感じてしまうその空間には、床だけはあるのか暖かな光を放つロウソク台と、向かい合った一対のソファーが置かれている。

 

「交通事故という形で亡くなった貴方には、さぞ未練もおありの事でしょう。

 しかし残念ながら、貴方を蘇らせてあげられる力は、私にはありません。

 でも……実は“別の形“であるならば、貴方にもう一度、生を与える事が出来ます」

 

 彼……鳩山くんの向かい側のソファーに座るのは、美しい黒髪の不思議な雰囲気を持った女性。何やらこの世の者とは思えない神々しさを感じ取る事が出来る。

 未だ状況が呑み込めず、ただただ黙り込むばかりの鳩山くんに向かい、彼女が優しい声で語る。

 

「蘇生ではなく、こことは違う世界への“転生“という形であれば……、

 若くして亡くなってしまった貴方に、もう一度生を与えてあげる事が出来るのです。

 その世界は貴方か暮らした所とは違い、人と魔物が共存するという、

 とても特異な世界ではありますが……。

 貴方は今の貴方のままで、再び人生を謳歌する事が出来るでしょう。

 女神である私からも、貴方へ出来うる限りの支援をするつもりです」

 

 その雰囲気から察するに、どうやらこの彼女は若くして亡くなってしまった鳩山くんの事を、心から不憫に思ってくれているようだ。

 人と魔物が共存する……という言葉に若干の不安を感じる物の、女神さまから何かしらの支援をしてもらえるらしい。

 恐らくこれは、その世界でも鳩山くんが立派にやっていけるようにという計らいなのだろう。いわゆるチート的な何かを貰えるのかもしれない。

 

「貴方の事は報告を受けています。とても徳の高い、素敵な青年だったと。

 私から見ても、貴方の魂がとても澄んでいる事が分かりますよ?

 ですので是非、貴方にはもう一度チャンスを差し上げたいと、そう思ったのです。

 異世界という違う環境での生活にはなりますが、どうでしょう?

 もう一度、貴方の人生を歩んではみませんか?」

 

 彼女は暖かな笑みで鳩山くんを見つめている。恐らくはこうして見ているだけで、彼という人間の善性をひしひしと感じ取る事が出来るのだろう。

 女神さまはニコニコと彼に語りかける。この女神さまが、自らの子とも言うべき彼の事を心から愛してくれているのが見て取れた。

 

 そしてやがて、今までポカンと呆けていた彼が、ようやく女神さまに向けて口を開いた。

 

「すまない……まだ今の状況が、しっかりと呑み込めていないんだ」

 

「えぇ、無理もない事です。貴方は予期せぬ事故により、

 突然この場所へ来てしまったのですから」

 

 慈しみを称えた瞳で、女神さまが鳩山くんを気遣ってくれる。

 

「だが話を聞き、ひとつ分かった事がある」

 

「? なんでしょう? 何かありましたか?」

 

「貴方は……“愛“なのだな?」

 

 ピシリと固まる、女神さまの笑顔。対して鳩山くんは、思った事をそのまま彼女に伝える。

 

「以前、道端で会った男が言っていた。『神は愛です』と」

 

「!?」

 

「ワケの分からん男だったし、意味は分からない。……しかし、貴方は神なのだな?

 ならば貴方は“愛“だという事だ」

 

「!?!?」

 

 真っすぐに女神さまの目を見つめ、グググッっと鳩山くんが身体を寄せる。

 

「――――教えてくれ、“愛“とは何なんだ。

 どこにある? どこに行けば手に入れる事が出来る」

 

「!?!?」

 

 とてもプリミティブ(根源的)な言葉をぶつけられ、女神さまは言葉を失っている。対して彼はもう真剣そのものだ。彼の眼差しが痛い。

 

「神は愛だ、愛は全てだ、愛は素晴らしい……。

 そういった言葉を聞いた憶えがある。

 しかし……俺はいまいちよく分からんのだ。

 ――――なぁ、貴方は愛なんだろう? 愛とは何なんだ? 説明してくれ」

 

「~~ッ!?」

 

 綺麗な……子供のような綺麗な瞳で問いかけてくる目の前の男。対して女神さまはもう困惑する他ない。とてもとても困っちゃうのである。

 

「えっ……あ、その……愛ですか?」

 

「そうだ愛だ。神よ、愛とは何だ」

 

「あのっ……そ、それはとてもじゃありませんが、口で説明する事は……」

 

 哲学、哲学だ。

 異世界転生を提案したら、なぜか愛についての教授を求められたでござる。こんなのはじめて。

 

「出来ない? 出来ないのか? ……そうか、いくら貴方とはいえ、

 容易に言葉で説明できる物ではない、という事か……」

 

「い……いえあのっ! その……ごめんなさい……」

 

 何で謝っているんだ私は――――

 そんな風に思うも、女神さまはもうどうしようもない現状である。

 今ここで、この青年に愛についての講義をすれば良いのか。……いやもちろん彼女は神なのだし出来ない事はないのだが……なんかそれも違うような気がしている。

 

「そうか。ならばどこに行けばいい。どこに行けば愛があるんだ(・・・・・・)

 

「愛がある?!?!」

 

 場所を教えてくれ――――

 鳩山くんは率直に神様に訊ねた。

 

「愛が欲しいんだ。……それが何かは分からん、どんな物かも知らん。

 ……だが俺は今、猛烈に愛というのが欲しい。そう感じているんだ」

 

「……ッ!!」

 

「どこにある? どこに行けばいい? 場所を教えてくれ。取りに行く」

 

「取りに行く?!?!」

 

「あぁ。ここ悩んでいても仕方ない。行動しなければならないんだ、何事も」

 

 何かが……うまいこと言えないのだが、何かが激しく間違っている気がする……。

 女神さまはそんな気がしてならないのだが、ふとその脳裏に閃光のような〈ピシャーン!〉という閃きを感じた。

 

(この青年は……愛を求めている? 愛情という物を知らないの……?)

 

 女神さまは部下の子から「この青年いい感じっすヨ!」と報告書を受け取っただけの感じなので、書類上でしか彼の事を知らない。

 知っている事と言えば、彼がボランティア活動を趣味とする一般的な高校生であり、とても善良で綺麗な魂をした青年、という事くらいだ。

 

 ……しかし、“愛を知らない?“

 この子は今までの人生で、愛という物に触れてこなかった?

 

 漠然とでも、雰囲気でも、「恐らくこれが愛だろう」という物に、今までまったく触れずに生きてきたという事か?! 愛を感じずに今まで生きてきたという事か?!

 

 親からの愛、友からの愛、教師の愛、隣人の愛――――

 人間、生きていれば自然とそういう物を受け、そういう物に触れながら人生を送るはずだ。

 だがこの青年にはそれが分からない(・・・・・・・・)? それを知らない?

 

 女神さまは今、自分の顔からサーッと血の気が引いていくのを、ハッキリと感じた。

 

 

「――――いっ、異世界ですっ!!!!」

 

 

 叫んだ――――もう思わずと言うように、女神様は叫んだ。

 

「――――異世界です! 愛は異世界にありますっ!!

 貴方か歩むこれから人生の中に……きっときっと! “愛“はありますぅ!!」

 

 泣きそうだ。もう目に涙を浮かべながら、女神さまは絶叫する。

 この愛を知らない青年を、目の前の愛すべき青年を、不憫に思う。この上なく哀れに思う。

 

 ――――だがッ、彼の人生はまだ終わってはいない! これから始まるのだ!!

 

 これから彼は異世界転生という形で蘇り、その新しい人生の中で“愛“を見つけていくのだ! 見つけ出していくのだ!!

 沢山の友人に囲まれ、愛すべき人と出会い、幸せを掴むのだ!!

 掴まねばッ! ならないのだッ!!!!

 

 ついにぼろっぼろ泣き出しながら、女神さまは絶叫した――――

 

「そうか! 愛は異世界にあるのだな!」

 

「そうですっ、異世界にありますぅ!」

 

「そこに行けば、愛があるのだな! 愛が何かが分かるのだな!」

 

「ええありますとも! 分かりますとも! ……言葉ではなくっ、心でぇ!!」

 

 もう「うわーん!」と泣きながら、女神さまは彼を抱きしめる。

 こんなにも良い子が、こんなにも真っすぐで純粋な子が、幸せになれないハズがあるものか! そうでしょう?!

 そう鼻水をズビズビしながら、彼女は全世界に向けて問いかけた(神様なのに)

 

 

「――――行って来なさい! 異世界へ!

 必ず愛を手に入れていらっしゃい! 愛を感じていらっしゃい!!」

 

 

「むーん!」とばかりに両手を上げ、女神さまがその力を行使。鳩山くんを異世界へと転送する。

 鳩山くんの身体は世界線を超え、どんぶらことばかりに次元の川を流れていく。

 

「ずびずび、チーン!!

 ……あっ! 彼に特殊技能(スキル)の使い方を説明するのを、忘れていました!」

 

 

 鼻をかみながら、女神さまはとてもとても大事な事を、思い出したのだった。

 

 

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「――――無いな。彼女は嘘をついていない」

 

 

 回想を終え、鳩山くんは腕を組んで「ウムウム」と頷く。

 

「俺の為に泣いてくれた。抱きしめてくれた。彼女が嘘を言うワケが無い」

 

 ヒソヒソと顔を寄せ合いながら、遠巻きで見ている人々。そんな周りの様子も気にせず、鳩山くんはそう決断を下す。

 

「ならば、愛はここにあるハズだ。愛を探そう」

 

 道端の石をひっくり返したり、ゴミ箱のフタを空けてみたりしながら、彼が地道に愛を探す。

 

「駄目だ。この場所はあらかた探し終えてしまった。余所を探そう」

 

 やがて空けたり、どけたり、ひっくり返したりする物が無くなったので、彼は少し歩いてみる事とする。

 落ちているお金を探すかのようにキョロキョロしながら、とりあえずブラブラと町を歩いていく。

 

「……おや?」

 

 すると道の向かいから、幼い子供が二人、テクテクこちらに歩いてくるのが見えた。

 

「おいしい! おいしいね!」

 

「そっか、よかったなマリア」

 

 見た所、この子達は兄妹なのだろう。女の子は嬉しそうにチョコのかかったバナナを食べ、それを男の子が微笑ましく見つめている。

 

「ありがとうおにいちゃん! これとってもおいしい! 買ってくれてありがとう!」

 

「いいんだよマリア。落とさないように、気をつけて食べな」

 

「うん! わかったよおにいちゃん! ……ってあれっ? おにいちゃんの分は?」

 

「あぁ、おにいちゃんはもう、食べちゃったよ♪

 ほらマリア、口のまわり汚れてるぞ? ちょっとこっちにおいで?」

 

「うん! おにいちゃん!」

 

 ハンカチを取り出し、口のまわりを吹いてやる男の子。嬉しそうに目を細めている女の子。

 やがて二人は彼を通り過ぎ、仲良く歩いていった。

 

「ふむ。良い物を見た。美しい光景だ」

 

 その後姿を見送り、彼は「うむうむ」と頷く。

 

「恐らくあの少年は、自分のは買っていない(・・・・・・・・・・)

 少ないこづかいを、妹に菓子を買う為に使ったのだろう」

 

 最初から男の子の方は、手に何も持っていなかった。それを鳩山くんはハッキリ憶えている。

 

「きっとあの少年にとって、妹の笑顔こそが掛け替えのない物なんだろう。

 こづかいより、菓子を食べる事より……」

 

 やがてあの美しい兄妹は、見えなくなるまで遠ざかっていった。

 だがあの子らの幸せそうな姿は、今もしっかり心に刻まれている。とても暖かな気持ちになる。

 

「――――さて、愛はどこにあるのだろう?

 どこに行けば愛はみつかるんだ」

 

 いったいどこだろう? どこにあるんだろう?

 そうブツブツ呟きながら、彼は歩き出していった。

 

「ん? あれは……」

 

 すると今度は、何やら誰かを背負っている様子のコワモテなお兄さんが歩いてくるのが見えた。彼は何かを怒鳴り散らしながら、不機嫌そうな様子で歩いている。

 

「……すいませんじゃ……ありがとうございますじゃ……」

 

「うるせぇジジイ! もしお前が死んじまったら、お前の子供達どうすんだよ!

 嫁さんどうなんだよ! 泣いちまうだろうがッ!!」

 

 おじいさんは涙を流してお礼を言う。そんな彼をお兄さんが背負って歩く。

 

「すいません……本当にすいませんじゃ……ありがとう……ありがとう……」

 

「黙ってろジジイ! オラもうすぐ病院だ! 黙って背負われてやがれ!!」

 

 そんな風に怒鳴りながら、おじいさんを背負ったコワモテお兄さんが歩き去って行く。その後姿を彼は見送る。

 

「ふむ、とても良い物を見た」

 

 再びその場に立ち止まり、ウムウムと頷く。

 

「恐らく彼は、偶然にも道端で倒れ込んでいたご老人を見つけたのだろう。

 見た所、この場には沢山の者がいるようだが……誰もご老人に手を貸さなかった。

 誰もが見て見ぬフリをする中……彼だけが即座に動き、あのご老人を助けたのだ」

 

 怖そうなモヒカンに、いかつい顔……。

 だが彼はこの場にいるどの人間よりも、暖かな人間性を持つ優しい人だったのだ。胸が熱くなる。

 

「――――さて、愛はどこだ?

 こんな所に居ないで、はやく見つけなければ」

 

 

 無い。どこにあるんだチキショウ――――

 

 そう悪態を付きつつ、彼は再び歩き出していった。

 

 

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「Hey! 貴方もしかして、転生して来た人?」

 

 村で一番高い木に登り、そこから手で双眼鏡を作り「愛はどこだ」と探していた時、ふいに下から声を掛けてくる女性の姿があった。

 

「ラッキー! アタシも転生してきたばっかりなの!

 良かったら少し話さない?」

 

 ウェーブのかかったブロンドの長い髪。サイズを間違えたかのようなパツパツのTシャツに包まれたグラマラスな身体。セクシーなハーフパンツ。

 一目みて、彼女がアメリカかどこかの生まれだという事が分かった。

 

「ほら! こんな美人からのお誘いよ? 早く木から降りてきて!

 ハリーハリー! 急いで!」

 

 それに加えて、とても大きな、自分への自信に溢れた声。

 言う者によってはイラッとさせてしまうような口調でも、彼女が言うとどこか愛嬌のある憎めない印象を受ける。

 とても元気でキュートな女の子、といった感じの女性だ。グラマラスな体は子供とは程遠いが。

 

「愛はどこだ」

 

「ホワッツ?」

 

 木から降り、開口一番に彼はクエスチョン。見知らぬ女性に向かって。

 

「いま俺は、愛を探している。ルッキンフォーラブ」

 

「いや……別にイングリッシュじゃなくていいけど……カタコトだし。

 えっとなに? Love?」

 

 至極真面目にコクコクと頷き、彼は意志を伝える。俺は今愛を探している。貴方知りませんかと。

 

「あー……それはラヴっていうお名前の、ワンちゃんではなく?」

 

「違う、俺の犬は実家にいる“わりばし“だけだ。ラヴではない」

 

「ワーオ。なかなかのセンスね貴方。ちなみに犬種は?」

 

「土佐犬。メスだ」

 

「もっとあったでしょうに……。同情するわ、わりばし」

 

 土佐犬と言うからには結構ゴツイんだろうが……なんかポッキリいきそうな名前を付けられてしまったその子の姿を想像しながらも、とりあえず女の子は、今言われた言葉の意味を考えてみる。

 

「……ねぇ? もしかして貴方、口説いてる?」

 

「ん?」

 

「ちょ~っと厳しいんじゃないかな?

 知ってる? ジャパニーズの男は、世界で一番人気がないって。

 とりあえず、アタシ相手に言うのは無謀ね」

 

 女の子は胸を張り、得意げに「フフン♪」と鼻を鳴らす。

 ちなみに世界で一番人気のない女性はアメリカ人女性だというが、そっちは知らなかったようだ。

 

「まぁどうしてもって言うなら、一回くらいデートしてあげてもいいケド。

 よく見ればキュートだし、せっかくこんな異世界で出会えたんだしね♪

 貴方ちゃんとエスコートは出来る? レディファーストの文化は?」

 

「できん。無い」

 

「Oh……」

 

 キッパリと言い切られ、女の子はオーバーなリアクションで額を押さえる。

 

「……仕方ないか。ジャパニーズだもんね貴方。

 でもまぁ、とりあえずバットは振ってみたら? 振らなきゃ当たらないよ?」

 

「知らん。とりあえず人種差別めいた物言いを止めろ」

 

「イヤよ! 人種差別も無しにどうやって自尊心を保つのよ!!

 ふざけないでよ!!」

 

 そこはキレる所なのか――――

 彼は少しだけ狼狽するが、なんか「アメリカ人なんだな~」と関心した。

 

「日本では、信念や勤勉さによって自尊心を保つんでしょう?

 それが我が国においては、人種差別なのよ」

 

「腐れ果てろ。そんな国は」

 

「日本人はオナラや爆破ネタで笑うんでしょう?

 アメリカ人は人種差別で大爆笑よ」

 

「笑うな、止めろ。……もういい、俺は行く」

 

 鳩山くんは話しても無駄だとばかりに、この場から去ろうと歩き出した。

 

「ちょ! ウェイウェイ! プリーズ!

 こんなか弱い女の子をひとり置いてく気?! ブッダに怒られるわよ?!」

 

 この女が愛を知っているワケが無い。そう彼は確信する。この人種差別主義者め。

 

「そんな事ない!! Love! Loveよね? アタシ知ってるから!!」

 

 その瞬間〈グリンッ!!〉と音がするような勢いで鳩山くんが振り向く。その血走った目を見て、ちょっと引いてしまう女の子。

 

「お前知っているのか。どこにあるんだ愛は。教えてくれ」

 

「えっ? ……あ~。……Oh」

 

 こんな見知らぬ異世界で一人にはなりたくないのでとりあえず呼び止めてみたが、口から出まかせいっちゃった事を早速後悔する。

 なんだその血走った目は。その真剣さは。

 

「えっとぉ。う~ん……ここかナ?」

 

「ん?」

 

 そう言って女の子は、自分の豊かな胸の前に、指でハートマークを作った。

 

「愛はアタシの中にあります――――

 もちろん貴方の中にも――――」

 

 額に冷や汗を浮かべつつ、とりあえず女の子はとびっきりの笑顔を作り、ウインクをした。

 

「そういう抽象的なのはいい。“座標“で教えてくれ」

 

「座標?!?!」

 

 もしくは「北に何キロ、東に何キロ」みたいな感じで言え。そう場所を教えろと問い詰める。今から取りに行く気まんまんだ。

 

「そんなトレジャーハントみたいな探し方してるの?! 宝探しじゃないのよ?!」

 

「愛こそ人生の宝だ、という言葉を聞いた事があるぞ? 似たような物ではないのか」

 

「いや、落ちてたり隠してあったりはしないよ?! 物質じゃないからね?!」

 

「それはおかしい。以前俺は『神は愛です』という言葉を聞いた。

 あの女神さまは俺に触れ、抱きしめる事が出来た。神は生物であり物質だ。

 ゆえに神=愛であるのなら、愛も生物や物質である可能性が」

 

「ああもう面倒くさいナ!!」

 

 Fuck Off!! そうとてもネイティブな英語で遮るも、彼の勢いはとどまる事を知らない。

 

「教えてくれ、愛を。お前は知っているんだろう」

 

「えっ。あ……その」

 

「俺に愛を教えてくれ。頼む、このとおりだ」

 

「う……うわ……」

 

 この上ない真剣さでグイグイくる彼に、顔を背けてしまう女の子。

 肩を掴み、ほとんどゼロの距離まで二人の顔が接近し、彼女は思わず顔を赤らめてしまう。

 

「あ……うん。あ~。え~っと……」

 

「どうした? 教えてくれるのか。頼む」

 

「あ~……うん。そ、そこまで言うのなら……まぁ……」

 

「本当か。感謝する。では教えてくれ」

 

「そ……その前に貴方、お名前は?」

 

 顔を真っ赤に染め、なにやらモジモジとし始めた彼女は、何故か彼に名を訊ねる。

 

「こ、こういうのってね? まずはお互いの事を知った上でじゃないと……ね?

 アタシは“AK“。長いからAKで良いわ。……貴方は?」

 

「鳩山だ。鳩山誠一郎という」

 

「……ハト? クルッポーのハト?」

 

「そう、クルッポーの鳩だ」

 

「なら貴方のこと、これから“ポッポ“って呼んでいいかな……?」

 

「構わない。では俺はAKと呼ぼう」

 

「うん……ポッポ」

 

 にこやかに鳩山くん、改めポッポが名前を告げる。その暖かな表情を見て、何故か彼女は更に顔を赤くしてしまった。

 

「えっとねポッポ……? 貴方、“メイクラヴ“は分かる?」

 

「メイクラヴ? ……愛を、作るという事か?

 どうやって製造する。設計図はあるのか」

 

「いやっ……! 製造とかじゃなくて、言い回しなのっ!

 その……“愛を育む“って言うか……」

 

「ん?」

 

 手をこすり合わせモジモジ。肩と腰を揺らしてクネクネ。ついでにお胸もフリフリ揺れている。

 

「えっと、アタシ実は……自信ないって言うか……。

 意外かもしれないけど……まだした事って、ないのね……?

 だから上手に出来るかどうかはちょっと……その……分からないんだけど……」

 

「?」

 

「ポッポがね……? そんなに愛が欲しいって言うんなら、その…………いいよ?」

 

 メイクラヴとは、ぶっちゃけ“エッチ“の事である。

 愛のあるエッチ。愛を育む為のエッチ。それの事だ。

 

「かっ……勘違いはしないでネ?! アタシそんな軽い女じゃ無いよ?!

 ……でもポッポ、すごく真剣だし。ホントに愛が欲しいんだな~って分かるし……。

 それにアタシもね? ポッポと一緒なら、すごく心強い。

 ポッポって一生懸命だし、キュートだし……だからね?」

 

 AKは「ん!」と言わんばかりに、両手を大きく広げる。

 

「――――さぁ! カモンポッポ! 飛び込んできて!!」

 

 目をギュッと瞑りながら、AKはハグ待ちの態勢に入る。

 

「あ! でも最初は私が上になってみても良いかナ?!

 実は前からやってみたかったの! ずっと憧れてたのよ!

 Fu~♪ アタシはテキサスの! 暴れ馬よーーぅ!!」

 

「AK、AK」

 

「……ん? なになにポッポ? 遠慮しなくても良いヨ?

 アタシってけっこう丈夫だし、強めにしてもらってOKよ?」

 

「さっき“愛を育む“と言ったな? 愛とは、育む物なんだな?」

 

「そうよ! さぁパーティを始めましょうポッポ!

 大丈夫! ここは何ひとつない原っぱだけど、アタシそんなのどうでもいいタイプ!

 ここが二人のシーサイドホテルよ!!」

 

「――――なら駄目だAK。無い物は育めん(・・・・・・・)

 

 AKの満面の笑みが今、〈ピシリ!〉と音を立てて固まった。

 

「“子を育む“と言うが、そもそも子が居ない状態では、育てられんだろう。

 俺はまだ愛を持っていない。所持していない。だから育めない。

 そのメイクラヴとやらは、出来ん」

 

「…………」

 

 AKがいま静かに両腕を下ろし、そしてレスリングでいう所のキャッチ・アズ・キャン。いわゆるクラウチングの姿勢をとった。

 

「――――――■■■!! ■■■■ッッ!!!!」

 

「うお゛っ! ……なぜ噛みつく!? なぜ殴る?! 俺は暴力が大っ嫌いだ!!!!」

 

 

 今なにもない原っぱで、二人の壮絶なアルティメットが開幕した。

 ……片方はひたすら防御するのみだが。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「信じられないわ! このED野郎ッ!!

 乙女の決意を何と心得ているの?!」

 

「何の決意か知らんが、もう殴るな。俺だって痛いものは痛い」

 

 スタスタと歩くポッポの背中を、プリプリしながら追いかけるAK。罵声を浴びせながらも彼から離れる気は無いようだ。

 

「脱ぐわヨ?! アタシ脱ぐわよ?! そしてポッポにレイプされたって騒ぐわヨ?!

 アンタ裁判大国USA舐めてるの?!」

 

「脱ぐな。訴えるな。何を怒っているかは知らんが、もう散々殴ったろう。

 それで許してくれ」

 

「あぁもう素晴らしい! ファッキンワンダフルよ貴方!!

 殴ったのが何よ! ……心の傷はね? バンドエイドじゃ決して治らないのよッ!!

 慰謝料だってちゃんと取れるんだから!!」

 

「取るな。訴えるなというに」

 

「だったらアタシとメイクラヴするか慰謝料とられるか、決めてよ!

 火照りに火照ったこの身体を鎮めるか、お金払ってこの憤怒を鎮めるか、

 どっちヨ!」

 

「金は無い。身体は川にでも入って冷やせ。落ち着け」

 

「ファァァァァァック!!!!」

 

 まるでプラトーンのようにひざまづき、天を仰ぐAK。その間にポッポはスタスタと歩いて行ってしまう。

 

「わかった! 貴方モテないでしょう?! How Many Girlfriends?!」

 

「共に行くのは良いが、大声を出すな。愛が逃げたらどうする」

 

「そんな魚みたいに逃げないわよ!! 何よ“愛が逃げる“って! 詩的ね?!」

 

 急いで追いすがって罵倒するも、ポッポはそっけない態度。AKの怒りは増すばかりだ。

 

「ファイヤァァァァ~~~~ッッ!!!!」ゴゴゴゴゴ

 

「おお、アメリカ人ってそうやって怒るのか。初めて見た」

 

 漫画みたいに身体から炎を上げて唸るAK。一目見ただけで「彼女はアングリーだ」と分かる姿だった。とてもわかりやすい。

 

「グッバイ……アタシが得るハズだった幸せ……。またいつの日か……」

 

 やがで炎もシュウシュウと燃え尽き、次第に落ち着きを取り戻すAK。いつまでも怒ってても仕方ない。お腹が減ってしまうのよ。そう自分に言い聞かせる。

 

「ほう、お前は“幸せ“を探しているのか。

 なら愛を探している俺と、良いコンビになれるな」

 

「そうねポッポ……。でも貴方のサーチライトは、アタシを照らしてくれない」

 

 綺麗だったブロンドの髪も、心なしか痛んできてる気がする。彼女の心労が見て取れる姿であった。

 

「女の子の価値は、どれだけ男の子に大事にしてもらえるかだと思ってる……。

 それで言えば、今のアタシって何? 割り箸くらいの価値?」

 

「よく分からんが、割り箸を馬鹿にしているのか?

 俺の愛犬の名は“わりばし“だが」

 

「あぁソーネ! 割り箸だったらキスしてもらえるもんね!

 たとえポイされても、ハグもしてもらえないアタシよりはマシよね!!

 何なら今からでもキスして下さる?! ワタクシを哀れに思うのなら!!」

 

「AK……実は君に訊ねたい事があるのだが」

 

「何よ?! なんでも訊いてよ! ホワッツ? 何だっていうのよッ!!

 下着の色は赤! やってみたいのは騎乗位! スリーサイズは上から96……」

 

「君は今、とても情緒不安定に見える……。

 何か嫌な事でもあったのか? 俺で良ければ話を聞こう」

 

「 ファァァァァァック!!!! 」

 

 再びAKはポッポに掴みかかる。もし彼女が関西人なら「お前やぁぁーー!!」みたいなキレのあるツッコミが聞けた事だろう。残念でならない。

 

「貴方アメリカ人女性の筋力なめてるの?!

 おおよそ日本人男性と同じと言われているのよ?!」

 

「やめろ、噛むな。痛いから噛むなAK」

 

「噛むのが何よ! アタシのハートは今かつてない状態に陥っているのよ!!

 ボロボロ崩れるハッシュドポテトくらい! アタシCry! やかましいのよ!

 騎乗位させなさいよ!!」

 

 猫のように「フゥー!」と髪を逆立てて噛みつくAK。しかし彼らが仲良くUFCの2回戦を行っている時、突然辺りに絹を裂くような叫び声が響いた。

 

 

「――――キャアアアァァーーーーッッ!!!!」

 

「「 !?!? 」」

 

 二人の物ではない、幼い子供の叫び声。それを耳にした途端、即座にポッポの身体が動く。

 

「ちょ……! ポッポ!!」

 

 駆ける――――いま声がした方へ。

 まるで放たれた矢ように飛び出していくポッポの背中を、硬直から立ち直ったAKが慌てて追いかけていく。

 

「ポッポ!? ポッポ?!?! 嫌ァァーーーーーッッ!!」

 

 一足遅れ、ようやく追いついた彼女が見たのは、狼のような生き物に喰いちぎられんばかりに腕を噛まれている、ポッポの姿だった。

 狼狽え、叫び声をあげるAK。されどいつまでもそのままでいる彼女では無い。彼女も選ばれし転生者なのだ。

 

「ポッポ! 動かないで!! そいつを仕留める!!」

 

 喰い付いたまま腕を振り回され、まるでスプリンクラーのように飛び散る血潮。しかし彼は動く事は無く、ドッシリと足を地面に着けてその場に踏み止まっている。しかし……。

 

「――――撃つな! 殺すなッ!!」

 

「?!?!」

 

 女神より賜りし、転生者である彼女だけが扱える神具の銃。美しい紋様が刻まれしマスケット銃。それを構え狼を撃ち抜こうとしたAKを、何故かポッポの声が止めた。

 

「撃つんじゃない! お前は後ろを守れッ!!」

 

「ポッポ?! ……貴方なにを言って……!」

 

 目を見開いて驚愕してしまうも、ふと彼女が見た視線の先。そこには身を寄せ合って地面に伏している、幼い兄妹の姿があった。

 彼女は知る由もないが、それは数時間ほど前、ポッポが街で見かけていたあの子供たちであった。

 恐怖に顔を凍り付かせつつも、おにいちゃんの男の子が必死で妹を守るように抱きかかえているのが分かった。

 

「子供……? 今はそういう状況じゃない! 何で撃たせないの?!

 アタシがちゃんと仕留める!! それで子供も守れる! そうしないと貴方が……!!」

 

「駄目だッ、撃つな!!!!」

 

 万力のようなアゴに喰い付かれ、ここまでポッポの腕の骨が軋む音が聞こえる。それでもポッポはAKを制止する。決して討たせようとしない。

 

「――――帰れ! 狼よ!! あの子らの為に帰れ!!」

 

 自らの腕に喰い付き、今まさにへし折らんとしている眼前の狼。その物言わぬ獣に向かい、ポッポが語りかけている。

 

「――――喰いたければ食え!! だが今すぐこの場を立ち去るんだ!!

 あの子らの為にッ!!」

 

 目を見開き、この上ない真剣さを持ってポッポが語り掛ける。振り絞るような声で。

 AKには彼が何を言っているのかが分からない。今まさに大量の血を失い、そして腕さえも失おうとしているというのに。

 ……しかし、彼女がふいにポッポが見つめている方向へと、なにげなく視線を移してみた時……ようやくその答えを知る事が出来た。

 ――――子供、幼い2匹の狼。

 恐らくは今眼前にいる狼の物であろうその子らが、無垢な瞳で、親狼の姿をじっと見守っていた。

 

 

「 死ぬぞ!! この場にいれば、必ず人間がお前を殺す!!

  ――――帰れッ! 狼の母親よ!! あの子らのもとに帰れッ!!!! 」

 

 

 射抜くように目を見据え、狼に語り掛けるポッポ。銃を下ろしたままのAKは、そんな彼の姿を見ている事しか出来ない。……一歩も動く事が、出来なかったのだ。

 

「――――」

 

 静かな、静かな睨み合いが続いた――――

 獣の母親と、何も持たない脆弱な人間の睨み合い。

 だがその時間にも、いつしか終わりが訪れる。狼の母親が一度とても小さくグルルと喉を鳴らした後……ゆっくりゆっくり、そのアゴから力を抜いていく。

 

「――――」

 

 男の腕が解放される。悪夢のような痛みを与えたであろう、凶悪な牙から。

 やがて親狼は静かに男の目を見つめた後……静かに踵を返し、自らの子らが居る方へと歩き去って行く。

 その姿を、AKは何も言えぬまま……ただただ見守る。

 

「……ぽ、ポッポ?!?!」

 

 狼の親子の姿が、完全に視界から消えた頃……。

 AKと兄妹の子らがいるこの場に、突然ドサリという、人が倒れ込む音が響いた。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「どう? 意外かなアタシの特殊技能(スキル)?」

 

 AKが放つ聖なる光が、ゆっくりとポッポの腕を癒していく。

 

「癒しのスキルなんてガラじゃないかもしれないケド……、

 でもアタシの貰ったのが、この力で良かった……。ポッポを治せた」

 

 やがてポッポの腕が完全に元通りとなり、彼が具合を確かめるようにしてグッパーと手を動かす。

 

「……凄いな、完全に治っている。もう何の痛みも無い」

 

「そりゃそうよ! なんたって“アタシ“が授かったパワーだもの!

 まぁホント言うと、炎を出したり雷落としたりしたかったんだケド……」

 

 得意げな笑顔のAK。改めて彼女と向き直り、ポッポは心からの笑顔で感謝を告げる。

 

「――――ありがとうAK。君が居てくれて良かった」

 

「ッ!!」

 

 ポンッ! と火の出るような勢いで、彼女の顔が真っ赤に染まる。……これは彼女が望んでいたという炎とは、大分違う物なのだろうが。

 

「しかしながら、凄い力だな。神々しさすら感じる光だった。

 もしかして……お前は神なのか? だとするとお前は“愛“だという論法が」

 

「神じゃないヨ?! これはあの女神さまに貰った力!!

 もちろんLoveでも無いからねアタシ?!」

 

「しかし君は先ほど『愛はアタシの中に』とかいう、ワケの分からん事を……」

 

「あぁ! あった! あったのよアタシの中にッ!!!!

 貴方に踏みにじられてブレイクしたけどねっ!! 慰謝料を頂ける?!」

 

 怒りの炎はそう易々と消えはしない。これは生涯、AKの胸の中でくすぶり続ける物なのだ。彼女は恨みを忘れない。特に乙女心の恨みは。

 

「それにしても……何故貴方はあんな事を?

 貴方は日本人だし、無神論者でしょう? 何故あんなキリストじみた行為を?

 ……ってキリスト教じゃ、動物殺しちゃっても別に問題無いけど」

 

 キリスト教の教えはともかく……、先ほどのポッポの行為は、AKには常軌を逸しているとしか思えない物だ。

 ポッポはあの幼い兄妹を助けた。しかしそれだけならともかく、自らの身を投げ捨てるようなマネをしてまで、あの狼の親子すら救おうとしていたのだ。

 理屈から言えば、それはポッポじゃなければ、最悪の結果に繋がる行為だったハズだ。

 ただ、ポッポが死んでおしまい――――

 それだけで終わっていた可能性だって十二分にあったハズなのだ。

 ハッキリ言ってしまえば、あれは“馬鹿のする事“なのだ。

 

「――――子は、世界の“宝“だ」

 

 そう疑問符を投げるAKに対し、ポッポは真っすぐに目を見据え、一点の曇りも無く言ってのける。

 

「異世界だろうと関係無い、宝だよ。

 守らねばならん。何に代えても――――俺が思っていたのは、それだけだ」

 

 彼は力強く言い切る。だがその言葉の後、何故か彼は、申し訳なさそうに俯いた。

 

「……だが、あれは結果として上手くいっただけで、

 もしAKが居なければ、その時点で全て駄目だっただろう。

 あの時は“もし俺が倒れてもAKが居る“から、狼に身を差し出す事が出来た。

 ……だがもしAKが居なければ、俺は死に、あの兄妹を危険に晒していた。

 とてもあんな方法は取れない」

 

「ポッポ……」

 

「だから、ありがとうAK。お前があの子らを救ったんだ。

 君が居てくれて、良かった――――」

 

 今度は〈ボンッ!!〉と爆発するような勢いで、AKの顔が真っ赤に染まる。

 心臓が止まるかと思った……。彼の笑顔を見た瞬間ドクンと心臓が波打ち、AKはその場で小さくジャンプした。キュン性ショック死するかと思った。

 

「故郷の友人達が言うには……どうやら俺は無茶をしがちらしい。

 すぐに突っ走っていく、と言われた事がある。

 だが、子は守らねばならん。何に代えても。

 君には……この先も迷惑を掛けてしまうやもしれん……だが……」

 

 彼らしからぬ、とても言いにくそうな申し訳なさそうな声色。そんな怒られるのを恐れる子供のような姿で、彼がAKを見つめている。

 

(……そうか、彼は愛を知らないんじゃない。“愛が分からない“んだ)

 

 突然、ストンと心に落ちたように、AKは気付く。

 

(――――彼が“愛“だから。

 彼の心は愛で出来ていて、自分ではそれに気付く事が出来ない。

 自分では、自分の事は見えないから)

 

 未だモジモジと俯き加減で、コソコソとAKの顔を伺うポッポ。その自信なさげな情けない顔が、彼女にはこの上なく愛おしい物に映った。

 

 

(彼は愛を、特別な物だと思っている。

 生涯を懸けて探すような……。何か自分には届かない、特別な物のような……。

 でも、あるのに。貴方が愛そのものなのに(・・・・・・・・・・・)

 ……だから分からない。貴方には愛が分からない。

 それは貴方にとって特別じゃなく、ただ当たり前に“ある“ものだから――――)

 

 

「君に……居て欲しい。

 俺は馬鹿だが、力になれるよう努力する。悪い所も言ってくれ。

 そしていつか、君の事も守れるように――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて二人は立ち上がり、肩を寄せ合い、共に歩き出す。

 

 町へ。そこにあるギルドへ。

 これから二人で、冒険を始める為に。

 

 

 

「――――ポッポ、愛を探しましょう。

 アタシはそれに付き合いながら、“幸せ“を探す。

 上手くいけば、貴方の分も見つけてあげられるかもしれないわ」

 

 

 今二人が肩を並べ、活気賑わうギルドの扉を開いた。

 

 

 

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