『……乗れっ! 早くっ!!』
ただいま第三新東京市には、例によって使徒が進行中だ。
戦闘中、この区域にトウジ達が取り残されている事を発見したシンジ君。ロボットのハッチを開き、中に入って来るよう彼らに促した。
「……その声は、碇か!?」
「センセ! センセがそのロボットに乗っとるんか!?」
『そうだよケンスケ! トウジ! 早くこの中に入って来てよ!!』
今回の使徒であるシャムシエル。イカみたいな外見が大変キュートなヤツである。その武装である鞭のような触手にゲッションゲッションやられながらも、現在シンジは必死にスピーカーから呼びかけている。
「……でもさ、碇? ……そのロボットってまさか“アフロダイA“じゃないか?
なんでそんなロボットに乗ってるんだよお前!!」
アフロダイAは、アニメ“マジンガーZ“に登場する元祖女性型ロボットである。曲線美が美しい。
ちなみにパイロットは当作品のヒロインである“弓さやか“さん。キュートな女の子である。
「そうやぞセンセ! ケンスケの言う通りや!!
なんでそんなエロいロボットに乗っとるんや!!」
『仕方ないじゃないかぁ! これに乗れって言われたんだからぁーっ!!
そんな事より、早く中に入って来てよっ!!』
もう今コックピットの中は、使徒からの攻撃の振動でエライ事になっている。ひたすらゲッションゲッションやられながらも、なんとか耐えているという状況だ。
「い……嫌じゃボケッ! 日本男児が、女型ロボットなんぞに乗れるかぁ!!」
『 !?!? 』
「そうだよ碇! ……お前、恥ずかしくないのかよ!!
なんでアフロダイAなんかに乗ってるんだよ! 変態じゃないか!!」
『 !?!?!? 』
現在まごう事なく生命の危機に晒されていながら、その状況下でもブーイングを送るトウジ達。
断固拒否! それは男の子のプライドを賭けた、清々しいまでの拒否であった。
『 ぼくだって……! ぼくだって乗りたくて乗っているワケじゃないっ!! 』
ここで奇しくも、原作と同じようなセリフを言うシンジ君。
絶叫に近いその言い方と、言っている状況こそ大分と違うだろうが。
……………………
………………………………………………
「――――シンジ君。貴方の為に私はアフロダイAを作ったわ。乗りなさい」
「なんでだよ! なんで作っちゃうんだよリツコさん!!」
ここへやって来る少し前、ネルフの格納庫でそれはもう大喧嘩したシンジとリツコさん。
「シンジ君! 現在この第三新東京市に使徒が進行中よ!! 急いで準備して!!」
「ミサトさんはちょっと黙っててよ!
ぼくは今リツコさんにプリプリと怒っているんだよ!!」
もう勘弁ならんと、シンジ君の怒りが天地に木霊する。なんでエヴァを作らないのかこの大人達は。何で永井豪に走ったのか。何故に女性型ロボなのか。
「大体いつもリツコさんは! …………って、どこ行くのさリツコさん!!
ちょっとちょっとちょっと!!」
スーっとタバコを吹かしながら、プイっと顔を背けたリツコさんがこの場から歩き去っていく。清々しいまでのガン無視だ。子供か。
「ごめんなさいねぇ~シンジ君……。リツコったら前回シンジ君にガンタンクを
馬鹿にされたモンだから……ちょっち、すねちゃってるのよ♪」
「 それでぼくにアフロダイAを!? 嫌がらせじゃないかそんなの!!!! 」
地球の平和をなんだと思ってるんだ。もうシンジ君の血管は切れてしまいそうだった。
「許してやってくれないかシンジ。それに今回アフロダイAという
女性型ロボットを作ったのには、少し考えあっての事なのだ。
……冬月せんせい、説明を」
「うむ。任せておけ、碇よ」
ムキーっとばかりに地団駄を踏んでいたシンジ君の前に、元大学教授の経歴を持つ冬月先生が現れる。彼はここネルフで唯一と言っていい、シンジが“信頼する大人“だ。
「使徒は強力な心の壁……、ATフィールドを持つ存在……。
しかしシンジ君、アフロダイAは“女性型“だ。
ゆえにもし使徒が“オス“であれば、必ずやアフロダイAに心を開いてくれる」
『 バカじゃないの大人!! ほんとバカじゃないの!!!! 』
生まれて初めてシンジ君は「ガッデム!!」という言葉を使ってみた。
「シンちゃん……大丈夫よ? お母さん達がんばってアフロダイAを作ったんだから。
ほら見て? この曲線美。プリッとしたおしり。
お母さん達こだわったんだから♪」
「母さんはせめてしっかりしててよ!!
味方がいないんだよ! このネルフには!! 心が壊れてしまいそうだよ!!」
優しくほがらかな笑顔で「うふふ♪」とばかりに説得してくるユイさん。どれだけママに叫んでも、3分の1も伝わりゃしない。純情な感情は空でグルングルンしていた。
その後はレイちゃんが例の如く「わたしも碇くんと一緒に乗る。碇くんといっしょ」とばかりに駄々をこねたが、シンジは必死になってそれを拒否する。
……このロボットに綾波が乗る所を見たくない。絶対に乗せたくない。
特にアフロダイAの唯一の武装である“あの攻撃“……。あれを綾波に使わせる事だけは、ぜったいに避けたかったのだ。
これはシンジ君の“男の子の矜持“。幼馴染としての意地である。
なんだかんだとギャーギャー騒ぎながらも、最終的にマコトやマヤといったオペレーター三人組に神輿のようにワッショイと担がれ、アフロダイAに乗り込み戦場に向かう事になるシンジ君。
「バカなんじゃないの!! みんなバカなんじゃないの!!」
もうありったけの罵詈雑言を並べてやりたかったが、悪口の言葉なんてシンジ君は知らない。
プリプリと怒るシンジ君のそれは大人達から見て非常に可愛らしく、また微笑ましい物でしか無かった。
………………………
………………………………………………
「鈴原っ! 今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「そうやでおにぃちゃん! シンジさん乗れ言うてはるもん!」
嫌だ嫌だとごねる男二人を、委員長であるヒカリとサクラちゃんが説得する。
ちなみにこのサクラちゃんはトウジの大切な妹さんで、前回の使徒襲来時にも怪我をする事もなく、元気いっぱいな姿を見せている。
この女の子達を含めたトウジ達4人は、渋々ながらイソイソとアフロダイAへと乗り込んでいった。
「なんやセンセ! ピンク色のプラグスーツやないかお前!!」
「仕方ないじゃないかぁ! これしか用意してくれなかったんだからぁー!!」
『――――シンジ君。とてもお似合いの姿ね』
「 アンタ後でおぼえてなよ!! いつの間に帰って来たのさリツコさん!? 」
コックピット内でギュウギュウになりながら、第四使徒シャムシエルに必死で応戦するシンジ君。
『今よシンジ君! リツコと仲直りをするチャンスかもしれないわ!!』
「そんな場合じゃないんだよミサトさん! ぼくもう一杯いっぱいなんだよ!!」
うっとうしい程にテンションを上げて提案してくるミサトさん。ちなみに今リツコさんは、プイッと顔を背けながらデスクでタバコを吹かしている。
『ほら! ここでちゃんと“ごめんなさい“すれば、次回からちゃんとした
ロボットを作ってくれるかもしれないわ!!』
「……えっ!?」
『勇気を出してシンジ君! 貴方なら出来る!
行きなさいシンジ君! 誰かの為じゃなく、貴方自身の為に!!』
いつかどこかで聞いたようなセリフを言いながら、必死で説得をするミサトさん。その熱意と次回からの戦闘の為に、シャムシエルとのすったもんだをしながらも、シンジがリツコに語り掛ける。
「……あの……リツコさん」
『……………………』
無線からは何も聞こえず、しかしリツコがこちらの声に耳を傾けてくれているが分かった。
「……ぼく、リツコさんに言い過ぎてしまいました。
がんばってロボットを作ったリツコさんの気持ち……、考えてなかったです」
『……………………』
静かな声色、しかし出来る限りの誠意を持って。
シンジ君が今、リツコの心に語り掛ける。まごころを君に。
「……ごめんなさい、リツコさん。ぼくと仲直りしてくれますか……?」
………………………………………………
『――――次回は“ボスボロット“よ、シンジ君』
「 大人になりなよリツコさんッ!! 地球が滅びちゃうよッ!! 」
拗らせてしまっている悲しい大人には、誠意など通用しなかった。
ちなみにボスボロットはマジンガーZに登場する、廃材とか古タイヤで作ったようなロボットだ。
『嫌よ、私は大人になんかならないわ。
――――だってもう作ってしまったもの、ボスボロット』
「バーカ! バーカ!! リツコさんのバーカ!!」
重ねて言うが、プリプリと怒るシンジ君はとても可愛い。
ネルフの大人達が今『ほっこり♪』としているのを見たら、彼はどう思うのだろうか?
関係ない話だが、この戦闘から帰還したシンジ君はいの一番に格納庫へと向かい、そしてボスボロットを破壊した。
「大人は頼りにならないよ! ぼくががんばらなきゃ!!」
もう全てのしがらみを振り切って、あるいは考えないようにして、シンジ君は戦う。
『ねぇシンジ君、シャムシエルなんかモジモジしてる気がしない?
あの子やっぱりオスだったんじゃない?』
「気のせいだよミサトさん! もう黙っててよ!!」
『……これは、……今後アフロダイAを量産する計画を……』
「 エヴァに乗せてよ! ぼくはエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!! 」
アフロダイAの怒りのパンチが、シャムシエルの身体に炸裂する。本当はネルフ本部にでも叩き込みたい心境なのだが。シンジ君はいい子なのでそんな事出来ない。
『今よシンジ君! あの武装を使うのよ!!』
「……武装って!? あの光子力ミサイルの事ですか!?」
アフロダイAに装備された唯一の武装である“光子力ミサイル“。
今こそそれを叩きこめ! 今がその時なのだ!
態勢を崩したシェムシエルに向かい、シンジ君が裂帛の気合でレバーを前に入れる。
「光子力ッ、ミサーーイル!! ………………って、あれ?
出ないよ光子力ミサイル! なんで!? 出ないっ!!」
チャンスとばかりにレバーを入れるも、何度グイグイしてもミサイルが発動しない。
『 駄目よシンジ君! ちゃんと“おっぱいミサイル“って言いなさい!!!! 』
「 !?!? 」
『 おっぱいミサイルって言いなさいシンジ君! ちゃんと言いなさい!! 』
光子力ミサイル。それはアフロダイAの胸部から発射される、当時ひじょ~に革新的だったミサイル兵器である。
その通称を“おっぱいミサイル“。むしろだれも光子力ミサイルなんて呼ばずに、おっぱいミサイルと言っているのだ!
『シンジ君。“おっぱいミサイル“って言いながらじゃないとレバーは反応しないわ。
――――私がそう作ったもの』
「なんて事するんだリツコさん!! そんなにぼくが憎いのか!!」
14才の多感な少年に、人前で“おっぱい“と言わせる。それはもう人権の蹂躙に等しかった。
『言いなさいシンジ君! おっぱいミサイルって!
みんな楽しみにしているのよ!!』
((( わくわくっ! )))
「みんなもうクレイジーだよ! おかしいよ!!」
シンジきゅんの可愛いお声で「おっぱいミサーイル!!」って言わせたい……。その想いだけでネルフは一丸となり、アフロダイAを制作したのだ!!
「……えっと、シンジ? 恥ずかしいなら俺が言おうか? 地球の平和の為だし」
コックピットに同乗していたケンスケが、シンジに同情してそう言ってくれるも……
『 アンタが言ってどうすんのよ!!!! 誰なのよアンタ!! 』
『 そうだよお前! なんだよ出ていけよ!! 』
ネルフ職員一同による、まさかの大ブーイング。この大人達は可愛いシンジ君を辱める事に、命を賭けているのだ!
シンジきゅんがモジモジ恥じらいながら、可愛いお声で“おっぱいミサイル“と叫ぶ……。そんな姿を見たいが為に、徹夜でアフロダイAを作ってきたのだ!!
もう地球の平和とかは、どうでもよくなっていた。寝不足で頭が茹っていた。
『――貫いてシンジ君! あのATフィールドを、貴方のおっぱいミサイルでッ!!』
「 みんなもう死んじゃえばいいんだ! いっそ死んじゃえば!! 」
――――貫ける。おっぱいミサイルであれば、ATフィールドを貫ける。
そんな何の根拠もない自信が、ネルフ職員全員の心にあった。
だってオスだもの! 貫けるさ!!
おっぱいミサイルなら心の壁だって貫ける!! だっておっぱいだもの!!
「 …………おっ、おっぱーい! ミサイーーールッ!! 」
やがて全ネルフ職員の『fuuu~~♪♪♪』という歓声と共に、シンジの放つ光子力ミサイルが第四使徒シャムシエルに炸裂していった。
「いたいいたい」という仕草をし、この場から逃げ去っていくシャムシエル。地球の平和を守りたいという少年の意志が、強大な敵に打ち勝ったのだ!
「……え~っと、大丈夫? 碇くん……?」
「大丈夫ですシンジさん? あの……ウチらぜんぜん、気にしてへんですから……」
「…………」
――――貫けた。本当に貫けた。
シンジの放つ渾身のおっぱいミサイルは、確かに心の壁“ATフィールド“を貫いてみせたのだ!!
科学の勝利! 偉大なる前進だ!! …………やっぱりオスだったのかアイツは!!
とにもかくにもヒカリとサクラちゃんは、未だ座席にうずくまってメソメソと泣いているシンジ君を慰めてやる。
漢だったぜ、碇! あぁ、よぅやったでセンセ! ……そんなケンスケとトウジの声も、今は遠く聞こえる。
「 ……エヴァ作ってよ! 誕生日でもクリスマスでもいいから、エヴァをちょうだいよ!! 」
ゲームも、自転車も、サッカーボールもいらない――
エヴァ作ってくれ。ぼくをエヴァンゲリオンに乗せてくれ――
そんな少年の心の叫びであったが、ネルフ職員達はさっきバッチリ録音していた「おっぱいミサイール!」の音声をリピート再生していたので、誰も聞いちゃいなかった。
翌日レイが友人達と共に、なんか「……おっぱいミサイ~ル」と言ってアフロダイAごっこをしていたので、それを必死こいて止めるシンジ君だった。