ドラゴンクエストⅣ、第二章「おてんば姫の冒険」二次小説。
「いっかぁーーん! 冒険の旅に出たいなど、許さぁぁーーん!」
玉座の間に、アリーナ姫の実父たる王様の声が木霊する。
「お前はこのサントハイム国の姫なのだぞ!?
だというのに、武者修行の旅に出るなどと、許さぁぁ~~ん!」
ムキーとばかりに癇癪を起し、王様は杖をブンブン振り回す。いま目の前に立つ自らの娘に「断固反対!」の固い意志を告げた。
「そんなこと言わないでお父さま!
わたし世界中を旅して、自分の力を試したいの!」
しかしサントハイム国の姫アリーナも、負けじと王様に喰らい付く。
手を大きく広げ、必死に自分の気持ちを伝えようと奮闘する。
「きっと素晴らしい旅になるわ!
強大な敵、まだ見ぬライバル、そして心が躍るような大冒険!
考えただけでもワクワクしてきちゃう!」
胸元でギュッと手を握り、アリーナはまだ見ぬ冒険の旅に「は~ん♡」と想いを馳せる。
彼女の足元には、沢山の荷物が入った大きな鞄がある。もう今すぐにでも出発する気まんまんだ。
「ならぬ! ならぬと言うておろう!
そもそもお主、旅などに出ていったいどうするつもりじゃ!」
「えっ? そりゃあ冒険をするのよ。
洞窟を探検したり、困ってる人達を助けたり、モンスターと戦ったりするのよ!」
「なにを言うておる! お主にそんな事が出来るワケなかろう!」
さっきまでプンプン癇癪を起こしていた王様が、今は何故かオロオロと狼狽えているように見える。
「ひどい! なんでそんなこと言うのお父さま! わたし精一杯がんばるわ!」
「だから出来んと言うておろうがっ!!
お主、自分が
そう大きな声で説得しながら、王は眼前にいるアリーナ姫の姿を見る。
グルグル包帯を巻いた頭、ギブスの付いた腕、顔色の悪い表情。オマケに今アリーナは、カラカラと点滴のヤツを引きながら必死に声を上げているのだ。「旅に出たい」と。
「なんでじゃ! なんで旅になど出ようと言うのじゃ!? その虚弱体質でっ!!
お主、昨日も中庭でブッ倒れておったではないか!
たった3分間外を歩いただけで! 貧血で!」
そう、我らがサントハイム王国のお姫様は、もうビックリするくらいの虚弱体質であった。
階段を昇るだけでゼーハー息切れし、3日に一度は貧血で倒れる。フォークとナイフより重たい物を持った事も無い。
かけっこをすれば、鬼を捕まえるまでに倒れてしまうし、かくれんぼをすれば、鬼に見つかる前に貧血で倒れている。
そんなとても"身体の弱い"お姫様なのであった。
「違うのよお父さま! あれはちょっと帽子を被るのを忘れてただけなの!
ちゃんと帽子を被ってゆっくりと歩けば、いつも5分くらいは大丈夫なの!」
「5分では無理じゃ! 5分でいったい何が出来ると言うんじゃ!
世界はとんでもなく広いんじゃぞ?!」
「世界を見てみたいの! もうこんなお城の中で過ごすのはイヤ!
まだ見ぬ強敵達と、拳で語り合いたいの!」
「無理じゃと言うておろうが! そこらの子犬とでも遊んでおけ! 産まれたての!
この間もお主、トレーニングだと言うてクッションを殴り、
それ一発で骨折したではないか!」
アリーナの右腕のギブスは、先日そういう経緯があって装着された。診察したクリフトによれば、もう絵にかいたような複雑骨折であったという。
「大丈夫! 確かにわたしの骨はすぐ折れちゃうけど、
一度折れた個所は前より強くなるって言うでしょう?
だからこうしてバンバン骨折していけば、
いつかは全身の骨がダイヤモンドみたいになるハズよ!」
「どんな計画じゃソレ! ワシそんなダイヤモンドプリンセス見た事ないわ!
大人しく城の中におれ!」
「イヤよ! アリーナは旅に出ます!
前にお父様も『強い意志さえあればどんな事でも成せる』って言ってたじゃない!
お父様のうそつき!」
「限度がある! 限度があるんじゃよ!
いくら鋼のような意志があろうと、その割り箸みたいな身体では無理なんじゃ!
お願いじゃからサントハイムで暮らそう! この父と共に!!」
もう泣きそうになりながら懇願し、なんとかアリーナを諫めようとする王様。それでもアリーナ姫の意志は固く、決して首を縦には振ってくれない。何その意志の固さ。
「これブライ! ブライ! ちょっとこっちに来んか!」
「ははっ……! こちらにっ!」
「お主、いったいアリーナにどういう教育をしとるんじゃ!
なんでワシの娘、こんな風になってしもうとるんじゃ!」
「も、申し訳ございませぬぅ~! 王よ~っ!」
魔法使い兼、姫の教育係であるブライは、王様の前で「はは~っ!」と頭を垂れる。
「無理じゃろう! 無理に決まっとろうが!!
なんでワシの娘、武者修行なんぞに想いを馳せとるんじゃ!」
「申し訳ございませぬ王よ! わたくしも言っては聴かせておるのですが……、
姫はどうしてもと言って、聞く耳を持ってくれず……」
「そこをなんとかするのがお主の役目じゃろうが!
サントハイムの賢者と名高き、お主ともあろう者が! 一体どうなっとるんじゃ!」
「しかし……! しかしながらわたくしっ!
もうアリーナ姫が可愛いて可愛いて! 仕方ないので御座いますっ!
お身体が弱いにも関わらず、こんなにも素直で真っ直ぐな子にお育ちになって……!
わたくしはもう、嬉しゅうてかなわんのですっ……!」
「ありがとう! ありがとうブライ! 娘を愛してくれてっ!!
こんなにも愛の深い従者に恵まれ、余は幸せ者じゃ!!
……でももうちょっと何とかならんかったのか?! もうちょっとだけでも!」
「いつも目をキラキラさせながら語るアリーナ様の夢を……、
このブライ、なぜに奪えましょうや?!
もういっその事、このまま褒めて伸ばす方針に御座いますれば!
なにとぞ! なにとぞ!」
「アカン! 伸ばしたらアカンのじゃブライ!
そのせいでもう、ワシの娘がえらい事になってしもうとるんじゃ!
旅立とうとしとるじゃろうが! こんなポッキーみたいな身体で!」
「愛ゆえに! 愛すればこそに御座いまする!
あぁアリーナ姫よ、健やかにあれ!!
願わくばこの生い先短い命……すべてアリーナ姫に捧げたく思うものを!」
「そういうの止めんか! 重い! 重いんじゃ!
お主はお主で長生きせんか! みんな頼りにしとるんじゃいつも!」
「――――お父さま! ブライを叱らないで!
ブライはわたしにとても良くしてくれているわ!」
「二対一は卑怯じゃろうが! お父さん立つ瀬がないじゃろうが!
……わかった! もうブライは叱らん! 怒ったりはせん!
じゃからサントハイムで暮らそうマイガール! お願いじゃからっ!!」
もう「オーマイガッ!」とばかりに頭を抱えるサントハイム王。その悲痛な顔が彼の心労を物語っている。血管も切れそうだ。
「おいクリフト! お主もどうなっとるんじゃ!
お主からも何とか言うてやらんか!」
「――――はっ。御意」
王様の呼びかけに、ヌボォ~っとこの場に現れるクリフト。彼はこの国の神官であり、アリーナ姫とは兄弟のようにして過ごして来た幼馴染でもある。
「関係ないけど、お主も一体どうなっとるんじゃ!
前はそんな姿と違うかったであろうが!」
「――――はっ。申し訳御座らん、王よ」
「なんでそんな
なにがお主をそうさせたんじゃ!」
上半身裸に、例の長い帽子を被った姿。そしてその丸太のようにぶっとい右腕には、余所の国から取り寄せたモーニングスターという凶悪な武器が握られている。
堀の深い顔。鋭い眼光。2メートルはあろうかという巨体。鋼のように隆起した筋肉。
それが現在のクリフトの姿である。
「なんじゃその筋肉! なんじゃその眼光! 堀の深さ!
お主のその『北斗神拳を継承しました』みたいな肉体、いったい何なんじゃ!」
「――――お褒めに預かり、恐悦至極」
「褒めとらん! 褒めとらんのじゃクリフトッ!
……怖いんじゃ! 城の者達もみんな怖がっとるんじゃ!
なんでそんな風になってしもうたんじゃ! あのヒョロかったお主がっ!!」
「……恐れながら、王よ。
クリフトめは先日まで、『姫をお守りする為の肉体を手に入れる』と言うて、
有休をとり武者修行の旅に出ておったので御座いますじゃ」
「それで!? それでこの筋肉を!? ……この短期間で?!
お主もどんだけアリーナを愛してくれとるんじゃ! ありがとうクリフト!
……でもそんな風にならんでもええじゃろうに!! もう別人ではないか!!」
「――――殺したい。生物を捻り殺したい」
「どうしたんじゃクリフトッ!? どうしたんじゃいきなり!?
お主……修行のし過ぎで、もう精神おかしくなっとるじゃないか!!」
「――――トロルの腕を引き千切りたい。ドラゴンの首をへし折りたい」
「そんな事したらいかんッ! 神官がそんな事したらいかんッ!!
やめんか!!」
「――――お言葉ですが、王。
神の愛は我ら人間にのみ向けられており申す。獣畜生はその限りに御座らぬ」
「 戻ってこい!! 戻ってこいクリフトッ!! あの優しかったお前にッッ!!!! 」
「わぁ~すごい筋肉ねクリフト! 丸太のような腕だわ!
ちょっとぶら下がってみても良いかしら? そーれブラ~ン♪
…………あっ、肩が脱臼しちゃった……」
「 お主も何をしとるんじゃアリーナッッ!!
衛生兵ッ! 衛生兵をここへッ!! アリーナがまた負傷しおったぞぉぉーー!! 」
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その後、サントハイムの姫アリーナは、無事城からの脱出に成功する。
「よ~しクリフト! この壁を蹴り破ってちょうだい!」
「御意――――墳ッッ!!!!」ドッゴォォォォン
城を抜け出し、5回くらいスライムやいたずらネズミに殺されたりしながらも、なんとかアリーナは隣町までたどり着き、姫様一行の冒険の旅は幕を開ける。
「ザオリク、ザオリク、ベホマ。スクルト、ザラキ」
「マヒャド、マヒャド、マヒャド、マヒャド……」
「すごいわクリフト! ブライ! もうそんな大魔法を!」
従者二人の献身的な活躍もあり、一行は順調に旅を進めていく。
「見て見て! 出来たわ! 腕立て伏せが出来たの!」
「なんと! ついに姫様も、腕立て伏せを一回出来るようになられましたかっ!
このブライ……感服致しましたじゃ!」
旅の中、アリーナは次第にレベルを上げていき、どんどんその身体を健康へと近づけていく。
『武道会一回戦の相手は、ハン選手です!
さぁアリーナ選手、見事勝利する事が出来るのかぁ~?!』
「――――ふっ!」(吹き矢)
『おお~~っと! どうした事かハン選手! 突然倒れ伏してしまったぁ~~!
アリーナ選手、一回戦突破ですッ!!』
エンドールにおいての武道会でも、アリーナは破竹の勢いで勝ち進んでいく。
「さて……次は俺の出番か。アリーナとか言う小娘が勝ち進んだらしいが」
「――――失礼、貴公がピサロ殿に相違無いな?」
「ぬっ!? ……なんだ貴様ッ! その山のように隆起した筋肉はッ!!」
「――――御免ッ」(首の後ろをトスッ)
「う゛っ……! …………がっくり……」
何故か決勝の相手であるピサロ選手が、控室から突然姿を消すというハプニングもあったが、見事アリーナ姫は武道会を最後まで勝ち抜き、優勝の栄冠を手にしたのだった。
「さ! 伝説の勇者様ってどこにいるのかしら? 早く会いたいわ!」
「そうですなぁ姫。どんな御仁か楽しみですじゃ」
「――――同意」
「ん~。出来れば強い人が良いわね! わたしより強い人だったら素敵だわ!
会うのが楽しみね!」
ギブスに包んだ腕を元気に振り、点滴のヤツをカラカラ引きながら歩くアリーナ。
おてんば姫の冒険は、まだ始まったばかりだ。
サントハイムへ、帰れ。