第三新東京市は本日も晴天なり。
今日も元気よくこの街に、人類の敵、使徒が進行してきていた。
今回来襲したのは、第5使徒“ラミエル“。正八面体で宝石のような見た目の、非常にプリチーなヤツだ。
そしてこのラミエルが放った超威力の加粒子砲。それによって地上に射出されてすぐの所だったネルフのロボットは、即座に破壊されてしまった。
「……い、嫌ぁああああッッ!! AIBOぉおおおおーーーッッ!!!!」
「アイボぉおおおおッッ!!」
ネルフ本部に、職員達の悲鳴が木霊する。
今回出陣していったのは、ソニーの誇る自律型エンタテインメントロボット、“AIBO“。
1999年に発売の、学習型人工知能を搭載したキュートな犬型ロボットだ。
今回リツコさんが制作したのは、そのでっかいバージョンである。
「死ぬなぁーッ、死ぬなぁアイボぉぉーーーッッ!!」
「アイボぉぉーーッ!!」
だんだんと崩れ落ちていくAIBOの身体。その時、ネルフ本部は深い悲しみに包まれた。
泣き崩れる者、ただ驚愕する者、悲鳴を上げる者。その誰もが無残にも大破してしまったAIBOの姿に涙する。
短い間ではあったが、共に過ごしてきたAIBOとの日々……。その幸せだった時を想い、悲しみに暮れるネルフ職員達。
お手、お座り、呼べばこちらに寄って来てくれる程のコミュニケーション能力……。その愛らしい姿に誰もが心を奪われ、また心から愛していたのだ。
「許さない……! 絶対に許さないわっ、第5使徒ラミエルッ!!」
「アイツは悪魔よ! ひとでなしよっ!! よくも可愛いアイボちゃんをッ!!」
抱き合いながらわんわんと泣くユイさん&ミサトさん。別にラミエルは人間では無いので、ぶっちゃけ“ひとでなし“はその通りだったのだが。
ラミエル討つべし! AIBOの仇を取れ!! 今ネルフ全職員は一丸となって、打倒ラミエルへの意志に燃えている。
そんなみんなの姿を、物陰からじっと見つめているシンジ君。
今回はAI搭載型ロボットだという事で出番はなかったのだが、彼もここネルフ本部で戦闘を見守っていたのだ。
「AIBOがこわれてしまったわ、碇くん」
「……そうだね。壊れちゃったね、AIBO」
レイと仲良く手を繋ぎ、一緒にネルフ職員達の惨状を見守るシンジ君。
「でもきっと……、どうやってもAIBOじゃ、勝てなかったと思う……」
なんでAIBOを出撃させたんだろう……? そもそも何で作ったんだろう……?
なんの武装も無いAIBOを作成し、いったい何がしたかったんだろう……この大人達は……。
市民達の血税は、いったい何の為に使われているのだろうか?
そんなシンジ君の疑問に答えてくれる者は、この場には誰もいない。
ここにいる誰もがAIBOの死を悲しみ、またAIBOの安らかな眠りを祈ったのだった。
…………………………
………………………………………………
『……ふーん。シンジ達もなんか、いろいろ苦労してるのね……』
ここはネルフ本部の一室。現在シンジ君とレイちゃんは、TV電話的な物を使ってドイツにいる友達、惣流アスカラングレーちゃんと話をしていた。
……AIBOて。……AIBOを出撃させるって。
日本人のぶっ飛んだ思考に驚愕するも、とりあえずはシンジ達の境遇に同情しておくアスカ。
『まぁこのアタシが日本に行くまでの間、もうちょっとだけ頑張りなさいな。
エヴァ2号機も調整完了したしね! アスカ様、ついに来日よ!!』
いいなぁ……。ドイツってちゃんと、エヴァ作ってもらえるんだ……。
そんな事はさておき、ミサトや加持さんの勧めもあり、同じエヴァのパイロット(?)として以前から交流のあるシンジ達。
時にキツい物言いをする事はあるものの、先輩パイロットとしてとても面倒見の良い所もある彼女。シンジ達二人にとって、アスカは大切な友人なのだ。
「うん。アスカと会えるの、楽しみにしてる。綾波も早くアスカに会いたいって」
(コクコク)
『なーっはっは! まぁ戦闘に関してはこのアスカ様に任せておきなさいな!
アンタ達は……そうね、私の日常生活のサポートなんかは、
よくお願いする事になると思うわ。日本での生活って慣れない事も
多いだろうし、よろしく頼んだわよ!』
遠い異国の地に行く事にはなるが、そこにはこうして気心の知れた仲間が居てくれる。これはアスカにとって、何物にも代えがたい程に嬉しい事だ。
「碇くんの料理、とてもおいしいわ。アスカにもはやく食べてほしい」
『ポテトよシンジ! ポテト料理を作るのよ!!
そいつをビールで流し込んでやるわ!!』
「頑張って作ってみるよ、アスカ。
……でも二人とも、ちゃんとノンアルコールでね?」
ビールは舌じゃなく喉で味わうのよ! そんな事をレイに熱弁するアスカ。楽しそうに話す二人を見て、シンジ君もニッコリだ。
『ところでさ? 次回はシンジだけじゃなくて、ファーストも一緒に出撃するんでしょ?』
「そうみたいなんだ。ネルフの大人達ったら『よくもAIBOをやりやがったな!』
ってすごく息巻いてるんだ。ミサトさんも『AIBOの弔い合戦よ!』って」
(コクコク)
『うん、馬鹿だもんね。知ってた!』
花の咲いたような笑顔で、なかなか酷い事を言うアスカ。
『それはそうと、ファーストは何に乗って出撃するのよ? ガンタンク?
アフロダイAはアタシ的には親近感のわくロボだけど、レイにはどうなのかな……。
まさかと思うけど……、ボスボロットなんじゃないでしょうね?!』
もしアタシの妹分(?)をボスボロットに乗せるような馬鹿共であるなら、日独同盟の破棄も視野に入れなければならない。
これは国際問題に発展するぞと、前のめりになってアスカは問い詰めるのだが……。
「エヴァ零号機よ」
「「…………え?」」
――――その時、三人の間の空気は、ピキリと凍った。
「“エヴァ零号機“に乗るの。リツコさんが作ってくれたわ」
娘の為ですものと、リツコは嫌々ながらも、ちゃんとエヴァ零号機を制作してくれていた。
綾波レイは現在、リツコさんの家で一緒に暮らしているのだ!
「――シンジ君、そろそろ次の作戦の会議を……って、どうかしたのかしら?」
その時、ちょうどリツコがこの部屋にやって来た。
グギギギ……っと首を動かし、リツコの目を見つめるシンジ君。
「…………あの、リツコさん?」
「――何かしら? シンジ君」
リツコは、スーっと気だるそうにタバコを吹かす。
「あの、綾波が今度……、エヴァに乗せてもらえるって言ってて……」
「――そうね、私が作ったもの。可愛い娘の為に」
レイの頭を優しく撫で、いい子いい子としてやるリツコさん。
「えっと……、じゃあ次回、僕が乗るロボットって……」
「………………」
リツコはフイッと顔をそらし、ゆっくりと煙を吐き出す。
「…………………………」
「…………………………」
やがてリツコが、おもむろにその場にしゃがみこむ。それは陸上でいう所の、いわゆる“クラウチングスタート“の態勢であった。
『……あっ、逃げた! 逃げたわよアイツ!! 追いなさいシンジ!!』
クイッとおしりを上げた瞬間、リツコはこの場から勢い良く走り去った。〈パタパタパタッ!!〉とスリッパの音をたてて。
「 なんでだよリツコさん! なんでなんですか!!
ぼくはエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!! 」
それを追っかけて裸足で駆けていく、愉快なシンジ君であった。
………………………
………………………………………………
そして決戦当日。後衛にレイのエヴァ零号機を置き、シンジの乗るロボットが勢いよくラミエルに向かって飛び出していった。
「いくよっ、第5使徒ラミエル!! ……とりあえず、“ぼくの歌をきいてよ!!“」
今回シンジくんの搭乗した機体は、VF-19 エクスカリバーという物。
通称“ファイヤーバルキリー“
マクロス7で、主人公“熱気バサラ“が乗った機体だと言えば、わかりやすいだろうか?
「おしえ~てくれ ネルッフー♪ このむーねの ンフフフフ~ン♪
……って攻撃しないで聴いてよっ! ぼくの歌をきいてよッ!!」
後衛には、巨大なライフルを構えるエヴァ零号機。
そしてシンジの搭乗するファイヤーバルキリーが使徒の攻撃を引き付けておき、隙をみて一気に撃破してしまう作戦だ。
原作マクロス7でこの機体に乗る青年は、「戦いなんかくだらねぇぜ! 俺の歌を聴け!」というその信念から、一切の戦闘行為を放棄。ただひたすら戦場で歌声を響かせたという熱い逸話を持つ。
そんな音楽への情熱溢れる、まさに凄い男なのだ。
そして珍しくバルキリーというスタイリッシュなロボットに乗せた事からもわかる通り、今回のネルフはまさに激おこプンプン丸であった。AIBOの仇なのだ!
「ぼーくを~♪ どぉーこーへーとー♪ ンフフ ン~フフフ~ン♪
……って撃たないでったら! お願い撃たないで!!
加粒子砲なんか捨てて、ぼくの歌を聴いてよっ!!」
しかし悲しいかな、シンジ君は別にお歌の得意な子ではなかったりするのだ。
特に歌に対して思入れもなく、どっちかというとチェロ演奏の方が好きなのだ!!
『シンジ君! そこでチェロのソロ演奏よ!! ギュンギュンと弾いてあげて!!』
「そういう楽器でもないんだよチェロは!
ここじゃあ弾きにくいし、チェロがおっきくて操縦しにくいよ!!」
フラフラ~っと頼りなく飛びながら、がんばってチェロを演奏していくシンジ君。
戦場に、なんか良い感じのバスな音色が響く。チェロの演奏という物は、ぜんぜんテンションが上がらなかった。
「ぼ~くを~♪ エーヴァーへーとー♪ 乗っせはしなっいのか~♪」
『シンジ君! アドリブは入れなくていいわ! でもなんか気持ち籠ってるわ!!』
今の歌声よかった! 今日いちばん良かった!!
そんな喝采を贈るくらいならば、シンジをエヴァへと乗せてやって欲しかった。
シンジ君が必死で歌い上げている間も、絶え間なくラミエルが〈ピシュン! ピシュン!〉と加粒子砲を放ち続ける。やはり使徒とは、音楽で分かり合う事なんて出来なのか!? そんな空気がネルフ職員たちの間に漂う。
しかしそもそもラミエルが歌で動きを止めたとして……、ならばそこを狙撃して一気にブッ殺しちまおうというのがこの作戦の本願だ。分かり合うも何もない。
「おしえーてくれ ネルッフー♪」(おしえーてくれ ネルッフー♪)
「……綾波っ! コーラス入れなくても良いから狙撃に集中して!
でもすごく上手だよ!」
次回は是非レイに歌を任せる事も検討してみたい。彼女ならばオリコンを荒らす事だって、決して不可能ではない。掛け値なしの称賛を贈るシンジ君だ。
「いかーれーた♪ リーツコさんに♪ エヴァを作らせるっ! だーけさぁ~♪」
『シンジ君! それちょっち語呂悪いかもしんない! リツコもスネちゃうわ!!』
もうこうなったら、ここはぼくのステージだ。リツコさんがどう思おうと知った事か。
そんな事を思っていたシンジ君のもとに、突然リツコから通信が入る。
『シンジ君。そのファイヤーバルキリーの武装――――ぜんぶ弾入ってないから』
「 なんて事をするんだリツコさん! あらかじめ嫌がらせしてたのか!! 」
シンジにまともに戦わせる気など、リツコさんには無かったのだ。
この拗らせてしまった悲しい大人の心を、誰か歌で開いて欲しかった。
「……碇くん。今ためしに空を撃ってみたの。これちゃんと撃てるわ」
「 試しにで撃っちゃったの綾波!?
これ装填まで、いっぱい時間かかっちゃうんだよ!? 」
おもわず「えいっ」っと試し撃ちしちゃった綾波。日本中の電力を結集した一発は、はるかお空の彼方へと消えていった。
「もうダメかもしれない! ダメなのかもしれない!!
でもぼくが頑張らなきゃダメなんだ! ぼ、ぼくの歌をきけぇーーッッ!!」
もう破れかぶれになって空を飛び回るシンジ君。心なしかチェロの音色もロックな感じになってきた。
しかしその時――――突然バルキリーに緊急退避の命令が入る。
『シンジ君! そこをどいて!!』
『――――エンジン全開!! ヨーソロー!!!!』
ほとんど反射に近い動きで、即座にその場から退避するシンジ。
そしてその場に赤木リツコ博士の操縦する“ホワイトベース“が猛スピードで突っ込み、凄まじい轟音と共にラミエルを天高く“跳ね飛ばした“。
「………………えっ?」
その光景を、シンジはただただ、コックピット内から眺める。
『……よっしゃあーーッ!! アイボの仇だぁこの野郎ぉーーッ!!』
『やったわよAIBOちゃん! ううっ……っ! 安らかに眠ってね……!!』
本部ではなくホワイトベースに乗っていたネルフの全職員。自らの手で見事に仇を打ち、歓喜の声を上げる。
第5使徒ラミエルが「ファー♪」という綺麗なソプラノボイスを出しつつ、放物線を描き空へと消えていく。
「………………えっ?」
未だシンジ君はバルキリーで立ち尽くし、状況を理解出来ないでいる。
いつの間に作ってたんだそんな物。どこにしまってあったんだホワイトベースなんて……。
そして自分達の勝利を謳うように、巨大な戦艦はいつまでもいつまでも、大空をグルグルと周っていた。
まるで今はなきAIBOにも、この勝利を見せてやるかのように……。
おしえーてくれ ホワイト ベース♪
このむーねの モヤモヤを~♪
「碇くん。使徒がとんでいってしまったわ」
「……うん、飛んで行っちゃったね、綾波」
エヴァ作ってよ! ぼくをエヴァンゲリオンに乗せてよ!
そう今まで思って来たけれど……、もしかしてエヴァって、そんなに必要じゃないのかもしれない。
この大空を悠々と舞うホワイトベースを見ながら、シンジ君はそう思う。
ぼくも別にいらない子なんじゃないかなとか……、そんな風にも思う。
「……あー。ぼくアスカが日本に来る前に、一度くらい家出しとこうかと思うんだ。
良かったら、綾波も一緒に行く?」
「いく。碇くんといく」
…………………………
その後二人で電車に乗ったり、ケンスケも一緒にキャンプしたりもした。
でも結局は大人達に見つかってしまい、二人の楽しい家出はあっけなく幕を閉じる。
最後はホワイトベースに本気で追いかけ回されたりして、その大人げなさにビックリしたシンジ君であった。
※ 作中の歌は私のオリジナルソングです。いいね?