「よぉロック、
ラグーン商会の事務所。ちょうど仕事も片付き、次の依頼が来るまではと各々が好きなように過ごしていた気だるい午後。
ぐてぇ~っとソファーに腰かけていたレヴィが、たった今事務所に入って来た人物(?)を見て、目を魚のように丸くする。
「おっかしいな……そりゃガキの時分にはヤクもやったもんだが、
今になっておかしなモンが見え始めるとはよ……」
タバコの灰をポロっと落とし、クシクシと目をこする。それでも目の前の幻覚は消えてくれない。
「やめた! お前が帰ってきたらイエロー・フラッグにでも繰り出そうと思ってたが、
今日は日が悪ぃ!
これ以上UFOだのダースベイダーだのが見え出す前に、あたしは帰って寝る事にする」
よっとソファーから立ち上がり、「そんじゃ!」とばかりに右手を上げて出て行こうとするレヴィ。しかしそれは肩を掴まれて阻止される。
「レヴィ、お前の目はイカれちゃいないよ。
ドラックのツケが来たワケでも、ジェダイの戦士になったワケでもない」
「!?」
ロックは沈痛な面持ちで見つめ、フルフルと首を横に振っている。まるで「レヴィ、現実を見ろ」とでもいわんばかりに。
「いや……でもよロック? おっかしぃんだよあたし。
どっかのホラ吹きみたく
今あたしの目には、昔キッズ・アニメで観たヤツがはっきりと映ってやがんだよ。
ん? まさかコイツがキリストなのかロック?」
「いや、彼の善性や自己犠牲の精神は、それに通じる所があるかもしれないけど……。
とりあえず救世主とかじゃないよ。レヴィも別に神の啓示なんて欲しくないだろ?」
「そりゃそーだ。いくら
まだあたしに啓示授けるよかはマシな連中がいるさ。
そのありがたいお言葉ってのが
んで……コイツはいったい何だ?
この朝食うヤツの匂いがする“三頭身のキリスト様”はよ」
「あぁ……実はさレヴィ……?」
頭をポリポリと掻き、なんだか困った顔をしながら、ロックは今となりにいる彼に向けて目配せをする。
すると彼はニッコリと微笑み、レヴィの方にまっすぐ向き直った。
「こんにちは。ぼくアンパンマンです♪」
茶色いマントに赤いコスチューム。胸元にはニッコリとスマイルのマーク。
見ているだけでほんわかとするような、そして暖かい気持ちになるような笑顔を浮かべ、アンパンマンはレヴィに挨拶する。「よろしくね♪」と。
「ぼく今日ロアナプラに来たばかりなんです。
レヴィちゃん、これから仲良くしてね♪」
そしてまんまる丸のおててを「はい♪」と差し出すアンパンマン。もちろんレヴィと握手をする為だ。友好の証。
……レヴィはくわえていたタバコをポロッと落とし、ロックが慌てて拾う。今日はバーベキュー・パーティをする予定は無いのだ。
「お……お」
レヴィは差し出された手を握り返す事もせず、まるでハトが豆鉄砲を喰らったような、イソイソと開けたお年玉袋の中身が「はずれ♪」と書かれた紙だけだった時のような顔。
アンパンマンが「?」って感じでキョトンとする中……やがてレヴィのOSがキュイィーンと音を立てて再起動する。
「べっ……ベイビーベイビー!
よぉ
そういう格好すんのはハロウィンの時だけよって、ママに教わらなかったかぃ?」
なんとかいつもの口調、いつもの調子を以て、レヴィは彼と対話を試みる。
呑まれては駄目だ、がんばれあたし――――そんな声が聞こえてきそうな表情だ。
「ん? そういうかっこう?」
「あぁそうさ、生憎この街じゃキャンディーもチョコレートも品切れでね。
んなイカれた格好してても、何も貰えやしないのさ。
もしこの街で
次の瞬間『なんだてめぇ!』の言葉と一緒に、鉛玉が1ダースほど飛んでくる。
ここは屋内だ、帽子の必要はねぇ。……さぁ、そのでかい被り物をとりな」
レヴィは頬をヒクヒクさせ、出来るだけ静かな声でアンパンマンに告げる。
怒りを抑えるように、「優しく言ってる内に言う事をきけよ?」という感じで。
だがこれは無意識なのだろうが、レヴィがアンパンマンと背丈を合わせるようにかがんであげているのを見て、こいつ意外と優しいトコあるんじゃなかろうかとロックは思う。
「ぼうしって、あのジャムおじさんがいつもかぶっているヤツかな?
パンを作る時にかみの毛が落ちないようにかぶるんだよって、
前にジャムおじさんが教えてくれたんです」
「お、おう……」
「でもぼくパンは作れないから、ぼうしはかぶらないんです。
それにぼく、お日様の光は大好きだから♪ なくてもヘッチャラだよ♪」
「……」
再び「はい♪」っと手を差し出すアンパンマン。
握手をしましょう。友達になろう。満面の笑みだ。
「あ! もしかしてレヴィちゃん、おなか空いてるのかい?
だったらぼくのパンを食べなよ! とっても美味しいよ♪」
元気が無い(眉をヒクつかせる)レヴィを見て、アンパンマンの頭に\ピコーン!/と電球が灯る。そして「えいやっ」と自分の頭をひとちぎり。
手のひらサイズに取られたパンには、甘い香りのする餡子がぎっしりと乗っている。おいしそうである。
「はいレヴィちゃん♪ どうぞ♪」
今度はアンパンの欠片を持って「よいしょ!」っと差し出される、アンパンマンのおてて。
無邪気な笑顔、100パーセントの善意!
お腹を空かせているレヴィちゃんの為なら、自分の顔のアンパンをあげる事もいとわない。まさにヒーローの姿だ。
今アンパンマンが「さぁ君の笑顔を見せておくれ」と、にっこりレヴィに微笑んだ。
「 ――――てめぇの頭にゃ
その日、ついに火を噴いた二丁のソード・カトラスにより、事務所は随分と風通しが良くなり、多額の修理費用がレヴィのペイから天引きされた。
ちなみに近くで銃声を聞いたロアナプラの住人たちは「またラグーンか」と言って特に気にする事無く、それぞれの生活を営むのだった。
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話をきいた所……ロックが事務所にアンパンマンを連れてきたのは、
連絡を受けたロックが張の事務所に行ってみると、そこには彼と共にアンパンマンの姿があり、開口一番に「ロック、こいつの面倒を見てやれ」と来たもんだ。
まぁ端的に言えば、今回の件はそういう事情から起こった事である。
「えっと、どうやらアンパンマンは仲間たちと共にロアナプラに来たみたいでね?
ここでパンの露店を開きたいとか、
“悪の本場の空気を感じたい”って夢があったばいきんまん君の付き添いだとか、
色々と理由はあるみたいなんだけど……。
まぁとにかく、それでこの街の有力者である三合会の所に、
まずは商売の許可を貰う為に挨拶に行ったらしいんだよ」
言うまでもない事だが、三合会の組員たちはいきなりニコニコと尋ねてきたアンパンマン一行の姿に、それはもう飛び上がるくらいに驚いた。
そりゃそうだ、いきなり目の前にラブラブキュートな見た目をした、三頭身くらいのマスコット達が現れたのだから。
三合会のロアナプラ支部の面々がどれくらい驚いたかというと、その場にいた全員が一斉に“膨らんだ左の脇”に手をかけた位。慌てて軽機関銃を持ち出そうとする者までいた。
だが相変わらずのほほんとニコニコしているアンパンマン御一行さまの姿に毒気を抜かれ、組員たちが揃いも揃って「一体どうすりゃいいんだ……」とうろたえていた所、そこにたまたま事務所に帰って来た張さんが遭遇。なんやかんやあって無事中に通してもらえる事に。
幸いな事に誰も銃を抜く事もなく、また怪我人が出る事もなく、事は収まったのだ。
今更ではあるが、張さんの肝っ玉はもうとんでもないデカさなのである。器が違う。
「俺が張さんに呼びつけられたのは、ようは“日本人”だからだよ。
ジャパニメーションのキャラクターが現れたぞ! とりあえずロックを呼んで来い!
……なんかそんなのが理由らしくてね。
いろいろ話はしたけど、最終的にアンパンマン達はここで露店を出す許可を貰い、
俺は張さんに肩を組まれながら『――――面倒みてやれよロック、つれない事言うな』
と怖い顔ですごまれた……というのが事のあらましさ」
あの双子の件しかり、ラブレスの坊ちゃんの件しかりなのだが……この街では何か厄介事が起こったら「とりあえずロックに回しとけ」みたいなルールでもあるのだろうか?
ある意味「アイツならなんとかしてくれる!」みたいな妙な信用があるのかもしれない。まぁロックからしたら嬉しくもなんともない事だが。
「アンパンマン達は“夢の国”出身だけど……ある意味生まれは日本だ。
だから同胞のよしみで、色々面倒見てやれってさ。
……どういう風の吹き回しかは知らないけど、
何かあった時は三合会に言ってこいって、ケツは持ってやるって張さんが……」
よく分からないが、何か張さんにはアンパンマンに思う所でもあったんだろうか? それとも子供の時、アンパンマンのファンであったとか。ロックには知る由も無い。
「で、さっきダッチとも話をして来たんだけど。
今日からアンパンマン、
「よろしくねレヴィちゃん♪」
「ウェイウェイウェイ、ちょっと待ちなよベイビー」
なんかものっ凄くサラッと告げられた連絡に、思わず待ったをかけてしまうレヴィ。
「おっかしぃな……まだ昨日の酒が抜け切ってねぇらしい。
あたしの耳が確かなら、今お前はこのファッキン・クライストが、
あたしらラグーンの仲間になる……そう言ったように聞こえたんだが」
「大丈夫、レヴィの耳は正常だよ。
それじゃあアンパンマン、今後の仕事について軽くレクチャーしとこっか?」
「うん、ありがとうロックさん。よろしくおねがいしますね♪」
「 待て!! ちょっと待てってんだよロック!! 」
机の上のお酒をガッシャ―ンとひっくり返しながら、レヴィがロックの胸倉を掴む。
「おいロック、あたしを見ろ! お前自分が何ぬかしたか分かってんのか?!」
「えっ。どうしたんだレヴィ? そんな怒って」
「どうしたじゃねぇんだよ! この金玉野郎!
いいか? あたしらの仕事は非合法の運び屋だ!
パンの売り子でもベビーシッターねぇだろうが!!
こんなイカれたなりのファンシーなガキ連れて、
アンパンしょくぱんカレーパン以外のいったい何を運べっつーんだよ!!
ケツ穴を余計に増やされてぇのかテメェ!!」
「お、落ち着いてよレヴィちゃん。女の子がそんな事しちゃダメだよ」
「るっせぇんだよ、この
こちとら殺るか殺られるかの商売してんだよ!
時は早く過ぎるわ、光る星は消えるわなんだよ! やれっかバカ野郎!!」
「ん? まぐそ? それって何?
どういう意味の言葉ですかロックさん?」
「う゛っ……! おいレヴィ! 子供の前で汚い言葉を使うなよ!
アンパンマンが覚えちゃったらどうするんだ!」
「え゛っ!? いや、あたしは別に……いつもの感じで喋って……」
「ねぇレヴィちゃん、まぐそって何?
ジャムおじさんなら、まぐそでパン作れるかな?」
「ほらぁ~レヴィ、言わんこっちゃない。
お前がちゃんとなんとかしろ。大人の責任だ」
「うえ゛っ?! あ……あたしかっ?!
いや、そーいうのはやっぱ、お前の方がよ……」
「ねぇねぇレヴィちゃん、まぐそって何?
あ、さっきの“金玉野郎”っていうのもどういう意味かな? おしえておしえて♪」
「知らねぇーーよバカ野郎!!
そういうのはなぁお前! もっとこう……アレだ! 賢そうなヤツに訊け!
メガネかけてるヤツとか、ホワイトシャツにネクタイ締めてるヤツとか!
あたしは
――――つか何であたしが攻められてんだよ!! いまあたしの番だろうが!!」
「というか、さっきからどうしたんだレヴィ?
そんなスチーム・ポットみたいに怒ってさ。血管が切れちまうぞ?」
「なにかイヤな事でもあったの? ぼくでよかったら話をきくよ?
ほらレヴィちゃん、言ってみてごらん♪」
「言ってんだよ!! さっきからあたしは何度も言ってんだよ!!
天にまします我らが神に、心からオーマイガッと叫んでるんだよ! 聞こえねぇのか!
――――それとお前らぁ! 二対一は卑怯だろうがよ!
あたしの立つ瀬がねぇよロック! そりゃねぇよロック!!」
「とんでもない、俺たちは相棒じゃないかレヴィ。
いままで一緒にやってきた仲間だ」
「そうだよ、ロックさんとレヴィちゃんはとっても仲良しなんだ。
でもこれからはぼくも、仲間に入れてくれるとうれしいな♪」
「もちろんさアンパンマン、三人で一緒にやってこう。
これからよろしくな――――」
「 おー上等だ! 表出やがれお前ら!!
親睦会がてら鉛玉ぶちこんで、てめぇらが朝なに食ったのか見てやるよ!!
これからよろしくなぁベイビー!! 」
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ところ変わって、ここはロアナプラの路地裏。
「こぉ~らぁ~! お前たちには“志”って物がないのかぁ~!!」
今ばいきんまんの怒りが、辺りに木霊していた。
「……へ、へい! すいやせんバイキンの兄貴!」
「勘弁して下せぇ!」
「い~や、ダメだぁ~!!
いいかお前たち、よぉ~く聞け? こんな小さな事をして喜んでてはダメなんだぁ~!
悪ってのはもっとぉ~! でっかい事を志していかなきゃいけないんだぁ~!!」
ひったくりや万引きなどの、せこい悪事を働いていたチンピラ達をとっ捕まえ、ばいきんまんが嵐のようなお説教をおこなっている。
悪党の本場、ロアナプラ――――
ドキンちゃんを始め、アンパンマンやジャムおじさんにお願いしてまで社会科見学をしにきたばいきんまん。しかしそこで見たのは、このようなつまらない悪事をはたらいているしょっぱいチンピラだ。
普段から己の矜持、そして生きる意味を懸けてアンパンマンと死闘を繰り広げている彼にとって、ジャパニメーション界における悪の代名詞ともいえる彼にとって、これはあまりにもくだらない。
同じ悪党の風上にも置けない、そんな悲しい姿であった。これにはばいきんまんの怒りも天元突破しちゃうという物だった。
――――お前たち! 悪党なら悪党の誇りを持て! もっと志を高く!!
そう涙を流しながら熱く語るばいきんまんの言葉に、今まで遊ぶ金欲しさにしょーもない悪事ばかりをはたらいてきたチンピラ達は、目から鱗が落ちたような顔。
ばいきんまんと一緒になって、おーいおいと涙を流す。
「そ……そのアンパンマンってヤツぁ、そんなに強ぇんですかい?!」
「兄貴でも敵わねぇなんて……俺ぁとても信じらんねぇよ!!」
先ほどバイキンUFOやバイキンメカによって、けちょんけちょんにやられてしまったチンピラ達。こんなにも強いバイキンの兄貴がやられてしまう所など、彼らにはとても想像がつかないのだ。
「そうだぁ! 強い! もうとんでもなく強ぉ~い!
でも俺様はぁ! 必ずアンパンマンをたおすぅーー!!
それが俺様のぉ~! 悪の道だぁ~~!!」
「うぉぉぉ! 兄貴ぃぃーーー!!」
「バイキンの兄貴ぃぃーーーーッッ!!」
もう涙を流しながらばいきんまんに抱き着いていくチンピラ達。まぁばいきんまんの背丈は子供程度しかないので、なんか感動的とは言い難い微妙な光景にはなっているが。
「見てろぉお前たちぃ~! 今から俺様がアンパンマンを倒す所を~!
お前たちに夢を見せてやるぅ~!!」
奇しくも社会見学にきたつもりの“悪の都”で、カリスマとして持ち上げられるばいきんまん。俺様の背中を良く見ておけとばかりにチンピラ達を引き連れ、仲良くロアナプラの街を行進していく。
行きがけには同じくこの街で燻っている沢山のせこい悪党共を拾っていき、その数はどんどん膨れ上がっていく。まるでお祭りのような様相だ。
「出てこぉいアンパンマーン! 俺様はここだぁ~!
このロアナプラの露店から、ホットシュリンプ屋さんがなくなっても良いのかぁ~!」
とりあえずアンパンマンを呼び寄せる為、そこらじゅうの露店からホットシュリンプを全部買い占めちゃうという軽めの悪事を働き、がっはっはと笑うばいきんまん。
みんなで食べたホットシュリンプはとても美味しかったし、良い感じで腹ごしらえも出来た。元気いっぱいだ。
ロアナプラ中のせこい悪党共にわっしょいわっしょいと見守られながら、悪のカリスマとなったばいきんまんが、堂々とアンパンマンを待ち受けていた。
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「ん、外が騒がしい……。何かあったのかな?」
「騒がしいのはいつもの事だろうが。ここはロアナプラだぜロック?
チンピラ共の声だの銃声だの、別に珍しくもなんともねぇよ」
ロックが窓の外を訝し気に眺める。一方でロックにピザを奢らせてご機嫌な様子のレヴィは、それを「もっちゃもっちゃ♪」といきながらアンパンマンとポーカーに興じている。
「さぁコールだぜスイートパイ、残念だが負ける気がしないね。
お前さんはガキだし、別にここで降りても玉無し呼ばわりはしねぇよ。
大人しく白旗上げちゃーどうだ?」
「えっと、これなんていうんだっけ?
レヴィちゃんこれ強い?」
「 うえ゛っ?!?! 」
軽くポーカーで遊んでやるつもりが、初心者のアンパンマンにボコボコに負かされ意気消沈するレヴィ。子供が相手という事で金は賭けなかったが、もし賭けていたらどうなっていたかは想像したくない。絵にかいたような大敗だ。
ちなみにレヴィのカードは、いわゆるブタだった。
持ち札が悪い時にムキになってコールするものだから、いつもエダにカモにされているという事はアンパンマンには知る由も無い。
「――――おいロック! ちょっと来てくれないか!
ロアナプラの街がどんちゃん騒ぎなんだ!」
「ベニー?」
その時、ラグーンの同僚であるベニーが事務所に飛び込んでくる。そのただならぬ雰囲気にレヴィがソファーから腰を上げる。……まぁ彼女は内心「勝負がうやむやになった。しめしめ♪」とか思ってたのかもしれないが。
「何故かロアナプラ中のホットシュリンプ屋が、
同じくロアナプラ中のチンピラ達に買い占められるという謎の事態になっててね?
そいつら仲良くホットシュリンプを頬張りながら、
街中をパレードみたいに練り歩いてるんだよ!」
「なんだそりゃ? 別に今日は祭りの日じゃないし、
ロアナプラは村おこしのイベントをやるような街じゃないだろ?」
「一見さんお断りみたいな街だからなぁここは。
大抵の流れ者は、5日後には海に沈んでるような街なんだ。
まぁそこのアンパン・キッドは大丈夫だろうがよ……」
張の旦那もついてるし、空も飛べるしなとレヴィがため息をひとつ。
そんな中で彼が、ロックの方を向く。
「――――みんな、こまってるの?」
いつもニコニコしていたアンパンマンの、真剣な表情。ロックはそれに呑まれてしまったように言葉を詰まらせる。
「いや……そう大した事態じゃないんだけどさ?
ただこのバカ騒ぎや騒音で迷惑する人達もいるだろうし、
なによりみんな大好きホットシュリンプの買い占めは頂けない。
欲しい人たちが買えなくなるからね」
「なんかパレードの先頭には、UFOめいた何かに乗る子供がいるらしい。
もしかしたら、彼が連中を率いているんじゃないかって話も……」
ロックとベニーの説明を聞いた途端、勢いよくアンパンマンが窓から飛び出す。それはヒュ~っと軽快な音を立てて瞬く間に飛んでいき、あっという間にロック達の視界から消える。
「おいロック! 車を出せッ!!
あの馬糞パンになんかあったら、あたしら張の旦那に
「わかってる!」
レヴィは愛銃を引っ掴み、ロックは車のキー引っ掴んで飛び出していった。
……………………………………………
………………………………………………………………………………………………
「まてぇーばいきんまーん!」
ロアナプラの漁港。倉庫がたくさん並んでいる、いかにも悪の親玉が内緒話でもしに来そうな寂れた場所に、いま沢山の屑共の活気が溢れている。
この集団のリーダーである、ばいきんまんを中心として。
「えっと、たしかレヴィちゃんは……そうだっ!
こらーばいきんまん!
悪い大人たちのせいで、アンパンマンがよくない言葉を使い始める。それにちょっと驚きつつも、ばいきんまんは悪のカリスマとして雄々しく声をあげる。
「おー来たなぁ~アンパンマーン!
やぁ~っつけてやる~~う!!」
「尻の穴をもう一つこさえてやるぞ! ばいきんまん!
君が朝ごはんに何を食べたか、ぶちまけてみるかぁー!」
意味は分からないものの、レヴィが言ってたカッコいい言葉をそのまま言ってみるアンパンマン。
なにやらいつもより気分が高揚してきたぞ! すごい! 大発見だ!
「……おいレヴィ、あれって……」
「……」
そこに追いついたラグーンの3人。年代物のイカした車の窓から顔を覗かせ、アンパンマンの戦いを見守る。
「むぅ~! ちょこざいなーアンパンマンめぇ~!
このバイキン・メカでぇ! 踏ぅ~みつぶしてやるぅ~!」
「えっと……上等だぁばいきんまーん! このくそったれー!
君の脳みそが何色か、見てあげても良いんだぞー!
鉄屑とミート・パテにされたくなかったら、おとなしくするんだー!」
「……レヴィ、帰ったら説教だ。これは明らかにお前の責任だよ」
「あいよ、相棒……シット……」
まるでスポンジのように吸収していく、子供の学習能力。
その素晴らしい成長を魚のような死んだ目で見つめるレヴィ&ロック。後で三人まとめてジャムおじさん(親御さん)に怒られる所までの未来が見える。今から憂鬱だ。
「ほーりーしっと! で合ってたかな?
……とにかく、顔が欠けてて力がでない~」
「ふはははは! これでトドメだぁアンパンマーン!」
レヴィにあげる為にちぎったので、今のアンパンマンの顔は少し欠けている。それで力が出せずにピンチに陥っているのだ。
あの時、怒りに任せて「こんな馬糞が食えるか!」と貰ったパンを床に叩きつけたレヴィは、内心もうとんでもない罪悪感に包まれている。
まぁ食べてたからどうという事でも無いのだが、罪の意識がすごい。このままアンパンマンが負けちゃったら一生後悔しそうである。
「ヘイ! ヘイアンパンよ! だらしねぇぞ!! ヒーローだろうがお前!
さっさとマイク・タイソンみたく一発かましゃーいいんだよ!
男みせやがれバカ!」
「うん! ぼくがんばるよ!
見ててレヴィちゃん! この小便野郎の面をファックしてやるから!」
レヴィの(結構必死な)声援を受け、満身創痍ながらも頑張って戦うアンパンマン。たとえピンチに陥っても諦めず、女の子の声援を力に空を飛ぶ。まさにヒーローの姿だ。
そしてその頑張りが実を結び――――今どこからかとても大きな声が、この場まで届いてきた。
「 よぉアンパンマーーン! ラグーンからご機嫌なアイテムのお届けだぜ! 」
「ダッチ!?」
「!?」
声のする海の方に振り向いてみれば、そこには彼らラグーン商会の代表であるダッチが乗る舟。
大きな魚雷を二本も積んだ魚雷艇、通称“ラグーン号”に新たに新設された
「ファッキンな船で焼いた、ファッキンなパンを、ファッキンなブラザーに届けるぜ!
――――アンパンマン! 新しい顔だぁぁーーッッ!!」
ダッチのヒデオ・ノモばりのトルネード投法で投げられた新しい顔が、アンパンマン目掛けて一直線に飛んでいく。そしてそれは見事に命中し、傷んでしまっていたオールド・フェイスと勢いよく入れ替わった。
『 げんき100倍! アンパンマン! 』
まるで太陽のようにアンパンマンの身体が〈ペッカー!〉と輝く。
そして再びばいきんまんに向かって、解き放たれた矢のように飛んで行った。
「くっ……くっそぉ~! もうちょっとだったのにぃ~!
こうなったらやけくそだぁ~! アンパンマンめぇ~!」
「ばいきんまん! えっと……ロケット&ベイビー!」
いまアンパンマンの身体とバイキンメカの大きな腕が交差し、その片方が勢いよく
「 ――――ファッキン・アンパーンチ!! 」
辺り一帯に響くような〈ドカーン☆〉という音が鳴る。そして「ばいばいきぃぃぃ~~ん!!」といういつものセリフを残して、ばいきんまんが空の彼方に消えて行った。
それをどこか、アホのようにぼけぇ~っと見ている一同。
「なぁベニー……いつの間にラグーン号、改造したんだ?」
「分からないよロック……。僕は知らなかったんだ。
ダッチと付き合い出してもう2年以上になるが、
分かった事といえば彼がタフで知的で、そして“変人”だって事だけだ……」
「これから毎日パンをやこうぜ? ……って事か?
たとえ海の上だろうが、新しい顔作りには困らねぇって事か。
……まぁ好きにしてくれ。あたしはもう知らねぇ。
アーメン・ハレルヤ・ピーナッツバターってな」
いま空の向こうから、戦いを終えて嬉しそうにこちらに飛んでくるアンパンマンの姿が見える。
彼をなんて言って迎えてやろうか。なんて言って褒めようか。労おうか。……そんな事をボケっと考えてはみたが、もうなんかめんどくさくなってきたレヴィ。
「レヴィちゃん! 勝ったよ! 君の応援のおかげだ!
薄汚いバイキン野郎を、ヨルダンあたりまでぶっ飛ばしてやったよ♪」
「お……おうスイートパイ……いやアンパンの兄弟。
とりあえずお前、J・Bよりクールだぜ……」
ラグーン号にパン窯を新設――――つー事はあたし、これから当分こいつと仕事してくんだな。
アンパンマンの無邪気な笑顔を見ながら、そんな事を考えるレヴィだった。