『いいかい静香、よくお聞き?』
あれは、まだ私が幼かった時の事。
お父さんが遠くに行ってしまう前、最後に私に微笑みかけてくれた時の記憶だ。
『これからパパは遠くに行くけど、もう静香とは会えなくなるけれど……。
けれどね? 決してパパは、悪い事をしたワケじゃないんだ』
ポツポツと穴の開いた、透明なガラスの壁。それに仕切られた向こう側に、お父さんが座っていた。
『パパは決して痴漢なんかじゃない。
電車で女子高生のお尻を触ってなんかいない』
あの時のお父さんは、必死に私に訴えかけるように、真剣な顔をしてた。
『……確かにちょっとだけ、手が当たってしまったかもしれないけど。
確かにその態勢のまま、もったいないからしばらく楽しんでたけど……。
でも違うんだ静香。違うんだよ。
パパは決して痴漢なんかじゃない。変態なんかじゃない』
パパは遠くへ行っちゃうの。もう会えなくなるから、最後にご挨拶なさい――――
そうお母さんに言われ、連れてこられた見知らぬ大きな建物の一室で、私はお父さんとお話をした。
頭を坊主に丸め、シンプルな作業着姿のお父さんは、なんだかとてもやつれていた記憶がある。
後ろの方には、こちらを監視している刑務官さんの姿もあった。
なぜお父さんはガラスの向こう側にいるんだろう?
なぜお父さんと、もう会えなくなるんだろう?
当時の幼かった私には、知る由も無かった。
『……ほら、電車ってけっこう揺れるだろ? 静香も乗った事あるから分かるだろう?
そのせいで、たまたまスカートの中に、手が滑りこんでしまったんだよ。
決してわざとじゃないし、揉んでなんかいない。ハァハァ言ったりもしてない。
あの女子高生は嘘をついているんだよ。信じてくれるね、静香?』
あの日以来、お父さんとは会っていない。
この一件によって両親は離婚し、私はお母さんと二人暮らしとなり、力を合わせて今日まで生きてきた。
たまに人から「痴漢の子」とか「性犯罪者の娘」とか言われる事もあったけど、そんな時は傍にいるのび太さんや剛さん達が本気で怒ってくれたので、私の心はいつも傷つかずにすんだ。
彼らは私の大切な友人だ。
『ズボンのチャックもね? たまたま閉め忘れてただけなんだよ。
そこからボロンとね? まぁその……出ちゃう事もあるという話なんだよ。出ちゃったものは仕方ないと思わないかい?
静香はパパの事、信じてくれるね?』
痴漢冤罪という物は(冤罪かどうかは分からないけれど)とても無実を証明するのが難しい物だと聞く。だからお父さんも然るべき罰を受け、罪を償ったのだろう。
その後のお父さんの事はよく知らないけれど、きっと今は無事に出所して、どこかで幸せに暮らしているんだと思う。
もう電車には乗らないでくれるといいなぁ、なんて事も思う。
『静香、信じておくれ。決してお前のパパは、犯罪者なんかじゃない。
お前は性犯罪者の娘なんかじゃないんだ。忘れないでおくれ』
まぁその真偽の程は知らないけれど、今でも私はよく、あの時のお父さんの言葉を思い出す。
自分の悪性であったり“いやらしさ”を実感する時……よくお父さんの事を思い出す。
この身に流れる、お父さんの血――――性犯罪者の血。
私は今のび太さんと結婚し、なに不自由なく団地妻として幸せに暮らしているけれど。でもふとした瞬間に思うのだ。
うん、私のお父さんは“ああ”なのだから、私がこんな風なのも仕方ないと。
のび太さんの事は好きだし、不満なんてない。彼を心から愛している。
けど、私がこんなにもみだらな女なのは……きっと仕方ない事なんじゃないかと。
「――――どうも奥さん、米屋です」
……ぶっちゃけた話、私達がこんな事をしている間にも、『アフリカの子供達はなんやかんやしているのだ』
こんな事している場合じゃないし、こんなものを書いている場合でもないのだ。
君たちもこんな物を読んでいる場合じゃないと思うのだ。
……すまない、これタイトルだけなのだ。
なんとなくこのタイトルを思いついて、そのまま勢いでキーボードを叩いてみただけなのだ。
――――君なら、こんなぼくを許してくれるね?
ギブアップだッ!!
許しなさい! 許しなさい!