第三話にスペシャルサンクスを記載しております。
――あらすじ――
大洗の戦車は5両……。これではとても戦い抜く事は出来ない。
盟友西住みほのピンチを救うべく、次々に各地から戦車チームが駆けつける。
しかしそれらは皆、なんか変な名前をしていた。
サンダース大付属高校、副隊長のアリサ。
現在彼女はシャーマン戦車の中、無線傍受の真っ最中であった。
『カモさんチーム、ウサギさんチーム、カメさんチームは森へ向かって下さい!
アヒルさんチームは索敵をお願いします!』
「……うひひひっ! 全部まる聞こえよアンタ達の作戦なんて!
このまま捻り潰してあげるんだからっ!!」
全国高校戦車道選手権の一回戦。今日の相手は大洗女子学園である。現在アリサが耳に当てているヘッドフォンからは、敵チームの隊長である西住みほの声が聞こえてきている。
――こんな無名の弱小高に負けるワケにはいかない。
――――使える物は無線傍受機でもなんでも使い、完膚なきまでに叩き潰してやるのだ。
圧倒的物量、圧倒的資金力。そして私こと、アリサの力をもって。
必ず我らが隊長ケイに勝利を捧げる。その為ならば、たとえ火の中水の中なのだ。
『ダイオウグソクムシさんチームは川の中へ! 水浴びをしてて下さい!』
「 ……ダイオウグソクムシ!?!? 」
思わず声をあげ、ヘッドフォンを放り投げそうになるアリサ。
こちらの声は相手には聞こえないので、別にいいっちゃーいいんだが。
『みぽりーん! ダイオウグソクムシは海洋生物だよ~?
川の水なんかに入ってだいじょうぶ~?』
『あ、そうだね沙織さん! じゃあダイオウグソクムシさんチームも森の中へ!』
「 なんなのよその会話!! なに言ってんのよ!! 」
ダイオウグソクムシはメキシコ湾などに生息する、等脚目スナホリムシ科の海生甲殻類だ。
等脚類としては世界最大であり、最大50センチメートル近くにもなる巨大な種である。
その名前の割に見た目はカッコよく、特に正面から見ると中々にクールな甲殻類だ。断食しても5年ほど生きられるというタフなヤツとしても知られる。
しかし、そんなこたぁー今は関係ない。
『では、脱皮したてのザリガニさんチームは
隠れキリシタンさんチームは、どっかでコソコソしてて下さい!』
「 どんな名前つけてんのよ!! バカじゃないの!!!! 」
フラッグ車という事で隠れている最中にもかかわらず、おもいっきりシャウトしてしまうアリサ。
ちなみに“脱皮したてのザリガニさんチーム“というのは、もちろんみほの命名だ。
脱皮したてのザリガニは触れると結構グンニョリしているので、「見た目は堅そうだけど紙装甲だよね」という感じの戦車のチームに贈られた。
そして隠れキリシタンさんチームは、その名の通り全員が“隠れキリシタン“の面子で構成されたチームだ。
別に今の時代かくれなくても良いんじゃないのと思われるのだが、「キリシタンは隠れてナンボだろうが」という本人達の強い意志より、日々その信仰を周りから隠して生活しているのだ。
まるで隠れて隠れて、隠れ通す事こそが、自らの神への忠誠心を示す証であるというかの如く。
何かが激しく間違っている気がせん事もない。
「なによ……隠れキリシタンさんチームって……。どんな戦車乗ってんのよ!?」
試合前の挨拶の時、そんな隠れキリシタンみたいな連中いただろうか? アリサにはまったく記憶にない。
その名の通り、まさかどこかに隠れていたとでも言うのか。物凄く気になってきた。
そんな事言ったらダイオウグソクムシさんチームや、脱皮したてのザリガニさんチームの戦車も気になる。想像がつきそうで意外とつかない。なにやら夢が膨らんできそうだ。
ちなみに他にも大洗には“男だけどTバックさんチーム“というのも参加しているのだが、諸事情により、ここでは説明を割愛させて頂く。
いや、そもそも私達は、大洗側の戦車は5両だと聞いていたハズなのだが……。なんかいらんのが大分増えている気がする。
『ベトナム帰還兵さんチームは例のポイントへ! 戦場帰りの力を見せて下さい!』
「 ベトナム帰還兵ッ!?!? 」
この短い時間の中、そろそろアリサのシャウトのせいで耳がキィ~ンとしてきた車内のメンバー達。
なんだ、ベトナム帰還兵さんチームって……。アメリカ的な校風とはいえサンダースにもそんなヤツは居ないぞ。
それにしても愛らしいみほの声色で言う「ベトナム帰還兵さん♪」という言葉の響きは、結構なインパクトがあった。
『――――オーライ西住。サンダースの連中をファ〇クしてやるぜ』
「 止めてよ?! これ戦車道の試合よ?! ファ〇クはしないでよ?! 」
ベトナム帰還兵というのは、1950年代~1970年代に行われた“ベトナム戦争“に従軍したアメリカ兵士達の事である。
有名な所で言えば、映画『ランボー』に登場する主人公ジョン・ランボーがベトナム帰還兵だ。
この戦争はアメリカにとって初となる“実質的な敗戦“であり、アメリカ世論はこの戦いを厳しく批判した。
そしてその戦いに参加し、戦地から帰還してきた兵士達さえも、世間から様々な迫害を受けた。
それもこれも、原因は北ベトナム側が取った広報戦術の成果による所がとても大きい。
この戦いはアメリカ兵達にとって大量のゲリラとの戦い、すなわち“武装した民間人“との戦いであった。
この戦場には最前線(フロントライン)というものが無く、アメリカ兵達はいついかなる時も、常に武装したゲリラからの脅威に晒された。
どこにいようとも、片時も心休まる時など無かったという。
この戦地では現地民の大人達だけでなく、幼い子供までが手りゅう弾を持ち、トテトテとこちらに向かって歩いてきた。
それを撃たなければ、こちらが死ぬ。敵と民間人の区別など、もはやつくハズもない。
しかしながら戦争のルール、国際戦時法にはしっかりと「民間人を殺してはならない」と記載されているのだ。
ベトナムの民間人たちが襲ってくる、アメリカ兵達はやむなくそれを迎え撃つ。
その戦闘の中でもし幼い子供が殺されよう物ならば、すかさずその映像と情報はベトナム側の手によって、『アメリカ国民に対して拡散された』
――――アメリカ兵達が子供を殺した! 民間人を虐殺している!! なんて酷い事をするんだ!!
そして内地にいるアメリカ国民達はこのニュースに憤慨し、世論は「戦争反対」へと傾く。
そんな風にしてアメリカは、ついにはこの戦争を継続する事が出来なくなった。
実質的な、敗戦である。
そしてこの広報戦術がもたらした最大の弊害として、アメリカ国民達は、戦地から帰って来た若者達までもをバッシングした。
――――あの戦争は無駄だった! この世はラブ&ピースだ!
内地で安全に暮らし、自由と正義を掲げたアメリカ国民達が、帰還した兵士達に向かい高らかにそう歌う。
そして命からがらあの地獄から帰ってきた自国の若者達を、故郷の人々は『人殺し』と呼んだ。アメリカの恥だと、罵ったのだ。
ベトナム帰還兵とはつまり、そういった連中の事である――――
『――――に、西住……。もうダメだ、俺はここにはいられない……』
『ベトナム帰還兵さんチーム! どうしましたか?』
『――――もうここにはいられない。森へ帰る……。
俺達は人から離れ、森の中で生きていくべきなんだ……』
「 !?!? 」
ベトナム帰還兵さんチームのメンバーは、基本的に全員PTSD(心的外傷後ストレス障害)に侵されている。
凄惨な戦争体験によって、その心に深い傷を負ってしまっているのだ!
彼らは日常的に幻覚症状、幻聴に見舞われ、たとえ日中であっても頻繁に死んでいった仲間達の声を聞く。幻覚を見る。
眠れば夢の中にまで凄惨な戦争体験がフラッシュバックし、夜まともに眠る事すら出来ない。
大きな音に怯え、大きな声に怯えた。身体中から汗が吹き出し、その場から一歩も動けなくなった。
そして日常的に、突発的なパニック症状に襲われた。
ベトナム帰還兵さんチームの車長“ジョニー“。
彼はベトナムの戦地から帰り、家族の待つ家へと帰った時……、一番最初に母に向かって、こうお願いをした。
――――ママ、決して俺の身体に触れないでくれ。俺の後ろに立たないでくれ。
――――――――寝ている俺を、決して起こさないでくれ……。
真剣な表情をし、必死でお願いをしたのだ。
……しかしその一週間後、うっかりその約束を忘れたジョニーの母は、彼を起こしてあげようとその身体に触れ、優しくゆすり起こそうとした。
次の瞬間――――ジョニーは母の身体に覆いかぶさり、その首を絞め上げていた。
戦場を経験したジョニーの身体と精神が、考える間もなく彼を動かしたのだ。
…………その日の内に、ジョニーは家を出た。それからジョニーはずっと、アメリカ大陸北西部にある森の中で、一人暮らしている。
もう彼は、人と関わって生きていく事は出来ない。出来なくなってしまっていたのだ。
――――人が怖いワケじゃない。 人と関わった時、“俺が何をしでかすか“が怖いんだ。
確かにベトナム帰還兵たちは自国民たちに迫害されてきた。しかし本当に恐れているのは他人ではなく、こうなってしまった自分自身であったのだ。
ジョニーは西住隊長にこう語る。「俺達は、森の中で生きるべきなんだ」と。
今現在もアメリカ北西部にある森では、1000人もの数のベトナム帰還兵たちが暮らしている。
人里を離れ、人を遠ざけ……、彼らは今も森の中、ひっそりと暮らしている。
………………………………………………
『がんばって下さいベトナム帰還兵さんチーム!
私たちには、貴方がたの力が必要なんです!!』
『――――西住、隊長……』
心の傷なんかに負けないで――――
みほが帰還兵たちの心に語り掛ける。
『みんな揃ってチームなんです! 私たちはひとつなんです!
ベトコン共に、鉄の砲弾をくれてやるんです!』
『――――隊長……ッ!』
「 いやベトコンじゃないわよ私達っ?!?! ただの女学生よ?!?! 」
もうどうなってるんだアンタ達のチームは。なぜベトナム帰還兵がチームにいるのだ。
そもそもジョニーって誰なんだ。お前達は女学院ではなかったのか。明らかにオッサンの声やないか。
ちなみに“ベトコン“とは、北ベトナム側の敵兵の事である。
……そんなこんなをしている内、突然アリサの背後から轟音が響き、そこから敵の物であろう一台の戦車が飛び出して来た。
奇しくもサンダースと同じ、アメリカ産の戦車である。
『――――西住隊長ッ、敵のフラッグ車を発見したぜ!! ただちにファ〇クする!!』
「~~~~ッッ!!!!」
即座に砲身をアリサ車に向けながら、怒涛の勢いで突っ込んでくるベトナム帰還兵さんチーム。
「 いっ……嫌ぁぁぁぁああああああーーーーーーーーーッッ!!!! 」
『――――逃げるヤツぁベトコンだ! 逃げねぇヤツは“よく訓練された“ベトコンだ!!』
『パンツァー・フォー♪』
………………………………………………
その後、必死で逃げ回ったアリサ車をベトナム帰還兵さんチームが追走。パニックを起こしたアリサ車はなんの抵抗も出来ず、哀れ砲弾を喰らい白旗を上げた。
ベトナム帰還兵さんチーム大金星。大洗女学院、奇跡の一回戦突破である。
「――――西住、頑張りな。困ったときゃーいつでも駆けつけてやるぜ」
その後ベトナム帰還兵さんチームは各々が森へと帰っていき、大洗のチームメイト達と別れを告げた。
そして助っ人として参加していたダイオウグソムシさんチーム、隠れキリシタンさんチーム、脱皮したてのザリガニさんチームも、それぞれ元の居場所へと帰っていった。
今後も大洗女子学園、並びに隊長である西住みほを手助けすべく、様々な人々、様々なチームが彼女たちの元へと駆けつけるだろう。
そして必ずや大洗を廃校の危機から救い、みほの手に大会優勝旗をもたらしてくれるハズだ。
頼るべきは、やはり友達――――
西住みほ、謎の人脈である。
「 もぉ~無線傍受は、こりごりよぉ~~~ッ!!!! 」
失恋の悲しみ、ヒステリー。そんな物はこの戦いの中で吹き飛ばされてしまったアリサ。
突然の強襲により情け容赦なく撃破されたが、ベトナム帰還兵さんチームには慈悲の心など一片たりとも無い。死んだベトコンだけが、良いベトコンなのだ!
彼女がベトナム帰還兵たちのようにPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患わずに済んだのは、せめてもの幸いか。
「まったく、戦場は地獄だよね」
サラサラと風に揺れる髪を押さえつつ、西住みほは他人事のように言う。
『ズルい事をしたら、バチが当たる』
この教訓を持って、今後のびのびと戦車道に励んで欲しいなぁと願う、みぽりんであった。