hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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 コロナワクチンによって高熱が出ている状態で、小説を書いてみる試み。






69 ベルサイユのばか

 

 

 

 革命前夜のフランス、ベルサイユ宮殿――――

 

「ハーイ、オスカルサーン!」

 

「ナンデスカ、アンドレサーン!」

 

 その日、二人は宮殿の庭園で、朗らかに「やぁ」と右手を挙げ合った。

 

「聞いてくれオスカル! 人間は首の後ろを殴ったら、気絶するらしいデース!

 お前チョット、俺の首の後ろ、殴ってみて下サーイ!」

 

「オーウ! ニンジャー!」

 

 オスカルは辺りをキョロキョロ見回し、おもむろに大きな石を拾い上げた。

 

「ワーオ! オスカルサーン!

 ソレとっても大きな石ですネー!」

 

「ハーイ! 私がんばって選びましター!

 これで貴方を、ぶん殴ろうと思いマース!」

 

「でもオスカルサン! きっとその石なら、首の後ろじゃなくてもいけマース!

 ()()()()()()()()()()()()!」

 

「オーウ!」

 

 なんという事でしょう! ビックリ!

 そう言わんばかりの顔で、オスカルは驚く。

 

「アンドレ死んだら、私悲しいデース! 泣いてしまいマース!」

 

「オスカル泣いたら、俺も悲しいデース! やり切れないオモイ!」

 

「でも私、()()()()()()()()()()()

 この石で、おいっきりやりタイ! 振り下ろしてやりタイ!」

 

「ワーオ!」

 

 なんという勇猛さだろう! 流石はオスカル!

 今度はアンドレが、感嘆の声をあげた。

 

「お前のファイティングスピリッツ、正に烈火の如シ!

 眠れる獅子を、起こしてシマッタ!」

 

「振り下ろしタイ! 叩きつけタイ!

 人を殺したいデス!」

 

「こうなったオスカルは、誰にも止められナイ!

 俺には分かル! 長い付き合いだモノ!」

 

「我ら竹馬の友! オサナナジミ!

 でも殺しタイ! この大きな石デ!」

 

「とても巨大な石! こんな立派なヤツ、見た事ありまセン! 重ソウ!」

 

「こんなのを、持ち上げる事が出来る私、めっちゃカッコイイ!

 女の細腕と思い、侮るナカレ!」

 

「オスカルのフィジカルは、日々の弛まぬ修練により生まれタ!!

 俺はお前を、誇らしく思ウ! ベルサイユの薔薇!」

 

「アンドレに褒められる時、私の心は、バラ色に染マル!

 まるで天上にいるかのような、幸せな気持ちに満たされル! チュキ!」

 

「しかしオスカル!

 お前はそんなチュキな人を、自ら殺そうと言うのカ!」

 

「オーウ!」

 

 再びオスカルは、驚きの声。

 どうしましょう、どうしましょうとオロオロ。とても困っている様子。

 

「アンドレが死ぬのは嫌デース! でも石を振り下ろしたいデース!」

 

「ワガママは女の罪! それを許さないのは、男の罪!」

 

「あ、ならアンドレ? お前が死ななければ良いと思いマース!

 石を振り下ろされ、頭蓋が粉砕しても、()()()()()()()()()

 それでオールOK☆」

 

「――――何かを試されていル!

 いま俺の愛的なヤツが、試されているノダ! この命を懸けよト!」

 

「死んではならヌ! お前だったらイケル!

 アンドレであれば、たとえ巨大な石を振り下ろされても、タンコブで済みマース!」

 

「まさか、お前の信頼が重いと、感じる日が来ようトハ!

 愛の牢獄!」

 

 オスカルは『せーの!』と声をあげ、石を振り下ろす態勢に入る。

 そのジャスドゥイットと言わんばかりのキラキラした笑みに、アンドレは冷や汗をかく。

 

「お前の為なら死ねル! 愛の為ナラ!」

 

「愛は素晴らしいデース! このオスカル、一番チュキな言葉!」

 

「だが時に愛は、人を傷つけル!

 自分の身さえも、炎で焦がス!」

 

「コイツめっちゃカッコいい事を言ウ!

 別にイケメンじゃなくとも、アンドレは素敵な人と思ウ!」

 

「たとえこの身が焼き尽くされようとも、お前を愛する事を、決して止めはしナイ!

 命尽き果てようとも、お前への愛は不変ダ!

 愛は思うままに! 愛は心のままに! 愛h

 

「なんかアンドレが、()()()()()()()()()

 適当なことを喋り、私の腕が疲れるのを待っテル!」

 

 なんかイイ感じのことを言いながらも、アンドレの膝は高速でガクガク震えていたので、それがバレてしまったのだ。

 

「ええい、そこにナオレ!

 脳漿をぶちまけ、ヴァルハラへ旅立テ!」

 

「もう気絶とかじゃなく、殺すつもりでイル!?

 お前の野生を呼び覚ましてしまった、俺のアヤマチ!」

 

「腕めっちゃ疲れてキタ! もう辛抱たまラヌ!

 満を持して、振り下ろそうと思ウ!」

 

「その巨大な石により、俺の頭が砕け散る未来が見エル!

 地面に叩きつけた果実のようになりマス!」

 

「さらばだアンドレ! 私の愛しい人! 死ぬがヨイ!」

 

「ああオスカル! せめてあの世でお前の幸せを祈ろウ!

 おはようからオヤスミまで、暮らしを見つめル! アンドレデス!」

 

 アンドレはぎゅっと瞳を閉じ、心の中で『くそったれ!』と唱える。

 一瞬、何故かは分からないのだが、フランスなど滅んでしまえと思った。みんな死んでしまえみたいな気持ちだった。

 しかし、アンドレが死を覚悟した、その瞬間――――おおなんという事か! オスカルが石をポイッと手放し、地面に蹲ったではないか!

 

「出来ナイッ! 愛する者を殺すなど、私には出来ナイ!!」

 

 こんな土壇場になって、自分の本当の気持ちに気付く。

 失ってしまう瞬間に、オスカルは真実の愛に目覚めたのだ。

 

「お前を失ったら、生きていけナイ!

 アンドレは、私の木漏れ日!

 太陽を失くし、明日さえ見えぬ闇の中で、どうして生きていけヨウ!?」

 

「ああオスカル! なんと気高き女!

 お前は自分自身に打ち勝ったノダ! 打ち破ってみせたノダ!」

 

「――――なので首の後ろを殴るだけにスル! どりゃあぁーーッッ!!」

 

「グワーーーッ!!」

 

 ドスゥ!! という重い音と共に、ゴギィ! という鈍いが響き、アンドレが力なく倒れ伏す。

 あしたのジョーみたいに安らかな顔をして、真っ白になった。

 

「 アンドレが死ンダ!! 首折れて死ンダ!!!! 」

 

 小〇建太並の逆水平チョップを放っておきながら、オスカルは「シンジラレナイ!」みたいな表情。

 なんで死ぬの!? そんなつもり無かったのに! みたいな態度を取る。

 一度野性を開放した事により、とてもスッキリしたオスカルは、ここに来てようやく正気に戻ったのだ。

 

「死ぬなアンドレ!! 君死にたもう事ナカレ!

 私を残して逝かないでクレ! アンドレェェーーッッ!!!!」

 

 おお神よ! 彼を救い給え! いったい彼が何をしたと言うのですか!

 そうオスカルは彼の身体を抱きしめ、空に叫ぶ。

 私から愛を奪わないで! おーいおい! と泣く。

 重ねてになるが、そんなつもりは無かったのだ。

 

「泣くんじゃないオスカル! 俺はここにイル!」

 

「アンドレ!?」

 

 まるで純粋な子供のように泣くオスカル。

 その軽く滝のような勢いの涙を、薄く目を開けたアンドレが、優しく人差し指で拭ってやる。

 

「なんと! 生きていたのかアンドレ! 生きとったんかワレ! とてもジョウブ!」

 

「ああ、なんとかアライブ!

 こんなチョップを喰らっても、生きてる俺は、きっと特別な存在なのだと感じましタ!」

 

 死んだと思われた恋人の復活。

 失ってしまったと思った愛を、再び取り戻したのだ。

 ああなんと素晴らしい事だろう! 神様ありがとう! 愛は不滅也や! スゴイ!

 

「アンドレ生きてル! 意外とダイジョウブ!

 ならば! ()()()()()()()()()()()()()()、という事に他ならヌ! ワンモアセッ!」

 

「お前のサディスティック・デザイア、マジとんでもナイ!

 喉元すぎれば、熱さ忘れル!」

 

 まるで刃牙に出てくるヤクザの少年のように、オスカルがグググッと攻撃の構えを取る。

 なんか『次こそは決めるッ!』みたいな確固たる意思が漲ってた。

 

「オスカル! 人間は首の後ろを殴ると気絶する、という説は立証されタ!

 ならバ! もう我らが戦う理由は無イ! なきナリ!」

 

「そうカ!

 しかし騎士たる者、一度拳を抜いたからには、獲物を仕留めるまで収まりはつかヌ!

 ドウシヨウ?」

 

「騎士の誇りが、我らを(さいな)ム! 愛の前に立ちはだカル!」

 

「アンドレサン! なんとかもう一度、がんばってクダサイ!

 お前ならいけマス!」

 

「いや、今度こそ死にマス!

 俺はそう確信しているシダイ! 思い(とど)マレ!」

 

「ああアンドレ! 私を愛したばかりに、お前は死ぬのカ!?

 愛とは、かように残酷な物なのカ! 神ヨ!」

 

「なんかカッコいい事を言い始めタ!

 こいつマジでやる気ダ!」

 

 大粒の涙を流しながら、それでも雄々しく手刀を構えるオスカル。

 この女を愛した事、それこそが俺の誇りだと、アンドレは胸で十字を切る。

 この命、お前に捧げると。

 

「でも俺もヒトノコ! 死にたくはナイ!

 そんなにチョップしたいのなら、マリー・アントワネット様にシロ!」

 

「マリー・アントワネット王妃ニ!?

 そんな事が許されるのかアンドレ!? キョウガク!」

 

「ああ、アイツの散財グセのせいで、今フランスは財政難デス!

 アホみたいに高いネックレス買ったりするから、国が傾いてるノダ!」

 

「あら、ごきげんようオスカル♪ それにアンドレ♪

 こんな所で何をしているのでs

 

「――――お覚悟をアントワネット様!! 天誅ゥゥウウーーッッ!!!!」

 

「ぎゃああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草むらに 名も知れず 咲いている花ならば

 

ただ風を受けながら そよいでいれば いいけれど……

 

 

私は薔薇の さだめに生まれた

 

華やかに激しく 生きろと生まれた

 

 

薔薇は薔薇は 気高く咲いて

 

薔薇は薔薇は 美しく散る

 

 

 

 

 

――――ジュテェ~ム……オスカァル!!(巻き舌)

 

 

 

 

 

 

 


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