hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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7、とても嫌なチーム名で、ガールズ&パンツァー。2

 

 

 本日も晴天なりッ! 今日は全国高校戦車道大会の第二回戦である。

 

 聖グロリアーナ女学院隊長ダージリンは、現在観覧席の傍に構えた豪華なテーブル席に座っていた。

 そしてこれから始まる大洗女子学園対アンツィオ高校の試合を、今か今かと待っていた。

 

「ペコ、こんな言葉を知ってる? 『……お前の狂気を、見せてみろッ!!!!』」

 

「3D格闘ゲーム“ソウルキャリバー“のキャラクター、

 ジークフリートの言葉ですね。しかし、それがどうかしたのですか?」

 

〈カッ!〉っと目を見開きながら、芝居がかった声で叫ぶダージリン。それをあっさりと受け流すオレンジペコ。

 彼女の知識や知恵袋のキャパは、いったいどうなっているのか。この地球上に彼女の知らない名言などは、もう無いんじゃないかと思える。

 

 とにもかくにもダー様は、親愛なる後輩オレンジペコちゃんと共に至福のティータイム中である。今日も元気だ紅茶がうまい。

 

「いえいえ、なんでもありませんのよ? ただちょっと、

『ワタクシ達は、皆様の声援に支えられているのだなぁ』と、

 そう実感しただけですわ」

 

 お紅茶を一口飲み、ニッコリと笑うダー様。至福の気分である。

 出来る事なら皆様の所まで赴き、もうキスの雨でも降らせてやりたい気分だ。本当にありがとうございます。

 

「それにしても、大洗はどうでしょうか?

 アンツィオ高校相手に勝てますでしょうか?」

 

「心配ないわペコ。彼女たちならば、きっと素晴らしい試合を

 見せてくれるハズよ。ワタクシが太鼓判を押してあげる」

 

 まぁ大洗の選手の中には、ぶっちゃけ「……彼女?」と言わざるを得ないような連中の姿も、だいぶ散見されるのだが……。

 みんなパッツンパッツンになりながら、大洗の制服にその身を包んでいる。

 

 今にも破れそうになった制服たちは、まるで主を拒む黄金聖衣(ゴールドクロス)のようにミチミチッと音を立て、抗議の声をあげている。

 大洗の制服たちも、さぞコイツらに着られるのは不本意な事だろう。

 こんな事の為に、生まれてきたんじゃないのだ。

 

 そんな事を想いながらも、ダージリンは先日の試合を回想する。

 彼女たち聖グロリアーナが、大洗女子学園との練習試合を行った時の事だ。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「タイ人ボクサーさんチームは、例のポイントに!

 高所を取って攻撃してください!」

 

 

 戦場に大洗の指揮官、みほの声が響く。

 ちなみにタイ人ボクサーさんチームはボクシングと言うより、どちらかと言えばムエタイやキックボクシングの選手達だ。

 

 重量級の選手である彼らはタイ国内では試合を組む事が出来ず、対戦相手を求めてこの日本へとやってきた。

 皆一様にそれぞれが家族の稼ぎ頭であり、車長の“アパチャイ・ゲッソムリット“さんなどは、自分のムエタイの腕ひとつで14人もの家族を養っている。

 彼らはサンドバッグを叩く時、「マネーッ! マネェェーーイ!!」と声をあげて殴る。沢山のお金を稼がなくちゃいけないのだ!

 

 しかしながらタイ人ボクサーさんチームは、皆が穏やかな人達ばかり。とても豊かな人間性を持った素晴らしい人達だ。

 一人暮らしをしているみほの事をすごく気にかけてくれており、たまにみほは彼らに夕食をご馳走してもらえる。

 

「すき屋の牛丼さんチームも、同じポイントへ!

 特盛つゆだくで攻撃してくださいっ!」

 

 そして“すき屋の牛丼さんチーム“は、そのタイ人ボクサーさんチーム行きつけの店で働く、店員さん達で構成されたチームだ。

 毎日の過酷な労働を、たったひとりワンオペでこなしているのだ!

 

 すき屋の牛丼さんチームの乗る戦車が、たまたまオレンジ色だった事もあり、「なんかひっくり返した牛丼の容器みたいだよね」という事で、みほに命名された。

 

『いいかみほ……? 俺達はワンオペ業務なんざ、屁とも思っちゃいない。

 だが許せないのはチーズ……、チーズ牛丼だ。

 あのチーズのこびりついた丼を、ただひたすらに洗っている時……、

 俺達はいつも、気が狂いそうになるんだ』

 

 すき屋の牛丼さんチームと初めて出会った時に聞いた、この言葉を……、みほは未だに忘れる事が出来ずにいる。

 みほにとって牛丼とは、すき屋の牛丼の事だ。いつも美味しいご飯をありがとうございます。お世話になってます。

 

 

「ダ~ジリンさ~ん。どぉ~するの~?

 大洗チームは山の上に陣取るみたいだよ~?」

 

「えぇ……そうねタヌキさん。そのようですわね」

 

 たった今ダージリン車に通信を入れてきたのは、“青いタヌキさんチーム“の車長である、青いタヌキさんである。

 実はこの試合、大洗側にもグロリアーナ側にも、それぞれ5両づつの『全然関係ない戦車チーム』が参加をしていた。

 

 当日みほの応援にと集まった数多の戦車チームの者達は、まるで草野球をしている少年達の所に突如として現れ「オイおっちゃんも打たせてくれ! おっちゃんも打たせてくれ!」と懇願してくる謎のオッサンのように、この試合への参加を熱望した。

 

 それにより聖グロリアーナ側には、現在青いタヌキさんチームを始めとして“廃課金ゲーマーさんチーム“、“イスラム教徒さんチーム“、“男だけどTバックさんチーム“なども参加をしている。

 ダージリンはこの試合、その者達も率いて戦うという変則的な指揮を強いられていた。

 

「……あっ! 敵戦車を発見したよダージリンさん!

 よぉ~し、ぼく行ってくるねぇ~!」

 

「ちょっ……! お待ちになってタヌキさん!?!?」

 

 そして青いタヌキさんチームは単独で敵へと突貫していき、現在大洗側の敵戦車である“異能生存体さんチーム“との死闘を繰り広げている。

 

――――単独で戦場を席捲出来る能力を持つ、青いタヌキさんチーム。

――――対して、絶対に落ちる事はないと自称する、異能生存体さんチーム。

 

 炎の匂い染み付く「むせる」戦いの幕が今、切って落とされた。

 

「……なまじ、どんな事でも出来るほどの能力を持っている所が、

 余計タチが悪いですわね……」

 

 彼らは「こんな事グッド! 出来たらナイス!」を信条として戦う、謎の青いタヌキさん率いるチームだ。あんな夢こんな夢がいっぱいある少年たちなのだ。

 

 ちなみにダージリンは、試合前にお弁当をモシャモシャ食べているイスラム教徒さんチームの姿を発見し、「それ豚肉ですけれど、大丈夫ですの……?」と彼らに声をかけた。

 するとイスラム教徒さんチームは「いやいや! ハッハッハ!」と朗らかに笑ってそれを受け流し、そのまま何事も無かったかのように食事を続行した。トンカツとかをモグモグ食べていた。

 

 そして廃課金ゲーマーさんチームは戦車内でも常にスマホをいじっており、もうなんの役にも立たなかった事を、ここに付け加えておく。

 チームの車長であるハンドルネーム“ポイズン山田“氏は、その生活を顧みる事の無い重度のゲーム課金により、嫁に逃げられてしまった。

 

 今回二度目の登場となる“男だけどTバックさんチーム“の情報についてだが、諸事情により、ここでは割愛させて頂く。

 

「と、とりあえずは強襲浸透戦術を……。ちょっと貴方達! 強襲し……

 強襲浸透しろと言っているでしょう!!!!」

 

『いやいや! ハッハッハ!』モグモグ

 

 

 そんな彼らを率いて戦ったダージリンであったが、勝ちはしたものの、その勝負は紙一重。最後は隊長であるみほの戦車に良いようにやられ、まさにヒヤヒヤものの勝利であった。

 

 もしチャーチルの分厚い装甲がなければ、いったいどうなっていた事か。そして青いタヌキさんチームがいてくれて本当に良かった。

 そしてダージリンはこの勝負の内容に非常に満足し、西住みほを“西住流の妹“ではなく、大切な好敵手として認めたのだった。

 

 

 それにしても、今回の試合は本当に貴重な経験であった。

 変な名前のチーム達に散々振り回されはしたが、戦車チームの隊長を預かる者として、非常に得難い経験であった事は間違いない。

 

――――こんなチームもいるのか。こんな“戦車道“もあるのか。

 

 自分達の戦術とは違う、自由で楽しさに溢れた戦車道。パッツンパッツンな制服を着た者達を見ながら、ダージリンは思う。

 ダージリンは感謝の気持ちを込めたティーセットをみほに対して贈り、そしてそれを横からポイズン山田氏に奪われそうになるのを必死で阻止しながら……、そんな事を考えていた。

 

 ちなみに今日の試合には戦術の関係で参加出来なかったが、ウチのメンバーであるローズヒップとタイ人ボクサーさんチームが非常に仲良くなった事を、ここに付け加えておく。

 花ような笑顔で笑うローズヒップ。その頭を優しく撫でてやるタイ人ボクサーさんチームのメンバー達。

 

 今度一緒に、すき屋の牛丼を食べに行くそうな。

 それをちょっとだけ羨ましく思う、ダージリンであった。

 

 

………………………………………………

 

 

「また何かあったら、ワタクシも大洗に駆け付けようかしら?」

 

 

 その時は覆面でも被って、そうですわね……“グレートブリテン及び北アイルランド連合王国さんチーム“なんて言うのはどうかしら?

 そんな事を考えながら、大洗の試合を見守るダージリン。ちなみに上記の「グレートなんたら~」というのは、イギリス国の正式名称である。

 ワタクシ、生粋の日本人でございますけれども。

 

――――関係ないけれど、ワタクシだったらいけそうな気がする。

――――――ワタクシならば、あの面子の中に入れそうな気がする。

 

 なにやら彼らとは、同じ匂いを感じるわ――――

 ワタクシの居場所は、実はあそこだったりするのかもしれないと、妙な親近感を感じてしまうダー様であった。

 

 

「ダージリンさま! 試合が動きました!

 アンツィオが設置したニセモノを、大洗車が破壊しています!」

 

 

 そんな想いにふけっていた所を、ペコの声によって呼び戻されたダー様。

 現在大洗の“あるチーム“が一斉に戦車から飛び出し、そして絵の描かれた板を破壊しにかかっている。

 

『腐ったミカンさんチーム! おねがいします!』

 

『オウッ! 任せときな!!』

 

「 腐ったミカンさんチーム!?!? 」

 

 なにやら知らないうちに、またニューカマーが大洗へと参入していたらしい。

 ダージリンは無線(受信専用)から流れる音声を聞きながら、胸をキュンキュンさせていた。

 

 ちなみに今がんばって板を破壊している“腐ったミカンさんチーム“は、いわゆる不良のレッテルが貼られた者達により構成されている。

 その命名のきっかけは、自分の学校の教師から言われた、この言葉。

 

『――――お前達は腐ったミカンだ! ひとつ腐ったミカンが箱の中にあれば、

 そのまわりも全て腐らせてしまう!』

 

 だから学校など辞めてしまえ! お前達は必要のない人間だ!

 過去に自らの担任教師からそう言われた経験を持つ、そんな悲しい者達の集まりだ。

 しかし大洗の隊長であり、彼らのクラスメイトでもあるみほは、真っ向からその言葉を否定した。

 

『――――みなさんは腐ったミカンなんかじゃありません!!

 私たちの大切なともだちなんです!』

 

 ……それから彼らはよく、みほと行動を共にするようになった。

 今では休日などに、地域のボランティア活動にいっしょに参加している。鋼の友情で結ばれているのだ!

 

『ぶち壊してやるぜこんなモンぁッ!!

 何枚窓ガラス割ってきたと思ってんだ俺達がぁぁあああーーッ!!!!』

 

『そうです! ぜんぶ割っちゃうんです!

 おもいっきりバットを振りかぶるんです!!』

 

『嫌ぁぁぁああああ! マカロニ作戦がぁぁあああーーーー!!!!』

 

 今は仲間達の為に、そのバットを振るう――――。

 もう腐ったミカンさんチームは、腐ったミカンなんかじゃないのだ!!

 

 そんな無線からの音声を聞き、もう身体の震えが止まらないダー様。

 

「熱い……熱いですわ大洗っ! 飛び出せ青春ですわっ!!」

 

「ダージリン様……落ち着いてください」

 

 もう「3年B組!」だの「レッツビギン!」だのと、ワケのわからない事を言い出すダー様。普段どんなTVを観ているのかこの人は。英国文化はどうした。

 

「こんな言葉を知ってる? 『俺は今から、お前達を殴……

 

「あっ! また試合に動きがありましたよダージリンさま!!」

 

 ついにめんどくさくなったか、無視され始めたダー様。

 

「大洗のフラッグ車が、アンツィオ車に囲まれています!

 いくらCV33とはいえ、この数は危険です!」

 

 試合は中盤戦へと突入し、ただいま大洗最大のピンチ。名将アンチョビの名采配により、みほの乗ったフラッグ車が敵に囲まれてしまう。

 乗りと勢いにのったアンツィオ車達が、次々にⅣ号戦車へと襲い掛かった。

 その時…………。

 

 

『 ――――みほの戦車に、何するのよっ!! 』

 

 

 突然その場に颯爽と現れたティーガーが、次々にアンツィオ車たちを蹴散らしていく。その姿はまさにオオカミ。……いや、獲物に喰らいつくクロコダイルのようだ。

 

『エリk…………ワニさんチーム! ありがとうございます!!』

 

『誰がエリカだワニ! 私はワニさんチーム所属の、名も無き戦車乗りだワニ!!』

 

 ……あ~。みほが心配で、出てきちゃったのねあの子……。

 そんな生暖かい空気が、大洗車と聖グロ観戦席の間に流れる。

 またメンドクサイのが、大洗に参入したものだ。しかしながらワニさんチームは、見事CV33達の駆逐に成功する。

 

『ではワニさんチーム、行きましょう!

 いっしょにフラッグ車を叩きに行こうワニカさん!』

 

『 誰がワニカさんよ! 』 

 

 一応ワニのマスクをかぶっているものの、その正体はすでにバレバレであった。なんだかみほも、わかっててやっている節がある。非常に微笑ましい光景であった。

 

『みぽりん! 敵フラッグ車の位置がわかったよ!

 今そこに“日雇い労働者さんチーム“が向かってる!』

 

「 日雇い労働者さんチームッッ!?!? 」

 

 もう目を見開いて反応をするダージリン。どんだけワタクシの心を揺さぶれば気が済むのか! 大洗女子学園は!!

 

 いまアンツィオのフラッグ車の元へと向かっている“日雇い労働者さんチーム“は、バンドマン、漫画家志望者、そして元リーマンのオッサン達などで構成されているチームだ。

 ……今おもわず“オッサン“という言葉を使ってしまったが、そこは各自が脳内変換で大丈夫な事にしていって欲しい。これは『女子戦車道の試合』である。

 

 勘違いしないで頂きたいのが、この日雇い労働者さんチームに所属するメンバーたちは、それぞれがもう、非常に才気溢れる者達だ。

 

 バンドマンである車長の“ロック高木“さんは、そのギターテクニックで大勢の観客を魅了しているし、漫画家志望のPN“サンバディ鈴木“さんの漫画は、現在なんと新人賞の最終選考まで残っている。

 そして元リーマンだった“室井康夫“さんは、もうバリバリのやり手として社内で知られていたし、今は寝たきりとなってしまった祖父の介護をしてやりながら、空いた時間を使って働きに出ている感じなのだ!

 

 それぞれがそれぞれの分野で非常に有能な人材であり、みほにとって、凄く頼れるメンズたちだ。

 ただ中には最年少の“小泉明夫“さんのように、とても有能ではあるのだが「組織という物に、属したくないんです」という、若干心を拗らせてしまっているメンバーもいたりする。なんとか心の扉を開き、がんばっていって欲しい。

 

 関係ないのだけれど、この試合が始まる前……。仲間たちと笑顔で笑い合い、今まさに青春を謳歌している大洗の女学生たち。

 その姿を日雇い労働者さんチームのメンバーたちが、何だか「とても眩しそうに見つめていた」事を、ここに付け加えておく。本当に関係のない話だが。

 

「というか、戦車乗ってる場合なんですか……、

 日雇い労働者さんチームは……」

 

「良いのよペコ。彼らは今、とても生き生きとしているわ」

 

 友人の為に戦う。その姿の、何と美しき事か。

 

 

 そして試合は終盤戦へとなだれ込み、現在は大洗に新しく参入した“現役自衛隊機甲科女子さんチーム“が、CV33共を相手に、まさに無双の活躍をしている。

 彼女達は通称「戦車道女子がちやほやされてるのに、国防に励む自分たちが賞賛されないことにムカついた現役自衛隊機甲科女子さんチーム」と呼ばれている。

 貴方達がいて下さるお陰で、我々日本国民は日々、幸せな生活をおくる事が出来ているのだ!

 

――――どうか諸君、耐え忍んで欲しい!

 

 そんな偉い人の言葉が、どこからか聞こえてきたような気がした。

 

 そんな鬱屈を抱えた彼女たちの活躍もあり、この試合はそろそろ“詰み“の段階に入ってきた。そんな雰囲気をダージリンが感じ取っていた時、突然無線機(受信用)から、アンツィオ高校の隊長であるアンチョビの、絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

 

『いっ……嫌ぁぁぁああああーーッッ!!

 助けてぇぇええええーーーーーッッ!!!!』

 

『――――■■■!! ■■■■■ッッ!!』 

 

 電光掲示板を見てみると、どうやらフラッグ車であるアンチョビの戦車が、一台の大洗車によって、今まさに激しく追い回されている様子が見て取れる。

 しかしその大洗車からの音声であろうそれは、ダージリンやペコには全くと言って良い程に“聞き覚えのない“言語であった。

 

 

『センチネル族さんチーム! がんばって下さい!!』

 

「 !?!?!? 」

 

「 !?!?!? 」

 

 

 思わず今聞いた言葉と、自分の耳を疑うダージリン&ペコさん。

 しかしそんな二人を置き去りにして、センチネル族さんチームの戦車が果敢にアタックを仕掛けていく。

 

『――――■■■!! ■■■■■ッッ!!』

 

 センチネル族さんチームの戦車には、その屋根の上に“身体を赤くペイントした“半裸の男たちがたくさん乗っかっている。

 そしてそこから弓を構え、もう効こうが効くまいが、ひたすらにP40に向かってバシュバシュと弓矢を放ち続けていた。

 無線機から、ドゥーチェやアンツィオ生たちの悲鳴が木霊する。

 

「センチネル族……。まさかあの伝説の……」

 

「……知っているの、ペコ?」

 

 聖グロリアーナの頭脳。数多の知恵を有する彼女の口から、その情報は語られていく。

 

 

………………………………………………

 

 センチネル族は、インド領アンダマン・ニコバル諸島に属する小さな孤島、「北センチネル島」に住んでいる民族だ。

 その島は通称「世界最後の秘境」と呼ばれており、また「絶対に行ってはいけない場所」として広く知られている。

 

 そこに入ってしまった訪問者の多くは重症を負い、また数多くの死亡例が確認されているからだ。

 

 というのも、その島に住むセンチネル族は非常に好戦的な事で知られており、近づく者は誰であれ、必ず襲撃されるからだ。

 彼らは“6万年“も前からここに暮らしていると推測され、島外の世界との接触を一切拒否。

『今現在も石器時代の生活を維持している』という、世界で唯一の民族として知られる。

 

 インド政府は現在に至るまで何度も彼らとの接触を試みたが、その全てが失敗に終わっている。

 時に近代兵器を装備するインド海軍に対しても、矢の雨を浴びせるなどして接触を断固拒否。

 贈り物を携えて対話を図ろうとする試みも全て拒否され、上空から近づいたヘリコプターに対してさえもセンチネル族達は矢を放ち、その全てを撃退していった。

 

 そしてついにはインド政府もセンチネル族に干渉することをあきらめ、現在北センチネル島は、実質的にセンチネル族の主権が認められている。

 

 上記の通りネット界隈では「絶対に行ってはいけない場所」としてこの島は知られており、その身体を真っ赤にペイントしたセンチネル族は、ある種の畏怖を持って広く知られている。

 

 ちなみにこれは余談ではあるが、全然関係がないであろう人物の手により、現在フェイスブックには何故かセンチネル族のページが開設されているそうな。

 良かったら、ぜひ探してみて下さい。

 

 そんなセンチネル族の若き戦士たちが今、ここ全国高校戦車道大会の舞台に舞い降りた。

 親友である、西住みほの危機を救う為に――――

 

 正しく怒涛の勢いをもって、センチネル族さんチームがフラッグ車へと食らいついていく。インド政府のヘリコプターですら撃退せしめたその攻撃に、恐怖で逃げまどうアンチョビ車。

 

 

『■■! ■■■ッ!』(センチネル族さんチーム! あと一押しです!)

 

「 !?!? 」

 

「 !?!? 」

 

 

 恐らく西住みほは、世界でただ一人の『センチネル語を解する日本人』である。

 いや、未だその実状すらまったく明らかになっていないセンチネル族の言葉が分かる人間など、世界広しと言えども他にいようハズもなく。

 ゆえにみほは、世界で唯一と言って良い『センチネル語を解する外部の人間』であろう。

 

「なんで喋れますの!? センチネル語を!!」

 

「どうなってるんですか西住さん! なぜ貴方はセンチネル族さんと!!」

 

 ……いやまぁ、以前みほは西住の家を追い出されてしまった時、なんか全てが嫌になっちゃった時期があるし。

 そしてただなんとなしに世界中を巡っていた経験が、実はあったのだけれど。

 

 その時、偶然にもたどり着きました北センチネル島。

 現在みほとセンチネル族は大の親友。まさにズッ友なのだ!

 

 ちなみにインド政府からのヘリが北センチネル島へとやってきた時、その何度かはみほの指揮により、それを撃退している。

 まったくみほは、大した戦士だな! これはセンチネル族の酋長の言葉である。

 

―――6万年もの間、外界との接触を拒んできたセンチネル族の、心の扉を開く。

 

 西住みほ。 彼女はまさに、コミュ力の化身であった――――

 

 

『 もーダメッ! 死んじゃうッ!

  戦車とか装甲とかもう関係ないッ! 私たち死んじゃうッッ!! 』

 

 

 ドゥーチェアンチョビのガン泣きしながらの悲鳴が、車内を超えて天地に木霊した。

 

 

………………………………………………

 

 

 やがてセンチネル族さんチームの放つ矢の雨による猛攻により、ドゥーチェアンチョビの乗るフラッグ車は白旗を上げた。

 恐らくは戦車道の長い歴史の中、唯一『弓矢によって戦車を撃破』した例となる事だろう。

 

 ……でも実の所、ホントはアンチョビさんが自分で“降伏ボタン“を押しちゃったせいなのかもしれない。

 赤いペイントを施した半裸の男たちに追い回されるという貴重な経験は、彼女たちの心に消えない傷を残した。

 

「――――■■■■、■■■■?」

 

「ありがとうございますセンチネル族さん。わたしこれからがんばります♪」

 

 固く握手を交わし、彼らとの再会を誓うみほ。

 対戦した者達にとって、どうであったのかは、知らない。

 しかし西住みほにとって……、彼らは島と家族を愛する、そんな心優しい人々であったのだ。

 

「――――サ、サヨナラァ。ミホゥ!」

 

 そうしてセンチネル族さんチームは、彼らの故郷である北センチネル島へと、戦車で帰っていった。

 大洗のメンバー達はそれに手を振って見送り、またセンチネル族さんチームが帰って行った事によって、ようやくドゥーチェアンチョビ率いるアンツィオ生たちがみほの元へと顔を出してきた。

 

「……な、なんかもう、とんでもない目に合ったような気がするけどッ!!

 でも試合が終われば、全てノーサイドだ!

 大洗の諸君、これから私たちと一緒に宴会をしよう!!」

 

 

 そして共に激戦を繰り広げた大洗のメンバーたちに、アンツィオ生からイタリア料理が振る舞われた。

 そこには観戦していた聖グロリアーナのダージリンたちも加わり、今日の試合の感想などをみんなでワイワイと語り合った。

 

 

(ありがとうセンチネル族さんチーム……。ありがとうみなさん。

 私たち、必ず優勝してみせます)

 

 

 鉄板ナポリタンに舌鼓を打ちながら、仲間たちと共に心からの笑顔を浮かべる。 

 そんな幸せな優しい時間を堪能する、西住みほであった。

 

 

………………………………………………

 

 

 余談ではあるが、今を輝く乙女たちがそうやって青春を謳歌していた時……。

 とても眩しそうな目をした日雇い労働者さんチームが、その光景をじっと見つめていた。

 

 

 

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