「あ、あなたトトロってゆーのね……(震え声)」
――――犯罪都市ニューヨーク!
拳と銃弾が絶え間なく飛びかい、強盗やレイプやドラッグが、さも当然のように横行する街。
そんな都会の生活に嫌気が差した主人公が、トトロの舞台である“塚森”という田舎町に引っ越して来た所から、この物語は始まる。
「日本人はクソですわ……劣等民族ですわっ……!」
その日、悪役令嬢こと【浜田マリアンヌ】は、豪華な調度品がズラリと並ぶ自室にて、愛用のレスポールをジャカジャカかき鳴らしていた。*1
彼女はまだ10才だというのに、その指さばきは非常に熟達しており、まるで自分の身体の一部であるかのように、ギターを抱える姿が様になっている。
だがその見事な演奏とはうらはら。彼女は「ぷっくぅー!」とふてくされているようだ。
「――――なぜラウドネスを聴きませんの!? ギターウルフを知らないの!?
貴方がたの国のバンドでしょうが! イカれてますのっ!?!?」
転校初日だった今日、マリアンヌは格下である黄色人種共と交流すべく、誠に遺憾だが
ラウドネスの歴代ボーカルで誰が一番すき? わたくしはやはりマイク・ヴェセーラですわ~♪
スリーピース(楽器が三つ)を感じさせない、ギターウルフの勢いと音の厚み、マジとんでもないよねー♪ 環七フィーバーは名曲ですわー☆
……みたいな事を、嬉々として。令嬢の高貴さを感じさせる、柔らかな笑みで。
だがクソジャップの鼻たれ小学生どもは、「え、なにそれ?」とばかりに、みんなポカンとした顔。誰一人として、彼女の話題に乗って来る者はいなかったのだ。
「BOW WOWも、アンセムも、X JAPANすら知らないっ!(※全部バンドの名前)
それどころか、ロックを知らない……?
あの子たちは、
ロック愛と頭脳をフル回転し、知りうる限りのバンド名を言ってみた。だがなしのつぶて。
なんと日本のスクール・ボーイ達は、【ロックを聴いた事が無い】という事が判明! 彼らはこれまでの人生で、一度もロックンロールに触れることなく、のうのうと生きてきやがったのだ! あのクソッタレ共は!!
それを知った時のマリアンヌの衝撃たるや。まさに稲妻の如し。
冗談抜きで「くらっ……!」と眩暈がし、漫画みたいにその場に倒れた。
まさか、ロックを聴かない人間がこの世にいようとは! そんな人類が存在するだなんて! ああっ!!
なんという未開人! なんと低い文明! 哀れすぎて言葉も出てこない!(※個人の印象ですわ)
あの時は、もう本当に縋るような気持ちで……最後の切り札とばかりに“ビートルズ”の名前を出したマリアンヌだったのだが、それで返って来た言葉は「カブト虫のこと?」
マリアンヌは深く絶望し、膝から崩れ落ちる羽目となった。
「NYでの生活に嫌気が差し、のどかで自然豊かな田舎町に越して来たは良いものの、まさかこれほどまでに“ロック後進国”だなんて……。
誰もロックを知らないだなんてっ……!」
狂ってる、イカれてる、
音楽が無ければ二日と持たない、ガクガクと手が震えて禁断症状におちいるマリアンヌにとって、これは信じられない事。
一体どーやって生きて来たんだ、YAMATO民族は。どうやって栄えたんだ。
【人はパンのみに生きるに非ず】というが、お前等はあわとひえ食ってりゃ満足なのか。
彼らには音楽を……いやROCKを求める心が無いのか。渇望も欲求も無い種族だというのか。
反骨精神を持たない人は犬だ! この“ことなかれ主義”国家め!(※個人の印象ですわ)
はたして自分は、そんなヤツらと仲良く出来るのか? ロックの“ろ”の字も解さないような連中と、意思疎通できるんだろうか?
まるで蜘蛛のように自由自在、そして高速で動く美しい指によって紡がれる、カッコいいギターのサウンド。それとは裏腹に、いまマリアンヌの心は、名状しがたき不安に襲われている。
悪役令嬢の象徴たる、彼女ご自慢のロールがかったブロンドの髪も、力なく項垂れているようだ。
「これじゃあ、お友達を作るなんて……。
彼女は“ヘヴィメタル”が好き――――
まだ幼いながらも、心からメタルという音楽を愛する、ROCKな女の子であった。
以前、物心が付いた頃に偶然耳にした、“インペリテリ”の曲。
それにマリアンヌはズガーン! と衝撃を受け、あたかも世界がひっくり返ったかのような、得も知れぬ感覚を味わった。*4
いわゆる“メタルの洗礼”である――――心を奪われたのだ。
その日から、マリアンヌはメタルに夢中。胸を張って「ぞっこんLOVE!」と言える。
おこづかいをCDにつぎ込み、書籍でロック史を学び、オーディオ関係の知識を習得。これまで多くの時間と労力を、全て大好きなヘヴィメタルのために使ってきた。
若くしてギターの演奏を覚え、作曲に関する音楽理論にも明るい。
またグロウル*5、スクリーム*6、ハイトーンシャウトなども習得しており、ギターのみならずボーカルの技術も高かったりする。弾き語りだってお手の物だ。
しかしながら、メタルという音楽に対する
近年、人々が一般的なイメージとして口を揃えて言う「メタルはダサい。くさい」という心無い言葉。
それにより、彼女の心は次第にすさんでいき、性格がやさぐれていった。
10才を数える歳となった今、マリアンヌはどこに出しても恥ずかしくない程の、立派な“悪役令嬢”へと成長を遂げたのである。親は泣いている。*7
気の強そうな「キッ!」とした眉と、桜色の瑞々しい唇が特徴的な、整った顔立ち。
同世代の子達を鑑みても群を抜いて美しい、北欧の妖精を思わせる容姿。
頭脳明晰で、瞬く間に日本語を習得してしまうほどの優秀さ。
お淑やかさと明るさを兼ね備え、マナーや教養や社交界での立ち振る舞い方もバッチリ教育を受けている。
正に“令嬢”。淑女の名に恥じぬ、超の付くほど高いスペックを持つ浜田マリアンヌであるのだが……、でも彼女の魂の趣向である“メタル好き”というたったひとつの要素が、見事に全てを台無しにしていた。
現在メタルという音楽は、人々に「うるさい音楽だ」として忌み嫌われている。
ぶっちゃけ
あたかも変な宗教のように、メタル好きというただそれだけの事で、肩身の狭い想いをして生きてゆかなければならない世の中。
もうハッキリと“迫害されている”。そう言っても過言ではない状況である。
それを象徴するかのように、マリアンヌというメタル好きな女の子は、上手に人と話を合わせることが出来ず、どこへ行っても友達が出来ない――――
自ら望んだワケでもなく、いわゆる“悪役令嬢”としての人生を、余儀なくされているのだった。
まぁ正直、名家のご令嬢であるにもかかわらず【革パンにライダース】という、メタルバンドのテンプレみたいなイカつい恰好をしている事が、全ての原因なのかもしれないが。
でもこれがメタラーの正装なのだから、仕方ないと思う。
「……それにしても、今日は失敗しましたわね。
わたくしともあろう者が、あんな事をしてしまうだなんて……」
マリアンヌがピックを握る手を止めて、暫し今日の出来事を回想。
今日学校であった、クラスメイトの男の子との一幕である。
「カンタ君の頭に、
怒りに我を忘れたとはいえ、あれはやり過ぎでしたわ……」
ちなみにフライングVとは、ギターのモデルの一種。マリアンヌお気に入りの一本である。
彼女は「ギターを抱えていないと落ち着かない」という、ギタリスト特有の難病を患っている。肌身離さず持っていないと、なんかソワソワしちゃう系女子。
なので今日もギターを持って登校したのだが、それでクラスメイトの脳天をBeat Downするという、赤毛のアンみたいな事をしたのだ。*8
カンタ君から「やーい! お前んち、ラブホみたいなお城!」と馬鹿にされた。
令嬢としての矜持と、欧米人たる余裕、そして限りない人間愛を以って、それはなんとか耐えた。
だが……続けざまに言われた「ベースのヤツって、陰キャだよな! 地味だし聴こえないし、あんなの無くても一緒だろ!」という言葉にブチ切れ、マリアンヌは躊躇なくフルスイングを敢行。「Fuck you!」の声と共にギターを振り下ろす。
哀れ愛用のフライングVは、見事に真っ二つに割れてしまった。
まぁライブパフォーマンスとしてはパンクな感じだし、100点満点かもしれない。「非常にロックでございますわ!」とご満悦である。
でも大事な相棒がえらい事になり、とても悲しい気持ちになってしまった。カンタ君はパズー並の石頭なので、全然へーきだったケド。
この蛮行により、一時クラスは騒然。
お淑やかなイメージがあり、先ほどまで「おほほ♪」と笑っていたハズのマリアンヌがしたこの行為は、彼女の今後のスクールライフに計り知れない影響をもたらす事だろう。意図せずして“悪役令嬢”としての地位を、確固たる物としてしまった感。
学校初日から親を呼ばれるという、名家の令嬢にあるまじき失態だったことも、非常に痛い。
関係ないけれど、マリアンヌはなにか痛みを感じた時、英語のアウチではなく「ペイーン!」と叫ぶという、変なクセがある。
今日お父さんに、お叱りとしてポカリとげんこつを頂いた時も、「ペイ―ン!」だ。
これもメタルファンとしての性……いや日々ジューダスプリーストを聴いている影響なのだろうか。ベキザロー! ベキザロー!*9
「こんな事では、いつまで経ってもひとりぼっちですわ。
なんとか状況をダカイし、お友達を作らなければ……」
ひとりはいやだ。寂しい。誰かといっしょに居たい。
ついでに言えば、ロックの話が出来る友達が欲しいし、メンバーを集めてヘヴィメタルバンドを結成するという大きな野望もある。いつの日かわたくしも、リッチー・ブラックモアみたくなってやるんですわ。*10
しかしながら、現時点でその願いを叶えるのは、非常に難しいと言わざるを得ない。
メタル不遇なご時世と、父の故郷とはいえ慣れない日本という国での生活、加えて自身が今日やらかしてしまった事を思えば、もう絶望的と言っても差支えないかもしれない。
いくら容姿が良くとも、お金持ちで頭脳明晰であっても、意味なんか無い。
友達もいない孤独な人生。そんな物の中に幸せなど、あろう筈がないんだから。願い下げだ。
「できたら、ロックを語り合える人が良いですけれど……もうワガママは言いませんわ。
お願いです、メタルゴッドことロブ・ハルフォードさま。
良い子にします。どうかマリアンヌに“お友達”をお与え下さい――――」
何気なく“与作”や“天城越え”を弾いてみる。〈ギュィィ~ン!〉という鳴きのギターが、ひとりっきりの部屋に響く。
ここは日本という事で、演歌を勉強したのだ。お友達と話が出来るようにと。
まぁこれもマリアンヌのアレンジによって、なんかメタルVer.みたくなってしまってるけど。
演歌の“わびさび”や“臭さ”には、メタルに通ずる物を感じる。共通した良さがあるように思うのだ。めっちゃ心にビンビン来る。
ならば、同じ音楽性を愛する者として、日本の子達と仲良くなれない筈がない。
悪役令嬢になど、甘んじていられない。わたくしはお友達が欲しいの。
願いを込めて、今夜もギターを鳴らす。
エッジの利いた「へ゛い゛へ゛い゛ほ゛ぉ゛ぉ゛ーッ!!」とか「あ゛ま゛き゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛! こ゛ぉ゛え゛ぇ゛ーーッッ!!」という迫真のシャウトにより、執事のカルロスさんが慌てて部屋に飛んで来た。
どうかなさいましたか!? 大事はありませんかお嬢様!?
その後、「夜中に大声を出すものでは御座いません」と怒られてしまった。
――――Fuck my life!*11
そんな努力の方向オンチとも言うべき浜田マリアンヌの日常に、ちょっとした変化が訪れるのは、この寂しんぼでクソッタレな夜から、少し経った後。
後に生涯の友となる、“二人の少女”との出会い。
そして森に住む“不思議な生き物”との邂逅が、彼女の人生を変える事になる――――
今回は気楽に書きたいのと、あまりにも趣味全開なテーマ過ぎるということで、こちらの方で連載したいと思います。
一応は続きものだけど、あくまで短編なので、そんな長くはならない予定ですよ~。