hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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75 悪役令嬢だけどトトロ見えるよ! ~第4話~

 

 

 

「はぅ~♡ 今日はとっても楽しかったですわ♪」

 

 自室の窓の前。

 マリアンヌがお星さまを見つめながら、優しくギターを奏でる。

 

「こんなにもあたたかな気持ち、いままで感じた事がございません。

 お友達って、すごいですわ。一人じゃないって、すごいですわ――――」

 

 今日の出来事を、何度も繰り返し思い出す。

 ずっと憧れていた、友人達との語らい。誰かと一緒にいるというぬくもり。安らぎ。

 

「まぁカンタ君は、だいぶ渋ってましたけれど……。

 あの様子なら、陥落は時間の問題ですね。きっと仲間に加わって下さいますわ」

 

 バンドを結成しますわよ! と告げた時に、一番ブーブー言っていたのは彼だ。

 以前カンタ君は「ベースなんてカッコ悪い」と言っていたし、そのポジションを押し付けられてしまった事にも、大いに不満だったのだろう。

 

 けれど、試しに【Pantera】の曲を聴かせてみた所……カンタ君の目の色が変わった。

 気付いたのだ、“重低音”のカッコ良さに。

 身体の芯にドンと迫って来る、心臓を直接叩かれるような、ベース音の迫力に。

 

 確かに、ギターは花形だ。きっとサッカーでいうフォワードのように、誰もがやりたがるポジションに違いない。

 だがカンタ君は、今日生まれて初めて“リズム隊の大切さ”を学んだ。

 

 腹まで響く重低音があるからこそ、演奏に“厚み”が出る。凄い演奏になる。

 ただギターをテロテロやってるだけじゃ、決して得る事が出来ないカッコ良さ。

 重厚感、迫力、音の説得力――――

 

 Panteraが奏でる圧倒的な演奏の前に、言葉を失くし、口を開けて呆けていたカンタ君。

 だがその瞳には、隠し切れない“光”が宿っていた。

 お星さまのキラキラした輝きのような。

 

「どこか、懐かしい心地でしたわ。

 わたくしにも経験がありますもの。ハッキリ分かったのです」

 

 今カンタ君が――――ROCKの洗礼を受けた。

 メタルという物を知り、己の中で、なにか大切な物に目覚めた。

 Panteraというバンドから、まるでバトンを手渡されるみたいに、“夢”を受け取ったのだ。

 

 この記念すべき瞬間に、ああして立ち合う事が出来たことを、マリアンヌはとても嬉しく思う。

 曲が終わった頃合いを見計らい、そっと手渡してあげたATELIER Zを、彼がまるで宝物に触れるように受け取っていたのが、とても印象的だった。*1

 

 まぁぶっちゃけた話……、彼がポォ~っと呆けていた所にマリアンヌが言い放った、「ロックやるとモテるよぉ~?」の洗脳術めいた一言が、実質的なトドメだったのかもしれないけれど……。

 

 重低音のド迫力に魅せられ、オモチャなんかよりもずっとカッコいいエレキベースを握らされて、その上で「モテるよ~?」とか言われちゃったらば、抗える男の子など居ようハズもない。

 

 今日のカンタ君は、ツンデレよろしくのプリプリした顔で、「ふーん!」とばかりに家に帰って行ったのだが……。

 でもその手にはしっかりとベースが握られ、隠す事の出来ない高揚感が表情に滲んていたように思う。

 これにて、めでたくベーシストGET! 頼りになる男手の加入だ。

 

「あのお二人も、嬉しそうでしたわ。目がキラキラしていましたもの……」

 

 ちなみにだけど、もちろんメイとサツキの二人は、「おもしろそう! やるやる!」と二つ返事で了承してくれた。実に純粋な子達である。

 

 実質的なプレゼントなのだが、貸してあげたエレキやマイクスタンドを、「ほくほく♪」と抱えながら帰宅して行ったし、とても喜んでくれてるのが、もうアリアリと見て取れた。

 

 彼女らは歌が大好きだし、音楽への興味も深々。

 きっと言われずとも練習に打ち込み、メキメキと上達していく事だろう。

 

 いつまでもこの時間が続けばと、本当に名残惜しかった、今日の別れ際……。

 マリアンヌが高らかにメロイックサインを掲げながら告げた「Keep on Rockin'!」*2

 それにサツキ達は大きな声で返事をし、両手をブンブン振りながら、家に帰っていった。

 

 その愛おしい後ろ姿を、マリアンヌはいつまでも見つめ続けた。

 もう見えなくなっても。執事のカルロスさんに「お身体が冷えますので」と、車に乗るよう促されるまでの間、ずっと。

 

 

「……はっ! こうしてはいられませんわっ。

 早速わたくし達の曲を書かなくては。

 トキハ、カネナリー!」

 

 窓際を離れ、いそいそと勉強机の方へ。

 高貴さが窺える椅子に腰かけたマリアンヌは、「かきかき!」と一生懸命えんぴつを握り、どんどんノートに文字を書き込んでいく。

 

 このたび結成された、我らがヘヴィメタルバンド【GO・EN・DAMA!】

 その記念すべき一曲目――――その名も“Awa(あわ) to() Hie(ひえ)”。

 

 

 

 

 

 

飢餓、(はりつけ)、島流し――――

貴様が至るべき死に様だ

 

民草の声は、権力者によって潰され、日の()ずる国に怨嗟が満ちる

 

年貢を納めて、飢えて死ね

お前は冬を越せない。生まれながらの奴隷

 

祈れ。御仏の慈悲に縋るがいい

 

イエーイエー! 徳川の世に(さか)えアレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直、「これをメイに歌わせる気か」という問題が発生するのだが、そんな事も気にせずに、マリアンヌは幸せそうな顔。

 米国のスラッシュメタル・バンド【Slayer】、その名曲である“Angel of Death”*3からの影響を、そこはかとなく匂わせる歌詞を書きつつ、ご満悦の様子だ。

 

 

 けれど……、この幼き少女の微笑ましい笑顔を、一瞬にして壊してしまう音が、とつぜん背後から響いた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「――――マリアンヌ! いるのかマリアンヌ!」

 

 大きな音を立てて、扉が開かれる。

 マリアンヌはビクッと身体を震わせ、慌ててそちらへ振り向く。

 先ほどまでとは裏腹、哀れなほどに身体を縮こまらせて。

 

「今日のレッスンはどうした!? なぜ出なかった!?

 バレエも、書道も、護身術も、語学も!

 先生方が心配していたぞ! あれだけ真面目だったお前が、レッスンに来なかったとッ!!」

 

 鬼気迫る顔。まるで般若のような。

 その怒鳴り声が、マリアンヌの部屋に反響し、さらに幼い彼女を委縮させる。

 

「理由があるのなら言ってみろ! 恥をかかせおってッ!

 何を考えているマリアンヌ! それでもHAMADA家の娘かッ!!」

 

 いま声を挙げているのは、マリアンヌの父。

 見上げるように大きな身体と、有無を言わせない迫力が、マリアンヌを苛む。

 

 というか……今マリアンヌパパは、ウェスタンよろしくのテンガロンハットを被り、ホットドッグをモグモグしながら喋っている。

 その恰幅の良さも手伝い、まるでアメリカの保安官のような風貌なのだ。

 

 こいつ生まれは日本のクセしやがって、なんでそんな米国人に寄せてるんだ。

 高名な実業家だというのに、スーツも着ないでそんな恰好してるし。いつも車じゃなくて、馬に乗って出勤してくのだ。カウボーイみたいなブーツまで履いてからに。テキサス気取ってんのか。

 先ほどパパは「何を考えている!」と怒鳴ったが、お前が何を考えとんねんと言い返したいマリアンヌである。

 

「I'm sorry dad. But I never…」

 

「おっと、英語は止めなさい。ちゃんと日本語で話すんだ。

 この国に来ると決めたのはお前だろう? たとえ家にいても、練習を怠るな」

 

 しゅんとしながら頭を下げるマリアンヌに、今度は親としての真剣さを以って、言い付ける。

 これは決して、パパが英語下手くそだからでは無い。10年もNYに住んでおいて、ロクに話せなかったからでは無いのだ。

 マリアンヌが「日本に住みたい」と言った時、やったぜヒャッホーと喜んだりもしてない。

 

「ごめんなさいですわ、お父さま……。

 今日はじめて、お友達が出来たのです。

 どうしても、何をおいても……彼らと遊びたかったんですの」

 

「なぬっ!? 友達だとっ……!! お前にかっ!?」

 

 パパのグラサンがキラーン! と光り、咥えているパイプからボハァ! と煙が噴き出す。

 関係ないけど、マッカーサーみたいだ。どこで見つけてきたんだそのパイプ。

 

「ぐぬぬ……。ならば仕方ない。今回ばかりは目を瞑るとしよう。

 だが今後は、ちゃんと前もって予定を立てなさい。

 先生方に失礼だ。不義理は許さんぞマリアンヌ」

 

「はい、ありがとう存じますわ、お父さま。

 わたくし、しかと心得ましてよ」

 

「しかし、友達か……。

 口を開けばヘヴィメタルのお前が……。にわかには信じ難いな」

 

 ここは普通、もっと怒る所かもしれない。

 HAMADA家の令嬢ともあろうものが! 下々の者と馴れ合いおって! どこの馬の骨だ!

 ……とかなんとか言われ、めんどくさい事になっちゃう~というのが、上流階級のテンプレだろう。

 

 しかしながら、マリアンヌのパパは堅物ではない。自分が金持ちだからといって、一般的な人達を見下すような真似はしなかった。

 むしろ若き日の自分自身が、言葉も話せないのに見知らぬアメリカへと渡り、そこに住む心ある人達に、大変世話になったという、決して忘れ得ない恩義がある。

 ゆえにマリアンヌパパは、「人との関わり」を何よりも大切にしており、その人脈を以って財を築いた人物でもある。レイシスト(差別主義者)などクソくらえだ。

 日本という見知らぬ土地で暮らそうという、まだ幼い愛娘の苦労を、誰よりも理解しているのだ。

 

 マッカーサーみたいなパイプを咥え、難しそうな顔で眉間に皺を寄せてはいても、この子に「友達ができた」と言われて、喜ばないハズが無い。

 親としても、異国の地で暮らす先達としてもだ。

 とはいえ、この事態は流石に予想外だったのか、いま心底驚いている様子ではあるが。

 

「確かに、日本人のおおらかな国民性に期待し、ここへ越して来た経緯はある。

 だがこれほどまでに早く、受け入れて貰えるとは……。

 メタルなどという、()()()()()()()に傾倒するお前が」

 

「……」

 

 じっと、押し黙る。

 マリアンヌは下を向き、ただその場で立ち尽くすのみ。

 

「NYでの生活は、憶えているだろう?

 お前は器量が良く、心優しく、人に愛される類まれな資質を持つ、自慢の娘だ。

 だがそんなお前が、ただROCKが好き……それもヘヴィメタルなんて物を愛するがゆえに、友達を作ることが出来なかった」

 

「……」

 

「マリアンヌ、お前に非があるのではない、()()()()()()()()

 全てはクソださい時代遅れな音楽、ファッキンなヘヴィメタルのせいだ」

 

 静かな声。理不尽に怒鳴り散らすでもなく、我が子を諭すための言葉。

 だがマリアンヌは、それに頷くことが出来ない。

 ギュッと白くなるくらい拳を握りしめ、口を一文字にして耐える。

 

「一体どこが良いんだ? メタルなんてファッキンな物。

 ノリが良いだけのファッキンな演奏に乗せて、軽薄でファッキンな言葉をがなり散らしてるだけの、低俗でファッキンな音楽だ。

 ファッキンな連中が、ファッキンな観客に向かい、ファッキンなライブハウスに籠って、ファッキンな音を鳴らす。

 まるで騒音だ、ファッキン理解に苦しむ。ああ実にファッキンだよ、ヘヴィメタルは」

 

 ファッキンなエレキを鳴らし、ファッキンなベースを弾き、ファッキンなドラム叩きやがって。

 実に不愉快極まる! ファッキン極まるな! とマリアンヌパパは語る。

 ホットドッグ片手にファッキンファッキン言う。

 

「だいたい何だ? トランスメタルぅ? ミクスチャーロックだぁ?

 デジタルサウンドや、ラップなんぞ取り入れておいて、何がROCKだ。

 私はシンセすら許せないタチなのに。ヒップホップとROCKの精神は真逆だろうに。

 いったい何を考えているんだ! 近年のメタル界は! ギターで表現せんかぁ馬鹿者がぁ!!」

 

「えっ、お父さま……なんで知ってるんですの?」

 

 マリアンヌが「きょとん?」とするが、パパの怒りはとどまる事を知らない。

 

「軽いんだよヴォーカルが! 近年のジャパメタはっ! THE冠さんを見習えッ!!

 お上品に()()()()()んじゃないぞ! 力の限り叫んでこそメタルだろう!

 ただ上手ではいけない! いけないのだッ!!

 上手くて当然! だってプロなのだから! 大前提だ!

 その上で“凄く”なくてはならないっ! 聞き手を圧倒する力を見せつけなければならん!

 ――――それこそがメタルの精神だろうが!! 力を証明し、己を見せつけろよ!!」

 

「あれ? お父さま? あれれ?」

 

「いいじゃないか! メロスピ聴いたって! メロデスを聴いてもぉ!

 そんな『マズい野菜ジュースほど栄養がある。臭いチーズを食えるヤツが偉い』みたく、聴きやすいメタルを馬鹿にするような風潮を、私は許せんのだッ!!

 そりゃーゴリゴリにハードなスラッシュメタルとか、ダークでおどろおどろしいデスメタルとか、退廃的な雰囲気のグランジとか、おしゃれなプログレとかも良いと思うよ? 理解できるよ?

 でも何より“カッコいい”が真ん中にガツーン! とあるのがROCKってモンじゃないのか!?

 ストラトのティモ・コティペルトが放つ、あの透き通るように清涼なハイトーンボイスに心を奪われたあの日の私は、決して間違ってなどいない!!

 ドラフォを馬鹿にするなクソがぁぁぁッ!! 私はメロスピが好きだぁぁぁあああッ!!!!」

 

「なんで知ってるのパパ? ねぇ何で知ってますの? ねぇねぇ」

 

 関係ないけど、マリアンヌパパは結構タカ派のようだ。

 きっと長年の鬱憤とか、分かって貰えない悔しさとかあったのかもしれない。

 メタル博愛主義者のマリアンヌとは、また違う形で悲しみを背負っていた。

 ライトメタラーなの?*4

 

「ところでマリアンヌよ? 今日はお前の為に、新しいテレビを買ってきたぞぅ。

 すーぐお前は壊しちゃうからな! ハッハッハ!」

 

「Oh! 何事もなかったかのよーに。Holy shit!」*5

 

 マスタードをブリブリかけたホットドッグを齧りつつ、マリアンヌパパがいったん退出。その後すぐに大きなダンボール箱を抱えて戻って来る。

 

「今度のヤツは凄いぞぉ~マリアンヌ? ボタンひとつで色々な機能を使えるんだ。

 たとえば、この青いのを押すとだな! ……ん?」

 

 配線をし終えたマリアンヌパパが、娘に向かって自慢気にNEWテレビの説明。

 だがどうした事だろう。目の前にあるテレビはリモコンを押しても、ウンともスンとも言わない。

 

「おかしいな、ちょっと待ていろよマリアンヌ。

 確かこれを押せば……あれ? ん? んんッ……?!」

 

 リモコンをグイッと突き出したり、高橋名人よろしくボタンを連打したり。

 でもテレビ画面に変化は無い。いくらやっても砂嵐を映し続けている。

 

 

「――――ファァァアアアック!!!!!」ガッシャーン!

 

 

 奇声を挙げて、テレビをブン投げる。

 マリアンヌパパによる豪快なスローイングで、新品のテレビが豪快に窓を突き破り、外へ飛び出していく。

 

 

「――――Get the fuck out asshole!*6 Don’t fuck with me scrap!*7

 Fuck you bastard! Fuck you!!*8 Fuuuuuuck!!!!*9」 

 

 

 

 

 

 

 

 中指を立てながら罵詈雑言。無機物に対して。

 ファンシーな子供部屋、しかも自分の娘の部屋で、「ピーピーピー!!」と禁止音が鳴りそうなFワードを連呼。

 どうでも良いが、ものすっごい流暢な英語だ。罵り言葉だけは。

 

 

 あー、この人の血をひいてるんだなー。わたくしー。

 

 妙に納得するマリアンヌ(10才)だった。

 

 

 

 

 

 

*1
【ATELIER Z】 エレキベースのモデルのひとつ。国内外で幅広く支持されており、ゴリゴリしたサウンドが病み付きになる一本

*2
またロックしようぜ! ですわ!

*3
ホロコーストの虐殺を歌った曲

*4
耳障りが良く、比較的聴きやすい感じメタルを、特に愛する人達。極端に激しい物や、暴力的な要素、また難解なメロディは琴線に触れず、情緒あるメロディを重視する日本人的な感性を持ったメタラー。どちらかと言えば、ハードロック系の音が好きなタイプなのかもしれない。

*5
なんてこった! ですわ

*6
失せろゲス野郎!

*7
バカにすんな鉄屑め!

*8
くたばれ出来損ないが!

*9
ボケェェェッ!!

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