「しょんぼりですわ……。
シャゲナベイベーならぬ、さげぽよベイベーです」*1
ディープパープルの“Lady Double Dealer”をペレペレ弾きながら、田園風景を歩く。
そのノリノリなロックンロールとは裏腹、マリアンヌの小さな背中は、力なく丸まっている。
「メタルを悪く言われると、悲しくなってしまうのですわ。
大好きな物を、馬鹿にされたら、わたくし泣きたくなる……」
昨日の夜、お父さんに言われたことを、彼女はまだ引きずっていた。
メタルなんか聴いてるから、メタルのせいで。
この言葉がいつまでもいつまでも、頭の中をグルグル。
お父さんに悪気は無かったんだろう。だってすごく愛してくれてるのが分かるから。
きっと純粋な事実として、または「ここを直せ」という指摘だったのかもしれない。
より良く、幸せに生きていく為に、親としてのアドバイスだったのかも。
けれど……マリアンヌは悲しい。
だって好きな物を否定されるって事は、“自分の人間性”をも否定される事だ。
これを愛しているという趣味趣向、自分の考え方、そしてこれまでメタルに貰った想いや夢までも、全部ぜんぶ駄目って言われたような気がして……深く傷ついた。
それに、自分がダメなせいで、上手にやれていないせいで、大好きなヘヴィメタルを悪く言われてしまった事……。
あんなにも素敵なメタルを“汚してしまった”、と思ったのだ。
申し訳が立たない。罪悪感が湧く。こんな自分がメタルをやっちゃいけないんだろうかって、そんな事ばかり考える。
「まぁ、アレですけども。
お父さまに関して言えば、
今マリアンヌが弾いている曲“Lady Double Dealer”は、【二枚舌の女】という意味。
嘘ばっかついて、俺を弄びやがって。お前のせいで俺のハートは滅茶苦茶だよ――――という情けない男の心情を歌った曲である。
お父さま……メタル大好きじゃございませんの。想いが迸ってましたもの。
絶対ストラトヴァリウスや、ドラゴンフォースのCD隠してますわ。
今度お部屋を探検してみましょうか。レア物が見つかるかもしれませんし。
そう心に決めつつ、ギターをペレペレ鳴らす。
トボトボと歩きながらではあるが、その指使いに乱れはない。リッチーのギターテクニックは沢山研究したので、もう慣れたものである。
関係ないけど、いつも登下校中や、町をお散歩する時なんかには、こうして歩きながらギターを弾いているので、たまーに町の人達に「流しのギター弾きか」と勘違いされて、一曲頼まれちゃうことがある。
これエレキなのに「美空ひばり弾いてくれ」とか、「越路吹雪たのむわ」とか、皆さんけっこう好き勝手な事をおっしゃいます。
まぁ見事に応えてみせるマリアンヌの方も、どうかとは思うが。
いつも演奏の後には、皆さんパチパチと拍手をしてくれるし、なんかおひねりまでくれたりする。アメちゃんだったり、トマトやキュウリといったお野菜だったり。
ご厚意ということで、いつも有難く頂戴しているマリアンヌである。
まぁ、たま~に持って帰るのが大変な量になっちゃって、荷物といっしょに家まで送ってもらう事もあるけど。牛が引いてる車とか、トラクターとかで。
ここは娯楽の少ない田舎なので、意外とマリアンヌのギター演奏は、町の人々に貢献しているのかもしれない。
いつのまにやら、異常なほどにワラワラ人が集まってる時もあるし。
「それにしても……わたくしはダメな子ですね。
どうしても、勇気が出ませんでしたの……」
やがてマリアンヌは、例の“木のトンネル”、ようはサツキ達が住む家の前までやって来た。
「転校初日ということで、サツキさんは沢山のクラスメイトに囲まれて、楽しそうにお話をしていましたわ。とても盛り上がっていました。
わたくしは……その輪の中に入れなかった。
みんなに変な目で見られてるわたくしは、サツキさんとお話する事が、はばかられたのですわ」
サツキを中心として、ワイワイと集まるクラスメイト達。
その賑やかな輪を、ひとり遠目で眺めていた。
休み時間も、おべんとうの時間も、ひとりっきりで過ごした。
時折サツキが、こちらを気にしてか目線を投げてくれたのだが、マリアンヌは薄く笑みを浮かべて、それに応えるだけ。
けしてサツキの方へ寄って行ったり、仲間に加わったりはしなかった。
サツキはマリアンヌとお話がしたいと思い、何度もこちらへ来てくれようとしていたのだが……、でも転入生という“時の人”であったので、常にみんなに質問攻めに合っており、とてもじゃないが抜け出して来ることは出来なかった。
こちらを見ながら、わちゃわちゃ慌てている様子のサツキへと、マリアンヌはコクリと頷いて、柔らかな笑み。
お気になさらないで♪ そう伝えたつもりだったけれど……サツキの表情は晴れることは無かった。
彼女はマリアンヌを見て、いったい何を思っていたのだろう。
本当は今日だって、いっしょに帰りたかった。
こうしてここを通りかかった事からも分かる通り、マリアンヌとサツキは帰り道が一緒なのだから、共に下校するのが自然な流れだ。
けれど、放課後になってもサツキへの質問攻めは、いっこうに止む気配がなかった。
マリアンヌはひとりランドセルを背負い、目線だけでサツキに「ごきげんよう」の挨拶をしてから、こうして下校しているというワケだ。
「この木のトンネルの前で、立ち止まってしまうのは……未練たらしい行為でしょうか?
そんなことをする位ならば、勇気を出せばよかったのに……」
お話したかったな。仲間に入りたかったな。
そう力なく笑いながら、サツキたちの家の方を見つめる。
彼女の寂しさを表現するかのように、肩から下げたギターが「ジャラーン」と音を鳴らす。
ただ弦を順番に弾いただけの、魂が入っていない音色だった。
「……およよ? なにか落ちていますね。ドングリでしょうか?」
俯き、しょんぼりと頭を垂れていたマリアンヌ。
ふいにその視線が、地面にあるドングリを捉える。
「ここはサツキさん達をはじめとし、メイさんも通る道です。
急な坂になっておりますし、もし転んだら危ないですわ」
なにげなく身を屈めて、それを拾う。ビー玉くらいの大きさで、なんかピカピカしてる綺麗なドングリが、マリアンヌの手のひらに収まる。
「あなや、これは……」
だがドングリは、これひとつではなかった。
よく注意してみると、どうやら木のトンネル内に、いくつも落ちているのが見える。
それも自然に落ちて来たような配置ではなく、等間隔でポツポツと並んでいるようなのだ。
これはまるで、道しるべ。
誰かがマリアンヌに、「こっちだよ」と教えているかのように。
◆ ◆ ◆
テクテクと、道なりに歩く。
坂を抜け、広場に出て、草むらの中へ入る。
それでもドングリの道しるべは続く。道がだんだんせまくなり、マリアンヌくらい小さな女の子でも、屈まないと通れないような場所まで。
「――――ふ゛お゛っ゛!!!??」
けれどマリアンヌは、無心でドングリロードを潜り抜けているうち、唐突に終点へとたどり着く。
どうやら穴になっている所に落ちてしまったようで、なんかナチュラルに変な声を出してしまったが……しばらく滑り台のように身を任せて滑っていくと、そこには森がぽっかりと開けたような空間。
そこだけ木々や枝がドーム状に避けているかのような、相撲の土俵くらいの広さの場所があったのだ。
「!? !? !?」
勢いよく宙に放り出され、お尻からドスーンと着地。
下はたくさん草が生えていたので、ぜんぜん痛くなかったから、それはいい。
けれどマリアンヌは、いま眼前に“巨大な灰色の生物”がいるのを発見。思わずドッキーン! と心臓が跳ね、息を呑む。
「なっ……! ナナナナ! ナァーー!!??」
マリアンヌは歌が上手な子だが、別にスキャット*2をしてるワケじゃない。狼狽えているのだ。
彼女からしたら、見上げるくらいの大きさ。しかもこの得体の知れない動物は、いまグデーと寝転んでいるみたい。それでもマリアンヌの身長より高いのだ。
グリズリーなんか目じゃなくて、下手したらカバとかサイとかとタメを張れるくらいの身体。
もしこの灰色のヤツが立ち上がり、こちらに襲い掛かりでもしたらば、きっと成す術なく食べられてしまう! そんなビジョンが明確にマリアンヌの頭に浮かぶ。
だが……。
「え、あれは…………
後ずさりし、なんとかここから逃げる算段をしていた時、ふいにマリアンヌの目線が、ヤツのお腹の方へ向いた。
そこにいたのは、小さな女の子。
昨日いっしょに遊び、とても仲良くなった大切な友達……メイちゃんだ! あの動物のお腹に乗っかっている!?
しかも
いま自分がどれほどの
「は、はうっ……(気絶)」
お嬢様のテンプレよろしく、額を押さえながらクラッ。
マリアンヌは意識が遠のきそうになるが、なんとか首をブンブン振って耐える。今それどころじゃないから。
「な、なんという事ですの……! メイさんがっ……!」ワナワナ
拳をギュッと握り、肩を震わせる。
恐怖と絶望が、まるで洪水のように襲ってくる。心の中で吹き荒れる。
まあぶっちゃけた話……、メイはスヤスヤと眠ってるだけだし、あれは
でも今のマリアンヌには、そんなこと知る由も無い。
得体のしれない巨大な生物に、メイが囚われている! このままじゃ食べられてしまう!
そんな最悪の未来を思い描いているのだ。致し方なしである。
「すぅーーっ……! ふぅぅーーっ……!
すぅーーっ……! ふぅぅーーっ……!」
ふいに、彼女が深呼吸をおこなう。
目を閉じ、深く息を吸い込み、心を落ち着かせる。
心に想うは、あの子の姿。
昨日はじめてお家に招いた時、メイが見せてくれた無邪気な、そしてとびっきりの笑顔だ。
楽しかった。あんなにもあたたかな気持ち、これまで感じたことがなかった。
ぜんぶ全部、メイにもらった物だ。涙が出そうになるくらい……幸せだったんだ。
ペンー、ペンー、ペンー、ペンー↑ ペンー、ペンー↑ ペンー↓(ギターの音)
「おー、まー、えー、はー! アー、ホー、かー!
……ですわ。日本のROCKミュージシャンがやっていましたの。勉強しましたのよ?」
某ROLLYさん(旧名ローリー寺西)の持ちネタをやる事で、気持ちを奮い立たせる。
ガクガクと震える足を抑えつけ、弱気をねじ伏せる。
「The pulse quickens by love…!*3 My heart beats quickens…!!*4」
あの子を救わねばならない。愛を取り戻さなくてはならない。
たとえ凶悪無比で、強大な敵であろうとも(※トトロです)
ここで退いては悪役令嬢の名折れ! 立ち向かわなければならない!!
「親愛なるアンジェラ・ゴソウさま。力をお与え下さい。
貴方の勇気を、貸して下さいまし――――」
いつもポシェットのように身に付けている、腰の小型アンプの電源をONにする。
その瞬間、リボルバーの撃鉄が起こされるように、自分の中でギタリストとしてのスイッチが、カチリと入る。
ハートに火を着けて……魂が燃え上がるのを感じる。
ピーン! と“五円玉”を親指で弾く。
それは高く跳ね上がり、まったく同じ軌道で落ちて来る。
「TVの前の、よい子のみんな! ――――お前を殺す。
ココガ! オマエノ! 墓場デスヨ!」
五円玉をパシッ! とカッコよく受け止め、即座にギターをギュイィィィィィン!!!!
「 C'moooooooon! TUKAMORI!! 浜田マリアンヌでしてよ!!
ヌ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーッッ!!!!(デスボ) 」
トトロが「ビクゥ!?」と跳ね、慌ててガバッ起き上がる。
ちゃんとメイを優しく抱えたまま。
今ここに、浜田マリアンヌのライブが幕を開ける。
ピック代わりの五円玉と、胸いっぱいの愛を握りしめ、ギターをかき鳴らし始めた。
◆ ◆ ◆
「おうるぁぁぁあああああ!!!!!」デケデケデケデケ!
高速で指が動く。縦横無尽に。
それに合わせるように、右手の五円玉が弦を弾いていく。見えないくらい速く!!
同時に、力強く叫ぶ。
喉が破れんばかりに。振り絞るように。魂のデスボイスで。
いま演奏しているのは、ARCH ENEMYの“Nemesis”
いつも彼女を支えてくれた、マリアンヌにとってのロック・アンセム。大切な曲だ。
だが、いつもひとりっきりで弾いていたそれを、今は他者に向けて叩きつけている!
喰らえとばかりに! ブチかましている!
思う存分! 見せつけるように!!
「フ ァ イ ヤ ァ ァ ァ ~ ッ!!!!」ベケベケベケ!
ガックンガックン頭を振りながら、ジャジャジャとかき鳴らす。ヘドバン奏法だ。
動くことも忘れない。その場で立ってるだけじゃつまらない。ミュージシャンは表現者であり、ここはステージなのだから。
まるでAC/DCのアンガスヤングみたく、「うおぉぉぉ!」と片足立ちでピョンピョン跳ねながら、グルグルとトトロのまわりを周る。
トトロは言葉を喋れないけれど、きっと今「ぼくの住処で何してくれてるんだ……」みたいな気持ちでいる事だろう。額に汗が浮いているのが分かる。
デン! デン! デンデン! ギュイィィィィィ!!!!(ギター音)
「おっしゃあオラァァ!! ギターソロのお時間でしてよぉぉぉ!!
わたくしの音を聴けェェェエエエーーーッッ!!!!」
髪がブァサ! となるくらい身体を前後に振りつつ、これまで以上に激しく指を動かす。
俺がお前の千手観音だ! とばかりの動き。トトロの森にヘヴィメタルが木霊する。
木々は揺れ、葉は舞い散り、小鳥たちが「ヤバイヤバイ」と空へ飛び立って行く。
とてつもない超絶技巧! くっそやかましいギターサウンドが空気を揺らし、いま立っているのか分からなくなるほどに鼓膜を振動させる。
「ヘイオーディエンス! 貴様の事ですわ貴様の!!」
え、ぼくですか?
トトロが「きょとん?」と目を丸くしながら、爪を指代わりに自分の方をさす。
「貴方、怒ってないんですの!? プリプリきちゃう事とか、ございませんの!?
生きてりゃ誰だって、ムカつく事くらいあるでしょうに! ストレス感じてませんの!?」
コール&レスポンスじゃなく、直に問うている。
光の速さで指を動かしながらも、トトロの方をガン見して叫ぶ。まったく器用なことだ。
「――――怒れ! 叫びなさい!!
何をのほほんと座ってますの! 縦ノリするなり、ヘドバンするなりあるでしょう!
さぁ貴方も叫ぶのですわ! それがROCKの精神ですッッ!!!!」
カモーン! 塚森ィィーー!! ……とか言っても、未だトトロはキョトンとした顔。
いま目の前で起こっている事が、理解できないようだ。(そりゃそーだという話だが)
「こうです!! ――――ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!(デスボ)
さぁやってごらんなさい! 貴方も!! ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
デケデケデケデケ!!! ジャジャージャージャーン!!(ギター音)
それに乗せられるように、トトロも「う゛おぁ」と言ってみる。可愛らしいアクビみたく。
「そうじゃないッ! 怒れッッ!! 怒るのですッッ!!!!
何しに来たんですか貴様! いまライブやってんでしょーが!!(理不尽)
こうですヨ! ――――ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
続いてトトロも「う゛お゛ぁぁ~!」
軽快なリズム、身体の芯まで来る爆音に、なんかテンション上がってきたと見える。
ちょっと楽しそうな顔。
「オゥメェ~ン! なかなか良い声でいらっしゃいますわ♡
でもまだ甘いッ!! 貴方の怒りはそんなもんデスカ!! 人生お花畑かコラァ!!
――――ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
続いてトトロが「う゛お゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っっ!!!!」と大声を挙げる!
楽しそうに! 愉快に! 身体の奥から!
その大きな身体を以って放たれた、まさに野性の雄たけび! 獣の声!
ビリビリと空気が震えるほどの、凄まじいシャウトを受け、マリアンヌはニッコリ。
わかってきたじゃありませんの――――と楽し気にギターを鳴らす。
さらに躍動する!! ベケベケベケベケ!!!!
「コール&レスポンスですわ! 後に続きなさい!
――――ナ゛ァァァアアアアーーーッッ!!!!(ヘヴィメタルシャウト)」
「なぁぁぁああああーーっっ!!!!(野性シャウト)」
「――――ファァァアアアアアックッ!!!!(ただのFワード)」
「ふぁぁぁっぐぉう!!(もごもご)」
何をやらせとんねんという感じだが、なんとトトロがレスポンスしている!
発音が上手じゃないので、かわいくモゴモゴしちゃってるが、お利口に後に続いているではないか! 世界がひとつになる!!
「――――森をかえせェェェ!! 木をかえせェェェ!!!!」デケデケデケ!
「う゛お゛あ゛ぁ゛っ♪ う゛お゛あ゛ぁ゛っ♪」
「――――仲間をかえせェェーー! 土地をかえせェェーッ!!
人間を許すなァァァアアアーーッッ!!」デケデケデケ!
「う゛お゛ぁ゛ぁ゛っ♪ う゛お゛ぁ゛ぁ゛っ♪♪」キャッキャ キャッキャ
トトロ喜んでる! めっちゃ笑顔になってる!
なんかもう「キャッキャ♪」って言っちゃってるし、パチパチ手を叩いて楽しんでいる様子!
関係ないけど、もののけ姫じゃないんだから、そのコールはどうかと思う。
トトロはそれなりに平和に暮らしているのだ。いま昭和32年ですし(真顔)
コール&レスポンス、およびギターソロが終わり、マリアンヌは再び声を振り絞る。
ダダダダー! っとそこらじゅう走り回ったり、地面に寝っ転がりながら足をばたつかせて、その場でコマのようにクルクル回転したり。
それも、演奏をしながらだ。アンガス先輩も「Hell Yeah!」と言わんばかりの技術。
関係無いけど、どこからかやってきた小トトロと中トトロが、マリアンヌの後に続いてトコトコ行進していて、すごく愛らしい光景。
「お゛あ゛ぁ~!」
そして、この楽し気な雰囲気につられたのか、はたまたこの場の一体感からか。
目を「きらーん☆」と輝かせたトトロが、どこからかスチャっと
いまこの子のまわりには、大小様々なサイズのバケツだの桶だのが置かれており、なんとそれをポカポカ叩き始めたではないか!
「ほっほ~う……これは思わぬところで、ドラマー加入ですわ。
よくってよ! よろしくてよ! メタルに魅せられたのなら、どうぞおいでなさい!
――――Let's Rock!!!!」
……
…………
………………
◆ ◆ ◆
ギュイィィィィィ!! とギターを鳴かせると同時に、思いっきりジャンプ。
あたかも「これでおしまい!」とばかりに、日本刀を振り下ろすようにジャン! とやる。
演奏が止み、静寂が戻る。
カサカサと風が木々を揺らす音だけが、今この場にある全て。
だがマリアンヌにだけは、いま自分の内側で鳴る、うるさいくらいの心臓の音が聞こえている。
ドクドク、ドクドク。それはまるで機関車のよう。
「おわぁ~!」パチパチ!
「っ! っ!!」パチパチ!
やがて木の葉の音に代わり、トトロ達が嬉しそうに手を叩く音が聞こえた。
これは、マリアンヌに対する拍手――――すごかった楽しかったという、彼らの歓声だ。
それを聴いた途端、ようやく身体から力が抜ける。
自分がいま汗まみれでいる事……そしてひどく息が上がっている事を、ようやく自覚した。
でもまぁ、それどころじゃないかもしれない。
だって今、マリアンヌの頭には、トトロ達をメンバーに加えた新しいバンドのアイディアが、もうとめどなく湧き出ているのだから。
身体の大きなトトロが、ドラムとしてどっしり後ろに座ってくれれば、きっと凄くステージ映えするだろう。
中トトロにはウクレレがいいかな? それともシンセを任せてみるか。
小トトロ用のちっちゃなマイクスタンドを、またカルロスに頼んで発注してもらわなきゃ。
そんな事ばかりが、頭に浮かぶのだ。
いまマリアンヌの右手にあるのは、先ほどまでピック代わりに使用していた“五円玉”。
『人との
『お金持ちでも、良い家に住んでても、関係無いの。人を愛しなさい』
『貴方に素敵な出会いがありますように。がんばるのよマリアンヌ――――』
昔、お母さんがそう言って、これを握らせてくれた。
このピッカピカの五円玉は、マリアンヌの宝物だ。