hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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76 悪役令嬢だけどトトロ見えるよ! ~第5話~

 

 

 

 

「しょんぼりですわ……。

 シャゲナベイベーならぬ、さげぽよベイベーです」*1

 

 ディープパープルの“Lady Double Dealer”をペレペレ弾きながら、田園風景を歩く。

 そのノリノリなロックンロールとは裏腹、マリアンヌの小さな背中は、力なく丸まっている。

 

「メタルを悪く言われると、悲しくなってしまうのですわ。

 大好きな物を、馬鹿にされたら、わたくし泣きたくなる……」

 

 昨日の夜、お父さんに言われたことを、彼女はまだ引きずっていた。

 メタルなんか聴いてるから、メタルのせいで。

 この言葉がいつまでもいつまでも、頭の中をグルグル。

 

 お父さんに悪気は無かったんだろう。だってすごく愛してくれてるのが分かるから。

 きっと純粋な事実として、または「ここを直せ」という指摘だったのかもしれない。

 より良く、幸せに生きていく為に、親としてのアドバイスだったのかも。

 

 けれど……マリアンヌは悲しい。

 だって好きな物を否定されるって事は、“自分の人間性”をも否定される事だ。

 これを愛しているという趣味趣向、自分の考え方、そしてこれまでメタルに貰った想いや夢までも、全部ぜんぶ駄目って言われたような気がして……深く傷ついた。

 

 それに、自分がダメなせいで、上手にやれていないせいで、大好きなヘヴィメタルを悪く言われてしまった事……。

 あんなにも素敵なメタルを“汚してしまった”、と思ったのだ。

 

 申し訳が立たない。罪悪感が湧く。こんな自分がメタルをやっちゃいけないんだろうかって、そんな事ばかり考える。

 

「まぁ、アレですけども。

 お父さまに関して言えば、()()()()()()()()()大丈夫なんですが……」

 

 今マリアンヌが弾いている曲“Lady Double Dealer”は、【二枚舌の女】という意味。

 嘘ばっかついて、俺を弄びやがって。お前のせいで俺のハートは滅茶苦茶だよ――――という情けない男の心情を歌った曲である。

 

 お父さま……メタル大好きじゃございませんの。想いが迸ってましたもの。

 絶対ストラトヴァリウスや、ドラゴンフォースのCD隠してますわ。

 今度お部屋を探検してみましょうか。レア物が見つかるかもしれませんし。

 

 そう心に決めつつ、ギターをペレペレ鳴らす。

 トボトボと歩きながらではあるが、その指使いに乱れはない。リッチーのギターテクニックは沢山研究したので、もう慣れたものである。

 

 関係ないけど、いつも登下校中や、町をお散歩する時なんかには、こうして歩きながらギターを弾いているので、たまーに町の人達に「流しのギター弾きか」と勘違いされて、一曲頼まれちゃうことがある。

 これエレキなのに「美空ひばり弾いてくれ」とか、「越路吹雪たのむわ」とか、皆さんけっこう好き勝手な事をおっしゃいます。

 まぁ見事に応えてみせるマリアンヌの方も、どうかとは思うが。

 

 いつも演奏の後には、皆さんパチパチと拍手をしてくれるし、なんかおひねりまでくれたりする。アメちゃんだったり、トマトやキュウリといったお野菜だったり。

 

 ご厚意ということで、いつも有難く頂戴しているマリアンヌである。

 まぁ、たま~に持って帰るのが大変な量になっちゃって、荷物といっしょに家まで送ってもらう事もあるけど。牛が引いてる車とか、トラクターとかで。

 ここは娯楽の少ない田舎なので、意外とマリアンヌのギター演奏は、町の人々に貢献しているのかもしれない。

 いつのまにやら、異常なほどにワラワラ人が集まってる時もあるし。

 

「それにしても……わたくしはダメな子ですね。

 どうしても、勇気が出ませんでしたの……」

 

 やがてマリアンヌは、例の“木のトンネル”、ようはサツキ達が住む家の前までやって来た。

 

「転校初日ということで、サツキさんは沢山のクラスメイトに囲まれて、楽しそうにお話をしていましたわ。とても盛り上がっていました。

 わたくしは……その輪の中に入れなかった。

 みんなに変な目で見られてるわたくしは、サツキさんとお話する事が、はばかられたのですわ」

 

 サツキを中心として、ワイワイと集まるクラスメイト達。

 その賑やかな輪を、ひとり遠目で眺めていた。

 休み時間も、おべんとうの時間も、ひとりっきりで過ごした。

 

 時折サツキが、こちらを気にしてか目線を投げてくれたのだが、マリアンヌは薄く笑みを浮かべて、それに応えるだけ。

 けしてサツキの方へ寄って行ったり、仲間に加わったりはしなかった。

 

 サツキはマリアンヌとお話がしたいと思い、何度もこちらへ来てくれようとしていたのだが……、でも転入生という“時の人”であったので、常にみんなに質問攻めに合っており、とてもじゃないが抜け出して来ることは出来なかった。

 

 こちらを見ながら、わちゃわちゃ慌てている様子のサツキへと、マリアンヌはコクリと頷いて、柔らかな笑み。

 お気になさらないで♪ そう伝えたつもりだったけれど……サツキの表情は晴れることは無かった。

 彼女はマリアンヌを見て、いったい何を思っていたのだろう。

 

 本当は今日だって、いっしょに帰りたかった。

 こうしてここを通りかかった事からも分かる通り、マリアンヌとサツキは帰り道が一緒なのだから、共に下校するのが自然な流れだ。

 けれど、放課後になってもサツキへの質問攻めは、いっこうに止む気配がなかった。

 マリアンヌはひとりランドセルを背負い、目線だけでサツキに「ごきげんよう」の挨拶をしてから、こうして下校しているというワケだ。

 

「この木のトンネルの前で、立ち止まってしまうのは……未練たらしい行為でしょうか?

 そんなことをする位ならば、勇気を出せばよかったのに……」

 

 お話したかったな。仲間に入りたかったな。

 そう力なく笑いながら、サツキたちの家の方を見つめる。

 彼女の寂しさを表現するかのように、肩から下げたギターが「ジャラーン」と音を鳴らす。

 ただ弦を順番に弾いただけの、魂が入っていない音色だった。

 

 

 

「……およよ? なにか落ちていますね。ドングリでしょうか?」

 

 俯き、しょんぼりと頭を垂れていたマリアンヌ。

 ふいにその視線が、地面にあるドングリを捉える。

 

「ここはサツキさん達をはじめとし、メイさんも通る道です。

 急な坂になっておりますし、もし転んだら危ないですわ」

 

 なにげなく身を屈めて、それを拾う。ビー玉くらいの大きさで、なんかピカピカしてる綺麗なドングリが、マリアンヌの手のひらに収まる。

 

「あなや、これは……」

 

 だがドングリは、これひとつではなかった。

 よく注意してみると、どうやら木のトンネル内に、いくつも落ちているのが見える。

 それも自然に落ちて来たような配置ではなく、等間隔でポツポツと並んでいるようなのだ。

 

 これはまるで、道しるべ。

 誰かがマリアンヌに、「こっちだよ」と教えているかのように。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 テクテクと、道なりに歩く。

 坂を抜け、広場に出て、草むらの中へ入る。

 それでもドングリの道しるべは続く。道がだんだんせまくなり、マリアンヌくらい小さな女の子でも、屈まないと通れないような場所まで。

 

 

「――――ふ゛お゛っ゛!!!??」

 

 けれどマリアンヌは、無心でドングリロードを潜り抜けているうち、唐突に終点へとたどり着く。

 どうやら穴になっている所に落ちてしまったようで、なんかナチュラルに変な声を出してしまったが……しばらく滑り台のように身を任せて滑っていくと、そこには森がぽっかりと開けたような空間。

 そこだけ木々や枝がドーム状に避けているかのような、相撲の土俵くらいの広さの場所があったのだ。

 

「!? !? !?」

 

 勢いよく宙に放り出され、お尻からドスーンと着地。

 下はたくさん草が生えていたので、ぜんぜん痛くなかったから、それはいい。

 けれどマリアンヌは、いま眼前に“巨大な灰色の生物”がいるのを発見。思わずドッキーン! と心臓が跳ね、息を呑む。

 

「なっ……! ナナナナ! ナァーー!!??」

 

 マリアンヌは歌が上手な子だが、別にスキャット*2をしてるワケじゃない。狼狽えているのだ。

 彼女からしたら、見上げるくらいの大きさ。しかもこの得体の知れない動物は、いまグデーと寝転んでいるみたい。それでもマリアンヌの身長より高いのだ。

 

 グリズリーなんか目じゃなくて、下手したらカバとかサイとかとタメを張れるくらいの身体。

 もしこの灰色のヤツが立ち上がり、こちらに襲い掛かりでもしたらば、きっと成す術なく食べられてしまう! そんなビジョンが明確にマリアンヌの頭に浮かぶ。

 だが……。

 

「え、あれは…………()()()()()()()?」

 

 後ずさりし、なんとかここから逃げる算段をしていた時、ふいにマリアンヌの目線が、ヤツのお腹の方へ向いた。

 そこにいたのは、小さな女の子。

 昨日いっしょに遊び、とても仲良くなった大切な友達……メイちゃんだ! あの動物のお腹に乗っかっている!?

 

 しかも()()()()()! ()()()()()()

 いま自分がどれほどの()()()()()にいるのか、まったく理解していない状況だ!!

 

「は、はうっ……(気絶)」

 

 お嬢様のテンプレよろしく、額を押さえながらクラッ。

 マリアンヌは意識が遠のきそうになるが、なんとか首をブンブン振って耐える。今それどころじゃないから。

 

「な、なんという事ですの……! メイさんがっ……!」ワナワナ

 

 拳をギュッと握り、肩を震わせる。

 恐怖と絶望が、まるで洪水のように襲ってくる。心の中で吹き荒れる。

 

 まあぶっちゃけた話……、メイはスヤスヤと眠ってるだけだし、あれは()()()()()()、心配しなくても全然大丈夫なんだけど(酷いネタばれ)

 でも今のマリアンヌには、そんなこと知る由も無い。

 得体のしれない巨大な生物に、メイが囚われている! このままじゃ食べられてしまう!

 そんな最悪の未来を思い描いているのだ。致し方なしである。

 

 

 

「すぅーーっ……! ふぅぅーーっ……!

 すぅーーっ……! ふぅぅーーっ……!」

 

 ふいに、彼女が深呼吸をおこなう。

 目を閉じ、深く息を吸い込み、心を落ち着かせる。

 

 心に想うは、あの子の姿。

 昨日はじめてお家に招いた時、メイが見せてくれた無邪気な、そしてとびっきりの笑顔だ。

 

 楽しかった。あんなにもあたたかな気持ち、これまで感じたことがなかった。

 ぜんぶ全部、メイにもらった物だ。涙が出そうになるくらい……幸せだったんだ。

 

 ペンー、ペンー、ペンー、ペンー↑ ペンー、ペンー↑ ペンー↓(ギターの音)

 

「おー、まー、えー、はー! アー、ホー、かー!

 ……ですわ。日本のROCKミュージシャンがやっていましたの。勉強しましたのよ?」

 

 某ROLLYさん(旧名ローリー寺西)の持ちネタをやる事で、気持ちを奮い立たせる。

 ガクガクと震える足を抑えつけ、弱気をねじ伏せる。

 

「The pulse quickens by love…!*3 My heart beats quickens…!!*4

 

 あの子を救わねばならない。愛を取り戻さなくてはならない。

 たとえ凶悪無比で、強大な敵であろうとも(※トトロです)

 ここで退いては悪役令嬢の名折れ! 立ち向かわなければならない!!

 

「親愛なるアンジェラ・ゴソウさま。力をお与え下さい。

 貴方の勇気を、貸して下さいまし――――」

 

 いつもポシェットのように身に付けている、腰の小型アンプの電源をONにする。

 その瞬間、リボルバーの撃鉄が起こされるように、自分の中でギタリストとしてのスイッチが、カチリと入る。

 ハートに火を着けて……魂が燃え上がるのを感じる。

 

 ピーン! と“五円玉”を親指で弾く。

 それは高く跳ね上がり、まったく同じ軌道で落ちて来る。

 

「TVの前の、よい子のみんな! ――――お前を殺す。

 ココガ! オマエノ! 墓場デスヨ!」

 

 五円玉をパシッ! とカッコよく受け止め、即座にギターをギュイィィィィィン!!!!

 

 

「 C'moooooooon! TUKAMORI!! 浜田マリアンヌでしてよ!!

  ヌ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーッッ!!!!(デスボ) 」

 

 

 

 

 

 トトロが「ビクゥ!?」と跳ね、慌ててガバッ起き上がる。

 ちゃんとメイを優しく抱えたまま。

 

 今ここに、浜田マリアンヌのライブが幕を開ける。

 ピック代わりの五円玉と、胸いっぱいの愛を握りしめ、ギターをかき鳴らし始めた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

We walk this Earth!

この地球を歩く、わたくし達

 

With fire in our hands!

誰もが、その手にひとつの“炎”を持って

 

Eye for an eye!

目には目を、ですわ

 

We are Nemesis!!!!

わたくし達、ネメシス(罰を与える者)ですの!!

 

 

 

 

 

「おうるぁぁぁあああああ!!!!!」デケデケデケデケ!

 

 高速で指が動く。縦横無尽に。

 それに合わせるように、右手の五円玉が弦を弾いていく。見えないくらい速く!!

 

 

 

 

We are with you!

いつも一緒ですわ。貴様と共にある

 

Countless! vicious souls!

行く手を遮るは、数多の邪悪なる魂……

 

Fight! Fighting for freedom!

さぁ戦え! 自由を手にするために!!

 

United! we stand! we stand!!

団結です! 立ち上がるのですわっ!!

 

 

 

 

 同時に、力強く叫ぶ。

 喉が破れんばかりに。振り絞るように。魂のデスボイスで。

 

 いま演奏しているのは、ARCH ENEMYの“Nemesis”

 いつも彼女を支えてくれた、マリアンヌにとってのロック・アンセム。大切な曲だ。

 だが、いつもひとりっきりで弾いていたそれを、今は他者に向けて叩きつけている!

 

 喰らえとばかりに! ブチかましている!

 思う存分! 見せつけるように!!

 

 

 

 

We are legion!

わたくし達は軍勢。無敵の軍団!

 

Voice of anarchy!

アウトローの叫び、というヤツですわ

 

This is revolution!

見よ、これぞ革命――――

 

Creating!! new disorder!

しっちゃかめっちゃかな世界を、お作りいたしますわ

 

 

 

 

 

「フ ァ イ ヤ ァ ァ ァ ~ ッ!!!!」ベケベケベケ!

 

 ガックンガックン頭を振りながら、ジャジャジャとかき鳴らす。ヘドバン奏法だ。

 動くことも忘れない。その場で立ってるだけじゃつまらない。ミュージシャンは表現者であり、ここはステージなのだから。

 まるでAC/DCのアンガスヤングみたく、「うおぉぉぉ!」と片足立ちでピョンピョン跳ねながら、グルグルとトトロのまわりを周る。

 

 トトロは言葉を喋れないけれど、きっと今「ぼくの住処で何してくれてるんだ……」みたいな気持ちでいる事だろう。額に汗が浮いているのが分かる。

 

 

 

 

 

We are enemy!

我ら、公共の敵也

 

Opponent of the system!

既存の仕組みに抗う者でしてよ♪

 

Crushing! hypocrisy!!

その偽善、粉砕(つかまつ)ります

 

Slaying the philistine! YEAHHHHHH!!!!

俗物共め!! ブッコロですのよー☆

 

 

 

One for all. All for one

一人はみんなのため。みんなは一人のため

 

We are strong! We are one!

わたくし達はつよい! わたくし達はひとつですっ!

 

One for all. All for one

成すべきを成せ、その背中を守ろう

 

We are one! ――――Nemesis!!!!

我ら一個の軍団。ネメシスですわ♡

 

 

 

 

 デン! デン! デンデン! ギュイィィィィィ!!!!(ギター音)

 

「おっしゃあオラァァ!! ギターソロのお時間でしてよぉぉぉ!!

 わたくしの音を聴けェェェエエエーーーッッ!!!!」

 

 髪がブァサ! となるくらい身体を前後に振りつつ、これまで以上に激しく指を動かす。

 俺がお前の千手観音だ! とばかりの動き。トトロの森にヘヴィメタルが木霊する。

 木々は揺れ、葉は舞い散り、小鳥たちが「ヤバイヤバイ」と空へ飛び立って行く。

 とてつもない超絶技巧! くっそやかましいギターサウンドが空気を揺らし、いま立っているのか分からなくなるほどに鼓膜を振動させる。

 

「ヘイオーディエンス! 貴様の事ですわ貴様の!!」

 

 え、ぼくですか?

 トトロが「きょとん?」と目を丸くしながら、爪を指代わりに自分の方をさす。

 

「貴方、怒ってないんですの!? プリプリきちゃう事とか、ございませんの!?

 生きてりゃ誰だって、ムカつく事くらいあるでしょうに! ストレス感じてませんの!?」

 

 コール&レスポンスじゃなく、直に問うている。

 光の速さで指を動かしながらも、トトロの方をガン見して叫ぶ。まったく器用なことだ。

 

「――――怒れ! 叫びなさい!!

 何をのほほんと座ってますの! 縦ノリするなり、ヘドバンするなりあるでしょう!

 さぁ貴方も叫ぶのですわ! それがROCKの精神ですッッ!!!!」

 

 カモーン! 塚森ィィーー!! ……とか言っても、未だトトロはキョトンとした顔。

 いま目の前で起こっている事が、理解できないようだ。(そりゃそーだという話だが)

 

「こうです!! ――――ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!(デスボ)

 さぁやってごらんなさい! 貴方も!! ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

 

 デケデケデケデケ!!! ジャジャージャージャーン!!(ギター音)

 それに乗せられるように、トトロも「う゛おぁ」と言ってみる。可愛らしいアクビみたく。

 

「そうじゃないッ! 怒れッッ!! 怒るのですッッ!!!!

 何しに来たんですか貴様! いまライブやってんでしょーが!!(理不尽)

 こうですヨ! ――――ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

 

 続いてトトロも「う゛お゛ぁぁ~!」

 軽快なリズム、身体の芯まで来る爆音に、なんかテンション上がってきたと見える。

 ちょっと楽しそうな顔。

 

「オゥメェ~ン! なかなか良い声でいらっしゃいますわ♡

 でもまだ甘いッ!! 貴方の怒りはそんなもんデスカ!! 人生お花畑かコラァ!!

 ――――ウ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

 

 続いてトトロが「う゛お゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っっ!!!!」と大声を挙げる!

 楽しそうに! 愉快に! 身体の奥から!

 その大きな身体を以って放たれた、まさに野性の雄たけび! 獣の声!

 

 ビリビリと空気が震えるほどの、凄まじいシャウトを受け、マリアンヌはニッコリ。

 わかってきたじゃありませんの――――と楽し気にギターを鳴らす。

 さらに躍動する!! ベケベケベケベケ!!!!

 

「コール&レスポンスですわ! 後に続きなさい!

 ――――ナ゛ァァァアアアアーーーッッ!!!!(ヘヴィメタルシャウト)」

 

「なぁぁぁああああーーっっ!!!!(野性シャウト)」

 

「――――ファァァアアアアアックッ!!!!(ただのFワード)」

 

「ふぁぁぁっぐぉう!!(もごもご)」

 

 何をやらせとんねんという感じだが、なんとトトロがレスポンスしている!

 発音が上手じゃないので、かわいくモゴモゴしちゃってるが、お利口に後に続いているではないか! 世界がひとつになる!!

 

「――――森をかえせェェェ!! 木をかえせェェェ!!!!」デケデケデケ!

 

「う゛お゛あ゛ぁ゛っ♪ う゛お゛あ゛ぁ゛っ♪」

 

「――――仲間をかえせェェーー! 土地をかえせェェーッ!!

 人間を許すなァァァアアアーーッッ!!」デケデケデケ!

 

「う゛お゛ぁ゛ぁ゛っ♪ う゛お゛ぁ゛ぁ゛っ♪♪」キャッキャ キャッキャ

 

 トトロ喜んでる! めっちゃ笑顔になってる!

 なんかもう「キャッキャ♪」って言っちゃってるし、パチパチ手を叩いて楽しんでいる様子!

 関係ないけど、もののけ姫じゃないんだから、そのコールはどうかと思う。

 トトロはそれなりに平和に暮らしているのだ。いま昭和32年ですし(真顔)

 

 

 

 

A malicious fever burns!

熱病のように、悪意が燃えている

 

In our hearts, In our veins!!

心の中に。皆の静脈の中に

 

Your blood, My blood

わたくしの血と、貴様の血……

 

All blood runs the same! the same!!!!

みんな同じように流れているでしょうに! おんなじですわ!!

 

 

 

 

 コール&レスポンス、およびギターソロが終わり、マリアンヌは再び声を振り絞る。

 ダダダダー! っとそこらじゅう走り回ったり、地面に寝っ転がりながら足をばたつかせて、その場でコマのようにクルクル回転したり。

 それも、演奏をしながらだ。アンガス先輩も「Hell Yeah!」と言わんばかりの技術。

 関係無いけど、どこからかやってきた小トトロと中トトロが、マリアンヌの後に続いてトコトコ行進していて、すごく愛らしい光景。

 

「お゛あ゛ぁ~!」

 

 そして、この楽し気な雰囲気につられたのか、はたまたこの場の一体感からか。

 目を「きらーん☆」と輝かせたトトロが、どこからかスチャっと()()()()()を取り出す。

 いまこの子のまわりには、大小様々なサイズのバケツだの桶だのが置かれており、なんとそれをポカポカ叩き始めたではないか! ()()()()()()()()()()!!!!

 

「ほっほ~う……これは思わぬところで、ドラマー加入ですわ。

 よくってよ! よろしくてよ! メタルに魅せられたのなら、どうぞおいでなさい!

 ――――Let's Rock!!!!」

 

 

 

 

 

One for all. All for one

一人はみんなのため。みんなは一人のため

 

We are strong! We are one!

わたくし達はつよい! わたくし達はひとつですっ!

 

One for all. All for one

成すべきを成せ、その背中を守ろう

 

We are one! ――――Nemesis!!!!

我ら“復讐の女神”――――ネメシスでございます!

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 ギュイィィィィィ!! とギターを鳴かせると同時に、思いっきりジャンプ。

 あたかも「これでおしまい!」とばかりに、日本刀を振り下ろすようにジャン! とやる。

 

 演奏が止み、静寂が戻る。

 カサカサと風が木々を揺らす音だけが、今この場にある全て。

 

 だがマリアンヌにだけは、いま自分の内側で鳴る、うるさいくらいの心臓の音が聞こえている。

 ドクドク、ドクドク。それはまるで機関車のよう。()()()()()()()()

 

「おわぁ~!」パチパチ!

 

「っ! っ!!」パチパチ!

 

 やがて木の葉の音に代わり、トトロ達が嬉しそうに手を叩く音が聞こえた。

 これは、マリアンヌに対する拍手――――すごかった楽しかったという、彼らの歓声だ。

 

 それを聴いた途端、ようやく身体から力が抜ける。

 自分がいま汗まみれでいる事……そしてひどく息が上がっている事を、ようやく自覚した。

 

 でもまぁ、それどころじゃないかもしれない。

 だって今、マリアンヌの頭には、トトロ達をメンバーに加えた新しいバンドのアイディアが、もうとめどなく湧き出ているのだから。

 

 身体の大きなトトロが、ドラムとしてどっしり後ろに座ってくれれば、きっと凄くステージ映えするだろう。

 中トトロにはウクレレがいいかな? それともシンセを任せてみるか。

 小トトロ用のちっちゃなマイクスタンドを、またカルロスに頼んで発注してもらわなきゃ。

 そんな事ばかりが、頭に浮かぶのだ。

 

 

 

 

 

 いまマリアンヌの右手にあるのは、先ほどまでピック代わりに使用していた“五円玉”。

 

 

『人との()()を大切になさい』

 

『お金持ちでも、良い家に住んでても、関係無いの。人を愛しなさい』

 

『貴方に素敵な出会いがありますように。がんばるのよマリアンヌ――――』

 

 

 

 昔、お母さんがそう言って、これを握らせてくれた。

 このピッカピカの五円玉は、マリアンヌの宝物だ。

 

 

 

 

 

 

*1
【シャゲナベイベー】 日本ROCK界の重鎮、内田裕也さんがよく口にするセリフ。Shake it up Baby!(腰を振って踊りなよ!)みたいな意味

*2
例えば「ルルル~♪」とか「ピーパッパ! パラッポ!」みたく、特に意味をもたない言葉で歌うこと。

*3
愛で、鼓動、早くなる!

*4
わたくしの鼓動、早くなるっ!

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