hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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 ※注意!

 今回は、作中で“とある人物”を貶しているかのような描写が御座いますが、これには決して誹謗中傷の意図は御座いません。

 その理由は作中にて。ご注意くださいませ。







77 悪役令嬢だけどトトロ見えるよ! ~第6話~

 

 

 

 

「あの……お父さん?」

 

 夜。デスクのライトが柔らかな光を放っている、父タツオの書斎。

 

「おや、どうしたんだいサツキ。浮かない顔をしているね?」

 

「……」

 

 ノックと共に扉が開いたのを感じ、椅子を少し動かして背後を振り返る。

 もう夕飯もお風呂も終えて、黄色いパジャマを着ている愛娘。なのに彼女はどことなく元気がない顔をしながら、この部屋を訪れた。

 今日は記念すべき学校初日であったのだし、様々な出来事があったハズ。

 ゆえに、なにか自分に相談事でもあるのだろうと、タツオは察する。

 

「お父さんって、エレキギター持ってたよね?

 大切にしまってあるのを、見た事あるの」

 

「ああ。昔使ってたヤツだよ。

 もうずいぶん弾いていないけど、思い出に取ってあるんだ。

 それがどうかしたのかい?」

 

「じゃあお父さんは、ロックのこと知ってる?

 ロックとかメタルに詳しいのかなって……」

 

 これはこれは、意外な話題が出てきたものだ。

 ねじっていた身体をいったん戻し、今度はちゃんとサツキの方に向き直る。腰を据えて話をする姿勢を取った。

 

 ふとタツオの脳裏に、あの金髪縦ロールの少女のことが思い浮かぶ、

 まだちんまいのに、特注っぽいライダースと革ジャンを着ていて、名家の令嬢らしからぬ恰好。でもすごく良い子で、とても礼儀正しかった覚えがある。

 

 きっとロックと言うからには、マリアンヌちゃんに関する話なのだろう。

 タツオはそうあたりをつけ、優しい顔でサツキを見つめながら、ゆっくり次の言葉を待った。

 

「教えてほしい事があるの。

 あたし、浜ちゃんとね――――」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「う……うへへ。うへへへ♡」

 

 一方その頃マリアンヌは、自室でひとり音楽を聴きながら、変な笑みを浮かべていた。

 

「ご無沙汰しておりましたわ、ジョニーさん♪

 ご機嫌麗しゅう。やはり貴方さまはとっても素敵ですわね♪ うえへへへ(アヘ顔)」 

 

 彼女の顔が人様には見せられないレベルで大変なことになっているが、別に薬をやっているワケじゃない。ただ音楽を聴いているだけである。

 いまマリアンヌの手元にあるのは、ヘヴィメタルバンド【RIOT】の“NARITA”というアルバムだ。

 スピーカーから流れる軽快なロックンロールに耳を傾けつつ、まるで遠い戦地で恋人の写真を見つめる兵士の如く、“NARITA”のジャケットを凝視し続ける。

 なんとも言えないような、変な笑みを浮かべて。

 

「今日トトロさんとお会いした事で、ふと聴きたくなったのですわ♡

 このRIOTが誇るマスコットキャラクター“ジョニーさん”こそ、メタル界のトトロと言っても過言では御座いません! うふふふふ♪」

 

 ちなみにこの“ジョニーさん”とは、デビューアルバムからRIOTのCDジャケットに登場し続けている、謎の生命体のことである。

 上半身裸で、何故か手に斧を握っており、しかも()()()()()()()()という、どっこも可愛く無いなんとも不思議な感じのキャラ。

 

 RIOTはとても素晴らしいヘヴィメタルバンドだが、でもファンがRIOTと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、彼らの楽曲ではなくこの“ジョニーさん”の御姿である事だろう。

 そのくらいインパクトが強い見た目をしているのだ。そこらのゆるキャラなんて目じゃない。

 

 つかそんなのと一緒にされたら、トトロも宮崎駿も「ぷんぷん!」と来ちゃいそうなものだが。なんたって天下のトトロだし。

 でも残念、ここはマリアンヌの自室だ。彼女を咎める者は存在しない。ヘヴィメタル万歳。

 

「今日は色々なことが御座いましたわ。さげぽよな事とか、ビックリする事とか……。

 でもオールOK! わたくし、今とても気分がよろしくてよ♪ Hell Yeah(たまんねぇ)!」

 

 学校で痛感した無力感と、孤独感。

 木のトンネルを抜けた先で起こった、不思議な出会い。

 愛とメタル魂を胸に演奏した、渾身のオンステージ――――

 その全てが、今は遠く幻のよう。確かにあった出来事のはずなのに、どこか現実感が持てずにいる。

 

 

 

 あのライブの後、どうやらマリアンヌは、いつの間にか眠っていたらしく、次に気が付いた時には、メイとふたり寄り添うようにして、トトロの住処の手前にある“木の通り道”に寝かされていた。

 妹を探しに来たサツキが、クゥクゥと幸せそうに寝息を立てている二人を発見したのだが、目が覚めた時は大いに混乱していたものだ。

 

 トトロいたもん! ホントだもん! ウソじゃないもん!

 一緒にSMOKE ON THE WATER*1やったもん! セッションしたもん!

 トトロ、ヘドバンしながらツーバス踏んでた!

 ……とかなんとか二人で喚き散らし、サツキを「キョトン?」とさせちゃうのだった。

 

 メイに怪我が無いことを確認し、軽く事情を説明した後、すぐに「お稽古の時間で御座います」とトーマスさんが迎えに来たので、マリアンヌはサツキ達と別れ、帰宅していった。

 彼女としては、「ごきげんよう♪」と親愛の情を込めて挨拶したつもりだったが……、でもサツキの方はなにやら奥歯に物が挟まったような、何とも言えない表情をしていたのを憶えている。

 言いたい事があるけど、上手に言葉を探せないでいる、という風な。

 

 まぁこれからは毎日学校で会えるし、自分達は同じバンドの仲間だ。

 また次に会った時にでも話を聴けば良いと、マリアンヌはさして重くは捉えていない。大丈夫ですわってなモンだ。

 

 関係ないけれど、メイの話を聞いたタツオさんが、「嘘だなんて思わないさ。でも、いつでも会えるワケじゃないんだろうね」と、塚森の主であるトトロについての持論を語っていた。

 だが正直、トトロはもう()()()()()()()()()()()()()、いつでも会えなきゃ困る! というのがマリアンヌの主張である。

 

 これからガンガン練習して、来るべきライブに備えなきゃいけないし、バンドは常に一丸となって行動しなくてはならない。

 ごめん今日は無理とか、いつでも会えるワケじゃないとかは論外だ。そんな事でROCKがやれるものか。いったい何を考えているんだ。

 

 早速制作しておいた、マリアンヌお手製の【GO・EN・DAMA!ステッカー】も渡してあるし、勝手に住処の木とかにもペタペタ張ってきた事だし。

 なのでトトロの方も、こっちが「あーそびーましょー!」とばかりにメロイックサインでも掲げれば、快く住処までの道を開いてくれるハズだ。間違いないですわ。

 

 そんな変な自信が、マリアンヌにはある。

 なんたってリーダーの指示は絶対なのだ。――――バンドに忠誠を!

 

 

 

「ああ……愛おしいですわ。

 狂おしいほどに、お慕い申しますわジョニーさん♪ Fucking high♡」*2

 

 まぁそんなこんながあったワケなのだけど、今マリアンヌはRIOTのCDに夢中。

 お部屋で一人、幸せな気分に浸っているのだった。

 

 ちなみに今聴いている“NARITA”というアルバムは、“ダサい”のがさも当然かのように扱われているHR/HM界において、その頂点に燦然と輝く作品。

 いわく――――【世界で一番ダサいメタルCDのジャケット】と呼ばれている。

 

 たとえRIOTというバンドは知らなくても、このCDのジャケットは知っている~という人がいる程に、とても有名なもの。

 マリアンヌが大好きなアルバムである。

 

 先ほどもあったが、このRIOTのマスコット的キャラクターである“ジョニーさん”は、上半身裸で、手に斧を持ち、頭部が白アザラシ(マスクなのか素顔なのかは不明)という摩訶不思議な見た目をしている。

 

 その彼が、なぜか今作のジャケットでは()()()()()()()()()、ガイコツや人骨がたくさん足元に散らばっている荒野で、ひとりお相撲さんヨロシクの四股立ちをしているのだ。

 もしこの子に「プリキュアになっておくれ」とか言われたら、たとえユイちゃんでも裸足で逃げ出すだろう。こんなマスコットは嫌だ。

 

 しかもジョニーさんの背後には、謎の爆炎が派手に上がっており、それと共に地表スレスレを飛ぶ謎のジャンボジェット機が映っているという、たいへん頭のおかしいユニークなイラストである。

 

 きっと何を言っているのか分からないと思うが……、こちらとしても非常に説明が難しい。そんな筆舌に尽くしがたい作品となっている。

 RIOTはアメリカのROCKバンドなのに、おもいっきり漢字で“成田”って書いてあるのもシュールだ。本当に意味が分からない。

 

「このアルバムがあれば、わたくし()()()()()()()()()自信があります。

 どんな時も、笑って生きていける気がしますの――――」

 

 お手間じゃなければ、ぜひYOUTUBEなどの動画サイトで、一度【RIOT NARITA】と検索してみて欲しい。

 そこには、貴方がこれまで見た事がないような光景が、きっと広がっているハズ。

 人によっては、得難い出会いと、この上ない幸せを手に入れる事が出来るだろう。今のマリアンヌのように。

 

「たとえば、何かしらのトラウマにより、笑顔を忘れた少年が居たとしましょう……。

 でもこの【NARITA】を聴けば、()()()()()()()()()()()」キッパリ

 

 日本人だろうが外人だろうが、関係無い。

 RIOTを知らなかろうが、ROCKを聴かない人だろうが、それすらも関係無い。

 これはもう伝説と謳われる、無敵の爆笑ジャケットなのだ。

 

 RIOTが演奏する、軽快で耳に心地よいご機嫌なロックンロールに乗せてに、このダサくてシュールなジャケット絵を見せられる……。

 その時、表情筋を動かさずにいられる人類は、この世に存在しない。

 たとえ親とかペットが死んだ直後だろうと、この【NARITA】のジャケットを見た途端「ぶふぅ!?」と噴き出すだろう。

 そうマリアンヌは、強く確信している次第。

 

 重ねてになるが、このジョニーさんはRIOTのマスコットであり、彼らのCDジャケットに数多く登場しているキャラクターだ。

 言うまでもなく、そのジャケはどれも悉くシュールで、長年に渡りROCKファン達に、シリアスな笑いを提供し続けている。

 ようは、()()N()A()R()I()T()A()()()()()()()という事だ。RIOTのCDジャケって、こんな感じのが多いのである。

 

 そう、メタルは人を笑顔にする! 主にダサいジャケットによって。*3

 

 

「これさえあれば生きていける! 人生を歩んでいけますっ!

 あ、そうだ! サツキさんにも、一枚プレゼントしましょうか♪

 今日はどことなく元気がありませんでしたし、きっとこれを聴けば、笑顔になって頂けますわ♪」

 

 

 ニコニコと“NARITA”のアルバムを聴き、マリアンヌはご満悦。

 ほののんとジョニーさんのジャケットを手に、サツキの笑顔に想いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「……」

 

 翌朝、通学路。

 通りすがりの人々が、こちらを見てヒソヒソ声で何かを話す中、ひとりまっすぐ前を向いて歩くマリアンヌの姿があった。

 

「何あの服……黒い」

 

「金髪? 外人さんなの?」

 

「まだ小さいのに、なんであんな恰好を……」

 

「何だありゃ、楽器かぁ? けったいな子だなぁ」

 

 聴こえないように気遣ってはいるのだろうが、その声は時折、耳に入って来る。

 けれど、マリアンヌの表情が崩れることは無い。

 その瞳はまっすぐ、前だけを見つめている。

 

 ――――いつもの事、気にしても仕方ありませんわ。

 

 その毅然とした態度は、見る者によっては「立派だ」と映ることだろう。

 流石はHAMADA家の娘、悪役令嬢の名に相応しいと。

 けれど、今この場においては、周りの人々を訝し気な表情にさせる要因のひとつに過ぎない。

 

 こんな田舎町、しかも日本という国で、アメリカ人の女の子がメタルファッションを着込み、ギターを抱えてテクテク歩いているのだ。

 人々が奇異の目でこちらを見るのも、無理からぬ事だった。

 

 ――――変な目で見られたくないのなら、このような恰好、しなければよろしい。

 マリアンヌは思う。これは()()()()()()()()()()()

 自分は受け入れている。……いや自ら望んで、この状況を作り出しているのだと。

 

 ちなみにマリアンヌは、もう少し大きくなったらば、腕に【666】という数字のタトゥーを入れようと、心に決めている。

 きっと、それを見た人々は「うえっ!」って顔をする事だろう。

 そんな事は分かっている、だが()()()()()()()

 

 グラサンをかければ、「こいつイキがってるな」と周りに思われる。

 野球部に入るべく丸坊主にすれば、「カッコ悪い」と言われる。

 高いバッグや、煌びやかな宝石を身に付ければ、「お高くとまりやがって」という印象を持たれるだろう。

 

 それと一緒だ。メタルファッションに身を包めば、「怖い人だ」とか「近寄りたくない」とか思われても、当たり前。

 でも、自分はこうだから――――ROCKが好きだから、この恰好をしている。

 ただそれだけの事だ。

 

 人目を気にするより、変な風に思われる事よりも、貫きたい想いがある。

 決して無くしたくない、大切にしたい、何をおいても譲れない物がある。

 だからマリアンヌは、いつもこの恰好で歩く。いま目の前で起こっている事の全てを、しっかり受け入れながら。

 自分はメタラーだ。こういう人間だ。ROCKなんてやっているロクデナシだと、ハッキリ示すように。

 

 それが大事なら、いいじゃありませんの。

 泥をかぶる位、何だと言うのです?

 わたくしはメタルが大好きですわ――――胸を張りたいのです。

 

 

 余談ではあるけど、以前マリアンヌは祖国アメリカで、身体に“あるタトゥー”を入れた女の人と会った事がある。

 

『貴方は日本語が分かるの?

 私も日本のことが大好きで、漢字のタトゥーを背中に入れてるのよ♪』

 

 父が日系アメリカ人である事や、あのNARITA(成田)のアルバムが大好きなこともあり、当時からマリアンヌは親日家。

 それがふと話題に上がった時、その綺麗でお淑やかな女性は、嬉しそうに背中のタトゥーを見せてくれたものだ。

 

『昔、日本人の方とお会いした時に、日本語で【神様】はなんと言うのですか? って教えて貰ったの。

 このタトゥーを入れた事を、私は誇りに思っているわ。とても気に入っているの♪』

 

 女の人は、とても幸せに満ちた表情で、まるで大切な宝物を披露するみたいだった。

 でも確認してみた所、彼女の背中にはおもいっきり【矢沢】って文字が書いてあって……。

 マリアンヌは「あんがー!」と口を開け、なんとも言えない気持ちになっちゃったのを憶えている。

 

 ――――いや“神”かもしれないけども。YAZAWAは凄いロッケンローラーだけども。

 ひどい事するなぁ……、と人知れず思ったものだ。これ一生消えないんですねと。

 ちなみに「それ違いますわよ?」と訂正することは出来なかった。シラヌ・ガ・ハナァー!

 

 まぁ何が言いたいのかと言うと、タトゥーや信仰というのは、その人にとっての“究極の拘り”だ。

 好きな音楽への愛だって、きっと同じなのだと思う。

 だから喜んで背負うし、ちょっと変な目で見られたくらいで、曲げる事はない。

 

 マリアンヌはそう信じているから、心のド真ん中に大事な物がしっかりとあるから、まっすぐ前を向くことが出来る。

 誰に恥じる事なく。

 

 

 

「それに……どうやらわたくしを応援して下さる方々も、いらっしゃるようですし?」

 

 ふと車の音に振り向いてみれば、そこには「おーいマリアンヌちゃーん!」とこちらに手を振っている、農家のおじさん達の姿が。

 また加藤登紀子やってくれなー! 今度は坂本九も頼むよー!

 そんな風に、好き勝手なリクエストを口々に言いながら、トラックで通りすがっていった。

 

「わたくし、シャンソンのシンガーでも、歌謡曲の歌手でも御座いませんことよ?

 でもやってみますわ。ごきげんようおじさま方♪ 今日もよい一日を♪」

 

 マリアンヌも上品に手を振り、笑顔で応えた。

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 

「皆さま、おはようございますわ」

 

 やがて学校に到着。

 廊下で見かけたクラスメイトの子達に、ペコリとご挨拶。

 そのイカつい風貌とは裏腹、品の良さを感じさせる丁寧な所作に、子供達はみんな戸惑っている様子。

 どの子も「あはは……」と苦笑いをしながら挨拶を返し、すぐに目を逸らしてしまうか、足早にタタタと立ち去ってしまう。

 それでも、マリアンヌが表情を崩すことは無い。花のように朗らかな笑みだ。

 

 昨日、某ジョニーさんに貰った元気、そしてトトロに出会ったという喜びが、足を軽くさせているのかもしれない。

 マリアンヌは「ルンルン♪」と聞こえてきそうなほどご機嫌な足取りで、自分の教室の扉を開いた。

 

「――――あっ、浜ちゃん!!」

 

 入口をくぐった途端、元気な声が聞こえた。

 目線をやらずとも分かる。これはサツキの声だ。

 楽器に携わる者の常として、マリアンヌはとても耳が良く、絶対音感まで持っている子だ。しかも大好きなサツキの声とあらば、たとえどのような状況下であっても、聞き間違えるハズもない。

 今日はとても気分がよい日だけれど、さっきよりも更に嬉しそうな笑みを浮かべて、サツキの方に振り返った。

 

「あらサツキさん、おはようございますわ♪

 今日もよいお日柄ですこと♪」

 

「っ! っっ!!」

 

 朗らかに言葉をかける。……けれど様子が変だ。

 どうやらサツキは、昨日に引き続き、大勢のクラスメイト達に囲まれているようだ。

 恐らくは、その状況にありながらも、ずっと出入口の方を気にしていたのだろう。

 マリアンヌの姿が見えた途端、思わずといった様子で、大きな声を挙げたのだ。

 

 その声にビックリしちゃったのは、周りにいるクラスメイト達。

 さっきまで楽しくお喋りしていたんだろうに、今は「シーン……」と静まり返っている。

 きっと、彼女がマリアンヌに声をかけた事が、意外に思えたのだろう。

 なんであの子に? という疑問が、みんなの表情に滲んでいるように思う。

 

 あらら、これはいけませんわねぇ。

 頭の良いマリアンヌは、即座にこの空気を察する。

 有り体に言えば、自分のような者とサツキさんが関わるのは、()()()()()()()()()()()()

 

 転入生であり、その活発で明るい人柄から、早くもクラスの人気者である彼女。

 対して自分は? もう語るまでも無いだろう。

 はっきり言って、マリアンヌはサツキに()()()

 少なくとも、周りはそう判断しているのだろう。

 

 先ほどの通学路で、“背負うこと”について考えを巡らしていたが……これは個人としての話だ。

 怖いだの、変な人だの、そういった悪評によって彼女に迷惑をかけてしまう事を、マリアンヌは是としない。

 ゆえに、コクリと頷き、柔らかな笑みだけを贈って、その場を通り過ぎようとしたのだが……。

 

「 まって! まってよ浜ちゃんっ!! 」

 

 足を止める。あまりに必死さが滲んだ、その大きな声に。

 視線を向けてみれば、もうドドドッとクラスメイト達を押しのけながら、こちらに走って来るサツキの姿が。

 

「浜ちゃん、あたし……あたしはっ!」

 

「?」

 

 いくつかの机をガシャーン! と倒しながら、それでもマリアンヌの前に立つ。

 今サツキが、とても真剣に、そして縋るような想いでいる事が、その懸命な姿から感じられた。

 いったいどうして? 何があったのです?

 マリアンヌは目をまん丸にする。

 

 

「みてみて浜ちゃん! ――――んっ!!!!」ビシッ!

 

「 !!!??? 」

 

 

 サツキが唐突に、()()()()()を取った。

 その瞬間、マリアンヌの頭上に〈ズガーン!〉と雷が落ちる。言葉を失くす。

 

「どうコレ!? 浜ちゃんどう!? んーっ!!」ビシッ!

 

 いま彼女がやっているのは、いわゆる【Fire and Iceのポーズ】

 コサックダンスのように、しゃがんだ状態で左足をピンと伸ばし、そこから右腕を天に向かって突き上げるという、めちゃめちゃダサいすごくカッコいいポーズであった。

 

「こっ…………これはァーー!!!???」ピシャーン!

 

 周りにいるクラスメイト達は、誰一人として分かっていない。でもマリアンヌには分かる! 理解できる!

 これは! かのヘヴィメタルの王者こと、スウェーデンの超絶ギターヒーロー【イングウェイ・マルムスティーン】のモノマネ!

 

 彼のアルバムであるFire and Ice、そのジャケットで披露している、すんごいカッコ悪い彼を象徴するポージングなのだ!

 

「な……ナナナ! 何故このポーズを!?

 なぜご存じですのサツキさんっ?!」ワナワナ…

 

 もう幾度も申し上げているが、メタルはダサくてナンボ。これは決して誹謗中傷では無いことをご理解下さい。メタルはそーいうモンです(愛のある自嘲)

 それはともかくとして……いまマリアンヌが「ガーン!」みたいな顔で、ワナワナと立ち尽くしている。

 

 ちなみにこの【Fire and Ice】というアルバムは、あのRIOTのNARITAと共に双璧と称される、メタルの歴史の中で1,2を争うくらいに『くそダサいジャケット』で有名。

 それもこれも全て、このメタルの王者ことイングウェイさんがやっている、得体の知れないクソダサなとてもカッコいいポーズ&キリッとした真顔のせいである。

 

 とても破天荒で知られるイングウェイさんのお人柄を鑑みると……恐らくご本人は「これをカッコいいと思ってやっている!」という事が、容易に想像できる。

 それが更に相乗効果として、このジャケットの素敵さと、このポーズの破壊力を、飛躍的に上昇させているのだ。

 

 RIOTのアレと同じく、たとえメタルやイングウェイ氏のことは知らずとも、この【Fire and Ice】のジャケットは見た事がある! このポーズを知っている! という人も少なくない。

 それほど有名で、一度見たら決して忘れることの出来ない程、インパクトのあるジャケットだと思って頂けたらと思う。メタルってホント最高だよな(震え声)

 

「なんと……なんという事を!!

 サツキさん、貴方ッ……!!」

 

 この場でマリアンヌだけは、このポーズを知っている。意味を理解出来る。

 だからこそ、衝撃を受けた。

 人気者であり、みんなに愛される素晴らしい女の子……そんな他ならぬこの子が! よりにもよって【Fire and Iceのポーズ】をと! ――――ダサッ!?!?(迫真)

 

「っ! っ!!」

 

 ポーズを取ったまま、サツキが必死さが窺える瞳で、じっとマリアンヌを見ている。

 その目は、明らかに“何か”を訴えている。

 言葉にできない、なんて言ってよいのかが自分でも分からない想い……。それを懸命にマリアンヌに伝えようとしている。

 

 ――――あたしは! 浜ちゃんが好きなの!

 ――――周りや見た目なんか関係ない! いっしょに居たいのっ!

 サツキのクッと結んだへの字口、そしてウルウルと涙に潤んだ瞳が、訴えかけている!!

 それを身体中で示してる!(くっそダサいポーズで)

 

 

「 サ ツ キ さ ん ッ ッ !!!! 」

 

 

 即座にマリアンヌも、Fire and Iceのポーズ。

 ビシッと! 高らかに! 向かい合って決める! この上なくダサく!

 

「サツキさんッ! あぁサツキさんッ!! 我がソウルメイト!!」

 

「浜ちゃん浜ちゃん浜ちゃん! 浜ちゃあああーーんっ!!」

 

 マリアンヌには分かる。サツキがどんな想いで、このポーズをやったのか。

 きっとお父さん……タツオさんに訊いたのだろう。「メタルの事を教えて」と。

 

 あの子と、もっと仲良くなりたい。

 昨日はひとりっきりで居るあの子に、駆け寄ることが出来なかった……。けど友情を示したい。

 貴方と一緒に居たい。あたしもROCKがしたいんだって、浜ちゃんに伝えたいの!!

 

 そんな気持ちを、アリアリと感じる。全身で表現している。

 こんなくっそダサいポーズなのに、周りのみんなはこっちを見て「くすくす」と笑ってるのに、サツキはそれを微塵も気にする事がない。

 いま彼女の瞳に映っているのは、大切な友達の顔。マリアンヌの事だけだ!

 

「うわぁぁぁん! サツキさん! サツキさん! ロォォォック!!(デスボ)」

 

「浜ちゃん! 浜ちゃあああん! ろぉぉぉっく!!(デスボ)」

 

 やがて二人は、(せき)を切ったように泣き始め、ガバッと抱きしめ合う。

 おーいおい! と大声をあげて、二人で涙を流した。

 

 それを見ていたクラスメイト達は、ポカーンとした顔。

 サツキちゃんもマリアンヌちゃんも、いったいどうしたんだろって、ワケも分からず呆けてしまう。

 そんな、二人だけの空間。サツキとマリアンヌだけが分かる、二人だけの共通した想い……かに見えた。

 

「おいサツキ! マリアンヌ! 俺のこと忘れてんなよっ!」

 

 けど突然、カンタ君がぐぅあ~! と駆け寄って来て、二人に向けてビシッとメロイックサイン。右手を高々と上げる。

 

「バンドの仲間だろっ! 一緒にやるって言ったじゃんかっ!

 仲間外れにすんなって!」

 

「あ……あははっ! そうだねカンちゃん! うんっ!!」

 

「ええ、いっしょですわカンタ君……! わたくしたち【GO・EN・DAMA!】ですわっ!」

 

 よっしゃあ! とばかりに円陣を組み、みんなでメロイックサイン。

 この世界に示すように、改めて団結。右手を振り上げる。

 

 

「今日帰ったら、早速サツキさんのお宅に集合ですわっ!

 お二人に、新しいメンバーを紹介いたします! すんごいドラマーですのよっ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 関係ないけど、マリアンヌ達も意図せぬ所で、この時からクラス中でファイヤー&アイスのポーズ、およびメロイックサインが大流行する事となる。

 

 授業中も「この問題わかる人ぉ~?」って訊かれたら、みんなメロイックサインで「はい!」とハンズアップするので、先生達は大いに戸惑ったそうな。

 

 ロケンロー!(やけくそ)

 

 

 

 

 

 

 

*1
【SMOKE ON THE WATER】 HR/HMバンド“ディープパープル”の代表曲のひとつ。比較的スローテンポな曲で、演奏がとてもシンプルなので、初心者バンドのための練習曲としてお馴染み

*2
クソ上がるぜ! ですわ♪

*3
※誹謗中傷に非ず。メタルにとって「ダサいは誉め言葉」です♪





 ◆作中で使用した、YOUTUBEで検索すると幸せになれるワード集◆


・【RIOT NARITA】
 このアザラシ君の名前は“ジョニーさん”。とっても可愛いので、みんなで愛でよう!

・【Yngwie Malmsteen Fire and Ice】
 メタルの王者、イングウェイ様の雄姿を、目に焼き付けろ!


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