「おい、あれ見てみろよ!」
「わぁ!」
カリカリと鉛筆を走らせる音だけが、唯一のBGMだったハズの空間。
サツキやマリアンヌがお勉強に勤しんでいた教室に、ふいに誰かの楽し気な声が挙がったのは、お昼を過ぎた頃だった。
「ええっ!? ワッツ ザ ファック!!」(なんてことなの!)
「
誰かさんの口調がうつったのか、思わずスラングを口走ってしまうサツキ。
対して、その隣に座るマリアンヌは、育ちの良さを感じさせるお上品な笑み。ニッコリってなモンだ。
それもそのハズ。いま彼女らの目に映っているのは、他ならぬメイの姿。
カンタ君のおばあちゃんに付き添われて、校門のあたりに立っているみたいなのだ。
「すいません先生! 外に妹がっ!」
サツキは一言断りを入れると、慌てて校庭に駆け出す。
その背中を追って、ついでにマリアンヌも教室から飛び出した。
先生の「ちょ……浜田さん!?」という声も、聞こえないフリをし、レッツパーリィとばかりに。
こういう時、外国人というのは便利だと思う。
だって叱られても「日本語わかりませんでしたー!」とか「アメリカではこういうモンですの」と言い訳が立つから。イッヒッヒ♪
「ちょっとメイ! どうしたのよ、なんで来ちゃったの?」
「……っ」
それはともかく、サツキはジブリキャラの面目躍如という感じで、もう速攻でメイの所にたどり着く。
そして妹を前にするやいなや、困惑顔で問い詰める。
今日はお父さんも、大学のお仕事がある日なので、メイはおばあちゃんの所で預かってもらう事になっており、自分が帰って来るまでいい子にしているようにと、ちゃんと言い付けておいたハズなのに。
「ごめんなぁ~サツキちゃん? メイちゃんがどーしてもっで、聞かなくでぇ~。
ず~っどいい子にしてたんだけんどぉ~」
「もう……おばあちゃんも忙しいのに、迷惑かけちゃって。
ダメじゃないのメイ……」
おばあちゃんは「いいのいいの♪」と朗らかに笑ってくれているが、罪悪感が湧く。
けれど、今ギュッと両手を握りしめながら、じっと押し黙っている様子のメイを叱ることは、どうしても出来なかった。
きっと寂しさに耐えかねたんだろう。見知らぬ土地に引っ越してきたばかりだし、すごく心細かったに違いない。
言い付けを破ってしまったのは、確かによくないけれど……でも「お姉ちゃんに会いたい」というメイの気持ちを、どうして責める事が出来るだろう。
しばしの間、そうため息をつくばかりだったが、やがてメイが歩を進めて、サツキのお腹にギュッとしがみ付いた。
悪いのは分かってる、お姉ちゃんを困らせている事も。言い訳なんか出来ない。
だからこそメイは、無言で手に力をこめる。そうする事で気持ちを表すしかないから。
「What an adorable…!*1 わたくし一人っ子ですし、お二人が羨ましいですわ♪ とっても素敵♪」
マリアンヌは感激したように両手を合わせ、柔らかく微笑む。
この状況に困惑し、みんなに迷惑をかけてしまったと後ろめたい気持ちでいたサツキだったが、その心からの好意によって、なんか毒気を抜かれてしまう。
それと共に、少しだけ心が軽くなる心地がした。
「ほらほら、大丈夫ですよメイさん。もう泣くのはおしまいですわ♪
I don't want to see a face that has forgotten how to smile」*2
メイと目線を合わせるように屈み、レースのハンカチを差し出す。
サツキやおばあちゃんには、この子が何を言っているのかはよく分からないのだが……とりあえずメイを気遣ってくれてるのだけは理解できた。
関係ないけど、マリアンヌはクリスタルキングが好きなんだろうか? あれも凄いロックな曲だし、ジャパニメーションは海外でも有名だけども。
とにかく、マリアンヌは丁寧な手つきで、優しくメイの涙を拭ってやる。
メイの方も、サツキのお腹にしがみ付きながらではあるけれど、片方の手でギュッとマリアンヌの服を掴んでいるのが見て取れる。
まるで「浜ちゃんもいっしょにいて」と言うようにして。
昨日は一緒にSMOKE ON THE WATERをセッションした仲だし、なにより子供というのは鋭いものだ。きっとマリアンヌが心から自分を愛してくれてる事と、勘違いとはいえ必死に守ろうとしてくれていた事を、なんとなしにでも感じ取っているのかもしれない。
まだ短い付き合いながら、とてもマリアンヌを慕ってくれているようだ。
「おや……? あぁそういう事でしたの! なるほどっ!
サツキさん、どうやらメイさんから、ご報告があるようですわ♪」
「?」
ふいに声をかけられ、キョトンとする。
けれどマリアンヌがチョイチョイと指さす方に目を向けてみれば……、そこにはウンウンと頷いているおばあちゃんの姿。
そして、その手に握られているのは、メイ専用の小さなマイクスタンドであった。
「えらいですわメイさんっ! お一人で練習なさっていたのですね!
流石は【GO・EN・DAMA!】のボーカリスト! バンドマンの鏡ですわっ☆」
「うん! メイがんばったよっ!
はっせーれんしゅー? もやったし、あのお歌もうたえるよーになった!
メイちゃんとおぼえたもんっ!」
おそらく、この子はマリアンヌに教えて貰ったボイストレーニングや、借りていたCDの曲を覚えることに打ち込んでいたのだろう。
サツキ達が学校へいっている間も、一生懸命に練習していたのだ。
そして、「あの曲を歌えるようになったよ!」というのを、一刻も早くお姉ちゃん達に伝えたかった。一緒にセッションがしたかった。
それがどうしても我慢できなくて、きっと学校にまで来てしまったのだろう。
「Roger that!*3 乗るしかありませんわねぇ、このビッグ・ウエーブに!
……カンタ君! ロックのお時間ですわっ!!」
「まかせとけマリアンヌ! ほらよっ!!」
彼女がパチン! と指を鳴らすと同時に、カンタ君がポーイ! とギターを放り投げる。
それはフワッと放物線を描いて飛び、「あわわ!」と慌てふためくサツキの腕の中に収まった。
というか、いつの間に来てたんだカンタ君。ちゃっかり自分のベースまで抱えて。
「皆さま、準備はよろしくて?
我ら【GO・EN・DAMA!】初の……しかもゲリラライブ敢行っ!
塚森のハナタレ共に、ロックを教育してやるのですわッ!」
「おっしゃあー! 見てろよ教室のヤツらぁー! やってやるぜぇー!」
「おーっ! ばっちこぉーい!」
「えっ、ここでやるの浜ちゃん? ……今からぁ!?!?」
オロオロしているサツキを余所に、三人は「いくぞー!」と拳を振り上げる。
落ち着く暇も、状況を理解する時間もなく、マリアンヌの号令で配置に付くメンバー達。
センターがメイ&サツキ、その両翼にマリアンヌ&カンタ君が陣取る。
もちろんこのライブの観客たる、校内の皆に向かってだ。
「――――
We are GO・EN・DAMA! ですのよォォーーッ!!」
「「「 ウオォォォオオオ!! マリアンヌちゃあああぁぁぁんッッ!!!! 」」」
マリアンヌのコールと共に、空気が震えるほどの大歓声。
降ってわいたような突然のイベントに、学校中のみんなが授業もそっちのけで、校庭に釘付けだ。
そして、意外とノリが良いおばあちゃんの「ワンツー、さんし!」の声と共に、一斉に演奏を始めるマリアンヌ達。
ギュィーン! デデデデデデ!(ギター&ベース音)
……
…………
……………………
青春――――これはまさにそんな光景。
割れんばかりの歓声が飛びかい、沢山のメロイックサインが掲げられる中、まぶしいほどの太陽に照らされ、みんなの汗がキラキラ光る。
そして当然だが、
インガ・オーホーですわ! Holy Fuck!
◆ ◆ ◆
「 この馬鹿娘がッ!! 」
「――――ペイーン!」
パパのゲンコツにより、マリアンヌが変な声をあげる。She is the pain killer!
ここは学校にある応接室。現在マリアンヌは、またしても親を呼び出され、お説教を喰らっている最中である。
まだ転校してきて1か月と経たないというのに、早くも二度目。
いくらロックを志しているとはいえ、令嬢として如何なものか。
タンコブの出来た頭をクシクシ撫でるマリアンヌを余所に、パパは「ウチの娘がすいません」とひたすら頭を下げる。
あれは立派な授業妨害だし、小学生がゲリラライブをするなど、前代未聞だった事だろう。
娘の将来の為にも、どうか退学だけは……と必死に謝っているご様子。
「何があったのかってビックリしたけど、まさかライブをするなんてねー。
いいなぁ、僕も聴きたかったよ。早く電話をくれれば良かったのに」
「お父さん?」
対して、同じく呼び出されたタツオさんの方は、なにやらのほほんとした物だ。
一応は「駄目だよサツキ?」と叱りながらも、愛娘たちの初ステージを思い描き、楽し気な顔をしている。
「貴方がサツキお嬢さんの? お話は伺っております。
娘がたいへん世話に……」
「いえいえ、こちらこそですよ浜田さん。
マリアンヌちゃんと出会ってから、二人ともすごく楽しそうで」
お父さん同士、ペコペコ頭を下げ合う。
マリアンヌ&サツキはおいたをしちゃった手前、居心地の悪さを感じ、ただただソワソワするばかりだ。
「まったく! 自分一人ならともかく、周りまで巻き込むとはッ!
こぉ~んな可愛い子達に迷惑をかけるなど、言語道断だぞマリアンヌよ! ぐへへへ……♪」
「涎が出ていますわ、お父さま。
お拭き下さいまし、お拭き下さいまし」
サツキやカンタ君といったチビッ子達の方を見つめ、気持ち悪い顔をするマリアンヌパパ。
この人は自分の娘に対しては、「親の義務だ! 致し方なし!」とばかりに厳しく躾けるのだが、その反面、余所の子供に対しては、もう形無しって程デレッデレになる。
実の娘から見ても、ちょっと異常なんじゃないかな? ってくらいに子供好きな人なのだ。
冗談なのか本気なのか知らないが、以前ふとした時に「私以外の大人、全員死ね! そしたら町中の子供を引き取り、みんな私の子にするのに!」とか口走っていた事があり、マリアンヌはドン引き。
それに娘への愛情も、実は「親バカ」というレベルでクッソ深く、先ほどマリアンヌにポカリとゲンコツを入れた時も、内心では血の涙を流していたのである。
娘のためなら死ねる! と真顔で言っちゃう系の親だった。良くも悪くも。
「コホン! ちなみにだが……何をやったんだねマリアンヌ?
いや、親として一応きくだけだが……どんなファッキンな曲を?」
「ディープパープルですわ、お父さま(キラーン!)」
なんかモゴモゴしながら問いかけるパパに対し、マリアンヌは「そら来た」と即答。
まるで、この時を待っていたとばかりに。
「すっ……スモーク・オン・ザ・ウォーターかね?
いやウーマン・フロム・トーキョーという線も……」
「ハイウェイ・スターですわ。
メイさんったら、イアン・ギラン*4のシャウトまで完コピでしたのよ!
お好きでしょうお父さま? 疾走感のある メ タ ル ♪(はぁと)」
「……っ」
「……☆」
しばし無言で見つめ合う、親子二人。
片方は真顔、もう片方は満面の笑みで流し目をしている。
「……紫の炎は? スピード・キングはやるのかね?
あれは歴史的名曲だぞマリアンヌ」*5
「いずれ。必ずやご覧にいれましょう。
その為にも、たくさん練習しませんとね♪
あー。はやく帰って、みんなとミーティングしたいですわー(棒読み)」
「――――先生、大目に見てやっては貰えませんか? 私の顔に免じて」
速攻で先生に向き直り、キリッ!
この人ちょろいわー。パパ分かりやすいわー。
マリアンヌは密かにほくそ笑む。やりましたわと。
「おい、なんか寄付の話とかしてるぞ。
楽器をいっぱい寄贈するとか、音楽室つくるとか。
とんでもねぇなぁ、お前のとーちゃん」
「浜ちゃんの家、お金持ちだもんねぇ。
クラスみんなで、ギター弾けるようになるかもー!」
「おほほ♪ He’s silly as fuck!*6
まぁわたくしも、あの血をひいているのですけど……」
さっきまでの雰囲気が一転。いま大人達は真剣な顔で、業者とか増築とかの難しいお話をしている。子供達なんてそっちのけで。
感激して握手を求める校長先生に、引き続きキリッとした顔のマリアンヌパパ。
それをウンウン頷きながら見ているタツオさんと、優しい顔で「ほっほっほ♪」と言ってるおばあちゃん。
こうなれば、もう生徒へのお説教どころではない。大事な話をしなくちゃいけないのだ。
担任の先生から「もうやっちゃダメよ?」と軽~く言われた後、とっとと下校なさいと体よく追い払われてしまった。無罪放免である。
大人って現金だなぁ。教育者といえども、しょせん金の奴隷ですのね豚共が(悪役令嬢感)
あとで今日のことを、曲にしてみよっかな? ROCK出来そうな気がいたしますの。と考えるマリアンヌであった。
◆ ◆ ◆
「あー、降ってきちゃったね! みんな走ろ!」
その後、みんな揃って下校したGO・EN・DAMA!のちびっ子たち。
「いけない! 楽器が濡れてしまいますわっ! 急ぎましょう!」
「長々と説教すっからだよっ! くっそぉー!」
突然の雨に見舞われ、「わー!」と駆け出す。
マリアンヌはギター、カンタ君はベースと機材、サツキはメイを背中におぶりながら、もう薄暗くなった田園風景を走る。
機材が水に弱いのは元より、楽器というのは木材で出来ているので、雨は大敵なのだ。
急いで雨宿り出来る場所を探し、そこに駆けこむ他なかった。
「まずったなぁ……、傘もって来なかったんだよ俺。
ベースのことで頭いっぱいでさぁ」
「あたしも……。学校に置いてきちゃった。
それにしても、タイミング悪かったねぇ。いきなり降って来るんだもん」
もう少し降るのが早ければ、マリアンヌパパの車で送って貰えたかもしれない。
それに学校で預かってもらうとか、傘を貸してもらうとか、なにかしら楽器を濡らさずに済む手段があっただろう。でも後の祭りだ。
メンバーたちは、お地蔵さまが住んでいる場所に行き、ひととき屋根を貸してもらうことに。
楽器はもちろんだけれど、今すやすや眠っているメイが風邪ひいちゃったら困るので、優先して濡れないように気遣う。
ここは4人で入るには少し狭いので、自分達が濡れちゃうのはもう仕方ない! 贅沢は言えない! と覚悟するマリアンヌ達だ。
「お父さまが気を利かせて迎えに……というのは期待できませんわねぇ。
とても楽しそうでしたもの。我が世の春が来た! って感じで」
「あはは……」
大人達は今、寄付金の事とか、学校の増築についての計画を話し合っているハズだが……、それとは別にマリアンヌパパとタツオさんが、なにやら凄く意気投合していたようなのだ。
貴方も昔バンドを? 好きなアーティストは? どんなギターを使ってらしたんです?
あとレッドツェッペリンがどうとか、マイケルシェンカーグループがどうとか、ギブソンの魅力についてだとか、そーいった事を嬉々として語り合っているのを見た。もう子供をほったらかして大盛り上がりだ。*7
お蔭さまで、マリアンヌ達は延々と雨宿りする羽目に。大人は頼りにならんのだった。
「今日は新しいメンバーを加えて、バンドミーティングをする予定でしたのに……。
この調子では、明日に持ち越しですわねぇ」
「仕方ないよ浜ちゃん、また楽しみにしてるよ♪
それに、こんなじょーきょーだけど……あたし楽しいの!
みんなで雨宿りってゆーのも、なんかワクワクしない?」
「はは! たまにはいーよな、こーゆーのも。
話でもしてりゃ、そのうち雨も上がるって。ロックのこと話そうぜ!」
みんなで雨雲の空を見上げながら、今日の出来事に想いを馳せる。
初めてのライブだったし、練習も2日かそこらの自主錬のみだったから、ぶっつけの本番。きっと演奏としてはお粗末なモノだった事だろう。
でも凄く楽しかった――――とっても興奮した。
楽器を弾くのって、いやみんなでバンドやるのって、こんな楽しいのかって思った。
いま愛らしい寝息を立てているメイを含め、これはメンバー全員の想いだ。
はやく練習したい。楽器を弾きたい。ロックをやりたい――――
そんな気持ちがとめどなく溢れ、自然と笑顔になる。
きっと今日のことは、ずっと忘れないんだろうなって思う。いつか大人になっても。
なんたって、自分たちGO・EN・DAMA!初めてのライブだ。
もしも将来、自分達が有名なバンドになって、伝記みたいなのを書くとしたら……その第一章が今日の出来事になるんだろう。
人から見たら、馬鹿らしい話に聞こえるかもしれない……でも“夢”とはそういうモノ。
ほかの誰でも無く、自分たちにとっては、今日一日の出来事はまさに宝物。かけがえのない思い出になった。
「いや、確かにモーターヘッドはすごいけど……ちょっと渋すぎない?
あたしもメイも、綺麗でハイトーンなボーカルさんが好きだなぁー♪ ファーって♪」
「ばっか! あのしゃがれ声がいーんじゃん! 大人のロックってヤツだよ!
んじゃあサツキが好きなのって、ナイトウィッシュとか陰陽座?
あれもカッケーけどさぁ~」
「カンちゃんこそ、インペリテリとかどーなの?
ボーカルのロブ・ロックさんの声って、まさにメタル! って感じだもん。憧れない?」
「おお! シャウトすげぇよな! 高くて伸びがあって、しかもエッジ効いててさぁー!
ペリテリは演奏の方も、ドゴドゴ重低音が効いてて、すんげぇハードだ!
ギターもえげつねぇくらい速ぇし♪ アレ聴いてりゃゴキゲンだろ!」
「メタルのボーカルさんで、一番上手なのって、誰だと思う?
やっぱロニー・ジェイムス・ディオさん?」
「うーん……俺もそう思うけどぉー。でもブルース・デッキンソンもすごくねぇ?
声量で言ぇあグラハム・ボネットだし。決めんのムズイって。
でも技術はともかく、俺的には全盛期のマイク・ヴェセーラがグッと来るぜ?
あれって唯一無二じゃんか!」
まだマリアンヌと出会って三日だというのに、もうロックの話をしている……。しかも簡略化した演奏とはいえ、曲がりなりにも楽器を弾けるようになってるし。とんでもない子達である。
本当に子供というのは、まるでスポンジのよう。どんどん知識や技術を習得していく。
きっと“好き”という気持ちは、何物にもまさる才能なのだと、マリアンヌは思う。
「かんけー無いですけど……もう普通に話してますわねぇカンタ君。
彼はサツキさんにキュンですが、ロックに夢中になるあまり、壁が無くなっているご様子♪」
いつも微妙に目を逸らしたり、上手く話し掛けられなかったりしているんだけど、いまカンタ君は機嫌良くサツキとお喋りしている。
打ち解けてるってレベルじゃない、十年来の親友と激論を交わすみたいに。
同じ趣味っていいなぁ。ロックってすごいなぁ。
音楽で世界がひとつになるというのは、決して理想でも夢物語ではないのだ。
ロックの力を実感するマリアンヌだった。
サツキ&カンタ君の議論に、時折「それホワイトスネイクですわ」とか「あの曲はアンスラックスですのよ」と知恵を授けたりしながら、みんなで雨宿り。
空は雨模様だけど、心は熱い。とっても滾っている。
「ふふ♪」
ふいにマリアンヌが、ひとりメロイックサイン。
お空にいる誰かに見せてやるように、「わたくし幸せです。ロックしてますわ」と示すように、メタルを象徴するハンドサインを天に掲げた――――
「…………およよ?」
すると、どうした事だろう。
突然この場に、なんかボボボボッ! という低い音が響く。
「あれは……車? いえ、それにしては……」
その音は、だんだん大きくなり、何かがこちらに近付いているのが分かった。
よもやお父さま? かと思ったが、これは車のブロロロって感じの音じゃない。
それとは明らかに違う、もっと低くて大きな音だ。あたり一帯の空気を振動させる程の。
「まぁ! 来てくださいましたの
「っ!?!?」
「 !?!?!? 」
そして! ボボボっと爆音を響かせながら登場したのは、ネコバスならぬ
なんか通常の物よりも大きくて、毛むくじゃらなハーレーダビッドソンVer.のネコである。しかもサイドカーだし。「にゃごぉ~♪」と鳴いてるし。
「もしや、メロイックサインをご覧いただいて、こちらに?
お優しいのですね♪ わたくし嬉しいですわ♪」
「あっ……あっ!」
「あわわわ……!!」
二人は泡吹いて卒倒せんばかりに驚いているが、マリアンヌの方はのほほんとしたモノ。
トトロの方は「乗ってくかいお嬢ちゃん?」とばかりに、くいくいサイドカーの方を指しているし。とってもフランクな雰囲気。
「あらら、髪型をお変えになりましたのね!
とってもお似合いですわトトロさん♪ カッコいいですよ♡」
「アンガー!」
「あがががが……!」
しかもトトロは今、
袖を破いたジージャンを着込み、黒いサングラスをかけ、ニヒルな咥えタバコ。その恰好でハーレーに跨っているという、とてつもないロックさなのである。
そんなよく分からない巨大な生物が、いきなり目の前に現れたのなら、サツキやカンタ君が絶句しちゃうのも無理はない。
当然の反応だと思うし、「うぎゃー!」とかいって逃げ出さないだけエライ。
「ご紹介いたしましょう、こちらトトロさんです♪
我らGO・EN・DAMA!の、
ドラムをやって頂きますわ♡」
その後、ROCKなトトロのハーレーに乗って、いっしょに帰った。
とっても楽しかったです(震え声)
――――It was only a dream, but it wasn't!!*8