【ARMORED CORE for Answer】二次小説。
短編です(真顔)
「あぁ困った、今月もピンチです……」
ガマぐちの中の小銭を「ひぃふぅみぃ」と数えながら、ため息。
でもいくら数えてみても、これが増えたりはしません。金属で出来たちんまい硬貨たちが、私に非情な現実を突きつけます。
「またモヤシを食べて凌がなければ。
ヨモギとかタンポポを摘みたい所ですけれど、コジマ汚染してたら怖いですし……我慢します」
かの“リンクス戦争”と呼ばれるものが始まる少し前、リンクスになった時に買ったお財布も、この度めでたく10年選手となりました。
長持ちするように願い、出来るだけ丈夫そうな物をと選んだ私の判断は、決して間違っていなかったと確信しています。
まぁたまに、リンクス仲間達から「ダッサ!?」と笑われたりしますけれど……。「女捨ててるじゃん!」は流石に酷いと思います。
とにもかくにも、愛用のガマ口をパチンと閉じて、おしりのポケットに収納。
私は力なく頭を垂れながら、トボトボと市街地を歩いていきました。
関係ないですけれど、よく「モヤシは全然栄養ない」って仰る方々が、いるじゃないですか? それは間違いだと言わせて頂きたいです。
たしかにモヤシの栄養素というのは、“水に溶けやすい”という性質を持っていますので、茹でたらドンドン外へ逃げ出してしまいます。
けれど、例えばレンチンで加熱すれば、モヤシの栄養素は損なわれること無く、しっかり摂ることが出来るのです。
あと茹でるにしても、スープの具にするなどの方法を取れば、水に溶けだした栄養もちゃんと摂取する事が可能ですし。ようは工夫なのです。
モヤシは豊富な食物繊維に加え、ビタミン類もたくさん含まれていますので、ぜひ積極的に食べていきたい食材。
なにより安い! 非常にお安く買える! ここ非常に重要なポイントです。
焼きそばを始めとし、各種麺類のかさ増しに使えば、カロリーを抑えた上で満足感が得られます。シャキシャキとした食感も嬉しいですよね♪
我々にモヤシを与え給うた神に、私は心から「ありがとう」と言いたいです。
我々貧乏人は、もやしによって生かされていると言っても、過言ではないのですから。
まぁわたし的には、別に“ローカロリー”である必要って、全く無いんですけれど……。
もやし100gあたりのカロリーって、約12kcalほどなのですが……、それお醤油スプーン一杯分と同じくらいですからね? ほとんど熱量(エネルギー)という物がありません。
たとえモヤシでお腹は膨れても、心と体は決して満たされないのです。
私はダイエットなどしておりません。むしろカロリーを切望している身の上。ガリガリなのです。
「あ、そうだ! 例のたまり場へ行ってみましょうっ。
ウィンお姉ちゃんがいれば、ごはん食べさせてくれるかもしれませんし。レッツゴー!」
この“たまり場”とは、よく我々リンクスが利用しているバーの事。
元リンクスであるというマスターが経営していて、傭兵稼業にとても理解があるお店です。
私もよくツケで飲ませてもらってますが、そろそろマスターの堪忍袋の緒が切れそうになってて、ヒヤヒヤのチキンレースの様相となっています。いつ出禁にされる事やら……。
余談にはなるのですが、いつもウィン・Dさんをお姉ちゃんと呼ぶと「貴方の方が年上だろうッ!」と怒られます。私もう25才ですからね。
でも私は小中学生かってくらい、背丈がちんまい女の子ですし、声だってロリーです。
訪問販売の人が来ても、「いまお母さんいません」と言えば、それで普通に切り抜けられたりもします。便利です。
そんな私と比べて、大人の色気バリバリといった感じのウィン・Dさん。
たとえ2つ年下だとしても、彼女を“お姉さん”とお慕いすることは、なんにもおかしくないと思うんですよ。“魂の年齢”が違う感じです。
それに彼女はカラードランク3位ですし、私とは比べ物にならないくらい、ガッポガポ稼いでいるワケです。きっと私のがま口には、とても入りきらないってくらいのC(コーム)を持っているに違いありません。
なので、たとえリンクス歴でいえばだいぶ先輩ではあっても、私がウィンDさんにご飯を奢ってもらうのは、とても自然な事だと思われます。
カワイイ妹分(?)ですし、私なんてカラードランク20位なんですから、もっと甘やかして欲しいものです。
困っている人を見捨てるなんて、きっとジェラルドさんが見たら怒ります。強大な力を持つ者には、それ相応の責任が伴うのです。
たとえ相手が万年金欠どころか、多額の借金すら抱えてる貧乏リンクスだとしても。
お腹が空きましたウィンお姉ちゃん。助けて下さい。プライドでお腹は膨れないんです。
「――――げっ! エイ=プールじゃねーか!!」
そんなこんなで、やがて例のお店に到着。
マスターの趣味なのか、西部劇で見るような両開きの小さな扉を開けると、その途端ひどい事を言われます。
これはいつもの事なので、そんなには気にしてませんが、ひどい物は酷いと思うんです。
「おい疫病神が来やがったぞ。顔かくせ顔!」
「ちょっとタバコ買ってくるわ。
俺のこと聞かれたら、『居ない』って言ってくれ」
「また飯をたかりに来やがったかよ……。それとも“僚機”のお願いかぁ?」
順番にカニスさん、ウィスさん、イェーイさん。
みんな私の顔を見た途端に、イヤな顔をします。
そしてコソコソと隠れたり、こちらから顔を背けたり。さっきまで機嫌良くお酒を楽しんでいたでしょうに、挙動不審になっている様子。
けれど、そんなことで挫ける私ではありません。
「こんにちは皆さん。ここよろしいですか?」
「なんで座るんだよお前っ!? この空気が分からねェのか!!」
よいしょ! って感じで、彼らと同じテーブルに座ります。
何食わぬ顔をするのがコツです。
「いえ、分かってますよ? その上で座ったんです。
そんなの気にしてたら、ごはんにありつけないじゃないですか。ぷんぷん!」
「てめぇイカれてんのか!? メンタルにもPA張ってんのかオイ!?」
引き続き酷いことを言われますけど、我慢ガマンです。
私は出来る限りにこやかに微笑み、友好的な態度を心がけます。
「ではお仕事の話ですが……これは食べながらにしましょうか。
マスター、カノサワからあげと月光ポテトを、AFギガベース盛りで。
あ、伝票は彼らと一緒でいいです」
「勝手に頼んでんじゃねぇ! あっち行けよエイプー!!」
取り付く島もなく腕を掴まれ、三人がかりで追い出されてしまいました。
私はひとり、床に女の子座り。ポツンとその場に取り残されます。
いくら、以前僚機に着いてあげた時に、報酬金の9割ほどを弾薬費で溶かしたからって、この対応はあんまりです。
同じ独立傭兵でも、ロイ・ザーランドさんは「まあ、生きてるんだ。よしとするさ」と言って、快く許して下さったというのに。
なにやら悲しそうに給与明細を見ていましたし、その後はパッタリ使ってくれなくなりましたけど……。
ちなみにロイさんは、そのイケメン声のわりに、おすもうさんみたいな体型をしています。彼が重量機に乗るのも、それにあやかっての事でしょうか?
いったいどうやったら、あんなに太れるんでしょう? 私には見当もつきません(食費的な意味で)
とりあえず、埃で汚れてしまったおしりをパンパンと叩き、その場から立ち上がります。
そして懲りる事無く、目に入った客に片っ端から声をかける事にしました。
「お仕事はありませんか? ミッションに連れて行って下さい。お金が無いんです」
「ウチには2匹の犬と、ちいさなハムスターがいるんです。私が稼がなくては……」
「ソルディオス砲でも、カーパルス占拠でも、なんでもやります。お仕事を下さい」
「弾幕いりませんか? 弾幕薄くないですか? ASミサイルです」
でも、なしのつぶて。
みんな私からプイッと顔を背けるばかりで、話を聞いてくれる人はいません。
「あっ、ダンモロさん! 僚機いかがですか!? お安くしておきますから~っ!」
「嘘つけよこの野郎お前っ!
この前のミッション赤字だったろうがっ! お前のせいでぇぇーーっ!!」
トイレから帰ったのか、偶然この場を通りかかったダン・モロさんに、私は恥も外聞もなく縋り付きます。
けれど彼は及び腰ながら、しっかり私のお願いを拒否。聞く耳を持ってくれません。
「“報酬の15%”っていう、お前の取り分の少なさに騙されたんだっ!
お前がアホみたいにミサイル撃ちやがるせいで、20万Cの報酬金がパーだ!
それどころか、弾薬費と機体の修理費で、
「で、でもミッションは成功しましたし……、名誉の赤字ですよね?(震え声)」
「名誉とかいーんだよ今はっ!
俺はたくさん稼いで、新しいジェネ買うのぉ! ブレも新調すんのぉ!
赤字になるくらいだったら、そもそも依頼受けねーんだよぉーーっ!!」
つーかお前、
そう怖い顔でギロリ! と睨まれます。まだ前回のことを根に持っているご様子。
実は以前、たかだか10機程度のノーマル部隊を殲滅するために、ダン・モロさんは僚機として、私を雇った事があるのですが……。
その目ん玉とび出るほどの弾薬費に腰を抜かし、ミッション後しばらくの間、放心していたのを覚えています。とても落ち込んでいました。
私は共にミッションにあたった戦友として、彼を優しく気遣い、そんな暗い空気を変えてあげようと、「あ、相性が良いみたいですね、貴方とは(引きつり笑い)」と言ってみたのですが……。
すると次の瞬間ダン・モロさんは、火山の噴火みたく怒ってしまいました。
美人で人当たりも良く、僚機として大人気の“メイ・グリンフィールド”さん。
彼女の真似をしてみたつもりだったのですが、効果は芳しくなかったです。いったい何がいけなかったのでしょう?
その後、もう手が付けられないくらいの暴れっぷりを見せるダン・モロさんを置いて、私はひとりビューンとOBを吹かし、逃げるようにお家へ帰った~というのが事のあらましですが……。どうやら彼の怒りは、まだ収まっていない模様。
あれから1か月くらい経っていますし、ワンチャン忘れてくれたかな~、もう機嫌直ってたりしないかな~とも思ったのですが、私の健気な祈りは、儚くも打ち砕かれてしまいました。とても悲しいです。
ダンモロさんは「ふんっ!」と私を振りほどき、プンプンと肩を怒らせながら、店の外へ出ていってしまうのでした。
その後も……。
「なぜ貴様に奢らねばならんッ!
ユニオンの者に“社長”などと呼ばれる筋合いは無いわッ!」
「言っては悪いけど……貴方っていつも、3分かそこらで弾切れしては、そのままピューっと帰っちゃうでしょう?
対ネクスト戦ならともかく、あまり信用できないのよね……」
「お前を僚機にすると、“骨折り損のくたびれ儲け”になるからなぁ。
採算度外視で、どうしても火力が欲しいって時以外は、とてもじゃないが雇えねぇよ……」
順番に有澤さん、シャミアさん、ヤンさん。
みんな私より格上のリンクスで、お金持ちのハズなのですが、悉く袖にされます。
「誤解してくれるなよ? お前の腕は認めているんだ。
実際に俺は、一度ランクマッチでお前に敗れているしな。
矢次に放たれるASミサイルの弾幕は、本当に脅威だよ」
だが……とイルビス・オーンスタインさんが眉を歪め、難しそうな顔で言葉を濁します。
彼のカラードランクは14位で、以前私もランクマッチで対戦した経験があります。
けど初戦こそ私が勝ったものの、リターンマッチで“フレア”を装備して挑んで来たイルビスさんに、私は成す術なくやられました。
その後は、一度も彼に勝てていません。
初見であったASミサイルには泡を食ったものの、結局はそれだけだった……。
もしミサイルを使ってくる相手がいたら、こういう対策を取れば良い。
またはこういう動きをすれば避けられる――――
みんな私との対戦で、その方法を学びます。
そして大抵2~3戦もすれば、あっさりと私を越えて、上のランクへと進んでいきました。
私というリンクスは、新人の方々に「ミサイルの対策を学ばせるための教材」
いえ、“踏み台”のような存在なのでした。
後は、しいて言うなら“金食い虫”でしょうか?
せっかく達成したミッションの報酬金、そのほとんどを溶かしてしまう、サイテーの疫病神。
私がお世話になっているユニオンは、とても大きな企業ですし、信頼と実績があります(仲介人のお姉さんは、どことなく胡散臭い女性ですが……)
ゆえに、優先してお仕事を斡旋して貰えまして。もし僚機の必要性が認められるミッションがあった場合、「うちのエイ=プールは如何ですか?」と、請負先の傭兵さんに推薦して頂けるんです。
私は同じユニオン所属のウィンDさんよりも、だいぶ下のランクのリンクス。なので格安の料金で雇えるという事で、皆様からお声がかかる事も、少なくありませんでした。
けれど、僚機の弾薬費と機体修理費は請け負った傭兵持ちという、「騙して悪いが」的なルールにより、結果的にウィンDさんを雇った場合よりも、多くのお金を報酬から差し引かれる……という事もしばしば。
純然たる支援機として設計された、私の愛機【ヴェーロノーク】
その主兵装であり、また唯一の武器である“ASミサイル”。そのあまりに高い弾薬費用のせいで。
私が好き勝手に撃ちまくった分を、雇った傭兵さん側が支払わなくちゃいけないってシステムだから。
なぜ仕事のために使った弾薬費を、依頼主ではなく傭兵側が支払わなくちゃいけないのか?
その理由は、私には分かりません。不条理だとは思いますが、ただただ「そういうルール」としか。
でもその結果、私はいつもミッションが終わった後、雇って頂いた傭兵さん達から、罵詈雑言を浴びせられます。
拳ではなく、言葉で袋叩きに合うんです。「お前なんて選ばなきゃ良かった。一人でやれば良かった」と。
そして、次からは誰もが私を選ばなくなり、ユニオンという大企業にお世話になっているにも関わらず、私の仕事は皆無に。
こうして場末の酒場までやってきては、自分で売り込みをかけるしか無いという有様。
そうしないと、お金が稼げない。生きていけないのです。
一応、た~まに羽振りが良い人や、どうしても成功させたい依頼がある人とかに、僚機として使って頂ける事はあります。
自分で言うのもなんですが、やはり私のASミサイルの火力は、とても魅力的ですから。
たとえどんなミッションであっても、私が僚機として着いてさえいれば、きっと成功する事でしょう。必ず生きて帰してあげられるって、その自信があります。
なんたって、私は私たち二人以外の物を、全て焼き払ってしまうのですから。
有象無象の区別なく、私の弾頭は決して許さないのです。えっへん!
けれど前述の通り……それは「あまりにも高い弾薬費に目を瞑るならば」の話。
有り体に言えば、金に物を言わせて、ミッション達成という“結果”を買うに等しい。
ゲームで言うところの、チートです。
なんの苦労もなく、依頼を成功させる事が出来ます。
ただただ雇い主さんは、私の弾薬費を払ってさえいれば、それだけで良いのだから。
私とヴェーロノークが、全てやってしまうから。
これでは、せっかくミッションを達成しても、まわりからの評価は得られない。
傭兵としての栄誉や名声どころか、報酬金すらもロクに手に入れることは出来ない。
私を僚機に雇うというのは、つまりそういう事――――
誰もが私とヴェーロノークを毛嫌いし、それどころか私を雇う人にすらも、
金でゴリ押しする屑野郎め、と。
「えっと、申し訳ありませんエイ=プール様。
リリウムは王大人様の物なので、貴方に僚機をお願いすることは……」
やがて、最後に声をかけたリリウム・ウォルコットちゃんにも、すごく申し訳なさそうに謝罪をされます。
これを以って、本日の営業は空振り。残念また明日~という結果になったのでした。
ちなみにですが、「僚機にしてもらえないのなら、自分で依頼を請ければ良くない?」とお思いの方もいるでしょうが……それは出来ない相談なのです。
何故なら、私の愛機【ヴェーロノーク】は、支援爆撃をこそ目的として組まれた機体。
単独での任務というのは、この子の設計思想に反しますし、わたし的には「ちょっとな~」と。
出来る出来ないはともかくとして、
誰かを支える為に、お空でふよふよ浮きながら、いっぱいミサイルを撃つ――――
それこそが私の喜びであり、ヴェーロノークという機体の本懐なのですから。
まぁカッコつけた事を言いはしましたが……、なによりもあのユニオンの腹黒お姉さんが、
雇った傭兵さんに「この子を僚機にどうですか?」と推薦はしても、私自身にミッションを依頼したりは、決してしないんですよ、あの人。
恐らくは、これも例の“高すぎる弾薬費問題”のせいなのでしょう。
ようは「自分の所でエイプーの弾薬費を払いたくないから、雇った傭兵自身に払わせちゃえー!」大作戦かと……。
そもそも私だって、自分自身の弾薬費を
ありとあらゆる意味において、ヴェーロノークは一人で戦えないのでした(白目)
世知辛い世の中です。みんな貧乏が悪いのです。
ゆえに実質、私ことエイ=プールは、ユニオンによって
まさに生かさず殺さず、という絶妙な塩梅で。
今日も細々とリンクスやらせて頂いてます。どうも、エイ=プールと申します。よしなに。
一応はユニオンの方も、ご厚意なのか「餌を与えている」つもりなのかは分かりませんが、私が飢餓でパッタリいっちゃわないよう、た~まに食パンとか小麦粉とかを、自宅に送ってくれたりもしますし。
本当にギリギリというか、生きてく上で必要最低限の量ですけれど。
肉とか魚とかは、一切くれませんけれど。
貰った品物に、よく「3割引」とか「半額」とかのシール張ってあったりしますけど……。
もっとタンパク質が欲しいです。お願いですユニオンのお姉さん。
もう腹黒とか、厚化粧とか言いませんから。「服のセンス、バブル期か!」とか言ったりしませんから。
ドン引きするくらい合コンで連敗してるのも、ナイショにしときますから。
「今日はウィンDお姉ちゃんも、来てないみたいです。
残念ですが、お家に帰るしかありません。ううっ……」
お腹がキューキュー鳴ります。私のミニマムボディが、宿主に対してストライキを起こしています。
お前がチビなのは栄養を寄こさねぇからだ~とか、たまには肉食えバカ野郎とか言って、私を罵っている気がします。
「マスター、お仕事中すいませんです。
後生ですので、スルメをひとかけら頂けませんか?
……先ほどの様子は見ていたでしょう。
このエイ=プールというリンクスを、哀れと思うのなら(レイプ目)」
そうすれば、大人しく店を出ていってあげます。……というよく分からない取引の末に、私はおつまみ用の“あたりめ”をゲット。
これを親の仇のごとく、ひたすら口内でしばき続けることで、脳が「食べた」と錯覚を起こし、お腹がいっぱいになるシステムです。
というか、こんな事ばかりしているから、いつまでたっても小さいままだし、身体にもストライキを起こされるんですけど……。
よく僚機としてご一緒させてもらった方々に、「よくその身体でネクスト乗れますね!?」とビックリされます。
たとえ空腹で足元がフラフラしてても、何故がネクストの操縦だけは出来るんです。敵を自動追尾するASミサイルも、それに一役買っていると思われます。
きっとローディさんなら、ぐいっと私の襟首を掴み、そのままネコみたいにひょいっと持ち上げることが出来るハズ。ちょっと大きめの犬とかと、大差ありませんからね私の体重。
「……およ?」
まがりなりにも、タンパク質!
そうあたりめを噛み噛み&ニコニコしていた私の耳に、立て付けの悪い酒場の扉が〈キィ~!〉と開く音が聞こえました。
今、3人のアホそうなリンクス達が、入店してくる様子が見えます。
「ハッハッハ! 流石だな君は! ついに私を越えたかっ!」
「いつかやるとは思うとったが、こんな早いとはのぉ~。
いやぁ脱帽じゃ。わしもウカウカしとれんのぉ!」
「坊主だったら当然だァァーッ!
こいつはもーっと上へ行くぞォ? 俺は今から楽しみで楽しみでッッ!!」
そこに居たのは、機嫌良さそうに笑う男達。
順番にカミソリ・ジョニーさん、ドスさん、チャンピオン・チャンプスさん。
通称“とっつき三羽烏”の皆さんでした。
彼らは皆、豪快に「がはは!」と笑いながら、肩を組んでこちらに歩いて来る様子。
たった今、ちょうど店を出ようとしていた、私の方へ向かって。
「あーっ!? おんどれエイ=プールかぁ! 次はお前じゃけのぉ!」
「そうだッ、覚悟しとけよ小娘ェ!! テメェなんざ一発だァァーーッ!!」
「フハハ、首を洗って待っているが良い。
君は我らが打ち立てる伝説、その礎となるのだよ」
「ふぇ?」
私の顔を見た途端、また三人がワーワー騒ぎだします。
私は自身のカラードランクの上下を、19位のドスさん&21位のジョニーさんに挟まれているという、とっても不憫な子です。
なんでか知らないけれど、妙に“とっつきバカ”の人に、ご縁があるというか……。
いつも会うたびに「お前を倒す」とか、「ザマァ見さらせ」とか言われて、すごく迷惑していました。
私のヴェーロノークが、“近接武器キラー”的な性質を持っている事もあり、軽く粘着されてるっぽいのです。もうランクとか関係なくオーダーマッチを挑まれまくりです。
私はどんな相手に対しても、ASミサイルの自動追尾が赴くまま、普通に戦っているだけなのですが……。このように意図せずして恨みを買い、なにやら“とっつき三羽烏”の暑苦しい人達から、目の敵にされている感。不幸です。
ただ、今日はいつもの罵詈雑言とは、少し様子が違うみたい。
彼ら三人は、なにか私には身に覚えの無い、全く別のことを言っている様子でした。
「おぅ坊主、コイツはランク20位のエイプーじゃ。
腹ぁ抉る前に、挨拶だけしとき」
「お前さんは、21位になったからなァァーッ!
次にランクマッチで戦う相手が、このちんまい娘だァァーーッ!!」
「私のダブルエッジでも勝てなかった、ASミサイル使いの強敵……。だが君ならやれる!
そうっ、私が託したKB-O004でなぁー!!」
私はここ二か月ほど、ランクマッチを行なっていませんでしたし、順位がどうなっているのかも、把握していませんでした。
ずっとワーキングプアな極貧生活ですし、自分を売り込むのに必死だったので、それどころじゃなかったのです。
だから、いま彼ら三人の後ろから恥ずかしそうにおずおずと出てきた、大人の背丈の半分もないような少年の事など、知る由も無かった。
まさか、まだこんなにも小さくて幼い子が、10連勝という破竹の勢いを以って、ランキングを勝ち上がっていただなんて。
「あのっ……ぼく“クヌギ”ですっ。
よろしくおねがいします。エイプーおねぇさん」
その日、私はひとりの少年と出会った。
あの悪い冗談としか思えない兵装、
「え……エグイです」
ボカーン☆ という音と共に、緑色の閃光が炸裂。
辺りが眩しい光に染まり、それがようやく晴れた時、鉄の塊だけがその場に残されていました。
ちなみにですが、その鉄の名前は【スタルカ】といいます。
ドスさんが操る赤いネクスト機が、今パチパチと帯電しながら、完全に機能を停止しているのでした。
「一撃ですか……。
しかも絵に描いたような
きっと、お互いに近接武器だった事が、早期決着の原因だったんでしょう。
シュゴー! っとブーストを吹かして近付いたドスさんが、「どっせぃ!」とばかりにパイルバンカーを繰り出した次の瞬間、勝負は終わっていました。
そう、必要最低限の動きでそれを躱し、
「試合時間、13秒……。
私が戦った時は、何分でしたかね?」
私がランク20位で、アホのドスさんが19位なワケですから、当然戦った事があります。
最終的には負けたのですが、通算成績で言えば、私の135勝1敗くらいでしょうか?
いーかげん呆れた私が、「ミサイルはQBで避けるんじゃなくて、左右に機体を振って、すり抜けるように躱すんですよ」と教えてあげても、そんなのワシの勝手じゃとか抜かして、ぜんぜん聞き入れてくれないんです。
そんな風に、ロクにミサイルも避けられないクセして、何度も何度も懲りずに対戦を挑まれ、結果的に私が
こちとらご飯も食べていない身なのに、一日に何十連戦もさせられたんですから、文句の一つも言いたい気持ちですよっ。ぷんぷん!
けれど……下手にリベンジマッチを挑んで、また粘着されたら困ってしまいますので、ドスさんにはさっさと上のランクへ行って欲しい、って思ってます。
彼と最後にオーダーマッチをやったのは、もう2か月ほど前なのですが、未だに私は再戦を挑んでいませんし、今後もするつもりは毛頭ありません。
あと出来れば21位のカミソリ・ジョニーさんにも、さっさと私を倒し、どっか行って貰えたらありがたいのですが……。
でもあの人の機体って、
ふよふよお空から見ていて思うのですが、正直彼は、あのACをちゃんと操れていない。機体に振り回されちゃってる~という印象があります。
あのAC【ダブルエッジ】って、自分で組んだ物のハズなのに……。
結局ミサイルの避け方も覚えられなかったドスさんと、OBで走り回るばかりで自分の機体を乗りこなせないジョニーさん。
私どうこうは抜きにしても、彼らにリンクスとしての輝かしい未来が来るとは、とても……。
で、話を戻しますけれど。
私がドスさんを倒すには、確か……いつも1分くらいは要していたと思います。
ロクに回避行動も取らず、ASミサイルをバンバン喰らいながら、それでも「これが男の生き様じゃー!」とばかりに突っ込んでくるAC【スタルカ】
それを屠るのに必要な時間など、大体そんなモンなのです。
けれどクヌギくんは“13秒”。
たった今、私の目の前で、あっさりとやってのけました。
あたかもドスさんの動き……いえ“とっつき”を見切っていたかのように、スッと少しだけ横に回避。そのあと即座にコジマパンチを叩き込み、あっという間に終わらせてしまいました。
私は同じリンクスですが、
ボクシングの選手がやる、“カウンター”を思わせる動き。
当てるための立ち回り、操縦技術、通称“とっつき”と呼ばれる兵装の使い方――――
そんなもの、いつもお空からASミサイル撃ってる私には、身に着くハズもないのですから。
綺麗でした。
あのコジマ的な緑の光ではなく、
無駄なく、小さく、理に適った動きは、見ている者達に感嘆の声を漏らさせます。
それがシンプルで、極まっていればいるほど、芸術的とすら感じる美しさを生むのです。
そんな風に、私がただ「ぽけ~☆」っと呆けている内に、次はランク18位であるメイ・グリンフィールドさんのお出番。
ここ廃ビルが立ち並ぶ砂漠ちっくなステージもそのまま、立て続けにクヌギくんと対戦します。
そして……。
『――――ふぎゃーっ!!??』
その30秒後、メイさんの断末魔が、スピーカーが割れるくらい響きました。
『うぎゃーーっ!!??』
『ぬぅおぉぉーーっ!!??』
『ぎょえぇぇーーっっ?!?!』
順番にCUBEさん、有澤社長、シャミアさん。
『ぐわぁーーっ!!!!』
『ぎゃーーん!!!」
『ひぃぃぃ~~っ!?!?』
そして立て続けにイルビスさん、ヤンさん、リザイアさん。
誰もがコジマブレードにワンパンされ、儚く命を散らしていきました。(ランクマッチなので大丈夫ですが)
「こんな当たるものなんですね、コジマパンチって。
来ると分かっているのに……」
こんなにも早く倒せるものなんだな。ネクストって、こんなにも脆かったのか……。
私は控室に備えつけられたモニターを眺めつつ、どこか不思議な気持ちでいました。
これまでクヌギくんと戦った誰もが、前の試合を見ていたハズなのに。彼がとっつきを装備している事を、ちゃんと理解してたハズなのに。
でも当たる。避けられない。
そして――――
誘蛾灯に吸い寄せられる虫みたいに、みんな最終的に当たってしまう。彼の繰り出すコジマパンチで、次々と敗北していく……。
それを他人事のように、ただ見守っていました。置いてあったケータリングのお弁当を、モリモリ食べながら。
というか、私も先ほどクヌギくんと戦い、コテンパンにされちゃった側ですけどね。よく食事が喉を通るなって、自分でも感心しちゃいます。へて♪
「まるで、悪夢でした。
いったい何がどうなってるのか、私には理解出来なかった……。
いえ、
でもモニターという、この上なく客観視できる状況で、あの子の力を見せつけられたら……もうグウの根も出ません。
あの悪夢のような出来事は、確かに私の身に起こった、まごう事なき真実だと――――
……
…………
……………………
私とクヌギくんとのオーダーマッチは、長きに渡りました。
本日の最上位ランカ―であるリザイヤさんや、異常なほど機体速度が速いCUBEさんを差し置いて。
きっと、散々ドスさん&ジョニーさんと戦わされてきたおかげ……なのでしょうね。
“対とっつき”の立ち回り方が、自分でも知らぬ間に、身に付いていたのかもしれません。
あとで三馬鹿に聞いた所によると、これまでクヌギくんが戦ってきた中で、最長の試合時間だったそうな。
……でも、あんまり嬉しくはありません。
だって、
真綿で首を絞められるように。嬲り殺しみたいに。
「ど……どんなアセンブリですか君はっ!
どんなペイントですかソレ!?」
有り体にいって、
何を言ってるのか分からないと思いますが、私だって分からないんだから、ナカーマです。
みんなから“銀翁”と呼ばれてる、すごいリンクスさんがいらっしゃるのですが……、彼が乗るAC【月輪】を、まずは想像してみて下さい。
そして、そのカラーリングをシルバーではなく、全てアンパンマンの服と同じ色にします。赤とか黄色とかですね。
加えて、月輪の頭部の後ろにある、謎のドーム状のヤツありますよね? あのおっきくて丸っこいの。
アレを茶色に塗り塗りして頂きまして、そこに
クヌギくんの愛機【AN BREAD MAN】の出来上がりです。お疲れ様でした(白目)
更に詳しく言うのなら、このACは、胴体パーツだけ“重量機”の物を使用しています。
ほかのパーツ(頭脚腕)は、中量ないし軽量機の物を使ってるようですが。
ゆえに、これちょっと分かりにくい例えかもですけど、“GANTSのハードスーツ”みたいな体型。でっかい胴体のせいで、すんごいヌボォ~としています。
普通、近接武器を使用するのなら、何よりスピードを重視し、出来るだけ機体を軽量化するのがセオリーだとばかり……。
正直、めっちゃバランスの悪い機体です。「またカミソリジョニーか……」と私は思いました。
なにより、その両腕に装備してる
あー殴るんだねー。アンパンチだねー。えらいエライ~。
そうナデナデし、この子を褒めてあげたいくらいの気持ちでした。
だって――――すんごい似てるんですもん! アンパンマンに!!(迫真)
体型こそ、ムキムキマッチョマンの変態なのですが、もうこれアンパンの人にしか見えないんですもの! とってもファニーな機体なんですよ!! 悪ふざけで作ったとしか。
同時に、彼がまだ10才前後の少年である事、そして「これに乗って戦う」という事実に思い至り、私は戦慄しました。
肩にも背中にも、武装はナッシング。かのACは清々しいほどに、
先ほど酒場でお会いしましたが、この子は非常にもきゅい男の子。この上なく愛らしい顔をしています。
ご挨拶した際は、クネクネと身をよじり、とても恥ずかしがり屋さんなのが分かって、強烈に庇護欲を駆り立てられたものです。
でもジャンプ主人公並に向こう見ずなのか、はたまたコジマで頭がおかしくなったのか、それともジョニーの野郎が「ほ~らアンパンマンだぞぉー!」とか言って、クリスマスにでもプレゼントしやがったのか……。
ランクマッチの会場に到着し、ひと目この子のACを見た途端、様々な想いが私の胸をよぎりました。
まあロクでも無いモンばかりですけど。
「と、とにもかくにも、お相手しましょうかね。
お手柔らかにです、クヌギくん……」
そう軽くご挨拶をし、試合開始。
私はいつものように、スーッと機体を浮上させて、そのままふよふよとお空を漂いました。お正月に上げる凧の気分です。
間を置かず、遠くからQBをバシュバシュ吹かしながら、こちらへ近付いて来るクヌギくんの機体が見えました。
胴だけ重量機という歪な構成ではありますが、そのスピードは意外なほど速く、私を驚かせました。
「この子……“2段QB”を! このランクで?!」
一瞬力を溜め、瞬間的に本来の出力を上回るパワーを出す、高等テクニック。
こんなの、とてもじゃないですが、まだ新人のリンクスに使いこなせる物ではありません。
実際、ランキングでいえば中の下って感じの、私との対戦で使ってきた人なんて、本当に稀。あのunknownさん(そういうリンクスNAMEなのだそうです)くらいのモノでしょうか?
いちおうは10年選手で、まがりなりにもベテランである私ですら、2段QBなんて使いません。
まぁお空でふよふよするのが生き甲斐であるヴェーロノークの戦術に、それが必要であるかどうかは、議論の余地がありますし……。
本当の事を言うと、私ってランクマッチは、「あまり気乗りがしない」と思っていまして。いつも
僚機として空を駆けるのではなく、タイマンで誰かと戦うことに、あまり意義を見出せないから。楽しいとも嬉しいとも感じられないから。
とにかく……私は2段QBなどといった技術、ランクマで使った事がありません。使おうとすら思わないのです。
けれど、いま目の前にいる男の子は“全力”で、しかも十二分に機体を乗りこなしている様子でした。
先の高等テクニックのみならず、連続QBや、OBの使い方も的確。思わず感心しちゃうくらい上手。
『ハッハァー! いいぞクヌギィー! やっちまえェーッッ!!』
『お前さんにかかりゃあ、飛ぶしか脳がない支援機なんぞ、なんぞタダの的じゃ』
『君は、とっつきでランクマッチを制覇するという、私たちの夢を背負っているんだっ!
見せてみろクヌギ! コジパンの力を! とっつきの可能性を!!』
三馬鹿の「ヒューヒュー!」という声援が、うるさいくらいスピーカーから聞こえました。
こんな事なら、通信を切っておけば良かったと、悔やんでも悔やみきれません。
でももう戦闘中ですし、そんなこと気にしてる余裕なんて、私には微塵もありませんでしたけれど。
「……ひっ!?」
一瞬、緑色の光が、視界をかすめました。
次の瞬間、バシュウという轟音と共に、クヌギくんのAC【AN BREAD MAN】が、こちらにつっこんで来ました。
左右に機体を揺らし、ASミサイルをスイスイと回避。
まったく危なげない動きでこちらに近付き、ふいに私の左側に急旋回。いきなり視界から消えたと思ったその1秒後には、あの子のコジマパンチが閃光を放っていました。
その素晴らしい緩急、合理性、そして
私はふよふよ……もといマイペースがモットーですし、あまり熱くなるタイプではありません。
でもいつも通りに~と、どこかお気楽にやっていた私の心に、氷水をぶっかけられた心地でした。
ミサイルの避け方を教えてあげる先生――――勝っても負けても構わないって想い。
でも眼前にいるこの子は、そんなことを言ってられる相手では無い!
避け方の練習なんて、この子には必要なく、甘っちょろい気持ちで戦って良いリンクスじゃないんだ!
わずか数舜、たった一回のコンタクトで、私はそれを思い知ったんです。痛烈なまでに。
途端、私のお顔がカァ~っと赤く染まり、何故か物凄い“恥ずかしさ”が、心に湧きました。
その理由は、試合が終わった今も、分かっていません。
『ん゛ん!? エイプー……?』
『あいつ、こんな速かったかのぅ……?』
無線が聞こえます。でも構ってられない。
私は即座に機体を翻し、急上昇してこの子の上を取りました。
まるでボルトで固定したみたいに、どれだけ動き回ろうとも執拗に
さっき、とっさにコジパンを躱せたのは、偶然です。
あんなに当てるのが難しい、ハッキリ言って「使い物にならない」ってくらい弱いコジパンではなく、それをなんとか躱した
その事実が、燻っていた私の心に、ガソリンを注ぎました。
焼却炉の中で燃える炎のように、戦闘に必要でない感情をドンドン消し去っていく。
イラナイ物がなくなり、私という存在が研ぎ澄まされていく。
疲れるだけで、まったく使う必要性を感じていなかった、2段QB。
それを体力度外視で、大盤振る舞い。随所にOBも織り交ぜ、敵ACを攪乱。
プライマルアーマーの減衰など、関係ない。どーせ当たれば一発で沈められる。そういう敵を相手にしてるんです。
けれど、だからこそ。
こんなふざけたアセンブリの子に、ヴェーロノークを捉えさせはしない――――
『ひ、被弾している……!? あのクヌギが……!?
いくらバラ撒いてるとはいえ、あんな低速のミサイルに?!』
ジョニーのクソッタレが何が言ってますが、無視。
当て方、という物があります。
ただ距離を詰め、漠然と発射スイッチを押すのではなく、当たるべくして当たるタイミングを作り出し、その上で撃たなきゃです。
全部じゃなくていい。全てを当てる必要は無い。
だって陽動も、フェイントも、牽制も、本命も、ぜんぶASミサイルでやるんですから。
先ほどボクサーの例えがありましたが……、私にとっての両の拳が、このASミサイルだというだけの話。武器腕のACですもんね。
これのみを以って、試合を作る。いえ作ってきたのですから。
角度、高度、距離、相手の思考、感情――――
その全てを計算し、かの獲物を誘いこみ、当てる。
まるで相手自らが、私のASミサイルの弾幕に
その状況を作り出すためにこそ、AC操縦技術の全てがある。
『おい! また躱しやがったぞッ! クヌギのとっつきをッ……!!』
『読まれとる……のか?
いやありえんわ、視界の外からの攻撃じゃぞ?!』
打ってるんじゃなく、
ASミサイルの弾幕を駆使し、網を張って。
とっつくなら、ここでしょう? このタイミングでしょう?
私には、手に取るように分かる。目を瞑っていても、見える。
ここには私が放ったASミサイルが、いま縦横無尽に飛び交っているんだから。
2段QB、時にOBを使って、クヌギくんが突貫して来ます。
それをマタドールの布のように、上下左右に躱す。同時に無数の弾幕を展開。
蜘蛛のエンブレムでお馴染みの【レッドラム】というACがいますが、私の糸は濃霧ではなく、このASミサイル。
敵の動きを制限、コントロールし、絡めとるのです。
視界いっぱいに飛んで来るミサイルを、ただの一発でも喰らってしまえば、機体が硬直し、後続のミサイル全てに被弾する事でしょう。
かと言って、びびってQBでも吹かそうものならば、その熱こそを道しるべとし、ASミサイルは貴方を追尾する。
15、20、25――――
頭の中で数を数えます。躱したとっつきの数を。
でも気にしない。打ってきたら躱す。それだけです。
絡め取り、制し、いつまでもこのダンスを続けましょう。
クルクル、クルクル、君とお空を飛ぼう。
力尽き、地に墜ち、どちらかが動きを止めるまで。ずっと。
あぁ私――――
「……あ(察し)」
でも、私はバカですね。そんなの出来るワケなかったんです。
だって私のASミサイル、3分かそこらで弾切れしますもん。
「えっ、あれ? あれれ~?(パタパタ)」
腕武器と背中武器の切り替えボタンをポチポチ。無意味に何度も何度も。
そうすると私のヴェーロノークは、まるで鳥が羽をはためかせるみたいに、翼をパタパタします。
それはあたかも、「弾切れだよー♪」というのを、わざわざ相手に知らせているかのよう。
こんなんじゃ、あの三人を馬鹿だなんて言えません。
なんせ私は、久々に高ぶった感情にのまれ、残弾数も考えずにミサイルを乱射していたのですから。
ぶっちゃけ可愛くはあるのですが、この弾切れパタパタの動きも、相手にはマヌケに映っていると思いますし。
「ほげぇーっ!?!?」
私が放心した、次の瞬間、即座にクヌギくんの突進が、身体をかすめました。
突き出した腕の逆側に回避したので、なんとかコジマブレードには触れずに済みましたが、代わりに相手ACの肩と接触してしまい、衝撃で機体が激しく揺れます。
「ちょ、ま……! あのっ!?」
矢次に襲い掛かってくる、彼のコジマナッコー。……いえ
それはまるで、これまでの鬱憤を晴らすみたいに。散々ASミサイルをぶち込まれた恨みでしょうか?
ぼくはぜんぶ耐え切ったんだから、こんどはエイプーさんの番だよっ!(ぷんぷん!)
そんなクヌギくんの声が、聞こえてくるかのよう。
「こっ、こうさっ……! もう私たたかえn
某逆脚の人みたく、「あんたはまだ生きてる! ノーカウントだ!」とか言おうとしたんですけど、それを許してくれるクヌギくんじゃありませんでした。
今も彼は、竜巻の如く私の周囲を飛び回り、バシュンバシュン突っ込んできます。とっつき振りかぶりながら。
ちくしょう……ツイてない。ツイてないですっ!
それに、きっとアンパンチって、そんな乱発する物じゃないと思うんですよ。
正義のヒーローの必殺技ってゆーのは、最後に一回だけ決めるから、カッコ良いんじゃないかなって。ありがたみが無いのです。
けれど、私が必死こいてふわふわ避けるもんだから、次第にクヌギくんもヒートアップ。
緩急を織り交ぜたQBによって機体速度が天井知らずとなり、目にも止まらぬ動き。
そして恐るべき精度で、コジマパンチが飛んでくるんです。
ホントはこれ、試合なんだし、さっさと当たって負けちゃえばいいんですが……。
でもこの時の私は
勘とか、運とか、「生゛き゛た゛ぁ゛い゛!!」という想いとかを総動員して、嵐のようなコジパン連打を捌き続けたのです。
「ぱ、パージ……?
クヌギくんも弾切れなんですね!? ヒャッホー☆」
やがて、軽くカップ麺が出来上がるくらいの時間、トムとジェリーみたく追っかけまわされた後……。クヌギくんの両腕からポーン! と音が鳴り、さっきまでぶん回していたコジマパンチが切り離されました。
後で確認してみた所、コジマパンチことKB-O004の使用回数は“30”。
この子は両腕に装備していましたので、合計で60発となります。
それを私は、ガン泣きで鼻水を垂れ流しながらも、なんとか躱し切ったのです。
塩分もビタミンも足りてないのに、貴重な体液を失ってしまいましたが、命からがらコジマの悪夢から逃げる事が出来たのでした。
「よかったぁ~。これで引き分けですね~。
武器が無いことには戦えませんし、ノーカン! ノーカン!」
ヴェーロノークの翼をパタパタやりながら(腕を振り上げる代わりです)、「ふーやれやれ」と額の汗を拭いました。
なんか私の中のSEEDが弾けちゃって、軽く大人げない戦い方をしちゃいましたが……でも互いに弾を使い切るくらい全力を尽くしたのですから、これ良い試合でしたよね?
勝ち負けという遺恨も残らず、ただ満足感と充実感だけがある、最高の落とし所☆
中学生の男子なんかが河原でやる、「お前、やるな」「お前もな」みたく!
もちろん次に対戦した時は、ちゃんといつも通りの戦い方をしてあげるつもりですし、彼も気持ち良く上のランクに進めることでしょう。
私は貧乏ですけど、後でジュースくらい買ってあげてもいーです。相手は愛らしいショタっ子ですもん。
そう私がふよふよ浮きつつ、「ねぇ分かるでしょ? 同じリンクスじゃないですかぁ~」と、口走ろうとした時……。
「ふぇ?」
突然彼のACの左手に、シャキーンとレーザーブレ―ドが。
いまクヌギくんは、何気なく腕をブンブンし、動作の感覚を確かめているようでした。
「かっ――――
とぉーう……ぉーう……ぉー(エコー)
私のヴェーロノークが滅多斬りにされ、ヒュ~っと羽虫みたいに落下していったのは、その10秒後の事でした。
……
…………
……………………
「油断してました……。
そりゃ弾切れの対策くらいは、してますよね普通」
私はしてませんが。まぁそれはともかくとして。
まさか予備のレーザーブレードを、ハンガーに隠し持ってたなんて……。
『あべしっ!!』
『ひでぶっっ!!』
『~~~ッッ!?!?』
思考の海に沈んでいた意識を戻し、ふとモニターに目を向けてみると、そこにはクヌギくんにワンパンされるダリオさん、ハリさん、そして
もう暗くなっちゃったので、お開きにするそうですが、あの子は今日一日で12人ものリンクスを倒し、見事カラードランクのTOP10入りを果たしたのです。
私たちの間で、実質“最強”と噂されるホワグリさんを、ものの1分で地に堕としてしまいました。コジパン恐るべしです(震え声)
「前途有望な若者が、とっつき信者に……」
「あの三馬鹿……とんでもねぇヤツ育ててくれたな。
ネクスト絶対とっつくマンじゃねーか」
「なぁ、アレに負けた俺達って何……?
そう皆さんが、ケータリングのお弁当をモグモグしながら、どよーんとしてます。
9位となった超新星、クヌギくん。
健闘むなしく、21位となった私。
そしてコジマ的なアンパンチにより、一瞬にしてランクをひとつ下げられた皆さん……。
きっとそれぞれ、とても思い出深い一日になったんじゃないかって思うんです。
よくも悪くも。
――――また新たな遺伝子が芽吹いた。とっつきは最強だ!!
そんな三馬鹿のウザさに、みんなが辟易しちゃった日から、数日後……。
「あぁ……お弁当が尽きてしまいました。
今日からは何を食べれば良いんでしょうか?」
あのランクマ控室にあった、ケータリングのお弁当。
それを周りが「……」ってなる位、ワッサーっと持って帰った私なのですが、残念ながら弾切れ。
冷凍保存したり、アレンジ料理(かさ増し)にして食べたり、いろいろ楽しむ事は出来ましたが、あの素晴らしい日々は戻って来ないのです。
ですので私は、今日も足を使って営業しなくちゃいけません。
いつもの如く、リンクスさん達のいそうな所におしかけたり、こうしていつもの酒場へやって来たりしています。
人間はただ生きてるだけで、1時間あたり50~60kcalほど消費します。もやし1袋が24kcalですから、ふたつ以上も食べなきゃいけません。
更に言えば、これはあくまで最低限の量でして、歩いたり動いたりしなくちゃなのですから、もっともっとkcalを必要とします。世知辛い世の中です。
「誰か私の脳をガラスケースに入れ、培養液の中で生かし続けては頂けないでしょうか?
そうすれば私、ずっとふよふよしてられます。お金や食事のこと考えずに済むのに……」
まぁ大好きなお空ではなく、得も知れぬ液体の中でふよふよするワケですが。
人はパンのみに生きるに非ず! と昔の人は仰ったそうですが……そんな“特権階級”の食べ物、私が口にできるとでも?
最後にパンを食べたのは、いつだったか……もう私には思い出せません。
貧乏です。お金が無いんです。
千切りキャベツにドレッシングをかけるという行為が、どれだけ私にとって“贅沢”か、きっと余人には理解できないでしょう。
美味しいでも、ジューシーでもなく、「味があるっ!」テッテレー
それが、私が人間の食べ物を口にした時に思う、いちばん最初の感情なのです。
私の犬とかハムスターの方が、よっぽど良いモン食ってますよ。馬鹿にしてんのか昔の人めチクショウ。
「いつかハト麦茶を、腹いっぱい飲んでみたいです。
お水に味が付いてるだなんて、ほんと夢みたいな話です。憧れてしまいます」
私ことエイ=プールのエンブレムは“鳩”。鳥が空へ羽ばたいていく様子が描かれてます。
けれど、いつも自分のエンブレムを見る度、「この鳥、食えるのかな?」とか思ってしまう私を許して下さい。これは仕方のない事なんですヴェーロノーク。
「あ、飲んだくれリンクスの皆さん、まいどです。
今から私、三階の窓から飛び降りようと思うのですが。
それしたら、いくら貰えます?」
「そんな酒の余興はいらねぇ! 帰れよっ!」
僚機になれないのなら、おひねり貰っちゃおう作戦、大失敗。
私は手品とか芸は出来ませんし、身体を張るしかないな~と思ったのですが、どうやらお呼びでないご様子。
袖にされ、トボトボ自分の席へ帰る羽目となりました。
こうなったら、生活保護を申請するしか……!
すいません、生きててすいませんとか言いながら、月12C*1くらい貰う人生を送るんです。
もし役所で「あんた若いし、五体満足じゃないか」とか言われたら、その場で両手両足をへし折りましょう。ナイスアイディア。
一瞬、「誇りは無いのか?」というジェラルド氏のセリフが思い浮かびましたが、いつもナイフとフォーク使う食事をしてる人なんかに、私の事とやかく言われたくないです。殺すぞ(直球)
私には向いてなかったんです、リンクスとか。
これでお塩も醤油も買えない生活とはオサラバですね。うっほほーい!
「え、えっと……!」
そう私が「きぃーん!」と両手を広げ、アラレちゃんのポーズで酒場を走り周っていると……。
「こんにちは、エイプーおねぇさんっ」
なにやら、とても愛らしくて幼い声が、耳に届きます。
cv矢島晶子です。
「ずっと、さがしてたの。
でもおねぇさん、さいきんココに来てなかったでしょ?
やっとあえた……」
振り向くと、そこに小さな人影。
私も大概ちんまいですが(栄養失調で)、それでも見下ろすことが出来るくらい。
まだ10才かそこいらの男の子が、モジモジと顔を真っ赤にして、こちらを見つめていました。
「あのっ、
ぼくのリョウキになってくださいっ!」
あの日、この子に散々見せられた、コジマパンチの閃光。
それを遥かに上回る衝撃で、私の頭は真っ白になり、機能を停止しました(終了)
◆ ◆ ◆
――――このリンクスは10才にも満たない年齢ゆえ、特例として全てのミッションで、僚機の使用を許可する。
そんな決定が、カラードでされたとかなんとか。
詳しいことは知りませんけれど、その“保護者役”に選ばれたのが私……という事なのでしょう。
この子の卓越した才能と実力が、大人達に例外的な処置を取らせたのです。
まぁ、案の定「僚機の弾薬費と修理費を、自分で負担するのなら」という条件付きですが。
「おぺれーたー? はいらないね。
ぼくには、おねぇさんがいるもんっ」
私のACは“支援機”。爆撃のみならず、あらゆる後方支援をこなします。
だから、そう言ってくれるのは嬉しいのですが、反面私は、とても混乱しています。
こんなにも幼い子を連れて、戦場を駆けなくてはいけない、と言うのですから。
しかし、それはともかく……。
「ま、待って貰っていいですか?
タイムを要求します!」
「?」
キョトンとした顔かわよ。……いやそーじゃなくて。
私は元気に月光ポテトをモグモグしている“クヌギくん”のお顔を覗き込みます。
まだ小さいながらも、とても整った容姿。短いけど艶のある、サラサラの髪。とっても柔らかそう。
男の子ですが、どこか儚げな雰囲気を持っていて、小動物に対して抱く庇護欲のような物が、どんどん私の胸に湧いてきます。
ちなみにこの“クヌギ”というのは、リンクスNAMEであり、彼の本名では無いみたいです。
とっつきの使い手という事で、釘から来ているのかと思いましたが、なんでも“木の名前”から取ったとか。クワガタなどの甲虫が好む木であるそうな。
「突然のことで、少し動揺していまして。
私を雇おうなんて人は……あまりいませんから」
なんせ、疫病神ですし。自分で言うのも悲しいけれど、私は嫌われ者ですから。
少しばかり、ここにいる人達に訊けば、私の悪評なんてカーペットの埃くらい出てくる事でしょう。
というか、この子はあの“とっつき三羽烏”と親交があったハズ。むしろ知ってて当然かと思うのですが……。
あれから二人で席に着き、いったん腰を落ち着けることが出来ましたので、一度詳しい話を聞いてみる事としました。
何故かクヌギくんの中では、既に私をゲッチューした事になっているっぽい雰囲気もあるので、その誤解もとかなきゃですし。
「あのね? ぼく“なんとかダルヴァ”さんをやっつけて、ランク1位になったんだけど……。
そうしたらもう、
「っ!?!?」
「だから、こんどはリンクスとして、おしごとをしたいなって。
いらい? ってゆーのを、ボシューチューなんだよ♪」
ニコニコと笑ってる。太陽みたく眩しい。
でもこの子の口から紡がれたのは、とっても恐ろしい言葉でした。
「けど、ぼくまだ小さいし……むずかしいことは、よく分からないの。
しらない言葉も、いっぱいあるもん……」
ミッションの連絡時に使用される単語や、名称、大人の言葉遣い。
きっとその全てが、クヌギくんにとっては「はてな?」なのでしょう。
どこの企業の、どの辺にある、コレとソレをこうして来い。護衛対象はこんな風に~とか言われても、チンプンカンプンに違いありません。
だってこれ、私たちリンクスでも「なんとなくで聞いてます~」って感じですもの(真顔)
ぶっちゃけ「三行で頼む!」っていつも思ってます。話が長ったらしいんですよねぇ、大人というのは。
「だから、ぼくが13才くらいになるまでは、だれかといっしょじゃなきゃ、いけないの。
ランクマッチは別にいーけど、ひとりでイライを受けちゃいけません~って、お姉ちゃん言ってたよ?」
ん、お姉ちゃん?
私を呼ぶ時の「おねぇさん」とは、微妙に違う言い方。
恐らくは、実の姉のことを指しているのでしょうし、それがどんな御方なのかは、非常に気になる所ですが……。
でも気になった事は、後で全てまとめて質問する事にしましょう。
今は話の腰を折らず、この子に無理のないペースで、話して貰わなければ。
なけなしのお金で購入した、AFギガベース盛りの月光ポテト(ただの揚げた芋)を、二人で仲良くパクつきます。
ぶっちゃけこれでスッカラカンですし、明日からの生活を想うと死にたくなりますが、今は気にしない事とします。
まがりなりにも大人ですし、この子にご馳走するのは、義務のような物。武士は食わねど高楊枝なのです。
ジェラルドさん……こんな私にも、守るべき矜持があったようです。やっと見つけましたよ。
でもお金貸して下さい(クイックターン)
「おねぇさんは、いつもおしごとをさがしてる~って、ドスおじさんからきーたの。
なら、ぼくのリョーキになって?
エイプーおねぇさんといっしょなら、ぼくがんばれると思う」
天使のようでした。穢れない無垢な魂が、いま私の眼前にあります。
ただ……なにやら聞き捨てならない言葉が、随所に散見されました。
どうやら、一通り言いたい事を話し終えたようで、クヌギくんはニコニコと微笑みながら、こちらを見ている様子。きっと返答待ちなのでしょう。
なので、溜まりに溜った私の疑問を、ここいらでぶちまける事としました。
「えっとですね、色々と言いたい事はあるんですが……。
まず君は、なぜ私を僚機に?
ちょっとそこが、分からないというか……」
リンクス【エイ=プール】の事は、アホのおじさん達から聞き及んでいるハズ。
なんだったら、私に話を持ってくる前に、親交のある彼らに相談をしてたんじゃないでしょうか?
一人じゃミッションに行けないので、僚機が必要な事を。
そしたら、あの馬鹿だけど気の良い人達の事です。
きっと某ダチョウ倶楽部のように、「俺が俺が!」となるに相違ありません。
まだ幼いクヌギくんの面倒を見ている(?)事からも分かる通り、荒くれだけど良い人達ですから。
そして、私のような中の下のリンクスより、もっと相応しいパートナーがいる筈。
僚機の1回や2回ならいざ知らず、彼は13才になるまで一緒にいてくれる相棒を、探し求めているご様子ですし。
だというのに、何故この子は、私のところへ話を持って来たのか?
お仕事を探していると聞いた、というだけでは、とてもじゃないですが足りません。
これは、とても重要な決断。人生を左右する選択です。
戦場で背中を任せる、命を預ける相手を選ぶ――――という事に他ならないのですから。
例えば、ちょっと酷い言い方かもですが“貧乏くじ”とか、子供のお守りをするのは面倒だとか、そう考えるリンクスがいても、決して不思議では無いです。
けれど、それで相手が見つからなくて、最後に仕方なく私の所へ来た~という感じでは、どうも無いっぽいんですよね……。
仕方なしとか、気乗りしないけど~とか、そんな雰囲気は感じられません。
演技なんて出来ないであろう年頃の子ですし、いまキラキラした目で私を見ているのですから。
持って帰りたい(本音)
更に言えば、この子は“ランク1位”。これは非常に重たい意味を持つ、とてつもない肩書なのです。
相手がいないどころか、「このガキを利用して、好き勝手やってやるぜェ! ようやく俺にも運が向いてきやがったか! ウケケケ!」とか考えるパッチ・ザ・グッドラック不届き者がいないか、心配になる程です。
ありとあらゆる意味において、この子がいま、私なんかとテーブルを挟んで座っていること自体、ありえない。
正直な話……もし私が三羽烏の立場なら、クヌギくんを止めます。
問答無用で。その壊れそうなほど小さな手を、引っ張ってでも。
エイ=プールなんかやめとけ――――と。
「だっておねぇさんは、
でも唐突に、私の思考回路が、
「いちばん強くて、かっこいい!
こんなすごい人、みたことないっ!」
フリーズではなく、爆散いたしました。
「ネクストのソージューをおしえて? もっとつよくなりたいの。
おねぇさんとなら、ぼくはどんな敵だってたおせる――――」
子供らしくキャッキャと……ではなく、真剣さを称えた瞳。まっすぐで綺麗な目。
吸い込まれそう。跪きたい。
そう思わなくも無いのですが……。
「ぼくが
エイプーおねぇさんは、世界でいちばんつよい」
――――この子の頭、コジマ汚染されとるっ!!
私は盛大にズッコけ、思い留まりました。
「あのっ……それだけ?
ただそれだけの事で、私を……?」
「ん?」
キョトン、とした表情がプリチー☆ でもこの子は
恐らく病名は【とっつきコジマ病】と思われる。
えっ、あのランクマッチの一戦で!?
私あんなボロクソにやられたのにっ! ASミサイルを耐え切られての、完敗だったのにっ!
ただ「ぼくのとっつきをよけた」ってだけで、人生を左右する決断を?!
そんなアホな! アホの子だったんですか君は!?
「おねぇさんにくらべたら、オッツなんとかさんなんて、
えらそうなこと言っといて、すぐとっつかれるなんて、カッコ悪い人だよね」
「――――王子になんてことをっ!! 水底に引きずり込まれますよ!?」
「ぼくのお姉ちゃんだって、あんなおっきなネクストにのってるのに、すぐまけちゃった。
スマイリーのエンブレムが泣いてるよ。アンパンマンの勝ちだね♪」
「――――メイ・グリンフィールドさんの弟さんでしたかっ!!
そういえばエンブレムもろ被りです! なにその姉弟喧嘩?!」
「あの白いネクストの人は、上手だったけど……、でもおねぇさんの方がすごい。
カブトムシと、てんとう虫くらい差があるよ」
「――――やめて! 恐れ多い! あの人リビング・レジェンド!!」
違うんですクヌギくん、私はとっつきを躱した
君はコジマパンチなんて物を使ってるから、そう思うのでしょうが、ネクスト乗りの強い弱いっていうのは、そーいうんじゃ無いんです……。
君からしたら、「いちばん倒すのに時間かかった人」って感じなのでしょうが、本来私の実力なんて、乙ダルさんやグリントさんに比べたら便所コオロギです。
ただただ君は、「とっつけなかった」という一点だけを見て、私を過大評価してる。
君の強い弱いの判断基準、とっても歪! ファッキン・クレイジー・ボーイ!
大変失礼ですけど、たとえどれだけ速かろうが、CUBEさん操るフラジールは“弱い”です。
あんな安定性もクソも無い腕パーツで、射撃反動の大きいマシンガンを握っても、敵ACを倒し切ることは出来ないんです。
集弾性が皆無ではロクに当たらないし、そもそも彼も、自分の機体に振り回されてる人ですから。
それと同じように、どんだけヒョイヒョイとっつきを躱そうとも、君を倒すことは出来ない。
あの日クヌギくんは、私の放ったASミサイルを、すべて耐え切って見せたじゃないですか。
たとえこの先、何回やっても、きっと一生をかけても、君には敵わないと思う。
あれだけ皆に馬鹿にされてる“とっつき”を装備してても、そうなんですよ?
もし君が、どちらか片腕だけでもいいので、ハンドガンのひとつでも装備した日には、もう目も当てられない惨状になる事でしょう。
言うなれば、私は君に、
そして、もし私が残念イケメンでお馴染みの乙ダルさんや、カッコ良くて素敵で心から尊敬できるお人柄のホワイトグリントさんと戦えば、恐らくあっという間にやられてしまうのです。
それほど純然たる、実力の差があります。
彼ら相手には、無駄にドスさん達に叩き込まれた“とっつきを避ける技術”なんて、なんの役にも立たないのだから。
でも、そんな事も知らぬまま、クヌギくんは子供らしい純粋さで、私を褒めてくれます。
きっと私の生涯で初めて、そして二度と無いであろう程の称賛。べた褒めなんです。
もうホントこれ……なんて言ったら良いんですかね!?
いま私、途轍もない“罪悪感”があるんですけど!
こんな物の分からない時分の、ちっちゃい子を誑かしてからに! 死にたい!!(迫真)
けれど……。
「キレイだった……、エイプーおねぇさんの飛び方。
とっても自由で、ゆーがで、ちからづよいの。
まるで、鳥みたい――――」
キュッと、心臓を鷲掴みにされたみたいに、私は止まる。
さっきまで頭をがんがんテーブルにぶつけていたのに、目が点になる。
「あたるワケない、とっつきなんて。
お空でゆらめく羽を、こわす事なんて、誰にもできないもの。
きっとぼくは、見とれてたんだと思う。あのヴェーロノークに――――」
トゥンク……っていやいやいや(首振り)
何ときめいてるんですか私。まだ10才の子に。
なんで今、涙出そうになってるんですか。言葉が出てこないんですか。
砂漠で水飲んだみたいな、迷子の子供がお母さんに見つけてもらえた時みたいな、そんな気持ちでいるんですか私は……。
私の思考が、コジマ汚染されたみたく、使い物にならなくなる。
もともとポンコツなのに、ぜんぜん働かなくなる。理性的でいられない。
なんで、こんなに嬉しいんですか――――
誰もくれなかったです、そんな言葉。
いっつも「あっちいけ」とか、「お前のせいで」とか、言われるばかりだったのに……。
「そ、それでねっ? おおきくなったら、
でもまたしても、私の頭をシェイク。シャカシャカエイプーです。
「ぼく、がんばるからね?
エイプーおねぇさんがすき……。ずっといっしょにいて」
アンサラーでも、こんな理不尽じゃない。
スピリット・オブ・マザーウィルの弾幕だって、こんな飛んで来ません。
この子は私を、スクラップにでもするつもりですか? 緩急で吐きそうです。
「むねがキュッってなったの。はじめてエイプーおねぇさんと会った時……。
ぼく、おねぇさんがいい」
きっと、おねぇさんがリンクスじゃなくても、おんなじだと思う。
エイプーおねぇさんに「ケッコンしてください」って、ぼくは言ったと思うよ――――
そうウルウル、ウルウル、目を滲ませている。
この子のまん丸でキレ~な瞳が、じーっとこっちに。私に。
「おねぇさんにくらべたら、メイお姉ちゃんなんて
おしごとでしゃべる時、めちゃめちゃ声作ってるもん。
お家では、
「――――おやめなさいクヌギくん! おやめなさい!(二回)」
人を褒める時に、誰がを下げてはいけませんっ!!
そんなの褒められた人も嬉しく無いし、だれも幸せになれないんです!
まだ幼いこの子は、悪気なく言っているのでしょうが、メイさんにとっては営業妨害です。それキャバ嬢が接客する時のヤツじゃないですか。
【僚機として大人気のメイ・グリンフィールドさん】という言葉が、今は違って聞こえます。
「あ! お金いっぱい、もってきたよ?
ランクマッチのしょーきんっ!」
「 なんですかこの札束!? こんなの見た事ありませんよ私?! 」
ドサー! っと机に落とされる、何百万Cというお金。
ランク1位すごい。パない。私の借金と同じくらいある(レイプ目)
「これあげるから、ぼくのリョーキになってっ!
ミッションでもらうお金も、おねぇさんにあげるね♪」
「お金をなんだと思ってるんですか!
そして私をどーする気ですか!!」
そんな事したら、リンクス仲間から袋叩きです。「子供に貢がせるクソ野郎」と。
特に姉であるメイさんから、殺されかねません。メリーゲートの垂直ミサイルで家燃やされます。
どうやらクヌギくんのアセンブリって、既に理想に到達してるらしく……、機体の修理費や、コジパンの弾薬費さえあれば、それで事足りるのだそーです。あまりお金は必要ないとの事。
幼さゆえの純粋さと、物を知らない無邪気さによって、私の下に大金が舞い込んでくるシステムです。
ショタっ子マネーで玉の輿♪ エイプーちゃん大勝利☆
これが私の物語でしたか。なるほどなるほど……。
たしかに貧乏ですし、正直魅力的。でも貴族でなくても誇りはあるのですよ、ジェラルド・ジェンドリンさん?
それをやったら、人として終わりだ――――って思った私は、潔く清貧を貫く決意をするのでした。サンバディトゥナイ。
私が初めてお肉を食べたのは、いつだったでしょうか?
確か15の時、初参加だったランクマの控室にあった、ケータリングのお弁当。そこにポツンと入ってた牛肉だったと記憶してます。
というのも……私は子供の頃から、お母さんに「お肉なんか食べちゃダメ」って言われて育ちましたから。
なんでもお肉というのは、ゴムみたいな味がして、ぜんぜん美味しくないのだそうな。
いつもお母さんは、妙に必死な顔をして、まだ幼かった私を説き伏せてた気がします。あんなのやめときなさいって。
なので、リンクスになって独り立ちをし、何気なく牛肉を口にした時は、
今から試合だっていうのに、周りにたくさん人が居たのに。
私は「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーっ!!」と絶叫し、そこら中を駆け回った挙句、そのまま表へ走っていったようです。
まるで、天変地異でも起きたような。
自分の根底にあった物が、グレネードをぶち込まれた衛星軌道掃射砲みたく、ガラガラと崩れ去ったんです。
当然の事ながら、その日のランクマは惨敗いたしましたが、私もうそれどころじゃありませんでした。
こんな美味い物が、この世にあったかよ――――と。
私、貧乏でしたからね。お母さんと二人暮らしだったんです。
生まれてからずっと、清貧を地で行く生活。慎ましく生きて参りました。
たま~にですが、「私は他の子と違うのかな?」と感じることは、ありました。
私が当たり前だと思っている生活習慣や、普段食べている物などが、どうやら周りの子達とは、少し違うようでしたから。
けど、へっちゃらです。気にしませんでした。
だって私は、お母さんが大好き。「二人でいられれば、それで良い」みたいな所ありましたので。
優しかったし、たくさん愛してもらった。何をおいても私を守ってくれた。
だから、へっちゃらです貧乏とか。お腹がキューキューなっても我慢できる。
お金とか、食べ物とか、家とか。
そんなのよりも私は、お母さんの方が良い。
たとえ、まわりに何を言われても。バカにされても。
私は大好きなお母さんの言葉だけを信じて、生きてきました。
「エイプーおねぇさんのキタイって、
「ぶちますよクヌギくん?」
そんな事をふと思い出したのは、この状況ゆえでしょうか?
いま私はヴェーロノークに乗って、クヌギくんの隣をブーンと並走しています。
そう、僚機として。彼が請け負ったミッションのお手伝いをする為に、です。
「だって、青と白だもん。
ぼくとならんだら、もうバタコさんにしか見えないよ」
「そんな風に思うのは君だけ……ではないかもですね。
あまりにも君の機体が、アンパンマン過ぎるんですよ。
あぁ、私のヴェーロノーク……」
しょぼーん、とヴェーロノークの翼が脱力(したように見えました)
まぁ某パン屋の娘さんはともかく、たまに「アラレちゃんみたいだ」って言われる事あったりしますけど。
ウイングを広げて飛んでいるヴェーロノークの姿が、「きぃーん!」って言いながら走ってる時のアラレちゃんと、そっくりなのだそうです。うんちゃ!
とにもかくにも無線の通信を介し、のほほんとお喋り。今もクヌギくんは無邪気に「ふふっ♪」と笑ってくれてます。
私は独り身ですし、ネクストを駆る傭兵なのですが、きっと子供がいたのなら、こんな感じなのかな~って、お母さんもこんな風に私と接していたのかな~って、不思議な気持ちになりました。かわよ。
いつも僚機をやっている時とは違う、独特の空気。
穏やかで、あたたかい、安らぎのような物を感じています。
「時にクヌギくん? その【AN BREAD MAN】についてなのですが……。
やはりアーキテクトは、あのクソッタレが?」
「うん、ジョニーおじさんだよー。
ぼくが『こーいうのがいい』っておねがいして、作ってもらったの♪」
「ふむ、ヤツがウキウキと満面の笑みで、機体をアンパンマンカラーにしている姿が浮かびます。
まさかトーラス社の人達も、自分トコのパーツをそんな風にされるとは、思って無かったでしょう」
私がこれまで見てきた中で、ぶっちぎりの“痛AC”。
世のママさん達がキャラ弁を作るのとは、ワケが違います。
これに乗って死ぬのも、これに乗ったリンクスにやられるのも、さぞ無念な事でしょう。
「KIKUにするか、ドーザーにするか、コジマパンチにするかは、けっこうまよったけど。
でもけっきょくは、コジマパンチになったよ♪
ジョニーおじさんが、『君に必要なのはコジマだ。コジマパンチなのだ』って」
「僚機をお引き受けして、良かったかもしれません。
少なくとも、あの人達よりはマシだと自負しています」
コジマの寵児、とっつきの申し子――――
この子がそんな風に呼ばれちゃうのは、私としても心苦しいです。
クヌギくんの操縦技術は、とっつき云々を置いといても“類い稀”。天性のセンスをお持ちだと思いますし。
どうか竹のように真っすぐ育って欲しいと、願ってやみません。それが人の情という物です。
変人とか奇人とかGAの厄災(変態)とか言われるのは、私達だけで充分なのだから。
余談になりますが、ランクマの賞金やミッションの報酬を、全て私にくれる~という例のお話は、丁重にお断りしました。
私は今、カラードや企業が提示する“通常の規約”に基づく報酬で、この子の僚機として契約しています。
何度もお伝えした通り、私の弾薬費はバカにならないどころか、下手をすればミッションの報酬が全て消し飛んでしまう程に、とんでもない額になる事があります。
ただ、ここら辺も私の匙加減ひとつ。好き勝手にアホみたくバンバン撃つのではなく、状況によって必要な量を見極める~と言った風に、ある程度は調節が効く部分です。
正直、これまでは「ヒャッホー☆」とばかりに……もっと言えば「人の金で撃つミサイルは最高だぜ!」って感じで、遠慮なくやっちゃってた所があったのも、否定できませんから。
流石の私も、まだ10に満たない幼子のお金で、自分のストレス解消や、サディスティック・デザイアの充足をしたいとは、思いません。
持て余してるフラストレーション、とか言ってられないのです。
弾代ケチってミッション失敗とか、この子の身を危険に晒すのは論外としても、今後はある程度考えながら、ミサイルを撃っていこうと思っている次第です。
実はクヌギくんのコジマパンチにも、しっかりと弾薬費は発生しまして。しかもこれが結構なお値段なんですよ……。
一発あたり4500C×60発ですから、仮に全て撃ち尽くせば【27万C】
ミッションの報酬は、だいたい50万Cほどが相場なので、これだけで半分以上が消し飛んでしまいます。
そこに機体修理費用や、私のバカみたいな弾薬費が加われば、もうどうやっても赤字は不可避。
ミッションをやる度にお金が減っていくという、地獄みたいな状況になりかねません。
クヌギくんはまだ子供ですし、難しいことを考えながらミッションをこなせというのは、あまりにも酷という物。
なのでここは、後方支援機でありパートナーであるこの私が、知恵を絞ったり工夫をしたりするべきでしょう。
10年選手の割にランク21位という、うだつの上がらないリンクス人生をおくってきた私ですが、少なくとも“経験”は積んできました。
まだクヌギくんがよく理解していないであろう、戦場でのセオリー、企業間の力関係、社会情勢、あと汚い大人のやり口etc.いろいろ知っているつもりです。
加えて、スーパーのお値打ち品を狙ったり、家電のコンセントを抜くとかお風呂にペットボトルを突っ込むとかの節約術も、血肉として身に付いている人間ですから。
そういう意味でのサポートは出来る。クヌギくんのお役に立てるのではと。
カラードランク最上位である彼に対し、中の下がいい所の私が“相棒”などと、本来ならば恐れ多いかもですが……。
でもこの件に関しては、事情が事情ですからね。特殊なケースだと思いますし。
今後は私も心を入れ替え、真面目に生きていかなければ。
――――いけるな、エイ=プール?
――――はぁい↑ そのつもりです(キリッ)
子守ACエイ=プールとの繋がりを強くする好機です。
そちらにとっても、悪い話では無いと思いますが?
「ぼくはとっつきを使ってるけど、ヴェーロノークのぶきはASミサイルだよね。
おねぇさんは、ミサイルがすきなの?」
「ええ。私はリンクスになった時から、ずっとこればっかりです。
ASミサイルの専門家、なんて呼ばれ方をする事もありますよ?
まぁヴェーロノークは武器腕の機体ですし、他のを使えないってだけなのですが」
「いいよね、ASミサイルっ。
たくさんのミサイルが、くもを引いてとんでいくのって、カッコいいとおもう♪」
何気ない雑談。でも私は「たはは」とお茶を濁します。
クヌギくんは素直な子だし、そう言って貰えるのは、とても嬉しいのですが……。
でも実の所、私はそこまでミサイルという物に、思入れは無かったりしまして。
AMS研究所での訓練課程を終了後、リンクスのナンバーを貰い、ヴェーロノークのアセンブリをする事になった時……。
私がこのパーツを採用した理由は、ただただ「翼みたいで素敵!」と思ったからに他なりません。もう100%見た目でした。
あとしいて言えば、AMS適性の事は置いといても、私のヒューマンスペックというヤツが、悲しいほどにヘチョかったから。
機体を動かしながら、射撃のことまで考えている余裕が、私には無いのでした。
でもASミサイルであれば、サイティングは不要。
ある程度距離を詰めて発射するだけで、自動的に相手を追っかけてくれますからね。
私は“撃つ”よりも、“飛ぶ”のが好きなんです。
余計なことは考えず、ただ飛ぶ事だけに集中していたい。
不器用ちゃんなのも確かにありますが、純粋に私の性格的に、煩わしい想いをしたくないって想いがあります。
空は、この世界で最後の“自由”。
なんにも縛られず、なんにも考えず、飛んでいたい。
ただお空をふよふよしてるだけで、私は幸せなんです――――
後方支援機ですし、AMS適性もそこそこなので、いつもその状況下になれば勝手にミサイルは発射され、シュボーっと飛んでいくのですが……。
でも私は、たまにお空からふよふよ地上を見下ろしてる時、「争いなんて、止めたらいいのに」と思います。
戦いとか、殺すとか、勝つとか、奪うとか。
そんなことをしてないで、
こうしてふよふよしてた方が、よっぽど幸せなのに。みんなそうすればいいのに……。
そう傍観者のように、後方でひとり戦場を眺めながら、ボ~っとしてる事があります。
建物が崩れ、炎があがり、機械が壊れ、人が死ぬ――――
そんな悲しい光景を観ながら、自分の手で作り出しておきながら、心だけがふよふよと、どこかへ飛んでいくのです。
これはリンクス候補生時代に座学で習った、【当事者感覚の喪失】というヤツかもしれません。
もしくは、まだ12才の頃、治験者としてAMS研究所で打たれた、あのお薬のせいかも。
あれ以来……、私は難しい事を考えるのが、どうも苦手になってしまったようです。
「ではクヌギくんはどうです?
今とっつきをお使いのようですが、何かこだわりがあるのでしょうか?」
ちょっとおセンチになっちゃいそうなので、逆に質問。
ドスさんもジョニーさんも、彼らはとっつきの他、ちゃんと射撃武器も装備していますが、この子は両腕にあるコジマパンチのみです。
もし私のように、何か射撃武器に苦手意識でもあるのなら別ですが、なんというかこう……男らしいというか潔いというか。
幼い彼には似つかわしく無い、強烈な意志のような物を感じるのです。
己のヒューマンスペックの全てをつぎ込み、ただひたすらに相手を追い回し、とっつく。
それはもう、よほどの信念……いや“狂気”が無いと出来ない気がします。
言っときますけど、命は一つですからね?! そこを分かってない人が多過ぎます!
一回負けたら全てが終わる、というリンクス稼業で、大事な大事な主兵装にとっつきを選ぶ。
これが狂気でなくて、何だというのですか(真顔)
向こう見ずとかそんなレベルでは無いのです。
私は女ですし、どちらかというと合理的な思考をする方なので、正直「何がこの子をそうさせるんだ」と思ってしまうのですが……。
そこの所、実際どうなんですかクヌギくん?
「なんのために生まれ、なにをして生きるか……。
そんなの分かりきってるよ、
――――オゥマイガッ!(巻き舌)
私は心の中でシャウト。
「それだけ♪ ことばをかざるコトに、いみはないもん。
あいとコジマだけが、ともだちだよ」
へっ――――H E N T A I だ ぁ ぁ ぁ ー ー っ !!??
これまで三馬鹿に毒されたとばかり思ってましたが、もしやこの子は
まだ若い身空で、そんなウィンDさん並の誇り高さを!?
いや……予想の範疇ではあるんです。覚悟はしていましたので。
この子の戦いっぷりは、なんというか本当に“楽しそう”でして。よほど強い気持ちを以って、ネクストに乗っているんだなって~事は、もうヒシヒシと伝わりますから。
ただ私が思ってたよりも、
あんな爽やかな声で、こんなバカなこと言われるとは、夢にも思ってなかったというか……。
「もしこのネクストにのってて、まけたら、すごくカッコわるいよね?
そんなことしてるからダメなんだ~って、きっと言われるとおもう」
「そ、そうかもです。
なんたって、アンパンマンで戦場に来ているワケですし。個性的ですから……」
「それに、ぼくがよわかったら、アンパンマンもわるく言われちゃうよ。
自分のすきなものに、ドロをぬっちゃう。
だからコレにのってる以上、だれにもまけるワケにはいかないの♪」
背負っていらっしゃる(白目)
あのスマイリーのエンブレム……いえ“勇気のマーク”は、君の覚悟の表れだったのですね。
なんでそんな風になっちゃったんですか。メイ・グリンフィールドさんは何をしてるんですか。
まぁ、そんな傭兵も悪くないがな――――ってやかましいんですよ。
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年10月05日】
エイ=プールです。
今日は僚機として、企業連からのお仕事に行ってきました。
ラインアーク守備部隊の皆さんが、ひとり残らずコジマの暴力に晒され、橋ごと水底へと消えていきました。
これは、話し合いのための示威行為です(白目)
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年10月09日】
エイ=プールです。
GAさんの依頼を受けて、ミミル軍港に行って来ました。
そこに駐留している部隊を襲撃せよ、との事でしたが、仲介人のニヒルなおじさんが言った「弾薬費はお偉いさん持ちになってる」のひと言に、一も二もなく即決。
私たちは何の遠慮も無く、2分足らずで軍港を焦土に変えたのでした。
コ・ジ・マッ! コ・ジ・マッ!(三々七拍子)
今回のミッションでは、敵への損害が大きいほど、報酬も上乗せされるとの事で、久しぶりに張り切っちゃいました。
楽しかったですし、お金もガッポリ。いつもこんな依頼ばかりだったら良いのに。
ちなみに、依頼内容の説明文に、“ユニオンの部隊”と書かれていたような気がしますが……、細かいことはイーンダヨの精神です。
選んで殺すのが、そんな上等かねぇ?
みんな貧乏が悪い(確信)
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年10月11日】
エイ=プールです。拠点型AF“ギガベース”の破壊に行ってきました。
これ前回襲撃した&私がお世話になってるインテリオル・ユニオンからの依頼なので、メッセージが来た時は「怒ってるのかな?」とヒヤヒヤしましたけれど、意外となんにも言われなかったです。
今回はあくまでAFが目的という事で、ほかの護衛艦隊は無視。
一応は、補給艦艇の破壊にボーナスが付くそうなので、僭越ながら私が担当させて頂き、あの子には一直線にギガベースの所へ向かって貰いました。
あんなおっきい兵器であっても、クヌギくんワンパンしちゃうんですね。ちょっと引きました。
海がとても綺麗でした。キラキラと水面が輝いてて、心が洗われる心地。
OBをバビューンと吹かし、拳振りかぶってカッ飛んでいくクヌギくんも、カッコ良かったです。
私カメラとか持ってたら、パシャパシャ撮りたかったくらい。
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年10月12日】
エイプーです。キラーエイプとは何の関係もありません。
今日はユニオン輸送部隊の、レッドバレー突破を支援してきました。
まるでムキになっているかのように、ユニオンから立て続けの依頼。
あの腹黒お姉さんの声にも、なにやら言外の圧力を感じます……。
関係ないのですが、「ユニオンは貴方を高く評価しています。よいお返事を(以下略)」とか言っても、このメッセージ確認してるの私ですし。ブレイン担当ですし。
そんな無理して声作ってまで、クヌギくんに色目使っても無駄ですよ?
とにかく私達二機で、レッドバレーの広大な大地と空を、思う存分駆け回って来ました。
きっと輸送部隊の方々の目には、クヌギくんのAC【AN BREAD MAN】が、本当のヒーローのように見えていた事でしょう。
私は……どうでしょうか?
バタコさんや、アラレちゃんじゃなかったら、嬉しいのですか。
あと、ちょっとしたお遊びとして、「私とクヌギくん、どちらが多く敵を倒せるか?」という競争をしたのですが、今回はありがたい事に、私が勝たせて頂きました。
これ武装の差というか、コジパンでひとつひとつ破壊しなきゃいけない彼と、ASミサイルを沢山ばら撒ける私とでは、本来フェアな勝負とは言えないのですが……。
でもクヌギくんは、どこか清々しい顔で「まけたー!」と言い、パチパチと私を褒めてくれたのです。
護衛任務も成功しましたし、夕焼けの中で一緒に食べたお弁当も、おいしかった。
とても良い一日でした。
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年10月15日】
貴方のエイプーです。 も え も え キ ュ ン(全力)
今日も例によってユニオンの依頼。ランカ―AC【ワンダフルボディ】を撃破してきました。
ついでに言うと、完膚なきまでにすり潰し、殺して、ヤツの墓にツバ吐いてきました。
嘘です。
けれど、あんなエロい……いえ教育に悪いエンブレム張ってる人に、一片の慈悲も必要ないんじゃないかって。
巨乳原理主義者は、肥溜めにぶち込むべきなんじゃないかって、そう私は考えるのですが如何でしょう?
ホントは私が血祭りにあげてやりたかったのですが、これでも僚機の身。弁えております。
あいつがフレア持ちのマザーファッカーな事もありまして、今回の私の担当は、ワラワラと群がって来るノーマル部隊の殲滅。クヌギくんの為の露払いでした。
「それがネクストの動き!?」
――――いいえ、コジパンマンです(真顔)
無線を聴いた時「そんなワケあるか」と言ってやりたかったけれど、その前に搭乗者であるドン・カーネル氏は、クヌギくんにとっつかれ、お空の星となりました。
まぁ命までは取られなかったようなので、「じゃ、じゃあ俺は何だ!?」という不毛な自問自答を、いつまでも続けて頂きたく思います。
いくらランクマッチでならしたとはいえ、クヌギくんにとっては初めての対AC戦。
なのでミッションの前は、少し緊張している様子でした。
私は出撃までの間、この子の隣に座り、ずっと手を握ってあげていたのですが……それはこちらにも分かるくらい、震えていました。
けれど、段々と時間が近づいてくるにつれて、彼の手の震えや緊張は治まり、出撃の時にはすでに“男の顔”となっていたのが、とても印象的でした。
小さくても、この子はリンクスなんだなって。
内心で、僚機の仕事を“子守り”と揶揄していた事を、反省しなくてはいけません。
あ、それはそうとクヌギくん。
弾幕、薄くなかったですか?
(つづく)
もうちょっとだけ続くんじゃ(短編なのに)