―某所―
01-1897 : SELEN HAZE
01-6652 : LILIUM WOLCOTT
01-1106 : MRS THERESIA
01-1284 : WYNNE D FANCHON
01-4552 : SHAMIR RAVIRAVI
01-5876 : LISIRE
01-2871 : STILETTO
01-5690 : MAY GRINFIELD
「新参者の傭兵……いえ
「はい、間違いありませんミセス・テレジア様。
我々【ショタっ子を見守る淑女の会】は、情報の精度を確認しています。
よく頑張りましたね、クヌギきゅん……(ボソッ)」
「そ、そんな大げさにする事かな……?
まだ小さいって言ったって、仮にもリンクスだしさ……。
ほらっ! 本来そーいう物じゃない!」
「だと良いがな……
「ちょ、ウィンDさんっ!?」
「エライよね……」
「カワイイったらないわ……」
「産みたい(直球)」
「シャミア! リザイア! スティレットまでっ!
なにホワワ~ン☆ ってなってるのよ! 私の弟なのよ!?」
「構うものかァ。いざとなればメリーゲートごと貴様を破壊し、あの子を奪うまで。
なぜ私の子にならなかったんだクヌギきゅんッ……! 逃した魚が本マグロで死にたい」
「あげないからねセレンさんっ!?
おとなしく他の子さがしてよっ! お願いだからっ!」
「とにかく、こんなにも可愛い子が、あんなに凄いことをやってのけたのですし、いっぱい褒めてあげるべきかと、リリウムは思います。
オネショタの総本山ことセレン会長、クヌギきゅんへのご褒美は如何しましょう?」
「あのくらいの年頃ならば、模型や玩具などを好むはずだァ……。
1/1スケールの“カブラカン”でもくれてやれェ」
「それ実機じゃないのよっ! サンタの袋に入るヤツにしてよ!」
「あの子に似合いそうなチョーカーを見つけておいたの。
これをプレゼントするのはどう?」
「それ“首輪”でしょうかっ!
あんた黙ってなさいよシャミア! 弟をどーする気よっ!」
「リリウムの身体に、リボンを巻いてプレゼントするのは如何でしょう?
王大人に頂いた、赤いTバックもありますが。それを穿きましょうか?」
「戻って来てリリウムちゃん! 目がグルグルしてるっ?! 気をしっかり持つのよっ!!」
「ねぇ、まだ 精通 してないの? もしそうなら私が」イソイソ
「座ってテレジアさんっ! とりあえず座って! 洒落になんないから!!」
「私たちは、ただクヌギきゅんとお近づきになりたいが為に、皆でパーツや巨額の費用を出し合い、ネクストを組んであげた。
そしたら、いつの間にかあの子が
何を言っているか分からないと思うが(以下略)」
「責任感じてるなら、もうやめてくれない?
アホみたく甘やかさないでよステイレット」
「ひとつの
「――――愚かよバカ! だからブラス・メイデンとか言われんのよ!!」
「そこまでリザ。
含む所があるなら、戦場で好きなだけやればいいリザ。止めはしないリザ」
「え、あんたそんなキャラだっけリザイア? 個性捻り出したの?」
「議題は他にもあるぞ。例の“泥棒猫”の件だァ。
私が育てようと思っていたクヌギきゅんを、横から掻っ攫いおってェ……!」
「思うのは勝手だけど、胸にしまっておいてくれます?
ツバつけてたつもりでしょうけど、あの子セレンさんの事、憶えてないですよ?」
「ヤツを誅殺し、彼から引き剥がすのは容易だ。
しかしクヌギきゅんが、
「はい。
この誓いを破れば、愛の御名は地に墜ちるでしょう」
「きっと、エイプーを殺したら泣くわ。
あの子が悲しんでる所なんて、死んでも見たくない……」
「胸がキュッとなる」
「想像したくない」
「死にたい」
「コロシテ」
「あの、いっぺんに喋らないでくれるかな……?
もう私には収集つかないよ……」
「とにかく、今の内にエイ=プールめの扱いを、決めておいた方が良かろう。
幸いにも、ヤツにオネショタ気質はない。加えて存外、面倒見の良い女らしいぞォ?
やり様によっては、利用できるだろうさ」
「私お姉ちゃんだよ?
ねぇ分かってる? なんで勝手に進めるの?」
「うーん、面妖な」
頂いた給与明細を眺めながら、コテンと首を傾げます。
何度見直しても、どの角度から読んでみても、そこに記載されている数字は変わりありません。
「
どのミッションの物も、軽く相場の1.5倍はあります」
これでも10年リンクスをやってきた身、この内容ならばこれ位かな~という数字は、おおよそ分かります。
けれど……これまで二人で請け負ってきた依頼の全てが、私からすれば「ラッキィィー☆」と目の色を変えちゃうほど破格の報酬金。
たとえ私達のお高めな弾薬費であっても、十二分に賄える金額でした。
僚機を伴わないと出撃不可なクヌギくんに配慮を……というより、企業の方々にとっては「コナをかけておきたい」というのがあるのでしょう。なんたってあの子は類まれ。極めて優秀なリンクスですし。
その操縦技術や、戦闘力の高さと同じように、報酬金も
平々凡々を地でいく私とは、そもそもの前提が違いますし、まぁこの好待遇にも頷けるのですが……。
しかし、基地や施設の襲撃であったり、ちょっとした護衛任務であったりの比較的容易なミッションで、これほどの額を頂けるというのも、アレな話ではありました。
「なにやら、少しばかり申し訳ない気分ですね。
おこぼれに預かる、というのも」
私とクヌギくんの取り分は、弾薬費&修理費を差し引いての“折半”。
これはあの子からの強い要望でして、いくら私が「15%でおっけーです♪」と言おうとも、頑なに聞き入れては貰えなかった為。
よくバンドなんかでも「お金は平等に分けろ、それが円満のコツだ」なんて言いますが……、こういった小さな部分で不平不満という物は積み重なり、やがて崩壊に繋がるのです。
クヌギくん自身、あまりお金を必要としていないという事もありますし、そういった事を嫌ったのかもしれません。なにより彼のご厚意や、私への信頼から来ているのかも。
ある意味、私という相棒のおかげで、ミッションを請け負うことが許されているクヌギくん。
あちらからしたら、さぞ私という存在が、ありがたく映っている事でしょうけど……この温度差はエグイです。
今の私って、誰がどう見ても「この子のおかげで食えている」って状況ですからね(白目)
そもそもランク1位の彼と、中の下である私とでは、ぜんぜん格が違うというのに……。
こういった部分は、まだ小さい彼には、理解できていないのでしょう。
そして、不平不満ではなく、耐え難い“申し訳なさ”が、時に人間関係の破綻に繋がるという事も……。
たとえどれほど矮小な人間であっても、大なり小なり“プライド”というのはあるワケです。
無償の愛、なんの打算もメリットもない一方的なご厚意……。そういった
ま、私は気にしませんけれど(キッパリ)
お金を貰えて、大好きなお空をふよふよ出来るなら、それで満足なのです。
たとえ「あいつ上手くやりやがったな」「良いご身分だぜ」なんて、リンクス仲間達から陰口を叩かれようとも。
私を見る目が、軽蔑どころか“憎しみ”に染まろうとも。
もし彼らが、強い強いクヌギくんを妬み、なんとか足を引っ張りたいと思うのならば、狙うべきはへなちょこリンクスである私。(なんでか知りませんが)彼に信頼されている私をこそ攻撃するのが、もっとも効果的ですから。
いちおう今の所、有難い事にそういった気配は無いです。
むしろ、これまで見た事も無いような
懐柔すべきはあの子ではなく、彼の保護者兼パートナーであり、また“貧乏人”という分かりやすい弱者である私。そう考えていらっしゃるのかもです。
そんな大人達のコムズカシイ思惑を、どこか他人事のようにふよふよ感じながら、私は手元にある書類を鞄へと仕舞い、代わりにMYお弁当箱を「よいしょ」と取り出すのでした。
「おねぇさーん、ふりかけもってきたよー」
「あ、どうもですクヌギくん。
かたじけない、かたじけない」
私がテーブルに(酒場だというのに)お茶碗や小鉢を並べていると、ランチの約束をしていたクヌギくん登場。ナイスタイミング。
私は農民のようにヘコヘコと頭を下げてから、彼が実家から持ってきたであろう、ふりかけの袋を受け取りました。のりたまって書いてあります。
「これで私の“ライス定食”は、更なる進化を遂げます。
FRSメモリでチューンされた気分です」
「おねぇさん、ライスてーしょくってなに?
なんでそんな事してるの?」
やや、ご存じないのですかクヌギくん? これはかの有名なライス定食。
主食どころか、おかずも副菜も御椀の中身も、
まぁ有り体に言えば、「ぜんぶ米やないか~い!」って感じですが……。
でもお弁当箱から直接食べるのではなく、こうしてわざわざお茶碗や小鉢に入れる事によって、ただの白米が“定食”へとクラスチェンジ☆
もう見違えるほど豪華な食事となるのです。気分的にですケド。
このひと手間をかける余裕こそが、大切。
皆さんも、たとえスーパーのお惣菜であっても、ちゃんとお皿に移して食べなくてはいけませんよ?
洗い物をしたくないとか、面倒だとか、そーいったモノグサな気持ちこそが、人の心を貧しくしてしまうのです。
せっかくのご飯です。おろそかにする事なく、出来る限り良い物として楽しんでいこうではないですか。
そういった想いから生まれたのが、この“ライス定食”。
すべての命と、大地の恵みに感謝して、いただきます♪
「おかげさまで、銀シャリが食べられる程度には、お金持ちになれました。
私にこんな日がやってくるなんて……、あの頃は思っていなかったのに(遠い目)」
「おねぇさんって、いつも何たべてたの?
お米じゃないんなら、パンやパスタかな?」
「いえ、景気が良い時は
まだガスや水道が生きている場合、に限りますが」
小麦粉を適当にこねくり回し、そいつを茹でればハイ完成です。お手軽で美味しく、腹持ちだって良いんですよ?
まぁ我が家には片栗粉なんて上等な物は存在しませんし、頭に“もどき”が付く似非すいとんですが。
「なんでも聞く所によると、今ちまたでは【虫を食べるか否か問題】で、白熱した議論が繰り広げられているそうな。
でも残念、それはこのエイ=プールが、
食べたくないとか、常識とか、そんなの“命”の前ではゴミクズですよ?
生きるというのは問答無用なのd
「――――おねぇさん! ぼくのカノサワからあげ食べる? はんぶんあげるよっ」
なんか物凄い勢いで、言葉を遮られた感。
クヌギくん、すんごい汗かいてます。ハンカチで拭き拭きしてあげます。
「いえいえ、私にはクヌギくんが持って来てくれた“のりたま”がありますから。
お気遣いなく。今日は思う存分、銀シャリを堪能したいと思います。
一口ごとに100回くらい噛んでやりますよ」
いくらパートナーとはいえ、この子に飯をたかるワケにはいきません。
まぁ既に「家からふりかけを持って来てもらう」というグレーな事はしちゃってますが、どうがご容赦頂きたく思います。
だって、使ってないって言うんですもの。余っているのなら私が! というだけの事なんです。
私は「ん~♪」と吐息を漏らしつつ、ニッコニコしながら銀シャリを頬張ります。
天国のお母さん……見ていますか?
貴方の娘は、白米にふりかけをかけられる位、立派になりましたよ――――
そんな想いで胸をいっぱいにしながら、幸せなご飯を堪能していましたが、なにやら対面に座るクヌギくんの表情がおかしいです。いったいどうしたと言うのでしょうか?
「クヌギくん、お米というのは炭水化物。これは身体を動かすために必要な、ガソリンとなる栄養素です。
君がいま食べている唐揚げも、たんぱく質や脂質といった、身体を作るために必要な栄養素が含まれているんですよ?
どうかバランスの良い食事を心がけ、そして沢山食べて大きくなって下さい」
「うん、わかったよおねぇさん。
いっぱい食べて、はやくおっきくなるね……」
まぁそんな知識ばかりあったとて、私はバランスの良い食事など
でも誰かの、そして子供の幸せを願うのは当然のこと。
ぜひクヌギくんには、健康的な食生活をして、ぐんぐんタケノコみたく育って頂きたいものです。
え、キノコたけのこ戦争? 私どっちも食べた事ありませんけど(レイプ目)
「そうそう、せっかく銀シャリが食べられるようになりましたし、今度駄菓子屋で蒲焼きさん太郎でも買い、
「やめとこ? ね?」
きっとお菓子会社の人も、ふつうに食べてくれた方が喜ぶよ。
そんなクヌギくんの説得により、この素晴らしいアイディアは放棄することに。
この子にもご馳走しようかと思ったのですが……残念無念です。
ミッションではいつも頼りっきりですし、たまには大人らしい事もしなくては。
なので、また何か考えておくとしましょう。クヌギくんが喜んでくれそうな事を。
あぁ、ライス定食おいしーです。幸せ♡
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年11月2日】
エイ=プールです。
今日は大アルゼブラ(笑)さんからの依頼で、リッチランド農業プラントへ行って来ました。
『く……首輪付きか。知らんな(震え声)』
嘘だ、ぜったい知ってる。
フェラムソリドス……じゃなかった不明ネクストさんは、明らかにこちらと接敵した途端、声が上擦っていました。
クヌギくんの機体って、この上なく特徴的ですし、3日でランク1位に駆けあがった昇り竜ですからね。
リンクスやっててこの子を知らないというのは、物凄い職務怠慢かと思いますし。
『……ちょうどいい、AFにも飽きてきたところだ(諦観)』
人生にも飽きちゃいましたか? はやくOB吹かして逃げればいいのに。
そんなゴテゴテした重量二脚で、クヌギくんのコジパンを躱せと言われたら、私なら泣いて謝りますよ?
余談になりますが、私この人の
なので、ぜんぜん不明ネクストじゃありませんでした。
私は僚機生活が長いもので、たいがいのリンクスの方とは、顔見知りなんです。
まだ候補生の子からベテランまで。クレイドル中のリンクスに声かけて来ましたからね。
生活のために(レイプ目)
それにしてもソリドスくん、ずいぶん立派になって……。なにやら感慨深いです。
初ミッションの時は「わーっ! 助けてぇエイプーさん! はやくきてー! はやくきてー!」と、あれだけ泣き叫んでいたというのに。
そんな彼も、今は“雌伏”*1という難しい言葉を使うまでに、成長したのです。
カラード管轄外のリンクス、いわゆるイレギュラーになっちゃったみたいですが、君があの時見せてくれた「エイプーさんありがとー!」という輝かんばかりの笑みは、今もしっかり私の目に焼き付いていますよ? いい子だったなぁ~って。
まぁ開幕5秒で、クヌギくんにコジパン叩き込まれ、「ほげぇ~!」言うてましたけども……。
遊びは終わりか? ミスター・イレギュラー(目逸らし)
殺しはしませんので、ソリドス君にはしっかりと罪を償い、反省して頂きたく思います。
そして、いつかまた、私を僚機として雇って頂けたら幸いです。
ちなみに、このミッションに赴く前……。
フラジールさん&トラセンドさん&サベージビーストさんが、仲間になりたそうにコチラを見ていましたが、ガン無視しました。
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年11月6日】
エイプーです。今日は“いつものGA”さんからのご依頼で、ロロ砂漠に行って来ました。
また後々のことを考えると、お腹が痛いので、今日のことに関しては軽く流そうと思います。
ただ――――チョー気持ち良かった☆
殲滅戦すき! 一番すきー♪
ノーマルの群れに「ヒャッハー!」とASミサイルをぶち込む度に、私の心が満たされていくのを感じます。
途中、ユニオンのお姉さんの顔が脳裏をよぎりましたが、そんなの関係ないんですよ。
滅ッ! って感じですよ。
なんですか“お麩”って。どんな主食ですかソレ。米を送ってこいチクショウ。
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年11月9日】
どもです、エイ=プールです。
トーラスさんの依頼で、ギアトンネルに展開する“プロキオン”という兵器を破壊してきました。
これも例によって、バブルと寝た女あの仲介人のお姉さんが持ってきたお話だったのですが、私にはとてもじゃありませんが、断る勇気が無かった……。
ええ。犬のように従順に、ヘコヘコしながら受諾しましたとも。コンゴトモヨロシク。
『トーラスは、あなたを強く希望しています(婚活的な意味で)』
これは依頼のメッセージにあった結びの一文ですが、カッコ内は私の捕捉となっています。
私モテたのよぉ~。男をとっかえひっかえでさぁ~。もう両手の指じゃ足りないくらいのアッシー君がぁ~。
……そう会うたびに自慢されるのですが、「じゃあ今の貴方はどうなんです?」と問いたい。ものすごく問い詰めたい。
関係ないですが、“アッシー”とはなんでしょう?
バブル期の言葉には、詳しくありませんで……。
え、プロキオンですか? コジパンしました(終了)
◆ ◆ ◆
【ふよふよ日記 2XX7年11月15日】
エ イ プ ー だ よ ☆
GAさんの主力AF“グレートウォール”を撃破してきました。
クヌギくん、ついに地上最強を……。
コジパンマンの拳の前では、グレートウォールも置物同然ですか(どん引き)
しかしながら、突如として有澤社長、見参。
切り離された後部車両を追おうとしていた私達の前に、敵として立ちはだかったのです。
唯一の侵入口に鎮座し、“通せんぼ”をするみたいに堂々と佇む、敵ネクスト。
その姿にクヌギくんは、一瞬たじろいだようでした。でもそこは僚機歴10年の私ですよ。
『ここは私に任せて、君は動力炉を!』
即座にヴェーロノークのOBを吹かし、社長をすり抜けるようにして、後部車両の狭い入口に侵入。
その後、即座にクイックターン。突進の勢いを以って、
社長は私の機体ごと、もつれあって外へと落下。
これにて進入路の確保、完了です。
漫画やアニメで見るような「お前は先にいけ!」というフラグめいたセリフを、まさかこの私が言うことになろうとは……。
けれど、一回やってみたかったんですよね♪
これぞ僚機の心意気ってヤツです! ふんす!
そんなこと出来ない、敵ネクストならぼくが――――
そうクヌギくんが躊躇する事は、
彼は即座に動き、瞬く間にグレートウォールの内部へ。一直線に動力炉に向けて、かっ飛んでいきました。
自分で言うのもアレですが……“信頼”が違うのです。
相方にここまでされても躊躇するようでは、三流と言わざるを得ません。でもクヌギくんはそうじゃない、ってだけの話。
むしろ、「1分1秒でも早くグレートウォールを墜とす」という気概を以って、躊躇わず前へ進んでいきました。
私の言葉、私の意思、そして己の僚機を、クヌギくんは心から信じてくれているんだなって感じて、胸が熱くなりました。
『――――社長、ごはん奢って下さい! 私が勝ったら夜マックです!』
『ッ!?!?』
でも私、そんな殊勝な女じゃないです。
クヌギくんを先に行かせたのは、「こんな私を見せたくない」という想いも、あったりなかったり。
社長は武人気質というか、売られた喧嘩は買う人なので、こう言えば必ず勝負して貰えます。
匹夫めが、雷電に削り合いを挑むか――――
そう言われましたけど、“ひっぷ”って何ですか? おしりの事ですか?
おっさんは難しい言葉ばかり使うので、困ってしまいます。
そして、なんやかんやと始まる雷電vsヴェーロノーク。
ほとんどその場に足を止めたまま、恐ろしいほどの精度でグレネードをぶっぱなしてくる社長の戦闘スタイルは、本当に脅威です。
しかし……アリーナの時とは違いますよ? なんたって
私は凧のように雷電の頭上を飛び、そのまま紐で繋がれているみたいに、上を取り続けました。
そこから情け容赦なくASミサイルを叩き込む。雷電が機能を停止するまで、ずっと。
『この雷電を削り切るかッ……! (食欲の)化け物めッ!!』
やがて、背後でドゴーン! とグレートウォールが爆発する音が響いた頃、私たちの勝負も決着。
グレネードという強大なプレッシャーの前に、何度も何度もヒヤヒヤする場面はありましたが、内容としては完封。ヴェーロノークの勝利です。
いや~! 今日の私はキレッキレでしたねぇ! 自分でも不思議なくらい!
ビッグマックにパティを増やすという浪漫が、私の中のシードを芽吹かせたのかもしれません……。
これにて、ランクマのリベンジ達成です♪
まぁカラードランクが上がっちゃうと、また三羽烏に絡まれてしまいますので、それは願い下げですけど。
その後、なんか泣きそうな声で「おねぇさん! だいじょうぶ!?」と言いながら帰ってきたクヌギくんも連れて、三人でマックへ行って来ました。
なぜ貴様が21位なんだッ……! と渋い顔でコーヒーを飲んでましたが、それでも付き合ってくれる男前な社長。素敵です。
そして、口のまわりをチーズまみれにしながらも、元気にダブチを頬張るクヌギくんが可愛かった。
今日も、とても良い一日でした。
◆ ◆ ◆
「射撃? なんですかソレ食えるんですか?」
「わかんなーい」
その言葉にプッツンしたのは、ダン・モロさん。
お前らそれでもリンクスかっ! と激おこのご様子でした。
「いっつもいっつも、コジパンとASミサばっか使いやがって!
たまにはライフル握れよ! 肩ロケット積めよ!」
「えー」
「ぇー」
いつもの酒場。クヌギくんと二人でランチしてた所に、何気なく声を掛けてくれたダン・モロさんでしたが……、ふと話題がアセンブリの事になった途端ヒートアップ。
何やら譲れない拘りがあるようで、私たちの戦闘スタイルに苦言を呈するのでした。
「どのパーツが良いかなって、ウンウン悩むのがリンクスの醍醐味だろ! 一番楽しいトコだ!
お前らゴリ押しじゃねーか! 汎用性ってモンがねーよ!」
何しょーもないヘリ相手にコジパンかましてんだよ! オーバーキルだろ!
お前も狭っ苦しい場所でミサイル撃ってんじゃねーよ! 爆発で自爆してんじゃねーか!
そうプリプリとお冠。のほほんと焼肉(のタレをかけたモヤシ炒め)を食べてるこちらとの温度差が、えらい事になってます。
「でも、好きこそ物の上手なれ、とも言いますし。
ミサイル撃ちながら、ふよふよするの、楽しいですよ?」
「コジマパンチ、さいこーだよ?」
「それじゃあ駄目なんだよ! それだけじゃっ!!
ミッションに適した兵装、ってモンがあんのぉー!
何のためのアーマード・コアだよ! 思考を放棄すんなっ!」
この人、すんごいマウント取ってくるやん……と思わなくもないのですが、彼の言う事も一理あります。
私もリンクス歴は長いですし、たまにこうして「別の武器使えよ」的なアドバイスをされる事も、無くはありませんから。
10年ネクストに乗ってるのに、未だASミサイル以外の武器を使ったことが無いなんて、きっと私くらいのモノでしょう。
前にも言いましたが、たとえドスさん達とっつきマニアであっても、ちゃんと肩や逆の腕には、それ以外の武器を装備しています。
私やクヌギくんのように、どんなミッションでも単一の武器でやるというのは、非効率的だというのも理解できますし。
個人的には、これもひとつの道だと思っていますけど……、きっと人から見たら「何がお前をそうさせるんだ」って感じでしょうし。普通にライフル2丁持てばいーじゃんと。
でも仕方ないじゃないですか、使えないんですもの。
上下左右、あらゆる方向に動きながらサイティングをするなんて、頭が「うわーっ!」ってなっちゃいます。
私はヒューマンスペック皆無の、とても残念な子だから、お空を飛ぶので忙しいのです。
でもそんな事、ダン・モロさんには関係ないみたい。
頑張れ! 努力だ! リンクスだろ! そうどこか見当違いな激励で、私たちを鼓舞してくれてます。
しかもこれ、馬鹿にしてるとかそーいうのじゃなく、本当に応援してるっぽいんですよね……。
彼が善人だっていうのは知っていますので、なんか無碍に出来ないというか。
たとえダン・モロさんの熱意が上滑りしてても、耳を傾けてしまう私がいるのでした。
「――――しゃーねぇ! 俺がお前達に、アセンブリのなんたるかを教えてやるよっ!!」
えっ……と耳を疑いました。
思わず彼の顔を見てしまいますが、今も腕組みをしてウンウン頷いている様子。
なんか、とっても機嫌良さそうです。
「お前ら金持ってんだろ? いっぱい依頼受けてんだから。
それ使わねぇってのは、やっぱおかしいよ。
たまにはパーツのひとつも買って、経済まわしやがれ! 大事だろそーいうのも!」
あの……
確かアーキテクトの方は別にいるそうですが、残念アセンで有名なセレブリティ・アッシュに乗っている、ダンモロさんが?
そう言いたいのは山々なのですが、彼はズンズン先んじて歩き、既にここの会計を済ませてしまったようです。
こちらの返事も聞かない内に、「さぁ行くぞ! 俺についてこい!」とばかりに。
なんでしょう? この微妙に逆らいづらい空気。コミックヒーローがするような満面の笑みは。
時に善意というのは、人を縛る鎖にもなりえるのだと、私は学ぶのでした。
◆ ◆ ◆
「あぁ……無駄に散財してしまいました。
もったいない、もったいない……」
「どんまい、おねぇさん」
数時間後、トボトボと市街地を歩く私たちの姿がありました。
「LALIGURASを買いはしましたが、一体どう使うのでしょうコレ?
私には見当も付きません」*2
ダン・モロさんに言われるがままに買ってしまいましたが、きっとこれは格納庫で埃を被る羽目となるでしょう。まさかこんなピーキーな兵装を勧められるだなんて、思いもよりませんでした。
こちとら借金まであるというのに……。ようやく完済に手が届く所まで来たのに……。
でも即売却するのも、不義理な気がしますし。本当どうしようかなと。
ちなみに彼とは、先ほど店先で別れました。
なんでも今から恋人の所に行くとか。リア充です。
「えへへ。ぼくはちょっとうれしいの。
おねぇさんといっしょの、ASミサイルだよ♪」
「えぇ、私も嬉しいです。
また今度、使って見せて下さい。楽しみにしています」
しかしながら、意外にもクヌギくんはホクホク顔。
この子も【SM01-SCYLLA】という、肩武器VerのASミサイルを買ったのですが、早く格納庫に届かないかな~と、今から待ち遠しいみたいです。
「思えば、ショップに足を運んだのは、いつ以来でしょう?
目に映るもの全てが新鮮で、ワクワクしてしまいました」
「うん、ぼくも。
ネクストのぶきって、こんなにあるんだーって思った♪」
私の機体構成は、リンクスとなった当時から、少しも変わっていません。
あえていうなら、少し前に私専用のスタビライザーを、ユニオンが作ってくれまして、それを取り付けたくらいですかね?
弾薬の補充なんて、「いつものヤツを」と連絡しておくだけで手配して貰えますし、機体の修理も同様。だから私には、ショップに行く理由なんて無かった。
ゆえに、今日は楽しかったです。まるでおもちゃ屋さんにでも来たみたいに、キャッキャとはしゃいでしまいました。
もちろん、クヌギくんとふたりで。
「ねぇ、おねぇさん。
何かぼくに、使ってほしいぶきって、ある?」
「ん?」
ふいに、クヌギくんの何気ない声。
「ダンモロさん、『ミッションに適した武器を』ってゆってたでしょ?
なにをつかえば、おねぇさんのやくに立てる?
ヴェーロノークのASミサイルを活かすような戦い方って、どんなのがあるかな?」
もう辺りは暗くなり、人っ子ひとりいない。
そんな、どこか物悲しい雰囲気の道を、ふたり並んで歩きます。
キョトンと小首を傾げつつも、真剣な顔。
幼いこの子の純粋な瞳が、じっと私をまっすぐに見つめていました。
「うーん、それでは立場が逆ですねぇ。
私が君の僚機なのですから」
ギュッと、手を繋ぎます。寒さで少しかじかんだ、彼の小さな手の感触が、伝わって来ました。
私は出来る限りの、優しい表情を浮かべます。
この子の優しさ、そのお心遣いに、なんとか応えようと。
「飛び道具を持たない【AN BREAD MAN】の為に、雑魚敵を掃討し、露払いをする事。
君が心おきなく、おもいっきり戦えるようにする事。
それこそが、ヴェーロノークの役目ですから」
お仕事を取られたら、商売あがったりです。
いくらランク1位のクヌギとはいえ、支援機の役目は譲りませんよ?
そう茶目っ気のある声で言い、パチンとウインク。
ガラにもない事をしている自覚はありますが、この状況ならばこうすべきかなって、そう思ったから。
「で……でもぼく、おねぇさんのやくに立ちたいっ!
もっとよろこんでもらえるように、すきになってもらえるようにっ!」
けれど、ポッと頬を赤らめながら、少しだけ呆けていたクヌギくんが、ハッと意識を戻した途端、追いすがって来ます。
両手でギュッと私の手を握り、ウルウルと潤んだ目。
それは、必死に自分の想いを伝えようとする、子供らしい所作でした。
あれだけ“とっつき”という物を愛し、頑なに執着していたこの子が、他の武器を使う。大切なものを捨てる。
そう自ら言い出すほどに、私は想われている。この子に大切にされている。
驚きました。まさかそこまで……と。
でも、そのモジモジと恥じらう愛らしい仕草に、私は悟ったんです。
クヌギくんの真心を。想いの強さを。
「ふふっ♪」
彼の頭を撫でます。目線を合わせるように、屈んで。
柔らかでサラサラな髪の感触を、暫し楽しむように。
正直、何を言っていいのか、分かりませんでした。
それに応えられるほどの、その想いの強さに釣り合うだけの言葉を、見つけられなかった。
だからこそ、不器用な私は、直接触れたんです。
これまでやった事がないって位、表情筋に力を入れ、笑顔を作りながら。
「ほらクヌギくん、雪が降って来ましたよ? 綺麗ですねぇ」
ふと見上げると、空にはたくさんの粉雪。
ゆっくり、ふよふよと舞っています。
既にこの世界の空は、とても悲しい物になってしまったけれど……それでも綺麗でした。
「では行きましょうか。ここは冷えますから」
早く帰らないと、メイさんに叱られてしまいますし。
そう体の良い理由を口にしつつ、私達は再び手を繋ぎ、歩き出しました。
ときおりお互いの顔を見て、「ふふっ」と笑い合いながら。
街灯に照らされた薄暗い中を、粉雪が舞う。
今この光景は、私達だけの物。今この瞬間だけは……二人だけの世界。
肩が触れ合う度に、隣に居る人のぬくもりを感じる。
無言でも寂しくない。今もこの子の手から、優しい気持ちが伝わっているから。
誰かといる、居てくれる。その安心を確かめながら歩きました。
「おくってくれて、ありがとう。
あのっ……これね?」
やがて、グリンフィールドさんのお宅に到着し、私が門の前で踵を返そうとした時。
彼が慌てて鞄をゴソゴソし、「はいっ!」とこちらに何かを差し出しました。
私とは背丈が大分と違うので、愛らしく上目遣いをして。
「リンクスの人たちから、きいたの。
おねぇさん、今日おたんじょうびでしょ?
おめでとう、おねぇさん」
それは、ラッピングされた小物と、一枚の便箋でした。
突然のことに、私は思わずフリーズ。ぼけ~っと彼の顔を見つめます。
するとクヌギくんは、これらをグイッと押し付けるようにして渡すと、照れ臭いのかすぐに回れ右をし、タタタッと家に入ってしまいました。
◆ ◆ ◆
【エイプーおねぇさんへ】
いつもぼくと、ミッションにいってくれて、ありがとう。
いっしょにごはんを食べてくれて、ありがとう。
いそがしいメイお姉ちゃんのかわりに、あそんでくれて、ありがとう。
とっつきしか使えないぼくを、ASミサイルでたすけてくれて、ありがとう。
ぼくは、エイプーおねぇさんが、だいすきです。
いっぱいあるネクストの中で、ヴェーロノークがいちばんカッコいいって、おもいます。
ほかのだれよりも、エイプーおねぇさんが、いちばんキレイです。
どんな人より、おねぇさんといっしょにいる時が、しあわせです。
いつかぼくも、ヴェーロノークみたいに、つよくなります。
だから、またぼくにネクストのソウジュウを、おしえてください。
これからもたくさん、いろんなミッションに、つれてって下さい。
おねぇさんといっしょなら、どんなてきにも、かてます。
ぼくには、おねぇさんがひつようです。
ありがとう、エイプーおねぇさん。
ずっといっしょにいてね。
クヌギより
◆ ◆ ◆
「なんと……いじらしい」
お手紙を持つ手が、ワナワナと震えます。
これまで経験した事のない感情が、沸々と湧きました。
まぁこれ、クヌギくんの家の真ん前で読んでますから……下手すると不審者として通報されるかもですが。
「このような物を頂いたのは、生まれて初めてです。
まさか、債務者リンクスであるこの私に、こんな事が起ころうとは……」
人生というのは、本当に分からない物です。
急がず、目立たず、細々とやってきたつもりなのですが……。
とりあえずは便箋をポッケに仕舞い、プレゼントらしき物が入った袋を手に、帰路に着きます。
クヌギくんが住むお家に背を向けて、そのまま振り返ることもせず、トボトボ歩きました。
「ふむ、光栄の至り。至上の喜びに御座います。
そんな風に思うべき……なのでしょうね、きっと」
けれど、揺れない。
あれだけの想いを見せられ、ここまでされたというのに。
私の心は、自分でも驚くほどに、
「嬉しいですよ?
こんなに誰かに想われるなんて、きっともう、二度とないでしょうから」
分かってる、これはきっと“奇跡”と呼ばれる類の物。とても得難い物なんだって。
でも……それだけです。
私にとって、これは「滅多に無い」とか「珍しい」とか、それ以上でも以下でも無い出来事でした。
可愛かったなぁとか、いじらしいなぁとか思い、いま胸がポカポカしていても……。
それは決して“特別”ではなく、きっと5分もすればすぐに薄れてしまう程度の、軽い物でしか無かったのですから。
「私、ドライな女なのかもしれません。
これでは、せっかくお手紙をくれたクヌギくんが、報われませんね」
子供だから? 大人だから? 僚機だから?
いえ、そんなのとは別の部分で、
その自覚があります。
人並みに喜び、騒ぎ、微笑みはしても、決して“ある一定”以上はいかない。
まるでリミッターでもかけられているかのように、ただただ静かな心で、クヌギくんを見つめている自分がいました。
「あぁ、本当に報われない。
こんな
きっと、“半分死んだ”のだと思います。
誰よりも大事で、大好きだったお母さんが、亡くなった時に。
天国へいったお母さんの魂と共に、なにか私の中の大切な部分が、どこかへ飛んでいってしまったのを、感じましたから。
それからの私は、
逆らわず、選ばず、望まず。ただ目の前に用意されていた道を、進み続けました。
この胸にある虚無感は、反動なのかもしれないです。
子供の頃の私って、それはもう、なりふり構わずだったから。
11の時、お母さんが重い病気にかかって。
12の時、その莫大な医療費を払う為に、AMS研究所の“被検体”になって。
毎日毎日、よく分からない実験と、知らない変なお薬を飲まされる辛さにも耐えて。
そして、リンクス候補生として選ばれた14の時まで、必死で生き抜きましたもの。
どれだけ痛くても、苦しくても。頭が割れるくらい痛んでも。
日を追うごとに、頭の中に霧がかかっていき、私の記憶や大切な思い出が、どんどん思い出せなくなっても。
私は、お母さんさえいればよかった。
お母さんの病気が治るなら、生きていてくれるのなら、それだけでよかったんです。
けれど、私がまだリンクス候補生としての訓練を受けていた時、もうすぐリンクスになって会いに行けると思っていた矢先……お母さんの訃報を知りました。
その日、私は“半分死んだ”のだと思います。
泣くとか、悲しむとか、そういうのはありませんでした。
私にはもう、そんな上等なことは、
人間らしい心や、綺麗な身体なんて、とうの昔に失っていたのですから。
いえ、お金欲しさに売り払ったと言う方が、正しいかもしれませんね。
それから私はリンクスとなり……初めて貰った報酬金で、お母さんのお墓を建てました。
貧乏だったとは思えない位、大きくて立派な墓を。
たくさんの花で飾り、人を殺してきたばかりの両手で、ひとり祈りました。
それで、終わりです。
私がやりたかった事や、人生の目的のような物は、
「……胸にあるのは“罪悪感”。
このような女ですいませんと、クヌギくんに申し訳ない気持ちです」
きっと、初恋だったでしょうに。
これは大人になっても、ずっとずっと覚えているような、大切な思い出なのに……。
けれど、ごめんなさいクヌギくん。
いくら可愛かろうが、健気だろうが、私には大切になんて想えない。
そんな上等な感情、
既に私は、半分死んでいる人なのだから。
あるとしたら、「こんなにも良い子の顔を、冷めた目で見つめている」という、自分自身への嫌悪でしょうか?
いつも君と一緒にいる時、私が一体どんな事を裏で考えているのかを知れば、きっと君は失望することでしょう。
ただただ私は、機嫌を損ねないように。ミッションの時もランチの時も、気分よく過ごして頂けるように、それだけを意識して君と接しているんですよ。
君は知らないでしょうけど、大人は仮面を被るんです。
誰かと接する時、それに適した仮面を使い分け、上手くやるための術を持っている。
私のような
だってそうしないと、
どうです、上手だったでしょう? 私のお芝居は。
君はあまりにも幼く、人を見る目が無かった。
これは、ただそれだけの話。
今後、君の人生で数多く経験するであろう、“些細な間違い”のひとつです。
この経験から、君が何を学ぶかなど、私には知る由もありません。
きっとその頃には、「もう二度と会わない」って関係性になっているでしょうから。
でも願わくば、この経験から学んだ事を、今後なにかに活かして貰えたら幸いです。
こんな人の情も解さないような、救えない女も、この世界には沢山いるんだって事を。
ご安心下さい。少なくとも私、
君がリンクスとして遥か高みへ行く、その一助にはなってあげる事だけは、出来ますから。
それでどうか、ご容赦いただきたく思います。
私は君の僚機であり、周りに沢山いる大人達の中のひとり。それ以上でも以下でもありません。
まあ、この僚機契約とやらも、
精々いまの内に、稼がせて貰わなければ。
これはパチスロにおける確変と一緒で、泡沫の夢みたいな物。
ずっと続くだなんて、そんな甘い話は無い。
楽しい時間っていうのは、あっという間に終わるように、出来ているんですよ。
だって、こんな特殊で歪な状態を、他の者達や企業が、許しておくハズも無い……。
なんたって、野心の化け物ですからね。ここにいる人達は、みんな。
「あぁ、お空を飛びたいな。ヴェーロノークに乗って……」
ふいに、心がふよふよします。
ここではないどこかへ、この身体を地上に残したまま、飛んでいきます。
思えば、あの15の時から、私はずっとふよふよしていますね。
目的も無く、どこへ向かうでも無く。雲がお空を漂うようにして、ただ生きている。
けれど、たまに無性にネクストに乗りたくなるんです。
今日みたいな日は、身も心も、全てお空に委ねたくなる。
ただ、飛んでいたい。ずっとふよふよしていたいんです。何も考えずに。
仕事の事も、お金の事も、そしてクヌギくんの事も。
「この
私とは違うんですよ、クヌギくん――――」
ズキリ、胸が痛みます。
何気なく、そう口にしてみた途端、刺すような痛みが走りました。
もう半分しかない心なのに、まーだ律義に痛むんだなって、ちょっと不思議な気持ちでした。
【おねぇさんが、ひつようです】
先ほどの手紙にあった一文が、頭をよぎる。
何か不思議な“糸”が、私のふよふよと揺蕩う心に絡みつき、必死に繋ぎ止めようとしている。
どこかへ飛んで行かぬよう、ここに留まるよう。
けれど……この悲しい世界において、言葉なんて糸が、果たしてどれほどの強度を持つものか?
それを、これからクヌギくんは学ぶ事になるのかと思うと、また気が重くなりました。
Q. これは連載ですか?
A. いいえ、短編です(真顔)