今回のミッションは、キタサキジャンクションを占拠する“ネクスト機2体”の撃破。
敵の詳細は、
なんでも状況を把握する前に、20秒足らずで現地の部隊が全滅し、確認のしようが無かったそうな。
分っているのは、所属不明のネクスト反応が2つある、という事実のみ。
本ミッションでは、細かなミッションプランは無し。全てこちらにお任せ。
敵ネクスト2体の破壊し、その反応消失の確認を以って、ミッション達成とする。
ついでに言えば、いつもの依頼とは違い、なんかやたらと綺麗な青空の映像と共に、「貴方であれば、良いお返事を頂ける事と、信じています」という一言が添えられていた、という事くらいですか。
なにやら得も知れぬ圧力と、背筋が凍るような感覚をおぼえましたが……、まぁ然したる問題では無いでしょう。
たとえ敵が何であれ、詮索することに意味はありません。
傭兵は、ただ言われるままに、ミッションを遂行するのみなのです。
「……ふぅ」
頭の中で、今日の依頼内容を整理しながら、身支度完了です。
朝ごはん(もやし)も食べましたし、洗い物も済んでいる。
正直、私のリンクス人生史上、最高に重い足取りでの出勤となりました。
気分は良くないし、いつも以上に頭がふよふよしているのは、否めない所。
けれど、時は待ってくれない。やると決めたらやるだけ。顔を洗って気合も入れましたしね。
後は鞄を引っ掴み、姿見でササッと髪を整えれば、いつでも出掛ける事が出来ます。
けど。
「?」
ふと、タンスの上に置いてあった“髪留め”が目に入ります。
おっと、いけないいけない。忘れる所でした。
私はそれを手に取り、何気ない手つきで付けようとしましたが……。
「……」
途中で手を止め、そっと元の場所に戻します。
まるで高価な宝物に対してするような、無駄に丁寧な置き方。そして何かを振り切るかのような、名残惜しそうな手つきで。
別に意識しての事では無かったのですが、自然とそうなっている事に気づいて、また少し気分が沈みました。
「行きましょう……。これが私の、最後のミッションです」
先の事を考えるのは、まだ早い。
この身はまだリンクス、あの子の僚機なのだから。
あの話をするのは、ぜんぶ終わってからで良い。
今はただ、目の前の事だけ。
ミッションをどうこなすかだけを、考えるとします。
◆ ◆ ◆
「よぉ、肩の力抜けよ。らしく無いじゃないか」
自動操縦モードでの、オーバードブースト巡航中。
ふいにプライベート回線で送られてきたらしき無線が、コックピットでひとり思考の海に沈んでいた私の意識を、この場に戻しました。
「ガッチガチだぜ? 今日のお前さん。
さっき、一緒の方の手足を前に出して歩いてたからな。
最初期のACでも、あんな動きはしねぇさ」
いくらリンクスだからって、お前までロボになる事はないだろ。
そうロイ・ザーランドさんの温かな声と、クスッという苦笑が耳に届きます。
「あはは……お恥ずかしい。
少しミッションの事を考えていまして。
気負い過ぎですかね?」
「いいって、俺も事情は知ってるんだ。
今くらい楽にしとけ。誰も聞いちゃいない」
昨日の今日という急なお願いだったというのに、快く依頼を引き受けて下さったロイさん。
今日はクヌギくんに加え、私とロイさんという三人でのミッションです。
敵ネクスト反応が2体という事ですし、それをやる為に数で上回っておくのは、至極当然の事。
まぁ本来、そうする予定があったワケでは無いのですが……。
クヌギくんも、少し驚いていましたね。
今日は出発する前、軽く面通しをおこなったのですが、ロイお兄さんがガレージに現れた時は、頭の上に“はてな”を浮かべていましたから。
ロイさんが持つ、傭兵としては珍しい位の人当たりの良さもあり、すぐに仲良くはなっていたようですが、今日は三人で行くという事に、クヌギくんは少し戸惑っているようでした。
ちなみにですが、今回の件は、メイさんが話を通して下さいました。
あと一度のミッション、あと一日とはいえ、裏で蠢いている者達は、もう既に動き始めている。
ロイさんの参加は、それに対する備えであり、また少しでも早く二人に打ち解けて貰う為。
加えて、いきなり僚機を交代するのではなく、まだ私がいる内に“引き継ぎ”を済まそう、という意図も含まれています。
こちらの事情や、私達を取り巻く状況については、既にロイさんはご存じの様子。
もしかしたら、むしろ私の方が理解していない位かもしれません。これまで周りの事など気にせず、二人でのほほんとやって来ましたから。
当事者である私よりも、外にいるロイさんの方が、見える物も多いのではないでしょうか? 彼は独立傭兵ですし、あまり企業とのしがらみも無い(はず)ですしね。
「お前さんも災難だなぁ。
何したってワケじゃねぇのに、こんな事になっちまって」
「いえ……。
それに、私が考え無しだった事も、原因かと思いますし」
「そっか? お前さんに落ち度があるようには、とても見えねぇな。
ゴチャゴチャしてるのは、周りの奴等だよ」
気遣うでも、慰めるでもなく、ただありのままを告げるというような、ロイさんの口調。
「いったい何が悪いんだか。
優しいお姉さんと、ちんまい子供が、仲良く一緒にいる――――
それが気に食わねぇって言うんだから、連中の方がおかしい。
考えるまでも無いさ、エイ=プール」
平坦で、感情の乗らない声。
けどだからこそ素直に心に届く。そんな言葉でした。
「つか、難しいのは分かるが、普段通りでいけよ。
お前さん、あからさまに
目が泳ぎまくってたぞ」
「えっ!?」
嘘っ!? そんなハズは!!
思わず前のめりになります。無線なのに。
「視線は合わさねぇわ、一歩引いて立つわ、会話は短く切るわ。
いくら辞めるからって、子供にそりゃねーだろ。不安にさせちまうよ」
「す、すいません、無意識です……。
私じゃなくて、ロイさんとお話して貰おうと……」
「確かに引き継ぎの時は、そういうのもあるけどな?
辞める時は、前もってワザと辛く当たり、部下に嫌われておく。
前任のことを引きずってたら、後任のヤツに付いていけねぇからって」
けど、これからミッションだろ? クヌギの心を乱してどうするよ……。
そう嘆息と共に、窘められます。
「
ションベンしに行ったら、そこで声も出さず、一人で泣いてやがった。
僚機を交代する話は、まだしてないってのに……。
お前さん、心当たりはあるか?」
息を、のみました。
一瞬、目の前が真っ白になり、何も考えられなくなる。
そんな、まさかと、信じられない気持ち。
でも……。
「髪留めを……して来なかった。
クヌギくんから、誕生日に貰ったのですが……それを今日は、敢えて」
「……」
「さっき、聞かれました。『今日は付けてないの?』って。
そしたら私、なんかテンパッて……咄嗟に言っちゃったんです。
血の気が引く、というのは、一体いつ以来でしょうか。
白一色だった視界。でも今は黒。
ドス黒い物がどんどん胸に湧いて来て、私の心をどこかへ押し流す。
「い、良いよ良いよって……。またプレゼントするって……。
そう、笑っていました。笑ってくれてたんですっ!
――――でもっ!! アレはっっ!!!!」
無言。
少しの間、静かな時が流れました。
クヌギくんの笑顔、あの時の気遣い。いじらしさ。
そして、私は見ていないハズなのに、ハッキリと目に浮かぶ、泣き顔。
それが何度も何度も、頭の中を駆け巡る。
なんて事を。取り返しの付かない事をしたという想いが、潰れそうなくらい胸を刺す。
けれど、暫しの時が経ち、やがて私が多少なりとも落ち着いて、嗚咽の声が止んだ頃。
それを見計らったように、また無線が届きました。
「もういい、今はやめとけ。
なぁに、心配すんな。俺がなんとかしてやる」
成り行きだったかもだが、今日は来て良かったよ。腕の見せ所だ。
そうロイさんの、柔らかな声。
「これからミッションだ。
お前さんもクヌギも、マイブリスが守る。
だから、いけるよな?」
「……はい、ロイさん」
美人の涙が最優先、ってな。
もっとも、俺的にはメイちゃんの方が……。おっぱいもデカいし。
そんな呟きが聞こえ、無線ごしだというのに、殴りたくなりました。
◆ ◆ ◆
「ヴェーロノーク、目標を視認しています」
「マイブリス、準備出来てるぜ」
ジャンクションとは名ばかりの荒野。
古び、壊れ、今にも崩れそうな道路の上に、私達三人が降り立ちます。
「俺とクヌギが前衛、ヴェーロノークが後衛だな。
突っ込むか、クヌギ?」
「うんっ!」
元気の良いお返事。子供特有の無邪気な声。
「レーダーの反応は2つ、情報通りです。
作戦を開始しましょう。……ご武運を」
「うん! おねぇさんも気をつけてね、たよりにしてるっ♪」
いつも通り。先ほどの私の失態や、その心の内なんて、おくびにも出さない。
この子の健気さや、優しさを想い、またチクリと心が痛みます。
でも、今はそんな事を言っている場合じゃない。私は僚機なんです!
ヴェーロノークがフワリと浮き上がり、ポイントに到達。即座にASミサイルを発射。
それを合図に、その自動追尾の軌跡を道しるべに、クヌギくんとロイさんが機体を走らせます。
ブースターが唸りを上げ、矢のように駆ける。
入り組んだジャンクションに潜み、遠く眼前に待ち構える、2体の不明ネクストのもとへ。
「――――ふむ、3機か。
思ったより少ないな」
轟音。ASミサイルが着弾。
けれど、その爆炎の中を突っ切って、一体の白いネクストが、大空へ飛び出して来ました。
「侮られたものだな、私とアステリズムも。
確かお前、
「っ?!?!」
ハイレーザーライフル、の光線。
それが咄嗟に動いたヴェーロノークの肩をかすめ、彼方へ。
PAなど無いかのように、紙みたいに貫いてみせた。その威力に背筋が凍ります。
というか……、私に!?
前衛の【AN BREAD MAN】も【マイブリス】も無視して突っ切り、一直線に私の方へ!?
「良かったのか、もっと連れて来なくて?
簡単に死なれると、興覚めなのだが」
「うっ!!」
続けざまに、レールキャノン。被弾。
躱すどころか、目視出来るスピードじゃない。泡を食ってる間に成す術なく喰らい、機体が激しく揺れる。
なんですかこの人……女の子?
私を……狙っている!?
そりゃあ私も、リンクス歴は長いですし、大抵のリンクスとは顔見知りではありますが……。
でも、
機体はオーメル、アルゼブラ、アスピナあたりの混成。武装はユニオン製。この際ごちゃ混ぜなのは良いんです。
でも明らかに軽量機なのに、武装ガン積み過ぎるでしょう?!
ハイレーザー、レーザーライフル、PMミサイル、レールキャノンって、どれだけ欲張り! 殺意に満ち満ちてる!
しかも、何ですかその機体速度は! そのメチャメチャな立ち回りは!
もうどうやってもカツカツそうなENや、操縦性や安定性にツバを吐くような重武装を、無理やりOBの速度でカバーするなんて!
いくらAMSとリンクする私達とはいえ、そんな芸当が出来るワケが無い! こんなピーキーな機体を乗りこなす人なんて、私は見た事が無い!!
たとえ彼女が喋らなかったとしても、分かる。
きっと、ひと目この機体を見ただけで、理解してたと思います。
この女は――――イカれている!!
絶対かかわっちゃ駄目なヤツじゃないですかヤダー!!
「まぁ良い、さっさと終わらせる。
私の目的は、お前では無いのだからな」
レーザーやPMミサイルを必死こいて躱す。半泣きになりながらQBをバシュバシュ。
けれど、時折飛んで来る、極太のハイレーザーがヤバイ!
これには死んでも当たってはいけない! 生き残る為にやってるのに、矛盾していますが、とにかくアレだけはいけない!
技術や知識のみならず、もう勘とか運とか神頼みまで総動員して、ひたすら逃げます。
私のASミサイルはロックオン不要の武器。逆に言えば
全て自分自身の腕を以って、相手を捉え続けなければいけない。
ミサイルでの攻撃はともかく、そうしなければとても躱せない! 一瞬で墜とされてしまう!
でも苛烈! 悪魔みたいに!
矢次に、しかも緩急を以って飛んで来る四種類の攻撃が、瞬く間に私の精神を削っていく!
焦りと、恐怖と、絶望が、どんどん心を覆っていく! 埋めつくしていく!
「ほう、よく躱す。凡愚では無いな。
曲がりなりにも、選ばれし者……という事か」
なんか言ってますけど、気にしてる余裕が無い! 私は精一杯です!
腕が痛い! 目が霞む! 脳が焼切れそう!
AMSから頭に流れ込んでくる光が、台風の日の用水路みたいに荒れ狂っている!!
「――――おねぇさんっ!!」
突然、この場に乱入してきたクヌギくんが、あの白い機体に向けてASミサイルを発射。
これは、あの日いっしょに買った肩武装。私達の思い出の品。
けれど、それすらもあの女は振り切り、一瞬にして私達の視界から消える。
「きゅ……キュニュギきゅん。もうちょっと待っててネ……☆
わた、わたたたた……、わたちが幸せにしてあげまちゅからナ(ドモリまくり)」
え?
「さささっき、ケーキの仕込みをしておいたモジャ!
き、キュニュギきゅんは、甘いもの好きか? 二人で食べよよよよよ……」
……誰?(キョトン)
確かに声は、さっきの人のハズなのですが、明らかに挙動不審というか。
有り体に言って、人見知りの喪女みたく。
「い……いちっ! イチコ゛ッ!
イチゴのケーキなんだっ! くぬっ! くぬぬぬぬっ! クニュギぎょん!!!!」
ぎょんて(真顔)
どうやら白い機体のリンクスは、クヌギぎょんを前に、凄くテンパッていらっしゃるようでした。理由は知りませんけど。
「え、ケーキ?
たべないよ、そんなの! おねぇさんをイジメないでっ!」
「ッ!?!?」ガーン
ものすごくイノセントな声が、キタサキジャンクションの空に響き渡りました。
そのプリプリと愛らしい“おこ”に、どうやら白い機体のリンクスは、ショックを受けたご様子。
なんかピキーン! ってネクスト固まってますもん。
「そ……そんな!?
何故そんなこと言うんだクヌギきゅん!?
私と結婚するって、誓ったじゃないか!」
「えっ」
「えっ」
続けて、ものすごく必死な女の子の声が、この荒廃した世界の中心で、高らかに木霊します。
「胸がすくような青空と、入道雲がそびえ立つ、そろそろツクシが顔を出そうかという春先!
ここで結ばれたカップルは、永遠に幸せになれると言われている、伝説の木の下で!
君から好きだと言ってくれたんじゃないかっ!
あ、こじらせていらっしゃる(察し)
きっとこれは、あの子が脳内で描いた妄想で、既に現実との境目が曖昧になっているんだな~というのを、容易に察する事が出来ました。
多いんですよねぇ、こういう人。正直この世界って
「二人でお花屋さんを開こうって!
庭にブランコのある、小さな白い家に住もうって、約束したじゃないかっ!
私のお腹には、いま新しい命が宿っているんだぞ! 君の子供なんだっ!」
や か ま し い わ 。
想像妊娠ではなく、
賭けてもいいですが、絶対この人、クヌギくんと会った事もないハズです。
写真とか映像とかを、どこかで個人的にかき集め、それをお部屋でひとり眺めながら、幸せな妄想に耽っていたのでしょう。怖いわ。
「いやっ……確かに君とは
でも、これからそうなる事になっている! だからこれは実質リアルなんだ!
私は頭がおかしくなんてないぞ!」
な に を 言 う と ん ね ん 。
なんか現実と戦ってる感じは伺えるのですが、でもそれを力づくでなんとかならないかな~ってしてる所が、
「とととっ……ということでぇ! 迎えにきたぞクヌギきゅん☆
私と一緒に、アチュラチュ新婚生活をおくろう!」
「やだ!(即答)」
「 ぐふう゛ッッ!!!! 」
白いネクストが、リアルに仰け反るポーズ。
AMS適性が高いと、乗ってるネクストまでリアクションを取るのかと、奇しくも学びました。
「なにいってるの! おかしいよこの人!
ねぇエイプーおねぇさん、おかしいよね!? へんだよっ!」
「ぐわーーっ! ぎゃあああああっ!!」
「なんなの、この人!? あっちいってよばか! ばか!
みたことないけど、ぶす! ぶすぶすぶすぶすぶs
「――――おやめなさいクヌギくんっ! 死んでしまいます! 死んでしまいます!」
白いネクストが、蚊のようにヒュ~! と落下していきます。
何にもしてないのに。言葉のグーパンだけで機能停止しちゃったようです。
高すぎるAMS適性の弊害(適当)
「ふ、ふふふ……。流石はクヌギきゅんだ♪
こんなにも私の心を揺らす者など、他にいようハズも無い!」
「ええ風に言わんといて下さい」
ネクストの膝がガクガクガクー! なってますけど、白い機体がなんとか立ち上がり、再び私達と向かい合います。
「現実がナンボのもんだ!! 私はクヌギきゅんと結婚するぞ!
いや、もうしていると言っても過言ではn
「なんて残酷な世界なのでしょう。このような人を生み出してしまうだなんて……」
それが、我らの咎だ。ってやかましいんですよ。
「とにかく、エイ=プールだ。
私が喪女なのも、美人なのにモテないのも、全てはお前のせいだという事にして、全力で屠るとしよう。そうしよう。
――――おい! バッカニア!!」
「わかってる、やる事はやるわよっ!
約束は守りなさいよ、ジュリアス・エメリー!!」
お得意の現実逃避に呆れたのも、束の間。
バシュウ! という轟音と共に、突然こちらに向けて放たれる二本のレーザー。
それは、慌てて回避した私達二人を分断。
即座にまた別のネクスト機が、この場に割り込んで来ました。
軽タンク!? しかも腕武器!?
あらゆる武器を格納出来るという、タンク特有の長所をドブに捨てる、この絶対やっちゃいけない系アセンの機体は! フランソワ=ネリスさん!?
「あぁ、憶えているとも。
私がハグ&だっこで、貴様がクヌギきゅんの足を舐めるんだったな」
「ちゃうわ! ファーストキスよ!
ショタっ子相手に、そんなこと出来るかぁ!」
ドン引きされるわアホ! まぁして良いならやるけど!
そんな恐ろしい事をサラッと言いつつ、フランソワさん操るAC【バッカニア】が、クヌギくんに襲い掛かりました。
「ショタっ子ばんざぁーい! たとえコジパンされようとも、生きてさえいれば勝ちよ!
幸せなオネショタライフが、私を待ってるわっ!
さぁ壊しなさい! ACなんかどーでも良いのよ! ヒャッホー☆」
「気合の入った変態ですね。それ100万C以上するでしょうに」
もしネクスト機に、黄金聖衣みたく意志が宿っていたなら、きっとフランソワさんが乗るのを拒絶するでしょうね。間違いありません。
とにもかくにも、フランソワさんがクヌギくんに突貫。
せっかくの腕武器レーザーを決して撃つこと無く、ただ回避に専念する事によって、なんとかあの子を引き付けています。
すなわち、私達二人の分断に成功。再びこの場は、私vsジュリアスさんという構図に。
「さて、邪魔者……というには愛おし過ぎるが、また二人になれたな。
お前を倒してクヌギきゅんを貰う。
いや“取り戻す”と言った方が良いか?」
「運命とか前世とか、持ち出さないで下さいね?
貴方がたのお家芸でしょうけど」
信じれば必ず願いは叶う、という言葉がありますが、これはあらゆる意味でクソだと思います。
その真偽はともかくとして、絶対この人たちに言っちゃいけない言葉ですから。現実を見て欲しい。
「おや、随分強気じゃないかエイ=プール。
これから死ぬにしては、いささか過ぎた態度じゃないか?」
「死人は出ませんよ。信条に反します。
たとえネクストを墜とされ、機能停止に追い込まれたとしても、リンクス自身が死ぬとは限りません。
コジマ汚染の事もありますし、確かに救出作業は難しいのですが、でもやってやれない事は無い。私はいつもそうして来ましたから。
「それは……私に対してか?
強がりじゃなく、本気で言っているのなら、その気概は買うが」
「貴方はもっと、ネクストのことを学ぶべきです。
才能やAMS適性だけで、長くは生きられませんよ?」
おもしろい――――と小さな呟き。
それと共に、爆ぜるような勢いでジュリアス機が飛び立ち、同時にハイレーザーを発射。
私は落ち着いてQBを吹かし、スッと横に回避しました。
「散々逃げ回って、観察しましたからね。
やはりその機体では、私に勝てない。いくらなんでもピーキー過ぎます」
空へ。ふよふよと飛ぶ。
ここが私の世界。何者にも囚われず、捉えられない場所。
なまじ長くリンクスをやっているが故、そのあまりに変態的で、思わず心配になっちゃう程のアセンには面喰らいましたが、もう大丈夫。
見えています。全部。
周りも、貴方の動きも、思考も、感情も、未来も、その全てが。
「……ッ!?」
ASミサイル発射。直撃3。
光のように素早いジュリアス機が、いくつもの爆炎に包まれます。
「……ッ?! ……ッ?!?!?」
発射、至近弾2、直撃6。
彼女の機体よりも、遥か上空から絶え間なく放たれるASミサイルが炸裂していきます。
連続して響く爆発音。それはあたかも音楽のよう。テンポ良く放ち、リズム良く当たる。
私は天に、彼女は地に。
私の手のひらの上で、ジュリアスさんが必死に踊る。
「かっ……躱せん!! こんなッ!?!?」
開幕10秒で、優勢を築けなかった時点で、貴方の負けなんですよ。
だから言ったでしょう? ピーキーだって。
いくら貴方でも、EN管理の問題は如何ともし難い。
一度や二度ならともかく、いつまでも延々と矢次に放たれるASミサイルを、回避し続ける事が出来ますか?
たとえ避け方を知っていても、
撃つたびに大量のENを消費する、その強力無比なハイレーザーが、私にはただの足枷にしか見えない。
そしてせっかくのレールキャノンも、撃てなくては意味が無い。貴方の愛機はもう、酸欠でゼーハーしているのだから。
一時的にでもブーストを切り、EN回復に努めましょうか? そうして必要最低限の動きで、ASミサイルを回避する事は出来るでしょう。
でも少しでも貴方の動きが鈍れば、私は即座に上のポジションを取る。今度は絶対に躱せない角度から乱射され、しかも貴方の射角から外れてしまうのです。
ゆえに、貴方はブーストを切ることは出来ない……。それをしたら
これは拳であり、相手を絡めとる糸。
そう相手の動きを制限する……いえ
二兎追う者は一兎も得ず、です。
動きたいのか、撃ちたいのか、そのどちらかにしなきゃいけません。
学ぶと良いです、天才さん。業突く張りは地獄に落ちる――――
ヴェーロノークこそが
「……私か、侮ったのは」
あの位置から見れば、恐らく“太陽の中”にいるであろう私のヴェーロノークが、最後の被弾によって機能停止に追い込まれたジュリアス機を見下ろします。
天と地。それは正に勝者と敗者を表している。とても分かりやすい構図の光景となりました。
「すまんな、みんな。準備を抜け出して来たのに。
クヌギきゅんの○○○を、■■■してみたかった……」シュン
最後の言葉は、聞かなかった事にしてあげます。
せっかく命が助かったのに、これ以上あの子に罵られたら、本当に死んでしまうかもしれませんし。武士の情け。
とにもかくにも、アステリズム……でしたか? 撃破完了です。
後方支援のハズなのに、思わぬタイマンになってしまいましたが、これを僚機の鑑とも言うべきメイさんが見たら、きっと何とも言えない顔をする事でしょう。
あのフランソワさんはともかく、アステリズムは所属不明機という事ですが、その正体を気にしても仕方ありません。
傭兵は、ただ黙して依頼を遂行するのみ。それが私達の本分なのですから。
「――――おねぇさぁーーん!」
「おや? そちらも型が付きましたか。流石ですね」
ふと見れば、遠くからこちらに向かってくる、クヌギくんの【AN BREAD MAN】の機影が。
タンクとはいえ軽、しかもひたすら上下左右に逃げ回る相手を“とっつく”のは、並大抵のことでは無いでしょうに。
それでもクヌギくんは、有り体に言って瞬殺だった私と同じくらいの時間で、かの【バッカニア】を墜としてみせたワケです。
正直、やはりモノが違いますね……。
先ほどはジュリアスさん相手に、偉そうな高説を垂れましたが、この子には逆立ちしても勝てる気がしません。
願わくば、これから彼がどんなリンクスとなり、どのような功績を打ち立てていくのかを、見ていたくはありましたが……。それを言っても詮無い事。
私はゆっくりと機体を旋回させ、まっすぐにクヌギくんの方へ向き直りました……が。
「っ!!??」
彼の機体と共に、目に飛び込んで来た物を認識した途端、即座にOBを吹かしました。
「いけないクヌギくんっ!!
私にこんな声が出せたのか。そう自分でも驚くほどの声。
けれど、それでクヌギくんが回避してくれるのを期待するというのは、虫が良すぎます。
なんたって、あの子は撃たれたことに気付いていなかった。既にすぐ背後に迫っているのだから。
今から「後ろ後ろ!」と告げた所で、キョトンと振り向いた直後にドゴーン! です。
コジマエネルギーを使用した巨大ミサイル、通称コジミサが、クヌギくんの赤いネクストを、おぞましい緑色に染める事でしょう。
「こなくそっ……!」
ASミサイル発射、だが無意味。コジミサ健在。
こんな時、マシンガンのひとつでも持っていればと、悔やんでも悔やみきれません。
いつもランクマでは、散々相手に弾をばら撒かれ、それによって自身の放ったミサイルを撃墜されているというのに。
学ぶべきは、あの白い機体のリンクスじゃない。私の方だったんです。
ゆえにもう、私に出来るのは。
「おねぇさん? ……んっ!!??」
全速力で突っ込み、彼をその場から弾き飛ばすこと、それのみでした。
「おっ――――お金があぁぁぁあああーーっっ!!!!」
とても情けないことを叫びながら、私のヴェーロノークが被弾。緑色の爆発に包まれます。
咄嗟の瞬間に浮かんだのが、ヴェーロノークの“修理費”って……。
金は命より重いと言いますが、どうやら私は筋金入りだったようです。
そりゃあ、あの酒場でも煙たがられますよ。救いようが無い。
「お、おねぇさんっ!? うわぁぁぁあああ!!!!!」
けれど……クヌギくんは助かりました。
救いようがない私だけど、クヌギくんを救えたという、よく分からない事に。
でも、何よりです。この上なく嬉しい。
いま凄まじい機体への衝撃と、荒れ狂うAMSからの光で、まったく周りの状況なんて分かりませんけど。
それでも、本当に良かったって……。
「ふっ! 油断しましたねエイ=プール。
オペレーターを雇う金をケチったことが、貴方の敗因です」
今にも遠のきそうな意識の中、聞き覚えの無い男性の声が、無線機から。
トチった! 三機目だ! あのユニオンの年増ぁ!
「ヴェーロノークは、この【鎧土竜】が討ち取ります。
でも冥途の土産に、教えてあげましょう。
ショタっ子を愛するのは、
――――ホ モ だ ぁ ぁ ぁ あ あ あ ー ー っ っ !!!!
もし私が元気ならば、そう絶叫したでしょうが、残念ながら瀕死の身。口を開くこと叶いません。
あぁ……この世界は本当に、どうしようもない。
滅んでしまえば良いのにとか思う私は、いけない子なのでしょうか?
「クヌギくん、ちょっと下がってて貰って良いですか……?
君にとっつかれたら、この人は逆に
「えっ、でも(困惑)」
もーめんどくさいなぁ! でも仕方ないなぁ!
そうボッコボコの身体に鞭を打ち、なんとか操縦桿を握り直します。
だって、クヌギくん子供ですもん。こんな変態の相手させらんないです。
ホントは目に入れたくもない(辛辣)
「くたばりゃあーーっっ!!(ASミサイル乱射)」
「ほげぇーーっっ!?!?!?」
滅 殺 ☆
チュゴゴゴゴーーン! と連続した爆発音が鳴りました。
私は近年稀にみるタイムで、彼ご自慢の鎧土竜とやらを撃破したのです。
残念ながら、これに関しては、なんにも書くべき見所がありません。ホモホモホ。
「今日は厄日です……。
いえ、これも因果応報という事でしょうか……?」
「だいじょうぶ!? しっかりしておねぇさん!」
おりこうに待っててくれたクヌギくんが、私のヴェーロノークに寄り添ってくれます。
あんなに酷いことをしたのに、心を踏みにじったのに……それでもこの子は心配してくれる。優しくしてくれる。
ふいにそれを想い、ホモへの怒りで高ぶっていた心が、また沈みそうに。
コジミサを喰らい、ボッコボコのヴェーロノーク。同じく悲鳴をあげている身体。
未だに意識を保っていられるのは、この子が悲痛な声で私を呼んでくれているから、でしょうか?
「――――終わったようですね。
けれど、またしても突然。
「まさか、本当にキタサキジャンクションに、不明機がいるとは……(ボソッ)
とにかくエイ=プール様には、ここで果てて頂きます。理由はお分かりですね?」
もう勘弁して下さい……そう泣いて頼みたい気分。
「問答無用だわ、弁解の余地無しよ」
「どうせ、やっちゃうんでしょ? 話しても仕方ないわ」
「所詮は“ノンケの女”だァ。我々の言葉は解さんだろう」
「私達は甘すぎたのだ、エイ=プールに」
「そうリザ。さっさと始末しとけば良かったリザ」
「殊勝な羊ね? わざわざ
痛みと痺れに軋む首を動かし、ギギギっと顔を上げてみれば。
そこにあったのは、OBでこちらに向かってくる、
声にも姿にも覚えが無いネクスト……というワケでも無いのですが、でも全ての機体のヘッドパーツが、統一されている。
有り体に言うならば、なんかとんがりコーンというか、【KKKの三角の覆面】にも似た頭部。
それを被った……いえ装着した怪しいネクスト7体が、いま悠然とこの場に降り立ったのです。
一見して、「こいつらはヤバい集団だ」というのが、ハッキリ理解出来る風貌。
その取って付けたような頭部以外は、みんなどことなく既視感がある機体構成していますけど。レイテルパラッシュとかアンビエントとか。
「おい貴様ァ、
「――――なんで知ってるんですか!? 情報早すぎません?!?!」
情報網がすごい! 行動早ッ!?
この組織(?)の力の一端を、否応なしに思い知らされます。無駄に。
「ゆえあって、残念ながら一名は、欠席しているがァ……。
まぁ、あの緑のヤツは、オネショタ八人衆で最弱。
クヌギきゅんの姉という、縁故で入れてやったに過ぎん」
「そうリザ、問題ないリザ。
あのマイブリスとかいうのも、
「――――ロイさぁぁぁあああーーん!!??」
なんか姿が見えないと思ったら、すでに墜とされていた?!
このワケの分からないお姉さま方に!
「では、“ショタっ子泣かせ罪”により、貴様を誅殺する。死に方用意せよ」
「さりとて、慰めにもならんがな。
ショタっ子の涙は、クレイドルより重い」
「万死に値する、ってヤツよ。覚悟なさい」
「クヌギきゅんは、私と遊びましょう。
このリリウm……いえ“ショタッ子を見守る淑女の会”の書記である私が、お相手します」
その後、数機がかりで成す術なくボコられた私は、半死半生にされた上、とんでもない修理費の借金を抱える事になりました。