「ヴェーロノーク、目標を確認しています。作戦を開始しましょう」
――――エイプップ、メイ・グリンフィールドよ。
アンタがこれを聞いてるんなら、私は既に死んじゃってると思う。
きっと、あの変態淑女どもに破れたんでしょうね。
ロイさんも、喪女板からは生きて戻れない。
クヌギの保護者同盟は、アンタ一人きりになったって事よ。
お願い……。私の替わりに【ショタっ子を見守る淑女の会】を壊滅させて。
アレを倒せば、喪女達は最後の拠り所を失い、全ての人は大地に還るわ(?)
衛星軌道掃射砲とか、クレイドル問題とかは、ぶっちゃけ知った事じゃないけど……。
とりあえず彼女達の罪は清算され、マンネリ化やクヌギの一強状態で閉塞感があったオネショタ界隈も、宇宙への
可愛いエイプップ。守護天使ヴェーロノーク。
ぜんぶ、アンタに託すわ。
共に戦ったリンクス達と、うちらの弟の為に――――
パチリと、音が鳴ります。
愛らしい飛行機を模した髪留めが、私の前髪に、しっかりくっ付きました。
これを失くした時は、大慌てしたものですが、本当に見つかって良かった。
夜通し探し回った末に、ベッドの隙間に落ちていたのを見つけたのですが……。それを拾い上げた途端、私は気を失いましたからね。
あそこの職員さんが言う所によると、髪留めを大切そうにギュッと握りしめたまま、床でグースカ眠っていたようです。
「……」
姿見に映る、私の姿。
その表情は無。何も映していないかのような目。ガラス玉。
熱は、感じないんです。大一番の前だというのに、滾ってはいない。
けれど、強い衝動を感じる。私の一番深い所から。
コップを手に取るように、やってきた電車に乗り込むように。
きっと私は、何も考えず戦場へ向かうのだと思います。
ただ、そういうモノだから。私はそういう風に出来ているから。
けれど、いつもとは少しだけ、心の在り方が違う。
この髪留めは、きっとその証なのでしょう。
「ヴェーロノーク……貴方もなの?」
雨が、降っていました。
出撃を前に、野外で待機するヴェーロノークに、強い雨が打ち付けている。
その頭部……いえ目の辺りから、まるで涙を流しているかのような筋が。
ササッと身支度を整え、この子の所へやって来た私は、暫しの間、その姿に見入っていました。
「うん……馬鹿だったよね、私。
なんで、あの子から離れたんだろう――――」
あの病院の屋上で感じた、心を引き裂かれるような痛み。
やめろ、離すなと、何度も私の中で警笛が鳴っていたハズなのに……。
でも耳を塞ぎ、私は去った。あの子を裏切った。
ゆえにこの現状は、私が撒いた種なのだと思います。
優しい人に背を向け、たくさん傷付けて、見て見ぬふりをして……。
馬鹿な私は、たくさんの過ちを犯した。今ならそれが分かる。
手を離しちゃいけなかった。何が何でも、しがみ付かなきゃ駄目だったのに。
ぬくもりや、絆を、私は解さなかった。
それがどれほど大切な物なのかを、理解しなかった。
いつも己の中に逃げ込み、見たい物しか見ずに。
きっと、「私にそんなあったかい物が得られるワケない」って、信じることが出来なかったんだと思います。
どこかで軽んじていた。人の情など、私にはどうでも良い物だって、小馬鹿にさえしていたんです。
なんの事はない。ただ怖かっただけ。
私はクヌギくんから、逃げたんですよ――――
「自業自得、アタリマエ。
もう取り返しはつかない」
ヴェーロノークの青は、お空の色。
今は、悲しみの青。
けれど、やる事がある。まだ身体は動く。
なら行かなくてはならない。ケジメだけは、しっかり付けたいから。
『そこにいるのか、相棒?』
やがて、出発の時刻が近づき、私がヴェーロノークのコックピットで、シートに身体を預けていた時。
『こちらは準備万端だ、いつでもいける。
しかし、こんな事を言うのはなんだが……』
無線の声。
AMSによる脳内のモニターにジュリアスさんの姿が映る。
『お前、残る気はないか?
馬鹿ばかりだが、頭数だけは居る。戦力としては充分だ。
あとは、私とアステリズムに任せておけばいい』
唐突で、意外な言葉でした。
ジュリアスさんでさえも、なにやら言い淀んでいるかのような、自信なさげな声。
『私はアスピナ機関にいたからな……。
今のお前みたいなヤツを、たくさん見てきた。
あのCUBEとかいう男とは、比べものにならんほど重傷だ。
立って歩いてはいたようだが、中身はボロボロだろうに。
お前がまだ普通に喋っている事すら、私からすれば信じられんよ。
そうジュリアスさんが、真剣な眼差しで。
『必ずあの子を連れ帰る。同志のお前に誓うよ。
だから、ここで待っていろエイ=プール』
これは、“優しさ”なのでしょうね。
私が今まで、目を背けてきた物。羽虫を潰すみたいに、踏みにじってきた物……。
またチクリと胸が痛みます。ジュリアスさんの真心が、私を苛む。
きっと彼女は「無粋だ」と感じている事でしょう。私が、そして自分ならばどうするかなど、武人である彼女には分かり切っているハズだから。
それでも言ってくれた。私を想ってくれた。
そのお心遣い、今度は決して忘れません。心に刻もうって思う。
「……」
そして、余談にはなりますが……。この「行くな」という言葉を聞いた途端、ふと先ほどヴェーロノークの方に直接来ていた“ある通信”の文面が、頭をよぎったんです。
これは、私の知らない人物からのメッセージ。
もう出発直前という、このタイミングで届いた物でした――――
【よぉ
【ようやく鳥籠から出たらしいな? お宅さんの事は、よく知ってるぜ】
【てめぇは“狂人”だ。それも
【だからこそ、仲間に入れてやっても良い、と思った】
【――――今からクレイドル03を襲撃する。付き合わないか?】
【ORCAの連中は、ぬるくてよ。革命なんざ、結局は殺すしかねぇってのに】
【お前ご無沙汰なんだろ? 鬱憤を晴らしに来いよ。楽しいぜ?】
……
…………
……………………
きっとコイツは、たくさん殺すでしょう。
何万、いや何億という人間を。ただ欲望のままに。
これが届いたのは、つい30分ほど前のこと。
“今から”と書いていあったから、恐らく決行は今日なのでしょう。
途轍もない規模の被害が出る。大変なことになる。今すぐ誰かが行って止めないと。
けれど。
「――――行きましょうジュリアスさん。
私はそれを黙殺し、AMSを起動させました。
◆ ◆ ◆
「うわぁーーっ! ぜんっっぜん動かせねぇ! 思い通りいかねぇぇぇー!!」
「www」
「wwwwww」
ダン・モロさんのテンパった声に、メンバーが爆笑。
いま私達は、曇ってるんだか汚染されてるんだか分からないような薄暗い空を、OBで巡航飛行している所です。
AC6機で編隊を組むのって、なんかカッコいいですよね。
「めっちゃフワフワする! バシューン横QBするぅ!
つかあの人、こんなのに乗ってたのかよ?! パねぇ!!」
前述の通り、いまダン・モロさんはホワイトグリントに搭乗しています。
かの英雄を象徴する機体であり、ダンモロさんのセレブリティアッシュとは全く別の、乗り慣れないAC。その操作感の違いに、だいぶ戸惑っているご様子です。
垂直推力に特化したMB、そしてQB性能に重きを置いた殺人的なSB。そりゃあダンモロさんが驚いちゃうのも無理はないです。
例えるなら、バトミントンの羽にでも乗っているような心地でしょう。
「私からすれば、『お前が何に乗っとんねん』って感じですけど。
あのFCSでブレードを握るなんて、宝の持ち腐れですよ?」
「ふむ、あの高級FCSか。
セレブリティアッシュはクッソ弱いが、アレだけは欲しいくらいだ」
「わはは!
精進しろよ若ぇのぉーッ!」
「コジマが俺に『もっと輝け』と囁いてイル――――」
四苦八苦しながらグリントに乗っている彼を、微笑ましく見守ります。
私達のACも内装をイジったとはいえ、純粋なパワーアップだったり微調整だったりですので、もう乗り慣れたもの。
今も「ぎゃー!」とか「うおーっ!」とか叫んでるダンモロさんを余所に、のほほんと飛んでいる感じ。
「なんならCUBEさんと代わります?
彼だったら、上手に乗りこなせるかと」
「プランD、いわゆるピンチですね(乗り物酔い的な意味で)」
「ヤだよ! 渡すかよバカ!
そもそもフラジールなんか、もっと乗れねぇよ俺ッ!!」
「明日が見えなければ、俺とアクアビットに付いてコイ」
どれだけ機体に振り回されようと、決してホワイトグリントを降りようとしないダンモロさん。向こう見ずな憧れなのでしょうが、そういうのも大事なんじゃないかと思います。
腕なんてものは、後からついて来る。大事なのは“乗り続ける為の動機”です。
アセンや調整ではなく、自分の方を機体に合わせる。
私やCUBEさんや有澤社長といった、特化形のACに乗るリンクスは、みんなそうですし。
ちなみにですが、さっきから会話の流れをガン無視して何か言っているのは、アクアビットマンさんです。
彼はこの非常に濃い面子の中でも、特にロッケンロールな人物。“自分の世界に生きる人”とでも申しましょうか。
基本的に
「というか、よく見れば私以外、全員“実弾系”の武装だな。
なぁ相棒、EN武器は好かんか?」
「いえ、そんな事はありませんよ? ……ただ使えないというだけで(死んだ目)」
「俺は……どうだろ?
前はブレード使ってたけど、それ以外はミサとライフルだかんなぁ~」
なにやらプク~っと頬を膨らませているかのような、ジュリアスさんの声。
誰しも武装には拘りがありますから、この場で自分だけ~というのが、きっとお気に召さないのでしょう。
「俺ぁ、EN管理ってヤツが下手でよぉー?
そんなの使ってたら、ロクに動けなくなっちまわーな! がっはっは!」
「バシュバシュQBを吹かす、そのためのフラジールです(弱々しい声)」
「ふん、実弾厨どもめ。
EN管理は腕の見せ所だろうに。甘ったれおって」
「ひとつだけ言える事がある――――男はコジマに染マレ」
ハイレーザー強いのに……(シュン)
そうしょんぼりするジュリアスさんを、まぁまぁと慰めます。
貴方とアステリズムの強さは、身を以って知っていますよ、と声をかけながら、仲良く隣同士で飛びます。
どーでも良いのですが、アクアビットマンさんの武器腕(コジマライフル)もEN武器のハズなのに、何故かカウントされていませんでしたね。
ジュリアスさん的には、「こんなヤツと一緒にするな」って事なのでしょうか?
「ほら見て下さい、ジュリアスさん。
あれがEN管理を疎かにした者の、末路です」
「おー、歩いてる。アクアビットマンめっちゃ歩いてる」
「通常ブーストすら出来ねぇって、どんだけだよカツカツだよ」
その貧弱なジェネレーターと、馬鹿みたいに消費ENが激しいフレームのせいで、アクアビットマンさんはOBも出来ません。そして空を飛ぶどころか、通常ブーストすら5秒くらいで息切れし、こうしてゲッションゲッション歩く羽目になっているです。
その姿を惨めに思うも、いちおう彼も戦力の内ですので、私達は彼と速度を合わせるべく、頻繁に足を止めるのでした。
アクアビットマンさんを先頭にし、駅伝でもやっているみたいに列を作って走る(足で)
恐らくは、こういう事態になるだろうと思い、それを見越して早めに出発しましたので、ミッション予定時刻には問題ない……ハズです。きっと。
「俺を称えタイ? このPA整波性能に跪ケ――――」
「誰もそんなことは言ってない」
「お前はPAより、ジェネをなんとかせぇ」
「その武器腕なかったら、ホンマいてもうてんぞお前」
というか、なんか
みんなでランニングしてる感じですし、まるで部活でもやっているような気分。まぁACに乗ってるんですけども。
無駄に「ふぁいおー! ふぁいおー!」言いながら。
「よぉエイプー! 帰ったら一杯奢りだぜぇーッ!
分かってるよなぁお前~?」
「えっ」
でも唐突に、キルドーザーさんが一言。
なんかみんなも、うんうん頷いてる雰囲気ですし……なんで!?
「そらそーだろ、コレお前に付き合ってんだから。
最初の一杯くらい当然だぜ」
「なんたって、貧乏人のお前に身銭を切らせるんだぁーッ!
さぞ旨い酒に違いねぇーッ!」
「遠慮はいらんぞ相棒、ねぎらえ」ワクワク
「ちょ」
じ、ジュリアスさんまで。あの友情は幻だったんですか? 私は愕然とします。
けど……。
「お前ダン・モロ旅団とか言ってたけどよぉ。
今日は俺らが、
たまには良いだろエイプー? こういうのも」
「ええ、これまで散々サポートして頂きましたし。
今日はこのフラジールが、貴方を守りましょう」
「なんでも解体してやるからよぉーッ! 任せとけエイプー!」
「っ!」
息が、詰まりました。
いま聞いた言葉が、信じられない。一瞬理解出来なかったんです。
スピーカーから、楽し気に笑うみんなの声。
それを茫然としながら、遠くに聞く。
同時に、なにやら目にじんわりとした感覚。だんだん視界が滲んでく。
……なぜ?
「寝食は共にしたが、酒を飲んだことは無かったな。
帰ったら飲み明かそう。私もカルアミルクなら飲めるぞ(←お子様舌)」
「今宵くらいは、ハード&ワイルドなコジマで眠りな(?)」
あったかい声、楽しそうな笑い声。
私はおめめをグジグジ、鼻をズズッとする。
こんなの、今までしたこと無かった……。もうどうして良いのか分からない気持ち。
なんで――――こんなに嬉しいんですか。
何故そんな言葉を、くれるんですか。
私なのに。疫病神のエイ=プールなのに。
でもみんな、優しい。
知らなかった……。こんなにも
「い、いーですよチクショウ! 奢りますよっ!
お水でもなんでもやって! 脱ぎます!(錯乱)」
「待て」
「落ち着け」
「誰がそこまでしろと」
私って研究所帰りですし、ネクストという資産以外は一文無しですからね。
でもまぁなんとかなるでしょう、先のことは後で考えます。
とりあえず、今はこのミッションの事だけ。
今まで決して無かった、大事な大事な“楽しみ”を胸に、戦う決意を固める。
「そろそろ作戦エリア上空です。
準備はよろしいですね皆さん?」
「はぁい↑ そのつもりです(蚊の鳴くような声)」
「おうよ! ダンモログリント、いけるぜ!」
「キルドーザァーッ! ばっちこいだぁーッ!」
「
「アステリズム了解、
6機のACが、一斉に加速。雲をひき、横並びで飛んでいく。
眼下には、数多の敵影。数えきれないほどのMTやノーマルが。
「――――ミッション開始。
まずは淑女の会・本部守備部隊を、全て排除します」
けど、なんてこと無い。私達は“リンクス”だ。
世界を焼き尽くし、秩序を破壊した力、ここで見せてあげます。
◆ ◆ ◆
「――――アクアビットマンが死んだ!」
「「「 この人でなし!! 」」」
爆速のフラグ回収でした。まさかMTの群れにやられるとは……。
「すまない、限界ダ! アクアビットマン撤退スル!
コジマの美学は、隠れキリシタンの信仰に似ル――――」
「いいから帰れよオッサン」
「気をつけてなー」
「あ、居酒屋予約しといてくれます? よろしく~」
まぁ歩いてますものね、ENカツカツ過ぎて。
それでは敵の弾を回避出来ないし、寄ってたかってボコられちゃうのも、無理はないでしょう。
でもせっかくの武器腕コジマライフルを、まさか
発射回数がたった二回とはいえ、その破壊力には期待してたのですが……。
なんとミッション開始から30秒、ボスに辿り着く前に雑魚にやられるという、残念な結果となりました。アクアビットマンよ、永遠なれ!(適当)
そんなこんなは、ありつつも……。
「オラオラー!」
爆音。MTが炎を上げて爆散。
その傍らには、ライフルを二丁持ちするダンモログリントの姿が。
「うおっ、BFFの突ライすげぇ!
つか、こんなすぐ倒せるもんだったかよ……。
いつも
「貴様は本当に残念な子だなぁ」
ジュリアスさんの嘆息を余所に、ダンモロさんが悠然と空を飛びながら、弾丸の雨を降らせていきます。
以前の機体とは違い、グリントは上昇にこそ特化した機体。まるでダンモロさんが操っているとは思えない程フワフワと空を飛び、瞬く間に敵を殲滅していきます。
いま握っているライフル&アサルトの優秀さや、ダブ鳥の火力もあり、まさにMTやノーマルなど鎧袖一触といった様子。
これがダンモロさんだなんて思えない(2回目)
一応は不慣れな機体という事もあり、未だグリントの操縦には四苦八苦しているようですが……。でもそのフラフラとした不安定な動きや、時折わけの分からないタイミングで発動する前後左右のQBが、うまい具合に敵の弾を散らしている。
思わず「おっ!」と唸らせるような、神回避を見せる事もしばしば。
流石
彼が曲がりなりにも、これまで生き残ってきた理由の一端を、ここにきて知ることが出来ました。
凄い……まるでエースみたい。
ダン・モロが役に立つだと!? 私は夢を見ているのか?!(失礼)
「よいしょおぉぉぉーーッッ!!!!!」
そして地上では、豪快にミサイルやグレネードをぶっ放すキルドーザーさんの姿。
ジェネレーターが強化された事に加え、武装の軽量化によって機体速度も上昇。
そのOBを交えた突進は、これまでとは見紛う程のスピードです。
「だっしゃあああぁぁぁーーッッ!!!!」
そして、彼の代名詞である“とっつき”が炸裂。クエーサーと呼ばれる巨大兵器を一撃で粉砕。
これは、以前【レッドバレー突破支援】などのミッションで見た事がある、とても頑強な敵。私達の武装では中々倒せないくらいに。
けれど、そこはキルドーザーさん。いま両腕に輝く、かの親友より受け継いだ“KIKU”の圧倒的な破壊力が、物凄いスピードで地上の敵を掃討していきます。
お世辞を抜きにして、「もうコイツ一人でいいんじゃないかな?」と。
ねぇ知ってます? この人カラードランク最下位なんですよ。信じられないでしょう?
地上最強はグレートウォールじゃない、うちのキルドーザーさんなのです。
「気分良いぜぇーッ!
たまにゃあ解体以外の仕事もアリだなぁぁーッ!! ハッハーッ!!」
頼りになる。とても頼もしいです。
まるでお互いの背中を預け合うように、二人で地上部隊を殲滅していくダンモロさんとキルドーザーさんを、私はお空からふよふよ見守ります。
なんか老人が若者を見る時の気持ちというか、妙な感慨深さを抱きながら。
「ヤツら任せておいて問題なかろう。
私達は空だな、アスピナの」
「ええ先輩。手早く片付けるとしましょう」
そして、新旧アスピナリンクスのコンビが、とんでもない速度で空へ飛び立って行く。
「光栄です、まさかあのジュリアス・エメリーと共に飛べるとは。
しっかりデータを取らせて貰いますよ」
「好きにしろ。だがついて来れるか?
私の真似が出来るものなら、してみると良い」
フラジールの連装砲によって、ヘリの部隊が瞬く間に落とされ、アステリズムのレールガンが巨大な航空機を貫く。
花火のように、連続して空に爆炎が咲く。たった二機のネクストが、この空を支配している。
まさに鷹のようでした。
「当たるか、
両機によって左右を挟撃された飛行型AFイクリプスが、何も出来ないまま一瞬で撃破される。息をするようにAFを墜とす。
当然です。主砲レーザーなんて、あの二人に当たるワケが無い。
図体ばかり大きな親鳥は、黒煙を上げて地に還っていきました。
『企業のネクストだと……!? チキショウ! こんな時に限って!』
『効いているのか……?』
『PAだ! プライマルアーマーを減衰させるんだ!』
無線から、敵部隊らしき方々の声。
その慌てふためく様子が、目に浮かぶよう。
『撃てぇ! 撃ちまくるのっ!!』
『通常兵器では太刀打ち出来ないわ! 応援はまだなの!?』
『くそぅ、私達をゴミのようにっ……!』
『教えてやれ! 勝敗を決めるのは、覚悟の差よ!(オネショタ的な意味で)」
でも不思議なことに、何故かどれも
そういえばここ、淑女の会の本拠地でしたね。
つまり、コイツ等は喪女という事。スミカ・ユーティライネンです(´・ω・`)ノシ
「どうだ、楽しんでいるか相棒?」
「ええ、壮観です。
さしずめ、全てを焼き尽くす暴力……といった所ですか」
ジュリアスさんの楽し気な声に、フフッと笑って応えます。
ネクスト6機による強襲。こんなド派手で情け容赦ない光景、なかなか見られませんから。
ま、既に一機墜とされてますけどね……。
いなくなってしまった人たちのこと、時々でいいから…… 思い出してください(アクアビットマン的な意味で)
とにもかくにも、私はヴェーロノークの肩から「ほいっ!」と三連ロケットを発射しつつ、地に蠢く哀れな蟲達を、お空からふよふよ見下ろします。
「喪女共め、追い詰めて肥溜めにぶち込んでやります――――」
「なんか、お前が言うと怖い」
オネショタ死すべし、慈悲は無い。
メイさんは守護天使と言ってくれましたが、今のヴェーロノークは“堕天使”です。
散々ナンヤカンヤされた恨み、ここで晴らすとしましょう。ナムアミダブツ!
◇ ◇ ◇
「鼠が6匹ほど、入って来るようだなァ。忌々しい……」
例のトンガリ覆面を被ったセレン・ヘイズが、忌まわし気に眉を歪める。
ここは本部中枢。地下深くにある作戦本部である。
ぶっちゃけ、エヴァのNERVにあるソレを想像して頂けると、大変分かりやすく思う。
いいか、俺は面倒が嫌いなんだ。
「基地が燃える。君の国が無くなるやもしれん。
この施設も、物も、人も、全て君の物だったのに……」
「だが問題ない、君は我ら“淑女の会”が守る。
安心すると良いぞォ、クヌギきゅん」
煌びやかな装飾が施された、王様の物と見紛うほどの椅子。
それに腰かけ、死んだ目で虚空を見つめているクヌギの方へ、セレンがローブを翻しながら振り向く。
固い床の上を、コツコツとブーツの音を鳴らしながら歩き、彼のすぐ傍へ。
そして、常軌を逸したグルグルのおめめで、愛おし気にクヌギの顔を見つめる。
「そして、楽しみにしていてくれ。
私は君を“王”にしてみせる。
いずれ、この世の全てが、君の物になるだろう」
そっと手を伸ばし、頬を撫でる。
優しい手つき。だが汚らわしい手。
けれど、それにこの子が反応を返すことは無かった。ただじっと座り、あたかも人形のように動かずにいる。
「オネショタ・クレイドル計画――――
淑女の会で特別なクレイドルを建造し、そこで君と私達だけで暮らす」
「クヌギくん、この世界はもう詰んでいる。だからこそ救いが必要なんだ。
ショタっ子とお姉さま方の楽園……、全てを忘れられる
「その為ならば、私はなんでもする。
君に相応しい王国、笑って暮らせる世界を創造するぞ。
せめて、君が生きている間だけでも――――」
正直、
まるで宝物を披露する子供のように、キラキラした目でクヌギに告げた。
けれど……。
「あなたは、まだじぶんのヨクボーのために、悪いコトをするというの……?」
クヌギが口を開いた。
彼女らのもとに来てからというもの、ずっと貝のように口を閉ざし、どんなに高価な贈り物や豪華な料理を前にしても、決して喋ろうとしなかったのに。
「いままでより、もっとヒドイことを。もっとたくさんの人を……。
ぼくの心が、かわらないかぎり……同じコトをつづけるんだね」
フラフラと、彼が歩き出す。
セレンが茫然と見つめる中、何気なしに歩を進めたように見えた。
やがてクヌギが足を止めたのは、下が見えないほどの高所である断崖絶壁、そのすぐ前。
「また罪のないリンクスが、なんにんも死んでいく。
そんなこと……ぼくにはもうたえられないっ……」
「く、クヌギきゅん……? 一体なにをっ!?」
そして、セレンがそれを止める間も無く……。
「おねぇさん。
もういちどヴェーロノークと、とびたかった――――」
落ちていく。子供が。
まるで、天使のように。鳥が飛び立つようにして。深い深い崖に。
そして、もう決して手の届かない所へ……。
あの愛らしかった子は、永遠に失われてしまったのだ。
「……ッ!!??」ピシャーン
セレンは立ちすくむ。茫然と。
彼女の受けた衝撃を表すかのように、頭上に雷が落ちる(漫画的比喩表現)
「ば、馬鹿な……何故だッ!
何故、なぜ、ナゼ??? ……クヌギきゅん……」
つぅ……と涙が頬を伝う。
セレンはそれに気付かぬまま、虚ろな目で、眼下を見つめ続ける。
あの子が落ちていった、暗い地の底を。
「――――ユリアァァァアアアーーッッ!!!!(クヌギきゅぅぅぅうううん!!)」
……
…………
……………………
◆ ◆ ◆
「ふっ、俺達の敵では無かった」
「緩むなよ、若ぇの」
見渡す限り、粗方の敵を掃討し終わった私達。
僅かばかりの砲台や、既に炎上している倉庫や建物だけが、この場に残されています。
ダンモロさんのいつものビッグマウスを、親方的な風格を漂わせるキルドーザーさんが戒めます。
そんな歓談ムードを感じつつも、後方支援機である私は、周囲に気を配る。
気を抜くこと無くレーダーを睨み、ありとあらゆる予測を立てる。
「ここは淑女たちの本拠地、彼女らもリンクスだ。
これで終わりとは、とても思えませんがね」
「
通常戦力の防衛部隊など、やった内に入らんさ」
楽勝と言える戦闘、でもこれだけの数を相手にしたのです。弾薬の消耗も馬鹿にならない。
機体のダメージはともかく、確実に戦力は削られている。気力も体力もです。
私ならどうする? 次の手は?
何が来る。考えろ、考えろ、考えろ。
そうAMSの負荷によってクラックラしている頭で、必死に知恵を絞っていた時……。
『ゆりあー、りあー、あー、ぁー……(エコー)』
「っ!?」
「「「ッ!?!?」」」
遠くの方から、耳を疑うような大きな山びこ。
悲痛で、必死で、アホみたいな女の声が、こちらの耳に届いたのです。
「これ、人の声か……? えらい絶叫だが」
「ええ、いったい何ヘイズなんでしょうね(すっとぼけ)」
まさに、地の底から響くような。地獄の閻魔がガン泣きしてるみたいな、悍ましい声。
私達はお空で機体を制止し、暫しのあいだ恐れおののく。
何があったんだ、あのオバハン。久しぶりに体重計にでも乗ってみたんでしょうか?
「おい……なんだありゃ?」
ふと、その弛緩した空気を破る、ダンモロさんの呟き。
「光……? いや“火”が見えるぞ。
なんか沢山ある。星か何かみてぇに……」
ヴェーロノークの首を、頭上へ。
その場でふよふよホバリングしつつ、みんなでお空を見上げます。
そこにあったのは。
「――――
さっきの山びこにも負けないくらいの、ジュリアスさんの叫び。
ACを動かすことも忘れ、ただ茫然と佇む一同。
「な、なんて数だッ!
「来るぞ! ARETHAの大群が、ここに降りて来やがるッ!!!!」
まるで、あの悲痛な声に呼応したかのように。
いま私達の頭上には、かのアサルト・セルもかくやという数の
ミルキーウェイの星々が、流星となって全て降って来たみたいに。
あたかも、人類を滅ぼす為に遣わされた天使たちの如く、この施設に舞い降りて来るのです。
「じ……地獄じゃねーか」
こんなの、
いま目にしている物が信じられない。まったく現実感が無いんですもの。
震える声で呟いたダンモロさん。それは私達みんなの気持ちを代弁していました。
なんなのだ、これは。どうすれば良いんだと!
「関係ないのですか、これみんな
「余裕あるな相棒、頼もしいよ」
致命的な環境汚染を引き起こすという、悪魔の機体。
それに、あまりのモテなさに全てをかなぐり捨てた喪女たちが乗っているのかと思うと、なにやら私の口角が上がる。“半笑い”というヤツです。
これは【
きっと、乗ったらただじゃ済まないタイプのヤツなのでしょう。何かヤバい物に汚染される、命を捨てて乗る感じの。
そしてAMS適性ならぬ“オネショタ適性”が劣等な者は、乗れなかったりするんじゃないでしょうか? 「なにで動いとんねん」という話ですが。
『許さん……許さんぞォ!! 忌まわしいノンケ共がぁぁぁーーッッ!!!!』
そして、突然この場に響き渡る、天地を割るような声。
それと共に、途轍もない轟音を立てて淑女の会本部が崩れ、中から“巨大なAF”が姿を現します。
あれは――――【あねサラー】だ!
もう勘弁して下さいという心地!(本音)
『殺してやるッ! 皆殺しだ貴様らぁーッ!!』
『もう全部どーでも良いわ! くたばりなさいエイ=プール!』
『リザーッ!!』
セレン・ヘイズ。
ウィン・D・ファンション。
ミセステレジア。
リザイア。
『お前さえッ……! お前さえ居なければッッ!!」
『あの子を返せ! クヌギきゅんを返せッ!!』
『お腹の子はどーするんですかぁ!』
そしてシャミア・ラヴィラヴィ。
ステイレット。
腹に赤ちゃん・オルコット(?)
彼女達だ! あねサラーに乗っているのは!
あいつらリンクスの誇りもかなぐり捨てて、AFで攻めて来やがりました!(迫真)
そしてコレ……なんか私が知ってるアンサラーと、だいぶ違いますねぇ。
7人で操ってる事もあるのでしょうが、なんか妙にミニマムですし。造形も傘ちっくな物じゃなくて、出来の悪い聖母マリアみたいな見た目ですし。
どこか狂気を感じさせるような、おどろおどろしいデザインなんですよ。
「なんか私、
「逃がさん、お前だけは――――ってか?
大変だなぁエイ=プール」
なんか叫んではいるようなのですが、もうそれ声になってないというか。既に人語を喋ってない感じなんですよ。ジャイアンの歌みたく「ぼえぇ~っ!」としか聞こえない。
まさに地に墜ちた英雄、オネショタリンクスの末路って感じ。
「これを相手にするのは、流石にキッツイなぁ。
スリガオ海峡も真っ青の殲滅戦が、繰り広げられるぞ」
「もしくは、メタルクウラの大群ですか?
あれに勝るとも劣らぬ絶望感です」
もう笑うしかない、あの時の悟空さの気持ちが分かりました。
悠然と上空を舞っている、数えきれないほどのANETHAの群れ。そして遠くにそびえ立つ忌まわしいAFを前に、私達は動く事すら出来ない。
ただ身を寄せ合って、それを眺めるのみです。戦火で赤く染まったお空の下で。
「仕方ありませんね――――ここはフラジールが請け負います」
けれど、唐突に。
「やるだけやってみましょう。死なば諸共というヤツです」
どこかすかした感じの声が、無線から届きました。
「パートナー、私が途を拓きます。
貴方がたは【あねサラー】とやらの所へ。
それが、このミッションの目的でしょう?」
まるで現状が分かっていないかのような、いえあえて飄々としているかのような。
機械的で、己の命すら軽く見ているかのような、フラジールさんの態度。
「な、何を言ってやがんだテメェッ! んな事出来るワケ……!」
「そうだ! お前こんな時に、カッコつけたって……!」
「いえいえ、私は貴方がた下位ランカーとは違う。
出来ない事は口にしないタチだ。そのためのフラジールです」
シュンと、残像だけを残して、CUBEさんの機体がこの場から消えます。
極限まで空気抵抗を失くし、速さに特化したACは、止める間もなく空へ駆けて行きました。
向かう先には、日の光すら遮るほどの数のANETHA。
たった一匹のスズメバチが、ミツバチの群れに寄ってたかって嬲られる姿が、脳裏をよぎりました。
「いけないっ! 戻って下さいCUBEさんっっ!!」
空気の壁を破ってフラジールが飛んでいく。
見事なまでの連続QBで、天使めいたプロトタイプネクスト達の間を縫うようにして、ギザギザに飛行する。
「同類かと思いましたが……意外と情の深い。
貴方のそんな声を聞けるとは、ね」
初めて聴く、彼のクスッという笑い。真心のこもった声。
「実は、ある新型のパーツを積んできまして。
早くそれを試したくて、ウズウズしていたのですよ。
プランF、いわゆる“特攻”ですねwww」
ついに、フラジールが捕まる。
耳障りな音を立てて、群れの中の一機と接触してしまった途端、そこをラグビーのように沢山のANETHAに群がられ、巨大なひとつの団子のようになる。
ギガベースなんて目じゃ無いくらい大きな、ACの塊。そこら中から鳴っている金属が軋む音。
今その中心に居るであろうフラジールは……。
「幸の薄い人でしたが、貴方のことはキライじゃなかった。
――――おさらばです、エイ=プール」
閃光――――
その言葉と共に、世界が白一色に染まった。
◆ ◆ ◆
「アサルト……アーマー?」
黒煙を上げて落ちていくANETHAたち。
まるで、地上に降り注ぐ沢山の隕石のよう。世界の終わりを連想する時に、頭に浮かぶような。
「でもアレは……、あんなの……」
「あぁ、既製品では無いな。
恐らくは、アスピナが開発した新型なのだろう」
隣に居るアステリズムが、空を見つめている。
その中で、ジュリアスが静かに語ります。
「馬鹿げた威力だ……。
あんなペラペラの機体で、あれを使用するなど、正気の沙汰ではない。
人の命など微塵も省みぬ、実にアスピナらしい兵器だな。まさに“特攻”というワケか」
プロトタイプネクストすらも、一撃で葬り去る威力。その効果範囲。
けれど……その爆心地にいたフラジールは? CUBEさんの身は?
そんな分かり切った事、この場の誰も口にしませんでした。
「ヤツが途を拓いた、この機を逃せば死ぬぞ。
感傷は後にしろ」
でなければ、ヤツは無駄死にだ!
そう叫び、アステリズムがOBを吹かす。
「お……おうよっ! こんなトコでボサッとしてられるか! とにかく前だ前っ!」
「アイツも言ってたろうッ! あねサラーだッ!
突っ込むぞエイプー!!!!」
即座に仲間達も追従。四機が飛び立ちます。
未だ私達を取り囲むようにして空を舞う、数多のARETHAたちをすり抜けながら。
「どけぇ!!」
「くそったりゃあああぁぁーーッッ!!」
グリミサとグレネードが、
私達は一塊の弾丸となって、一直線にAFのもとへ。
『無駄だァ、虫ケラ共ォ。
いくら喪女が乗っているとはいえ、3桁のACに勝てるものかァ』
『そうリザ。お前らを殺し終わったら、今度は企業の連中リザ』
『あの子が居ない世界なんで、どうでも良いわ!
どうせ壊死するだけなら、スッパリ息の根を止めてやろうじゃない!』
遥か向こうから、長射程のレーザー砲。
それを弾け飛ぶようなQBで回避しつつ、忌まわしい声に耳を傾ける。
『無駄だ、運命を受け入れろッ!
貴様らは滅ぶのだッ! このANETHAによって!!』
『ええそうです。
ここの地下、淑女の会本部、施設最深部にある、巨大なマザーコンピューター。
あたかも
ウケケ! ウケケケケ!
淑女たちの狂った笑い声が、高らかに響きます。
それを余所に、ダンモロさん&キルドーザーさんが。
「おい、聞いたかエイプー?」
「お前ちょっと地下行ってこい。ここは俺達でやっから」
『『『――――しまったぁぁぁあああーーっっ!!!!』』』
なんか、あねサラーが「ガビーン!」みたく、後ろに仰け反りました。
7人で操っているんでしょうに、まったく器用な事です。
「ナイト役はお前だ、しっかりエスコートしろよ?」
「ふん、言われるまでも無い。
承ったぞ、男共」
ジュリアスさんが私の前方に回り込み、ハイレーザーを発射。
征く手を塞ぐANETHA達を蹴散らします。
「い、いけない! ミニマムサイズといえど、AFですよ!?
あんなのにかなうワケが……!」
「出来る出来ねえじゃねーんだよ。
俺らを気遣うんなら、さっさと行けっての」
「その方が助かるなぁーッ!
お前さんがふよふよしてると、グレネードが撃ちづらくて仕方ねぇーッ!!」
お膳立てとばかりに、キルドーザーさんが私の前方に迫るANETHA達に、グレネードをお見舞いする。
その巨大な爆炎によって、一直線に本部までの途が開かれました。
「カラードのリンクスも、中々捨てた物では無いな。
すぐ戻る、それまで持ちこたえろ」
「そっちもなぁジュリアス嬢! 頼んだぜぇーーッ!!」
隣を飛行するアステリズムが、無理やりヴェーロノークの手(武器腕)を引き、強引に進路変更をさせる。
それにより、有無を言わさず本部へ連れていかれます。
私の抗議の声など、まったく意に介さずに。
「だっ……ダメですよ二人とも! やるんなら私もっ!
ダンモロさぁーん!! キルドーザーさぁぁぁあああーーん!!!!」
◇ ◇ ◇
「なぁ……アンタを呼ぶ時の方が、声デカくなかった?」
「がっはっは! 日頃の行いだなぁ若ぇの!!」
やがて、エイ=プール達二人が、この場を飛び去った後……。
この場には、しょーもない事で言い争いをする二人だけが残された。
「いや俺リーダーじゃん! ランクあんたより上じゃん!
ここは俺を大事にすべきなんじゃねーの!? つか俺が受けたミッションだしコレ!」
「んなこと言ってねぇで、行くぞぉダンモロぉーーッ!!
一世一代の大舞台だぁぁーーッッ!!」
男冥利に尽きるってもんだぁぁーーッ!
ちょ、待てよオッサン!!
そうゴチャゴチャ言いつつも、ダンモログリントとキルドーザーが、ついに眼前へと迫ったAF【おねサラー】に突貫。
勢いよくOBを吹かし、並んで二機が飛び込んでいく。
『カラードの最底辺がァ! 跳ねっかえりおってェ!!
この【おねサラー】に勝てるものかァ!』
『そうです!
機体の中心部、ちょうどアサルトアーマーを充電中のエネルギー球、そのちょっと上らへんにある傘の根元の部分を、とっつきでもしない限り!』
ウケケケ! ウケケケケ!
喪女たちの嘲り笑いが、既に深刻なコジマ汚染に見舞われた空に、楽し気に響く。
「――――だっしゃー!!(とっつき)」
『『『うぎゃーーっっ!!!!』』』チュゴーン
一瞬にして内部から爆散。淑女の会が誇る新型AFが、ガラガラと音を立てて崩れ去る。
おねサラー、破壊確認。
『ま……まだだァ! 我々には切り札があるゥー!』
『そうリザ! こんな事もあろうかと、もう一機AFを用意しておいたリザ!』
『名付けて、【スピリット・オブ・オネショタウィル】よ!
倒せるもんなら倒してみなさいクズ共!』
『ですです! オネショタ・ウィルは墜ちません!
機体の正面にある、筒みたいな射出用カタパルト二本、そして前にせり出したヘリポートちっくな部分を、全て破壊でもされない限りは!』
「――――よいしょーい(グリミサ)」
『『『ら゛めぇーーっっ!!!!』』』チュゴーン
満を持して投入された、彼女達の切り札たるAFも、出てきた途端
乗っていた彼女達は……どうなんだろう? いちおう「総員、地上装備! 退避しろォ!」とか聞こえていたけれど。
「おいオッサン……、ここは普通、負けるトコなんじゃねーの?」
「俺もビックリだわ。
まさかダンモロとキルドーザーで、
ガラガラと崩壊する敵AF二機をボケ~っと眺めつつ、野郎二人のACがホバリング。ふわふわとその場に佇む。「こんな事あるんですね……」って感じだ。
「ま、AFはともかく、コイツ等は許してくれそうもねーけど……」
「もう俺達は弾切れだしなぁ~。
後はあの二人に任せるとしようや。お疲れさん」
ふと見れば、空から悠然とこちらへ向かってくる、大量のANETHA。
その数えるのも馬鹿らしくなるほどの絶望的な光景に、二人は苦笑する。
きっと、自分達2機がANETHAに群がられ、ついばまれたパンのように解体されていくのに、さして時はかからんだろうなぁ~、なんて思いながら。
「お前さん、ちょっとだけエイプーの事……好きだったろ?」
「 んんんな事ねーしっ!! これヒーロー的なヤツだし!?!? 」
◆ ◆ ◆
防衛部隊が、全滅? 20秒足らずでか!?
そんなジェラルドさんの声が、聞こえたような気がしました。
「ッ!!」
天井に張り付いているレーザー砲台を、アステリズムのレーザーが次々と破壊。
そこら中にうようよ居るMTやノーマルも同様です。全てジュリアスさんの手によって、見敵必殺とばかりに撃破されていきました。
ここは、淑女の会本部の地下施設。
言うなれば初代AC~3系でよく見るような、施設内探索ミッションの様子を想像して頂けると、たいへん分かりやすいかと思います。
いいか、俺は面倒が嫌いなんだ(二度目)
「すごい……ネクストってこんな動きが出来るんですね」
先ほどまでの動揺はどこへやら。ただただ今は感嘆するのみです。
あれだけ「私も残る」と、ジュリアスさんにダダをこねていたというのに。
目の前にあるゲートのロックが解除された途端、即座に襲い来るガードメカ達の攻撃。APを削ってやると言わんばかりの、制作者の悪意すら感じる、雨あられの砲撃。
けれど彼女は、それを全く意に介さず、まるで時代劇の
変な例えですけれど……「コイツやりこんでるな」って感じ。いったい何百回トライ&エラーを繰り返せば、こんな上手に出来るのでしょうか?
この人には未来でも見えてるんじゃないかって、そう思わずにはいられない程、完璧な立ち回りでした。
「相棒、お前は弾を温存しておけ。私がやる」
リズム良く、連続して鳴り響くレーザー音。レールガンの独特な発射音。
そんな中、ジュリアスさんが平然とした声。
「こんな狭い場所で、ミサイルやロケットは悪手だからな。
それに……なにか嫌な予感がするんだ」
薄暗い屋内、悪意に満ちた敵の配置、何より“淑女の会”という狂った組織。
ただでさえ、ここに居るだけでゴリゴリ精神が削られるような場所ですが、それのみならず、彼女の戦士としての勘が、危険を告げているのでしょう。
進む、ただひたすら道なりに。
嵐のような敵の砲撃をかい潜り、その全てを行きがけの駄賃とばかりに撃破しつつ、私達は進み続けました。
脳裏に浮かぶ、残して来た仲間達の姿に、後ろ髪を引かれながら。
「これは……コジマエネルギープラント?」
やがて施設の下層へ向かって進む内、私達の眼前に、緑色の光を放つ巨大な装置が。
この場を包む静けさと、得も知れぬ悍ましい雰囲気。そしてAMSより警告されるAPの自然減衰。
今この場には、高濃度のコジマ粒子が充満していることが、容易に見て取れました。
「喪女共め、このような物まで……。
一体どこから資本を得ているのやら」
「まぁ喪女なんて、この世界に腐るほどいますからね。
支援には事欠かないのでしょうが……」
きっとこれが、淑女の会の持つ軍事力の源。
そしてこれこそが、世界を汚染しようが破壊しようが、ショタっ子をキャッキャウフフしたい! という欲望の具現なのでしょう。
「とにかくジュリアスさん、先へ進みましょう。
マザーコンピューターとやらは、また別の場所にあr
「――――えい!(速射)」
「ちょ」
私がヴェーロノークの踵を返し、来た道を戻ろうとしたら、レールガンの発射音が。
次の瞬間、施設内にけたたましくアラームが鳴り響きました。
高濃度コジマ粒子発生、直ちに避難せよと。
な、何をしてるんですかジュリアスさん! こうなる事は分かってたでしょう!?
きっと、思わずトリガーを引いちゃったんだろうし、その気持ちは痛いほど分かりますけれど、今そんな事をしている場合じゃ……。
「ぬ。プラントの破壊によって、
こりゃもう出られんな」
「――――おいジュリアスさんッ! お前ホントお前!(語彙力喪失)」
ガッシャーン! と大きな音を立て、私の背後にある出入り口が封鎖。
コジマを生成するプラントなだけあって、その頑強さは言わずもがな。たとえネクスト級の火力であっても、破壊するのは困難なほどの頑強さが窺えました。
私は良いんです。既に踵を返し、通路に入っていましたから。
でも閉じられた隔壁の内側には、未だジュリアスさんが!
「何してるんですかジュリアスさん! 早くハイレーザーを! 隔壁をっ!」
「すまん、弾切れだ。
あれ装弾数6発しか無くてな、パージしてしまったよ」
無線から、のほほんとしたジュリアスさんの声。
けれど隔壁の閉鎖と、コジマ粒子の充満によって、どんどん音声にノイズが混ざっていきます。
「おっと、三連ロケットは撃つなよ?
こんな閉所で使えば、お前もただでは済まんぞ」
「なっ、なにバカなこと言って……! ふざけないで下さいジュリアスさんっ!」
「言ったろう? 力を温存しておけと。
お前は施設最深部に向かい、マザーコンピューターを破壊しろ。
きっと、そこにあの子もいる」
これを壊せば、マザーコンピューター(略してマザコン)とやらも、ワンチャン止まるかと思ったのだが……アテが外れたよ。
行ってくれエイ=プール。後はお前に任せた――――
そういつも通りの声で。
自分の命なんか、
プラント内のコジマ粒子の濃度は、こことは比べ物にならないハズ。
きっと瞬く間にACを浸食し、乗っているジュリアスさんの生命を奪うことでしょう。
生まれて初めてです、“怒り”で目の前が真っ赤になったのは。
もう思考すらも赤く染まり、パクパクと口を動かす事しか出来なくなった。
山ほど言いたい事があるハズなのに。このアホンダラに、ありったけの罵詈雑言を叩きつけてやりたかったのに。
でも……。
「生きて会え――――それがお前の責任だ」
その一言に、息が止まる想いでした。
「笑ってくれなかった。一度も。
やはりお前が必要だよ、エイプーおねぇちゃん?」
……
…………
……………………
やがて、優しかった声は途絶え、無線はノイズに覆われました。
それを私は茫然と、暫しの間、ただ聞いていた。
隔壁の内側から伝わる衝撃と、空気の揺れ。そして大きな爆発音が轟くまで。
◆ ◆ ◆
『――――引キ返セ』
汗ばむ手で操縦桿を握り、機体を走らせる。涙を撒き散らしながら。
『抵抗ナド、モハヤ無意味ダ』
ただひたすらに。
視界が滲んでも、関係ない。AMSが脳に映像を送ってくれるから。
『無駄ナ事ハ、ヤメロ』
『ソレ以上、近付クナ』
『マダ、間ニ合ウ――――』
きっと、これはマザーコンピューターの物なんでしょうね。
さっきから煩いくらい、施設の最深部へ進めば進む程、声がしているんですよ。
『世界ヲ、秩序ヲ破壊スル……。
ソレガ、オ前ノ望ミナノカ?』
『私ハ、必要ナノダ。
ダカラコソ、私ハ生ミ出サレタ』
『
タトエ、ソレガ幻デアッテモ』
――――やかましいわ、という話でした。
えらい大層な、世界の裏ボスちっくな演出ですが、オネショタて。
私は声をガン無視し、全速力でOBを吹かす。
管理者だがマザコンだか知りませんが、お前ぜったいボコボコにしたるからな。そう決意を固めました。
ダンモロ旅団の仲間達のことを思えば、もうメンタルはグシャグシャでしたが、逆に闘志が湧いて助かったまであります。はらわた煮えくり返ってますケド。
そして。
「どっせーい!!」
突進の勢いを以って、道を塞いでいたゲートをぶち破った時、とても大きな広間に出ました。
そこは、これまでのせまっ苦しい物とは違う、明らかに特別な感じのする場所。
私は一旦ブーストを切り、ふわりとヴェーロノークを着地させ、辺りを見渡します。
幾何学的な模様の刻まれた、冷たい金属の壁。
ネクストの大きさをしても、見上げんばかりに高い天井。
そして、広間の中央に鎮座する、一体の“アーマードコア”。
まるで、管理者に敵対する者を殺す
「く……
そのACは、赤かった。
けれど、いつもの機体じゃない。私が共に駆けた【AN BREAD MAN】とは、似ても似つかぬ外観。
あのトーラス製のコアに書いた、アンパンマンの顔こそは、以前のままなのですが……それ以外の部分がもうかけ離れている。
その背部には、翼を模したかのような形状の、巨大な追加ブースター。
そして、恐らくは“とっつき”なのでしょうが……見た事も無いほど巨大な兵器が、圧倒的な威圧感を漂わせ、かのACの拳に備わっていました。
『排除――――はいじょ――――ハイジョ――――』
機械的な……いえ何かに乗っ取られているかのように無機質な、幼子の声。
まだ声変わりすらしていない、懐かしくも切ないクヌギくんの声が、耳に届きました。
『
お前は、この世界には不要だ。――――消えろ、イレギュラー』
なんとも変わり果てて(白目)
これも私が手を離したからなのかと、ものっすごいブルーになりました。テンションだだ下がりです。
折角の再会。もうどのような罵詈雑言でも受け入れる気でいたのに、肝心のクヌギくんが正気を失っている。
その特殊なACのせいなのか、マザコンによる洗脳なのか、はたまた私のようにナニカサレテしまったのか……。
とりあえず言えるのは、あれは私の知るクヌギくんでは無い、という事。
そして、いま私を“敵”と認識し、勢いよくこちらへ飛び掛かって来た、という事だけです。
「っっ?!?!」
ほとんど脊髄反射で、横QBを吹かします。
今、通常の10倍はあろうかという巨大な“コジマパンチ”が、0.1秒前まで私がいた場所に振るわれました。
まるでネット対戦時のラグによって、瞬間移動したような速度。
そのアリエナイ性能の、背部の追加ブースターにより、目視出来ないほどのスピードで、一瞬にしてこちらとの距離を詰めてきた。
そんなに大きな機体なのに、フラジールもかくやという突進! いえ上回っている!
私は目をひん剥きつつも、身体に染みついた操縦技術を以って、即座にクヌギくんの上を取る。
「……ひっ?!?!?」
途端、緑色の光――――
燕が空へ飛び立つような速さと、曲線を描く不可解な軌道で、AN BREAD MANが突貫してくる。
空中にいた私に追いつき、瞬時に軸を合わせて、拳を一閃。
まるで、突然目の前に現れたかのように、私には映りました。
「う、嘘でしょう……?
レーザーブレードの使用時に、FCSの方で機体の軌道を補正する機能。
それをクヌギくんのACは、コジパンでやってのけている!!
そんなの私、聞いた事ありませんよ!?
当たりさえすれば、一撃で敵を葬る“とっつき”に、自動追尾機能を付加するだだなんて!
どんなチートですかソレは! ズルいとかいうレベルじゃないですよ!?
本当は、いろいろお話したかったんですよ。
たとえ正気を失っていたとしても、この子に語り掛けたり、「いつもの君に戻ってください!」とか叫びたかったんです。よくある物語のヒロインみたく。
――――でもそれどころじゃない! そんな場合じゃないです!
いま私、死にそうですもん! まさにブッコロされようとしているんですもん!!
唐突な展開に、目を丸くしている暇もありません。
ただ必死こいてヴェーロノークを駆り、前後左右上下斜めに回避するだけ。
今はそれ以外、出来ることが無い!
この子と初めて会った日もそうでしたが、もう成す術なく追い回されている。
しかも、そのプレッシャーは、あの時の比じゃない。
同じコジパン、同じ一撃死でも、状況が全く違います。
だって、この子のACは可愛かったですもん。こんな悍ましい瘴気は纏っていなかったハズです。
何があったんですかクヌギくん、私が分からないんですか……?
これは、このACは、君が好きだと言ってくれたヴェーロノークなんですよ……?
私が搭乗している事など、一目瞭然のハズなのに……。
それとも、
私なんかキライだから、キライになってしまったから……今その拳を振るっているのですか?
縦横無尽に動き、嵐のような激しさで矢次に飛んで来る攻撃を躱しつつも、私はそれを思わざるを得ない。
私がやった事というのは、それほど深く君を傷つけたのかと……。
『排除――――はいじょ――――ハイジョ――――』
あの愛らしかった声が、もう見る影もない。
そんなのは機械だ。人形です。こんな風になってしまうのは、私だけで良かったのに……。
思わず、トリガーに指が掛かります。ASミサイルを発射するための。
けれど、それをしたら
たとえこの身が、ヴェーロノークがどうなろうとも、クヌギくんを撃つことだけは……。
だって、悪いのは私なんです。クヌギくんは悪くない。
謝罪をすべきは私なのに、この子を怒るなんて出来ない。
なら私は、もう身を任せるしか……。
「んぎっ……!?」
すんでの所で回避した拳が、私が背負っていた壁にぶち当たり、緑色の光を撒き散らす。
それは私の視界すら奪い、途轍もない恐怖を心に植え付ける。
でも、私はリンクスであり、AMSによってネクストを駆る傭兵です。
脳内に光として送られて来たビジョンは、未だ健在。その恐怖や危機感が愛機に伝わり、動きとなってACに表れます。
私は未だに、宙を飛び続けている……、生きている。
けれど、
「あげても、いいんです。こんなモノは」
そう、良いんだ。こんな
殺されたって、別に大した事じゃない。
むしろ、軽い命だからこそ、傭兵なんてものをやっていたワケですから。
謝罪と償いは、違う。
赦しと罰は、まったく別のものだ。
謝ったから許してくれとか、もうしないから止めてくれとか、そんな都合の良い話は無い。通るワケが無いんです。
謝ろうが、反省しようが、私は罰せられなくてはならない。
この子の怒りを、受け止めなければ。傷付けた分だけ、私も傷つかなければ。
それが道理という物なのですから。
ゆえに、意識を閉じようかと思いました。
いっそ操縦桿から手を離し、瞼を閉じてしまおうかなって。
先ほどから、AMSからの光が、頭の中で荒れ狂っているのです。頭痛のみならず、嘔吐感や身体の軋み、痛み。もうありとあらゆる苦痛に苛まれている。
ジュリアスさんが“限界”と診断したこの身体は、既に極限まで酷使されている。それを無理やり動かしていた気力すら、もう消え去ってしまった。
知らなかったんです。誰かに憎まれるのが、こんなにも
痛みは怖くない。ヘッチャラです。
でも人に嫌われるのが、攻撃されるのが、こんな悲しい事だったなんて、私は知らなかった。
何があっても、飄々と生きてきました。自分の身に起こった事すらも、気にせず生きて来た。
けれど……君に出会って初めて、「心が痛い」って思った。
君を傷つけるのは、君に嫌われるのは、こんなにも耐え難い。
悲しい気持ちになるんだって、学びました。
これは、きっと大事なコト。
ぜったい失くしてはいけない物。
だからもう、君を傷つけたりは出来ないんです。私は。
「しょーもない命ですが、もっていきますか……? クヌギくん……」
ふわりと、宙に舞い上がる。鳥のように身を翻して。
私はそのままヴェーロノークをホバリングさせ、ただじっと、眼下にあるクヌギくんのACを見つめます。
散々逃げ回っておいて、おかしな話ですが、そのおかげでようやく心の整理が付いた。
覚悟を、決めたのです。
「本当は、パージでもしたい所ですけど。
でもこれ腕武器なもので、外せないんですよ。どうか……」
無抵抗を示す、武装解除。それが出来ないことを申し訳なく思う。
いちおうASミサはともかく、背中にある三連ロケの方は外せるのですが、でもなんか中途半端のように思えたので、結局はそのままで居ることにしました。
どうか……許して下さい。そう心の中で呟く。
口に出すのはイヤでした。こんな私が「許して」なんて、おこがましい言葉のように思えましたから。
『――ッ』
そして、私が動きを止めたのを認めた途端、【AN BREAD MAN】が背部のブースターを吹かし、ゆっくりと浮き上がります。
急がず、悠然と、ヴェーロノークと高さを合わせる。
そして、まっすぐ私と向かい合い、拳を振りかぶりました。
首を固定された罪人に対して、処刑人が斧を振りかぶるように。
「一撃……いえ一瞬でしょう。
他ならぬ君なら」
目を閉じようか、と思いました。
けどAMSがあるもので、あまり意味はない。
最後に何か言おうか、と思いました。
でも私は口下手で、肝心な所でダダ滑りしちゃう方だから、黙って死ぬことにしました。
なんか、有難いような申し訳ないような気持ちです。
だって、きっと苦しまずに逝ける。ACのコアごと消し飛ばしてくれるでしょうから。
既にこの身は、ボロボロです。なんとか意識は保っていますけれど、今も耐え難い苦痛に襲われている。たぶん常人であれば、発狂しかねないほどの。
そんな私の苦しみを、ここで終わらせてくれるのだから、これは“救い”のように思う。
罰を受けなければいけないのに、この子に助けて貰おうだなんて、どこまで厚かましいんだろう……。そう自嘲してしまいます。
ほんとうに私は、度し難い。
どうしようもない女なんだって、そう思いました。
「……」
これは、アドレナリンどうこうの効果でしょうか?
如何なる作用によるものかは存じませんが、今クヌギくんのACがQBを噴射し、こちらへ突進して来たのが、ハッキリと見えました。
時間にすれば、きっとコンマ何秒。でもとてもゆっくりに感じる。
あの子のACの動き、その細部に至るまで、目に焼き付けることが出来る位。
これが、いわゆる“最後”というヤツなのかと、ボンヤリ考えていました。
ごめんね――――
そう、あまりにもゆっくりだったものだから、心の中で呟きました。
おこがましいけど、意味なんか無いけど、でもそうせずにはいられなかった。
私は、私を貫こうとするクヌギくんの姿を、静かな心で、目に焼き付けて……。
「――――コジマビーム!!」バシューン
「ちょ」
いたのですけど……、突然クヌギくんのACが
「ヤッタ! コジマを叩き込んでやったゾ!
この
「 あんた何してんですか! いつの間に!?!? 」
曲がりなりにも命を救われたというのに、わたし大絶叫。
今この場には、嬉しそうにキャッキャとはしゃぐ、アクアビットマンさんの姿がありました。
未だシュウシュウと煙を上げる両腕(コジマライフル)を、カニみたく頭上に振り上げて。
というか……あなた撤退したんじゃなかったんですか!? こそこそ逃げ回りつつ、コジマ溜めながら隙を窺ってたの?!
「ああっ、クヌギくんっ! 大丈夫ですかクヌギくぅーん!」
「心配いらヌ、峰打ちダ。
我がコジマは不殺を旨としてオル」ペッカー
お前の失った愛の全てが、アクアビットにある――――
そんなワケの分からないアクアビットマン語録を言ってますが、もう私それどころじゃない。
慌ててACを飛び降り、ぐったりと仰向けに斃れるクヌギくん機の所へ。
「あ……おねぇさん? なんでここに」キョトン
「えっ、正気を取り戻したんですか!?
「千の言葉より雄弁な、コジマという説得力――――」
なんとかコックピットから引きずり出してあげると、クヌギくんはすぐに意識を取り戻し、ポケ~☆ っと私を見つめました。
いつも通りの愛らしい表情、愛らしい声。先ほどの洗脳めいた雰囲気は、もうどこにもありません。
これぜんぶ、コジマの効果? コジマ・パワーのおかげなの!?
私にはもう、理解しきれません。この状況が。
「実を言うと、私の正体はアディ・ネイサン。
そう、『悪い話では無いと思いますが?』でお馴染み、
このたび思い切って脱サラし、アクアビットマンとして世に蔓延る悪をt
「――――クヌギくんっ! なんともありませんか大丈夫ですか!?(必死)」
なんか重要なことを言ってるっぽいですが、どーでも良いのです。
私は今、クヌギくんの事でいっぱいいっぱいなので、申し訳ないけどガン無視させて頂きました。知るかと。
「さて……、感動の再会も良いガ、君は最深部へ向カエ。
クヌギくんの事は、この私に任せ、マザーコンピューターを破壊するノダ」
もうわんわん泣きながら、クヌギくんをギューっと抱きしめていると、彼が空気の読めない事を言ってきます。
「え、嫌です(真顔)
預けるワケありますか! アクアビットマンの変態ですよ!?」
「コジマに生き、コジマに死ぬ。それが孤高のファンタジスタ――――」
会話が成立しません。今もアクアビットマンさんは「シャキーン!」みたく変なポーズ取ってますし。めっちゃ殴りたい。
「俺にしてみたら、とりあえずのゴージャス(PA整波性能的な意味で)
とにかく、時間がないぞエイプー。早くシロ」
「あっ、コラ!」
ひょい! っとアクアビットマンさんがクヌギくんを抱え上げ、そのまま「ひゃっほー!」と逃走。
まぁ生身ですのでアディさんかもしれないですか、それよりクヌギくんを返せ! 何してんですか貴方!
そして、私が拳を振り上げて抗議したのも束の間。
アクアビットマンさんは、速攻でクヌギくんを連れてACに乗り込み、ゲッションゲッション! と走り出しました(EN不足)
「表で待っているゾ! 最後はお前が決メロ!
コジマに選ばれし男の、体勢への反逆――――」
「お前ホンマ 殺 し ま す よ !?
クヌギくぅぅーーん!!」
ドップラー効果で、だんだん小さくなっていく「おねぇさぁーーん!」という声。元気よく走り去って行くアクアビットマンさん。
そして、タイミングよくガッシャーン! と隔壁が締まった事により、私は一人この場に取り残されるのでした。
◆ ◆ ◆
「なんですかあの人! 何なんですか一体!」プンプン
お話したかったのに! つのる話もあったのに!
そうファックファック言いながら、私は本部の最深部へ向かう。
大事な大事なクヌギくんとの語らい、その機会を容赦なく奪われた事に、今まで経験したことが無いくらいの怒りを感じながら。
あのコジマプラントでの激おこから、たった30分かそこらで記録更新ですよ。
まぁそのパンクな行動はどうあれ、アクアビットマンさんに助けてもらった形ですし、本当は感謝しなければいけないのでしょうが……。
私では逆立ちしてもあのACは倒せなかったし、彼が来なければ確実に死んでいました。恐らくクヌギくんの方も、あのまま元に戻れなかったでしょうし。
でも何故でしょう?
きっと、あのミ○キーの耳のような、ふざけたスタビのせいです。
アレがあるからアクアビットマンは、もうギャグキャラにしか見えない風貌になるんですよ。とってもファニーですもん。腹立つくらい。
「こうなれば、速攻でアレ破壊して、クヌギくんの所へ帰るしかありませんっ!
ホントなんですかコレ! なんて日ですかチクショウ!」
もう今日は、色々なことがありすぎて、頭がパンクしそうです……。
オネショタ組織の狂気。
散っていったフラジールさん。
二人でAFを相手してくれた、ダンモロさんとキルドーザーさん。
自分でプラント破壊して、自分で閉じこめられちゃったジュリアスさん。
所載は不明ですが、恐らく強化人間的にナニカサレタであろう、可哀想なクヌギくん。
そして、ヒーローなんだか鬼畜なんだかよく分からなかった、脱サラ戦士のアクアビットマンさん。
こんなの、研究所帰りの身体でする事じゃありません。わたし死にそうです……。
もう良いじゃないですか、クヌギくんと再会した所で「このあと滅茶苦茶セックスした」というナレーションでも入れて終われば。
それで万事OKです。幸せになれるじゃないですか。主に私が。
なんだったらもう、私の顔を中心として、画面が丸くすぼまっていく“トホホEND”でも良いです。
もうコジマは懲り懲りだよぉ~う! とか思いっきりシャウトしてやりますよ。昔のアニメみたく。
けれど。
「……まだ飛べる? ヴェーロノーク」
いかなきゃ。ケジメをつけるって決めた。
それがいったい何を示すのかは、もうゴチャゴチャしててよく分からない事になっておりますが……とにかく行かなきゃです。
この子もまだ動く。まだ飛ぶことが出来る。心臓の鼓動のように、ブースターの振動が伝わってくる。
ヴェーロノークが生きているのだから、私はまだやれるって事。仲間達に託された想いや責任を、しっかり果たさなければ。
目が霞む、身体が寒い、崩れ落ちそう……。
あの研究所で受けた心身のダメージで、私という存在が崩壊しかかっているのが分かる。未だにACを操縦出来ている事が、自分でも不思議でなりません。
AMSからの光が私を蝕み、もう生きている実感すら持てない。意識が
でも、進みます。ミッションを終えるまで。
それがクヌギくんという男の子の未来を、より良い物にすると信じて。
「これ……ですか」
最深部。私は辿り着く。
幾多の困難と障害を、仲間達と越えて。
こんな私なのに、疫病神の狂人なのに、優しくしてくれた人達の献身があったからこそ、来ることが出来ました。
淑女の会の中枢。ANETHAを始めとする全てを司る、このマザーコンピューターの所へ。
辺りは静寂。ただっ広い空間の中心で、暗闇を薄明りでボンヤリと照らしている、柱のように巨大な装置。
その出で立ちは、何故か古代遺跡のそれを思わせ、ここが本来は人が入って良いような場所じゃないことを、私に告げている。
不気味で、神聖で、仰々しく、悍ましい。
ただの金属の塊とは思えない、不思議な印象を受けました。
まるでこの機械が、意志を持っているかのような。電子による演算やデータなどではなく、生きているみたいに。
「……」
静かに、気を整えます。大きく息を吸います。
見上げるような巨大な装置を前に、私ただ一人。今一度、心を決める。
これで全部終わる。私の戦いも、クヌギくんの苦しみも、全てが。
そう、いま万の想いを込めて、右のトリガーに指をかけました。
「ミッション、完了です」
その言葉と共に、私は息を吐きつつ……。
「――――いや、壊されちゃうのは
轟音。ブースターの。
「ねッッッ!!!!!!!」
途端、閃光。
視界が高速で回転し、衝撃。
ヴェーロノークのコックピットに鳴り響く、“大破”を知らせる音声とアラーム。
「……っっ!? っっ?!?!?!?」
状況が、認識出来ない。
視界どころか意識すらグシャグシャで、ただでさえ苦痛だったAMSからの信号が、もう洪水のように……!
「あー、カス当たりかぁ~。
やっぱ、あの子のようにはいかないわね。
止まってる相手に外すんだから」
難しいのねぇ、“OBとっつき”って。
そんな声を、台風のように荒れ狂った意識の中で、聞く。
「まぁ良いわ、もう虫の息だし。
でしょ?」
ガシャン! とパージした武装が床に落ちる音。
そこに転がっていたのは……KB-O004?
あの子のACの両腕にあった、コジマナックル……。
「後は、いつものバズや垂直ロケで充分よ。
悪いけど死んでくれる?
緑色。新旧混合のGAフレーム。スマイルのエンブレム。
メリーゲート――――
いえメイ・グリンフィールドの姿が、そこにありました。
◆ ◆ ◆
「よっと!」
彼女の放った砲撃によって、かのマザーコンピューターが爆発。炎上。
「ふぅ、これで淑女の会も終りね。
安心してエイプップ、手柄を取る気は無いし。
これアンタがやった事にしたげる」
ま!
そうメリーゲートが、ゆっくりとバズーカを降ろしながら、破片を撒き散らして床に倒れ伏すヴェーロノークに向き直る。
「よく頑張ったわね、アンタ。
きっとみんなに褒めて貰えるわ。私だって褒めちゃう♪
でもやっぱ、英雄っていうのは、死んでナンボだからさ?」
死んではじめて、伝説になれるの。
光栄でしょ? うだつの上がらない下位ランカーにとっては。
メイさんはブーストを使わず、ただゆっくりと歩を進め、私の側へ。
「……なっ……、なぜ……」
「ん?」
金属の軋む音。ヴェーロノークの装甲が歪み、もう身体を起こす事すら困難。
けれど、せめて彼女の方を見ようと、懸命に頭部を持ち上げる。
「何故ですか……メイさん。
貴方の始めた事でしょうにっっ!!!!」
なにやら既視感のある言葉でしたが、気にしている余裕はありません。
私は、激高する。
こんな大きな声を出したのは、一体いつ以来かという程。
「裏切ったのですか……!
義理とはいえ、クヌギくんの姉なのに!!!!」
クヌギくんの笑顔、そしてこれまでの思い出が、頭を駆け巡る。
そんな全てを叩きつけるように叫んだつもりでした。
でも、彼女は。
「人違いだわ。
ここに居るのは、淑女の会№8――――
何食わぬ声で、そう言ってのけました。
「あら、立つの?
へぇー。まだ動けるんだ?」
彼女の言葉を聞いた途端、私はグシャグシャになった意識のまま、ヴェーロノークを起立させました。
大破し、私すらも血塗れ。もう身体の感覚すら無い。
なのに、何故これほどの状態にあって、ネクストが動くのか。自分でも不思議に思いますが、今は目の前にいる人の事だけ。
「流石テルスフレームね。
カス当たりとはいえ、コジパンを耐えるんだから。
私のGAマンじゃ、とてもこうはいかない。……まぁ羨ましいとかは無いけど」
けれど、また倒れる。
砲撃ではなく、ただ手にあるバズーカを横薙ぎにして、ヴェーロノークに叩きつけた。
それだけで、私達は成す術なく、床に身体を打ち付けた。
「もう寝てて良いわよ? あんたの役目はおしまい。
グースカ寝てれば、その内ここのフロアも崩落して、楽に死ねるでしょ」
私は帰るけどね? クヌギのとこへ。だってお姉ちゃんだもの。
彼女の童女のような笑い声が、炎と熱で崩れゆくこのフロアに響く。
「ここも壊滅して、あねサラーも破壊された。
あのお姉さま方が死ぬとは思えないけど……まぁ当分は大人しくしてるでしょ。
そして、クヌギも自由の身になれたわ。
これに懲りて、もうAC乗りたいだなんて、言わなくなるでしょ」
「
あんたに目を付けたのは、間違ってなかった。
バカで、頭おかしいクセにお人好しな、可愛いエイプップ」
「あんたの凄さを、私だけは知ってた。同じ僚機稼業だしね。
それが上手い風にいったんだと思うわ。
あんたは、私が手を回すまでもなく、あの子の守護天使やってくれたし♪」
「そして……おかげで淑女たちや企業の目は、全部あんたの方に行った。
同じ家に住んでる、お姉ちゃんの私じゃなく、あんたがヤツらの標的になってくれたからこそ、自由に動けたの」
「クヌギを狙うヤツラを壊滅させた上で、あんたにも消えて貰う。
そうして最後に、
怖いくらい合理的ね、私♪」
「あんたを失って泣くクヌギを、『おーよしよし』って献身的に支える。
それでイチコロ☆ 今度こそあの子は、私の方を向くわ」
肩こりでもほぐすかのように、バズーカでメリーゲートの肩をトントン。
その妙に人間臭い仕草は、彼女のAMS適性の高さを表しているのか。
武器腕の機体を使用する事によって、適性の低さを補っていたヘボリンクスの私には、とうてい真似できない事。
そして、今の今まで知りませんでした。……彼女がここまでレベルの高いリンクスだとは。
中堅所のランク、僚機稼業という目立たない役どころ。そして人に親近感を持たせるスマイリーのエンブレム。色気すら漂う人当たりの良さ。
その全てがカムフラージュ。人を欺くため、計算づくの物だったのかもしれない。
「あ、でも楽しかったでしょ? いい夢見れたよね?
狂人のあんたじゃ、決して手に入らないくらいの、幸せな時間だったハズよ。
それを本ミッションの報酬として頂戴。名誉と一緒にね♪」
ゲシリと、蹴りを入れる。
床に伏したヴェーロノークの頭に、さも何気なくと言ったように。
「誤魔化せないわよ? 知ってるんだから。
今日のミッションの前、なんかアンタの所に、メッセージ来てたでしょ?
あれ届けてあげたの、
「オールドキング? とか言ったかしら。連絡先を教えてやったのよ。
あの誘いが来たら、あんたどーすんのかな~って、ちょっと興味が湧いてね」
「そしたら案の定、
何万、何千万の命よりも、あの子の方が大事だって、ここに来たでしょ?
――――私それおかしくてさぁ!! あはははははははは!!!!」
今お腹を抱えている姿が、アリアリと見て取れるような笑い声。
「というか、あんたみたいな壊れた女に、クヌギ預けとけるワケないじゃんか。
当たり前よ。なに調子こいてんの?
ちょっと考えれば、分かりそうなモンだけどね。普通は♪」
メリーゲートが振り下ろした足が、ヴェーロノークの膝を踏み折る。
関節の稼働とは逆方向、くの字に曲がり、その痛みがAMSを通して、私にも伝わる。
絶叫。喉が破れるほどの。
メリーゲートのリンクスは、その声を聴きつつ、ケラケラと笑っているようだった。
ガシッ、ガシッと、何度もヴェーロノークを踏みつけながら。心底楽しそうに。
「あんたは一人で、グラニュー糖でも舐めてりゃ良いのよ。私が買ってやったヤツを!
……っと、フロアの温度が上がってきたわね。
そろそろココも限界、早くトンズラしないと」
ついでとばかりに、もう片方の足も折られる。
ダルマ、という言葉がありますが、元々腕という物がないヴェーロノークは、これで完全に四肢を失ったことになります。
けれど、私はそれも気にせず、
「あの子の……身体……を」
彼女に、問いかける。
「イジった……のです、か?
明らかに、生身のリンクスがする、動きではなかった。
メイさん、貴方は……自分の弟を……!」
踵を返し、私を残してこの場から去ろうとしていたメリーゲートが、首だけをこちらに向ける。
「うん、やったよ?
そうしなきゃあの子、死んでたもん。
私が助けたとはいえ、あんな高い所から落ちたんだし」
強くなってたでしょあの子? 身体の何割かは、もう別物だしね――――
そう感情の見えない、冷たい声。
「でもさぁ、あんたの事なんて、よく憶えてたね?
クヌギは私のことだけ、認識出来ればいいや~って感じで、色々と強めにイジらせたハズなのに。下手こいたなぁ……。
やっぱアンタ邪魔だわ。ここで始末できて良かったよ、エイプップ」
つぅ……と。彼女の瞳から涙が。
これは、直接見たワケではない。あくまでAMSが送ってきた映像であり、解像度はとても低いです。
けれど、いま無感情でいるかのような、無機質な声で話しているハズの彼女が、泣いているように見える。
たとえ、そのあまりの耐え難い悲しみに、心を凍らせてはいても……。それは涙となって外へ押し出されている。そう私には思えました。
「言うなれば、“戦友”。
互いに頼り、互いに支え合い、助け合う」
「一人はみんなの為に。みんなは一人の為に。
だからこそ、私達は生きられるのよ。
既に詰んでしまった、悲しいこの世界で」
「リンクスは家族。同じ傭兵。血を分けた兄弟も同然……ってぇ」
彼女が、俯いた顔で、
「――――嘘を言うなッッッ!!!!」カッ
突然の、激高(ドン引き)
「どいつもこいつも、足の引っ張り合い! 狸の化かし合いよっ!
猜疑に歪んだ暗い瞳が、せせら嗤ってる!」
「無能、怯懦、虚偽、貧乳、年増、前金。
どれひとつ取っても、戦場では命取り! “騙して悪いが”は当たり前!
このイス取りゲームっていう、女の戦いではねっ!」
「それらを纏めて“性欲”で括るッ。誰が仕組んだ地獄やらッ。
ショタっ子を見守る淑女の会……? ふんっ! 嗤わせないでよ!
みんな、クヌギのショタちんぽの事しか、考えてないくせに!(キッパリ)
……だからぁぁぁーーッ!!!!」
今、その天を突くような怒りに任せ、メイ・グリンフィールドが……
「お前もッ!!
お前もッッ!!!
お前もぉぉぉおおおーーッッ!!!!」
「みんなみんな――――
持て余してるフラストレーショ~ン♪
そんな謎の曲が、私の脳内でかかりました(むせる)
「気が変わったわ、トドメを刺してあげる。
尊厳ある安らかな死なんて、
とにもかくにも、再び彼女が、ACの私の方へ。
ゆっくり、その足音を私に聞かせているかのように、歩いてきます。
「恨まないでね、これアンタと一緒だから。
守るべき物の為に、全てを捨てる――――
その中に、エイプップも入ってた、ってだけの話よ」
別に、キライじゃなかったもの。
そう小さく呟き、彼女が銃口をこちらに向ける。
「同じことしてる。似た者同士なのよ……。
でも、不倶戴天って言うし。あの子をパンみたく、ふたつに割ったりは出来ない。
だからこのトリガーは、私のケジメなんだと思う」
ロックオンなど、とうに完了しているハズ。
それでも彼女は、言葉を紡ぎ続けました。
非情や無感情を装いつつも、何かに赦しを乞うような、とても弱々しい声。
きっと、それが我慢ならなかったのでしょうね。
空気読めない人ですから、私。
「お言葉ですが、まだまだ
私から見れば」
◆ ◆ ◆
メイさんが息を呑む声が、聞こえました。
鉄を軋ませてゆっくり……ではなく、飛び立つように。
今、私のヴェーロノークが、空気を振動させるほどの凄まじいブーストを以って、舞い上がりました。
「まだ……動けるの?
そっか、もう人間やめてたんだね、アンタ」
静かな、先ほどよりも冷たい声。
メリーゲートが腕を動かし、ズレてしまった照準を、再びゆっくりと合わせる。
100メートル上空にいる、私のヴェーロノークに。
「ええ、おかげ様で。
そんな私からすれば、メイさんは少しばかり
引き金は、黙って引くものです」
赦しを乞い、同情を誘うような事を……。今から人の命を奪おうという人が。
私は少し、呆れていたんです。このような人と、一緒にされたくは無いと。
「だから機を逃す。手に入らない。守れない。
なにをモジモジやっているのですか。まどろっこしい」
甘えないで下さい、迷惑です――――
両足を失い、腕さえも無いヴェーロノークが、悠然と翼を広げる。
「小悪魔ぶった馬鹿女の策謀など、滑稽なだけです。
そんなガチガチの重量機に乗っておいて、なぜ前に出ない?
何をそんなに怯えているのですか。臆病者」
砲撃音。次いで破壊音。
バズーカの弾がヴェーロノークのコアをかすめ、後方の壁に突き刺さる。
別に、避けてはいません。ただメイさんが外したというだけの事。
それが威嚇であったり、私の口を閉じさせる為であったなら、まだ良かったのですが。
「そんな動揺して撃っても、当たりはしません。
なんのためのAMSですか、感情が
まだノーマルにでも乗った方が、マシです」
「加えて、そのような人に討たれる者の気持ちを、考えた事はありますか?
私は御免です」
倒すのなら、誇って欲しい。
アイツに勝った、ねじ伏せたと、私との勝負を自信として欲しい。それが手向けです。
そんな想いを以って、ランクマッチをやってきましたが……、今のメイさんに負かされるなど、まっぴらだ。
「へぇ……言うじゃない。
そんなエイプップ、はじめて見たかも。
らしくないじゃん、怒ってるの?」
「いえ。貴方が知るように、私はドライな女ですので。
さして怒りは」
これは、ホントの事です。
ここまでされたというのに、自分でも不思議なくらい、静かな心でいる。
なんなら、先ほどのジュリアスさんやアクアビットマンさんの方が、よほど私を怒らせた。
分かるから。メイさんも言った通り、私達は似た者同士。
だからこそ、憎めないのかもしれません。
「でも、久しぶりに手合わせしましょうか、メイさん。
こういう場面であれば、そうする物なのでしょう?」
私イカれてますので、よく分かりませんけれど。感情は高ぶらないけれど。
しかし、きっと
ですので、今回はそれに倣っていきたいと思います。
「うん……当たり。
よく勉強してるねエイプップ。……えらいよ」
それはもう。私にとって処世術ですから、必死に努力して
クスリと、お互いの笑う声が、無線から聞こえました。
「たまに、思うんだけどさ……。
もしクヌギが居なかったら、私アンタを選んでたかもしれない。
きっと……ずっと一緒にいたよ。
ため息。そして両足を踏ん張る。
メリーゲートが戦闘の態勢に入る。
「光栄です」
一度だけ、そっと瞳を閉じて、私も。
メインブースターの垂直推力を更に上げ、高く浮き上がる。
「さよなら、エイプップ」
「はい、さようなら」
同時に、私達の武装が、火を噴きました。
◆ ◆ ◆
「そんなナリで、何が出来るっていうのよッ!!!!」
巨大な炎の光が揺らめく、広大なフロアで、私達二機が飛び交う。
「ただでさえポンコツなのに、そんなボロボロ!
アンタ舐めてんの!?!?」
ASミサイル発射。だが無意味。
それは全て、メイさんの放つ垂直ミサイルに無効化され、ACとは別の場所で爆散する。
「知ってるでしょ? アンタじゃ
なのに、いきがってんじゃないわよバカ!!!!」
加えて、矢次に放たれる残りのミサイルが、次々と襲い来る。
私のASミサより、彼女の方が遥かに連射数が多い。比べ物にならない程。
こちらの攻撃を無効化した上で、
いつもは教えてあげる側。でも今は私の番。必死にミサイルを躱す。
機体を左右に振り、時に避けきれない弾幕を最小限の被弾で済ませるべく、その中へ突っ込む。
「最初にアンタとやった時は、驚いた記憶があるわ。
こんな弱いAC……いえ
「私のメリーゲートは、どちらかと言えば持久戦志向。
でも30秒かそこらで倒せちゃった。一発の被弾も無く」
「ただただ、弾数の多い垂直ミサイルをばら撒いて、それ避けるのに四苦八苦してるアンタに、バズやライフルを撃つ。
それだけで、アンタは完封出来るの。なんにもさせる事なく」
その言葉を体現するように、宙で藻掻く私へ、砲撃が飛んで来る。
躱そうと思いQBを吹かせば、その熱をこそ頼りにミサが襲い来る。
何度も何度も、ヴェーロノークが炎に包まれ、装甲から炸裂音が鳴りました。
「ついでに言うなら、私のメリーゲートはGAフレーム。実弾に強いの。
そのASミサで削り切れるかしら? ちょっと弾数が足りてなくない?」
おっしゃる通り。たとえ垂直ミサを全て躱し切り、私のASミサを全て当てたとしても、彼女を墜とせる保証などありません。
それほど、私のヴェーロノークと、メイさんのメリーゲートは、相性が悪い。
攻守共に、手の打ちようが無い。ハッキリと
仮に、ASミサイルを全弾“間を置かず”当て切ることが出来たなら、倒すことが出来るかもしれません。
PAを剥がした上で、メリーゲートの硬い装甲を溶かせるでしょう。
けれど……そんなことはメイさんも、百も承知。
彼女が無理をする必要は無い。ただ適当に垂直ミサを撃ち続けながら、時折それをかい潜って飛んでくる来るASミサを、しっかり回避するだけで良い。
そうして、やがて私が弾切れするのを、その豊富な火力に物を言わせ、ただのんびりと待てば良い。それだけでヴェーロノークに勝てる。
私というリンクスは、彼女にとって“カモ”でしか無いのだと――――
「いつもながら、上手に操るものね?
ACってそんな風に動けるんだ~って、いつも関心してたわ」
回避、立ち回り、当て方、相手の射角を外すトップアタック。
でもそんな私の小細工を、メイさんは全く意に介さず、のほほんと喋り続けている。
火力も装甲も、違い過ぎるから。
「私はあっさり勝ったけど、他のリンクス達は、みんな苦労してた。
どうやってエイ=プールを倒そうか~って、頭をひねってたの」
「その時かな? あんたがヤバいって気付いたのは。
ASミサしか使わないもんだから、みんなマシとかフレアとかで適当に勝っちゃて、誰も気付かないけど。でも私だけは知ってる。
アンタの操縦技術は、
そりゃあ、クヌギも憧れるワケだ。アタシ以外で気付いたのは、あの子だけかもね。
メイさんがGAライフルで、ヴェーロノークを蜂の巣にする。その飄々とした声とは裏腹に。容赦なく。
「みんなハンデ貰って勝ってた。ASミサ縛りと、
もしそれが無きゃ、誰もアンタを倒せなかったでしょうね。……クヌギすらも」
「でも戦場にIFは無い。アンタはここで死ぬの。
強化人間めいたリンクスだって、命はひとつよ」
バズーカの砲撃、被弾。
ヴェーロノークが硬直し、そこへ次々とミサが襲い来る。
やがて、羽を奪われた鳥のように、私が地へ墜ちていくのには、さして時はかかりませんでした。
「ほい、私の勝ち。2戦2勝ねエイプップ」
重金属が地面にぶち当たる、轟音。
それを聞いた後、メイさんは数分前の光景をなぞるようにして、ゆっくり私のACの方へ歩いてきました。
「あんま撃たなかったね? こっちのを躱すだけだったじゃん。
もうASミサ撃っても無駄って感じ? それとも弾切れしてたのかなぁ」
焼き直し。メリーゲートがゆっくりとバズーカを持ち上げ、銃口をヴェーロノークに。
先ほどと違うのは、ほぼゼロの距離であるという事。そして砲身の先端が、ピッタリとヴェーロノークの頭部に接触している事。
有り体にいえば、眉間に銃を突き付けられている、という感じでしょうか。
「引き金は黙って引け……だっけ?
そうするわ」
発射。ヴェーロノークの頭部が
それと共に衝撃。自分の頭を砕かれたのと遜色のない痛みが、私にも。
不具合を起こしたAMSからの光が、私の思考を犯す。
暴風雨、耳をつんざくようなノイズ。そしてミルクを入れたコーヒーのように、グルグルと回転する世界。
私が私を認識出来なくなるほどの、ダメージ。
「ただでさえ、研究所でモルモットにされてた。
ACなんか、乗れる状態じゃなかったでしょうに」
その上、足も頭も吹き飛んで……。達磨の方がマシになっちゃったね。
なんて死に様なの、とメイさんが失笑。
私はそれを、ボンヤリとした意識の中、遠くに聞いていました。
仰向けに倒れ、もうほとんど胴体だけになってしまった、ヴェーロノークに乗って。
「あ、コア撃ったげた方が良かったね?
リンクスはここに居るんだし」
また拙ったなぁ、なんて呟きながら、改めてメイさんがバズを掲げる。
「もう聞こえてないかもだけど、一応ね。
ちゃんと楽にしてあげるわ、エイプップ?」
けれど。
「――――それには及びません」
即座に。
「っっ!?!?」
バネのように上半身を起こしたヴェーロノーク。
その背部から、
「っっ?!?! っっっ?!?!?!?!」
連射、連射、連射。
鳴り響く、連続した爆発音。
「 うわぁぁぁあああああああああああーーーッッッッ!!!!!!!! 」
メイさんの絶叫。
それを余所に、私は再びヴェーロノークを舞い上がらせる。
高く、フルスロットルでブーストを吹かし、彼女の頭上へ。
あたかも、破滅を与える天使の如く。
「ッッ!!!!」
腕部ASミサイル、発射。
同時に肩ASミサイル、発射。
10を軽く超える数の弾幕が、次々とメリーゲートへ炸裂。
被弾硬直。
「ちょ……アンタまだッ……!!??」
足を潰したのに、頭を砕いたのに。
でも残念、ASミサイルは
頭部のカメラなど無くても、たとえ目が見えなくても、私は貴方を砕くことが出来る。
きっと、手足どころか頭すらないACが襲い掛かって来るだなんて、ちょっとしたホラーに違いない。
「――――っっ」
ロケット特有の凄まじい爆発が、矢次にメリーゲートを包む。
ASミサイルの用途は、攻撃だけではありません。
風切り音や、ジェット噴射の音。それがどこへ向かっていくのかを感じ取り、そこを目掛けてロケットを乱射!
空から! 眼下へ! 絶え間なく! 息もつかせず!
多少ズレていても問題ない! 爆炎が削る! 私はただひたすらに撃ち続ければ良い!
(クヌギ君……。クヌギ君……! クヌギ君ッ……!!)
吐き気、凄まじい頭痛、今にも吹き飛びそうな自意識。
そんな中で脳裏に浮かぶのは、あの子の顔。
歯を食いしばり、崩れそうな身体に鞭を打ち、必死にAMSに命令を送り続けながらも、繰り返しあの子のことを想う。
クヌギ君という存在が、か細い一本の糸となって、私の心と身体を繋ぎ止めている。
戦闘中だというのに、我ながら呆れてしまいます。
でも構わない。私には
クヌギくんのこと以外、もはやどうでもいいでしょう?
――――だから何も考えず! ふよふよしながら! トリガーを引け!
撃て! 撃ち続けろヴェーロノーク!!
この場に動く物が、全て無くなるまで!!!!
……
…………
……………………
「あ、悪魔かアンタは……」
やがて、私の肩武装の弾が尽き、それがガシャンとパージされて、地面に落ちた頃。
「何が守護天使よ、悪鬼羅刹じゃないの。
イカれてるわ、アンタ……」
「光栄です、メイさん」
ほとんど装甲が溶解し、パチパチと電気を帯び、それでもなんとか原型を留めている様子のメリーゲート。
その中にいるメイさんの生存を知らせるように、無線が届きました。
「えっと……何秒?」
「約10秒ほどでしょうか。メリーゲートが墜ちるまでに」
この後に及んで、妙なことを気にするメイさん。
GAの重量機に乗っている彼女の、妙な矜持みたいな物を感じました。
「あー、新記録ねコレ。
おめでとうエイプップ。クヌギでも30秒かかったのに。
私のメリーゲート……」
なんか、意外と元気だな?
エアリーディング能力が皆無の私は、場の空気も無視して、そんな事を思っていました。
あと、「なにを私のレッドラムみたいに……」と、しょーもない事を。
「いちおう聞いておきたいんだけど、それ三連ロケよね?
あんた宗派変えしたの……?」
「まぁ、研究所でナンヤカンヤされましたからね。
無駄にスキルアップしたのです」
「そっかぁ~。先入観って恐ろしいなぁ~。
アンタがそれ担いでるの、ぜんぜん気付かなかった。
どうASミサイルに対処するかって、そればっかり……」
悔しそうなメイさん。彼女のこんな姿は、初めてかもしれません。
もう四捨五入すれば10年の付き合いになりますが、まだまだお互い、知らない面はあると見えます。
「アンタの勝ちね、もうグウの音も出ない……。
メリーゲート動かん。私も動けん」
その一言を、彼女の口から聞いた時、初めて実感。
ああ、終わったんだなって……。
これで全部。私の戦いが。
「――――くっそおーーっ!
「っっ!?!?」
けれど、なんか聞き捨てならない事を言われ、私は驚愕しました。
「なっ、何を言うのですかメイさん! 私はショタコンでは……!」
「え、アンタこそ何言ってんの? 今更でしょ?」
こんだけ必死こいてやっといて、まだしばらっくれるの?
そう、なんかとてもフラットな、「何を当たり前のことを」みたいなテンションで言われます。
「ショタコンの魔の手から、あの子を守るのが、私の使命なのに……。
あークヌギとられたー! ショタ=プールに取られたー!」
「ちょっと待って下さいよっ! それはメイさんの方でしょう!?」
なにおぅ?(ピキーン)
メイさんが片方の眉を上げ、私を睨んでいる……ような雰囲気。
「誰がショタコンよ! 私そんなんじゃないし! このショタコン!」
「いえ私は違います! 貴方の方がショタコンじゃないですか! それもガチの!」
「だれがガチよ! ただ義理の弟なだけだしっ!?
家族として、そして姉として、あったかく愛でてんのよこっちは!
一緒にすんなショタコン!」
「嘘はやめて下さいショタコン! 私は知っているのです!
貴方クヌギくんのお風呂を覗いたり、無理やりおっぱい触らせようとしたり、パンツをクンカクンカしてるのを見つかったから、あの子に嫌われたんでしょう!?」
「ち゛ょ!? なんで知ってんのよ?! ショタコンエスパー!?」
「ほら! これがショタコンじゃなくて、なんだと言うのですか!
ブラコンとショタコンの合わせ技一本です! 懲役300年ですよショタコン!」
「だれが犯罪者よ! こんなの世のお姉さま方は、みんなやってるし!
わー、クヌギのパンツだー♪ いいにおーい☆ いいにおーい☆
いっぺんアンタもやってみなさいよ! とぶぜショタコン?」
「うっさいんですよショタコン! 変態ショタコン!
だいたい今日は、私が勝ったのだから、メイさんがショタコンでしょうが!」
「そんな勝負してた!? 最初に言っといてよショタコン!
それなら私、もっと頑張ってやってたのに! ずるいわよショタコン!」
「いーえズルくないですぅ! 勝った者が正義なんですぅ!
貴方はまごう事なきショタコンです! ショタコンリンクスです!
そして私は違います! 子守ACヴェーロノークです!」
「今更だって言ってんでしょーが! つか私、あの子の家族なのよ!?
それクヌギ欲しさにブッ殺しかけといて、何カマトトぶってんのよ!
欲望丸出しじゃないのショタコン! あの子まだ精通もしてないのにぃ!」
「――――ソレなんで把握してるんです?! この腐れショタコーン!!」
メイのバカ! もう知らない!(敬称略)
そうギャーギャーかしましく言い合う。
こんなそこら中を炎に囲まれた、今まさに崩壊しようとしている地下のフロアで、する事ではないような気がします。早く逃げろという話ですし。
「憶えておけッ! いずれ第二第三の【淑女の会】が現れる……。
そして心しておきなさいエイプップ! あんたの歪んだ性癖が、人類を壊死させるのだとッ!」
ババーン! って感じの勢いあるセリフですが、もう台無しです。
けど……、なにやら心地よかった。私は今、清々しい気持ちでいます。
痛い、いたいよぉ……。もう身体ボロボロ……。
だから、機械なんかじゃないです。生きてるんです。
こんなにも今、胸が高鳴っている。
人間なんです。
「ええ。でも私は
そして、良くするんじゃなくて、「自分がどうしたいか?」
正しさなどではなく、勝った人が、それを決めるのなら……。
「これが、私の“答え”です――――」
……
…………
……………………
倒壊するフロア。崩れ落ちる天井。炎。
そんな中で私は、きっと生まれてはじめて、笑った。
ニッコリと、口角を上げて。
心の底から、メイさんと笑い合う。
さんざん喧嘩をした挙句、仲良く仰向けで天を仰ぐ、2機のAC……。
やがてそれは、沢山の瓦礫と炎に包まれて、消えていきました。