hasegawaさん、炎の短編集。   作:hasegawa

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89 ふよふよエイプー 【後編その5】

 

 

 

 

 

―Epilogue―

 

 

 

 

 

 

 あのミッションから、1か月後。

 

「トイレ大丈夫? お腹空いてない? 忘れ物は無いわね?」

 

 空港。その広々とした空間の一角に、クヌギの姿があった。

 

「お土産とかは、ぜんぶ郵送しちゃうから。

 アンタは、いるっぽい物だけ持ってなさい。重いのは私が持つし」

 

 隣には、彼の義理の姉である、メイ・グリンフィールドがいる。

 あの戦闘で負傷し、未だ鼻には絆創膏を貼ってはいるが、もう既に活発な姿を見せていた。

 そして、甲斐甲斐しくクヌギの世話を焼く。その強引さやお節介さに、この子が辟易していようがお構い無し。

 私はお姉ちゃんだから、と言い張ってはいるが、ただこの子に構いたいだけのように見えた。

 

「まだ少しだけ時間あるし、わたし電話かけてくるわ。

 ちょっとだけ、ここで待っててくれる? 勝手にどっか行っちゃ駄目よ?」

 

「うん、わかった。メイお姉ちゃん」

 

 一刻も早くここへ戻るべく、スッタカタ―と早足で去って行く。

 そんな姉の背中を、クヌギは何気なしに見つめ、見送った。

 

「……」

 

 適当に購入され、無理やり持たされていたジュースの蓋を開け、ひとくち。

 美味しいし、喉も潤う。けどそれがどうという事も無い。

 天気も良いし、今も空港の巨大な窓からは、眩い日の光が余すところなく差し込んでいる。

 でも、それでクヌギの気分が晴れる事は、無かった。

 

 

 今日、クヌギはこの国を離れる。

 この1年近くやってきた傭兵稼業をやめて、クレイドルに乗るのだ。

 その為に、同じくリンクスを引退した姉と一緒に、空港へとやってきたワケだ。

 今は飛行機の出発までの時間を、こうして自動販売機の置かれた休憩所で、椅子に座りながら待っている所。

 

 

 

『また……ぼくのリョーキに、なってくれる……?』

 

 ふいに、あの日かけた言葉が、胸をよぎる。

 元パートナーであり、彼が一番信頼していた、あの女性リンクスに言った言葉だ。

 

『いえ……、今度は言葉を濁さずに、ハッキリと言います。

 君はもう、ネクストに乗ってはいけない――――お願いですクヌギくん』

 

 あの怖いお姉さん達の施設。そこを出て少ししてから、クヌギは彼女と再会した。

 あのミッション当日のことは、あまりハッキリとは憶えていないけれど、でも彼女がわんわん泣きながら抱きしめてくれた事と、本当に心配してくれていたんだって事だけは、しっかりと憶えている。

 

 だから、思い切ってお願いしてみたのだけれど……あの人は少し困った顔をしながらも、躊躇なく断った。

 もう僚機にはなれない、そしてクヌギにもリンクスをやめるようにと、ハッキリ告げたのだった。

 

 悲しかった。とても胸が苦しかった。

 けれど、彼女はすごく優しい顔をしていたから。あの病院の屋上で見た物とは違う、とても美しい顔だったから、クヌギは素直にそれを受け入れる事が出来た。

 残念だけど、もうおねぇさんとはお別れなんだって、理解する事が出来た。

 

 彼女と離れていた半年間、ずっと自暴自棄だった。

 時に、こんな辛い思いをさせる彼女を、憎んだ事すらあった。

 おねぇさんなんかキライだって、そう思いこもうとした。

 

 けれど、ギュッて抱きしめられた時に、そんな想いは一瞬で溶けてしまった。

 悲しさのあまり、悪い事だと知りつつもORCAに入り、彼女へのあてつけのような事をしてしまったのを、心から後悔した。

 自分を心配してわんわん泣いている彼女の姿に、胸がたまらなくキュッとなり、同時にすごく満たされた気持ちになったから。

 

『実を言うと……また施設に入ることになりまして。

 引退したリンクスや、AMS障害を持つ人の為の、療養施設があるんですよ。

 そこで暫くの間、羽を休めようと思っています。

 さすがにもう、だいぶガタが来ていましたから……♪』

 

 えへへと、照れ臭そうに笑った。

 なんでもロイさんの紹介で、そこへ入れてもらえる事になったのだとか。

 

 淑女の会を壊滅させた事で、これまでの冷遇とは一転して、彼女は英雄となった。

 企業から煌びやかな賛辞を以って迎えられ、たくさんのお金も貰えたので、もう何も心配する事は無い。

 

 関係ないが、あのミッションで共に戦った【ダンモロ旅団】の仲間達も同様。今ではちょっとした有名人である。

 ちなみに、全員生存しているので安心して欲しい。ここでは詳細を省くが、フランソワやPQやアクアビットマンが頑張って助けたとだけ理解して貰えれば、それで概ね問題は無い。

 ついでにオールドキングどうこうも、きっと世界中にいる正義のヒーロー・アクアビットマンがなんとかしてくれたと思う(適当)

 言うなればコレは、“アクアビットマンEND”なのだ(ホラ吹き)

 

 まだまだ世界は騒がしいし、問題は山積み。この先どうなるのかなんて、誰にも分からないほど混沌としている。

 けれど、二人のリンクスとしての戦いは、ここでいったん終わり。

 自分達は英雄なんかじゃない。既に役目を終えた今、のんびりと身を任せていきたいと思う。

 この悲しくも優しい揺り籠に。時の果てまで。

 

『ありがとうクヌギくん。

 どうか、お元気で――――』

 

 その笑顔が、あまりに綺麗で。

 どこか作り物めいていた以前とは違う、とても幸せそうな笑みだったから、クヌギは何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

「……」

 

 あれから少し経つが、今もふとした瞬間に、思い出す。

 そして、チクリと胸が痛んだ。

 これが愛とか失恋だとか言った物による痛みだというのを、クヌギはまだ知らない。

 ただ、甘酸っぱく胸を焦がす、自分にとって大切な想いなのだという事だけは、理解していた。

 

「メイお姉ちゃん、おそいな……。

 ひこうき出ちゃうよ」

 

 やがて、思考の海にあった意識を戻し、再び何気なく空港の光景を眺める。

 もうジュースも飲み終えてしまったし、少しばかり手持ち無沙汰。退屈な時間を過ごした。

 

 

「おい、アレなんだよ! ネクストじゃないか!」

 

 

 そんな時、ふいに誰かの大声。

 

「何あれ、どーしてこんな所に?」

 

「なんか可愛いデザインね? 鳥みたい」

 

「ボケ~っと突っ立ってるわ? 何してるのかしらねぇ」

 

 空港がざわめく。みんな巨大な窓の方へ駆け寄り、そこから見える滑走路の方を眺める。

 緊張感もなく、和気あいあいとした空気。どこか楽しそうな雰囲気だった。

 

「っ!」

 

 途端、クヌギが椅子から腰を上げる。

 そのまま彼も、大勢の人が群がる窓の方へ。

 彼はまだ幼いので、身体が小さく、小回りが利く。

 大人の脚とか腰とかをがんばって潜り抜け、やがて人込みの先頭へ。窓ガラスの真ん前に行く事が出来た。

 

「…………おねぇさん」

 

 この空港近くの山の上。そこに青と白のカラーのAC、ヴェーロノークがいた。

 それは、ただボケ~っとそこに立ち、こちらをじーっと見つめているように思える。

 クヌギがいる、この空港の方を。

 

 クヌギは両の手のひらと、おでこをピッタリとガラスに引っ付けて、それを見る。

 やがてヴェーロノークは、意味もなく腕武器の翼をパタパタ上下させながら、ふわりゆっくりと上昇。空へと上がっていった。

 

「っ――――」

 

 

 

 

 ブーン。スイーッ。

 

 そんな擬音が聞こえてきそうな飛び方。

 ネクストらしからぬ、まるで自由な鳥のような姿。

 

 クヌギは見入る。時を忘れて。

 美しい、ヴェーロノークの飛行を――――

 

 

 高く飛び上がり、大きく弧を描いて、一回転。

 キラキラと太陽の光に照らされながら、我が物顔で青い空を飛ぶ。

 

 雲より高く、時に地面スレスレを。遊んでるみたいに。

 たまに思い出したようにQBを吹かし、飛行機みたいにバレルロール。楽しそうに飛ぶ。

 

 鋼鉄の鳥。アーマードコア・ネクスト。

 彼が心から憧れた、大好きなヴェーロノークが、キィーンと雲を引きながら空を舞っていく。

 

 くるくる、くるくる。

 シュゴー! バシューン!

 

 それはまるで、夢の光景だった。

 クヌギの想いや、大好きな物、ピッカピカに素敵な事。それがそのまま現実となって、目の前に現れたかのような。

 現実感のない、楽しい空想の中にいるような、ふよふよした気持ち。

 

 

 (´・ω・`)ノシ

 

 

 やがて、ヴェーロノークはこんな風に羽をパタパタさせてから、バビューンと身を翻していった。

 ヒューヒュー! と沢山の歓声を受けながら、瞬く間にオーバードブーストで地平線の彼方へ。

 

 雲を突き抜け、太陽を浴び、ヴェーロノークが空へと帰っていく。

 またね――――と。

 

 

「エイプー、おねぇさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿を、男の子はいつまでも見送った。

 

 見えなくなっても、瞼に焼き付いた夢を、ずっとずっと追い続けた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~おしまい~

 

 

 







◆スペシャルサンクス◆

 甲乙さま♪


・作品テーマ曲

【スタッカート】(ジムノペディ)


・キャラテーマ曲 

 エイ=プール 【水中メガネ】   (Chappie)
 クヌギ    【ドリーム・シフト】(絶対無敵ライジンオーOP)



・PS   弾幕、薄くなかったですか?




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