あのミッションから、1か月後。
「トイレ大丈夫? お腹空いてない? 忘れ物は無いわね?」
空港。その広々とした空間の一角に、クヌギの姿があった。
「お土産とかは、ぜんぶ郵送しちゃうから。
アンタは、いるっぽい物だけ持ってなさい。重いのは私が持つし」
隣には、彼の義理の姉である、メイ・グリンフィールドがいる。
あの戦闘で負傷し、未だ鼻には絆創膏を貼ってはいるが、もう既に活発な姿を見せていた。
そして、甲斐甲斐しくクヌギの世話を焼く。その強引さやお節介さに、この子が辟易していようがお構い無し。
私はお姉ちゃんだから、と言い張ってはいるが、ただこの子に構いたいだけのように見えた。
「まだ少しだけ時間あるし、わたし電話かけてくるわ。
ちょっとだけ、ここで待っててくれる? 勝手にどっか行っちゃ駄目よ?」
「うん、わかった。メイお姉ちゃん」
一刻も早くここへ戻るべく、スッタカタ―と早足で去って行く。
そんな姉の背中を、クヌギは何気なしに見つめ、見送った。
「……」
適当に購入され、無理やり持たされていたジュースの蓋を開け、ひとくち。
美味しいし、喉も潤う。けどそれがどうという事も無い。
天気も良いし、今も空港の巨大な窓からは、眩い日の光が余すところなく差し込んでいる。
でも、それでクヌギの気分が晴れる事は、無かった。
今日、クヌギはこの国を離れる。
この1年近くやってきた傭兵稼業をやめて、クレイドルに乗るのだ。
その為に、同じくリンクスを引退した姉と一緒に、空港へとやってきたワケだ。
今は飛行機の出発までの時間を、こうして自動販売機の置かれた休憩所で、椅子に座りながら待っている所。
『また……ぼくのリョーキに、なってくれる……?』
ふいに、あの日かけた言葉が、胸をよぎる。
元パートナーであり、彼が一番信頼していた、あの女性リンクスに言った言葉だ。
『いえ……、今度は言葉を濁さずに、ハッキリと言います。
君はもう、ネクストに乗ってはいけない――――お願いですクヌギくん』
あの怖いお姉さん達の施設。そこを出て少ししてから、クヌギは彼女と再会した。
あのミッション当日のことは、あまりハッキリとは憶えていないけれど、でも彼女がわんわん泣きながら抱きしめてくれた事と、本当に心配してくれていたんだって事だけは、しっかりと憶えている。
だから、思い切ってお願いしてみたのだけれど……あの人は少し困った顔をしながらも、躊躇なく断った。
もう僚機にはなれない、そしてクヌギにもリンクスをやめるようにと、ハッキリ告げたのだった。
悲しかった。とても胸が苦しかった。
けれど、彼女はすごく優しい顔をしていたから。あの病院の屋上で見た物とは違う、とても美しい顔だったから、クヌギは素直にそれを受け入れる事が出来た。
残念だけど、もうおねぇさんとはお別れなんだって、理解する事が出来た。
彼女と離れていた半年間、ずっと自暴自棄だった。
時に、こんな辛い思いをさせる彼女を、憎んだ事すらあった。
おねぇさんなんかキライだって、そう思いこもうとした。
けれど、ギュッて抱きしめられた時に、そんな想いは一瞬で溶けてしまった。
悲しさのあまり、悪い事だと知りつつもORCAに入り、彼女へのあてつけのような事をしてしまったのを、心から後悔した。
自分を心配してわんわん泣いている彼女の姿に、胸がたまらなくキュッとなり、同時にすごく満たされた気持ちになったから。
『実を言うと……また施設に入ることになりまして。
引退したリンクスや、AMS障害を持つ人の為の、療養施設があるんですよ。
そこで暫くの間、羽を休めようと思っています。
さすがにもう、だいぶガタが来ていましたから……♪』
えへへと、照れ臭そうに笑った。
なんでもロイさんの紹介で、そこへ入れてもらえる事になったのだとか。
淑女の会を壊滅させた事で、これまでの冷遇とは一転して、彼女は英雄となった。
企業から煌びやかな賛辞を以って迎えられ、たくさんのお金も貰えたので、もう何も心配する事は無い。
関係ないが、あのミッションで共に戦った【ダンモロ旅団】の仲間達も同様。今ではちょっとした有名人である。
ちなみに、全員生存しているので安心して欲しい。ここでは詳細を省くが、フランソワやPQやアクアビットマンが頑張って助けたとだけ理解して貰えれば、それで概ね問題は無い。
ついでにオールドキングどうこうも、きっと世界中にいる正義のヒーロー・アクアビットマンがなんとかしてくれたと思う(適当)
言うなればコレは、“アクアビットマンEND”なのだ(ホラ吹き)
まだまだ世界は騒がしいし、問題は山積み。この先どうなるのかなんて、誰にも分からないほど混沌としている。
けれど、二人のリンクスとしての戦いは、ここでいったん終わり。
自分達は英雄なんかじゃない。既に役目を終えた今、のんびりと身を任せていきたいと思う。
この悲しくも優しい揺り籠に。時の果てまで。
『ありがとうクヌギくん。
どうか、お元気で――――』
その笑顔が、あまりに綺麗で。
どこか作り物めいていた以前とは違う、とても幸せそうな笑みだったから、クヌギは何も言うことが出来なかった。
「……」
あれから少し経つが、今もふとした瞬間に、思い出す。
そして、チクリと胸が痛んだ。
これが愛とか失恋だとか言った物による痛みだというのを、クヌギはまだ知らない。
ただ、甘酸っぱく胸を焦がす、自分にとって大切な想いなのだという事だけは、理解していた。
「メイお姉ちゃん、おそいな……。
ひこうき出ちゃうよ」
やがて、思考の海にあった意識を戻し、再び何気なく空港の光景を眺める。
もうジュースも飲み終えてしまったし、少しばかり手持ち無沙汰。退屈な時間を過ごした。
「おい、アレなんだよ! ネクストじゃないか!」
そんな時、ふいに誰かの大声。
「何あれ、どーしてこんな所に?」
「なんか可愛いデザインね? 鳥みたい」
「ボケ~っと突っ立ってるわ? 何してるのかしらねぇ」
空港がざわめく。みんな巨大な窓の方へ駆け寄り、そこから見える滑走路の方を眺める。
緊張感もなく、和気あいあいとした空気。どこか楽しそうな雰囲気だった。
「っ!」
途端、クヌギが椅子から腰を上げる。
そのまま彼も、大勢の人が群がる窓の方へ。
彼はまだ幼いので、身体が小さく、小回りが利く。
大人の脚とか腰とかをがんばって潜り抜け、やがて人込みの先頭へ。窓ガラスの真ん前に行く事が出来た。
「…………おねぇさん」
この空港近くの山の上。そこに青と白のカラーのAC、ヴェーロノークがいた。
それは、ただボケ~っとそこに立ち、こちらをじーっと見つめているように思える。
クヌギがいる、この空港の方を。
クヌギは両の手のひらと、おでこをピッタリとガラスに引っ付けて、それを見る。
やがてヴェーロノークは、意味もなく腕武器の翼をパタパタ上下させながら、ふわりゆっくりと上昇。空へと上がっていった。
「っ――――」
ブーン。スイーッ。
そんな擬音が聞こえてきそうな飛び方。
ネクストらしからぬ、まるで自由な鳥のような姿。
クヌギは見入る。時を忘れて。
美しい、ヴェーロノークの飛行を――――
高く飛び上がり、大きく弧を描いて、一回転。
キラキラと太陽の光に照らされながら、我が物顔で青い空を飛ぶ。
雲より高く、時に地面スレスレを。遊んでるみたいに。
たまに思い出したようにQBを吹かし、飛行機みたいにバレルロール。楽しそうに飛ぶ。
鋼鉄の鳥。アーマードコア・ネクスト。
彼が心から憧れた、大好きなヴェーロノークが、キィーンと雲を引きながら空を舞っていく。
くるくる、くるくる。
シュゴー! バシューン!
それはまるで、夢の光景だった。
クヌギの想いや、大好きな物、ピッカピカに素敵な事。それがそのまま現実となって、目の前に現れたかのような。
現実感のない、楽しい空想の中にいるような、ふよふよした気持ち。
(´・ω・`)ノシ
やがて、ヴェーロノークはこんな風に羽をパタパタさせてから、バビューンと身を翻していった。
ヒューヒュー! と沢山の歓声を受けながら、瞬く間にオーバードブーストで地平線の彼方へ。
雲を突き抜け、太陽を浴び、ヴェーロノークが空へと帰っていく。
またね――――と。
「エイプー、おねぇさん」
その姿を、男の子はいつまでも見送った。
見えなくなっても、瞼に焼き付いた夢を、ずっとずっと追い続けた――――
~おしまい~
◆スペシャルサンクス◆
甲乙さま♪
・作品テーマ曲
【スタッカート】(ジムノペディ)
・キャラテーマ曲
エイ=プール 【水中メガネ】 (Chappie)
クヌギ 【ドリーム・シフト】(絶対無敵ライジンオーOP)
・PS 弾幕、薄くなかったですか?