【疾風】に助けられるのは間違っているだろうか   作:マルセイエーズ

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自分の方が上手くかけるわ、とか、この感じの設定でリューさんをヒロインにしたろ、とか思った人は是非とも書いてください。見に行きますんで(切実)。
別にオリ主でもベル君でもリューさんがメインヒロインならどっちでも構わないから……!


始まり

『いいか、ベル。男ならやっぱりハーレムを作らないとな』

 

『ハーレム?たくさんお嫁さんに来てもらうんだよね!』

 

 祖父の声が聞こえた気がする。二人で暮らしていた時によく祖父が口にしていた言葉だ。

 

『そうだな。……まあ、ハーレムなんて作れるのは、ほんのひと握りの人間だ。それでも、女の子と仲良くなることはベルにも出来るだろう?』

 

『うっ……。だ、大丈夫だよ!』

 

『そうか、ならベル、女の子と話す時は注意しろよ。エルフとかは不用意に近づくと怒る人もいるからな』

 

 僕の英雄は、いつも僕が困っていたら助けてくれた自慢のおじいちゃんは、そう言って僕の頭を撫でてくれた。

 

 だから、おじいちゃんはが亡くなった後、よく話に聞いていた『オラリオ』に向かうことにした。紆余曲折あったけれど無事に【ファミリア】に入り、冒険者になった。ハーレムを作るにはやっぱり強くないといけないと思ったし、それに、叶うのなら僕は――。

 

 

 ――そんな事を夢想していた過去の自分を殴り飛ばしたい。

 

『ヴオォォォォォォォ!!』

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 五階層。僕はモンスターに追いかけ回されていた。しかも、モンスターはまだダンジョンについて疎い僕でも知っている、あの『ミノタウロス』。Lv.1の僕では逆立ちしても敵わない怪物だ。

 

 エイナさんの言いつけを破って、普段探索している階層よりも下に降りてきてしまったのが運の尽きか。

 モンスターも中々見つからなかったし、神様のためにもお金は稼ぎたかったから……!と頭の中で言い訳をしてみるが、この状況は変わらない。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 追いつかれる……!」

 

 初めてくる階層のため、ここの地形なんて全く把握しておらず、無闇矢鱈に走り回っていてまだ捕まっていないのは奇跡だろう。『ミノタウロス』はLv.2にカテゴライズされるモンスターであり、当然僕より速い。本来ならとっくにミンチにされている頃だ。そうなっていないのは、ひとえに僕の運の良さと『敏捷』が少しだけ高いからだろう。……本当に運がいいなら『ミノタウロス』なんかには遭遇しないはずだけど。

 

 そして、遂にこの命懸けの追いかけっこが終わる時が来た。

 

「い、行き止まり……」

 

『ヴモォォ……!』

 

 筋骨隆々の体が僕を見下ろしてくる。走り回って通路を右折したその奥は行き止まりだった。ここまで来たらもう僕は逃げられないし、残された道はここで何も出来ずに無様に死ぬか、無謀にも戦いを挑んで死ぬかだ。

『ミノタウロス』もそれが分かったのか、走るのをやめて、ゆっくり僕を追い詰めるように歩いてきた。

 

 なるほど、物語の英雄はこういう場面で女の子を助けるからハーレムを作れるのか、とこんな状況にも関わらず考えてしまう。確かに僕も今助けられたら惚れてしまいそうだ。だが、そんなに上手くいかないのが世の常である。

 今の僕は、きっと足が震えていて、ナイフをへっぴり腰で構えているみっともない姿だろう。かっこよく敵を倒す彼等とは似ても似つかない。

 

「ちくしょうっ……。どうせ駄目なら……!」

 

 震える足を叱咤して、弱い心を奮い立たせる。背後は壁、前には怪物。彼我の距離は30M程度。あの『ミノタウロス』ならばすぐにに詰められる距離だ。ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていたと今更ながらに思うけど、それは僕が自分で選んだことだ。

 

 だから、ナイフを構える。重心を下げ、相手を見据える。意識を切り替え、あの怪物と戦うと決める。……覚悟なんて大層なものは出来てないけど。僕はまだ死にたくない、このまま何もしないようなことはしたくない。

 

『ヴモォォ……』

 

「――ふっ!」

 

 勢いよく地面を蹴って突貫する。相手は僕が向かってきているのを見て、迎え撃つ姿勢をとった。万に一つも勝ち目が無いとわかっていながら、それでも走る。自分の間合いに入ったことを確認した『ミノタウロス』が石で出来た武器を振り上げる、その時。

 

「――そこまでだ」

 

『ヴモォッ!?』

 

『ミノタウロス』の背後から鈴を転がすような声がしたと思ったら、そのまま『ミノタウロス』が横に吹き飛んだ。あまりの出来事に僕が立ち止まり、間抜けな顔をさらしていると、そこに一人の女性が立っていた。

 

「何かと思えば五階層に『ミノタウロス』ですか。……そのまま後ろに下がっていなさい。すぐに片付けます」

 

 僕がぶんぶんと首を振って頷き、数歩下がったのを確認すると、彼女は木刀を手に『ミノタウロス』に肉薄した。風のように素早く動く彼女を『ミノタウロス』は全く捉えきれず、神速をもって繰り出される攻撃に翻弄され続け、すぐに灰と魔石に姿を変えた。未だに脳の処理が追いついていない僕に、彼女は振り返って口を開いた。

 

「大丈夫ですか? 見た所怪我はないようですが」

 

「は、はい! た、助けてくれてありがとうございます!!」

 

「お気になさらず、初心者(ルーキー)に『ミノタウロス』の相手をしろというのは酷なものです」

 

「あははは……」

 

 僕が駆け出しだと一目見ただけで見抜かれて少し恥ずかしい。まあ、あの『ミノタウロス』を一瞬で倒すほどの実力を持つなら、それくらい分かるのだろう。……そもそも冒険者になって日が経つなら、支給品のナイフなんて使ってないだろうし。

 

「よろしければ、地上まで送りますが」

 

 女性が僕の身を案ずるように聞いてくる。ケープやマスクで顔が全部見えるわけじゃないけど、奥に見える空色の瞳や薄緑の髪、先ほど聞いた声から、この人がものすごく美人な気がしてくる。それを意識してしまうと、この状況がとてもチグハグなものに思える。

 

 ダンジョンで危機的な状況の中、可愛い女の子と出会う。僕が助けられる側ではなく、助ける側だったらまさに理想的だろう。だから、やはりと言うべきか、助け出された僕は彼女から目が離せなくなってしまった。

 胸が高鳴り、顔が赤らむ。一気に緊張感に襲われた僕は。

 

「だ、大丈夫です!! あ、ありがとうございましたあぁぁぁ!!」

 

「あっ……」

 

 さっきの全力疾走もかくやというスピードで彼女に背を向けて走り出した。

 

 

 

 

「どういう事かな~ベル君?」

 

「ううっ、すいませぇん……」

 

 あの人から逃げてきた後、ギルドに換金しに行きそのまま今日は帰ろうかと思った時に、エイナさんに会ったから少し話をしていた。今日の出来事は話してしまうと間違いなく怒られるので、黙っているつもりだったけど僕の誤魔化しはエイナさんに全く通用せず、全て話してしまった。

 エイナさんは僕のことを心配してくれているから怒っているのだろうけど、やっぱりエイナさんに非難の目で見られるのは辛い。

 

「まったくもう、次やったら許さないんだからね! ただでさえベル君は一人でダンジョンに行ってるのに、五階層まで降りるなんて!」

 

「はい……。そ、それで、さっき言った女の人について心当たりはないですか?」

 

「顔を隠している女性冒険者ねぇ……。そんなに強いなら噂になっててもおかしくないんだけどなぁ。ごめんね、よくわからないかな」

 

「そうですか……」

 

「そんなに気になるなら、なんで名前を聞かなかったの?」

 

「あはは……はぁ」

 

 正直、それを言われると耳が痛い。あの時は羞恥とか安堵とか色々な感情が溢れてしまっていて、すっかり名前を聞くのを忘れてしまっていたのだ。まあ、あの場から逃げなかったら聞けたかもしれないんだけど。

 なんだか変な空気になってしまい、それを払拭しようとエイナさんは小さく咳払いした後、僕の目を見てゆっくりと口を開いた。

 

「こほん、……ベル君、私が教えたことしっかり覚えといてね? それと、神へスティアにもしっかり今回の事は伝えること!」

 

「はいぃ……。それじゃあ、さようならエイナさん!」

 

 

 ギルドを出た後、僕は北西のメインストリートを歩いていた。

 この迷宮都市には八本のメインストリートがあり、区画ごとに店の種類が大まかに決まっている。例えばこの北西部は、ギルドや武器屋など客を冒険者に絞っている店が多い。それがこの場所が『冒険者通り』と呼ばれる由来であり、毎日たくさんの冒険者がこの通りを訪れ、僕たちのホームもこの近くにある。

 

「神様、今帰りましたよー」

 

「おー! おかえり、ベル君!」

 

 先ほどの通りを少し西に行ったところにある教会に着いた僕を神様が出迎えてくれた。大きく実っている双丘についつい目が引き寄せられてしまいそうになり、慌てて目を逸らす。

 僕は気を取り直して今日の出来事を話すことにした。

 

「――それで女の人に助けてもらったんですよ」

 

「おいおいベル君、気を付けるんだぜ? 君に何かあったらボクは泣いちゃうぞ?」

 

「はい、すいません……」

 

「反省してるならいいさ。さて! 【ステイタス】の更新をしようか」

 

 神様がそう言って、僕をベッドの上でうつ伏せにさせて跨ってくる。

 僕たちは神様の眷属になる時に『神の恩恵(ファルナ)』をその身に刻まれる。それを神様が更新することで得た経験を自らの血肉とするのだ。

 

「……っ!」

 

「神様? どうかしましたか?」

 

「……何でもないさ。はい、終わったよ」

 

 神様が【ステイタス】を写した紙を僕に渡してくる。『ミノタウロス』に襲われて走り回っていたから、かなり上がっているのではないかという期待を込めて紙に目を落とす。

 

 ベル・クラネル

  Lv.1

 力 :I77→82

 耐久 :I13

 器用 :I85→89

 敏捷 :H148→172

 魔力 :I0

 

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

 

「おおー、敏捷が結構上がってますね!」

 

「そうだね」

 

「……あのー、神様怒ってます?」

 

「別にぃー」

 

 ……なんだか凄く神様が怒っている気がしてならない。やっぱり危険を冒したことを根に持ってるのだろうか。改めて【ステイタス】を見てみると、いつも通り魔力の欄は変わらずゼロで伸びやすい敏捷はかなり上がっている。《魔法》と《スキル》の欄は中々発現せず、空欄のままなんだけど……。

 

「神様、この《スキル》のところ何か書いてありましたか?」

 

「いや、何も書いてなかったよ。いつも通り空欄さ」

 

 ですよねー、と情けない声を漏らす。《魔法》と《スキル》は誰にでも発現する可能性があるから、そんなに焦る必要はないんだけれど、あの人の戦いを見てから、僕にもあのように強くなりたい、速くなりたいという想いが芽生えてきた。漠然としていた想いが定まった感じだ。

 

 やっぱりダンジョンに出会いを求めるのは間違ってはいなかったと手のひらを返しながら、僕は【ステイタス】の記された紙をじっと見つめた。

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 へスティアは自らの気持ちを持て余していた。いや、少し、ほんの少しだけ怒っていた。

 

(なんだいベル君は!? ボクとの甘々な生活は何にも【ステイタス】に影響してないのに、このぽっと出の女の子に鼻の下を伸ばして!)

 

 ベルがその助けてもらった女性に対して思っている感情など、へスティアには手に取るように分かった。憧れか淡い恋心か、はたまたその両方か、顔もその全貌がはっきりしないのに、助けてもらい、美人そうな雰囲気がしただけで惚れて帰ってくるとは馬鹿というか単純というか、とにかく、へスティアはこの事実が全くもって面白くなかった。

 

(それに、このスキル。こんなの絶対にベル君には伝えられない)

 

 ベルをベッドから下ろし、夕飯を作るのを頼んだ後、へスティアは【ステイタス】が記された紙のスキル欄を軽く触り、先ほどは無かった文字を出現させ、それにもう一度目を向けた。

 

 ベル・クラネル

  Lv.1

 力 :I77→82

 耐久 :I13

 器用 :I85→89

 敏捷 :H148→172

 魔力 :I0

 

《魔法》

【】

《スキル》

疾風追求(クレロス・アクシィ)

 ・早熟する

 ・自身の想いの丈により効果増減

 ・戦闘時に敏捷値の超高補正

 

 

(成長速度に関するスキル……間違いなくこれは――)

 

『レアスキル』。そうへスティアは確信した。戦闘時にアビリティに補正がかかるスキルというものはよく見られる。超高補正というくらいだから、他のスキルとは一線を画すだろうが、まだ常識の範疇だ。

 

 だが、成長速度を促進するスキルなどへスティアは聞いたことがない。自分がまだ下界に来たばかりでこの手の情報に疎い事を差し置いても、これは明らかに異常だ。ベルが【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】に属しているのならば、話はそこまで大事には至らなかったかもしれないが、この新設の【ファミリア】でこのようなスキルが明るみになってしまえばどうなるだろうか。

 

 神々による干渉、冒険者の嫉妬、果てには『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を仕掛けられてもおかしくない。それに、とてもベルに隠し事が出来るとはへスティアは思えなかった。だから、へスティアはこのスキルを秘匿することにした。

 

 ベルにとって、へスティアにとっても念願の初スキル。それがこんな事になろうとは。不変の神と違い、いくらでも変容する下界の子供たちの本質を垣間見、心が踊らないかと言われれば、否、と答えるがやはりこの先のベルが心配だと、へスティアは歓喜と不安の入り交じった思いを胸に大きく息を吐いた。

 

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