取り敢えず執務室に戻り、電を呼んだ。秘書艦がいないと建造ができないという、謎な仕様があるからだ。
「どうしたのです?」
「工廠は、あの鍵の部屋だった」
「そうなのですか!これでようやく、任務を進められるのです!」
「…あぁ」
「どうしたのです…?」
「まぁついてくればわかるさ」
「…わかったのです」
「…どうして扉が壊れているのですか?」
「あぁ、それは壊され…壊したんだ」
「何故言い直したのです?」
電のつっこみは無視した。
階段を下りているときは終始無言だった。
下りきると、さっきと同じ景色…青黒い工廠があった。
「青い…のです」
「そう、青いんだよ」
電も俺と同じ反応をしている。
「まぁ、取り敢えず建造してみよう」
「わ、わかったのです」
資材の量を確認した。
「最初だし、資源も少ないから最低値でいいよな」
「いいと思うのです」
この景色に慣れてきたのか、しゃべり方から驚きや困惑が消えていた。
建造依頼書に、使う資材の量を書き込み、建造依頼を出した。すると、どこからともなく、妖精さんが現れ、建造を始めた。そして、建造は20分で完了することを伝えられた。
その間、青黒い工廠を見て回ることにした。所々に、謎の機械や液体があったが、それ以外はいたって普通の工廠だった。
「この青黒さは、前の提督の趣味だったりとかしたのかな…」
「わからないのです…」
独り言のつもりだったのだが、聞かれていた。
「まぁわかるわけないよな、ごめん」
「司令官さんが謝ることじゃないのです」
「ありがとう」
しばらく見て回ると、突然静かになった。建造が終わったと言うことだろう。
「終わったみたいだな」
「みたいなのです」
2人は元の場所に戻った。
すると、妖精さんは、建造が完了したことを2人に伝え、どこかへと帰っていった。
「さてと、新しい艦娘はっと…」
そう思い新艦娘が中にいるであろうカーテンを開けると、中には駆逐艦がいた。
駆逐艦、イ級がいた。
電はそれを見たとたん、艤装が出現し、主砲をイ級へと向けた。
しかし俺は
「撃つな」
と電に言った。
「何故ですか!?ここにいるのは駆逐イ級なのです!」
「言いたいことはわかる。だが、建造したのは俺達だ。敵意があるとは限らないだろ」
「…わかったのです。ですが、いつでも撃てるように構えててもいいですか?」
「あぁ、もし俺を襲うようなことがあれば、そのときはすぐに」
「了解なのです!」
俺は駆逐イ級に近付いてみたが、イ級は襲ってこなかった。次は意思の疎通ができるかを確認するために、話しかけてみた。
「おい、イ級。俺の言っていることがわかるか」
しかしイ級は
「キシャァァァ」
としか、言わなかった。おそらくイ級は、これしか喋れないのだろう。
「俺の言っていることがわかるなら2回鳴け」
と言うとイ級は
「キシャァ、キシャァ」
と言った。どうやらこちらの言うことは理解できているらしい。
「敵意はあるか?あるなら1回、なければ2回鳴け」
「キシャァ、キシャァ」
どうやら、敵意はない…らしい。
「電、イ級に敵意はないそうだ。」
「し、司令官さんは、駆逐イ級を仲間にするつもりなのですか!?」
「なにか問題でも?」
「敵意がないとはいえ、深海棲艦なのです!」
「深海棲艦とはいえ、敵意はないんだ。問題はないだろ?」
「わかったのです…司令官さんがそこまで言うなら…」
「よし、決まりだ」
イ級を連れて執務室に戻った。
「じゃあ今日も出撃だ。旗艦電、二番艦イ級、三番艦響だ。電は、この事を響に伝えてくれ。…もちろんイ級のことも」
「わかったのです。でも、何故イ級が二番艦なのですか?」
「今回の作戦は、基本単縦陣だ。俺はまだイ級を信用してない。もし、イ級が突然襲いかかってきても、響が対処できるようにだ」
「そういうことなのですか」
「あぁ、だから響には、イ級が命令に背いたら撃っていいとも伝えてくれ」
「了解なのです!」
「出撃は今から1時間半後、午後1時までに食事を済ませておけ」
「了解なのです!」
電は、執務室を出ていった。
俺は、イ級に話しかけてみる。
「何回か出撃させてみてお前を信じるかどうかを決める」
イ級はなにも言わない。
「信じて欲しいなら、がんばれ」
「シャァ!」
「よし!解散!」
しかしイ級は動こうとしない。
「どうした。…あぁ、いきなり解散とか言われてもどこ行けばいいかわかんないよな」
「シャァ」
今のはそうだと言う意味でいいのだろうか。
「まぁいい。この鎮守府を案内してやる。どうせ暇だしな」
イ級に一通り鎮守府を案内した。その間、まだ何も知らない響とばったり会ってしまい、戦闘になりかけたが、すぐに事情を説明し、渋々だったが理解してもらえた。
時計を見るとすでに1時10分前だった。
「もう時間だ。イ級、出撃の準備をしろ」
「シャァ!」
「電の本気を見るのです!」
そう言って、第一艦隊は出撃した。
「敵艦発見なのです!」
「今回は味方が3隻だが、油断だけはするな」
「了解なのです!」
まずは、電の砲撃。見事に命中、敵イ級は中破。敵イ級の砲撃、響にあたったがほとんどダメージは入っていない。イ級の砲撃も命中、敵イ級を撃沈した。
被害は特になし、問題ない。
「進撃だ」
「了解なのです!」
「次の敵はこの海域の主力艦隊だ。さっき以上に警戒をするんだ」
「わかっているのです」
偵察艦隊が電たちと接触したことを知ったのか、敵主力艦隊は自ら出てきた。しかも先制を取られてしまった。それに響が気付き、
「左舷から発砲音!」
と叫んだ。
「敵艦隊を視認したのです!砲雷撃戦よーいなのです!」
最初に砲撃してきたのは、軽巡ホ級。その砲撃は響にあたった。しかし響は小破ですんだ。響は仕返しするように、ホ級を撃った。しかし、さすが軽巡というべきか、直撃しても小破すらしなかった。
電とイ級が同時に砲撃、敵随伴のイ級を沈めた。敵イ級の砲撃は響に向けられたものだと思うが、響の手前に着弾した。
敵艦隊が雷撃をするために接近してきた。電たちも敵艦に魚雷を向けた。ほぼ同時に発射。イ級と響は、敵ホ級にむけて、電は敵イ級にむけて魚雷を撃った。敵の魚雷は、すべて電にむかっていた。
するとイ級が電がいる方角にむかって増速した。イ級の監視役の響は、すぐにそれに気付き、敵に向けていた主砲をイ級へとむけた。イ級が電に攻撃すると思ったからだ。しかしイ級は電の左舷のほうに向かっていた。そしてイ級は、電にあたるはずだった魚雷をすべて自分にあてた。電をかばったのだ。
そして、イ級は爆音とともにあっけなく沈んでしまった。
電が響が呆然としていると、敵のほうから爆発音が聞こえた。電たちの魚雷が当たった音だ。そして、敵艦隊を撃滅した。
しかし、電たちは、そっちのほうには目もくれず、ただただ呆然としていた。
「電!電!聞こえているか!」
「し、司令官さん…イ級さんが…イ級さんが…」
「わかっている…ただとりあえず、いったん帰投しろ」
「…わかったのです」
「艦隊帰投しました」
声に元気がない。まぁ当たり前か。味方が自分をかばって目の前で沈んだんだ。落ち込まないほうがおかしい。
「おつかれ。すぐに補給と入渠をしてくれ」
電は返事をせずに入渠ドックにむかった。
「響、お前も入渠を…」
「司令官、イ級になにか言ったのかい?」
「信用されたいなら頑張れって」
「そうか…」
響もこころなしか元気がない。
「じゃあ私も入渠してくるよ」
響も電の後を追ってドックにむかった。
俺はなにも考えずに、執務室に戻ろうとした。しかし、誰かに呼び止められた。
「提督さん!夕立のこと忘れてるっぽい!」
イ級のことで完全に忘れていた。今回のドロップ艦か。
「あぁ、悪い。考え事してた。夕立だっけか?」
「そうっぽい!ところで、あの二人元気なかったっぽい。何かあったっぽい?」
「あぁ、そうだ。さっきの戦いで、味方が1人…電をかばって…」
「そんなことが…夕立も慰めにいったほうがいいっぽい?」
「いや、いい。こればっかりは俺達がどうこうできる問題じゃない」
「わかったっぽい」
「それより部屋で休んでろ。明日からはお前にも出撃してもらう。」
「ぽい!」
夕立は走っていった。…部屋の場所とか教えてない気がするけど…まぁいいか。
執務室に戻った。そういえば、イ級のことなんて報告しよう。まず、イ級を建造したということすら報告してないんだよな。
「また電話するか…」
このあと大本営にイ級のことを伝えてみた。結果は…まぁ、当然というか、信じてもらえず、
「なにくだらんことを言っている。そんなことより鎮守府付近の制海権をとっとと奪還しろ!」
と言われ、切られてしまった。
「制海権を奪還しろとか言われてもな…駆逐艦しかいないし、まあ建造するか…普通に艦娘建造できればいいけど…無理だろうなぁ」
今回は夕立を呼んだ。あの2人には休んでほしいからな。
「さっそくお仕事っぽい?」
「建造しに行く」
「わかったっぽい」
工廠に着いた、やっぱりエレベーターつけよう。長すぎる。夕立もずっとぶつぶつ言っていた。
相変わらず青黒い不気味な工廠。夕立の方を見ると、案の定唖然としていた。
「予想通りのリアクションをありがとう」
「て、提督さん!こ、これって!?」
「気にしたら負けってやつだ」
「気にしないのなんて無理っぽい!」
「取り敢えず建造しよう。そうすればだいたいわかると思う」
夕立は不満げに口を尖らせている。そんな夕立を無視して、建造依頼書に使う資材を書き込む。今回は空母を建造してみることにした。
依頼書を妖精さんに渡した。今回は3時間で完了するとのことだ。
「よし、解散だ。3時間後に執務室に来い」
返事がない。不貞腐れてしまったようだ。後でなにか奢ってやろう。
「やっぱり下りより上りの方が辛い…もうあそこいきたくない…」
足がパンパンになってしまった。また行かないといけないと思うと、頭がいたい。
ふと時計を見ると、3時だった。
「完全に忘れてたが飯食ってないな。食堂に行くか」
やはり厨房には誰もいなかった。今度覗いてみようかな。
そんなことを考えながら執務室に戻ると、中に電と響がいた。
「司令官さん…どこに行っていたのです?」
「昼飯食いに行ってただけだが」
「司令官さんはこんなときでも、いつも通りなのですね」
電は怒気を含んだ声でそう言った。
「どんなときでも腹は減るだろ」
「そんなことないのです!」
そう叫んで電は執務室から飛び出ていった。響が
「今のは司令官が悪いと思う」
と俺を責めた。
「すまん、そんなつもりはなかったんだが…」
「謝る相手が違うと思うよ」
響がそう言うと、俺は電を追いかけて、執務室を飛び出た。
「はぁ、はぁ、久しぶりに全力で走った…」
さすが艦娘、足が早い上に体力もすごい。全然追い付けなかった。だから、走りながら全力で謝ってみた。
その姿は非常に滑稽だったし、正直そのまま逃げ続けられたら体力が切れて、追い付けなかった。
「わ、悪かった。謝るから」
「何が悪かったか分かっているのですか!?」
「そ、それは…」
「分かってないじゃないですか!」
「…ごめん」
「謝ってほしい訳じゃないのです!」
「…ごめん」
ただひたすらに頭を下げ続ける。謝ればいいと言う訳じゃないと言うのは分かってはいるのだが、それしか思い浮かばない。
「…もういいのです。よく考えたら司令官さんはなにも悪いことをしていないのです」
許してくれた。
「司令官さんは、元々心の冷たい人だったというだけなのです」
許してくれた?
少し落ち着いたところで、さっきから聞きたかったことを聞いてみる。
「なんで執務室にいたんだ?」
「今回の戦闘の報告のためなのです。…主にイ級さんについてのことなのです」
あぁ、完全に忘れていたが、まだ詳しい報告もらってなかったな。
「イ級が電を庇ったときの詳しい状況を教えてくれ」
「了解なのです」
電は、あのときの状況を事細かに説明してくれた。
「なるほど、分かった。」
「それと、これは響ちゃんから聞いたことなのですが、イ級さんは、いなづまの前に出るとき、一瞬も躊躇わなかったそうなのです」
「躊躇わなかった?」
艦娘もたまに庇うって言うのは聞いたことあるが、庇うときに躊躇わない艦娘はいない。
「そうなのです。いなづまに魚雷が向かってくるのを見てすぐに、増速したって…」
「そうなのか…もしかしたら深海棲艦には、自分の身を捨ててでも旗艦を守ると言う習性があるのかもしれない」
「そうなのでしょうか…」
「そこは追々わかってくるだろう」
「分かったのです」
執務室に戻ると響が俺の椅子に座っていた。
「…なにやってるんだ?」
「司令官だけこんな座り心地のいい椅子に座っているなんてずるいじゃないか」
「え、いや、そんなこと言われてもな…」
「私たちにも、同等の椅子を配布するべきだ」
「その椅子は自分の金で買ったやつだからね!?」
それに、艦娘にだってそれなりの給料が支払われているはずなのだが…
「ふふ、冗談さ」
「からかわないでくれるかな!」
響は基本無表情だ。だから、本気なのか冗談なのかが分かりにくい。て言うか笑った顔かわいい。
「提督さん、夕立お邪魔っぽい?」
いつの間にか夕立が後ろに立っていた。
「ん?あぁ、もうそんな時間か。悪い、すぐに行く」
「ぽい!」
夕立は先に工廠に向かった。
「どうしたんだい?」
「さっき建造依頼出したんだ」
「ふーん、そうなのか」
「着いてくるか?」
「いや、いいや」
「分かった。大人しくしてろよ?」
「大丈夫だよ」
…ちょっとだけ心配だ。
工廠まで戻ってきた。今日はもう動けそうにない。この階段は1日1往復が限界だ。しかも、電とのおいかけっこの後だ。下りきっただけでも誉めてほしい…
「新しい艦娘が建造できたっぽい」
「艦娘…ね」
「ぽい?」
「いや、気にするな。あ、それと、絶対に艤装は出すなよ?」
「? 艦娘にたいして攻撃するわけないっぽい」
カーテンを一気に開けた。今回建造した艦は軽空母ヌ級だった。
「!?」
夕立は約束通り艤装は出さなかったが、完全に戦闘体制になっていた。まぁ、予想通りだった。艦娘としては正しい反応だ。
「提督さん!深海棲艦がいるっぽい!近付いちゃダメっぽい!」
俺は、夕立の警告を完全に無視してヌ級に近付いた。よく見るとヌ級から赤いオーラ?のようなものが出てきていた。
そのヌ級はelite種だった。生まれながらにelite とか、人生勝ち組じゃん。
「提督さん!」
「大丈夫だ、なぜかはわからないがここで建造された深海棲艦は味方だ」
まぁ、2隻目だから確信はないが。
「それに、さっきの出撃で電を庇って沈んだのは駆逐イ級だ」
「そんな…嘘っぽい!」
「じゃあなんでこうやって話している間に、ヌ級は攻撃してこない?」
「…確かにそれもそうっぽい」
やっと信じてくれた。警戒心丸出しだけど。
さっそく俺はヌ級に話しかけてみた。
「ヌ級。お前は人の言葉を話せるか?」
「ソレクライデキル。ハナセナイノハクチクキュウダケダ」
それくらいできるとか言われても…明らかに人の形してないし…てかどうやって喋ってるの?
「一応聞くけど、敵意は?」
「ナイ。オマエニケンゾウサレタジテンデ、オマエノフネダ」
「それはよかった」
いやまじでどうやって喋ってるんだよ、口だと思われる部分一切動いてないぞ。
「これからよろしく。まずは、部屋に案内しよう」
「ワカッタ。タノム。トコロデ、サッキカラテキイマルダシノアレハナンダ?」
ヌ級が、指?で夕立を指して質問をして来た。
「駆逐艦夕立っぽい。」
夕立はそれだけ言うとこちらに助けを求めるように視線を投げてきた。
「夕立だ」
「それだけっぽい!?」
「それ以外に言うことあるか?」
「もういいっぽい…」
それ以外に説明のしょうがない。駆逐艦の夕立。これでいいじゃないか。何が不満なんだろう。
「ユウダチカ、ヨロシク」
するとヌ級は、手?を差しだし握手を求めた。しかし夕立は戸惑っていたので
「握手だ、握手」
と言ったら、理解したようにうなずいてから。
「よろしくっぽい!」
と言って握手をした。
そのあとは、ヌ級を部屋に案内し、執務室に戻った。
「今日の執務終わり!」
「お疲れさまなのです」
「ありがとう。これから、飯食って来るけどどうする?」
「響ちゃんと夕立ちゃんと食べてくるのです!」
フラれてしまった。部屋で1人で食べよう。
「そうか、わかった」
部屋に戻り、適当に飯を食べると、急に眠気が襲ってきた。今日はいろんなことがあったからな。
「眠い。風呂は…明日の朝でいいか」
食器を片付け、着替えて布団に入った。するとすぐに吸い込まれるように眠った。
こんにちは、あずきこまめです。2話を読んでくれてありがとうございます。まぁ、いないとは思いますが、あとがきから読むのが趣味の方は、ネタバレになるので、本編から読んでください。
今回、一番悩んだところがヌ級を喋らせるかどうかです。ヲ級を建造させちゃってもよかったのですが、最初からヲ級は、ゲームバランス崩れそうだと思い、ヌ級にしました。(ヌ級でも十分強い気がしますが…)それと、ドロップする艦娘は、ルーレット回してますので、この娘出してほしい!というリクエストはたぶん受けません(まずそんなもの来ないか)もし3話を待っていてくれる人がいたら頑張ります!(いなくても頑張ります!)感想、アドバイス等くれると嬉死します。よろしくお願いいたします。