くたばってしまえ   作:劇団がんばろうな

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よろしくお願いします。


1、壊れた少年とサイテーな人

 ――人は生まれながらにして不平等だ。

 不平等で、不公平で、生まれで全てが決まる。

 それは当然のことだし、当たり前のことだ。だから別にその点についてはしょうがない。

 しょうがないから、僕はヴィランになった。

 

 ヒーローに限りはあるけれど、ヴィランに限りはない。

 誰にだってヴィランになる権利はあるのだ。

 なんとありがたいことか。幸福か。最高じゃないか。

 だから僕は、”付与川(ふよかわ)厭士(いやし)”はヴィランになった。

 

 ただ、それだけだ。

 ヒーローのように最高にならなくていい。ヴィランは気楽だ。

 ナンバーワンよりオンリーワン。一人一人皆違って、皆最低だ。

 

 ――これはそんな僕が最低のヴィランになった物語。

 

◆

 

 

 切っ掛け一つで人は今まで人生を大きく変える。

 レールが決められた人間ほどその傾向が強く、大きく変貌する。

 僕も切っ掛け一つで人生を大きく変えてしまった。

 が、変わることは悪いことじゃない。変わることで人生がより良くなることもあるのだ。

 

 ”医者”になるという道は消えてなくなり、ヴィランになったが、今までの人生よりも充実している。

 初心者大歓迎。週休二日以上でアットホームな職場だ。

 成果主義的な部分もあるが、今の所食いっ逸れることなく生活できている。

 幸せだなぁ、と思いつつ、僕は職場である建物のドアを開ける。

 

「おはようございます」

 

 そう言って僕が挨拶すると、席に座り新聞を読んでいた”彼”がこちらの方へと顔を向ける。

 

「やあ。今日も元気そうだね厭士」

 

 そう言って彼こと”スケアクロウ”は口角を吊り上げる。

 が、目は笑っておらず、その濁った黒には少し緊張した素振りの僕が映る。

 相変わらず目が怖いなと思いつつ、辺りを見回しながら返答する。

 

「おかげ様で毎日が幸せですよ」

「はっはっは。それは良かった」

 

 感謝されるのは嬉しいね、と言いつつ彼は新聞を折りたたむと僕の方へ投げる。

 慌てて新聞をキャッチし、彼の顔を見ると、酷く歪んだ笑みを浮かべながら彼は言った。

 

「私は今最悪な気分だよ」

 

 受け取った新聞を見る。

 そこにはでかでかと”オールマイト”の記事が載っていた。

 

「私はね――暴力が嫌いなんだ。人間は知恵を駆使してあらゆる生き物に勝利し、動物という枠組みを超えた。なのにそれを力でねじ伏せるというのは人間への冒涜ではないのかと思うんだ。ましてや正義と呼ばれる者が力で解決して、それが正しい、素晴らしいと褒め称えられる行為はサルの社会とさほど変わらないんじゃないかとさえ思ってしまうよ」

 

 そう言って彼はため息を吐く。

 

「いやでもスケアクロウも部下に暴れさせてますよね」

「はっはっは。ヴィランなんだから仕方ないだろう? 私が言ってるのはそれが正義としての行いと信じ込んでいることだ。まあ、ただの難癖なんだけれども」

 

 ――理不尽な話だろう? 

 彼は僕に問いかける。

 僕は頷くことしか出来なかった。

 

「いつだって人は自分勝手だ。都合が悪いと良いように解釈し、良い部分と悪い部分を掻い摘まんで見る。面白いよな。馬鹿馬鹿しいよな。良い暴力と悪い暴力があるんだぜ。暴力には変わりないのにな」

 

 嘆かわしい、とオーバーな素振りで彼は茶化すように僕に問いかける。

 

「君もそう思うだろう?」

「はい」

「金で動く特殊警察をヒーローと呼ぶ社会を滑稽に思うだろう?」

「はい」

「無個性の者を差別し、ヒーローになる権利を与えない。不平等な社会はおかしいと思うだろう?」

「はい」

「では雄英に入学したまえ」

「はい……はい?」

 

 耳を疑った。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか……!」

「そのままの意味だよ。ヒーロー育成の最高峰、雄英高校に入学したまえ。なあに、心配しなくても入学の手続きは済んでいる。それにヒーロー科ではなく普通科だ。安心しただろう」

「……突然のことで不安でいっぱいです」

「ははは。ちゃんとお給料は出るからね。いつも通り完璧に任務をこなしてくれ」

「……はい」

 

 スケアクロウの強引さからして大事な任務なのだろう。僕ができるのは了承以外ない。

 なんてアットホームで楽しい職場なんだろう。素晴らしすぎて涙が出そうだ。

 はぁ、とため息を吐きながら気になっていたことを訊く。

 

「ところでこの床に這いつくばってる人たちはなんですか?」

「ああこれはね。取り調べに来た警察はぐっすり眠っているね。幸せそうだ」

「もがき苦しんでいるように見えるんですが……」

「そうも見えるね。じゃあ片付けさせよう」

 

 彼は手を叩き部下を呼ぶ。部下たちは警察たちを抱え、どこかへ消えた。

 ……そろそろ職場が移転しそうだなぁ、と思いつつ僕は新聞の間に挟まっていた入学手続きを読むのだった。

 

 

◆

 

 

 ――雄英高校。有名なヒーローをいくつも排出している有名な学校で皆の憧れの高校。そしてヴィランからは魔の巣窟と揶揄されている学校である。僕もヴィランの端くれとして同じような意見だったが、スケアクロウは違っていた。

 

『雄英にはたくさんの原石が眠っている。ヒーロー科じゃなくて普通科の方にね。彼らはずっとヒーロー科のおまけ、比較対象として扱われるんだ。嫉妬や鬱憤も溜まっているだろう。君はその中でもヒーロー科を目指していたが落選した者の個性をピックアップしてこちらへ引き入れてほしい。出来ればサポート科からも何名か欲しいが……彼らは難しいだろうから普通科に絞ってくれ。別に無個性でも使えない個性でもなんでも引き入れそうなら入れてくれてもかまわない。初心者大歓迎だ。じゃんじゃん悪の道へと引きずりこんでくれたまえ。期待しているよ』

 

 要は『人手不足だからチンピラ以外の人手がいっぱい欲しい。即戦力が特に欲しい』ということだろう。

 僕の役割は人事……まあ、スカウトみたいなものだ。光には必ず影がある。その影を闇へと勧誘するお仕事だ。

 シンプルで素敵なお仕事だ。頑張ろう。

 

 どうやら今年からオールマイトが講師になったらしい。なのでより強い憎しみや嫉妬を抱くだろう。うれしい限りである。あとはどのようにヒーロー科と対立させ、人材を確保するかという状況だ。

 ……まあ、何とかなるだろう。楽観的にいこう。

 

 と、そんな時スマートフォンが震える。

 電話だ。相手は――うん。予想通りスケアクロウではない。

 彼の本業(実際は副業)は医者であるため平日は基本的に忙しいのである。

 

「もしもし」

『はーい厭士くんおっ久しぶり~。元気でしたー?』

「僕はいつだって元気だよ。目から血が流れるぐらい元気」

『え、血が出るほど? 欲しいな厭士くんの血。うん、欲しい。コップ一杯ぐらい欲しいな!』

 

 何ともサイコな発言をしている彼女は渡我被身子(トガヒミコ)。僕の幼馴染であり、連続失血事件の犯人だ。彼女はスケアクロウが苦手とする暴力が必要な仕事を与えられていた筈だ。彼女の戦闘スキルはヒーローに適用するレベルなので彼は彼女を重宝している。

 

「で、僕に何か用?」

『えっとですね。えへへ……ちょっとデートしてほしいなぁって」

「ん~。トガちゃんは積極的だねぇ」

『えへへ……! で、どうかな?』

「うーん、今どこにいる?」

 

「後ろ!」

 

 そう言ってトガちゃんが後ろから飛び出してきた。

 まさか過ぎる。いや声全然聞こえなかったんだけど。相変わらず謎が多い少女である。

 まあ、でも都合がいいのでちょっと手伝ってもらおう。

 

「ちょうど良かった。ちょっと荷物が多いから人手が欲しかったんだ」

「じゃあ事務所までデートですね!」

 

 そう言って屈託のない笑みを見せるトガちゃんに癒される僕。

 無邪気で可愛らしい。どこで付いたのかわからない頬っぺたの血がその無邪気さを引き立てている。

 最高にキュートだ。可愛いねトガちゃん。

 

「で、これなぁに?」

「雄英の内部機密」

 

 

◆

 

 

 入学式から一週間が経ち、環境に慣れたタイミングで早退し、担任から拝借した予定表やスケアクロウから斡旋してもらったヴィランによってコピーを作成することに成功した学園の図面。等々、気づけば一人じゃ持ち運べない。持ち運べば怪しまれる量になっていたため、トガちゃんの存在はありがたかった。

 

 しかも暴力担当なこともあって普通の女子なら持てなさそうな荷物も軽々と持てる。たくましいぜトガちゃん。

けど女の子にたくましいとか言ったら駄目なので愛しいに置き換えよう。愛しいぜトガちゃん。

 

「厭士くん厭士くん! デートだよデート! たのしぃね!」

 

 きゃっきゃとはしゃぐトガちゃんを見ると思わず笑みが零れた。

 なんと充実した人生だろう。幸せすぎる。とってもハッピー。スペシャルハッピー。今日はトガちゃん記念日だ。幸せすぎて怖いね。

 

「じゃあ、ちょっと血ぃ貰うね!」

 

 そう言ってトガちゃんは僕の腹部にナイフを突き刺した。

 げふっ、と吐血しつつ鋭い痛みに意識を失いそうになるも、寸前で耐える。

 相変わらずの行動力お化けっぷりに涙しか出ない。突拍子のない行動に定評がありすぎる。

 

「しょうがないなぁ」

 

 ちうちうと血を謎の装置で回収するトガちゃん。そしてあまりの痛さに手が震える僕。

 そろそろ死にそうなので死なないよう足掻くべく、近くにいた人に狙いを定め――。

 ――とナイフに刺された致命傷が完全に回復した。便利な個性である。

 

 そんなわけで僕は全回復しハッピー。トガちゃんも僕の血を採血出来たのでハッピー。

 皆ハッピーだ。皆笑顔で皆いい。急に人が倒れたからか人が集まっているけれど、僕らには関係ないことだろう。人の人生に干渉するほど人が出来ていないのだ。

 

 ヴィランだからしょうがないね。

 

 とりあえず服が血まみれだと目立つので僕は自分の鼻を全力で殴り、鼻血を出したことにして誤魔化す。

 なんという豪快な鼻血だとすれ違う人は思うのだろうか。まあ思わないだろう。早くこの場から離れよう。

 

「行こうトガちゃん。このままじゃ僕は出血多量で死んじゃいそうだ。死なないけど」

「矛盾だね厭士くんっ。あっはっは!」

「ごめん。何が面白いのかわかんないや。わはは」

 

 とりあえず笑ってみるが何も面白くなかった。ダラダラと情けなく鼻血が流れ出し、とても気持ち悪かったので個性を使用し、鼻血を止める。またしても人が倒れたが熱中症だろうか。水分補給はしっかりしよう。

 

「ああ、忘れた。トガちゃん――もし、新しいお友達が増えるならどんな個性だと嬉しい?」

「個性……? そうですねー、”人を思いのまま操る”個性なら面白いです」

 

 なるほどね。

 じゃあ探そう。人を操る個性。

 楽しみだなぁ。と僕は期待に胸を膨らませながらトガちゃんと一緒に雄英の内部機密を持ち帰るのだった。

 

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