くたばってしまえ   作:劇団がんばろうな

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2、友達の作り方と誑し方

 

「――人の誑し方?」

 

 資料を渡し終えた後、僕は誑しのスペシャリストことスケアクロウにアドバイスを貰うことにした。

 スケアクロウは弱っていた僕を誑し込んだ実績のある人誑しだ。都合のいい言葉を並べ、欲しかった言葉を差し出し、一気に絡めとる。その手腕は流石と言わざるを得ない。

 

「私は人を誑すような器用な真似は出来ないよ。強いて言うなら……そうだな。相手の気持ちを考えながら行動することかな。相手の立場になって考えるんだ。どういう言葉が欲しいのか。何を言われるのが嫌か。一つ一つ慎重に言葉を選んで、最後のピースが当てはまるまで選んで、パズルが完成したら人は簡単に落ちる。呆気ないだろう?」

 

 そう言ってスケアクロウは憎らしく笑う。

 これが全てというわけではないだろうが、人の誑し方入門編といったところだろう。

 正直な話、彼が被害者(ぼく)相手にここまで話してくれるとは思わなかった。

 もう大丈夫と判断したのだろうか。ここで僕が彼に個性を使用したらどうなるのだろうか。

 

 ――どうなるのだろうか。

 

「――私に個性を使おうとなんて思わない方がいい。大人だから子供の我儘に付き合って貰えると勘違いするのか? 目には目を、暴力には暴力。個性には個性だ。厭士、君は好奇心で全てを棒に振る程度に愚かだったか?」

「…………やだなぁ。そんなこと考えてませんって。神に誓ってもいいですよ」

「なら良かった」

 

 と、そんな和気あいあい会話があり、色々と試してみようと思った。 

 とりあえず、ヒーロー科への悪評を流すことにした。

 

 ――ヒーロー科は普通科を自分を引き立てるモブにしか見えておらず、常日頃馬鹿にしているヒーローらしくない者ばかりである。彼らがヒーローになりたいのは正義感ではなく、ただ金欲しさで、助けを求める人も飯の種にしか見ていない。

 と、嫉妬丸出しの噂を垂れ流す。適当な嘘なので殆どの者は聞き流すが、ほんの一部の人間はその噂に食いつくだろう。そのほんの一部を探すのが僕の仕事である。

 

 こういう詐欺に引っ掛かりやすい人間をあの手この手で誘惑し、引き入れる。

 ありえない嘘であろうとも、自分の都合の良いことだけ取り入れる者は騙しやすい。

 まあ、二、三人ぐらいが目標だ。少しずつ少しずつ引き入れていこう。

 

 

 

 

 なぜか上手くいった。

 予定では二、三人程度引っ掛ける予定だったが、普通科の殆どが騙された。

 いや、正確には適当な嘘がわりと当たっていたようである。

 どうやら本当に人をモブ扱いする素晴らしいヒーローの卵がいたようで、それが上手く噛み合ったみたいである。ヒーロー様々。名も知らぬヒーローに感謝しよう。

 

 というわけで土台は整った。 

 後は――。

 

「厭士ー、一緒にマック行こうぜー」 

「おっけー」

 

 友達作りだ。

 

 

 

 

 どの集団にも一定の数、集団を嫌う者がいる。

 とりあえず批判したい者、周りに馴染めない者、嫉妬に狂った者、エトセトラエトセトラ。

 そういった者たちは自分と同じ思想の元の人と集まりやすい。

 僕をマックに誘ったこの三人は他の人たちに比べて一段とヒーローを嫌う者たちだった。

 

「ほんと嫌になるよな。ヒーロー科ばかりちやほやしてさ」

「そうそう。学校が差別を助長してる。それは教育機関として問題があると思うんだ」

「俺たちだって同じ生徒なのに酷い話だよ全く……」

 

 彼らの言葉には確かにと思う部分もある。ただ、このような声は全て嫉妬として扱われてしまうのだ。

 それほど雄英のヒーロー科というのは世間的にも大きなものなのである。

 彼らがどうしてその雄英を選んだのかはわからないが、彼らにとって雄英のヒーロー科という花形の存在は酷く煩わしいのだろう。ああ、わかるよその気持ち。……いや、わからないや。

 

「確かに酷い話だよね。僕らは純粋に雄英の充実した設備と、難関大学への進学率で選んだのにさぁ」

 

 にぃ、と笑いつつ釣り糸を垂らすように言葉を投げかける。

 

「そ、そうだ! 俺たちはヒーロー科じゃなく普通の高校として入ったんだ!! なのに周りは皆ヒーロー科ヒーロー科って……」

「おまけ扱いって酷い話だよな!」

「これだから雄英は……」

 

 と、またしても雄英の批判が始まり僕はにこにこと微笑んだ。

 最初に同意した彼は恐らく、ヒーロー科への嫉妬だ。心のどこかでヒーロー科に転入したいという願望が透けて見える。後の二人は文句を言いたいだけだろう。もう少しばかり時間が必要だ。

 

 けれど、最初の彼はもう問題ないだろう。

 そう判断した僕は彼に狙いを定めた。

 

 そして時間が経ち、楽しかった放課後マックが終わる。

 

「ちょっといいかな。君に見せたい場所があるだけど、行かない?」

 

 ――そう言って僕は彼を勧誘した。

 ヒーローについて何か思うところがある人の集まりで、皆で意見を交換しあったり、ヒーロー主義的な社会を議論し合う場所であることを告げると、少し興味がありそうなそぶりを見せる。

 彼は心のどこかで自分はヒーローになれないと諦めつつも、その一歩が踏み出せないでいる状態だ。

 だから彼はその憧れを自ら捨てる切っ掛けを欲している。

 

 なので僕はその切っ掛けを与えることにした。

 誰かが困っているとき、助けるのは人間として当然だ。

 喜んで背中を押して、ヴィランの道へと突き落そう。

 

「主催はね、僕の知り合いのおじさんなんだ」

 

 君のような人を探してる人でね、話が合うと思うよと僕は新しくなった事務所のドアを開ける。

 

「やあ」

 

 

 

 

 次の日、彼は学校に来なかった。

 病気ではないようだが、どうも体調が優れないらしい。

 ……まあ、明日には来れるだろう。スケアクロウがそう言っていたのだから、そうに違いない。

 ここに来て初めての友達だからか、とても心配でしょうがなかった。

 

 彼の個性はあまり役に立たなさそうだが、十分役割がある。

 なので元気な姿を僕に見せてほしい。そうじゃないとヴィランに引き入れた意味がなくなってしまう。 

 さて、ある程度の人数は確保出来そうだが、どれもこれも個性は突飛なものではない。

 もっとぶっ飛んだ。そう、トガちゃんが言っていた人を操るような個性が落ちてないものか――。

 

「えっ、心操くんの個性って『洗脳』なんだ~! 凄いね!」

「……ははっ、そんな強力な個性じゃないよ」

 

 ――落ちてた。

 僕は廊下で駄弁っている彼に目を付けた。

 

 

 

 

 心操人使(しんそうひとし)。個性、『洗脳』。彼の問いかけに答えると洗脳のスイッチが入り、彼の思い通りに操ることが出来る。ただし、衝撃が加わると洗脳は解ける。洗脳は彼の意志で自由にできるため、使い勝手はいい。どちらかと言えばヴィラン向けの能力だが、使い方次第ではヒーローに――。

 

「向いてないだろう。目立つ仕事のヒーローがそんな弱点一つで無個性と化す個性で活躍できるわけない――」

 

 そう言ってスケアクロウは僕が調べた心操の情報を見てにやにやと厭らしい笑みを見せる。

 

「だが、ヴィランには向いている――。最高だ。洗脳を自由にできる部分と明確な弱点がある部分が特にいい。こちらが弱点を握りさえすれば彼の洗脳が無意味と化す。が、彼を知らない者は洗脳することが出来る。――トガヒミコ以来の優秀な人材――そう思わないか厭士」

 

 スケアクロウは浮かれていた。

 それもそうだろう。ただの鉄砲玉――人材集めが目的で、個性の強さなど二の次だったが、予想以上に協力な個性が、それもヒーロー科ではなく普通科で見つかった。

 あまりにも運がいい。彼のシナリオを超える展開だ。浮かれてしまうのも無理はない。

 この浮かれっぷりは僕をヴィランにした時、トガちゃんを引き入れた時以来だ。

 ――失敗は許されないだろう。

 

「同意見です」

「ならよし。では任務を変更しよう。――どんな手を使ってでも心操人使を手に入れろ。人材確保は二の次でいい。最優先事項だ」

「了解致しました。では僕はこれで――」

「ああ、待った」

 

 スケアクロウは出ていこうとする僕を引き留め、その濁った目をこちらに向ける。

 

「――ちょっとお茶しない?」

 

 

 

 

「コーヒー二つ。ミルクと砂糖はどちらも一つでお願いします」

 

 かしこまりました。と店員は頭を下げその場から離れる。

 少しの間静寂に包まれ、しばらくすると店員はコーヒー二つテーブルに置くと、そそくさとその場を離れた。

 誠実そうだがどこか胡散臭い雰囲気のある男と、制服姿の少年。そして会話の一つもない。そんな所に一秒でも長くいたくないだろう。

 僕は黙ってコーヒーにミルクを注ぎ、砂糖を入れるとマドラーでかき混ぜた。

 

「で、要件はなんですか。わざわざ場所を変えるなんて他の人に聞かせたくなかったからでしょう」

「まあまあ、とりあえず一息吐こうじゃないか。ここ最近色々と任務を押し付けて悪かったね。今日は私の奢りだ。沢山注文したまえ」

 

 そう言ってコーヒーを飲む僕を見ながら出来る上司のような口ぶりのスケアクロウ。

 お言葉に甘えて一息吐かせてもらうことにした。

 こうしてゆっくりするのも久しぶりな気がする。最近は特に忙しかし、環境の変化もあってか疲れが取れていない。そういう意味ではありがたかった。

 

「そんな大事な話ってわけでもないんだ。ただ、――雄英を襲撃するだけだよ」

「……っ!? げふっ……!」

 

 危うくコーヒーを吹きそうになるも寸前で何とか飲み込むことが出来たが、あまりの衝撃にむせてしまった。

 そんな姿を見てスケアクロウはにやにやと笑う。

 ……相変わらず性格が悪い。最高にヴィランだ。

 

「それだと僕の潜入が無意味になりませんか?」

「ああ、違う違う。私たちが襲撃するんじゃないんだ。どうやら別のヴィランが私らのように団体で行動するようになったみたいでね。ヴィラン連合というらしいんだけど、数が足りないから適当なヴィランを貸すことになったんだよ」

「ヴィランが……団体で……」

 

 ヴィランの個々は強いので基本的には群がらない。だからヴィランは連合を組むことはないが、特例はある。 

 スケアクロウのように強いトップが無理やり集めるパターンだ。おそらく、そのヴィラン連合とやらも強いトップが無理やり従わせているのだろう。

 ……少し興味が湧いてきた。

 

「で、今後私たちがヴィラン連合に入る可能性が出てきたので話し合いをしようということになってね。雄英にいる君には是非とも参加してもらいたんだ」

 

 ――そう来たか。

 スケアクロウはヴィラン連合とやらに入ると言いつつ、トップ次第ではそのまま根こそぎこちらに入れようと考えているのだろう。強力な個性は心操を引き入れさえすればしばらくは問題ない。わざわざ普通科の一般人をヴィランにするよりはすでにヴィランの者を引き抜く方が手間が省ける。

 

「わかりました。予定を開けておきます」

「よろしい。で、トップの者の名前だが――」

 

 ――死柄木弔(しがらきとむら)と言うんだ。

 

「……変な名前ですね」

「ははっ。君が言うなよ厭士ぃ~」

「ははは。案山子(スケアクロウ)とか自称している大人に言われたくないですね」

 

 はっはっは、と二人して笑い、拳が飛び交う。 

 上司であろうと社長であろうと関係ない。ヴィランは自由なのだ。

 だから最低だ。最低で、馬鹿馬鹿しい。

 

 なので一発だけぶん殴ってやろう。

 そんな馬鹿馬鹿しい喧嘩は店員に止められるまで続いたのだった。

 

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