言い忘れていたことだけど、ヴィラン連合の襲撃は失敗に終わった。
特に興味はなかったので少ししか触れなかったが、彼らの隠し玉である”脳無”は捕獲され、ヴィラン連合の殆どは捕まった。
スケアクロウはいい在庫処分が出来たと言わんばかりの様子でご機嫌だった。
まあ、あれで倒せたのであれば苦労はしない。
ヒーローが強敵であればあるほどヴィランはしぶとく蘇るのだ。
ヒーローは少数精鋭が基本なのでヴィランは数を用意しなければならない。
そのための僕だ。元気溢れる普通科の皆を悪い子にしてあげよう。
今は十人ほどだが、いずれ普通科の殆どの生徒をヴィランに引きずり込もう。
それが僕のお仕事だから。
「今日は雄英体育祭だー。普通科でも頑張ればヒーロー科に編入出来るかもしれないから、皆頑張れよー」
担任の軽い言葉はジョークだったらしく、クラスメイトはどっ、と小さな笑いが起こる。
そう、体育祭はヒーロー科がメインだ。
個性の誕生により衰退したオリンピックの代わりと化しているらしく、日本全国で中継されている。
勿論、それを有名なヒーローたちは見ており、欲しいと思った生徒をスカウトしたり、とヒーロー希望の生徒たちが自分を売り込む場である。
だから僕がそれをかき乱そうと思う。
スケアクロウからの追加任務、『雄英体育祭でいい成績を残せ』をクリアしなければならないのだ。
いい成績とはまあ、上位ということか。とりあえず目立てという意味なのだろうか。
わからない。が、勝たなきゃいけないらしい。
とりあえず、心操に会っておこう。
と、廊下に出ると心操がいた。
心操の他にも数人の普通科の生徒がいる。
その中には僕がヴィランに引き入れた男もいた。
「A組に行こうぜ厭士。どんなやつらがいるのか一度見ておきたい」
ああ……今日はいい日になりそうだ。
◆
僕らが向かったのはヒーロー科、A組の前だった。
彼らはヴィラン連合に襲われたが生還したクラスである。
何とも頼もしい。出来たらこちらに欲しい人材である。良い部下になりそうだ。
と、職業病が出つつも僕は彼らを観察する。
……何というか、個性豊かだとだけ言っておこう。
心操は入学試験で落ちたが、彼らは合格するレベルに達しているのだろうか、少し不安になる。
ただ、今の僕は普通科生徒Bだ。宣戦布告する心操を後ろで見守るだけのモブだ。
僕は先に挑発した少年の情報を調べるよう僕の隣にいたヴィランの生徒に目で指示する。
彼は頷きつつ心操の言葉に共感している素振りを見せる。
中々優秀だ。スケアクロウに昇進させるよう伝えておこう。
「行こうぜ、厭士」
そう言って心操は離れるように言う。
僕はヴィランの彼に他のメンバーを引き連れて離れるよう指示し、僕は心操に近づいた。
「油断するなよ心操くん。彼らは雄英の試験に合格した個性の面々だぜ」
「…………」
途端、彼の顔は青ざめる。嫌なことでも思い出したのだろうか。可哀想に。
「安心しなよ。僕も君がヒーローになるよう全力でサポートするからさ」
「……お前はいいのか?」
「僕……? はははっ、僕の個性じゃちょっと難しいかな。僕の個性は治癒系だしね」
「そう、か……」
僕は見逃さなかった。
心操は今ほっと安心したその仕草を、見逃さなかった。
自分よりも勝ち上がれそうにない僕を見て安心したのだろう。
仲間だなんだと言っても結局は敵同士。限りなくゼロに近い、普通科編入という切符を取れるかもしれない相手はいない方がいい。だから僕が諦めて彼のサポートをするかのような発言は彼がたまらなく欲しかった言葉だ。
人間らしさが出て面白いなぁ。と思いつつ僕は歪に吊り上がりそうになる笑みを噛み殺した。
「僕は普通科の誰かがヒーロー科になるのを見たいんだ。心操くん、僕は君が一番普通科でヒーローに近いと思ってるよ」
欲しいであろう言葉を彼に渡していく。
そうやって褒め殺し褒め殺し。
信用を勝ち取った。
普通科で腐りきっている少年を応援する少年Bとして、彼の舞台に入ることが出来た。
なるほど。スケアクロウもこれが狙いだったのか。
これで後は僕が彼よりいい成績を出せばいい。そういうことだろう。
じゃあ目指さなくちゃだ。
ヒーローを目指そう。そのためにはヒーロー科に入らなくちゃな。
わはは。最高のヒーローを目指そうか。最高だな。ははは。
そう、これは僕が最高のヒーローを目指す話だ――。
◆
そして雄英体育祭が始まる。
雄英体育祭のメインは僕ら一年生ではなく、三年生だ。
なので僕らはおまけのようなもの……と言いたいのだが、どうもヴィランの襲撃にあったA組を見たいからか会場は人で溢れていた。
ヒーローに囲まれているというヴィランとしては最悪の状況である。まあ、僕は目立ったことはしてないので顔やら何やらはばれていないから問題ないが、やはり冷や汗を掻いてしまう。
「これだけ人がいると緊張しちゃうね心操くん」
「…………」
「心操くん……?」
どうやら僕の声も聞こえないぐらい集中しているようだ。
そりゃそうだ。このチャンスを逃せば次は来年。入るなら出来る限り早いうちでないと周りと差が出来てしまう。まだ入学したばかりの今を狙うのが得策だろう。
「お互い頑張ろう――」
僕らの目標は勝ち上がることだ。
たとえゴールが違っても、道は同じなのだから。
◆
『さあ、始まるぜ雄英体育祭、第一種目”障害物競争”! 実況は俺、プレゼント・マイクでお送りするぜ!』
そう言って僕ら一年生は狭いスタート地点に押し込まれる。
人がいっぱいだなぁ。まあ、その方が都合がいい。人がいればいるだけ個性が使いやすくなる。
後は……そうだな。心操くんにはとりあえず勝ち上がってもらうことを祈りつつ、自分の準備をする。
『用意はいいか? じゃあ行くぜ……スタートォォォ!!!』
プレゼント・マイクの合図と共に皆が一斉に動き出す。
と、生徒の一人が先頭へと繰り出した。
彼はえっと……ああ、そうだ。あらかじめ情報を調べていた少年だ。
確かエンデヴァーの息子の――轟だっけ。
その瞬間、彼が先頭に出た理由がわかり、僕は咄嗟に周囲の生徒を使い、上に飛び上がる。
刹那、地面が一瞬にして凍った。
彼の個性は燃やしたり凍らしたり出来る便利な個性だった。危ない危ない。油断してた。
油断するなと言いながら油断するとは情けない。油断大敵だぜ僕。
「酷いことするなぁ」
思わずぼやきつつも僕は足が凍ってしまった彼らを放って先へ行く。
僕の個性は戦いに向いていない。そしてこういった競争にも向いていない。
なので雄英体育祭にミスマッチだ。けれどもいい成績を残さなくてはならないので個性を使用せず勝ち上がることが求められている。
とは言え、内容はヒーロー科の試験を強化した程度だ。大体のことは何とかなる――。
「あっ――」
僕は崩れた試験用のスクラップに押しつぶされた。
下手したら死ぬレベルのダメージだ。しょうがない。分散しよう。
じゃあ三人ほどで。と先ほど念のために準備していた個性を使用する。
「痛っ……あー、危なかった」
……これ、ヒーロー科以外のこと考えてないんじゃないだろうか。
もしかするとこれ放っておいても問題ないのではと思ったが、雄英のことだから何か策があるのだろう。
そういえば雄英にも治癒能力持ちがいたんだっけ。
治癒能力がいるから怪我しても問題ないというのは共感が持てる。
崩れても崩れても治せばいい。結果論で語っていこう。
ただ、考え方が少しヴィランだ。それともヒーローが助けることを前提で計画しているのだろうか。
なら、僕がダメージを負ったのは失敗じゃないか。
『あ、アクシデーンツ!? おいおい普通科の生徒が巻き込まれたぞー!! 大丈夫かー!?」
「……僕は大丈夫ですよー」
そう言って僕は手を振る。
ここで下手に時間を食うわけにも行かないのでそのまま先へと進む。
周りから個性がばれただろうか。背後で倒れている彼らと結び付けられるだろうか。
ばれたらばれたで面白いが面倒だ。気づかない振りをしておこう。
次は何とも珍妙な綱渡りだ。
これは難なく乗り越える。
そして次、地雷原の中ゴールへ向かうだけ。
地雷の威力はなく、音だけだそうだが、十分に危険だ。
……危険なのか。ちょっと気になる。なので地雷に触れてみる。
ばぁん、と地雷が稼働し、躱した僕を置いて背後にいた生徒が吹き飛ばされる。
そこまでの威力はないが、十分に危険じゃないか。
少し怪我をしたので回復。これで問題ない。
『おおっと地雷によって吹き飛んだぁ!! ……起き上がらないが、大丈夫? ちょっとー救護班ー!』
想定以上に怪我人が続出しているようだ。いやー、怖いなぁ。
そう思いつつ僕は個性を使い、人数を削りつつゴールする。
順位は二十位台。まあまあいいところに食い込んだと思う。
「よう厭士、やっぱり残ったか」
声がした方へ顔を向けると心操がいた。
心操は周りがヒーロー科ばかりで心細かったのか話せる相手を見つけた彼は緊張が解れた様子だった。
顔つきは怖いが内面は何とも普通である。だから見てて飽きないなぁ、と思う。
「はははっ、何とか残れたよ。心操くんはどこか余裕そうだね」
「余裕なわけねえよ。心臓バクバクだ」
二人してそんな会話をしつつ、辺りを見回す。
やはり、ヒーロー科しかいない。つまり、周りは敵だらけだ。
ただ運良く生き残っただけだとでも思っているのだろうか。少し不思議そうな目で僕らを見ている。
彼らは
有象無象とでも思っているのだろうか。
それなら――都合がいい。そういった隙があれば仕事が楽になる。
さて、どうしようかと次の種目を考えていると――。
「やあ、君たち普通科だろう? よくここまで残れたね」
異質な雰囲気を放っている僕らに話しかける者が現れた。
「僕は物間寧人。B組……つまり、ヒーロー科さ。で、要件なんだけど、――僕と組まないかい?」
爽やかな印象ではあるが、どこか人を苛立たせるような立ち振る舞いを見せる彼は、自身を物間と名乗った。
内容をまとめると、彼は目立ってばかりのA組を憎んでいるらしく、彼らを蹴落とすために一時的にチームを組まないかというものだった。
なるほどなるほど。
「遠慮しておくよ」
僕はそう言った。
「へえ……どうしてかな?」
「僕らはそんなことせずとも勝てるからだよ。ねえ心操くん」
「あ、ああ……」
「それに――君と組んでも勝つ未来が見えないな」
彼は自分の策を過信するタイプに見える。計画はいいが、失敗した時のことを甘く見ているタイプだ。
だから失敗したらたちまち破綻。そして僕らもそれに巻き込まれてしまうだろう。
なら組む必要はない。
それに――何でも自分の思い通りにいくと思っているやつの鼻を叩き折る方が僕は好きだ。
僕がスケアクロウを信じているのは彼が負ける姿が見えないからであって、彼からは負ける気配しか感じられない。
なら、組む必要はない。それだけだ。
「なるほど――交渉決裂だ。後で後悔しないようにね、普通科のお二人さん」
じゃ、と彼は立ち去った。
ヒーロー科にもこういう性格の人がいるんだなぁと興味を持ちつつ、僕は第二種目を見る。
第二種目は騎馬戦。四人一組で先ほどのハチマキを取り合うというシンプルなもの。
ただ、ハチマキの得点は先ほどのレースが関わってくる。
上位のハチマキであればあるほど得点は高くなる。そして一位は一千万ポイント。
つまり、一位のハチマキを手に入れた者は勝ちが確定する。
これはチーム選びが重要そうだ。
心操も同じことを考えているらしく、辺りを見回し、唸っている。
そう、相手は身内だらけに対し、僕らは二人しかいないという状況で四人のチームを作るのは困難だ。
なので僕は彼にアドバイスする。
「二人ほど洗脳して仲間に入れよう」
「それしか……ないか」
「不安なのかい心操くん。大丈夫だよ。勝てばいいんだ。勝てば彼らだって次に進める。問題ないだろう?」
「ああ……」
「じゃあ作戦通り行こう」
――僕を洗脳してくれ。
薄れていく意識の中、僕の目には不安と決意が混ざり合い、複雑な表情をしている心操の姿が映っていた。