くたばってしまえ   作:劇団がんばろうな

5 / 10
5、個性:××

 

 ――人は生まれながらにして不平等だ。

 希少な個性を持ち、裕福な家庭に生まれた彼、”付与川癒士”は燃え行く自身の家を見ながらそう思った。

 

 

 

 

 付与川家は有名な治癒の個性を持った医者の家系である。

 治癒系の個性は貴重であるため、個性婚は当たり前で生まれた時から許嫁がいる。

 個性婚は基本的に認められていないが、治癒系個性は貴重であるため、政府から黙認されているのが現状である。

 

 彼はその付与川でも珍しく、”一度触れたもの”を治すことが出来る個性である。

 ただ、使用するたびに倒れたり、血を吐いたりするといった症状が多く見られるため、彼は問題児として一日のほとんどを個性の練習に費やされるのだった。

 

 けれども、彼は使用後何らかの症状を引き起こし、親は失敗作だと認識し、そこから彼以外の兄妹を可愛がるようになった。

 我が子として接するのは外出時のみで、家の中ではひたすら除け者扱い。無能のレッテルを貼り、兄弟たちの雑用を課した。が、彼はひたすら親の期待に応えようと個性の修行を怠ることなく、日々努力していた。

 

 そんな時だった。

 彼の人生を大きく変える出会いは、彼の身体が限界に達していたそんな時だった。

 その日は授業参観で、偶々母親と共に外出していた。

 会話は一つも無かったがそれでも彼は幸せだった。

 そんな幸せが、その出会いによって大きく変貌する。

 

 それは彼が偶々母親と外出している時だった。

 彼らは授業参観の帰りで、母親は外面を気にして彼にとやかく言わず、ただただ普通の親子のように接していた。その時だけが彼の心の癒しだった。

 そんな彼らの前に現れたのは――ヒーローとヴィランだった。

 

 ヴィランはヒーローに捕獲され、そのまま警察に突き出される。そんな時――。

 彼はヴィランに近づき、個性を使用した。

 そして彼は自身の中の何かが彼に流れていくのを感じながらも、彼のダメージが回復するのを喜んだ。

 

 げほっ、と彼は吐血するもそれが心地よかった。

 誰かのためになれる。それだけが心の支えで、両親から褒められる、存在を認めてもらえる瞬間だったから、彼は好きだった。

 

 が、その時は違った。

 

 ぱん、と乾いた音が響く。

 頬から伝わる鈍い痛みに彼は自分が母親に叩かれだと認識した。

 

 母親は鬼のような血相で彼を叱る。 

 どうしてヴィランの怪我を治したのか。まだ自分の能力を使いこなしていないのか。

 付与川の人間として最低だ。顔も見たくない。

 

 憤怒の表情で罵る母親に、彼は首を傾げた。

 

 ――どうしてヴィランだったら治療したら駄目なの?

 

 その言葉を発した後の記憶を、彼は覚えていない。

 気が付けば自宅におり、親は完全に彼をいないものとして扱った。

 少しずつ彼の価値観は狂い始め――人生がおかしな方向へと進み始める。

 

 彼の居場所はどこにもなかった。

 ただ、家に帰りたくないと公園で時間を潰すようになった。 

 そんな時、彼は最悪な男と出会ってしまった。

 

「やあ、こんな時間にどうしたんだい?」

 

 その男は”知原幻覚(ちはらげんかく)”という医者だった。

 彼の個性は『フラッシュバック』と言い、トラウマを何度も脳内で再生できるという個性で、その能力を応用して、人のトラウマを見るのが趣味だった。

 人が恐怖する姿を見るのがたまらく好きで、医者になったのも死に恐怖を覚える人の顔が見たいからという私欲に塗れた理由の、どうしようもない最低な男だった。

 

 そんな彼は癒士という少年を見て、ほう、と思わず声を漏らす。

 癒士のトラウマは見れなかったのである。

 理由は単純だ。彼は人生で一度も恐怖したことがないからである。

 まず、恐怖がなんなのわかっていないようだ。

 

 面白い、と知原は思った。

 どうすれば彼は恐怖という感情を覚えるのだろう。と、自分の個性への理解と、彼の人生への興味により、知原は彼を育てることにした。

 

「なるほど、家に帰りたくないのか」

 

 ふむふむ、と彼は頷くと閃いたとばかりに目を輝かせる。

 

「――なら燃やそう。そんな家なんて必要ない。私が新しい家を用意しようではないか」

 

 彼に出会ったことが癒士の失敗であり、彼がヴィランとして生きる切っ掛けとなった。

 

 そして彼は自身を”厭士"と名乗り、雄英に入る際、付与川と言う名も捨てた。

 彼はまだ真に恐怖していない。恐怖というものが未だにわからず、ただただ探している。 

 壊れてしまった自分が見つかる気がして、ただただ彼はトラウマを探している。

 

 

 

 

 薄れゆく意識の中、走馬燈のように自分の過去が流れ出す。

 どこで道を踏み外してしまったのだろう。どこから僕はこうなってしまったのだろう。

 純粋な疑問が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。

 

 人は誰だって何かに怯えている。

 それを見るのがスケアクロウの趣味であり、個性だ。

 なのに僕は何にも覚えていないという。

 どうしてだろう。家に帰りたくないというのは怯えていたからではないのだろうか。

 

 そう言い聞かせてきたが、スケアクロウは僕のトラウマを見ることが出来なかった。

 もしかすると、僕は怯えていなかったのかもしれない。

 あの時僕が抱いて感情はもしかすると、恐怖ではなく――。

 

 ――怒りだったのかもしれない。

 その時、ふと誰かが僕にぶつかったらしく洗脳が解けた。

 

「――――」

 

 湧き上がる感情に自分が抑えられなくなる。

 僕は思わず”手”を伸ばした。

 何かに縋るよう、その”大量”の手を伸ばす。

 

 そして僕に注がれるのは、彼らの”生命エネルギー”だった。

 

 ――人間が生きるために必要な栄養分、傷が出来た際の再生能力。

 そういった生命が生きるために必要なエネルギー、言うなれば生命力。

 僕はそれらを”吸収”し、傷ついた何かの代わりに負担させることが出来る。

 

 全て肩代わりさせるのは僕か他人だ。傷ついた者はただ回復するだけ。

 なんて不平等なんだろう。選ばれた者以外回復出来ないだなんて、最低だ。 

 でも、仕方ない。だって世界は不平等なのだから。しょうがないのだ。

 

 ……ただ、今回はイレギュラーだった。

 まさか僕の個性が肉体面のダメージだけではなく、精神面にも使用出来るとは――。

 可能性が広がったのは嬉しいが。

 

 今ので使用した人数は十五。全員見学と化していた普通科で代用したが、下手すればばれてしまう。

 ……まずったなぁ。 

 僕の個性はダメージが大きければ大きいほど生命力の吸収量は増える。

 つまり、今回のダメージはそれほど大きかったようだ。 

 

 何とか分散することでダメージ量自体は少ないが、十五人者の人間が同時に体調不良を訴えたら怪しまれるだろう。……何という失態だ。自分で勝手に思い出して、勝手にダメージを受けて、何やってんだろう。

 

 ただ、非常に爽やかな気分だ。

 自分の精神ダメージを彼らが肩代わりしてくれたおかげだろうか、非常に清々しい。

 僕は爽やかな笑みを心操に見せる。

 

 心操は唖然とした顔で僕を見ていた。

 ……失礼なやつだ。

 

 

 

 

 そんなこともありつつ、何とか騎馬戦を終える。

 僕らは心操の力もあって三位という中々の好成績で残ることが出来た。

 順調な滑り出しである。

 

 そして、次の種目は純粋なトーナメント形式のバトル。

 一対一のガチバトルだ。

 ならもう後は好き勝手しよう。僕は一回戦の一試合目で少し緊張気味の心操に声をかける。

 

「心操くん。とうとうここまで来たね。後はもう彼らを倒せば僕らはヒーロー科に編入出来るかもしれないよ。僕は治癒能力だから難しいかもしれないけど、君の個性ならきっと勝ち上がれるよ! 頑張って!」

 

 僕は知っていた。 

 心操の個性はすでにばれている。

 あの尻尾の生えた男は僕と同じように途中で洗脳が解けていた。

 つまり、洗脳の解除法を知っている。

 後はまあ、洗脳の条件だが……ばれているだろう。シンプルだし。

 

 なので、この勝負は負ける可能性が非常に高い。

 いや、ほぼ負けだ。

 万が一勝ったとしても次の試合では能力がばれている可能性が高いので彼が勝ち上がるのは非常に困難だ。

 けれども僕はそれを言わなかった。

 

 これから勝ちに行こうとする相手にそんなこと言うのは良い行いなのか? 

 それは違うだろう。何事もモチベーションというのは大事である。

 例えそれが負け濃厚な勝負であったとしてもそのモチベーション次第で覆すことが可能なのだ。

 

 だから僕は特にアドバイスせず、彼を応援するだけだ。

 それが友人としての正しい行いだろう。

 彼の個性は決まれば確実に勝利を得ることができる一撃必殺のような個性だ。

 

 出来ればこういった場で披露せず、別の場所で発揮するのが正しい行いなのでこの場に出るべきではなかったというのが本音である。まあ、僕としては万々歳なのでいいのだが、彼は勢いがあるものの、どこか抜けている部分が多い。だからこそ僕のような者に付け込まれるのだから、気を付けるべきだったと思った。

 

 万が一を信じよう。彼はきっと勝つ。そう、例え相手がヒーロー科であっても彼は勝ち進むだろう。

 

 

 

 

 心操は負けた。

 彼の洗脳は発動したのだが、なぜか相手の洗脳が解け、呆気なく負けた。

 まじかよ心操。いやそれでこそ心操と言うべきか。

 期待を裏切らない男だ。

 何とも都合のいい負け方だ。個性を使用しつつ負けるという理想的な負け方をしてくれたおかげで、やりやすくなった。彼には感謝しかない。

 

 ……それにしてもどうして彼は洗脳を解くことが出来たのだろうか。

 洗脳された状態で洗脳を解くとは、明らかに異常である。

 これはスケアクロウに報告しておいた方がいいだろう。

 そう思いつつも、どこかすっきりした顔の心操に声をかける。

 

「お疲れ心操くん。惜しかったね」

「……惜しくなんかねえよ。単純に俺の力不足だ」

「いやいや、運が悪かっただけだよ。彼が洗脳を自力で解くなんてあり得ないことだしね」

「……今回のではっきりわかったんだ。俺は個性に頼りすぎてたってな。フォローありがとよ厭士。俺の分まで頑張ってくれ」

「…………」

 

 ……これはまずいなぁ。

 何が切っ掛けかはわからないが、彼は自分が成長する答えを見つけ始めている。

 視野が広がったのだろうか。放っておけばそのままヒーローへの夢を諦めずに終わってしまう。

 振り出しに戻ってしまった。

 

 しょうがない。

 作戦変更だ。少々荒療治だが、仕方ない。

 彼の希望を手早く打ち砕こう。今更どうあがいても無駄だということを知らしめよう。

 なら頑張らなくちゃだ。と僕は笑う。

 次の試合は僕だ。

 

 もう一人の普通科である僕だ。

 恐らく彼と同じ実力であると皆は想定する。

 それを壊そう。ついでにヒーロー科の株を下げよう。 

 それが僕の使命で、役目なのだから仕方ない。

 

 可哀想だけど僕が印象最悪にしてあげよう。 

 内定先がないのなら僕が紹介しよう。

 世間様に迷惑をかける簡単なお仕事だ。

 

 ――面白いだろう? 僕は怪我をした心操を治しつつ会場へと向かった。

 




付与川癒士(厭士)

個性:吸収

 一度触れた生命のあるもの、もしくは自分から生命エネルギーを奪い、怪我を負った者を治療する能力。一度触れ、自分の視野に入ったものであれば離れていても使用できる。
 ただし、一度使用するともう一度触れなければ使用できない。

※触れたものに透明な手のようなものを寄生さえ、効果を使用する際その手が姿を現し、生命エネルギーを奪う。治療するダメージが大きければ大きいほど吸収する量が増える。吸収する相手を分散することも可能。ただし、分散すればするほど一人あたりの吸収量は減る。
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