くたばってしまえ   作:劇団がんばろうな

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8、どうせなら君のようになりたかった

  

 個性は両親から引き継がれる。

 炎を使う父親と氷を使う母親の子供が炎、氷の両方を使用することが出来るようになる。 

 当然、必ずではないが、その特徴を上手く生かすことによって理想の個性を生み出すことが出来る。

 

 付与川家は国から認められた治癒個性の家系だった。

 治癒個性は貴重で、現代医学では到底不可能な治療を数秒で治すことも可能である。

 ヴィランが蔓延るこの世界では回復個性は必須レベルだ。

 故に、付与川家は個性による結婚が認められている貴重な例だった。

 

 結婚相手はすでに決まっており、理想の個性が生まれるまで子供を作らされ、そしてその子もまた結婚相手が決まっており、理想の個性が生まれるまで子供を作らされる。

 そうして冷め切った家庭と積み重なった負の感情により、イレギュラーが生まれた。

 

 付与川の人間が持つ病院は一流のヒーローや選ばれし上流国民のみが使用出来るものだ。

 そのせいか少しずつ価値観が変わっていた。

 回復すべき者とそうでない者がいる。そういった差別的な価値観。

 

 それらの負債を全て抱えたのが彼、付与川癒士だった。

 

 蓄積された付与川の負の部分。不平等な価値観。そういったものを押し付けられ、そしてそれがスケアクロウによって全てが台無しになった。

 彼は全てを失った。

 

 けれども彼はどこか憑き物が落ちたような顔をしていた。

 

 

 

 

 人を傷つけるのは嫌いだ。

 自らの手で人に危害を加えるのは気分が悪くて仕方ない。

 他人に嫌われるのは嫌だ。

 誰にも嫌われず、ただただ褒められたかった。 

 だから好かれようと必死で、いつだって媚を売っていた。

 

 周りの目を気にしては好かれようとにこにこと媚びへつらい、他人の嫌がることは全部やった。

 やりたがらないことをすると皆喜ぶ。そして褒められる。

 だから全部やった。

 

 そして気づけばそれが当たり前になり、負債だけが手元に残った。

 そんな中学生活を送り、気づけば友人の数も少なかったなぁ、と思いつつ僕に対峙する彼を見る。

 友達と言える友達がトガちゃんしかいない。何ともまあ寂しい学生生活を送ってきたことか。

 

「君は恵まれているね。爆豪くん」

「ああん? 何言ってんだ糞モブ」

「そう、それ。そうやって暴言を吐いても君は咎められない環境にいたんだね。だからいくら悪態を付いても暴言を吐いても周りは止めやしない。君が強いから」

「…………」

「でもそれってさ、ヒーローらしくないよね。どちらかと言えば――」

 

 ――ヴィランだよね。

 

 僕は彼が一番言われたくない言葉を、吐いた。

 

 

 

 

 準決勝の相手は爆豪という少年だった。 

 彼はヒーロー科でも目立った存在で、その『爆破』という強力な個性を生かし、成績はトップクラス。今大会の優勝候補だった。

 ただ、その性格に問題があり、極めて凶暴、凶悪。発言が過激で普通科からもその行動によって嫌われている。

 僕の個性でこれ以上勝ち上がるのは無理なのですぐにでも場外に出ようと思っていたのだが、このような面白そうな人物を煽らずに負けるのは勿体ない。普通科の期待に応えるためにもここはこの行動がベストだろう。

  

 なので煽る。

 

「君の行動はどちらかと言えばヴィランだ。ヒーローは人を助け、時にはヴィランでさえ助けるものだけど、君からそういった正義心が感じられない。全て力でねじ伏せて終わり。行動も褒められたものではないし、どうしてヒーローを目指そうと思ったのかわからないや。……ああ、収入かな。プロヒーローだと高額だしね。それなら納得だ。でもさ、万が一ヴィランがいなくなった時、ヒーローは廃止されると思うから辞めておいた方がいいよ。君のような賢い人はもっと別の職種を選ぶべきだと思うんだ」

「――――」

 

 ぺらぺらと適当な言葉を吐くと、彼から怒りと殺気が混ざったような何かが伝わる。

 口から言葉にならないような言葉が聞こえだし、そろそろかなーと思いつつ、僕は身構える。

 

「僕の個性は戦いに向いてないからヒーローには厳しいかもしれないね。あーあ、どうせなら君のようになりたかった。……ああ、それでもヒーローは厳しいか。ヴィランになってしまう」

 

 まあ、すでに僕はヴィランなのだけれども。

 ははは。

 

 と、ジョークを言っていると、爆発寸前と言わんばかりの形相で彼は俺を睨んでいた。

 

「遺言はそれでいいのか糞モブ野郎……!」

「そのセリフも、ヴィランっぽいね」

 

 ははは、と僕は場を和ませようと笑う。

 刹那、爆破により加速してきた彼が飛び掛かってきた。

 とりあえずと言わんばかりに僕はその攻撃を左腕に受ける。

 加減はしているのかダメージはそこまでない。それでも爆破という個性は強力で、少しの衝撃と腕に火傷のダメージを負う。

 

「……強力な個性だ。僕じゃ勝てっこない」

 

 そう言って僕はストックしていた観客に手を伸ばす。

 僕の火傷は無くなり、その観客に負担が行く。

 人生は負債の押し付け合いだ。誰かが貧乏くじを引く。押し付け合った先にあるのは破滅。最後に笑うのは押し付けて逃げた者だけ。なんて酷い話なんだ。

 

「……てめえの個性も強力じゃねえかよ糞が」

 

 爆豪はけっ、と悪態を付きながら汗を拭う。

 治癒系の個性、そして完璧に把握していないという状況は彼にとって面倒極まりないだろう。

 まあ、あの数回だけで僕の個性を把握されても困るが。

 

「――お前の個性、回復だけじゃねえだろ」

 

 ……まじかよ。

 頭が回るやつは、面倒だ。

 ばれても問題はない。が、単純に賢い奴は嫌いだ。

 賢い奴は最後に全てを押し付ける。選ばれた人間だ。

 選ばれたやつは、嫌いだ。

 

「……僕の個性は『回復』だよ。僕は誰かを癒すために生まれてきたんだ」

「馬鹿か。回復だけの奴がここまで上がってこれるかよ。常闇は俺が見た限り少しはやる奴だ。それに勝ったお前が回復以外に芸がないわけねぇだろこの嘘つき野郎」

「そう、だから僕は彼を回復させた。過剰回復ってやつさ」

「それも嘘だ。俺が知ってる限り、治癒系の個性は無傷の者を治せない。それが治癒系におけるデメリットだ。つまり、だ。お前の個性は回復なんかじゃねえ。……何か隠してんだろ、知原」

「――――」

 

 スケアクロウは僕の個性情報に、罠を仕掛けた。

 治癒系個性は傷がない者を癒せない。そのことに気付いた者は危険だが、こちらに必要な人材であることは確かである。治癒個性という少ない個性の情報も頭に入っている者、そういった者が欲しい。

 

 そう、彼は必要な人材だ。スケアクロウはどんな手を使ってでも彼を手に入れるだろう。

 ならちょっとぐらい大丈夫か。もう見つけただけで僕の仕事は終わりだ。

 ここで雄英を辞めても、文句は言われないだろう。

 

「とっておきは隠すものさ。君だってとっておきは隠してるだろう、爆豪くん」

「当たり前だカス。お前みたいなモブキャラに使うわけねえ、決勝でのとっておきだ」 

「ははは」

 

 ――くたばってしまえ。

 僕は会場にいる”傷ついている者”に個性を使用する。  

 ダメージを負っている普通科からヒーロー科、ストックに使えなかった傷ついている者のダメージを、癒す。

 

 そして僕にその負担が押し付けられる。

 僕が怪我人を増やしたから保健室から溢れた軽傷の者が複数会場にいる。

 それと、偶々触れていたヒーロー科の緑谷もそこにいたので癒しておく。

 僕は癒す個性だ。だから癒す。全て治す。それが僕だ。

 そしてその負債を、ダメージを、全て僕が請け負った。

 

 魂が抜けるような、酷く気持ち悪い感覚に襲われる。

 くたばりそうだ。手に力が入らない。

 生命力が減る。要するに死に近づくということだ。

 その感覚はこの世のどれよりも、最悪だろう。

 

 なので押し付けることにした。

 

「全部あげるよ。爆豪くん」

 

 僕はその奪われた生命エネルギーを補うべく、爆豪の生命エネルギーを――奪う。

 

「がっ……!?」

「――見せてくれよ。君の限界を。こんなところでくたばるような奴じゃないだろう?」

 

 先ほど僕が経験した最悪な気分を押し付けた。

 だらり、と鼻血が流れ、彼は吐血する。

 そして身体はガタガタと震えていた。

 何度かそれを味わった僕とは違い、彼は始めてだ。彼はこの死に近い感覚に、恐怖に耐えられるだろうか。

 

 スケアクロウが欲したその恐怖の押し付けを、彼は耐えられるだろうか。

 云わば試験だ。ヴィラン認定試験。合格すれば素晴らしいヴィランになれる。

 素晴らしいヴィランってなんだろうね。ははは。

 

 でも現状はヒーローだ。

 彼はこの会場中の怪我を全て請け負ったのだ。これをヒーローと言わずして誰がヒーローだ。

 素晴らしい正義心だ。彼の生き様はヒーローそのものだ。

 

「これで平等だ。僕と君、正々堂々戦おう」

「くそっ……!」

 

 僕はそのまま彼に勝負を挑む。目に見えて彼の動きが悪くなっており、爆破しようにも威力の調整が上手くいかず、衝撃に耐えきれずそのまま背中から倒れる。

 そんな彼を僕は見降ろした。

 

「大丈夫? 調子が悪そうだね。治してあげようか?」

「うるせぇぶっ殺すぞ!! ぐっ……」

 

 苦しそうに頭を抑える爆豪。

 癒しは平等ではない。誰かが救われれば誰かが酷い目に合う。

 彼はその不平等の犠牲者だ。可哀想に。

 

「立ち上がりなよ。君はヒーロー科だ。僕みたいな普通科に負けちゃいけない。困難を乗り越えてこそのヒーローだ。さあ、立てよ」

「……てめえだけはぜってぇぶっ飛ばす……!!」

 

 触れようとした僕の手に触れないよう彼は爆破を使い、後ろに下がりつつ立ち上がった。

 僕の個性の条件に予測を付けたのだろう。なるほど、こんな状況でも冷静だ。

 ただ個性に頼ってここまで来たのではないことは確かだ。

 戦いにおける知識と、状況判断がプロヒーロー並だ。

 たちが悪い。

 

「口だけじゃなくて行動で示してくれよ。爆豪くん」

「……っ!! 死ねや糞モブがぁ!!」

 

 最後の力を振り絞り、彼は全力の爆破を僕にぶつける。

 威力を抑え、全力の爆風に僕は飛ばされた。

 彼は選んだのだろう。僕を爆破させ倒すのではなく、ルールで勝利することを選んだ。

 

 僕の個性では彼の個性を止めることは出来ない。

 呆気なく僕は場外へと飛ばされた。

 爆豪の勝利が確定する。

 

 おめでとう。僕は君に勝てずに負けたよ。

 君の勝ちだ。呆気ないだろう。僕なんてモブ爆風だけで倒せてしまうのだ。 

 ははは。

 

 ……あーあ。負けちゃった。

 とりあえずスケアクロウに報告するか。

 彼はヴィランに向いている。あの状況でも頭が回り、戦える時点で彼は非常に優秀だ。

 

 僕は悔しそうに俯く。そして普通科の皆から頑張ったねと祝福され、観客からはまばらな拍手が送られる。

 負けたけれども清々しい。これからのことを考えると笑いが止まらない。

 こうして僕の雄英体育祭は、準決勝で終わった。

 

 

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