くたばってしまえ   作:劇団がんばろうな

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9、心操は闇の中

 

 何かに偏るよりも、中途半端が一番いい。

 何かに特化して、何かが欠けているよりも。何でも出来る完璧よりも。

 中途半端だからこそ可能性がある。何にでもなれる。

 だから中途半端がいい。中途半端だからこそ希望に満ち溢れ、気が楽になる。

 

 僕は表彰台からその中途半端な表情をした彼を見ていた。

 

「――――」

 

 心操だ。

 

 彼は表彰台にいる僕を見て、複雑な表情をしていた。

 友人である僕が表彰台に立っていて嬉しいという感情と、どうして自分じゃなくて厭士がそこにいるんだという嫉妬の感情。その二つが混ざり合ったような顔をしていた。

 友情と妬みを天秤にかけているのだろう。

 心のどこかで治癒系の個性では勝ち上がれないと思っていたのだろうか。

 

 僕が謙遜する度に見せるその表情は、ただの見下しだったのではないか。

 だから君はそんな表情をしているのではないか。

 でもそんな非情にもなりきれないのが心操だ。

 

 なんて面白いんだろう。はっきりお前がなんでそこにいるんだと言えばいいのに。

 僕なんかに友情を感じてしまい、本音を噛み殺そうとしている。 

 普通科からヒーロー科への編入、自分よりも高い順位という自分の将来設計を潰された。

 だから彼はこの場で僕を罵っても問題ないだろう。

 

 けれど、そうはしない。彼はとても優しいのだ。

 お人よしと言うべきか、彼は完璧な悪人にはなれないようである。

 その優しい心はヒーロー向きだ。でも個性はヴィラン向きだ。

 素晴らしく中途半端だ。どっちにも向いていて、どちらにもなれないなんて、夢があっていい。

 

 だから僕は彼がやりたかったことをやることにした。

 

「三位おめでとう知原少年!」

 

 そう言って”オールマイト”は僕に銅メダルを授与する。

 

「ありがとうございます」

 

 僕はそう言葉を返すとオールマイトは少しふむ、と考えるような素振りを見せる。

 

「君は普通科だったね。ヒーロー志望だったのは担任の先生から聞いているよ。――確かに雄英(うち)の試験だとヒーロー科は難しいだろう。しかし、別の学校なら問題なく通っただろうに。どうして普通科に入ったのか、聞いてもいいかな?」

 

 僕はその質問に待っていたと言わんばかりに口元を歪める。

 

「――僕は雄英のヒーロー科に入りたかったんです。他のヒーロー科じゃ入っても後悔するだろうな、と思っていたので、思い切って編入制度に賭けてみました」

 

 あはは、と頭を掻きつつ少し緊張した素振りを見せる。

 堂々とせず、より一般人であればいい。

 

「それで今回この順位ですが、僕はまだ満足していません。なので――来年は”ヒーロー科”で一位を目指します」

 

 そう言って僕はオールマイトに”手”を差し出す。

 

「ナイスハングリー精神! 期待してるよ知原少年!」

 

 オールマイトは差し出された僕の手に応えるよう手を差し出し、握手を交わす。

 僕はテレビの前のスケアクロウがにやにやと笑っているのを想像しながらこみ上げる笑いを噛み殺した。

 

 

 

 

 そして表彰が終わり――。

 

「…………」

 

 僕は心操を誘ってマックに来ていた。

 

「どうしたの心操くん。やっぱり試合の後だから疲れてる?」

「……疲れてねえよ。お前より試合数も少ないしな」

「いやいや、僕もへとへとだよ。自分を回復してやっとってとこさ」

 

 そう返すも彼は僕を信用していないらしく、その目つきの悪い目を僕に向ける。

 

「……お前、あれだけ戦えるのにどうして黙ってたんだ。俺はお前が……っ……!」

「――無様に負けるとでも思ってたのかい? で、僕が勝ち進んだから気に食わないと?」

「違っ……! 俺が言いたいのは……!」

「いいんだよ心操くん。勘違いさせた僕が悪いんだ。全部僕が悪いんだ。だから君が不安に思っているであろう嫉妬や妬みじゃないってことは僕もわかってるよ」

「――――」

 

 心操は歯を噛みしめ、その場に俯いた。

 

「僕も勝てるとは思ってなかったんだ。正直一回戦でもう勝てないと思ってたよ。今回勝てたのは運だ。だから僕の実力は君より下だ。心操くん」

「……ならあの表彰台での発言はなんだ。お前の言ってることと真逆じゃねえか」

「表彰台だからこその発言だよ。あの場で運が良くて勝ちました~だなんて言ってみなよ。一気にしらけるぜ? だから普通科を背負った一人の少年の方があの場に適している」

「っ……」

 

 心操は僕の言葉に悔み、不安定な表情を見せる。

 僕の発言全てに食いつきそうな勢いだ。やはり彼は悔しかったのだろう。

 

「どうしたんだい心操くん。君らしくないよ」

 

 僕は彼があの場で言いそうな言葉、行動を選んだ。

 もしも彼が三位になったら、どんなことを話してどんな行動を取るのだろう。

 そう考えつつ僕は彼がもしも自分があの場にいたらという妄想をしやすいよう行動した。

 友人だからこそ、僕は彼の望み通りの行動を取った。

 

 彼の望みを背負った者としては立派に役目を果たせただろう。

 

「……ごめん」

「謝らなくていいよ。これは僕のせいだからね」

 

 僕を罵っても仕方ない立場にいるのに、心操は僕へ謝罪する。

 優しいなぁ心操くんは。だから僕なんかに目を付けられるのだ。

 

「で、本題なんだけど、今以上に強くなれる方法――知りたくない?」

 

 僕は笑顔でそう言った。

 

 

 

 

「――とりあえず、作戦は順調です」

「そうか。それは良かった。彼の個性は非常に強力だからね、丁寧に丁寧にこちらへ引きずり込もう」

「……ちなみにですけど、内容を教えてもらってもいいですか?」

「そんな非道なことはしないよ。私が抱えてるヒーローに鍛えてもらって、それが終わったらヒーローが私に使われているという現実でも突きつけるだけさ」

「…………」

 

 えげつない。

 ヒーローへの願望が強い彼にそれを見せるのは流石の僕でも引く。

 その後のケアやらヴィランへの誘導も全て考えているのだろう。

 全く、たちが悪いヴィランだ。今の内に警察に突き出すべきなのではないか。

 

「今回はよく頑張ってくれたね、厭士。流石は私の一番の部下だ。私の期待以上の活躍をしてくれる。ありがとう。君がいてくれて助かったよ」

「……ありがとうございます」

 

 ……誑しめ。

 

 

 

 

 色々あった体育祭も終わり、僕はトガちゃんに誘わるがまま夜の道を歩いていた。

 人の姿はまばらになり、蛍光灯の光が僕を包む。

 パトロールしているヒーローに僕は手を振りつつ適当にぶらつく。

 僕が体育祭で目立ったことと、最近トガちゃんが目立ったことをしていないからか、トガちゃんが連続失血事件の犯人ということには気づいていないようだ。

 

 

 まさか僕の隣にヴィランがいるとは思わないだろう。

 これも体育祭での恩恵かもしれない。テレビの力ってやつだ。

 

「厭士くん、三位おめでとう!」

「ありがとう。これで僕もヒーローに一歩近づいたね」

 

 ははは。と僕は上機嫌で夜道を歩く。

 僕の機嫌は良かった。全てが上手くいったのだ。

 自分が楽しく、面白い方へと全てが流れた。

 浮かれるのも仕方ない。

 

「……気になったんですけど。ヒーロー多すぎません? オールマイトが暴れてヴィランが少ない今、そんなにヒーローっていらないと思うんですよね」

「そうだね。ヒーローとヴィランは表裏一体だ。どっちかが欠けたら片方も消えてしまう。だから僕らは彼らの仕事がなくならないよう頑張ろうね」

「うんっ、なんだか共依存でロマンチックだね厭士くん」

「ははは」

 

 僕らはヒーローたちのために頑張らなきゃいけない。

 悪いことをしよう。人に迷惑をかけよう。それがヒーローのためなんだから仕方ない。

 しょうがないのだ。

 

「ああ、そうそうトガちゃん。僕ら今度雄英のヒーロー科を襲うことになったよ。頑張ろうね」

「へー、そうなんですね。いつ頃です?」

「えっとね、ヒーロー科が強化合宿をするみたいだから、そのタイミングかな。僕は状況次第で別行動になるかもしれないけど。……その頃には心操くんも手伝ってくれるかもしれないから仲良くしてあげてね」

「はーいっ」

 

 その頃心操はどうなっているのだろう。

 正義心から悪を正すヒーローとなるか、それともその個性を使って立派なヴィランになるか。

 もしかしたら中途半端になっているのかもしれない。それが一番彼らしい。

 

 真相は闇の中だ。

 

 なんてくだらないことを考えつつ、僕は体育祭のことを思い出していた。

 僕が三位になったのは、僕と同じように準決勝で敗れたものが三位決定戦の出場を辞退したからだ。

 スケアクロウが言うにはヒーロー殺しが関わっているらしい。

 

 ヒーロー殺し……彼はどうやらヴィラン連合に一時的に入ったようで、好き勝手させているみたいだ。

 ヒーローに喧嘩を売るなんて勇敢だなぁと思う。

 わざわざ強いであろう人物を狙うのではなく、一般市民を狙った方が楽なのに。

 なんだって楽な方がいい。ヒーローを狙う理由が思想なのだから彼はヴィランには向いていないだろう。

 

 いわゆる、ダークヒーローだ。

 ヒーローを敵に回して、ヴィランも敵に回して、一体誰が味方になるのやら。

 ああ、一般市民か。なるほど、民衆が味方ならしょうがない。

 

 不自由だなぁ。好き勝手なのがヴィランの売りなのに、自ら縛って勿体ない。

 そうやって理屈をこねて、勝てる内はいいが、負けそうになった時潔く負けるのだろうか。

 市民を盾にしないのだろうか。

 

 そう考えるとヴィランは楽だ。

 失うものもないし、評価も下がりようがないから好き勝手できる。

 人生楽にいこう。どうせ一度きりなのだから。

 

「全部全部、窮屈だ。皆好き勝手出来るのにそれを全部放棄して、馬鹿馬鹿しいねトガちゃん」

「うん、とっても生きにくい! だから全部ぶっ壊そうね厭士くん」

「物騒だなトガちゃんは。とっても過激でヴィランっぽいぜ」

「だって私、ヴィランですし」

 

 あはは。と二人して笑う。

 ――個性は性格を映す鏡だ。彼女の個性は変身。好きな人になりたいという彼女は好きな人に影響を受けるようである。最初は会話さえまともにできない時が多々あったが、今では何とも愛らしい女子高生だ。 

 好きな人に影響されているのだろう。ある程度の常識を持ち、悪人でありながら一般社会に馴染めるような人物だろう。

 

 ……誰なんだろう。気になる。

 トガちゃんの好きな人って一体誰なんだ。

 父親ポジションの僕としては一度相手の顔を見ておきたいものである。

 今度スケアクロウにでも相談しようか。それこそ心操くんにでも聞くべきだろうか。

 

 うーむ……相談できる相手がいない。

 トガちゃんの好きな人は誰なのだろう。

 

 真相は闇の中だ。

 

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