一人の脱走艦と、一人の元提督のお話。

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※注意※


①この作品は、山風教信者の提督が自らの妄想と欲望を淡々と描く物語です。過度な期待はしないでください。

②山風教信者の読者様が感想を投稿される際には『世に山風のあらんことを』と添えて下さい。妙な親近感が生まれます。

③山風を知らないという読者様は、今すぐ調べましょう。そして山風教に入信しましょう。




陽だまりの中で

深海棲艦。

 

突如として世界中の海に出現した、正体不明の異形の怪物。生物と機械を融合させたようなおぞましい外見のものから、ある程度の知性すら備えた女性形のものも確認されている。

 

最先端の科学技術で作られた兵器ですら深海棲艦を傷付けることは叶わず、意思疎通は不可能。人間やそれに関するものを見つければ問答無用で襲ってくるが、その理由も全くの不明。

 

為す術もなく、最早人類は絶滅の時を待つしかないのだと誰もがそう思っていた。

 

 

 

 

だが、奇跡は起きた。

 

 

 

 

『謎の少女が深海棲艦と戦っているのを見た』という目撃情報が上がったのを皮切りに、世界各地で深海棲艦と交戦する女性が目撃されるようになった。

 

当然、各国政府は全力を挙げてその女性達に接触を試みた。やがて、彼女達が人類の味方であると解った時には世界中が歓喜に沸いた。そうして様々な情報が出回り、彼女たちの詳細が段々と明らかになっていった。

 

まず、彼女達の正体は、大戦時代の軍艦であるということが判明した。しかし艦そのものは今も冷たい水底に沈んでいるため、艦の記憶を宿して生まれ変わったもの、というのが一般的な認識である。

 

その出自から彼女達は艦娘(かんむす)と呼ばれ、深海棲艦に対抗できる唯一の手段として国土の防衛を担っている。大砲や機銃、艦載機等を艤装(ぎそう)として身に纏い、華麗に敵を撃滅するその姿は正に救国の英雄と称するに相応しかった。

 

 

 

 

しかし―――彼女達が護る人間は、本当に護るべき存在であったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッはぁ! はぁ! うぇ、っげ、ほ! ぁっ!」

 

呼吸が変だ。

 

息を吸っているのか、吐いているのかすら自分で把握することが出来ない。喉元までせり上がってきた内容物を、なんとか胃の中に押し戻す。

 

身体はとっくに限界を迎えている。

 

膝は今にも崩れ落ちそうだし、全身を襲う寒気はとどまるところを知らない。休息を求める身体を奮い起こし、それでも前へ前へと進み続ける。

 

今頃は大騒ぎになっているだろうか。

 

自分が逃げ出したことに気が付いたら、あの人達はどうするのだろう。連れ戻そうとするだろうか。放っておくのだろうか。それとも―――追いかけてきて、殺されてしまうのだろうか。

 

「―――っふ、ぅ!」

 

冷たい水底に沈む恐怖を思えば、この程度の苦しさは我慢出来る。

 

乱れた呼吸を無理矢理整えようとした彼女の耳に、波の音とは違う音が飛び込んできた。それは腹に響くような重低音を響かせ、空気を震わせながら凄まじい速度でこちらへ向かって飛んでくる。

 

反射的に身体を屈めた彼女の真上を、轟音と共に駆け抜ける鋼鉄の塊がひとつ。

 

 

 

 

―――最速の偵察機、彩雲。

 

 

 

 

「あ、ぁ……ッ!!」

 

足元から恐怖が這い上がり、背筋を悪寒が駆け抜けた。

 

この海原で彩雲に一度見つかってしまえば、逃げ切ることなど不可能に近い。レーダーに探知されぬように沖を進んでいたため、周囲に島なども見当たらない。

 

どうすれば。

 

どうすればいい?

 

その迷いが、彼女の行動を決定的に遅らせてしまう。

 

 

 

 

 

 

ドバッッ!!

 

 

 

 

 

突如、近くの海面が爆ぜた。

 

凄まじい水飛沫と共に水柱が立ち上り、撒き散らされた衝撃波が彼女の身体を軽々と吹き飛ばす。そのまま二転三転し、十数メートル転がったところでようやく止まる。

 

「っ、ゲホッ! ごほ、っは、ぁ、かひゅ……!」

 

恐らくは、彩雲からの情報を元にした戦艦による超距離砲撃だろう。幸運にも直撃はしなかったものの、至近弾ですらこのザマだ。直撃すれば一発で轟沈してしまうだろう。

 

艤装だけでなく内部にまでダメージが響いたのか、呼吸をする度に鋭い痛みが走る。

 

(にげないと……! 逃げないと……っ!)

 

もたもたしている暇はない。すぐにでも誤差を修正した砲撃が雨あられと降り注ぐだろう。悲鳴をあげる身体を起こし、再び走り出そうとするが―――

 

「…………そん、な」

 

限界を超えて動かし続けたタービンは、至近弾の衝撃で完全に停止してしまっていた。再起動を試してみるが、動く気配はない。

 

茫然とする彼女の耳に、無数の飛翔音が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――、あ」

 

 

 

 

 

 

 

降り注ぐ砲弾の雨を見た彼女が何かを思う暇もなく、その姿は無数の水柱に呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ、ん……」

 

深い海の底から浮上するように、ゆっくりと意識が覚醒していく。薄らと目を開き、自らの視界に映っているのが木目調の天井だと認識出来るまでに数秒を要した。

 

吸い込んだ空気には微かな異臭が混じっており―――彼女はそれが、煙草の臭いであることをまだ知らなかった―――けほ、と小さく咳き込んだ。

 

何故自分はここにいるのだろうか。

 

戦艦の一斉射撃で沈んだはずではなかったのか。

 

そもそもここは何処なのだろうか。

 

誰がここへ運んできたのだろうか。

 

起き上がろうと身体に力を入れようとしたが、全身が鉛のように重く、右手などは指先1つ動かせない。それでも左手を使って何とか上体を起こし、緩慢な動きで周囲を見回す。どうやら自分が寝かされていたのはベッドの上らしいが、軍の施設にしては生活感に溢れ過ぎている。捕えられたにしても、こんなに丁重に扱ってはくれないだろう。

 

不意に、部屋の扉が開いた。

 

入ってきたのは一人の男。年は三十を少し過ぎた辺りだろうか。固く跳ねた短い黒髪に、少し残る無精髭。しかし不衛生な印象はなく、筋肉質な身体と相まって武人のような雰囲気を漂わせていた。

 

これから何をされるのだろう。

 

無意識に、シーツをきゅっと握り締めた。

 

男は鋭くこちらに視線を向け―――その強面の顔をふっと破顔させた。

 

「身体は平気か? 嬢ちゃん」

 

耳に優しく染み入るような、穏やかな声だった。侮蔑と欲望が入り交じった同馬声とは違う。こちらを労るような声をかけられたのは初めてだったこともあってか、思わず言葉に詰まってしまった。

 

返事が返ってこないことを気にした様子もなく、男は手に提げていた袋をテーブルの上に置いた。何か重いものが入っているのか、ゴトリと重厚な音が響く。ベッドの側の椅子を引いて腰掛けると、部屋の中に漂っていたあの臭いが強くなったような気がした。

 

「いやあ、それにしても意識が戻ってよかった。一時はどうなることかと冷や冷やしたもんさ」

 

話を聞くに、この男が自分を介抱してくれたのだろうか。いや、本当に介抱で意識を取り戻せるレベルの負傷だったのか? 戦艦の一斉射撃を受けて五体満足で生き延びるなど、幸運を通り越して悪運の域だろう。

 

複雑な気持ちで黙り込んでいると、男がポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――何せ、両足と右腕が丸々消し飛んでたんだ。轟沈してなかったのが奇跡だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

ギシギシと軋む体を無視して、左手でシーツを剥ぎ取った。

 

右腕はちゃんとある。

 

両足も繋がっている。

 

だが、1ミリたりとも動かすことはできないそれらが、男の言葉の信憑性を跳ねあげていた。しかし男は四肢を喪ったと言った。ではこの腕と足は一体なんだと言うのか。

 

男は静かに続ける。

 

「……俺が嬢ちゃんを見つけた時は、そりゃあ酷い有様だった。嬢ちゃんが艦娘じゃなけりゃ間違いなく死んじまってる程の損傷だ。家中の鉄クズ掻き集めても、ガワだけ元に戻すのが精一杯でな。本格的な施術を行う為に、資材を買いに行ってた所だ」

 

「……、あなた……提督、なの?」

 

提督。

 

司令官や司令とも呼ばれ、艦娘は提督の指揮下で戦うことによってその力を最大限に引き出すことができる。だが、提督には誰もがなれる訳ではなく、生まれ持った提督としての素質があるかどうかで判別される。

 

提督の素質にもランクがあり、低ければ『妖精』が見えるだけ。提督として一般的な力で、大半の提督はここ止まりである。提督としての素質が高ければ、艦娘の能力を一時的に強化する、入渠ドック無しで艦娘を修理するなどの強力な術式を扱える。

 

だが、そのレベルの高い素質を持つ提督は非常に少なく、大本営の中将や大将クラスは皆このレベルの素質があると言われている。にも関わらず、それを扱うことが出来るこの男は一体―――?

 

少女の問いに、男は小さく笑った。

 

「ひとまず、嬢ちゃんの傷を直すとするか。話はそれからでも遅くねぇだろうさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青白い光が部屋を満たす。

 

朗々と響く男の詠唱に合わせて明滅を繰り返す光は暖かく、どこか安らぎを感じられた。少女が横たわるベッドを中心として描かれた光の陣が輝きを増すと、鋼材の塊が水銀状に変化し、少女の傷を癒していく。

 

鉛のようだった手足には感覚が戻り、身体の奥底から活力が漲ってくる。

 

施術は数分で終わった。

 

長い息を吐き、閉じていた目を開いた男は首をコキコキと鳴らした。

 

「数値上はこれで完治したはずだが……何処か痛んだりはしないか? 違和感があったら遠慮なく言えよ?」

 

「大丈夫……楽になった」

 

「そうか。なら良かった」

 

そう言って、男はニッと笑った。だがその笑みはすぐに消え、真面目な表情に変わる。纏う雰囲気も変質し、思わずこちらの背筋も伸びた。

 

「さて、ちょっとばかし真面目な話をしなくちゃならん。艦娘である嬢ちゃんが、いつまでもここに居座ってる訳にもいかないんだが―――嬢ちゃん、脱走艦だろう?」

 

「……ッ!?」

 

何故、そのことを。

 

思わず男の顔を見ると、どこか悲痛な表情を浮かべていた。

 

「……嬢ちゃんに応急処置を施す際に、傷の検分をした。最初は深海棲艦から砲撃を受けたもんだとばかり思ってたが、どういう訳か41cm砲の砲撃を食らった痕跡が残っててな。戦艦クラスの艦娘が味方を砲撃するなんざ、普通なら有り得ねえ。それこそ脱走したり、重大な罪を犯した艦娘の処分以外にはな。……で、生き残った嬢ちゃんを―――」

 

「……、いいよ……別に」

 

「いい、って……何が」

 

「あなた、私のこと、捕まえたいんでしょ? 別に、暴れたりしないよ……もう、疲れたし」

 

艦娘の治癒術式を扱える程の人間が、一般人であるはずがない。間違いなく軍関係者、それも相当の地位に就いているのだろう。脱走艦を見逃してくれるほどのお人好しであるわけが―――

 

ベシッ。

 

「あぅっ!」

 

半ばヤケになりかけていると、額に鈍い痛みが走った。どうやらデコピンをされたようだ。しかも結構痛かった。ちょっと涙目になりながら男を見ると、彼もため息をついて呆れたような視線をこちらに送っていた。

 

「人の話は最後まで聞くもんだぞ、嬢ちゃん。……基本的に提督の命令には従うようになってる艦娘が脱走するって事は、その提督がよっぽどのクズ野郎だったってことだろ? 嬢ちゃんがどんな思いで逃げてきたのかは知らんが、とっ捕まえてその鎮守府に送り返すなんて気はねえよ」

 

「え……? で、でも、あなた、提督なんでしょ……?」

 

「『元』提督な。気に入らねえ上官の顔面ぶん殴って辞めてきた。俺の提督適性はかなり高かったらしくて、妬みや僻みも手伝ってあっという間にただの一般人さ」

 

椅子の背に深く凭れ、男はまたニッと笑った。

 

「で、だ。嬢ちゃんはこれからどうする? 幾ら艦娘っていっても、見た目小学生の嬢ちゃん一人で生きていくのはちっと無理があるんじゃねぇか?」

 

「それは……」

 

確かに男の言う通りではある。

 

艦娘は、艤装を顕現させている間は燃料や弾薬などの資源を動力源とするので食事は必要ない。とはいえ長時間艤装を纏っていればやがて燃料は底をつくし、何より一目で艦娘だとバレてしまう。かといって艤装を纏っていない間はただの人間と変わらないので、食事や睡眠が必要になる。加えて衣食住を工面するための資金なども必要だ。戦艦や空母、重巡などの大人びた艦種なら職も探せるのだろうが……。

 

「ま、行くアテがないってんならココに居りゃあいい。幸い空き部屋もあるし、嬢ちゃん一人増えたところで困ることもねぇ。むしろ味気のねぇ暮らしが華やかになるってもんさ」

 

「え……い、いいよ、別に。私なんかに、構わなくても……」

 

「嬢ちゃんが良くても俺の気がすまん。大体この寒空の下に女の子一人放り出せるか。子供は変な遠慮せずにワガママ言ってるくらいが丁度いいんだよ」

 

そう言って、くしゃりと頭を撫でられた。

 

猫や犬などの動物を撫で付けるような手つきだったが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。無骨な掌から感じられる温かさが心地好く、ぴんと張っていた心の緊張が解れていくような気がした。

 

しばらく撫でられていたが、突然男がぎょっとしたように手を引き、慌てたように腰を浮かせた。何事だろうと思っていると、男は申し訳なさそうな表情で口を開いた。

 

「その、すまん、軽率だった。まさか泣くほど嫌がるとは思わなくてな……」

 

「……、え?」

 

男の言葉で、ようやく自分の目から流れる滴に気が付いた。拭っても拭っても止めどなく溢れ出す涙はシーツを濡らし、灰色の染みを作っていく。

 

「えっ……あれ? なんでっ、私……っあ、ぅ、」

 

なんとか止めようとしても、ぐちゃぐちゃになった感情がそれを許さない。悲しいのか嬉しいのか痛いのか辛いのか、自分で自分の気持ちが整理できない。

 

濡れる頬を擦っていると、再び男の手が頭に乗せられた。ゆっくりと撫でるその手は先程よりも優しく、まるでガラス細工を扱うかのようだった。

 

「そうだな。辛かったよな。怖かったよな。苦しかったよな。―――よく頑張ったな、嬢ちゃん」

 

その一言で。

 

少女の心を堰き止めていたものが、完全に決壊した。

 

「……ぇ、ぐ! ひっ、う、こわ、怖かった、怖かったよぉっ! 私っ、まだ、死にたくなかったっ! く、暗い海の底はっ、もう、嫌ぁ……! っぇ、生きてるっ、良かった、良かったよぉっ! ぁ、うぁああぁぁぁぁぁん……!」

 

「……よしよし、思いっ切り泣けばいい。溜め込んでた物全部吐き出しちまえ。そうすりゃちっとは楽になるさ」

 

「ぅあぁぁあああ……っ! うわぁぁぁあああん……!」

 

男にしがみつき、恥も外面も無く泣きじゃくる。冷えて凝り固まっていた心が、じんわりと溶かされていくようだった。

 

泣き続けている間、男は何を言うでもなく、ただ優しく背中を叩き続けた。赤子をあやすように、この強くもか弱い少女が壊れてしまわないように。兵器ではなく、感情を持つ一人の少女であれるように。

 

 

 

 

―――この瞬間、少女は確かに救われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか? 嬢ちゃん」

 

「……うん……」

 

「ほれ、顔拭いてやるから、目閉じてな」

 

「ん……」

 

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってしまった顔にタオルを当てられ、綺麗に拭かれる。泣くという行為は中々に体力を消耗するので、今は少女も大人しく男に身を委ねている。信頼してくれたというよりは、単純に泣き疲れてしまったのだろう。

 

「うし、綺麗になったぞ」

 

「……あ、あの……ごめんなさい……」

 

「なーに、気にすんな」

 

まだ少し乱れる呼吸を整えようと、大きく息を吸いこんだ。

 

そうすると、またあの香りが肺を満たしていく。煙たくて、喉に絡むような不思議な匂い。最初はちょっとだけ顔を顰めたが、再び吸い込んでみればもう気にならなくなった。

 

(これが……この人の、匂い……。変な感じだけど、嫌いじゃ、ない……かも)

 

「―――さて! とりあえず飯にするか。逃げ続けて碌に補給も出来てないだろうし、嬢ちゃんも腹減っただろ? 何か食いたいもんあるか?」

 

ガタリと椅子を鳴らして立ち上がった男は、身体を伸ばしながらそう言った。男の言う通り、少女の小さな胃袋は声高に空腹を主張してきている。先程までは何も感じなかったのに、警戒が解けた途端にこれなのだから実に現金なものだ。

 

しかし、食べたいもの。

 

鎮守府では固い米と冷えた味噌汁くらいしか食べたことがないので、それ以外の味は知らない―――

 

(……あ)

 

一つだけ、あった。名前だけは知っているけど、実物は食べたことの無い未知の食べ物。給料担当の艦娘が、涙ながらに『皆に食べさせてあげたい』と言っていたのを一度だけ聞いたことがあった。

 

「じゃ、じゃあ……カレー? っていうの、食べてみたい、です……」

 

「おう、任せな。ビックリするほど旨いカレーを作ってやるよ」

 

「ぁ、わ、私も、手伝う……よ」

 

「そいつはありがてぇ。頼りにしてるぜ、嬢ちゃん……っと」

 

ニッと笑った男はこちらへ手を伸ばしかけたが、途中でその手を引っ込めてしまった。恐らくは、先程の出来事を思い出したのだろう。しかし、少女としては別段嫌なことでもない。

 

「……いいよ、別に。その、あたま、撫でても……」

 

「そうか? まあ、嬢ちゃんがそう言うなら構わんが……」

 

「んっ……」

 

大きな手でわしゃわしゃと撫で付けられる。少しだけ擽ったいけど、それ以上に感じられる安心感で満たされていくのが分かった。

 

……そういえば。

 

名前をまだ、この人に教えていなかった。

 

1度も訊いてこないし、『嬢ちゃん』と呼ばれるのが新鮮だったから忘れていたけど。この人になら、名前を教えてもいい。この人に、名前を呼んでほしい。

 

「あの……」

 

「ん? どうした?」

 

こちらを慈しむような、優しい声音。深い色を湛えた黒曜石のようなその瞳をしっかりと見据えて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あたし)、白露型駆逐艦、その八番艦……山風。その……よろしく、おねがいします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
世界観とか設定とかそこまで深く考えてませんが、山風ちゃんの可愛さに目覚める提督諸兄が増えれば幸いです。元提督のcvは小山力也か平田広明をイメージしてます。

要望が多ければ続き書くかもしれません。



最後に―――





世に山風のあらんことを。





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