ただの一発ネタ。
『幻想郷』。それは人間に住処を追われた妖怪達が集うところである。
そこには妖怪の他にも妖精や神様も暮らしていた。無論、人間も例外ではない。
幻想郷は争いや異変が生じた時にはスペルカードルールによって勝敗が付けられていた。
人間も妖怪に勝てるこのルールは弾幕ごっことまで言われ、広く普及していた。
戦いばかりに明け暮れていた幻想郷は漸く平和になる……筈であった。
その切っ掛けは妖怪の賢者である八雲紫がある歴史書を稗田阿求の保管室から盗み、破棄した事からであった。
――魔法の森上空――
「ふぃ~夜の散歩は涼しいぜ~」
夜中、普通の魔法使いである霧雨魔理沙はふと思い立って夜の散歩に出ていた。
「さぁて、寝るとするかな……誰だぜ?」
魔理沙が家の扉を開けようとした時、ふと視線を感じた。
それに答えるかのように草むらからガソゴソと音がして一人の女性が現れた。
「……久しぶりだね魔理沙」
「み……魅魔様……」
現れたのは魔理沙の師匠である悪霊の魅魔だった。
「魅魔様ァッ!!」
「何だい何だい。いきなり抱き付いたりして」
「だって……魅魔様が急にいなくなって……」
魔理沙は師匠に会えた事に目を潤ませていた。それもその筈であり、魅魔はスペルカードルールが制定される以前に魔理沙の目の前から忽然と姿を消していたのだ。
「魔理沙、今日はねあんたに力を貸してもらいたくて来たんだよ」
「力を……?」
「そうだ。魔理沙、この服を覚えているかい?」
魅魔はそう言って紫色の長袖の服を魔理沙に差し出した。
「この服……何処かで……うっ、頭が……」
「……やっぱり改善されてるね。魔理沙、私についておいで」
「は、はい魅魔様」
そしてこの日を境に霧雨魔理沙は魔法の森から姿を消した。それと同じく魔法の森に住んでいた魔法使いのアリス・マーガトロイド、太陽の畑に住む四季のフラワーマスターの風見幽香も姿を消していた。
「……魔理沙、アリス、幽香……この三人に何か共通する点でもあったかしら?」
博麗神社でお茶を飲みながら日向ぼっこをしている自称、楽園の素敵な巫女の博麗霊夢はそう呟いた。
三人が姿を消して既に一週間が経過していた。霊夢は三人が死んだのかと思い、冥界を尋ねたが冥界にはいなかった。
「紫も分からないって言ってるしね~。ま、そのうちひょっこりと顔を出すでしょ」
「今の霊夢はだらけているね。昔はそんな事に無かったのにね」
「……出てきなさい」
突然の声にも霊夢は冷静であり、声の主にそう促した。
「久しぶりね霊夢」
「……誰?」
「本当に忘れたの?」
現れたのは髪の色は赤、服の色も赤、ただしマントは黒を着た女性だった。
「岡崎夢美よ。覚えてないかしら?」
「……覚えてないわ。私、すぐに忘れるからね」
「そう……なら魅魔は?」
「懐かしいわね。魅魔は元気にしているかしら……」
「ふむ、魅魔は覚えているのね」
夢美はメモっていた。
「ところで霊夢……魔理沙達の行方を私が知っていたらどうする?」
「……どういう事かしら?」
「そのままの意味よ」
「なら話は簡単、弾幕で喋らせるわ」
霊夢はそう言って御幣を取り出して札を装備した。
「霊夢、私は此処で争う気など無いわ。むしろ、貴女とは戦いたくない」
「……どういう意味よ?」
「ついていらっしゃい。貴女は『あの時』の博麗の巫女として全てを知る権利があるわ」
「………」
夢美はそう言って歩き出した。霊夢もそれに従い、夢美の後を追った。
「此処って……」
夢美が向かったのは博麗神社の裏山にある湖であった。
「この湖の中には風見幽香が所有している無幻館があるわ。そこにかつて貴女が戦ってきた人達がいるわ」
「夢美さん、御疲れ様です」
「門番御苦労様ねくるみ」
紅魔館の吸血鬼姉妹のように背中から羽を生やしているくるみに夢美はそう労った。
二人は無幻館の中に入った。霊夢は入って驚いた。
「魔理沙ッ!! その服……アリスも……」
「霊夢も来たのね」
魔理沙はあの紫色の長袖の服を着ていた。アリスは青と白の服を着ていた。その他にも無幻館には多くの妖怪や人がいた。
「あんた達は一体何をする気なのよ?」
「……これからする事は貴女達で異変よ」
「………」
「そう身構えないで。異変でもただの異変じゃないわ」
「どういう事よ?」
「この異変は私達の存亡をかけた異変よ。狙いはただ一つ、私達の事が書かれた歴史を取り戻すのよ」
「歴史……?」
夢美の言葉に霊夢は首を傾げた。その時、霊夢に頭痛が起きた。
「うっ、頭が……」
「ほら、休んでなさい。一気に話したから昔の記憶が戻って来ないのよ」
夢美はそう言って霊夢を椅子に座らせ、夢美自身は用意されたステージの上に立った。
「皆さん今日わ」
『………』
夢美の言葉に全員が黙った。
「今日、皆が集まったのは他でもない。我々はスペルカードルールが制定される以前は幻想郷で過ごしていた。しかし、ルールが制定されて人間とも戦えるようになると我々の力が必然と落ちてしまった。そして私達は過去の物語としてただ幻想郷で生きていくだけとなった。そう、そこまでは構わない」
夢美の言葉に皆は頷く。
「だが……私達が活躍した歴史書を妖怪の賢者の八雲紫が破棄をした。何故、そこまでする必要があるのかッ!! 我々の生きた証を消すというのか、自分の都合で消すというのか……それは否よッ!! 我々は幻想郷のためならと潔く身を引いたッ!! しかし、八雲紫は私達の存在を消そうとする。それが妖怪の賢者がする事なのかッ!! 更に八雲紫は魔理沙や霊夢の記憶を消し、魔理沙に至ってはちゆりと同じ口癖にしてちゆりの存在を消そうとしているッ!! それは許される事なのか……否よッ!!」
夢美はそう叫ぶ。近くで魔理沙がちゆりに済まなそうな目線を向けていた。
「我々は八雲紫に屈したりしないッ!! 生き残るのだッ!! 我々が生きた証を見せるのだッ!! 今日、この日を我々の復活記念日としようッ!!!」
『ワアアァァァァァーーーッ!!!』
その瞬間、全員が一つになった。幻想郷のためなら潔く身を引くのは出来る。しかし、自分達が生きた証を消されるのは我慢ならなかった。
「さぁ行くわよッ!! 人里への襲撃は陽動で里香に小兎姫、朝倉理香子等でやるわ」
「任せてなのです」
里香は自信満々にそう言った。
「明羅とコンガラは冥界に向かって頂戴。そこで庭師の動きを押さえてほしい」
「承知した」
「うむ」
夢美の言葉に二人は頷いた。
「無幻館組は紅魔館組を押さえてほしいわ」
「えぇ。吸血鬼は楽しめるかしらね」
幽香はフフフと笑っている。
「それじゃあ……行くわよッ!! 私達の証を取り戻すのよッ!!!」
『オォォォォォォォーーーッ!!!』
皆はぞろぞろと外へ出る。頭痛で椅子に座っていた霊夢はそれをただ見送るだけだった。
「霊夢、その様子だと失われた記憶を取り戻したようね?」
「……えぇ」
「なら……これを着なさい。貴女には着る資格があるわ」
夢美が霊夢に差し出したのはかつて霊夢が着ていた巫女の服であった。
「後はどうするかは貴女次第よ」
「……そう、なら私は神社でのんびりしているわ」
「……貴女らしいわね」
霊夢の言葉に夢美は笑った。その日、かつて幻想郷で活躍した面々は各地にて八雲紫を倒さんと一大蜂起したのであった。
後にこの異変は詳細に歴史書に書かれ、八雲紫が破棄した歴史書も取り戻す事に成功したのである。
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ぶっちゃけ旧作と戦ったら旧作組が勝つと思いますね。スペカ制定前ですし。