アースラに乗り込み約10日。
ここまでで俺となのはが見つけ封印、回収することの出来たジュエルシードは計3個。
反応はあったが途中で消え誰か/フェイトに回収されたであろうジュエルシードが2つ。
残りは6つだ。
今は食堂でなのはたちはおやつ、俺はコーヒーを飲んでいた。
今話している内容はユーノの家族の話。
「僕は両親がいないんだ。育ててくれたのはスクライア族のみんななんだ」
「物心ついた時にはもう今の仕事をしてたのか」
「うん、たしかに親がいないってのは寂しいことかもだけど僕にはみんながいたから寂しくはなかったんだ。もしも両親の事を覚えてて……とかだったらちがったかもだけど」
ユーノには親がいなかった。
だけど族のみんながいてくれたから平気って本人は言ってるけどきっと寂しかった時や疑問に思った時もあったんだろう。
なぜ僕には親がいないんだろう?って。
それでも乗り越えてるのは凄いと思う。
ふと此処で自分の親について考えてみる。
覚えてはいないが誰かに育てて貰ったという記憶とういうか胸に何かが残っている。
「なのはの家族のこと、そう言えば聞いたことなかったね」
そう言ってなのはの家族の話題に変わっていく。
まずは兄妹である恭也、美由希の話。
「2人……というか恭也に関してはいつも道場に居るイメージが俺にはあるな」
「うん、ボクもそうだね。美由希は朝とかユウや恭也と身体を動かしてるのはよく見るけど他は何してるんだろ?」
「うーん、お兄ちゃんはいつも特訓でお姉ちゃんはお兄ちゃんと特訓かお店の手伝いかな」
美由希はよく翠屋で士郎さんたちの手伝いをして居るのをみている。
時折、恭也も手伝いに来てくれるがそれでも美由希の方が多いイメージだ。
「そう言えば……温泉の時の話なんだけどさ。士郎さんって事故とかに巻き込まれた事とかあるか?」
「……うん、昔ね私もよくは覚えてないんだけど大怪我しちゃってしばらく入院してたよ」
そういうと何処か力なく笑うなのは。
……成る程、なのはが士郎さんたちにわがままを言えない一端が分かった気がする。
「昔から翠屋はやってたんだけどね、お父さんが怪我しちゃって営業とかで私以外のみんながすごく忙しくなっちゃったの。
あの時は家が凄く広く感じちゃって少し寂しかったかな」
「……それってなのはが何歳の時だ?」
「え?えっと……6歳くらいだよ」
6歳の女の子があの家で1人ぼっち。
それは……きっとよくないコトだ。
誰かが悪いなんて事はなくて、怪我をしてしまった士郎さんも、その士郎さんの代わりに頑張っていた桃子さんも、その2人を助ける為に頑張った恭也や美由希も。
その家族の後ろ姿を見て小さかったなのはは少しでも自分のせいでこれ以上家族が大変にならないようにと子どものワガママや寂しさを押し殺して過ごしてしまったのだろう。
その幼少期があるからこそ今のなのはがあるのかもしれないが……それでは余りにも悲しすぎる。
きっとその過去の出来事は"仕方がなかった"の一言で終わってしまうかもしれないけどその過去が無ければまた違った未来があったかもしれない。
「だからひとりぼっちは慣れてるんだ私」
あははと笑ってはいるがまだ二桁の歳にもなってない少女が持つ心構えとして異常だ。
俺が何かをなのはに伝えようとした時、でもねとなのはが続ける。
「今はみんな元どおりだし平気だよ?それに最近はユウさんやユーノ君が居てくれるから」
「……そっか。ならこの問題が片付いたら3人でどっか遊びに行こうか」
「うん、ボクもユウやなのはと遊びたい」
そういうと嬉しそうに笑ってくれる。
今度からはもっとなのはのワガママは聞いてやらないとなぁ……今まで我慢してたんだろうし、俺なんかで叶えられるなら叶えてあげたい。
だがもしこの問題、ジュエルシードの事が解決すればユーノはきっと元いた場所に帰り、俺は俺で決断しなきゃいけない事がある。
リンディさんとクロノに言われた事を思い出す。
"この事件が終わった後の話になるんだがキミは次元漂流者という扱いで僕たち管理局が保護する事が出来るんだ"
"私たちの所に一旦来てもらってユウくんの元いた場所を探すか、もし見つからなかったとしてもこれだけ魔法を使えるんだから管理局で雇って向こうで暮らすこともできます"
俺ももしかしたら近いうち、この地球から去らないと行けない、なんて今はなのはに言うことは出来ない。
でも桃子さんと約束したからには一度は必ずあの家になのはを連れて帰るのは俺の中で決まっていること。
あとは未来の自分の選択に任せるしかない。
と考えていた時だった。
艦内に大きく此処数日で聞きなれはじめたアラート音が鳴り響く。
どうやら休憩は此処までで最後の仕事の時間のようだ。
なのはとユーノを見ると少し緊張気味の顔の2人が俺の方を見つめている。
「行こうか?」
「「うん!」」
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ブリッジに行くと忙しなく働くクルーや指示出しをするクロノがいた。
目の前の1番大きな画面では俺たちの捜査区域の海上で巨大な魔法陣を展開しているフェイトが映っていた。
「クロノ、アレって……」
「ああ、多分君が想像している答えで間違い無い。残り6つのジュエルシードの反応は全て海から出ている。
あのまま強制発動させようとしてるんだろう」
「だけどそんなことしたら!」
「ああ、あの魔力の使い方に消費量だ。封印を施す為の魔力が残るかどうか怪しい」
そう話しているうちに画面では海に魔力流が飲み込まれフェイトの目論見通り6つ全てのジュエルシードが同時に発動していた。
ジュエルシードは暴走し荒れ狂っている。
あの攻撃の中を一人で尚且つ残り少ない魔力で封印する事はいかにフェイトと言えど………不可能だ。
(アルフ!聞こえるか?)
(っ、ユウかい?)
少し焦り気味に今現場にいるであろうアルフに念話を送る。
(今そっちの状況は把握してる、そのままだと危ないのはわかってるだろう!?フェイトを止めるんだ)
(……ごめん、アタシも止めたんだけど今のフェイトは……)
そう言って声のトーンが落ちる。
どうやらフェイトにジュエルシードを集めさせている第三者が焦り出しフェイトにこんな無茶なことをさせているのだろう。
(わかった、なんとかする)
(でもアンタは……管理局と……)
やっぱり知ってたか。
少し前から念話が通じないのはやっぱりこれ以上関われば情が移ると判断してのことだったんだろう。
フェイトはきっと俺に情が移れば戦えなくなる、俺だってそうだけどあの子はそれ以上に優しすぎるのだ。
目の前の画面ですれすれにジュエルシードからの猛攻を避けるフェイト。
その戦闘の様子を見守る管理局員たち。
……やっぱりそう言う事なんだろう。
「あの!私も出動します!」
画面のフェイトのピンチになのはが思わず声をあげ出動すると言うが……
そこに待ったをかけるのはリンディさんとクロノ。
「許可できません、我々はこのまま待機です」
「え……な、なんでですか!?このままだと!」
その答えを予想していなかったなのはが抗議の声をリンディさんに言うが……
そこにクロノが止めに入った。
「このまま放っておけば確実にあの魔導師はジュエルシードの封印を行う前に魔力が底をついて自滅する。
仮に封印出来たとしてもその時点で力尽きるのは目に見えている。
ならば僕たちにとっての最善は今はここであの戦いの様子見が1番だ」
「そんな……」
無慈悲に聞こえるかもしれないが管理局として考えるならそれが一番正しい。
此方は最小限の動きだけで容疑者のフェイトを捉えることができ、後者でも封印済みのジュエルシードが付いてくる。
まさに一石二鳥といったところか。
アースラの人たちは仲間としてみてくれている俺たちには優しいが仕事で尚且つ敵となれば話は変わる。
なのははその事をまだ受け止められていないのか困惑していた。
「なのはさん、残酷な事だけどこれが現実なの」
「でも……」
厳しいリンディさんからの言葉に俯いてしまうなのは。
最初にこの船に乗る時の条件は指示に必ず従う事と言われていた。
その事をキチンと覚えているであろうなのはの中では今さまざまな葛藤が起きているんだろうな。
そして俺の方をみる。
……俺がなのはに言える事は少ないけど、これだけは聞いておかなければいけない。
「なのはは……どうしたいんだ?」
「私は……」
そう言って黙ってしまう。
しかしこればかりはなのは本人からキチンと言ってもらわなければいけない。
その時画面でフェイトに魔法弾が掠る様子が映し出される。
それを見てなのはの目に覚悟が宿るのを確かに俺は見た。
(なのは行って!)
(ユーノくん……)
そこでなのはと俺にユーノから念話が送られてくる。
ユーノはどうやらなのはのしたいことに気づいて助けようとしてくれてるんだろう。
(でも!)
(僕はなのはが困ってるなら力になりたいんだ、なのはだって困ってた僕を助けてくれたでしょ?)
そうユーノから言われ今度こそ俺の方に向き直る。
……どうやら決まったみたいだ。
「私は、フェイトちゃんを助けたい!」
「なら、行ってこい。俺もすぐに追いかけるよ」
そう言ってなのはは転送ポートに走り出す。
ここでようやくクロノたちが俺たちのしようとしている事に気づき慌て出す。
「待て!」
追いかけようとするクロノの前に立ち動きを止める。
その間にユーノがフェイトの結界内への転送準備を始める。
「……ユウ、君なら冷静な判断ができると思っていたんだが何をしているかわかってるのか?」
「ああ、すまないな。……正直に言えば確かにクロノたちのやり方の方が正しいと思う」
その俺の言葉を聞き余計に苛立ったのかクロノが俺の服を掴む。
「ならば!」
確かに正しいんだろう。
けど。
「でも!それでもなのはが間違っているとは俺は思えないんだ。
フェイトをただ捕まえて捕縛して正すって意味だけならクロノたちが正しいけど、感情的で管理局にとっては取るに足らない事かもしれないけど、今のフェイトを救って正すと言うって意味ならなのはが正しい」
クロノに聞いた管理局の犯罪に手を染めた人を捕まえ正すという在り方は立派で素晴らしいと思うけど今のこの状況で機械的にソレを行なっても……きっとフェイトは本当の意味で"正す"事は出来ない。
あの子は……きっと孤独を抱えてる。
それを一番理解できているのはきっとなのはだから。
「頼むよ、なのはの好きにさせてやってくれないか?」
「……しかし」
俺の言葉に少しは何かを感じてくれたのかクロノの力が弱まり少し後退する。
その様子を見ていたリンディ艦長が俺とクロノに声を掛ける。
「ならその正しいと思ったこと、やってらっしゃい」
「艦長……」
「クロノ、今回はなのはさんたちの好きにさせてあげましょう。何だかんだと私たちもここ数日助けられていたのは事実です。
特にユウくんに関してはここ局員の大体が何かしらの恩を受けていますしね」
そうリンディさんが言うとみんな此方を見ながらしょうがない奴だなぁとか頑張ってと明るく声をかけてくれる。
……ホントにいい人たちばかりだよな、ここ。
その言葉を聞いてクロノが俺の方をジト目で見つつ、
「キミは全く………しょうがない奴だな」
少し笑いながらそう言ってくれた。
「なのはさん1人ではもしかしたらがあります。それに」
そう言って少し俺に近づき耳打ちしてくる。
「あの女の子……フェイトさん?だったかしら。あの子ともユウくんは何かあるんでしょ?」
ホントになんでもお見通しだよな……やっぱり艦長ってだけあって凄いよ、リンディさんは。
そして他の局員の人たちも俺見て笑いかけてくれている。
……どうやらバレていたようだ。
「全く……僕もこちらの準備が済み次第君たちの応援に向かう。ゲートは開いておいたから行ってこい」
「……ああ、ありがとう。行ってくる!」
クロノに預けておいた俺のデバイスを受け取り転送ポートの方に走って向かう。
転送ポートではユーノが待っていてくれた。
「説得できたんだね、ユウ」
「ああ、俺も行ってくるよ」
「うん、頑張って!」
そのままポートに飛び込む。
転送されていく感覚と同時にバリアジャケットに換装すべくメモリをちらっとみる。
「こっちかな……」
黒色と金色に彩られたフェイトのメモリを差し込みソードを選択。
なんとなくだがこちらを使うべきと俺の中の第六感が叫んでいた。
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転送が終わると同時に落下する感じが俺の体を襲う。
海の上だから、だけではなく暴走したジュエルシードの風圧や魔力弾などもこちらに向かってくる。
飛行魔法を使いなのはとフェイトのいる方へと向かう。
2人は何かを話し、なのはの方は上空に飛んでいった。
そのなのはの方をずっと見続けるフェイトは何かを考えて自分の中で噛み砕こうとしているように見えた。
「フェイト!」
「……ユウ」
……何をなのはに言われたかは予想がつくがどうやらなのはの想いはフェイトの心に伝わったみたいだ。
「悪い、遅くなった」
「ううん、私が無理な事をしちゃってるのはわかってるから」
「そっか……ならとっととこれを封印しちゃうぞ?俺は2人のサポートをするから」
目の前に迫ってきた竜巻のようなモノに変質したジュエルシードの暴走体をみる。
なのはやフェイトに撃たれる魔弾を斬りつつ2人のチャージが完了するまで耐える。
「アルフ!遅くなった!」
「……ユウ、ホントに助けに来てくれたんだね」
「あたり前だろ?俺、約束は守るから」
ジュエルシードの暴走を止めているアルフに俺の魔力を補給する。
この姿の魔力なら使い魔のアルフでも供給しても問題ないはずだ。
「ユウのそのフェイトそっくりの姿については今は聞かないけどそのうち教えてよ?」
「ああ、そのうちな」
そういって2人で迫り来る攻撃を相殺し、切り裂き、時間を稼ぐ。
「あのなのはって子、フェイトをどうしてあんなに助けようとしてくれるんだい?」
急にアルフに聞かれた言葉になんて答えようか悩む。
うーん、アレはたぶんだけど。
「多分だけど俺が思うになのははフェイトと______ 」
そう話していると上空のなのはの魔力もフェイトの魔力も充填完了のようだ。
なのはの方を見上げると巨大な魔力流と魔法陣、ディバインバスターのフルパワーのようだ。
「いくよフェイトちゃん!せーの!」
下ではフェイトが別の魔法陣を展開し、こちらも巨大な魔力流となっていた。
「あの魔力攻撃を同時に受けるジュエルシードには少し……同情するな」
そう考えてしまうほどには巨大で、そして綺麗な桜色と金色の魔力光がジュエルシードの暴走体の間を挟んでいる。
「ディバインバスター!!!」
「サンダーレイジ!!!」
____2つの魔力光が同時に上と下から放たれ一直線に暴走体、6つのジュエルシードに向かっていく。
見ようによってはその光は美しく伸びる架け橋にでも見えた。
巨大な爆発音とともにぶつかり合う魔力と魔力。
クロノが言っていた天才の意味が分かった気がする。
ここまでの魔力を一度に噴出して尚且つまだあの子には伸び代がある。
魔法の才能がない俺からすれば今のなのはとフェイトの織りなすこの光景はとても美しくそれでいてすごいと思う。
だがそれと同時に2人の魔法の才能がとても大きく自分にないものだと見せられているような錯覚に陥る。
あの2人の止まることのないであろう魔法の才能。
それはとても____羨ましい。
爆発と光が収まり海上に静寂が戻る。
封印された6つのジュエルシードは静かに佇みまるでなのはとフェイトを見守っているようだ。
最初はなのはの方から話しかけていった。
「フェイトちゃん、私は」
「…………」
その何かを伝えようとしているなのはをしっかりと目を合わせ向き合うフェイト。
「私は友だちに、なりたいんだ」
そう真剣にフェイトに自分の思いを伝えたなのはは何処か晴れやかで。
とても輝いて見えた。
その言葉を聞き動揺しているフェイトもまた何かを考えて伝えようとする。
しかし
《Danger》
「……っ!」
ツァイトの音声が聞こえた瞬間空から雷鳴が轟きだす。
今まで感じて来たどの魔力よりも強い、その矛先が目の前の少女たちに迫るのを感じた時には俺の身体は動いていた。
空から鳴り響きまさに光の速さで巨大な魔法の雷がフェイトにぶつかる___!!
「っ!?」
フェイトも隙を突かれ完全に固まりこのままでは直撃は免れない。
「フェイト!!!」
「え……?」
思い切りフェイトを対局のアルフがいる場所に突き飛ばす。
あの魔法は十中八九、魔力色で誰を狙い撃つか判断しているものだ。
ならば、あの追尾がある魔法でも今の俺のこのフェイトの魔力色を擬似的に使っている姿なら_________変わり身くらいにはなれる!
俺の予想していた通りフェイトを狙っていた雷はそのまま俺の体に突き刺さる。
「っ!!!くぅ!!!」
痛い、なんてモノではなかった。
身体中の水分が蒸発し肉が焦げ、頭の思考回路がショートしていく。
「ユウさん!?」
俺を助けようとしてくれたのか近寄ってくるなのはもこの攻撃に弾かれてしまう。
ーーヤバイ、意識が……
そろそろ俺も限界のようで体から力が抜けていく。
何かを叫んでいるなのは。
だが声は聞こえない。
今見えているのはジュエルシードを回収しようとしたクロノとそれを突き飛ばしたアルフ。
どうやら何処かのタイミングでクロノが応援に来てくれていたらしく、そのことに感謝をしたいが何故か声が出ない。
ついに飛行魔法が解け落ちていく俺が最後に見たのは俺を助けようと飛んでくるなのはと、アルフに抱えられたまま俺の方に手を伸ばす泣きそうなフェイトの顔だった。
____ああ、泣かせちゃったなぁ……
と考えた時には俺の意識はプツリと切れていた。
ここまでお疲れ様です。
今回で原作の9話のお話が終了しました。
次回からは原作の10話か0.5話のお話を挟むかと思います。
それではご感想と評価の方、お待ちしております!