ただいま現世。さよなら前世。   作:生肉トング

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5話

女性に連れられてやってきたのはとある廃ビル。廃墟であった。

4階に辿りつくと彼女は無遠慮にドアを開ける

 

「珍しいわね、式がここへ案内するなんて」

眼鏡を掛けた赤い髪の女性がコーヒーを飲みながら本を読んでいた。

視線は本を向いたままだったが...

 

資料やその他雑多なものが積み上げられ積み重なった部屋だった

奥のほうにかろうじて台所のようなものが存在した。

 

読んでいた本を閉じて彼女は眼鏡を外しこちらを睨め付ける。

 

「それで君は誰だ?」

 

頭の奥でバチリと花火が散った。

 

 

――――――――――――――――――

思い出す

 

頭の霧が晴れる

思考がクリアになっていく

なぜ蒸発した両親と住んでいたと思っていたのか

自分が住んでいたのは楽器の工房兼自宅であんなマンションではなかった

戻った後すぐに飛び起きてネカフェで調べたところまでは覚えている

そのあと誰かに会った

 

そこから記憶があいまいだった

 

なんで俺シュトヘルと同じだと思ったんだ

確かに魂は同じだが彼女は自分とは別の存在だ

過程が違う工程が違う結果が違った

 

 

「まずは話を聞こう。何があった」

彼女の声に思考に沈んでいた場所から引き戻される

「俺、須藤っていいます。今の状況とか状態とか全然わけわかんなくて助けて欲しくてここに来ました」

 

そこから式と会ってから今までのことを彼女、稀代の人形師であり魔術師である蒼崎橙子へ話したのだ

 

 

 

一通り話終わった

 

「無秩序な殺人衝動、人間以上の知覚。君の前世は何だ?」

興味あります。というような流し目を送られた

「たぶんマイナーすぎて知らないと思います。俺もネットで調べたくらいの知識しかないもんでそれでもいいならですけど」

顎でいいから先を話せと先を促すような仕草をされた

 

「シュトヘルっていう、昔の中国で悪霊と呼ばれた女で..す....」

 

「ほう。シュトヘルか。

顔のない復讐者。虐げられた民の復讐の代弁者。

 

場所は現在の中国、時代は西夏の末期、モンゴルの台頭から衰退までの間。

元になった人物はいたらしいがいくつかの民話、伝承を元にした架空の存在になるな。

 

魔術的にいえば時の圧政者に虐げられた人々の不の念。憎しみの総称。

モンゴルを滅ぼしたという民話、伝承、形のない呪いを人のカタチで起動した存在。

 

伝承の元になった人物は処刑後に蘇り、モンゴル兵を数えきれないほど手にかけた。

モンゴルを呪い、病をばら撒き、言葉で民衆を惑わし、モンゴルの衰退に一役買ったような存在だよ。」

 

流れるように息継ぎを感じさせないほど流麗に紡がれる言葉。思わず聞き惚れる。

 

「曰く不死身の凶族、首の無い巨狼、弓の名手、醜い魔女...まぁ眉唾だがね..

それでお前はソレ(無辜の怪物)が前世というのか?」

 

「あー正確には中の人の一人っていうか。本人の一人です。」

 

 

前世の自分に憑依して戦場を駆け回り一度は現世に戻り自分の意志でもう一度前世へと渡った。

 

蒼崎さんは納得したようなしていないような顔で話を進める。

 

「魔術の修行のひとつに前世の自分を憑依させその技能を得る憑依体験というものがあるが、君は魔術師ではないし魔術回路もない。

自身で魔術を使ったということは無いだろうな。ということはどこぞの魔術師に利用されたか...

先ほど君にかかっていた初歩的な催眠の魔術は解除した。

今もまだ不調があるというなら言ってくれ。ん?まだ気分が悪いのか?わかった後で見よう。

それと君、持っているな」

 

青崎橙子は俺の胸部分を指さす。

俺はジャケットの内ポケットからシュトヘルが死ぬ前に飲んだ二胡の弦を取り出す

なぜかそれは半分から真っ二つに切断されていた

 

「それは英霊を召喚する際の触媒になりうる。もう死んでいるがな。式が殺した触媒はもう使えないからそれ以外となると何か...

 

触媒とは英霊の生前関わりの深かったもの、その英霊を象徴するものだ。

ブリテンの騎士王アーサーならエクスカリバーなど分かりやすいだろう。

触媒を起点に魔術師は狙った英霊を召喚し使役する。

 

主に英霊を呼び出す目的は聖杯戦争への参加だ、先に聖杯戦争とは何か、だが。魔術師どもが競い合って万物の願いをかなえる「聖杯」を奪い合う争いだ。

参加者である聖杯を求める七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う。

 

さらにサーヴァントとは聖杯戦争時限定で召喚される、至上の使い魔だ。

 

呼び出したサーヴァントによって勝敗を左右することもある。」

 

話の半分も須藤は理解できないがなるほどと頷いておく。肝心なことはまだ聞けていない。

 

「ずいぶん詳しいんですね」

 

「まぁ調べたからな」

橙子はフーと煙草の煙を吐いた。

その紫煙と臭いがずいぶん鼻につく

「続けるぞ、聖杯戦争中のサーヴァントは聖杯の補助、術式と魔力のバックアップによって召喚と維持が可能になる。

聖杯戦争以外で真っ当に召喚なんぞしようものなら呼び出した瞬間サーヴァントに食われるか維持できず魔力と生命力を根こそぎ絞られて干からびるかだな。

サーヴァントは聖杯戦争期間限定のスペシャルな使い魔と思えばいい。

 

さて、英霊なんていうものはそれだけでも魔力の塊だ。

英霊を召喚したことでなく呼び出そうとした者は英霊を使って何をしたかったのか...」

 

何を呼び出そうとしたかではなく何をしようとしたか

解りやすい例えなら“ドリルを買う客はドリルで穴をあけたい”からドリルを買う。

ならば英霊を呼び出したのならその理由は何だ...?

分からない...

 

「よく分からないという顔をしているな。君のような魔術師でもない一般人に理解は難しかろうよ...」

 

蒼崎橙子そこで一人解ったように頷き俺を視た。

 

 

「なるほど君自身が触媒か」

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