それはある鉱物入手クエストの一部。
本来はそのドラゴンが排出した金属のことを言うため、そのドラゴンを倒す必要は無い。
だが、クエストを発生させるとすぐに蘇生するその性質と、その金属の貴重性に俺は《白竜》を狩り続けた。
壁を走り、かぎ爪付きロープで絡み取り、背後を取り片手剣で斬る。
慣れればなんてことは無い。倒した後、巣に下りて回収する。繰り返す。
この手のボスは山ほど倒した、慣れれば楽なものだ。
そしてそのアイテムを各方面に売り、確実に中層プレイヤーや攻略組に流す。
俺は使用していると流しているのが俺だとバレる可能性を考慮して、気を付けていた。
このイベントボスは、実りの割りに経験値以外は低く、経験値の良さから分かる通り、退治しようとすると団体戦が基本。
それをソロで倒し続けていると、茅場に知られるわけにはいかない。
そんな日々の中、記憶の磨耗が酷い。
残っているのは経験だけになってきた。
(………記憶の磨耗、前世は大学生。単純なことしか思い出せない)
それに憤りを感じる事すらなくなった。そろそろ危険なイベントが減っていると、だがまだなにかあるのではと言う可能性が捨てきれない。
(………武器の手入れするか)
最近上の層で仲間呼びするエネミーが現れ、おかげでだいぶレベリングが捗る。
そして資金はプレイヤーが経営する場所で消費する。そんな日々………
◇◆◇◆◇
「………はあ」
町はユウキが接触する可能性は高い、正直前世では好きだが、いまは苦手だ。
いまは2024年10月、ユウキは俺に構いだし、フレンド申し込みもたびたびある。
シリカも最近ユウキと組んで、中層プレイヤーだが、パーティーメンバー次第では攻略組と大差ないくらい成長していた。
プレミアたちのこともある。逃げられないこともある。
町に戻ると俺は憂鬱になる。ユウキは俺に友好的過ぎるから………
(だが調整しないとな)
レインの店で、武器の整備を全て任せることが増えてきた。
まあ俺の注文は短剣、刀、三叉槍以外、それは酷い。
ブーメランなんてほぼレインが独自に用意してくれたし、槍と刀はどこでもいいが、大剣、片手剣、盾は死活問題。
少し休んでいてと言われ、頭を休ませるため、店の隅で座り眼を閉じた。
◇◆◇◆◇
「レイン~いる~?」
「フィリア~?」
フィリア、同じ《トライフォース》のメンバーで、すぐ側で壁に寄りかかりながら座って寝ているプレイヤーに気づく。
「あれ、この人………」
「! リンクさん」
ルクスが頬を赤くして、全員が彼を見る。
「久しぶりにお会いしましたね………」
ミファー、このギルド初めからいるメンバーで、ユウキや自分たちとよく組む槍使い。
彼女からそんなことを言われたが、ルクスは首を振る。
「どどど、どうし、どうし」
「はいはい落ち着いて」
ルクスにそう言うフィリア。ルクスは彼に助けられて、彼の前だとあがってしまう。
いまは一緒だが、普段は別の子と共に活動している。
「ほら、いまは寝ているんですから、そっとしましょう」
「あと少ししたら起きるよ、彼、時間通りに起きるんだ」
「そうなの? 器用なんだね」
フィリアの言葉の中、彼を見るミファーは静かに、
「ボロボロだね………」
彼の服は至る所年季が入っていて、ボロボロだ。
フードから僅かに覗かれる顔は疲れ切った顔をしていて、ミファーも噂は噂だと改めて思う。
金色の髪、碧眼の彼は亡霊と呼ばれるほど、主に迷宮区ばかりで目撃される。ここまで騒いでも起きる気配は無い。
「ユウキが心配するはずだね」
そう言いながら、静かに見ていると、
「どういう状況だ」
◇◆◇◆◇
「どういう状況だ」
俺が目を覚ますと、周りに人が集まり、一人は彼女である。
少し驚き、俺は静かに立ち上がる中、レインは武器を全部出す。
「私のパーティーなんだから、いてもおかしくないでしょ? はいこれ、確認して」
「ああ」
大剣、片手剣二本、ブーメラン数品、矢も数点買いながら、全部ストレージに収めた。
「迷惑だったか」
「迷惑よ、まあその分料金もらってるけどね」
「ここで寝たこと……いやいい」
そしてそのまま去ろうとしたとき、
「見つけた♪」
そう言い嬉しそうに抱き着くのは、
「ユウキ」
「あっ、ミファー姉ちゃんたち」
そこにユウキと、そして、
「こんにちはリンクさん」
「こんにちは、皆さん」
「きゅあ♪」
ユナ、シリカ、ピナ。ここ最近《トライフォース》で活躍する者たち。
「リンク、ここにいました」
「リンク」
プレミアとティアまで来て、少し賑やかになりかけ、すぐに出ていくことにした。
◇◆◇◆◇
俺は攻略最前線、74層のフロアを練り歩く。
だが、
「………何でここまでついてくる」
「ボクらはここでレベリングする気だよ」
ふっふーんと言うイタズラっ娘がいて、ミファーとシリカ、フィリアにレイン。
「わたしたちは本来あなたと共にいる者です」
「当然だ」
そう言い、細剣のプレミアと、成長し大剣のティア。
ルクスとユナ。それに《血盟騎士団》のノーチラスのパーティーが付いてくる。
何名は申し訳なさそうに、楽し気に各々反応は違う。
全ての武器をいつものようにセットする中、静かに歩き出そうとしたが、
「! 人が来る」
「えっ、あっ、うん」
フィリアが急に索敵スキルに引っかかったのか、彼女がそう言い、俺はすぐに森のようなこの通路で隠れることにした。
「お前らも」
「確かに……どんな人たちか分からないもんね」
「そうですね、では」
各々別々に隠れだし、しばらくすると、
「あれって《軍》?」
「………だな」
なぜか側にユウキ、ルクス、ミファーにプレミアやティア。ここだけ狭いが草陰に隠れている。ピナなんか俺のコート内。
だがいまはいい、あれはギルド《アインクラッド解放軍》と名乗っているが、ここ最近攻略でいい結果を出さず、町の治安維持と言う名目の恐喝もしていた。
それで色々あったらしいが、俺は町を利用する機会が無い為、彼らと接触する機会は少ないが、あまりいい噂は聞かない。
治安維持なら《トライフォース》でもういいと言うところもあり、ユウキたちのところではよく衝突しているらしいが、トップにそのつもりが無い為、いつもトップが《トライフォース》に謝ったりすると言う。
ともかく、ここで彼らと出会いたくはないが………
「いまのなんだったんだろうね?」
「かなり本気の装備だったね」
「攻略………ここのフロアボスって、見つかったっけ?」
フィリア、ルクス、ユナの順に疑問を口にして、ノーチラスは首を振る。
「そんな話はまだ聞いてない。それに、最近は僕もボス攻略戦に出ているけど、ボス攻略には他のギルドと協力して大パーティーで挑むのが定石だよ」
「それじゃ、あの人たちは斥候?」
「でしょうね、さすがにそうと思います」
レインの疑問に、ミファーも納得する。マップ製作も、レベルとパーティーは必須。
そう思いながら、結局俺はこのメンバーでは本気で動けないため、適度にエネミーを狩りながら帰る、途中、
「あれ、パーティー交戦してる」
「どうする?」
「………問題ない、攻略組だ」
ギルド《風林火山》のメンバーに、キリトと《閃光》のアスナがエネミーと戦っていて、手を貸すこともなく、戦闘は終わった。
◇◆◇◆◇
「副団長」
「あなたは、ちょうどいいわ。ここに《軍》が来なかった?」
「《軍》ですか? いまさっき、何かあると思い隠れてましたが、通り過ぎて行きました」
「おいおい、アイテム使って帰ってないのかよ」
同じギルドのノーチラスたちの会話を聞き、ギルド《風林火山》のクラインが呆れながらそう言い、キリトが難しい顔をしていた。
「どうした」
「いや、この先にボス部屋があるんだ。まさかと思うけど」
「まさか、ほとんどの人が疲労してました。ただの確認では」
HPゲージに余裕があっても、精神的な疲労はある。
よほど壊れていなければ、精神面の疲労を無視して戦うことはできない。
「………戻ろう」
全員が嫌な予感がして、急ぎ引き返した。
◇◆◇◆◇
途中《風林火山》のメンバーを置いて行ったが、ボス部屋らしい扉の先は阿鼻叫喚だ。
山羊の二足歩行型悪魔モンスターが、両手剣を振るい、ほとんど蹂躙し終えた後だった。
「あっ……ぐっ………」
ユウキも思考が止まる。すぐにミファーが前に出て、ノーチラスが剣を構える。
「おいあんたたちっ、急いで転移しろ!」
部屋の外からキリトが叫ぶ。
だが《軍》の一人が首を振る。
「だ、駄目だ、クリスタルが使えないんだ!」
その言葉はここが《結晶無効化空間》と言う、一部のトラップルームで使われるエリアであると、それがボス部屋と言う最悪なことが伝わる。
「何を言うか……、我々解放軍に撤退の二文字は無いッ。戦え、戦うんだ!」
バカが一人いた、この状況下、統制も何もできていない最悪な事態でバカなことを言う。
今頃になりクラインたち《風林火山》が来たが、状況を知ってもどうすることはできない。
「な、なんとかできないのか」
「こちらも疲労したりしてるんだぞ」
ここで突撃しても彼らの二の舞になる。それが分かり切っているため動けない。
顔を歪ませながら、バカがさっきから突撃突撃とうるさい。
「だ、だめ」
◇◆◇◆◇
「だ、だめ」
ユウキの顔が歪む。
悲しそうに、怖いと言う顔で………
だけど、
「チッ」
いまからでも剣を抜こうと、突撃を仕掛けようとするユウキに、持っている武器のほとんどを投げ渡す。
「えっ」
「セイッヤアァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」
選択するのは両手剣、スキルもそれを選択する。サポートに投擲武器をいくつか投げてから突撃した。
獲物の切り替えは無し、投剣スキルでいくつか背中に当たり、タゲが突進する俺に切り替わる。
大剣が黒い炎を纏う。
「セイッハっ」
轟ッと言う音が鳴り響き、ボスが吹き飛びかけた。
それにアスナ、クライン、キリトが我に返り、参戦してくれる。
さすが《閃光》と《黒の剣士》か、そして四人組の中、前に出るのは、
「セイッ」
「アァァァァァァァァァァァ―――」
二つの片手剣を振るう二刀流と、見たことも無い両手剣のスキルを使う、プレイヤーだった。
ボスの攻撃をすり抜け、大打撃、ゲージを一気に削る大剣。
コンボを決め、確実にゲージを削る二刀流。
「「ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」」
大剣で生まれる隙を、キリトが防ぎ、俺はキリトが切り開いた隙を叩く。
一気にゲージが削れていき、ボスはポリゴンへと吹き飛んだ。
◇◆◇◆◇
「ははは、見ろ、我々解放軍の勝」
言い終わる前に、バカはクライン、そしてアスナが剣を向け黙らした。
「な、なにを」
「貴方に指揮官の資格は無いわ。仲間を危険にさらして、いまので勝利って言えるの」
「そ、それは。あ、彼奴らが弱かっただけだっ、私は」
「ふざけるんじゃねぇよッ。テメエはこの部隊の隊長だろうがッ! その責任も取らねえで、なに言ってやがるッ!!」
解放軍と風を吹かせていたが、ギルドリーダーであるクラインと、大手の副団長アスナの激昂には逆らえない。
「おいお前ら、このバカのことも含めて、ちゃんと上に報告しろっ」
「このことは我々他のギルドも報告するので、お忘れなく」
ミファーもまた《トライフォース》の古株メンバーであり、それに解放軍は頷くしか無かった。
「それより、おめえら、そのスキルなんなんだ」
「………言わなきゃダメか」
「ったりめえだ、なんだよあんなの! 見たことねえぞっ」
そしてキリトはエクストラスキル《二刀流》を口にした。
エクストラスキルは《血盟騎士団》の団長の《神聖剣》が初めてで、これで事実上、キリトが二人目だ。
そして、
「君のも教えてくれないか、黒いオーラみたいなの。明らかに両手剣スキルじゃないスキル」
「まさか」
「………《暗黒剣》。それが俺の両手剣《エクストラスキル》だ」
新たな《ユニークスキル》の公開に驚く周り。キリトと共々、なぜ発現したかは不明の、習得方法不明スキル。
この説明をしてから、多くの者にこれだけは公開した。
だがこれで嫌でも注目を集める。
今後どうなるか、頭が痛い。
◇◆◇◆◇
「《エクストラスキル》、習得者が二人も」
ゼルダがミファーからの報告を聞きながら、ノーチラスもいる中、みんな驚く。
ノーチラスはアスナが報告していることもあるため問題は無い。
「やはり彼は《エクストラスキル》所有者。だから情報を隠し通そうとしてるのね………」
色々大変なことになってきたと、ゼルダは頭を押さえる。
「ともかく、貴方たちが前線に出なくてよかった………」
ゼルダがそれにホッとすると、ユウキだけが下を向く。
「ごめんなさい……、ボク、倒しに出向こうとした」
それにゼルダたちははっとなるが、ミファーが説明する。
「彼、リンクが《ユニークスキル》対象外の武器を渡して、動けなくしたの」
「彼が………」
それにゼルダは、彼が優しいプレイヤーであることを思いだす。
「ほんと、あの人は………」
それに驚く中、彼が《ユニークスキル》所有者と知り、そしてふと机に目が行く。
「? これは」
それは店の帳簿であり、彼の仕事内容。
色々情報は大事なこともあり、やはり彼も調べてしまう。
そして、
「あ……れ………」
彼が使用するメイン武器は片手剣であると、帳簿が語る。
「メインが片手、両手じゃない? なのに」
「どうしたのゼルダ?」
「………まさか」
まだ隠していることがある。
彼女たちだけが気づいた、彼の事実であった………
どうなることか、お読みいただきありがとうございます。