彼は困惑していた。
彼のアバターネームは『キリト』。とある情報の食い違いから来る差別意識を抑え込むため、ベータと言う差別を自ら背負い、仲間を作らずソロだった。
だったのは、彼は偶然ギルド《月夜の黒猫団》と組むようになってからだ。
彼らには本当の経歴を隠してはいる。それだけベータと言う差別はいまだ酷いと言うこと。
それでも彼は疲れた。ベータであること、一人でいることに。
そんなある日、別のベータテスターと言うプレイヤーを見つけた。
「おいあれ」
「彼奴………《亡霊》か」
彼に付けられた通り名は《亡霊》と言うもの。
槍、刀、大剣、片手剣二つ、投擲用武器多数に盾。
なぜか彼は多くの武器を取り出した状態で携帯し、亡霊のようにフィールドで出会う。
彼がベータテスターと言われるのは、
「おいあれ」
「アラームトラップ? だけど」
遠くからかぎ爪付きロープで宝箱を開き、彼はアラームトラップをわざと起動させる。
彼は罠により、フロアに閉じ込められた。
だが彼は気にせず、武器を構え、フロアを埋め尽くすエネミー相手に戦い始める。
それを鉄格子によって塞がれた入口の隙間から見ていた。
「彼奴、俺たちから奪ったリソースで、あんな真似して………」
誰かが言った言葉は、それがベータテスターとして狩り場をすでに把握し、一般プレイヤーからリソースを奪った意味を持つ。
それは俺、ベータテスターである俺がしていたことだ。
だが、だからこそ言える。
彼は何者だ?
彼のようなプレイヤーは、ベータテスト期間聞いたことも何も無い。
彼はベータテスターではないのだから、なぜあんな動きができる、なぜあんなにレベルが高い?
ただ一つ言えるのは、俺はこれ以上、彼らと行動できるほど、心は強くなかった。
◇◆◇◆◇
2023年、8月頃。
コーン、コーンと小石を《シングルシュート》を木にぶつけて、少しでも上げていた。
上がるまで100回くらいしないとさすがに上がらない気がするがし続ける。
フードから覗く金色と共に青い瞳が狂気に似た光を宿す。
不意に、彼は小石を投げるのをやめた。
「時間だ」
まるで示し合わせたように小石のストックが消え、彼は町へと向かう。
今日は人と会う約束をしているからだ。
◇◆◇◆◇
とある層の一角、言われた時間帯に鍛冶屋へと来る。
「頼んでいた物はできてるか」
「リンク~? できてるよ」
紅色の髪、だが彼女曰く銀色の髪、ハーフとのことだ。赤い服装の女性が出て、一通りの武器を出す。
カウンターに並べられる数々の武器には、独自に用意してもらった物もある。
ブーメランは《投擲武器作成》で作られた金属製が数点。
それらオーダーメイド他、短剣は投擲用に何本もホルダーにしまう。
俺はいまでは《加工スキル》で作った、特殊なホルダーを着込んでいる。全ての武器を身体上に装備するため。
それに蒼いコートを羽織って、それにあのフードのようなものを付けている。
とはいえ町中では、武器や特殊加工したホルダーなどアイテムストレージに仕舞って、外では目立ち、町では逆に印象を消す。普段の格好は目立ちすぎる故に。
普段は左腰に刀、金属製ブーメランを二本下げて、背中には細長い両刃大剣、三叉槍を背負っている。
右腰には片手剣とブーメラン二本と矢のホルダー。後ろ腰に弓とブーメラン二本。
斜めに背にメイン片手剣、左腕に固定された盾が籠手として存在する。
後はメイスか。我ながら実用性のみ追求したが、おかしなくらいにおかしいことになった。
それらの装備を時折ここ、鍛冶師『レイン』に頼み、調整してもらっている。
「悪いな、いつも妙な注文して」
「ほんと、けどまあ嫌じゃないけどね」
俺の武器はほとんどオーダーメイドなのは、カテゴリーがギリギリのラインを狙ってのこと。
システムの誤認なのか、ブーメランは持ったまま斬り込めば片手剣か短剣、鉄槌などの打撃武器扱いになる。
そう言う微妙なラインの武器を、彼女に頼んで調整してもらう。
「これで足りるか」
「足りすぎ、まあいつもの迷惑料でもらうわね」
そんなこと言うが、相場より高めなのだが………
武器を手に取ると、やはりここがゲームの世界なのがよくわかる。
軽く振るが、実際の武器と所々違う。
この世界はありていで言えば、プレイヤーに求められる筋力で持てる範囲の重さなどしかない。
例えで言えば筋力10で装備できる武器防具の重さが、ほぼ同じなのだ。
鍛えられた肉体と技をゲームに合わせるのに時間がかかったが、早めに終わった。
元々途中からあの剣以外だって使う場所がある。そのおかげで違くても慣れると言う作業は早く済んだ。
そしてすぐにアイテムを仕舞い、すぐに出ようとすると、
「ねえ、リンク」
「? どうした」
「いやね、あなた、パーティー組む気ない?」
それに首を振る。
レインは少しばかり心配した顔で、
「あんたが無理してるのは、少し分かるんだよね。あんた、周りからなんて言われてるか知ってる?」
「ベータだろうがなんだろうが興味ない」
「………それでも、このままソロじゃ、いつか死んじゃうよ」
そう言われながら、だが、
「問題ない、死ぬ気は無い」
死はもう遭い過ぎたくらいだ。
そしてまたここから出ていく。
三つの黄金の三角形のマークのギルドから………
◇◆◇◆◇
わたしはこの店から出る彼と知り合ったのは、あの日。
それはいつものように店を運営していた時だった。
「いらっしゃいませ~♪」
正直女の子がしている店に来るのは、性能目的じゃなく女の子目的だったりが多い。
わたしは銀色の髪を赤く染めて、わざとオシャレしてる鍛冶師のふりをする。
真面目な仕事を求めているのなら、わたしを見ず、わたしの武器を見てほしかった。
そして彼は武器しか見なかった。だけど、
「………すまない、片手剣でもう少し刃と柄が長いのは無いか」
彼がいま持つのは、片手剣で一番良い物なのだが、お気に召さなかったらしい。
「それが一番ですよ。それにそれ以上長くしたら片手剣から両手剣に成りますね」
「ならいいか……、邪魔した」
そう言って出ようとしたとき、
「レイン、いまい………」
そうして入ってきたのは『ルクス』。
彼女は顔を赤くして、動揺している。彼女はわたしが所属するギルドメンバーの知り合いだ。
普段はもう一人、まあ素直じゃないツーサイドアップの子といまは組んでいる。
「あああ。あなあな、あなたはっ」
「?」
「ああーーーー、リンクだっ♪♪」
ユウキが嬉しそうにその腕に張り付くが、わたしはその言葉に驚く。
リンク、彼は《亡霊》と呼ばれている、フィールドを彷徨うプレイヤーだ。
そして、
「あの今日はお日柄もよくご存じですかあたしはその」
「ほらほら落ち着いてルクス」
ルクスは良く上がる方だが、今回は酷い。そう苦笑するのは、シーフ系にスキルを伸ばす『フィリア』。
深呼吸をして、しばらくして彼女は意を決して彼を見て、
「あ………」
ボンっと言う音と共に真っ赤になる。
「………俺になにかようか」
さすがに彼も困惑しながら、そう呟く。
まあ、よく見れば彼もハーフか純粋かは知らないが、綺麗な金髪と碧眼。かっこいい男子なのは確かだ。
真っ赤のままじゃ、あの子との会話が続かないな。
「貴方、前に誰かを助けたことない? 30層付近」
「………ああ、一人でいて転移罠で焦っていた」
それに何度も頷くルクス。
彼女はそれ以来、まあ彼のことが気になって仕方ないのだ。
「ああああの時は、ありがとうございますっ」
「気にするな、死んでほしくないし、死にたくないだけだった」
そう言う彼に、倒れかけるルクスに笑顔のユウキ。ユウキも彼に助けられて、こうして会話することがしばしばある。
ふむ………
「少しチャレンジしてみようかな?」
そう思い、彼に、
「ねえ、あなた、材料調達に付き合ってくれたら、少しチャレンジするわよ」
「?」
こうして彼との長い付き合いが始まるとは、考えもしなかった。
◇◆◇◆◇
35層、猿人型モンスター《ドランクエイプ》を倒しながら、わたしたちはとある場所を目指すが………
「あなた、その装備はどうなの?」
正直良い物とは言えない金属のブーメラン、刀に槍、両手剣と片手剣とか色々装備していた。
噂通りおかしな組み合わせであり、だがレベルは高い。
それ用にスキルを伸ばしているフィリアよりも早く相手に気づいたりと、不思議なところがあるが、強い。
まずエネミーが出て来る。
即座に懐に鉄槌武器を投擲し、硬い敵だからか、鉄槌武器を取り出し叩く。
こんなことを一連の流れで行い、戦闘を終わらす。
(まあ)
「やぁぁぁぁっ」
それはユウキも同じであり、彼と同格の動きをする。
この子も、プレイヤーでもデュエルや圏内戦闘では誰にも負けていない。きっとこんなことにならなきゃ、トッププレイヤーだろう。
「………」
彼は何度も剣を持つ手を回しながら、感触がいまいちなのか、難しい顔をしていた。
「ブーメランとか弓矢はどこで仕入れてるの?」
「ブーメランは自分だが、鍛治スキルは低い。ほぼ弓矢もだ、この世界は弓矢なんて、槍より少し遠い場所からだからダメージは見込めない」
「あなたは」
「俺は………」
その時、木になる実を見つけた。
彼は速射をすると、おかしな動きをして、実を落とす。
「そう言えば、この世界って、矢がちゃんと飛ばないから、そばじゃないとダメなんだよね」
「だから剣とか槍の方がいいな、食うか」
「うんっ♪」
ユウキに果物を渡しながら、全員分落とした。
せっかくだから食べるが、
「貴方はどうしてそう」
「たくさん撃って、矢が曲がる法則を把握した」
「へえ………」
フィリアが感心するが、さすがと言うか、それなら彼が言った通り槍とかにした方が早いのではないか?
そう思いながら、目的の場所に来る。
「ここは、ゴーレムか」
「あ、知ってるのね。ここに来るとイベントが発生して、巨大な岩モンスターが出るから、それを倒す」
「確かそのモンスターが鉱石落とすんだよね」
「うん、最近ここのモンスターの材料がよく流れるんだけど、結構いいんだよね~」
辺りを確認する。よく流れると言うことは、ここを狩り場にしているプレイヤーかギルドがあると言うこと。
それとかち合うのは少々まずい、あるギルドは狩り場を独占したりして色々問題視されていたりと、そう言うところは難しいが、
「ここのモンスターは固く、武器の耐久性を著しく削るんだ。狩り場にしたくても、メリットが鉱物くらいだから、場所にするギルドは少ない」
「あっ、確かに。そんな話をゼルダさんから聞いたかも」
「なら、頑張るしかないねっ♪」
ユウキが燃える中、準備を整える。
気を付ければあたしたちのレベル体なら問題ない。唯一分からないのは彼だが、この道中で見ても彼のレベルは高い方だ。
そう思っていると、
「!? 様子がおかしい」
「あれ?」
その時は知らなかったが、レアケースで岩では無く、鉱石のみで形成される状態、レアゴーレムとのちに言われることが稀に起きる。
それがいまあたしたちの前で起きて、情報と違うモンスターに一瞬驚いたとき、ユウキに鉱石の拳が、
「はやっ」
ユウキがすぐに反応したけど、間に合わないと思った時、彼が間にいた。
ガキンと盾と激突し、甲高い音が鳴り響くと共に、わたしたちはすぐに戦闘態勢に入る。
「ご、ごめん」
「気にするな。いまはともかく、レアケースだ。レベルも跳ね上がっている」
「分かったわ」
そして戦いだす中、彼は凄かった。
ユウキと動きを合わせ、全員の攻撃を一手に引き受けるタンク。
そして、
(凄い………)
連続で攻撃を決めて、確実にダメを蓄積させて、人を魅了させる剣の冴え。
決めた。
わたしは彼の剣を打つと。
その時決めた………
◇◆◇◆◇
それ以来、彼の注文を聞くようになり、彼も少しずつエスカレートする。
ブーメランから弓、片手剣と両手剣の間や、もうシステムの誤認レベルで武器の重みまで要求し出す。
わたしも意地になり、ついつい練り込む中、彼が店の一角の隅で待つと共に寝るようになる。
ユウキやルクスも来るようになる。彼が来るからで、フレンド登録を頼み込むが、彼は首を縦に振らない。
そうこうして良い出来の武器ができそうになる。
嬉しくて、最後の調整、つい歌ってしまう。
歌うのが好きで、ある仲間プレイヤーから一緒に歌わないかとも言われてしまう。まあ悪い気はしないかな。
「よしっと、そろそろ起きるわね」
そうしていると、少しカウントすると、彼は目を開けて動き出す。
心の中でつい笑いそうになる。彼は体内に時計でもあるのか、指示した時間に起きるのだ。いつものようにやり取りをして、武器を渡した。
「それじゃあな」
「ええ、また」
「ああそうだ」
その時彼は、
「いい歌だったよ」
そう言って去る彼に、わたしは、
「な、なに言ってるのよバカーーーーーっ」
そう叫び声を上げ、彼は姿を消した。
「全くっ、聴いてたなら聴いてたって言えばいいのに………」
そう言いながら、後始末をしていると、ふと、あることを思いだす。
「そう言えば、あそこの鉱石ってまだ役に立つから使われてるな」
だけど結局、武器や防具の耐久性は削るし、レアゴーレムがあるから、ケチることができない。
だから難しい場所だが、いまだ品物がプレイヤーの店に流れている。
「どこかのギルドが毎日狩ってるかな?」
そう疑問に思う中、彼女は仕事に戻る。
◇◆◇◆◇
それは何発も矢を受けて、ゴーレムは崩れる。
大男並みのゴーレムが崩れ、また蘇生待ち。この辺りはこれで生存率を上げさせる。
俺が弓矢を使うのは、装備の整備を長持ちさせるため。ここではかなり役に立つ。
寝る時間も何もかも削れば、レア以外からアイテムを一定量ドロップし続けるだけ。
「出て来い………出て来い………」
まだ持っている武器は問題ない。
いまはメイス、やはりこういう武器が長持ちする。
「まだだ………まだ、まだだ………」
ここを終わらせたら、次は迷宮区のトラップ潰し。
アラームなのは知ってる。なら全て潰してリソースに替えればいいだけだ。
「ははっ、いいな。効率がいいなこれ」
こうして《亡霊》は、フィールドを彷徨い続ける………
キリト、サチに相談される前に別れ、黒猫団は少なくても無茶なレベリングは途中まで。どうなるかは、彼がいるので時間がかかりますが問題無し。
赤い月が来る時間を待つように、トラップ片付けてゴーレム狩り、トラップ復活かプレイヤー活動前に罠を片付けるサークル。
色々彼もこれくらいぶっ壊れていてもおかしくないですね。
武器も多数使い始めたのは、彼が壊れたやり方で少しでもスキルを強化しようとがむしゃらに鍛えています。
それでは、お読みいただきありがとうございます。