それではどうぞ。
「色々あった」
「聞きたくないな」
ミファーはユウキの側でダイブし、俺はゼルダの大屋敷で部屋を借りてログインしている。
故にゼルダ家の捜査状況は報告されるのだ。
ともかく内容からしてまずは、
「………僕らの方で調べたんだけど、やっぱり黒か」
「マジでか」
「正直ブランクあるから、偽情報かなって思うくらいに。もう強行してもいいんじゃないかって」
「それは」
少しばかり焦りすぎている。まあ向こうも分かっているようだ。
「分かっているよ、強行すれば約300人のプレイヤーはログアウトできなくなる可能性があるからね」
リーバル、ウルボザ、ダルケル。そしてゼルダの父親は苦々しい顔をしていた。
そう、現状場所が分かっても、決定的な証拠が無ければいけないし、なにかしら動けば警戒され、その分彼女たちの危機に繋がる。
ゼルダは金目的だから、他のプレイヤーより安全かも知れないが、そんなことは関係ないのだろう。優しそうだからな。
ともかく決定的で、主導権をこちらで握らなければいけない。
その為に彼らは現実でゼルダ救出のために動いていたら、
「もう総合電子機器メーカー『レクト』のフルダイブ技術研究部門で、SAOサーバーの管理人。んで調べてみたらまっくっろけっけ」
「面白いくらいに裏の、フルダイブ技術で人の感情、記憶、意識をコントロールできるかって研究内容らしい」
「しかもアスナちゃん、この事件の切っ掛けの子ともこのまま意識が取り戻さなきゃ、彼女の裕福な家の養子縁組になる予定」
「聞いていて吐きたくなる」
「無理に詰め過ぎたわけじゃないね」
いまは食事を取り、フルダイブ時間を伸ばす準備をしていた。
だがそこまで黒なら、
「後はゲーム世界だけど、あのゲーム《グランドクエスト》はクリア不可能かも知れない。その理由は」
「転移させたプレイヤーの管理か、そっちも聞いたよ。まあ協力者とか出たからいいけど、目的は忘れてないよね」
「キリトが一番よく分かってるよ」
それにリーバルも何も言わなくなり、いま《世界樹》の町にいる。
そして食べ物を詰め込み、時間を見る。そろそろみんなと合流か。
「ゲームでもしも問題が起きたら、君たちのことは任せてくれ。私が責任を取る」
ゼルダの父親がそう宣言してもらい、それに静かに頷く。
「そうならないように、まずは潜りますよ」
そしてミルクを飲み干して、ログインするために退室する。
◇◆◇◆◇
キリトたちと別れていた、あの後キリトがかっこよく大金をケットシー・シルフ連盟にプレゼントして、金が無いため安宿をリーファと共に借りているはず。
広間でユウキ、ミファー、そしてピクシー三人。後はキリトたちを待つ中、ストレアがにやにやとしていた。
「リーファ、キリトのことが好きなのかな?」
「キリトにはアスナがいるだろ、まあよく分からない」
「えぇ~リンク、そゆとこちゃんと分からないとモテないよ~」
「そうですね、少しは周りを見てくださいね」
そんな中、キリトたちがやってきて、すぐに行動に移る。
町の中は中立地区らしく、色々なプレイヤーがいて、そして、
「あれが《世界樹》」
巨大な巨木があり、設定ではあそこに妖精王と、無限に空を飛べる妖精がいて、最初に謁見した種族を仲間に転生させる。
キリトが俺を見て、木登りできないかと、SAOで外周の支柱に上ったことでも思い出したのだろうか?
結局それも侵入禁止エリアの為できず、飛んでいても飛行限界でダメ。
ここに来る切っ掛けになった、数珠つなぎになって肩車して、枝まで届きそうになった話があるが、GМがすでに手を打ってそれも不可能になった。
根元まで近づいたとき、四人のピクシーが反応する。
「どうした」
「リンク反応だ、この先にいる」
「それは」
「ボクらで反応するプレイヤーって」
「ゼルダさんとママですっ」
それに全員が一斉に木の頂上を見たとき、一人の男が飛び立つ。
「ばっ、あのバカはッ」
急いで全員が飛び、キリトを追う。
雲海を越えて、木の枝に近づいたとき、システムの壁がプレイヤーを阻む。
「くそっ、俺は行かなくちゃいけないのにッ」
後ろからキリトを羽交い絞めにし、飛行時間を俺が肩代わりする。
すぐに意図に気づき飛行をやめ、何度もシステムの壁に触れ続けるキリト。これだけじゃだめだった。
「ユイちゃんストレアプレミアティアっ、警告モードで呼びかけて見てくれ、もしかしたらなにか反応があるかもしれない。なんでもいいからゼルダたちにこっちのことを伝えたいっ」
「はいですっ」
「分かったよっ」
「任せてください」
「分かった!」
「キリト、俺にしがみつくなりして飛行時間を稼げッ、いざとなれば蹴り飛ばしてもいい」
「おうッ」
こいつ迷いなく言いやがった。まあいい。
こうして長く空に留まろうと、躍起になっている。
◇◆◇◆◇
途中で落ちてしまった、野郎マジで蹴り飛ばして少しでも時間を稼いだ。
最悪の落下だけは、ユウキとミファーが支えてくれて助かる。
しばらくして、キリトがすぐに落ちて来た。
それにキリトはすぐに、話しかけて来る。なにかあったようだ。
「みんな聞いてくれ、アスナが俺たちにシステム管理用のアクセス・コードが渡された」
「マジか!? ストレアっ、コピーしてそれをリーバルさんに。もしかしたら外で必要になるかもしれない」
「分かったよ」
作業内容を聞き、ユイちゃんがすぐにストレアとやり取りを始める。
ユイちゃんを通して、カードキーをコピーしリアルの方に転送する中、すぐに、
「キリト、これからは」
「リーファと別れて、俺たちで正門から入る。彼女とはもう話を済ませている」
それを聞き、キリトがかなり急ぎ過ぎているが、下手に慌ててない分、逆に扱いづらい。
冷静なのはミファーとユウキか。
「大丈夫でしょうか、話を聞く限り、四人だけでは無謀です」
ミファーの言う通りだ。一種族一丸で出向き、それでも攻略されない内容に挑むのだ。ケットシー・シルフの連合を持つのも手だが、それも時間が惜しい。
そう考えていると、僅かに笑うキリトがいた。
「別に命が取られるわけじゃない、それにいまこうしているだけで発狂しそうなんだ。頼む、止めないでくれ」
「………誰が止めるかバカ」
今回ばかりは仕方ない。
時間が惜しい。向こうが動いたことは、下手をすればなにか動きか変化があったのかもしれないのだ。
「行こう」
ユウキの言葉に、全員が頷き、正門から堂々と殴り込む。
そして入り口に来ると、クエスト発生と確認ボタンが出て、さっそく受託し、中に入る。
ドーム状に広がる、無駄に長い白い空間。
樹の内部はその根か蔦の床、半球形のドームとなっている天幕では、ステンドガラスのような入り口らしきものが、
「行くぞっ」
キリトが先走り飛び上がり、ユウキが続くが、
「ユウキは俺らが落下したら回収、ミファーは下で回復待機ッ。これはキリトを先に行かせれば勝ちだッ!」
「!? 分かったよっ」
「はい!」
ここの勝利条件なぞ知らん、キリトを先に向かわせればいい。
ユイちゃんが先ほど手に入れたものがある。安心して彼らを先に行かせられる。
それにキリトに遅れて続くと、無数の騎士のような天使のガーディアンが次々と現れた。
「こいつは………」
これは確かに過剰防衛過ぎると内心舌打ちした。
だがキリトが咆哮するように先へ、先へと進む。
「ちっ、追いつかないッ」
切り替える。
幾万の魔物を殺し続けた戦士へと。
魔なる生き物たちとの闘い、戦士たちと培った技術の粋を。
「スゥ」
全て切り替え解き放つ。
いまこの瞬間、ここは仮想世界では無い。
◇◆◇◆◇
「凄い」
卑怯とも言えるほど、タゲが一手に、戦闘を進むキリトのみに集中する。
弓矢すら持つガーディアンがキリトを狙うが、
「セイハァァァァァァァァァァァァァァッ」
剣で兜を貫き、それを投げ飛ばし、無理矢理槍や弓矢、キリトの死角から来る攻撃の盾にする。敵プレイヤーを盾にした戦法だ。
何度か被弾する中、リンクは懸命にもキリトを先へと進めた。
だが、
「ダメだよキリト……」
それじゃダメ。
リンクの動きなんて無視して進んでいた。
いつまでもリンクに守らせてるだけじゃ、
「無理だっ」
ユウキが悲鳴にも似た声を出した、だがキリトには、いまの彼には届かない。
それでもリンクは、気持ちが分かる。
大切な何かが手を伸ばせば届くのだから………
「全く………やるしかないよなアァアァぁぁァァアぁぁぁッ」
狂ったように二人の剣士が空へと吠えた。
目の前にいる敵を斬る者。それを利用し、仲間を先へと進ませる者。
だが一人は我を見失っている。
「がっ」
ついに矢が彼の足を貫き、天幕へと手を伸ばしたが届かず、彼は蘇生待ちになり、炎と化した………
◇◆◇◆◇
惨めだった。
「キリトォォォォォォォォォォォォ」
無数の死角から、無限に湧くガーディアンの中、俺の残り火を掴み上げ、空へと吠える彼が眩しかった。
時には全身を使い、バネにして貫いた敵を投げ飛ばし、手首を利用した剣捌き。
彼だけがこの瞬間を、ただのゲームではない真剣な、あの世界のものとして捕らえて戦った。
死んでもまたやり直せる? 笑わせる………
彼の強さはなんなんだ。
いまだ俺の炎を握りしめ、守るようにガーディアンの波を斬り払う彼の強さは、
(アスナも、ゼルダも彼にとってそれほど大切な人か?)
違う。
彼はなんで………
その時、一人の風の妖精が現れてくれた。
「キリト君リンク君もうだめッ」
「チイィィィィィィィィィィィ」
そう舌打ちしながら、エンドフレイム化した俺を渡し、肉壁のように連なるそれらを睨みながら滑空する。
背後から呪詛のような魔法詠唱が聞こえるが、彼はガーディアンの残骸を投げ込み、盾にして防いでドームの外に出た………
◇◆◇◆◇
「がっ、くっは」
「リンクっ」
「リンクさん!?」
「俺はいい、蘇生待ちのキリトを」
だが蘇生アイテムは、
「私が持ってますっ」
頭を押さえ、切り替わりの限界点ですぐに切り替え、沈静化を始める。
ただひたすら敵を討つ状態はさすがにきつい。
蘇生したキリトは、無言のまま、それでも静かに、
「ありがとうリーファ……。でも、もうこんな無茶はしないでくれ。俺は大丈夫だから」
キリトはそう言い、全身から汗が出てきそうな俺へと近づく。
いまのゲーム機器、アミュスフィアだったか。それならきっと、俺は安全装置で強制ログアウトするほど、心拍数は半端ない。
「リンク悪い、少しで良い、教えてくれお前の強さをっ」
そんな俺の両肩を、必死に、すがるように掴むキリト。
「キリトさん落ち着いてっ、いまリンクさんはつか」
「それでもッ!! 彼の強さがいまは欲しいんだッ」
止めるミファーを引き離し、彼はいまにも泣きそうな顔で、悲痛な顔で俺を見る。
俺の強さ? なにバカなことを言ってるんだ。
「キリト、俺の強さなんて、お前はもう持ってる」
「システム的な意味じゃないんだよッ、あの場で戦い続けられたお前の、あの日々を戦い抜いたお前の強さが、俺が欲しいんだ………」
絞り出すように声を出し、ふらつくように俺の両肩を掴み続けるキリト。
その様子に誰もなにも言えなくなる。
「頼む、俺ができることならなんだってやる、だから」
「キリト落ち着けっ、いまのお前じゃ………だめだ」
きっと無理だ。こいつは、彼はもう持っている。
俺はただチートで手に入れた、生まれる前から付属される品物だ。
なにもないところから勝ち取った彼に比べれば、いや違う。
大切な者がかかるいまなら、必ず俺の先を行く。
だけどいまは………
「無理でもやらなきゃ、俺は、俺はもう一度会いたいんだ……。もう一度………」
そして、
「もう一度アスナに………」
残響のように響く悲痛な声に、俺はなにも言えなくなる。
俺が何か口にしようとしたとき、リーファの様子に気づく。
「リーファ?」
「………いま………いま、なんて……言ったの?」
「ああ………、アスナ、俺の探している人の名前だよ」
「でも、だって、その人は………」
目に見えるほど動揺するリーファ。
何がどうなっているか分からず、困惑する三人。
そして、
「お兄ちゃんなの………」
まるでそうあって欲しくない叫び声のような声に、キリトははっとなる。
「スグ? 直葉………」
まるで全てに絶望したように、キリトを見るリーファ。それがどういう意味か分かるのに時間がかかった。
だが世界は止まらない。
「酷いよ………あんまりだよ、こんなの………」
彼女はログアウトを真っ先にして、キリトの叫びも届かず、彼もまたすぐにログアウトした。
◇◆◇◆◇
「………どっちが《亡霊》だか分からない」
「………」
町のテラスで静かに妹を待つキリトに、俺はそう告げる。
彼からリアルを聞かされた。
十の時、自分の戸籍表示に抹消記録印があるのに気づいたらしい。人のこと言えないがどういう幼年期だ。
それから兄妹、妹である彼女とのすれ違いが始まり、祖父が無理に剣道をやらせようとして、妹が自分の分も剣道続けるからと言ったり、自分はパソコンに逃げたりと。
多くのことがあり、すれ違い、このような形で出会った。
「俺に言っても、リーバルさんたちに記録されてるからな」
「あの人は、からかうことはあっても、言いふらす人じゃないだろ」
いまユウキたちは席を外してもらっている。
俺とキリトはテラスで静かにしていた。
空を見ながら、静かに、
「俺が強いと言ったな、俺は怖いだけだ」
「怖い………」
それは本音だ。
どれほど手を伸ばしても届かないものを、俺はたくさん体験した。
勇者の輝かしい物語の裏、数多の血と涙があったことを、それでやっと知ったほど。
「俺がどれほど迷宮区のトラップを開放しても、俺がどれほど長くフィールドに留まろうとも、人の死は止められなかった」
神様から優遇された分際で、なにもかも救えなかった役立たず。
それが俺だ。
「………」
「だからこそ………届くものぐらいは伸ばしたい。死ぬのも死なれるのも嫌なだけだ」
「………」
「お前も持ってるはずだ、俺よりも。アスナがかかっているからこそ」
そして静かに、
「俺は少しユウキたちと町を回る。少しでも装備を良くして、今度こそお前を空に届かせる」
「きみは………」
「俺はただ、できることをがむしゃらにするしかないから」
偽物はそれくらいが似合いだ。
そう思いながら静かに飛ぶ。
「《世界樹》の前で」
◇◆◇◆◇
偽物には意地がある。
狂気に似た日々であった。
終わらす気は無い、あれがあるから、助けられた命はあるはずだ。
キリトの分もそろえ、静かにしていると、
「ねえリンク」
「どうした」
ユウキ、ミファーたちみんなと共に回る中、ユウキが呟く。
「リンクはやさしいんだね」
ユウキはそう微笑み、俺の手を握る。
「ボクね、リンクの手が暖かくって、優しくて、嬉しかった」
そう言いながら、俺の手を両手で握りしめる。
「ボクの病気のこと、伝えるのが怖かった。だけどリンクは気にしないで触れてくれた。ボクの病気、あそこまで回復したの、実は最近なんだ」
「ユウキは真っ先に、あなたに会いたい。そうお姉さんやお母さん、先生にも言って、大変だったんですよ」
「ボクの手を握ってくれて……ありがと………」
それは、
(………ああ)
日向の中、輝く彼女は、俺の知る彼女だ。
だが彼女の笑顔はまだ守れていない。
「………まだゼルダを助けていない」
そう言い、その手を引き抜き、彼女の温度を感じた手を握りしめて、
「全て終わらして、みんなで会おう」
俺はこの子のためなら、もう一度………
この眩しい笑顔の為なら、もう一度地獄を見てもいい。
勇者の偽物でもいい。
だから………
全てをまた、この瞬間に引きずり出す。
「うんっ♪♪」
そう、彼女に誓いを立てた………
ユウキの勇者、再度黒の剣士と共に目指す。
それではお読みいただき、ありがとうございます。