「………はあ」
ため息が出る中、景色と一体化するように蔦などを巻いて作ったマントなどで同化し、魚が水面に来るのを待つ。
本来ならエネミーも狩り続けたいが、今回は素材が足りない情報があるために、しばらく素材を確保する。
そんな日々の中で、あることがあり続け、少し疲れて来た。
ここ最近、町に来るとストーカーがいます。それは、
「リンク~♪」
ユウキである。
彼女は町に俺が出没するたびに現れ、話しかけて来る。
そのおかげでシリカがユウキたち《トライフォース》に入って、いま自分とパーティーを組んでいることなど話を聞く。
俺はそれを聞きながら、居場所バレが起きないように細心の注意を払う日々。
少し疲れた。
ともかくこの下かと、崖の下にある湖を見る。
「………」
槍を構え、水の中に飛び込む。
水面に激突する瞬間、ソードスキルを発動させる。槍先が無数に分かれ、魚影の集まりを刺し貫くと共に、水の中に入った。
落下ダメも、ソードスキル発動の際か発生せず、これの繰り返しで落下も下に足場があれば問題ない。
水面から顔を出すと共に、攻撃で浮く魚を回収。繰り返す………
◇◆◇◆◇
俺には秘密はある。
それは前世持ちや特典持ちだけではない。
レベル、スキル。
このゲームには《エクストラスキル》と言うものがあるらしい。現時点では《血盟騎士団》の団長の《神聖剣》のみ。
対してそれらしいスキルが六個ある。
茅場はどういう理由でこのゲームを始めたか分からないが、これらを見過ごすはずもない。
俺は茅場がいま言った《神聖剣》使いであることは知っている。
だがそこまでだ。
俺が何かをして、キリトが彼を倒す流れが壊れる恐れがある以上、目立つのは危険極まりない。
これらを隠しながらソロを続けるしかない。それが俺の選択肢だった。
「できれば関わり合いたくもないんだが」
そう愚痴りながら、また水面を攻撃した。
◇◆◇◆◇
大量の素材アイテムを確保し、衣類を変えながら、各店に流す。
主に流すのはプレイヤーが経営する店などがメイン。
元より金が欲しい訳では無い、素材を他者に渡すくらいしか考えに無い。
採れる採取系は全部取り、多くばらまき、生存率を上げる。
金も使う、他の店で買った物を、原価など無視して必要とする場所に売ると言う作業。
ギルド、個人店、果てはNPCの物流。全てを把握してうまく調整する。
個人でするには無理があるが、焼け石に水でもやり続ければいい。
そうした日々の中、
「リンク~♪」
そう言い、俺の手を取る少女が現れた。
「ユウキ」
「今日こそフレンド登録してもらうぞ~」
そう言って、町を徘徊しているとエンカウントするこの少女は、いつも元気そうだ。
別にそれでいいんだけど。いまだ無気力なプレイヤーがいる中、この子はこれくらいでないと、気が狂う。
だが正直この状況もまずい。
「俺はフレンド登録する気はない」
「えぇ~」
そう言い、周りをウロウロするユウキ。一度転移結晶まで使用して逃げたことがある。
そんなときは、仕方なく食事をすることにしていた。
ユウキとの時間だけ、俺は人間らしい行動をする。
そしてそんな会話の中で、できそうだからなど、たまにはガス抜きも必要かと色々言い訳を考えながら、ユウキとこんなことを約束した。
◇◆◇◆◇
ユウキは今日ご機嫌であり、ミファーとゼルダは少し微笑む。
「ユウキ、なにか良い事があったのですか?」
「うんっ、今日ね」
それは爆弾だった。
「デートするの」
「「えっ………」」
◇◆◇◆◇
小一時間ほど問い詰められて、知り合いも同伴していいただのご飯だったため、ゼルダは自分の仕事を終え、ミファーも保護者としてついていく。
他にも呼べる人間を呼びかける。
そしてとある階層の町で、ユウキはガクガクと震えながら訪ねてきた。
「保護者になんて言ったんだ」
「ごめんなさ~いっ」
リンク、ビーターやベータと言う噂が流れ、武器をほぼ一式背負い、フィールドを歩く様は亡霊とまで言われるほど、情報と他者との繋がりが少ないプレイヤー。
故に保護者もどうぞと言う話をしたのだが、二人の女性はかなり警戒していた。
「保護者なら、この子のことを見ててくれ」
「ボクが我が儘言って、リンクが良いって言ってくれただけだから」
説明は受けているし、ここには彼女たちだけではなく、重戦士であるダルケルもいてくれて、お互い苦笑した。
「まあ二人とも、ユウキのことは気にかけてる方でな。こっちからのことなのにすまなんな」
「別にいいさ」
ご飯の方は準備できているため、テーブルを拭くだけだが、
(この部屋、いつも使っているわけではないのですね)
ゼルダはユウキのこともあるが、もう一つ《亡霊》リンクのことを調べることもあった。
彼は数少ない弓矢だけでなく、槍も投剣も、なんでも装備している。
顔も隠す為か、フードを付けているが、いまは外している。ハーフか外人か、綺麗な金髪で碧眼だった。
だが彼は日本人だろう。
「もうすぐラーメンできるから」
そう言い、これがメインと言う話である。
◇◆◇◆◇
「おおっ、うまいなこれ! 本当にラーメンだぜっ」
「おいっし~い♪」
「ほんと」
「おいしい………」
ダルケルはともかく、ゼルダとミファーがラーメンを食べている絵図に、僅かに内心苦笑する。
「ラーメンと言っても、ただの麺に、ラーメン風にしただけだ」
「けどよお、この世界にはしょうゆはねえだろ? 俺はこの前《アルゲードそば》とかいう、ラーメンもどき食ったけど、ここまでじゃねぇぜ」
「それでも店で出すレベルでラーメンを再現してないと思うが………」
「いやいやいや、麺と良い、味と良い、豚骨ラーメンだよこれ」
「豚……豚肉を使ってるんですか?」
「まあ、はじまりの《フレンジーボア》の上位か。そいつがドロップする食材アイテム。それにかん水は、できた」
「できたって」
リンクはかん水に関連する要素を述べてから、それに類似する水は無いかと思って、とある山から採れる湧き水を使用する。
驚くべきところは、その水は22層付近と、ダルケルは驚きながら、髭を撫でていた。
「まさか水にも味の違いがあるなんてな」
「俺も麺に使ったら中華麺に似てたから、後はスープはお好みだな」
「なるほど、しょうゆは無いから豚骨と」
それにゼルダはすぐに、
「リンクさんっ」
「な、なんだ?」
いままで食べていたゼルダに、少し驚くリンク。
「そのレシピを売ってもらえないでしょうか」
「? 別にタダでいいよ。けどどうした」
「い、いえ」
少し落ち着きを取り戻して、自分の考えを静かに口にする。
「私たち《トライフォース》は、低年齢プレイヤーや戦えないプレイヤーの方々に、鑑定、製作、そう言った生活面だけでなく、鍛治スキルなどでアイテムを作ることで、攻略組を初めとした方々に貢献する方針です」
「………ああ」
少し暗い顔をしたが、すぐにゼルダの言葉の続きを待つ。
ゼルダは、
「この料理、食材と材料を集められて、それを店として出せば彼らの収入源になります」
「そりゃいい、店を出す案も出てたが、宿も食堂もほとんど出てるし、こいつなら食いに来る客は出るぜっ」
「はい、できればその為にも」
「………」
リンクは静かに考え込むが、
「………それは本当にためになるか」
そう逆に聞き返す。
その問いかけに少し驚き、ゼルダは聞く。
「どういうことですか」
「まず俺が恐れるのは、
「!?」
それはゼルダも感じていた。
慣れる。それは別に悪いことではないが、結果的に元の世界に、ログアウトの為に躍起になっていたプレイヤーは少しずつだが減っている。
攻略組のモチベーション、その問題があると彼は言う。
「この世界に、元の世界の物ができていけば、帰りたいと思う者は少なくなる。まあラーメン一つでそう思いたくはないが、逆もある」
「逆?」
「求めていた物が側にあると、失う恐怖にもなる。違うか」
「………」
確かにたかが食材、料理とはいえ、元の世界の物を出すのは、良い事か悪い事か。ゼルダにはすぐに判断できない。
むしろそうでなければいけないと、彼は思っていた。
「なにより真似られる可能性だってある、それを収入源にしたいのならなおのことな」
「………」
しばらく目を閉じ、考え込むゼルダ。
「………レシピを教えてもらいませんか?」
「………いいのか」
「すぐに判断はできませんか、ですが手元に置く価値はありますので」
そう真剣に言うゼルダに、リンクはすぐに紙にマップを書く。
水の場所と、簡単なレシピを書き、渡して置くことにした。
「ありがとうございます」
「別にいい。冷めるといけない、残りも食べないと」
「はい、そうですね」
そう静かに微笑むゼルダ。
リンクは僅かに影が差したが、すぐに首を振り、自分の分を盛りつけた。
◇◆◇◆◇
「ごちそうさま♪ おいしかったよリンク♪♪」
「そうか」
「ボクラーメン食べるの初めてだから、ホント嬉しい」
それに僅かに思考が引っ張られた。
ユウキはまだ入院、いや病魔と闘ってるのか。
ならいまの状況はどうだ?
医師の診断も聞けず、いつ死ぬか分からないデスゲーム。
心が冷え切っていったが、無理に頭を切り替えた。
「まあ、ラーメンは少しカロリー高いとかあるしな」
「そ、そうですね」
ミファーがそう言いながら、ゼルダとダルケルも様子がおかしい。
彼らは知っているのか、ユウキが最初からこのギルドにいるのは、彼らとリアルで知り合い?
どういう背後関係だ。
だが聞けない、聞くことはできない。
俺は言葉を飲み込み、彼らと別れた後はチェックインした。
また迷宮区へと向かう。
◇◆◇◆◇
「………あはは、少し口滑っちゃったよ」
複数ある支部、その部屋に帰りに、ゼルダの執務室でそう力無く笑うユウキ。ミファーは静かに微笑む。
「問題ないよ、私たちも食べたことないんだもの」
「ミファー姉ちゃんたちはお嬢様じゃん」
そう微笑むユウキ。ゼルダは、
「ユウキ、あまり無理をしないでください。身体はきっと、お父様たちが治していますから」
「………うん。だけどねゼルダ姉ちゃん、ボクは強くなりたいんだ。ほら、なにかあったとき困るでしょ?」
「ユウキ………」
「それじゃ、ボク他のみんなのところ行くね。それだけだからだいじょうぶっ♪」
そう言って出ていくユウキに、ゼルダは見送るしかない。
「………私のしたことは間違いだったんでしょうか」
「お嬢様よ、あまり悲観してばっかじゃ、あの子に悪いぜ」
「分かってます」
ゼルダは静かに、この世界を睨む。
「あの子の病気を治す為、仮想世界へ意識の預ける医療法。メディキュボイド」
「私や、貴方のお父様がその可能性を信じて、一手に援助して、あの子の家族が、手術を受ける話。私は間違いじゃないと思う」
「ええ………。だけどこのゲームをあの子、ユウキにやらせたことだけは間違いッ」
ゼルダは強く窓枠を握りしめ、悲しそうに二人は顔を背ける。
「お嬢様たちのことはこのダルケル、ウルボザ、リーバル。必ず現実の世界に返して見せますぜ」
「私は絶対に帰ります。あの子の、双子の姉や母親に、ちゃんと謝らなければいけませんから」
「そうだね、みんなで帰ろう」
それに決意を新たに、彼のことをふと考える。
噂とは違う、人間らしいところを見せた彼。
だけど、ユウキが気にかけていることもあり調べたが、ほとんど町を使用せず、迷宮区にいるのさえ怪しいほど情報が少ない。
だからオレンジかレッドではと疑ってしまう。
それは違った、だがある意味酷い意味で違っていた。
あれは何かに、一つのことしか目に見えていないのではないか?
情報通りの人ならば、何か目的があって動いている。
(………ユウキじゃなくても心配しそうな人ですね)
そう思いながら、だが今回のことも、ユウキがラーメンって食べたこと無い、ダルケルたちがもどきを食べたと言う話から、作ってやると言う話になったらしい。
唯一人間らしい反応に、ユウキはとても嬉しそうであり、それはこの世界の現実を忘れるには十分だった。
少し考えてしまう。
このまま彼らを会わせ続けていいのか。
「いまは新たな収入源の確保ですね」
そしてゼルダはすぐに動き出して、調理スキルの高い人に試してもらう。
しばらくしてラーメン屋が開かれて、あの《血盟騎士団》の団長が来たとか、そんな話を聞いた………
◇◆◇◆◇
なにしてるんだろう?
つい、同じ水でも違いがあるのに気づき、その中にかん水として使えそうな水を見つけた。
その後、保存性が高い麺として使っていたのを、おいしいものに替えるのに苦労する。
食材も急きょだったため、手元にあるもので作ったがうまいものができてよかった。
あの子も笑顔で、少し口を滑らしていたな。
「………俺はなにしてるんだっけ」
そう思う中、ユウキの笑顔が頭をよぎった。
まだ戦える?
違う。
「戦う以外に選択肢は無い………」
そう頭に刻み、また動き出す。
また………
◇◆◇◆◇
「ユウキ、なにか嬉しいことあったの?」
「うん、仲良くなりたかった人と、少しは仲良くなれたかなって」
そう、あの人はいつも一人だ。
一人は苦しくて、辛くて、悲しくて。
だから話しかけた、あの人はそれを拒みはしてるけど、無理矢理引き離すことはしない。
なぜだろう、あの人と仲良くしたいのは。
だって………
(このままだと、遠いところに行っちゃいそうなんだもん………)
そうユウキは、静かに思い、空を見上げた。
ラーメン店、人気出る。
ユウキの事情、彼は知らず予測することしかできず、狂います。
それではお読みいただきありがとうございます。