東方時哀録   作:シェイン

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皆様初めまして。シェインと申します!
どれだけの作品が作れるか分かりませんが、読んで下さった方の心に残る作品になるように頑張って行きたいと思いますので、これからよろしくお願いします!



第1章 ビギニング・タイム
第1話 ~開戦~


果てにある宇宙なんて見えない程に広く、湖の水の青を薄めたような美しく、儚い、青に染まっている空。上を見上げればいつでもそこにあり、「不変」と思ってしまうもの。

 

 

しかし、それは有り得ない事だ。

 

宇宙も、湖も、空も、そして...人も。

「不変」ということは起こり得ない。世界に時間が流れる限り、変わり続ける。

 

 

この穏やかで当たり前な空にもほら、大きな変化が訪れる...

 

 

 

 

   

乱れ一つ無い水面に、波を作り出す水滴のように、空気と雲の、完璧な調和を保つ空を乱す存在があった。

 

その存在を一言で表すなら...白。

 

膝元あたりまではあるであろう純白のマントを身に纏い、中には白のシャツ、下は白い七分丈のズボンと、白で統一された装いの中で、少し短い金髪が一際輝き、目立っている。白い存在の少年は、そんな見た目をしていた。

 

その少年は、空気を切り裂くようにして下へ、下へと仰向けで落ちていく。抵抗する素振りも見せず、自分の辿った軌道を虚ろな瞳で見つめているだけ。

 

やがて少年は一つの行動を取った。

 

手を伸ばしたのだ。

 

自分が下へ、下へと落ちていく中、その手は上へ、上へと伸ばす。

 

まるで何かを求めるかのように。救いではなく、もっと大切なものを求めて、少年は必死で手を伸ばす。

 

しかし、重力は誰にでもまとわりつき、情など持ち合わせてはいない。望みを込めた腕の繋がる胴体を、大地へと引き寄せる。

   

とうとう少年の背に、無数の瓦の張り付く多くの屋根や、乾いた地面が見えてきた。しかし少年が気づく訳も無く、変わらず手を伸ばし続けている。

 

残り100m...手を伸ばす。

 

残り50m...手のひらを閉じる。

 

残り10m...伸ばし続けてきた手を力無く下ろす。

 

残り5m...虚ろな瞳を隠すように、瞼を閉じる。

 

残り1m...そして、言い残すように一言呟く....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........嘘つき...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷、そこは忘れられた者達がたどり着く楽園だと言われている。

 

己たちを喰らおうとする者もいるこの楽園で生き抜く人間、多種多様な姿と特異な能力を備えた者たち妖怪、自然から生まれ出た永遠の幼子である妖精、そして神までもが生きる、幻の楽園。

 

そんな楽園が迎える満月の夜、輝く星の光を遮る、球体のような暗闇が空をふらふらと泳いでいる。その暗闇の中、外部からは見えることはない1人の少女がいた。

 

「あぁ~、お腹へったのだぁ~...」

 

月の如き輝きを放つ金髪に赤いリボンを付け、両手を広げたままという独特のフォルムで闇を纏う少女は、誰にともなく嘆く。このセリフが普通の少女のものなら飴の一つでもあげたくなるが、彼女の場合は物騒なセリフへと早変わりする。

 

彼女の名は、ルーミア。闇を操る()()()妖怪である。

 

お腹をすかせて空をよろつくルーミアは、自分の獲物を求めて闇から視線を飛ばす。その視界に、一つの灯りが映る。灯りの近くには、青く生い茂る森とささやかに流れる小川があり、どうやら灯りは、その傍らで焚き火をしている男のもののようだ。

 

「ふふっ♪美味しそ~う♪」

 

ルーミアはにやりと笑うと、自らに纏っていた闇を取り払い、空気を蹴り出すようにして急降下を始めた。重力に従い加速していくルーミアの先には、獲物である人間の姿。風を切る音に混じらせ、彼女は告げた。

 

「いただきま~す♪」

 

その言葉の通り、数秒後には地上の男は美味しく召し上がられる事になるはずだった。だが、男は瞬時に後ろに飛び退き、ルーミアの飛びかかりをかわして見せた。男の回避に気を取られたルーミアは勢いを殺すのが遅れ...

 

「ふぎゃぁっ!?」

 

男の腰掛けていた大きめの石に、思い切り頭を打ち付けた。そのまま意識の薄れ行くルーミアの最後の視界には、さっきの男の顔が映っていた。

 

 

 

「うぅん...」

 

頭に伝わる心地よい冷気がルーミアの意識を覚ます。先程打ち付けたおでこには氷の入った袋が乗っており、じんじんと痛む患部を癒してくれる。その冷たさに、ルーミアが友達の氷精を思い出したのはまた別の話。他にも、横たわる体の下には厚手の寝巻きが敷いてあり、上には柔らかな毛布もかけられている。ここまで手厚い処置を施したのは...

 

「あっ、目が覚めた?頭ぶつけちゃった見たいだけど、大丈夫?」

 

自らを喰らおうとした相手に非常に穏やかな表情で気をかける、先程の男だった。ルーミアは氷の袋を手で下ろしつつ、体を起こして返事をする。

 

「う~ん...まだ少し痛いけど、大丈夫なのだ~。」

 

男は20代後半位の見た目で、動きやすそうなシャツやズボンを着ている。雰囲気は爽やかかつ穏やか。見ただけで分かる好青年である。男の側には焚き火の他に、近くの小川で捕らえたと思われる魚を木の棒に刺したものが石を支えに立っており、程よい焦げの芳ばしい香りが、ただでさえ不満を唱えていた腹の虫を刺激してしまう。

 

「...お腹、空いてるんでしょ?一緒に食べよう。」

「えっ!?いいの?」

「もちろん。そのために多めに釣っといたんだもの。」

 

男は眩しいほどの笑顔を向けながら、ルーミアにサムズアップを示した。自分が食べようとしていた相手に、ここまでしてもらうことに少し後ろ髪を引かれつつも、やはり空腹に打ち勝つなどルーミアには不可能で、若干苦い顔をしながら布団から抜け出し、男の隣にちょこんと座ると、改めて男が向けた笑顔にさっきから感じていた気まずさは、光が闇を払うかのようにすっきりと消え去った。

 

「俺は五代(ごだい)雄介(ゆうすけ)。君の名前は?」

「わたし、ルーミア!闇の妖怪なのだ~!」

 

ルーミアは両腕を広げるお決まりのポーズを取ると、雄介の笑顔に引けを取らないほどの満面の笑みで、自分の名前と種族を告げた。

 

 

 

 

「へぇ~妖怪か。本物を見るのは始めてだな。」

「そーなのかー。」

 

パリッと焼き上がった魚を食べる雄介は、告げられたルーミアの正体に関して実に飄々と答えて見せた。本来であれば、妖怪は人間から恐れられる存在なのだが、今、無邪気に焼き魚にかぶりつくルーミアの方には恐怖を与える意図は無く、シンプルに自己紹介をしただけなので、結果的には良かったと言える。

 

「ごちそうさまでした!それにしても、妖怪を見たことないなんて、雄介は変わった奴なのだ~。」

 

焼き魚をぺろんと平らげたルーミアは心底幸せそうな顔で口のまわりを一舐めすると、雄介をまじまじと眺めながら呟く。

 

「そうなの?普通は見たことないと思うけど。」

「この幻想郷では、普通に見たことあると思うんだけどなぁ。」

 

食後に交わされる、旅の青年と妖怪の少女という少し変わった組み合わせでの会話。変わっていると言えど、そのやり取りは笑顔に溢れるもので、彼らの側で揺れる焚き火のような暖かさがあった。だがその姿を、森の闇に紛れて睨み付ける影が一つ。2つの眼光とその手に握られた得物が、冷たく輝く。

 

「幻想きょ...?」

 

“幻想郷”という自分の知らないワードについて問いかけようとしていた雄介の言葉が途切れ、出会ってからずっと穏やかだった表情が急激に強ばる。明らかに様子のおかしい雄介に、ルーミアは心配そうにその顔を覗き込む。

 

「雄介...?どうかした?」

「まずいっ!!」

「ふぇっ!?」

 

雄介は森の方向に目をやると、大きく目を見開いて叫び、呆然とするルーミアを抱き抱えて大きく横へと踏み込んだ。その次の瞬間、二人の背後で火にくべられていた薪が、金属音と共に弾けとんだ。

 

「嘘...あれって槍!?わたしたち、誰かに狙われて...?」

 

ルーミアは雄介の肩の上から顔を覗かせ、自分たちの置かれた状況を確認する。焚き火のあった場所には、三ツ又になっている金色の槍が突き刺さっており、周囲にあったものは散乱していた。そんな物騒な物が間違って飛んでいってしまうなんて事は、いくら常識の通じない幻想郷と言えどあり得ない。つまりこの槍は、明確な殺意を持って放たれたものという事だ。

 

「うん...しかも、この雰囲気...」

「動かなければ苦しまずに殺してやったものをなぁ...」

 

雄介は抱えているルーミアを下ろしながら、研ぎ澄まされた殺意を探る。すると森の中から、少し気だるさを感じさせる哀れみの声がかけられ、声の主もまた、ぶらりと森の中から姿を現した。

 

「ばっ、化け物...!?」

 

ルーミアがぽつりと呟く。彼女の言う通りその姿は異形であり、主な体色は緑、丸い指先には吸盤、非常に大きな瞳。特徴としてはヤモリに近しいものがあれど、その姿は人の形をしている。そして、腰には所々鋭利な形状の金色のバックルがついていた。

 

「グロンギ...?」

「久しいなぁ、クウガ。オレの事、忘れちゃねぇだろうな?」

 

グロンギ。雄介にとって忘れることなど出来ない、その名。本来であれば、忘れてしまってもよかった存在。雄介はそのグロンギ、“ズ・ジャモル・レ”から意識を離さずに思考を巡らせる。

 

「(そんな...グロンギはあの戦いで全滅したはず...しかもこいつは、俺が確かに...!)」

 

目の前の現実を必死で否定する雄介の頭の中に、強く悲しい記憶が甦る。

 

顔を殴る、足を蹴る、腹を突き破る、喉元を射抜く、肉を断ち切る。その脳みそが焼ききれそうになる感覚と、多くの血にまみれた記憶。その記憶が、彼の心の青空を嵐へ変えていく。

 

「さぁて、一発で殺られてくれればよかったが、せっかく生き延びたんだ。ちょっくら遊びに...いや、“ゲゲル”に付き合って貰おうか?」

「(やるしか...ないのかッ!!)」

 

ジャモルは、地面に突き刺さったままの槍を引き抜くと、その鋭利な先端を長い舌で舐め回しながら挑発を行う。その中で発した“ゲゲル”と言う言葉が、雄介の心に雷を落とした。雄介は拳を強く握りしめ、覚悟を決める。これ以上、誰かの涙を見ないために。

 

「ルーミアちゃん、今すぐ逃げて。ここから、出来るだけ遠くに。」

「雄介...?」

 

雄介はそれだけを告げると、未だグロンギの存在に動揺し不安そうに声をかけるルーミアの方に振り向く事もなく、ジャモルに向かって数歩直進した。彼は川辺の砂利を踏みしめつつ、両手の親指を人差し指から離し、他の四本の指は揃えて、手の甲を正面に向けるように腰に構える。その両手は、何かを囲むかのように空白を挟んでいた。

 

「え...?」

 

しかし、その空白には何も現れない。普通ならば当然の事だが、雄介にとってそれは異常な現象だった。1年以上、“現れるはずのそれ”と共に死線をくぐり抜けて来た。彼にとって、自分の体の一部のような物。否、本当に自分の体の一部である物だったはずなのだ。だからこそ彼にとって異常な現象なのだ。

 

「お~い、クウガ。何やってんだよぉ?さっさと来ねぇとこっちから殺りにいくぞッ!?」

「雄介っ!!」

 

雄介はミスの起こったロボットのように、何度も同じ動作を繰り返す。そんな彼に痺れを切らしたようで、ジャモルは槍を振り回しながら雄介に突撃する。それに気付いたルーミアは、危険を雄介に伝えようと叫ぶ。しかし雄介は気付かない程に混乱してるようで、彼女の声も届いていない。

 

「っ!!【月符】ムーンライト・レイ!」

 

雄介に声が届かないと悟ったルーミアは、ポケットから絵と文字の書かれた札“スペルカード”を取りだし、その札を数多の小さな魔法弾と大きめの魔力の塊に変換させた。ルーミアは、その内の小さな魔法弾を雄介とジャモルの足元にばらまく。

 

「うわっ!?ルーミアちゃん!?」

「チッ!何だあのガキィ!!」

 

雄介は、魔法弾が地面に着弾した際の音と爆風でようやく我に帰り、その場からルーミアの方に飛び退く。一方ジャモルは、着弾で立ち登った煙幕で視界が悪くなり、足を止めた。

 

「ごめんね!助かったよ。」

「うん!じぁあ、ヤモリさんは美味しくないから、焼き消してあげるッ!!」

 

雄介が煙の中から飛び退いた事を視認したルーミアは、煙幕の中にある影を、魔力の塊から発生させた二本のレーザーで挟み込むようにして狙い射つ。徐々に二本のレーザーの間隔は狭まり、影の位置で交差して魔法弾の爆発より更に大規模な爆発が起きる。

 

「やった!!」

「いいや...駄目だよ。」

 

爆風で揺れるショートボブの金髪を抑えながらルーミアは笑顔を浮かべるも、険しい顔をする雄介にはその結果が分かりきっていた。

 

「うそでしょ...完璧に決まったのに...」

「ちぃ...ガキがゲゲルを邪魔しやがってぇっ!...手始めにお前を殺ってやるっ!!」

 

爆煙の中から少し前と変わらない姿のジャモルが、槍をプロペラのように回転させて爆煙を吹き飛ばし、二人の前に現れる。口調も気だるさを感じさせるものから、苛立ちを滲ませるものへと変え、荒々しく槍を振り回す。その槍をピタリと止めると、切っ先

をルーミアに向けた。

 

「ルーミアちゃんッ!!」

 

ジャモルの手の動きでルーミアを狙っている事を察した雄介は、彼女を救うために砂利を蹴って駆け出した。だが無情にも槍は勢い良く投げ放たれた。その速度は雄介の走力を凌いでおり、今度はルーミアを抱えて回避する事が出来るものには到底思えなかった。それが出来ない以上、彼女を救うのならばその術は雄介にとってたった一つだった。

 

ルーミアに向かって、3つの鋭利な切っ先が真っ直ぐ向かって来る。スペルカードが一切効かなかった事実が、ルーミアの意識を縛り付けている中で彼女の視界に、こちらに駆けてくる雄介の姿が映る。雄介の向かう速度と、槍の向かってくる速度。その差から、雄介が何をしようとしているのか直感で理解した。出会ったばかりの怪しい少女に手厚い処置を施し、ご飯まで用意してくれた今までの行動が、その直感を裏付けていた。

 

そして、その直感は現実のものとなってしまった。雄介は槍とルーミアの間に割り込み、立ち塞がったのだ。その体を盾にルーミアを守るために。

 

「だめっ!雄介っ!」

 

ルーミアは無意識に駆け出していた。逃れるためではなく、雄介を救うために、自分を狙い空気を切って迫る凶器の方に駆け出したのだ。きっと自分が飛びついたとしても、雄介を伏せさせることは出来ない。このまま行けば二人共槍に貫かれて共倒れになるかも知れない。彼女も頭では分かりきっていた。それでも、どうしてか足は止まらなかった。どうしようもない感情と、まるで止まったように思える時の中、ルーミアは思う。

 

「(もし、雄介をこの瞬間だけ消せたなら...!!)」

 

起こり得ない奇跡を願いながら、ルーミアは雄介を目指して飛び立つ。ルーミアと槍がほぼ同時に雄介に迫る。ルーミアの方が少しだけ早くたどり着き、彼女は力の限りに雄介に抱きついた。

 

「えっ!?」

「うぉっ!?」

 

その瞬間、赤い閃光が辺り一帯に迸った。力強い熱さ、優しい温もりを感じる、赤き輝き。その輝きが落ち着いてきた頃に、雄介がルーミアを救った直後に轟いた音と同じ音が鳴り響く。地面に突き刺さる槍の先には、何も貫かれてはいなかった。そして、雄介が立ち塞がっていたその場所に彼の姿はなく、そこの少し上の空に、光を放つ存在一つが浮遊している。

 

「な、何なんだ?()()()()()()()()()、光はっ!?」

 

少し背丈の伸びたルーミアは、体の力を抜き、目も閉じたまま胸元の辺りから赤い光を放ちながら、静かに地面に降り立つ。それと同時に胸元の光は完全に収まり、彼女はゆっくりと目を開けた。

 

「助かった...の?」

 

ルーミアは自らの背後に突き刺さっている槍を見つけ、胸を撫で下ろしたが、周りにいたのはジャモルだけであり、雄介の姿はない。しかし、不思議と不安や焦りを感じることはなかった。その訳を彼女は直後に知ることとなる。

 

「ルーミアちゃん...これは一体...?」

 

体の内から雄介の困惑する声が響き、彼の言葉に合わせて胸元が僅かに赤く輝く。まるで、雄介が光となってルーミアと一体化したかのように。

 

「雄介!?雄介なの!?よかった、無事だったんだ!」

「これが無事なのか良く分からないけど、多分君のおかげだよ。ありがとう!」

 

姿は見えないていないが、ルーミアにはサムズアップする雄介が簡単にイメージ出来てしまい、クスッと笑ってしまう。いや、ただのイメージとは言い切れないかも知れない。ルーミアの中に、ぼんやりとではあるが雄介の姿、意識が伝わってくる感覚があるのだ。その感覚の中、一瞬のフラッシュが彼女の意識を染め上げた。

 

 

 

 

「(っ!?)」

 

ルーミアの意識の内に映るのは、燃え盛る木造の建物の中で先程と同じポーズを取る雄介。しかし先程との明確な違いは、このポーズが次のステップへと進んだことだ。先程は何も現れなかった両手の間に、中心に灰色の石の埋め込まれた銀のベルトが現れる。

 

「(...あれは、アークル?でもわたし、何で名前が分かるの...?)」

 

混乱するルーミアの意識の中、雄介は動きを続ける。左手をアークルの上部に添え、右手は左側に向けて真っ直ぐ伸ばす。そして伸ばした右手の人差し指と中指を伸ばして揃える。更に、左手をアークルの曲線に沿ってスライドさせて、ベルトの左側についているスイッチの上に乗せ、右手は左手の動きとは逆方向にスライドさせる。そこでピタリと動きが止まった。雄介は、目の前にいるコウモリの意匠がある化け物を強い眼差しで見据えると、静止させていた右手を握り拳へ変え、スイッチに乗せていた左手に重ねて下に押すことで、そのスイッチを押し込んだ。中心の石が赤に変わったアークルから一気に両手を離すと、固く握りしめた右手の拳を、コウモリの化け物にぶつける。すると、その右手は赤い装甲を纏う。続けて左の拳。こちらも赤い装甲を纏う。更に右足を振り上げ、蹴りを見舞うと、右足は黒く変化した。その三ヶ所の変化が引き金となり、全身が変化していく。左足は右足と同じく黒く変わり、胴体には大きめの赤い装甲が備わり、顔はクワガタのような金の角のついた、大きな赤い複眼を持つ仮面へと変わっていった。

 

「(あの赤いのは、クウガ...。もしかして、これは雄介の記憶...?だから、ベルトやあの赤いやつの名前が分かるのかな...?)」

 

その考察に至った所で、記憶のビジョンが少しずつ薄れていく。再び意識が白く染まる直前、雄介の声が聞こえた。

 

「これ以上っ!誰かの涙は見たくないんですっ!だから、見てて下さいっ!俺のッ、“変身”ッ!!」

「(雄介...)」

 

 

 

 

ルーミアは記憶のビジョンから意識が戻って来ると、雄介に問いかけた。

 

「ねぇ、雄介。あいつを放って置いたら、誰かを傷つけるの?」

「うん...あいつらは、ゲームとして人殺しをする種族、グロンギだ。クウガの力か、神経断裂弾でしか倒せない。でも、アークルは出てこないし...どうすれば...!」

 

雄介の答えを聞いて、ルーミアは、少し長くなった足で迷わずに一歩踏み出した。

 

「だったらやるよ、わたし。」

「ルーミアちゃん...!?止めるんだ!君の魔法も効いていなかったんだよ!?」

 

今までとは逆に、止めようとする雄介の声を聞きながら、ルーミアは少し自嘲気味に思う。

 

「(おかしな話...今まで人間なんていっぱい食べて来てるのに、何で守りたい、守らないとって思うのかな?ふふっ...当たり前かも。こんなに優しくて、暖かい心に触れたら...ね。)」

「ああああっ!!もう、考えるのも面倒だぁっ!!死ねよ、テメェらぁ!!」

 

目の前で発生する超常現象に、考える事を放棄したジャモルが前傾姿勢をとって突撃して来る。それを見たルーミアは、自分の胸元に手を当て、雄介にゆっくりと声をかける。

 

「大丈夫...。だから、見ててね。私の、“変身”!」

「変身...?」

 

記憶のビジョンで聞いた雄介の言葉を借りつつ、ルーミアは記憶のビジョンの雄介の動きを真似ていく。両手で腰の辺りを囲むと、腰から浮き出るかのように本来現れないはずのアークルが現れる。

 

「アークルが...ルーミアちゃんに...!?」

「雄介と一つになった時から、わたしの体の中に不思議な力を感じたの。雄介の記憶でこれを見た時、同じ雰囲気だったからもしかしたらって思ってね。」

 

ルーミアは雄介に説明をしつつ左手をアークルに添え、右手を雄介と同じ形に構える。そこから両手をスライドさせて、雄介がピタリと動きを止めた時と同じポーズを取ると、目の前に迫るジャモルをしっかりと見据え、ベルトの左側についているスイッチを、両手を重ねて押し込んだ。それと同時にアークルの中心の石、“霊石アマダム”は赤く光り輝き、ルーミアの身体に古代の力を流れ込ませた。ルーミアの下にたどり着いたジャモルは彼女に向かって拳を振るうが、ルーミアは体を少し捻ってそれを避けて、逆にジャモルの腹部に右の拳を打ち付ける。すると、右肘から手首にかけて赤い服、右の手首には金色のブレスレットが出現した。次に左の拳でジャモルの顔を殴り付けると、右腕と同じく赤い服と金色のブレスレットが出現する。

 

「(これって...雄介の記憶で見たやつでは装甲だった部分が赤い服に置き換わってる?)」

 

肘から手首までの服を見て、知り合いの紅白巫女を思いだしつつ、少し距離の空いたジャモルを右足を突きだして蹴り付けると、右の足首に金色のアンクレットが出現した。それで初動のエネルギーは事足りたようで、ルーミアの姿の変化は加速していく。左の足首にも、同じ金色のアンクレットが現れ、黒のジャケットは赤く変わり、白かったシャツは黒に変わる。更に胸元のリボンとシャツの襟は金色に染まり、幾何学的な古代文字が刻まれる。最後に額の辺りに、クワガタの顎を模した金色の角が備わり、ショートボブの金髪は黒髪に変わる。そこで服装の変化は終わり、ルーミアの赤い瞳が輝いた。

 

「ク...クウガ?」

「これって、赤のクウガ...なのか?」

「わたしが雄介の記憶で見た姿とは違う...」

 

「それはあなたがクウガの力に順応した姿よ。ルーミア。その力は五代雄介が変身した姿と完全に同じ。さぁ、そこのグロンギで試してみるといいわ。それじゃ、頑張ってね~。」

 

クウガを模した服装に変わったルーミアに困惑する一同に、どこからともなく凛とした声が聞こえる。その声はルーミアの姿について一方的に伝えると、閃光の如く止んでしまった。突然に訪れた謎の声に、一同は混乱を通り越して静寂に包まれるが、ストレスが限界を超えたジャモルがそれを崩した。

 

「あぁ~っ!!ったく次から次に何なんだ!その上、俺で試してみろだとぉ!?なめやがって!姿を表せぇ!!」

「そうだね。命は試しで奪っていいものじゃない。だから...わたしは本気であなたを倒す!!」

「そいつはどぉもっ!!」

 

明確な覚悟を持ってジャモルと対峙するルーミアは、ジャモルの繰り出す攻撃を防御し、カウンターで着実にダメージを重ねていく。服が変わったり、増えたりしただけなのにも関わらず、不思議とルーミアに通るダメージは明らかに少なくなっていた。これに関しても、謎の声に教えて欲しかったなと思いながらルーミアは拳を振るう。

 

「ちっ...ならこれはどうだ?」

 

劣勢になり始めたジャモルは森の中へと飛び込み、戦闘の地理条件を変えようと試みる。それに対してルーミアもジャモルを追いかけ、森に誘い込まれる。だが、入り込んだ森にジャモルの姿はなかった。

 

「(ルーミアちゃん、あいつはヤモリの能力を持っていると思う。だから...)」

 

雄介はルーミアの意識の中に自分の意識を伝えて、ジャモルの能力がヤモリのものであることを伝える。そしてその能力を使っての狙いは、雄介が伝えるより先に現実に起きた。

 

「うらぁっ!」

「頭上注意ってことだよねっ!!」

 

指先の吸盤を使って木を登り、高所からの不意討ちを狙っていたジャモルは片耳に残っていた耳飾りを槍に変化させ、ルーミアの背後から飛びかかったが、雄介が伝えた内容でジャモルの狙いを見極めたルーミアは、正面にダッシュして回避すると同時に木を蹴ってジャンプし、飛び降りて来たジャモルの顔面に回し蹴りを叩き込む。

 

「うぐぉっ!!?」

「今だ!行くよ、ルーミアちゃん!」

「うんっ!」

 

横回転を殺しつつ着地したルーミアは、雄介が送り込むイメージのビジョンと同じ動きを取る。両腕を開き、腰を落として右足を後ろに引く構えを取ると、右足にエネルギーが集束されていく。右足が熱を帯びる程度のエネルギーが蓄積されたタイミングで、未だ怯んでいるジャモルに向かって一気に駆け出す。

 

1歩、勢いよく地を蹴り出す。

 

2歩、大きく加速を掛ける。

 

3歩目に踏み出した右足で飛び上がり、空中で一回転すると右足を思い切り伸ばし、速度と重量、そして蓄積されたエネルギーを乗せた蹴りを放った。

 

「はあぁっ!」「うおぉりゃあっ!」

 

ルーミアと雄介は声を揃えて叫び、二人分の気迫をも乗せたキックはジャモルの右胸を捉え、一瞬の内に蓄積されたエネルギーを流し込む。

 

「うぐおぁっ!!」

 

ルーミアは、キックの反動で再び空中に舞い上がり、膝立ちの形を取って安全に着地した。一方、キックの衝撃を受けたジャモルは後方へと吹き飛ばされ、勢いそのままぬ大木に背を打ち付けた。それで勢いは殺され、ジャモルは地に落ちる。

 

「ぐぅ...ははっ、完敗かよぉ...」

 

ジャモルはうめき声を上げつつ、上半身を持ち上げて自身の敗北を笑った。上半身が上がったことで、右胸に打ち込まれた封印の紋章が見える。その紋章から、封印エネルギーは腰のバックルへと近付いて行き、数秒後にはバックルにたどり着いた。

 

「最期に這うのは...木じゃなく、地かよ...畜生が...」

 

その言葉を最後に、ジャモルのバックルは2つに割れ、ジャモルの肉体は封印エネルギーに耐えきれずに大爆発を起こした。

 

「ふぅ...勝ったんだね...」

「ああっ!?大変だ、ルーミアちゃんっ!!」

「・・・あっ!!」

 

勝利の余韻に浸る暇もなく、雄介が慌てる理由は森にある。ルーミアも気づいたが、先ほどのジャモルの大爆発によって、近くの草木に火がついてしまい、山火事の火種を作ってしまったのだ。死して火種を残す、ジャモル恐るべし。

 

「どっ、どうしよう雄介!?」

「さっきの小川から水を...あれ?」

「うん...?」

 

始まってしまった山火事の対応に追われる二人の足元に、大地はなかった。正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。その大地の裂け目には、無数の目がこちらを覗く、暗い紫の空間が広がっていた。これに落ちないよう、ルーミアは自身に少量の魔力を込めて浮遊しようとするが、なぜか魔力を操ることが出来ず...

 

「なんでぇっ!?」「うわっ!!」

 

ルーミアたちはその裂け目の中に引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

暗い部屋に置かれた玉座に座る、白と金を基調とした洋服を着る少年は一秒に1回の間隔で指を鳴らす。その音に紛れて、もう一つの音が指の音2回につき1回部屋に響いていた。

 

「ふふっ...嬉しいなぁ。」

 

時計の秒針が時を刻む音だ。だが少年は間違いなく、一秒に1回指を鳴らしていたのだ。少年が指を止めると、秒針は先程までの倍速で時を刻み始める。

 

少年は立ち上がり、両腕を空へ掲げると静かに呟いた。

 

「さぁ...始まりの時間(とき)だよ...八雲(やくも)...(ゆかり)。」

 

誰にも伝わらない、宣戦布告を。

 

 

 

 ~次回予告~

 

「あら、意外と早いお目覚めね。五代雄介君?」

 

「“異怪の大乱”...?」

 

「あの大乱で、この世界に生きる多くの命が奪われた。」

 

「私たちは...タイム・トラベラーズ(時の旅人)。」

 

第2話 ~白き閃光は突然に~

 

 

ここからはキャラクター、アイテム等の紹介コーナーです!二次創作設定がもりもりなので、読んで頂けると本編の理解がより深まるかもしれません!(私に本編内に自然に入れられる文章力がないばかりに...すみません!)

 

~ルーミア~

 

幻想郷に生きる辺境の妖怪。森にある廃屋を寝床にしている。性格はお気楽、能天気でいろんなことをすぐに忘れるが、意外と勘は鋭い。雄介と出会い、クウガの力を得たことによって、大きな戦いに巻き込まれていくことになる。

 

~五代雄介~

 

自由奔放に世界を旅する冒険野郎。どんな相手にも優しく接するお人好しであり、特に争いは好まない性格。以前、仮面ライダークウガに変身してグロンギと戦っていた。突然幻想郷に現れ、戸惑う中でルーミアと出会い、再びその身を戦いに投じることになる。

 

~クウガ(ルーミア) マイティフォーム~

 

「仮面ライダークウガ マイティフォーム」を模したルーミアの赤い姿。全身のカラーリングが変化。ブレスレット、アンクレット、一部に赤い服が追加されている。格闘を主体とした姿で、パンチ力、キック力、ジャンプ力、どれも平均的で癖のない能力をしているため、正にオールマイティに戦いをこなす。スペック的には本来のマイティフォームと変わらないが、ルーミアの持つ特殊能力、魔力も使用不可能になってしまっている。

 




第1話、楽しんで頂けましたでしょうか?
1話からながったらしく書いてしまってすみません...!
更新は不定期になると思いますが、次の更新を楽しみにして頂ける作品に出来るように頑張ります!

第2話では、この世界で過去に起きた大事件が明らかに...!

それでは!チャオ~!(1話のあとがきからマスターのネタぶちこんで大丈夫かな...?)
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