そんな余談はさておき、第11話、どうぞ!
昼下がりの白玉楼。豪華絢爛な日本庭園で、妖夢は庭師としての仕事に勤しんでいた。冥界であれど日夜の概念はあり、地上ほどではないにしろ、射し込んでくる柔らかな日の光を浴びながらの作業を、妖夢は気に入っている。作業を終えた妖夢は満足そうな顔でうぅ~んと伸びをし、美しく整えた犬拓植を眺める。
「うんっ!綺麗になりましたね!」
「よぉ~む...」
一仕事終えた妖夢の耳に、気の抜けた幽々子の声が届く。妖夢が返事をしながら振り向くと、幽々子は眠そうに目をこすりながら言葉を続ける。
「私、お昼寝してくるわ...ご飯食べたら、眠くなっちゃった。」
「分かりました。ごゆっくり、お休みになって下さい。」
「ありがとね、妖夢。おやすみ...」
小さく手を振って寝室に向かった幽々子を見送った妖夢は、庭仕事用の枝きりばさみや脚立などをまとめて、普段庭仕事用具をしまっている倉庫へ向かう。その道中、妖夢は昨日の戦いを思い出す。最終的には刀眼魔に反撃することが出来たとはいえ、それまでは完全に相手のペースに呑まれていた上、相手に読まれやすい感情的な太刀筋で戦ってしまった。
「剣士たるもの、いつ何時も冷静でなければならないというのに...」
深くため息をついた妖夢だったが、考え事をしながら歩いていたせいで道を外れていたらしく、庭園の樹の幹に頭を打ち付ける。それに驚いた妖夢は、抱えていた脚立を手放してしまった。
「いっ...たぁ...!」
落下した脚立でつま先を挟んだ妖夢は、ぶつけたおでこをさすりながらしゃがみこむ。幽々子の眠りを妨げぬよう声を必死で抑えたのは、彼女の従者としての意地だろう。涙目でさっきより更に深いため息をついた妖夢は、少し暗い冥界の空を見上げると、ゆっくりと立ち上がって再び歩き始めた。
「(私は...早く一人前の大人にならなくちゃいけない。おじいさまがいなくなって、幼い私がそのお役目を継いでから、幽々子様は従者であるにも関わらず、私の面倒を見てきて下さった。だけど、もう幽々子様に迷惑はかけられない。なのに、私は...)」
不甲斐ない自分に唇を噛みしめた妖夢は、駆け足で倉庫に向かった。倉庫にしている外れの小屋に着いた妖夢は、脚立と庭仕事用具をしまい、その足で西行妖に向かう。冥界を漂う霊たちの様子を確認しながら、鬱蒼と茂る木々の間を進んでいく。冥界に住む霊たちは幽々子の管理下にあるのだが、なにぶん幽々子は放任主義で、基本的に霊たちの自由にさせている。だからこそ、妖夢は霊や冥界の見回りも行っているのだ。見回りも兼ねて森林を抜け、西行妖のある丘にたどり着いた妖夢は、真っ直ぐに西行妖の下に向かう。
「すぅ...よぉっし!!」
西行妖の下で準備運動を終えた妖夢は、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込み、気を引き締めて、昨日の刀眼魔との戦いを頭の中で再生する。昨日の戦いの再現がしやすいように、妖夢は西行妖の丘に来ていたのだ。攻撃をいなされていた場面の再生を終え、妖夢が楼観剣に手をかけた瞬間──彼女の眼前の林がガサリ、と音を立てた。
「...ッ!?」
その音に小さく震えた妖夢は、ゴクリと唾を呑み、楼観剣の柄をしっかりと握る。化け物に襲われた昨日の今日だ。妖夢は冷や汗を垂らしながら、静かに林を睨みつける。やがて、さっきよりも音を立てて林が大きく揺れた。そこから這い出でくる影を確かに確認した妖夢は、一気に駆け出して楼観剣を抜刀。から竹割りの構えで影に突撃をかける。しかし、その影の正体は妖夢の予想を大きく外れていた。
「はぁぁぁっ!」
「うぅ...ぁ...」
「えっ!?に、人間っ!!」
自分の目の前で倒れ込んだボロボロの青年を見て、楼観剣を止めるとともに妖夢は急ブレーキをかけた。しかし、無理に止まろうとしたせいで足下の小石に躓き、妖夢は「うへぇ...」という間抜けな声を上げながら、美しいフォームで林に突っ込んだ。
「あっ、ちょ、枝が引っかかって...よし、取れた!だ、大丈夫ですか!?」
少々苦戦しながらも林から抜け出した妖夢は、地に伏した青年に駆け寄る。青年の体には無数の切り傷がついており、ところどころ内出血も見られる。妖夢は膝をつき、血まみれな彼の体を小さく揺さぶる。声をかけながら2、3度体を揺さぶったところで、青年はゆっくりとまぶたを開けた。
「うぅ...?」
「あっ!良かった...気がつきましたか?」
片手で頭を抑えながら起き上がった青年を見て、妖夢はホッと胸をなで下ろす。一方、少しボーッとしていた青年は、急に何かを思い出したかのように目を見開いて、妖夢を質問攻めにし始めた。
「そうだ...!なぁ、あんた!ここはどこなんだ!?沢芽市は、今どうなってるんだよ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!」
矢継ぎ早に質問する青年を落ち着かせようと、妖夢は慌てて声をかける。妖夢に制されて少し冷静になった青年は、ふと彼女の近くを浮遊する半霊に気がつき、尻餅をつく。
「うわっ!?ゆ、幽霊っ!?ま、まさか...ここ、あの世だったりする...?」
「まぁ、そんなところですね。」
妖夢は、恐る恐る尋ねた青年の言葉に小さく頷き、言葉を続ける。
「ここは"冥界"...死者の住まう場所です。」
「嘘だろ...俺、死んじゃったのか...?」
自分が冥界に居ることを知った青年は力なくうなだれ、傷だらけな自分の両手を見つめる。そして、その手を強く、固く握り、唇をキュッと噛み締めた。
「ごめん...みんな...!俺、守れなかった...ッ!」
「あ、あのぉ...」
頬を涙で濡らし、悔しさと悲しみで顔を歪ませる青年に、妖夢は気まずそうに声をかける。
「多分、あなたは死んでないと思いますよ...?」
「...え?」
唐突に自分の考えを否定された青年は、ポカンとした表情で妖夢を見上げた。妖夢は頬をかきながら、気の抜けた青年の問いに応える。
「え~っと...死んでしまった場合、まず閻魔様のところに送られるはずなんです。本当に死んだなら、そこで死を自覚しますから、冥界で死んだことを自覚することは、まずありません。」
「閻魔様って...あの地獄とか天国とか決めるやつ?」
「そうです。それに...」
突然言葉を切った妖夢は、青年の顔にずいっと近づき──
「えいっ!」
──頬を両手でつまんで引っ張った。
「いでででででで!!?」
「ふふっ...ほらね?」
くすっと微笑み、青年の頬を放した妖夢は、予想外な展開にポカンとしている青年を諭すように語りかける。
「幽霊は頬をつねられたって痛くありません。肉体がないから怪我もしませんし、血も流れません。あなたは、間違いなく生きてます。」
「あっ...そっか、そうだよな!いやぁ、焦ったぁ~!」
自分が生きていることを知らしめられた青年は、朗らかに笑う。その笑顔を見た妖夢もまた、優しい笑みを零す。青年は痛む身体を起こし、立ち上がった。
「ありがとな、おかげでちょっと落ち着いた。俺は葛葉紘汰!アーマードライダー"鎧武"だ!...って言っても、冥界の人は分かんないか。」
「アーマード..."ライダー"...?」
青年──紘汰が名乗ったアーマードライダーの"ライダー"の部分に引っかかった妖夢の中で、半信半疑な一つの疑問が生まれたが、妖夢はまさか、と自分の中で振り払う。そんな彼女に、紘汰は気さくな態度で問いかける。
「なぁ、あんた名前は?」
「私は魂魄妖夢です。とりあえず、紘汰さんの怪我の手当てをしましょうか...近くに私の主のお屋敷がありますから、そこに行きましょう。そこまで遠くないですけど、歩けますか?」
「あぁ、大丈夫だ!」
自分が平常であることをサムズアップで示そうとした紘汰だったが、腕を上げた途端に肩に痛みが走り、思わず「いてっ!」と声を上げる。それを見た妖夢は「無理しないでくださいね?」と微笑み、紘汰は恥ずかしそうにはにかんだ。それから数分後、紘汰を先導して森林を歩む妖夢は、ついさっきまでは感じなかった違和感に苛まれていた。
「(紫の...実?)」
遠目に見える植物の中に、鮮やかな"紫色の木の実"が紛れているのだ。妖夢は白玉楼の庭師。冥界全域とまではいかないが、屋敷周辺の植物であれば把握している。そんな彼女の記憶に、紫の実を持つ植物などありはしないのだ。
「紘汰さん、ちょっと待っててもらえますか...?」
「ん?どうしたんだ?」
何ともいえない違和感に突き動かされた妖夢は、紘汰に返事もせず、駆け足で果実に向かう。果実の近くに到着した妖夢は周辺に蔓延る異様なツタを払いのけて、そこに実る二つの果実をまじまじと見つめる。その瞬間、妖夢の内で言葉にならないほどの衝動が弾けた。
「(なんで...こんな、美味しそうに見えるんでしょう...?)」
艶やかなグラデーションの皮に包まれたその果実の片方をもぎ取り、妖夢は甘美な誘惑に誘われるまま皮を剥ぐと、そのみずみずしい球形の果実を口に近づけていく。
「妖夢ッ!?やめろ!!」
妖夢が果実に口をつけようとしたその時、紘汰は鬼気迫る怒号を上げて妖夢の手を強く掴んだ。戸惑う妖夢から果実を奪い取ると、紘汰は刀を模したパーツが付いたバックル──"戦極ドライバー"を懐から取り出し、腰に据える。すると、黄色い蛍光色のベルトが紘汰の腰に出現し、彼の手に握られた果実がオレンジを象った南京錠──"オレンジロックシード"に変化した。
「えっ...!?果実が...錠前に...?」
「ふぅ、危ないとこだったな...」
息を吐いた紘汰は、目を丸くする妖夢にオレンジロックシードを示した。
「こいつは"ロックシード"。この"戦極ドライバー"を着けてその果実..."ヘルヘイムの実"を手にすると、今みたいにロックシードになるんだ。」
「へぇ...奇怪な物ですね...」
ヘルヘイムの実の奇妙な性質に感嘆した妖夢は、戦極ドライバーとロックシードを交互に眺める。その興味深々な目を見た紘汰は、妖夢にオレンジロックシードを手渡す。紘汰からオレンジロックシードを受け取った妖夢は、「幽々子様は、これも食べるのかな...?」などと思いながら、近くで観察する。
「で、もし...ヘルヘイムの実を食べちまったやつは...」
(「なんで...なんで俺には無いんだ...?あいつ等と同じ力が...ッ!」)
力を求め、禁断の果実に運命を狂わされた男を想い、拳を握りしめた紘汰がゆっくりと言葉を紡ぎ出した瞬間──
「キィィィィッ!!」
「っ!?」
ツタの間から飛び出して来た緑色の化け物が、その鋭い爪を紘汰に向けて振り下ろした。殺気を察知した紘汰はその場からすぐさま飛び退き、前転で体勢を立て直す。
「きゃっ...!?また怪物...!?」
「"インベス"!やっぱ近くに"クラック"が...!妖夢、逃げろ!」
妖夢に逃げるように促した紘汰は、特殊な紋様が入った表皮と、大きな爪が特徴的な緑色の化け物──"ビャッコインベス"に迷うことなく突撃する。ビャッコインベスの間合いに入った紘汰は軽く蹴りを入れ、反撃として放たれたビャッコインベスの大振りな爪をかがんで回避。
「はぁっ!!」
力強く叫んだ紘汰は、立ち上がると同時にビャッコインベスの顔に鋭い回し蹴りを叩き込んだ。その蹴りはビャッコインベスを怯ませ、後退させたが、紘汰の全身の傷にも大きな影響を及ぼす。痛みに表情を歪ませながらも、紘汰は腰のカラビナに下げてあったオレンジロックシードを手に取り、胸の辺りに構える。
「くっ...!俺は、こんなところで負けられないっ!変身ッ!!」
『オレンジ!』
紘汰がオレンジロックシードの横にあるスイッチを倒すと、ロックシードの掛け金が開錠され、内包された力の名を告げる。紘汰はオレンジロックシードを左から右に半回転させ、続けて天に向けて掲げると、戦極ドライバーのくぼみにはめ込む。そして、紘汰は戦極ドライバーにセットされたオレンジロックシードの掛け金を押し込み、刀を模したパーツ──"カッティングブレード"を勢い良く倒した...
「・・・あ、あれ?」
しかし、カッティングブレードがオレンジロックシードを叩き切ることはなかった。目を点にしてオレンジロックシードに止められたカッティングブレードを見つめる紘汰に、体勢を立て直したビャッコインベスは容赦なく襲いかかる。ビャッコインベスが振るった爪に当たる寸前で気づいた紘汰は、咄嗟に腕をクロスさせてビャッコインベスの攻撃を阻止。組み合うビャッコインベスを突き飛ばし、何度もカッティングブレードを操作する。
「あぁ、もう!なんで変身できねぇんだよぉ!?」
しかし、紘汰が叩いても、揺さぶっても、戦極ドライバーは延々と沈黙を続ける。
「くっそ...!なら!!」
痺れを切らした紘汰はビャッコインベスの攻撃をかわすと、オレンジロックシードを戦極ドライバーから取り外し、改めて開錠する。すると、紘汰の頭上に妖しげな森が覗くチャック──"クラック"が開き、そこから背中と頭部に鹿のような立派な角を生やした化け物──シカインベスが現れると、ビャッコインベスに攻撃を仕掛けた。
「グルルルッ...!」
「ウガァァッ!!」
「よしっ!インベスゲームの方はいける...!」
オレンジロックシードをコントローラーとしてシカインベスを指揮する紘汰は、不意を突かれたビャッコインベスをシカインベスに攻め立てさせる。しかし、シカインベスと組み合ったビャッコインベスは、表皮の紋様から緑色の光線を周辺に放射した。
「やっべ...!!」
その一部は紘汰の近辺にも着弾し、紘汰は二発の爆発をバック宙で回避するが、着地したタイミングで足下に炸裂した光線の爆風を受ける。それで体勢を崩した紘汰は、その勢いでオレンジロックシードを手放してしまい、オレンジロックシードは茂みの中へと入り込んでしまった。
「グラァァ...」
コントロールを失ったシカインベスはユラリと振り向き、ビャッコインベスとともに紘汰へ突撃を始める。慌てて立ち上がった紘汰だったが、ビャッコインベスの鋭利な爪と、シカインベスの巨大な角の波状攻撃を回避するのは至難の業。それに加えて、紘汰は手負いの状態。必然的に、紘汰はどんどん追い詰められていく...
「(くっそ...せっかく生きてたってのに、ここで死んでたまるかよッ!)」
「えっ...?な、なんですか...これ...!?」
一方、紘汰の言葉に従って逃げ出した妖夢は、がむしゃらに駆け抜けた先で驚くべき光景を目の当たりにしていた。ぽっかりと口を開けた空間の裂け目──クラックから覗く鬱蒼とした樹海。その樹海特有の植物と、蔓延るツタ、そして丸々と実ったヘルヘイムの実が、クラックを通じて"冥界を浸食していた"のだ。
「じゃあ、さっきのヘルヘイムの実はこの森から...!?」
冥界にはなかったヘルヘイムの実の出所を察した妖夢は、息を呑んでクラックを覗き込む。顔を突き出して樹海を確認しようとしたその時、えもいわれぬ悪寒に襲われた妖夢は、急いで首を引っ込めた。その直後、妖夢の頭があった場所に灰色の腕が振り下ろされた。その腕の主は、丸っこい胴体を持つ灰色の怪物──"初級インベス"だ。
「きゃっ...!?ここにも怪物が...!!」
初級インベスの存在を認知した妖夢は後ずさりするが、初級インベスは樹海の中から次々と現れ、総勢五体になってクラックから這い出る。妖夢は小さく震えながら、初級インベスと睨み合う。
「私だって...やれるんだ!はぁぁっ!!」
妖夢は脳裏にへばりつく恐怖を押し殺して楼観剣を抜くと、先頭の初級インベスに大きく袈裟切りを放った──
「キィ?」
「...えっ?」
──だが、楼観剣の美しく研かれた刀身が、初級インベスの身体を断つことはなかった。一瞬、戸惑った様子を見せた初級インベスだったが、空気の震えるような雄叫びをあげると、身体に押し付けられた楼観剣を押し返す。先頭の初級インベスの咆哮に感化された初級インベスたちは、よろけた妖夢に向かって突撃を開始する。
「そ、そんな...」
自分の力がまるで通用しなかった恐怖に肩を震わせ、妖夢は迫り来る初級インベスに背を向けて駆け出した。脇目も振らず、必死で走りつづける妖夢の目に涙が溢れ出す。その涙で視界が悪くなったせいだろう。妖夢は足下に蔓延っていたツタに足を取られ、勢い良く転倒してしまった。妖夢は打ちつけた身体を、なんとか半身だけ起こす。だが、追いついた初級インベスたちは半円を描くような形で妖夢を囲んだ。
「うおぁぁぁっ!!」
「紘汰さん!?」
絶体絶命な妖夢の背後に、同じく追い詰められたら紘汰が爆発で吹き飛ばされてくる。紘汰が飛んできた方向からはビャッコインベスとシカインベスが現れ、正に四面楚歌な状態。背中合わせで座る妖夢に、紘汰は苦笑いしながら声をかけた。
「ははっ...お互いに、万事休すってやつか?」
「私、私は...!」
妖夢は消え入りそうなほど小さく、震えた声で涙を零す。しかし紘汰は、状況に見合わないほど絶望を感じさせない表情をしていた。その瞳には不安や恐怖どころか、希望と勇気が満ち溢れている。さっきよりもボロボロになった身体を奮い立たせ、立ち上がった紘汰はインベスたちと睨み合う。
「でもな、俺はこんなところで終われないんだ。俺がみんなを守る...俺はぜってぇ"諦めねぇっ"!」
紘汰の言葉を聞いた途端、妖夢の脳裏にタケルの声がフラッシュバックする。
(「人の想いに限界なんて無い!諦めない限り、どこまでだっていけるんだ!!」)
「ふふっ...そうですよね...」
小さく笑った妖夢は涙を拭うと楼観剣を支えに立ち上がり、再び紘汰と背中合わせに楼観剣を構える。その瞳には、紘汰と同じ光が宿っていた。
「私も諦めませんっ!この程度で足掻くのを止めたら、おじいさまに合わせる顔がありませんからね!!」
「へへっ、だよなぁッ!!」
インベスたち相手に高らかに宣言した妖夢は、紘汰の言っていた"アーマードライダー"という言葉を思い出し、楼観剣を地面に突き刺して紘汰の方に振り向く。
「紘汰さんっ!私に、力を貸して下さい!!二人なら、"変われる"かもしれません!」
「えっ!?いいけど、力を貸すって...どうやって?」
「それは...え~っと...」
戸惑いながらも了解した紘汰に方法を問われた妖夢は、頬を赤くして少しばかり口を紡ぐ。しかし、その間にしびれを切らしたインベスたちは、口々に奇声を上げながら紘汰と妖夢に襲いかかる。一刻の猶予もないことを察した妖夢は、感情を振り切るかのように叫ぶ。
「んあぁぁっ!ごめんなさい、紘汰さんっ!!失礼しますっ!!」
「えっ...?」
地面に頭を打ち付けるかのような勢いで深々と礼をした妖夢は、自分より少し背の高い紘汰に抱きついた。動揺する暇もない間に、紘汰は鮮やかな橙色の光に変わり、妖夢の中に融け込んでいく。その輝きはインベスたちの目を眩ませ、足を止めさせた。
「「「「「キィィィ...!!」」」」」
「えぇぇぇぇぇっ!?なにこれ、どゆこと!?」
「よし、上手くいきましたね!」
シンクロを果たして動揺する紘汰をよそに、妖夢は戦極ドライバーを装着する。腰に黄色のベルトが巻きつくと、妖夢は先ほど紘汰から受け取っていたオレンジロックシードを取り出し、胸の前に構える。
「行きますよ、紘汰さんっ!」
「あぁ、もうっ!男は度胸だっ!やってやる!!」
土壇場で覚悟を決めた紘汰と共鳴した妖夢は、二人で声を合わせて叫ぶと同時にオレンジロックシードの掛け金を開錠する。
「「変身っ!!」」
『オレンジ!』
妖夢は、先の紘汰の動きになぞらえてオレンジロックシードを戦極ドライバーにセットし、掛け金を閉じる。
『Lock On!』
すると、陽気な法螺貝の音楽が流れ出すと同時に、妖夢の頭上に円形のクラックが開かれ、そこからオレンジを象った球形の鎧がゆっくりと下降してくる。そして、妖夢はカッティングブレードを素早く倒す。
『ソイヤッ!』
すると、小気味良いかけ声と共にカッティングブレードがオレンジロックシードの表面を展開した。それと同時に鎧の落下が加速し、勢いよく妖夢の頭部に被さると、妖夢の服が金の柄が入った紺色に変わり、金の手甲とすねあてが装備される。
『オレンジアームズ!花道!オンステージ!!』
そして、特徴的な電子音声が流れると同時に鎧が四方向に展開され、胸部、左右の肩、そして背部に装着される。鎧に隠れていた妖夢の頭には、鎧と同じくオレンジを象った兜と金色の兜飾りが装着されている。最後に妖夢の髪が紺色、瞳が橙色に染まり、妖夢は"仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ"を模した姿に変身したのだった。
「オ、オレンジって...!?これが、私の...私たちの"変身"...!?」
「あぁ...行こうぜ!妖夢!」
「はいっ!」
「ここからは私たちのステージです!」「ここからは俺たちのステージだ!」
辺りにみずみずしい果汁の降る中、紘汰と共に力強く叫んだ妖夢は、変身と同時に左手にに握っていた、刀身にオレンジの断面をデザインした奇抜な刀──"大橙丸"を軽く一振りする。目眩ましを受けていたインベスたちは、姿の変わった妖夢に一瞬戸惑っていたが、すぐさま臨戦態勢に切り替える。
「キシャァッ!」
「来ましたね...ふっ!」
まず先頭を切ったシカインベスは自慢の角を突き出して突進するが、妖夢はそれを華麗なステップで回避し、シカインベスの背中を斬りつける。続けて襲いかかってきたビャッコインベスの爪を大橙丸で防ぐと、ベルトに提げられていた片刃の黒い銃剣──"無双セイバー"を右手で握り、ビャッコインベスのがら空きの胴体を横一文字に斬り裂く。
「ギィィッ!!」
「さて、お次は...」
妖夢は無双セイバーの鍔に備えられたレバー──バレットスライドを引いてエネルギーをチャージすると、振り向きざまに無双セイバーの鍔の銃口からエネルギー弾を連射。放たれた計五発のエネルギー弾は、背後から迫っていた初級インベス五体に命中する。
「銃、ですか...あまり手慣れないですが、使えますね!」
「あ、弾切れには気をつけろよ!」
「はいっ!」
無双セイバーの使い勝手を確認した妖夢は、火花を散らして地面に倒れた初級インベスに追撃をかける。舞うようにして四体の初級インベスを斬りつけ、残りの一体には交叉斬りを見舞う。交叉斬りを受けた初級インベスは爆散し、妖夢は大橙丸と無双セイバーを構え直すと、残る初級インベスたちに向かって駆け出す。すれ違いざまに高速の太刀を浴びせられた初級インベスたちは、橙色と白銀の傷を受けて一人残らず爆散した。
「すっげぇ...」
「ふふっ、お褒め頂き光栄です。さて、残りのインベスは...?」
初級インベスを片付けた妖夢はビャッコインベスとシカインベスを探すが、その姿は見えない。警戒を強めた妖夢は、茂みから飛び出してきたシカインベスと、木の上から飛びかかってきたビャッコインベスを直感的に察知し、華麗な前転で彼らの奇襲を回避する。膝立ちの態勢で構えた妖夢は、バレットスライドを手早く引いてエネルギーをチャージすると、ビャッコインベスに狙いを定めて、五連続でトリガーを引く。五発ものエネルギー弾が胸部に炸裂したビャッコインベスは、火花を散らして吹き飛んでいった。
「さて、まずはこちらの一体...決めましょう!紘汰さんっ!!」
「よっしゃぁ!行っくぜぇ、妖夢ッ!!」
紘汰と共に気合いを入れた妖夢はすっと立ち上がり、無双セイバーの柄を器用に扱って戦極ドライバーのカッティングブレードを倒す。
『オレンジスカッシュ!』
すると、オレンジロックシードの断面が鮮やかな橙色の光を放ち、それと同じ光を無双セイバーと大橙丸の刃が放ち始める。一方、妖夢と対峙するシカインベスは、彼女が最後の一撃を放たんとしていることを理解しているかのように全身を震わせ、頭部の枝角に燃え盛る炎を纏わせる。互いに大技を狙い、睨み合う妖夢とシカインベス。一つ、大きく息を吸った妖夢は一直線に駆け出し、シカインベスは角に纏わせた炎をここぞとばかりに放射する。
「はぁぁっ!」
シカインベスに突撃をしかける妖夢は、自分を包むほどの大きさを誇る火球を交叉斬りで叩き斬ると、ぐっと屈んで高く跳躍する。切り裂かれた火球が林に着弾し、大きく巻き上がる炎の中、妖夢は大橙丸と無双セイバーを構え直すと、シカインベスめがけて降下する。妖夢は降下の勢いそのままに大橙丸を振り抜き、シカインベスを袈裟に斬りつける。着地した妖夢は、その勢いを利用して、半回転しながら無双セイバーを横一文字に振り抜いた。
「ギシャァァッ...!!?」
美しく技を決めた妖夢が刀の露を払うかのように得物をふるうと、橙色の輝きを帯びた大橙丸と無双セイバーの連斬を受けたシカインベスは傷痕に残った輝きを強め、爆散した。その黒煙を、妖夢が後ろ目に確認した時、いつの間にか立ち上がっていたビャッコインベスが紋様から光線を撒き散らした。
「っ...!?くっ...!!」
妖夢は大橙丸と無双セイバーで弾こうとするが、乱雑に放たれた光線は捌ききれず、懐に潜り込んできた光線を胸部の鎧に受けてしまう。妖夢は大きく吹き飛ばされるが、頑丈な鎧のお陰でダメージはほとんど無く、空中で無双セイバーを逆手に持ち替えて地面に突き立てることで勢いを殺す。
「妖夢!"それ"、くっつくぜ!!」
「えっ...?"それ"って、まさか...」
紘汰の言葉を受けた妖夢は、半信半疑で無双セイバーの柄と大橙丸の柄を合わせる。すると、二本の刀が連結され、無双セイバーが"ナギナタモード"に変化した。
「わぁ~!くっついたぁ~!!」
「おっし!ぶんまわせ、妖夢ッ!」
妖夢は、ナギナタと化した無双セイバーにキラキラと感動の眼差しを向け終えると、それを器用に振り回して光線を切り捨てていく。やがてエネルギーが底を尽きたのか、ビャッコインベスの光線が止み始めた。その隙を突き、妖夢はドライバーのオレンジロックシードを取り外し、無双セイバーの柄部分に備えられた窪みにはめると、掛け金を閉じる。
『Lock On!』
先ほどと同じようにオレンジロックシードが橙色の光を放ち、エネルギーが無双セイバーと大橙丸に蓄積されていく。それに気づいたビャッコインベスは妨害を狙い、余力すべてを込めて複数の光線を放つ。しかし、ビャッコインベスの抵抗むなしく、妖夢は流麗な薙刀さばきで光線をすべて切り裂いた。
『一・十・百!オレンジチャージ!』
その間にチャージが完了した二つの刃は橙色に輝き、妖夢は無双セイバーの刃を使って左右から切り上げる。それに合わせて放たれた橙色の光刃はビャッコインベスに命中し、その身体をオレンジを模したエナジーネットに拘束する。妖夢は無双セイバーをくるりと半回転させ、大橙丸の刃を突き出して駆け出した。
「はぁぁぁっ...!」「セイッハァァァッ!!」
高らかに気勢を上げた妖夢たちは、すれ違いざまにビャッコインベスを一閃する。大橙丸の刃を受けたビャッコインベスは、エナジーネットごと上下真っ二つに切り裂かれ──
「ウガァァァッ!!」
──大きな爆煙を伴って爆散した。
「勝った...私も、勝てた...!」
「よっしゃぁ!どうなることかと思ったけど、なんとかなったな!サンキュー、妖夢!」
「いえ...こちらこそ、ありがとうございました!」
少し誇らしげに笑顔を浮かべた妖夢は、無双セイバーからオレンジロックシードを取り外し、展開されていたプレートと掛け金を閉じた。すると、変身とシンクロが解除され、紘汰も元の姿で戻ってくる。紘汰と祝勝の笑顔を交わし、妖夢は地面に突き刺したままだった楼観剣に歩み寄る。柄を握った妖夢は、ぐっと力を込めて楼観剣を引き抜くと、鏡面のように磨かれた刀身を見つめる。少しの間、妖夢はどこか懐かしむように微笑むと、楼観剣を背中の鞘に収めた。爽やかに振り向いた妖夢は、少し遠目に紘汰を見ると、慌てて声を上げた。
「紘汰さん、怪我の具合は悪化してませんか!?」
「あぁ...そういえば、全身が焼けるように...痛いよう...な...」
「紘汰さぁぁぁぁん!?しっかりしてください!ここで死んだら楼観剣で切り捨てますからね!?」
「それ...もっと酷いことに...なりそう...」
妖夢は力尽きたようにふらっと倒れてしまった紘汰に急いで駆け寄り、介抱する。焦りからめちゃくちゃな発言で紘汰を激励する妖夢と、その言葉に小さく微笑む紘汰。そんな二人を、白衣の男が遠く離れた茂みから観察していた。
「ふぅ~ん...まさか、戦極ドライバーのライダーインジケータの制約まで無効化するとは。シンクロとやらは、私の想定よりも面倒なものらしいね...」
その手に持ったファイルをペンで叩きつつ、男は淡白な口調で呟いた。そんな怪しげな男の背後に、"戦極ドライバーを身につけた"女性が現れると、男は振り向きもせずに声をかける。
「ご苦労、クラックの処理は終わったようだね。」
「えぇ...」
「さて、それじゃあ私は戻るよ...君も、早く帰ったほうがいいんじゃないかな?」
ひらひらと手を振りながら、どこかへ立ち去っていく男。物憂げな表情を浮かべる女性の手には、麗しき"メロンのロックシード"が握られていた。
開かれてしまった運命の鍵....動き始めた運命は止められない。これが、未来に待ち受ける苦難の始まりであることを、まだ青い果実のように無垢な妖夢は知らなかった。
彼らは運命に抗えない...だが、世界は彼らに託される。
~次回予告~
「妖怪が、化け物に...?」
「大丈夫か、少年?」
「さぁ~て、張り切って行きますか!」
「「はぁぁぁ...たぁっ!!」」
「「音撃打・火炎連打の型!!」」
第十二之巻 ~
乞う御期待!!
キャラクター・アイテム紹介コーナー!
〜葛葉紘汰〜
計画開発都市、沢芽市で活動するダンスチーム「鎧武」のOBである青年。とある事件をきっかけに戦極ドライバーを手にし、沢芽市に潜んでいた闇に近づいていくことになる。冥界で倒れていたところを妖夢に助けられ、彼女を襲ったインベスと戦う中で妖夢とシンクロを果たし、初陣を飾った。その後は妖夢から傷の処置を受け、彼女の提案、幽々子の了承を受けて白玉楼に居候することになる。
~鎧武 オレンジアームズ(妖夢)~
紘汰とシンクロした妖夢が、戦極ドライバーとオレンジロックシードを使って変身した姿。オレンジアームズのアームズウェポンである大橙丸と、基本装備である無双セイバーを巧みに操る。妖夢持ち前の剣術を応用し、高い戦闘力を発揮する。必殺技は、大橙丸で斬撃を行う"大橙一刀"や、ナギナタモードの無双セイバーから放った斬撃波で敵を拘束し、身動きを封じられた相手を切り裂く"ナギナタ無双スライサー"など。
~戦極ドライバー~
鎧武を始めとしたアーマードライダーたちの変身に使用される、黒を基調としたバックル。中央にはロックシードをはめ込むためのくぼみがあり、右側にはロックシードを展開するためのカッティングブレードが備えられている。また、左側には変身するライダーの横顔──ライダーインジケータがあり、そこに登録されている最初の装着者しか装着することは出来ない。だが、登録者とシンクロを介せば変身は可能。
第11話、ご覧頂きありがとうございました!いかがでしたでしょうか?
白衣の男...察しのいい方は分かるでしょうか?暗躍する影もありますが、ボロボロな紘汰は一体...?この先の展開を楽しみにして頂ければと思います!ちなみに、12話改め一二之巻ですが、この漢数字は響鬼編で使う予定ですが、統一感に欠けると判断した場合英数字に戻させて頂きます。あらかじめ、ご了承ください。
それでは、チャオ!