東方時哀録   作:シェイン

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こんにちは、シェインです!令和ライダー第一号、仮面ライダーゼロワンが発表されました!なんというか、シンプルでスタイリッシュですよね!最近のライダーたちに見慣れていたせいで、少しデザインが寂しくも感じますけど、きっと動けばカッコイイ!

それでは第十二之巻、どうぞ!


第十二之巻 ~共鳴(ひび)く鬼たち~

「私はお前を絶対超えるぞ。いつか、必ずな!」

 

柔らかな月明かりの下、木の幹に寄りかかる、額から赤い一本角を生やした少女が叫んだ。少女の全身にはあちらこちらに傷が付いているが、その顔は満足そうな笑顔だ。隣の木に寄りかかる、黒い一本角の青年が少女の言葉に応える。

 

「ははっ、そう言って何年経ったんだ?今日も俺の勝ち...これで2005勝目だったか?」

「うっ...ま、いつかの話だ。もしかしたら、次にはお前を負かすかもしれないぞ?」

 

青年は静かに笑いながら、その手に持った黒い杯に酒を注いでいく。やがて酒を注ぎ終えた青年は、隣の少女に酒瓶を投げ渡すと、綺麗な満月を眺めながら言葉を紡ぐ。

 

「そうだな、人生はなにが起こるか分からない。いつ何時も気を締めておかねばな。」

「だからさ、私がお前に勝つその日まで...」

 

青年のものとは対照的な赤い杯に酒を注いだ少女は、酒が零れそうなほどの杯を青年に突き出して、好戦的にニッと笑う。

 

「どこにも、逃げるなよ?」

 

少女の明るく、真っ直ぐな顔を見つめていた青年は、優しい微笑みと一緒に冗談で返す。

 

「...さぁな。お前が勝つより先に寿命で死ぬかもしれないだろ?」

「そんときゃ、地獄まで追いかけてぶちのめしてやるよ!」

「まったく、これは間違っても死ねないな...」

 

呆れたように、だが、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべて、青年は突き出された杯に自らの杯をそっと当てた。

 

「「今日の戦に、乾杯。」」

 

杯を傾けて一気に酒を飲み干した少女の名は、星熊(ほしぐま)勇儀(ゆうぎ)。後に"力の勇儀"と恐れられる、「鬼の四天王」の一人である。そして、彼女と酒を飲み交わす青年もまた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖怪が、化け物に...?」

 

地霊館二階、突き当たりの部屋。翔太郎さんたちの探偵事務所代わりになる予定の部屋だが、まだ準備中であり、今日は翔太郎さんの淹れたコーヒーを飲むために訪れていた。その部屋でこいしの話を聞いたとき、私──古明地さとりは愕然とした。それは向かいに座っている翔太郎さんも同じだったらしく、淹れたてのコーヒーが少しコーヒーカップから零れて膝にかかっていた。

 

「あ、あちっ!?熱っ!!」

「はい、翔太郎。」

 

ハーフボイルドに騒ぎ出す翔太郎さんに、隣に座るフィリップさんが即座にハンカチを差し出す。その速度たるや、まさに阿吽の呼吸と言うに忍びないものだった。

 

「うぉ、サンキュ。流石は相棒、対応が早いな。」

「まぁね...君がコーヒーを飲むと、零したり、吹き出したりはしょっちゅうだから、ハンカチは2枚常備しているさ。」

「あ、はーい...まったく、相変わらずお前はオカンかよ...」

 

フィリップさんに皮肉られた翔太郎さんは、小声で愚痴をこぼしながら受け取ったハンカチでズボンを拭く。そんな翔太郎さんを優しく眺めるフィリップさんは、こいしに視線を向けて真偽を確かめる。

 

「こいし、それは本当かい?」

「うん!最近、旧都のみんなはその噂で持ちきりだよ?なんか、急に苦しみだしたり、凶暴になって怪物になっちゃうんだって〜。」

「まさか、ガイアメモリか...?」

 

手を顎に添え、真剣な剣幕で考え始めたフィリップさんに、こいしは目を丸くしながら首を傾げる。

 

「ねぇねぇ、フィリップ!ガイアメモリを使ってるなら、急に怪物にはならないんじゃないの?怪物になるのを直接見たっていう人もいたけど、メモリの話はしてなかったけどなぁ。」

「ん、そうなのかい?なら、ドーパントの可能性は低いね...ありがとう、こいし。」

「あ、ココアー!わーい♪」

 

足をパタパタさせながら笑顔で語ったこいしは、フィリップさんがコーヒーの代わりに差し出したココアを受け取り、嬉しそうにすする。こいしの話を聞き終えた私は、少しホッとして自分のコーヒーカップに手を伸ばす。

 

「なんだ..."ただの噂話"なのね。ビックリさせないでよ、こいし。」

「い~や、"ただの噂話"じゃねぇさ。」

 

コーヒーを拭き終えた翔太郎さんは、フィリップさんにハンカチを返しながら、少し気取った表情で私の言葉を否定した。私はコーヒーカップから視線を上げて、次の翔太郎さんの言葉を待つ。

 

「噂話ってのは、人の心が生み出した言葉のそよ風みてぇなもんだ。そういう風から、本当のSOSを見つけてやるのが、俺たち"探偵"の仕事だからな...噂話は、大事な情報源って訳だ。」

「なるほど...で、それも荘吉さんからの受け売りと。」

「うっ...な、なんの話かなー?」

 

図星を突かれて、ギクッといった顔をしてこちらを見る翔太郎さん。彼はああいう気取った顔をすると、師匠である"鳴海荘吉"さんの受け売りを自慢気に語る、というのは、心読まずとも分かるようになりましたね。翔太郎さんのの分かりやすい反応を見たフィリップさんとこいしは、思わず笑い出す。

 

「ふふっ、さとりも翔太郎の扱いが分かってきたねぇ?」

「あははっ!さっすが、お姉ちゃん!」

「あぁ...俺のハードボイルドが乱れるぅ...」

 

ソファーの背もたれに顔を突っ伏して嘆いた翔太郎さんは、少ししてから顔を起こすと、帽子をかぶり直して、一割ほど中身が減ったコーヒーカップに手をかける。グイッとコーヒーを飲み干した翔太郎さんは、「よっしっ!」と気合いを入れて立ち上がった。

 

「とにかく行って来るぜ。一体なにが起きてんのか、調べなきゃな。」

「私も行きますよ。」

 

私も立ち上がって翔太郎さんに続くと、出口の扉へと向かっていた彼は振り向き、少し意外そうな顔をして言葉を続けた。

 

「いいのか?空振りに終わるかもしれねぇ調査だぞ?」

「分かってます。でも、"空振りじゃなかった時のため"の調査ですよね?そして、もしそうじゃなかったら、だったら私たちが揃っていなくちゃ...でしょう?」

 

私は翔太郎さんにずいっと近づき、柔らかに口角を上げる。それに釣られた翔太郎さんも小さく笑顔を浮かべ、私たちは調査のために仮の左探偵事務所を出た。

 

 

 

さとりたちが外出したのとほぼ同時刻、旧都の少し外れに建てられている日本家屋の中庭で、一人の男が立て台に乗せた和太鼓を叩いていた。紫の道着に身を包んだ三十代くらいの男は、両手に握る素朴な木製のバチを鋭く操り、腹に響くように力強い音色を奏でる。二本のバチで同時に面を叩き、演奏の締めとした男は「ふぅ...」と息をつき、右手のバチをくるりと回した。

 

「今日もいい音だな、"ヒビキ"。」

 

屋敷の縁側に現れた体操服のような格好の女性が、演奏を終えた男に声をかけた。手首に鎖の千切れた手枷を着け、額から特徴的な赤い一本角を生やしたその女性──星熊勇儀は縁側からひょいと飛び降り、男の近くに向かう。

 

「ハハッ、そりゃどうも。まっ、鍛えてますから。」

 

勇儀に誉められた男──ヒビキは気さくな笑みを浮かべると、右手のバチを左手に移し、右手の薬指と小指を若干曲げた状態で、手首のスナップを利かせて一回まわしたあと前に軽く振る。それを見た勇儀はニヤリと笑うが、それはすぐに真剣な表情に変わり、目の前のヒビキをしっかりと見据える。

 

「さぁて、稽古の直後で悪いが...出れるか?知り合いの様子がおかしい、って話を小耳に挟んでな。茜鷹(アカネタカ)に探らせたが、恐らく"当たり"だ。」

「てことは、もう"変化"が近いのか...まずいな。よし、すぐ行こうか。」

 

勇儀の話を聞いたヒビキは、気さくな表情から一転、勇儀と同じような真剣な表情に変わり、彼女の言葉に応える。その言葉に、勇儀は静かな頷きだけを返した。ヒビキはバチを立て台の傍に置き、勇儀とともに駆け出す。だが、二人の疾走する先には外と庭園を仕切る、1.5メートル程度の高さの竹製の柵が立てられている。二人は柵に激突する直前に軽く膝を曲げて跳び上がると、優々と柵を越えて、文字通り屋敷を飛び出した。

 

 

 

「ふ~ん♪ふふ~ん♪」

 

勇儀やさとりが動き出す中、色とりどりの花で一杯な手提げの籠を持った少年──未先静真は、旧都の広場を鼻歌を歌いながら呑気に歩く。彼は、少し前にティーレックスドーパント──我牙久羽の企みでドーパントにさせられていたが、さとりたちにメモリブレイクして貰った後は正気を取り戻し、ドーパントになっていた間のことはすっかり忘れて日常に戻っていた。今も花香茶で管理している地上の花畑から、販売用の花を摘んできた帰り道なのだ。

 

「ふふっ、花名さん喜ぶかなぁ...」

 

喜ぶ店長の顔を想像し、にやにやと籠を覗きながら歩いていた静真は、向かい側から歩いて来ていた少女に気づかず、肩がぶつかってしまった。よろけながらも籠から花が落ちないように絶妙なバランスを取った静真は、ふらふらとバランスを崩して地面に手を付いてしまった少女に、慌てて声をかける。

 

「ハァ...ハァ...ッ!」

「す、すみません!大丈夫ですか...って、ヤマメさん!?」

 

ぶつかった相手の顔を見た静真は、すぐに彼女の名前を呼ぶ。ふっくらした上着の上にこげ茶色のジャンパースカートを纏い、肩で息をする金髪の少女の名は"黒谷ヤマメ"。明るく元気な地底のアイドル的存在で、その性格上、花名と馬が合うらしく、度々花香茶に訪れて一緒にお茶をする仲だ。そこの従業員である静真が顔見知りでない訳はなく、彼の引っ込み思案な性格を見かねて、なにかと世話を焼いて貰っている間柄だ。だが、振り向いたヤマメの表情は、いつもの明るい笑顔ではなかった。

 

「ハァッ...うっ、あぁ...!」

「どうしたんですか、ヤマメさん!?しっかり!!」

 

手で胸を抑え、苦しそうに荒い息を吐くヤマメの顔は赤く染まり、潤んだ茶色の瞳には涙が浮かんでいる。ヤマメの様子がおかしいことを理解した静真は、籠を道端に置いて、彼女を介抱しようと駆け寄る。歩いていた少女が突然倒れ込み、その娘が地底のアイドルとなれば、通行人が騒ぎ出さない訳もない。広場を行き交う者たちは、その足を止めて事の成り行きを眺めていた。ふらりふらりと体を揺らしながらも、なんとか立ち上がったヤマメは、駆け寄って来た静真の肩を掴む。

 

「静...真ぁ...!苦...しいよ...!たすけ...て...!」

「えっ...!?」

 

命乞いをするかのようなヤマメの雰囲気に気圧された静真は、動揺で固まってしまった。その瞬間、ヤマメはより一層苦しみだし、両手で頭を抱えて辺りを徘徊し始める。

 

「うぁ...!があっ...!ウァッ...!ああッ!?ウゥガァァァァァァァッ!!」

 

やがて力尽きたかのように膝をついたヤマメは、理性を失った獣のように咆哮を上げる。空気を切り裂くようなその叫びを合図にヤマメの身体が赤黒い炎に包まれ、全身から黒い霧を放出する。黒い霧は放射状に広がり、広場の半分を包み込むかといったところで止まった。黒い霧から逃れた静真は、かなりの大きさに成長した霧を見上げる。その時、霧の中に六つの赤い光が走った。

 

「な、なに...これ...」

 

やがて霧から這い出てきたのは、この世のものとは思えないような化け物だった。広場の半分を覆い尽くすような巨体に虎柄が張り巡らされ、八本の長く鋭い足が広場の床を突き刺している。その顔に六つの赤い眼球を並べた、魔化網と呼ばれる化け物の一種──"ツチグモ"だ。通行人たちは、広場に突如として現れたツチグモを唖然と見つめる。だが、そんな通行人たちを獲物と見なしたツチグモは、口から高い粘性を持つ糸を放った。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「ば、化け物だっ!逃げろっ!」

 

ツチグモの雰囲気から、自分たちが食糧と見られていることを感じ取った通行人たちは、口々に悲鳴を上げて逃げ出す。だが、最も近くにいた静真だけは逃げ出すのが遅れてしまった。お世話になっていた相手が目の前でツチグモに変貌してしまった現実に混乱し、静真は尻餅をついてしまう。体を震えさせる恐怖を抑え、花の籠を抱えてなんとか逃げ出そうとする静真だったが、手近な獲物ほど狙いやすい。そんな整然とした理屈に従い、ツチグモは静真の足めがけて糸を吐き出した。

 

「うっ...!?」

 

粘性の糸に足を絡め取られた静真は、籠をひっくり返しながら倒れてしまう。捕獲した静真にゆっくりと迫り来るツチグモ。ひっくり返した花が宙を舞う中、静真は2メートル程度の距離に迫ったツチグモを見上げて、自分の死を悟った。

 

「(ははっ...なんか、手向け花みたいだなぁ...でも、最期に花に囲まれてて良かったかも...)」

 

周りに降り注ぐ花たちが献花のように見えた静真は心の中で静かに笑い、数刻後には訪れるであろう激痛に恐怖を感じながら、目をつむった。静真のその予想通り、ツチグモは捕らえた静真を貪り喰らうべく、大口を開いて静真の眼前に迫る。だが、静真の予想をなぞったのはそこまでだった。

 

「ヒビキッ!あいつを頼む!」

「おう、了解!」

 

広場に駆けつけたヒビキと勇儀は短いやり取りで意志の疎通を行い、勇儀はツチグモを越える高さまで跳躍。それまで以上の加速でダッシュしたヒビキは、そのスピードのまますれ違いざまに静真を抱える。腕力と速度を利用し、絡みつく糸から静真を引き離したヒビキは、素早くツチグモの前を駆け抜ける。

 

「オラァッ!!」

 

その瞬間、宙で待機していた勇儀が気勢を上げ、高速な縦回転を合わせた踵落としをツチグモの背に見舞った。激しく地面に打ちつけられたツチグモは、苦悶の叫びを漏らす。ツチグモを蹴った反動で跳ね上がった勇儀は、静真を救い出したヒビキの傍に着地する。勇儀の姿を確認したヒビキは、ツチグモが地面に激突した衝撃で慌てて目を開けた静真に声をかける。

 

「大丈夫か、少年?」

「え...?あ、はい...」

「よし、じゃあ離れてな。」

 

ぽかんとした様子で返事をした静真を無事と判断したヒビキは、彼を優しく地面に下ろすと、逃げるように促す。静真は動揺しながらも小さく頷くと、広場に続く道に逃げ込んでいく。だが、ヤマメの安否を気にかけていた静真は、ヒビキの言葉に反してとっさに通路にある建物の一つに隠れ、勇儀とヒビキの背中を息を呑んで見つめ始めた。静真が見ていることには気づかず、ヒビキと勇儀は威風堂々とツチグモの前に並び立つ。

 

「さぁ~て、張り切って行きますか!」

「あぁ、ヤマメを必ず救い出す!行くぞ...ヒビキ!」

 

勇儀の声に力強く頷いたヒビキは、明鏡止水の心で目を閉じる。次の瞬間、ヒビキの身体は紫の光に変化し、勇儀の中に吸い込まれていった。ヒビキとシンクロを果たした勇儀は、腰に提げている二本角の鬼の顔を模した音叉──"変身音叉・音角"を手に取る。そして、折り畳まれていた音角を手首のスナップを効かせて素早く展開し、角の部分を左手の指で軽く弾く。心が洗われるように清らかな音が響く中、勇儀は自分の額のちょうど角の付け根辺りに音角を翳す。八本の足を突き立て、その大きな肢体を持ち上げたツチグモは、目の前で仁王立ちする勇儀に向けてがむしゃらに糸を吐き出す。だがその時、勇儀の身体が紫の炎で燃え上がり、近づく糸を焼き払っていく。

 

「「はぁぁぁ...たぁっ!!」」

 

勇儀はヒビキと息の合った掛け声と同時に腕を横に振り抜き、全身に纏った炎を振り払う。幻のように消えた紫炎の中から現れた勇儀は、炎に包まれる前とは別人のような姿になっていた。体操服のような服は、肩と胸をはだけさせたグラデーションのかかる紫色の和服へと変わり、その上に両肩から胸部に繋がる銀の装備を装着している。腰には革製のベルトと、金の三つ巴の印がある太鼓の面を模したバックル──"音撃鼓"が装着されている。勇儀の特徴的な赤い一本角は消え、その代わりに二本の銀の角が額に伸びており、煌びやかな金髪は、服と同様にグラデーションのかかった紫に変わっていた。瞳も紫に染め上げた勇儀は、鬼の戦士"響鬼"の力を受け継いだ姿に変身したのだった。

 

「さぁ~て、楽しませてくれよ?」

 

ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた勇儀は、ベルトの背面に収められている一対の赤いバチ──"音撃棒・烈火"を手に取って構える。勇儀の変貌を目の当たりにしたツチグモは少し竦んだものの、結局は獲物と判断したらしく、勇儀に牙を剥いて噛みつこうとする。だが、真上に飛び上がって噛みつきを回避した勇儀は、落下の速度を活かしてツチグモの頭に力強く音撃棒を叩きつける。ダメージに身悶え、暴れるツチグモに振り落とされた勇儀は、ツチグモの後ろに飛び降りた。

 

「ツチグモか、相変わらずデカいなぁ...あんまり時間かけると、被害が大きくなるな。」

「あぁ、分かってる。無駄に暴れられる前にさっさと終わらせるぞ!」

 

ヒビキの助言を受けて威勢良く叫んだ勇儀が、再びツチグモに飛びかかろうとした瞬間、ツチグモは体から黒い霧を放出した。予想していなかった光景を見た勇儀は、急停止して思わず立ち止まる。勇儀が隙を見せたその瞬間、ツチグモと同じ糸が()()()()()射出された。

 

「なっ...!?」

 

一瞬の内に勇儀の右手の音撃棒が撃ち抜かれ、糸に巻き込まれた音撃棒は、糸とともに着弾した地面に張り付いてしまう。武器の片割れを失った勇儀だったが、連続して撃ち出された二発目の糸はタッチダウンライズで回避する。着地した勇儀が左手の音撃棒を腰のホルダーに収めると──

 

「ガァッ!」「シャァッ!」

 

──霧の中から現れた二体の黒い人型の化け物が、勇儀に飛びかかった。不測の事態に少しだけ怯んだ勇儀だったが、先陣を切ってきた男らしい顔つきの化け物──"ツチグモの怪童子"を反射的に回避する。勇儀は怪童子の背中に裏拳を打ち込むが、後から飛び込んできた怪童子とは対照的に女らしい化け物──"ツチグモの妖姫"に組み付かれてしまう。

 

「あぁ!?なんだコイツら!?今までこんなの居なかったろ!」

「まさか、童子と姫か...!」

「オラァッ!」

 

ヒビキが化け物たちの正体を察する中、勇儀は組み合っていた妖姫を投げ飛ばす。だが、怪童子の隣に着陸した妖姫と怪童子は、勇儀を煽るかのように両手を叩き始めた。

 

「お~にさんこちら...」

「てぇ~のなるほうへ...」

「ほぉ、挑発か?この力の勇儀が、舐められたもんだねぇ...!」

 

ギリリと拳を握った勇儀は、待ち構える怪童子と妖姫に突撃する。対する怪童子たちは、突っ込んでくる勇儀に糸を吐き出して妨害を試みる。だが、勇儀は前転で糸を回避すると、グッと脚に力を込めて妖姫の懐に一気に飛び込んだ。急に距離を詰められた妖姫は明らかに動揺し、それを見た勇儀は、意趣返しと言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべた。

 

「よぉ、来てやった...ぜっ!!」

「ウッ...!」

 

皮肉と共に腹部に正拳突きを見舞われた妖姫は、よろめきながら大きく後退する。一方その頃、静真が隠れている建物がある道に、ツチグモの騒ぎを嗅ぎつけたさとりと翔太郎が駆けつけた。

 

「なんだありゃ!?ドーパント...なのか?」

「これは...調査はお預けですね。行きますよ、翔太郎さん!」

「あぁ!」

 

話し声でさとりたちに気づいた静真は、勇儀から目を離してさとりたちに視線を向ける。

 

「(あれは...さとりさん?どうしてこんな危険な場所に...?)」

 

彼に見られている事などつゆ知らず、翔太郎とシンクロを果たしたさとりは、ダブルドライバーを装着して走り出す。それに対応し、事務所室でココアを味わっていたこいしの腰にもドライバーが出現した。

 

「あれ?」

「ドライバー...どうやら出番のようだね。行こうか、こいし?」

「うん!ココアパワーでがんばろー!」

 

無邪気な笑顔で両手を突き上げたこいしはフィリップとシンクロし、サイクロンメモリを手に取る。一方のさとりも、走りながらジョーカーメモリを取り出す。そして、意識の繋がったさとりとこいしは同時にメモリを起動する。

 

『サイクロン!』

『ジョーカー!』

「「「「変身!」」」」

 

場所は違えど、さとりと心を一つにしたこいしは、サイクロンメモリをドライバーに装填。サイクロンメモリがさとりのドライバーに転送されると同時に意識を失ったこいしは、ゆっくりとソファーに倒れ込んだ。通路を駆け抜けるさとりは、転送されてきたサイクロンメモリとジョーカーメモリをドライバーに装填し、素早く展開した。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

「えっ!?さとりさんも変身した...!?」

 

疾風に包まれ、サイクロンジョーカーに変身したさとりに目を疑う静真。そんな彼の横を駆け抜けたさとりは、魑魅魍魎の戦場と化した広場に突入し、勇儀の背後から攻撃を仕掛けようとしている怪童子の顔面に、風を纏った旋風脚を叩き込んだ。少し吹き飛ばされた怪童子は、その容姿に見合わない甲高い声で驚きを露わにする。

 

「うっ...!?鬼では、ない...!?」

「意外なのはお互い様さ...やはりドーパントではなさそうだね。」

 

さとりの胸で緑の輝きを放ち、冷静に怪童子の正体を探るフィリップ。彼の声を聞いて振り返った勇儀は、静かに怪童子を見据えるさとりの後ろ姿を見て、目を見開いた。

 

「...お前、さとりか!?」

「えっ...?まさか、勇儀さんですか!?」

 

勇儀に釣られて振り返ったさとりもまた、普段と大きく異なる姿をした勇儀に目を見開く。そして、少し困惑したような顔をすると、小さな声で勇儀に尋ねる。

 

「えっ~と...鬼の角って、増えるんですか...?」

「へっ...?あぁ、ちいと酒を呑みすぎちまってね...二日酔いになると、鬼の角は増えるんだよ?」

「「ええっ!?」」

 

勇儀の予想外な答えを受けたさとりは、ハトが豆鉄砲をくらったような顔をして、翔太郎と一緒に驚きの声を上げる。さとりの可愛らしい反応を見た勇儀とヒビキは、豪快に笑い声を上げた。

 

「はははっ!お嬢さんと、中の青年!息ぴったりだね...まさに阿吽の呼吸ってやつかな?」

「あははっ...!さとりのそんな顔、初めて見たよ!私の冗談に気づけないってことは、さとりも能力は使えないみたいだな。」

「冗談だったんですか!?もぅ...」

 

勇儀にからかわれたことを知ったさとりは、恥ずかしそうに赤らめた頬を膨らます。実はこの時、さとりの内で翔太郎も赤面しており、それを察したこいしとフィリップは必死で笑いを堪えていた。戦闘中であるにも関わらず、敵に背を向けて談笑する二人の隙を狙い、怪童子はさとりに、妖姫は勇儀に飛びかかった。

 

「さてと...」

「おしゃべりは...」

 

互いの背中から迫る敵を認識し、顔を見合わせて頷き合った二人は──

 

「ここまでだな!」「ここまでですね!」

 

──ぶつからないように綺麗に回転すると、さとりは妖姫に右足で旋風脚をお見舞いし、勇儀は回転の遠心力を活かして怪童子を力強く殴りつけた。再び吹き飛ばされた怪童子と妖姫に、さとりと勇儀は背を合わせて対峙する。だが、怪童子と妖姫が時間稼ぎをしている間に立ち直ったツチグモが、勇儀たち以外の餌を探し始める。その毒牙は、逃げ遅れ、広場の店に隠れていた女性へと向けられた。

 

「あっ...」

 

ツチグモの赤い瞳に睨まれた女性は、小さく声を漏らす。その声を聞き取った勇儀は、いち早くツチグモの再起に気づいた。

 

「まだ誰か残ってたのか...!」

 

逃げ遅れた者がいたことを知って焦燥に駆られる勇儀に、怪童子は右腕を蜘蛛の足を模した爪に変えて飛びかかる。だが、それを見切っていた勇儀は屈んで爪を回避すると、グッと拳に力を込める。すると、拳から腕にかけて紫の炎が広がり、勇儀は紫炎に包まれた拳を振るう。

 

「鬼闘術・炎獄拳ッ!」

 

腹部に勇儀の拳を撃ち込まれた怪童子は、気味の悪い悲鳴を上げながら通路に吹き飛んでいく。50メートル近くある通路の半分に差し掛かったところで、怪童子は木っ端微塵に爆ぜ散った。怪童子の最期を確認した勇儀は、ツチグモの方に振り返る。獲物を捉えたツチグモは、恐怖で固まってしまい、動けない女性を狙って糸を吐き出す。

 

「いっ、いやぁっ...!」

 

全身に巻きつけられた糸に絡め取られた女性は、糸を手繰り寄せるツチグモにズルズルと引きずられていく。彼女の窮地を目の当たりにした勇儀は、背後で妖姫と交戦するさとりに叫ぶ。

 

「さとり!そいつは任せる!」

「分かりました!勇儀さんは、早くあの方を!!」

「あぁ!」

 

さとりの返答に応じた勇儀は、地面にへばりついた音撃棒の一本を力付くで回収し、左手で腰の音撃棒を握ると、ツチグモの方に猛進する。勇儀に妖姫を任されたさとりは、怪童子と同じように腕を変化させた妖姫の攻撃をバク転で回避し、紫のエネルギーを纏った左足の正面蹴りで妖姫を吹き飛ばした。

 

「うっ...」

 

うめき声を上げながら着地した妖姫は、さとりに向けて口から糸を連射した。糸の弾幕に襲われたさとりは、アクロバティックな動きで糸をよけながら妖姫と距離を取る。地面や壁に張り付いた糸を見たフィリップは、淡々と分析を語り始めた。

 

「どうやらあの糸は、高い粘着性を持つようだね...命中すれば自由が利かなくなる。」

「動きが制限されるのは厄介ですね...」

 

妖姫の糸に対策をするべく、冷静に思考を回転させようとするさとりだったが、その時、こいしが唐突に口を開いた。

 

「ネバネバでくっついちゃうってこと?じゃあ、敵をそのネバネバにくっつけちゃお~♪」

「えっ!?ちょっ、こいし!?」

『メタル!』

 

いつものように自由な発想で突発的に行動を開始したこいしは、さとりの右半身を勝手に操ると、メタルメモリを取り出して起動した。ドライバーを閉じたこいしは、ジョーカーメモリとメタルメモリを入れ替え、右手でドライバーを展開する。

 

『サイクロン!メタル!』

「サイクロンメタルになったのは良いが...どうする気だ、こいし?」

「ふっふ~ん♪」

 

サイクロンメタルに変身し、翔太郎に作戦を聞かれたこいしは、自信満々に胸を張ると、メタルシャフトをくるくると回して両手で構える。妖姫はさとりの姿が変わったことに動揺し、さとりに向けてマシンガンのように糸を連射する。だが、さとりの身体を操るこいしは糸に構わず妖姫に突撃し、メタルシャフトで糸を防いでいく。何度も命中した糸が、メタルシャフトにねっとりと絡みつく。それでも止まらずに妖姫に接近したこいしは、その粘質の糸が絡みついたメタルシャフトを妖姫の腹部に叩きつけた。

 

「えっへへ~!いっくよぉ~!」

 

メタルシャフトにへばりついた糸の粘着性を逆手に取り、妖姫をメタルシャフトにくっつけたこいしは悪戯な笑みを浮かべ、メタルシャフトを振り回し始めた。メタルシャフトに粘着させられた妖姫は、それに合わせてぶんぶんと振り回される。やがて、メタルシャフトに遠心力を付けたこいしは、妖姫の着いたメタルシャフトを勢いよく地面に振り下ろす。

 

「はぁぁっ!」

 

こいしの気勢と共に地面に叩きつけられ、その衝撃を一身に受けた妖姫は、蚊の鳴くような断末魔を上げると、怪童子と同じように爆ぜ散った。

 

「やったぁ!ねぇねぇ、お姉ちゃん!すごいでしょ!」

「ほんとにすごい...我が妹ながら、よくこんなこと思いつくね...うわぁ...」

 

アイディアの勝利にぴょんぴょんと跳ねるこいしに対し、さとりは粘液でベチャベチャになってしまったメタルシャフトを、複雑な表情で眺めていた。一方の勇儀は、炎を纏わせた音撃棒を振るい、ツチグモと女性の間に繋がる糸を焼き切ると、ツチグモの前に立ちはだかる。

 

「童子と姫を造って時間稼ぎとは...意外に頭も切れるのか。ほんと、幻想郷の魔化網には驚かされるな。」

「感心してる場合じゃないだろ?行くぞ、ヒビキ!」

 

身体に絡みつく糸のせいで動けない女性を背にする勇儀は、音撃棒に意識を集中して火炎を纏わせる。さらに、その炎を音撃棒の先端の石──音撃を増幅させる役割を持つ"鬼石"へと集束させ、火炎弾を練り上げると、ツチグモの顔面めがけてそれを放った。

 

「ギリィィィッ!?」

 

火炎弾の炎に顔を焼かれ、奇怪なうめき声を上げたツチグモは、乱雑に足を動かして悶える。いくら狙いが付けられていないとはいえ、ツチグモの巨大で鋭利な足が見境無く振り下ろされれば、巻き込まれる危険性は否定できない。そう判断した勇儀は女性が繋がれたままの糸を掴むと、飛び退いてさとりたちの傍に撤退する。

 

「よっ...と!」

「うぎゃっ!?」

 

飛び退いた勇儀に引っ張られた女性は勢いにつられて振り回され、着地とともに地面に打ちつけられた。背後で完全にのびている女性に気づかず、その糸を手離した勇儀は、複雑な表情のさとりの横に並ぶ。それに気づいたさとりは、気まずそうに勇儀の肩をつついた。

 

「ん?どうした?」

「あの、勇儀さん...これ、どうにか出来ませんか...?」

 

苦い顔を浮かべながら勇儀に頼み込んださとりは、糸でベチャベチャなメタルシャフトを指差す。それで全てを察した勇儀は、哀れむような表情で音撃棒に炎を纏わせると、その炎をメタルシャフトに絡みつく糸にかざし、高熱で糸を溶かしていく。やがて糸が溶けきり、白い液体になったことで綺麗になったメタルシャフトを見回したさとりは、ほっとしたように笑顔を浮かべた。

 

「ありがとうございます...あれは、ちょっと気持ち悪かったので...」

「気にするな、お安いご用さ。その代わりと言っちゃなんだが、奴の動きを止められないか?トドメを刺す時、暴れられたら被害が大きくなるからな...」

「なるほど...分かりました、やってみます。」

 

勇儀の頼みを請けて、翔太郎やフィリップたちと策を巡らせたさとりは、一つの術を胸に力強く頷いた。一方、炎を振り払ったツチグモは食事を邪魔した勇儀たちを睨みつける。勇儀たちへの憤怒が限界に達していたツチグモは、獣じみた咆哮を上げながら猛進を開始した。

 

「さとり、来るぞ!」

「はいっ!」

『ルナ!』

 

ルナメモリを取り出して起動したさとりは、ドライバーを閉じてジョーカーメモリと入れ替えると、ドライバーを再展開する。

 

『ルナ!メタル!』

 

右半身に幻想のルナ、左半身に鋼鉄のメタルを揃えた黄色と銀のW──"ルナメタル"にハーフチェンジしたさとりはメタルシャフトを構え直し、ツチグモを迎撃する態勢を取る。さとりとツチグモの間に躍り出た勇儀は、先ほどと同じように火炎弾を放つ技──"鬼棒術・烈火弾"を繰り出した。だが、ヒビキの言ったとおり、ツチグモも学習しない訳ではない。勇儀の準備動作で烈火弾を繰り出すことを見切ったツチグモは、空中に飛び上がってそれを回避した。

 

「逃がさないよ~!」

 

だが、遊ぶかのように楽しそうなこいしの言葉通り、ツチグモに逃げ場はなかった。さとりの振るったメタルシャフトが鞭のように伸び、ツチグモの胴体を絡め取ったのだ。ツチグモを捕まえたさとりはメタルシャフトを真っ直ぐ振り下ろし、地面にひびが入る程の勢いでツチグモを叩きつける。さとりはメタルシャフトを元の状態に戻し、ドライバーのメタルメモリをメタルシャフトのスロットに挿入した。

 

『メタル!マキシマムドライブ!』

「はぁぁっ!」

 

さとりは幻想的な光を纏ったメタルシャフトをしならせながら振り回し、周囲に光のリングを生成していく。6つのリングを宙に並べたさとりは、メタルシャフトを横一文字に振り抜いた。

 

「「「「メタルイリュージョン!!」」」」

 

さとりたち四人の叫びに合わせ、光のリングが一斉に放射される。不規則な軌道を描いて飛行するリングは、勇儀をよけてツチグモに迫り、立ち上がりかけていたツチグモの八本の足の関節を切り裂いた。支えを失ったツチグモの巨体は、土煙を上げながら地に落ちる。

 

「ギィィィッ!?」

「今です、勇儀さん!」

「あぁ!決めるぞ、ヒビキ!!」

「おう、一気に行こうか!」

 

ヒビキと共に気勢を上げた勇儀はさとりの作った大きな隙を突き、足をもがれたツチグモの上に飛び乗る。そして、ベルトにはめられた音撃鼓を取り外し、ツチグモの背にしっかりと押し付けると、音撃鼓が回転しながら巨大化した。音撃鼓の上に跨がる勇儀とヒビキは、二本の音撃棒を天に掲げて高らかに叫ぶ。

 

「「音撃打・火炎連打の型!!」」

 

勇儀が二本の音撃棒を同時に振り下ろして音撃鼓を叩くと、悶えていたツチグモの内に清めの音が響き渡り、ツチグモの動きが小さくなる。それを見た勇儀はリズミカルに音撃鼓を連打し、ツチグモに清めの音を叩き込んでいく。重厚で腹に響く、和太鼓特有の音色が旧都の広場を支配する。音撃を二十回程度打ち込んだ勇儀は、音撃棒をもう一度掲げて打ち鳴らし──

 

「「はぁぁぁぁぁ...たぁっ!!」」

 

──力強く音撃鼓を叩いた。数刻後、ツチグモの全身は漆黒に染まって霧散した。その光景に呆気にとられた静真は、無意識の内に通路から広場に踏み出す。徐々に晴れていく闇の中から現れたのは、気を失っているヤマメを抱きかかえた勇儀だった。静かに寝息を立てるヤマメを見た勇儀は優しく微笑み、呟く。

 

「ふぅ...無事に助け出せたな。」

「上手く行きましたね、勇儀さん!」

 

さとりは戦いを終えた勇儀に駆け寄り、作戦の成功に笑顔を浮かべると、ドライバーを閉じて変身を解除する。勇儀もそれに合わせ、眩い光に包まれて変身を解除した。さらに、勇儀たちはシンクロも解き、光になって抜け出したヒビキと翔太郎は元に戻る。

 

「ヒビキの言葉を借りるなら...まっ、鍛えてますから!ってとこだな!」

「ちょっとちょっと!俺のセリフ、取らないでくれる?」

 

元の体操着のような服に戻った勇儀は冗談交じりに言葉を返し、ヒビキもその冗談に乗ってツッコミを入れる。それに対し、勇儀は豪快に「ははっ!わりぃわりぃ!」と返した。阿吽の呼吸の如く、息の合った会話をする二人を見たさとりと翔太郎は、顔を見合わせて微笑む。その頃、広場に出てきていた静真の足元で、糸でグルグル巻きにされた上にのびていた女性が目を覚ました。

 

「うぅん...いたた、ひどい目にあった...って、グルグル巻きのまま!?なんかネチョネチョして気持ち悪いよぉ~!?」

「あれ...?もしかして、ノア?」

 

足元で騒ぎ出した女性に気づいた静真は、自由の利かない体でじたばたと暴れる女性の名前を呼んだ。その声に反応した赤髪の女性──ノアは静真の顔を見て、困り果てた表情からパァッと明るい表情に変わる。

 

「あっ、ちょうど良かった~!静真くん、この糸なんとかしてくれない?お願い!」

「えっ!?わ、分かったよ...」

 

勇儀たちとツチグモの戦いを見ていたおかげで糸の粘着性を承知していた静真は少しだけ渋るが、すぐに膝をついてノアの糸を取り外し始めた。会話の声で彼らに気づいたヒビキは、慎重に糸を摘まんでは投げ捨てる静真に声をかける。

 

「ん...?なんだ少年、逃げてなかったのか?」

「あっ...ご、ごめんなさい...」

「あぁ、いやいや!謝んなくていいよ。まぁ、無事で良かった。」

 

責められたと思い込んで小さくなってしまった静真に気さくに笑いかけると、ヒビキはなにも言わずにノアの糸に手を伸ばし、一緒に取り外し始めた。ヒビキに続いて静真に歩み寄るさとりは、以前ガイアメモリを使用した後遺症を危惧し、優しく問いかける。

 

「静真くん...体調は大丈夫ですか?」

「さとりさん!体調って...二日酔いの件ですか?今はすっかり元気ですよ。ご心配おかけしてごめんなさい...」

「あぁ、先生と飲みにきた日か!あの時は浴びるように飲んでたもんね~♪」

「ちょっと、ノア。また、そうやって話を盛らないでくれる?」

 

酒豪のように語られた静真は怪訝そうな顔でノアに文句を言うが、当の本人は面白そうに悪戯な笑みを浮かべる。親密さの滲み出るそのやり取りを後ろで聞いていた翔太郎は、小さく笑顔を浮かべながらスタッグフォンにギジメモリを差し込んでライブモードを起動する。

 

『スタッグ!』

「さとり、静真、あとヒビキさん。ちょっと離れてな...ノアちゃん、少しだけ動かないようにしてくれよ。」

 

翔太郎の指示に従った一同はノアの傍から離れ、ノア自身もぎゅっと身体を固める。それを確認した翔太郎はクワガタ形状に変形したスタッグフォンを放ち、その角でノアの糸を切断させた。自由の身になったノアはすっと立ち上がり、スカートの汚れを払うとぺこりとお辞儀をする。

 

「ふぅ、助かりました!皆さん、ありがとうございます!」

「いやぁ、お礼を言われるほどの事はしてないよ。むしろ、巻き込んじゃってごめんね。」

 

感謝を述べられたヒビキは謙遜し、危険な目に合わせてしまったことをノアに謝罪する。ツチグモ騒動に関わった全員を無事に助け出せた現状を眺め、勇儀は大きく声を上げた。

 

「よぉし!せっかくの戦勝だし、祝杯でも上げるか!さとり、あと翔太郎とやら!お前らも来いよ!」

「あ、だったらうちの酒場にいらしてください!今回のお礼として、私の奢りにしときますから!」

 

大人数が居る場所を苦手とするさとりは少し躊躇していたが、勇儀たちとの情報交換の場として了承し、単純な翔太郎は可愛い女の子に誘われた時点で即刻了承していた。彼の心を読んでいたさとりは、その余りの単純直情さにクスクスと笑ってしまう。勇儀の提案に始まりとんとん拍子で進んでいく話だったが、渋い顔のヒビキが勇儀の肩をつつき、彼女の抱きかかえるヤマメを指差して話しかけた。

 

「ちょっとちょっと、この娘はどうするの?どっかでちゃんと休ませてあげないとでしょ?」

「あぁ!そういうことなら、店の二階に私のベッドがあるんで、そこにどうぞ!こんな騒ぎがあった後で、どうせそんなにお客も来ないでしょうから、今日は貸し切りにしときますよ!」

「あ、本当に?なんかごめんね、いろいろ気を使わせちゃって...」

「いいんですって!命の恩人の待遇は、スペシャルじゃないといけませんからね!それじゃ、ついて来て下さい!」

 

ヤマメの処遇も決定し、ノアの案内で酒場へ移動を始める勇儀たちの中、立ち尽くしたままついて行こうとしない静真に気づいた勇儀は、振り返って声をかける。

 

「お~い、お前!なにしてんだ?早くついて来なよ!」

「えっ...?僕も行っていいんですか?」

 

勇儀の予想だにしない言葉を聞いた静真は、戸惑い、困惑した表情で聞き返す。だが、その言葉にニッと笑った勇儀は、さっきよりも更に大きく、力強い声で答えた。

 

「当たり前だろ?お前やノアと会ったのも何かの縁だ!この広い世界で数奇に繋がった縁は、大切にするに越したことはないからな!」

「勇儀さん...!」

「分かったらウジウジしてないで、早く来い!あんまり遅いと置いてくぞ?」

「ええっ!?さっきついて来いって言ったばかりじゃないですか!?ちょっと、勇儀さ~んっ!」

 

勇儀に茶化された静真は慌てて駆け出し、彼女たちの背中を追いかける。広場を走る静真を送り出すように吹いた一陣の風が、地面に散らばっていた花びらを巻き上げる。踊るように舞い落ちる花びらの中を進む静真は、胸の内で沸き立つ熱い思いをうっすらと、だが確かに感じていた。

 

響きあう心は、なにを変えていくのか?それはまだ、"明日なる夢"の話である...

 

ちなみに、祝勝会に参加した静真は勇儀に進められた酒を飲み続けた結果、前回よりも酷い二日酔いに苛まれたそうだ。他にもベロンベロンになって帰った翔太郎がフィリップに三時間の説教を頂戴したり、お酒の回ったヒビキがカエルの歌の替え歌を延々と披露したりと色々あったが、静真にとって忘れられない思い出になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇儀たちが広場で話していたころ、ツチグモと共に霧散したはずの黒い霧が旧都の裏路地に集束し、"ツチグモの怪童子"へと変化した。清め切れなかった闇が集まり、復活した怪童子は不気味にうなり声を上げたその時、指を鳴らした音が旧都に響いた。

 

「悪いけど、逃がさないよ!」

『響鬼!ギリギリスラッシュ!』

 

一瞬で怪童子の眼前に現れた白い少年は、ピンクの文字で「ケン」と刻まれた機械的な剣を握っており、その刀身は煌々と紫炎を纏っていた。白い少年は、出現してから間髪入れずに剣を袈裟に振り抜いて怪童子を斬りつける。白い少年はダメージに後ずさりした怪童子に向かって駆け出し、すれ違いざまに斬りつけて追撃を行った。傷から広がる紫の炎に焼き尽くされた怪童子は黒い霧に回帰し、今後こそ微塵も残らずに消滅した。

 

「ふぅ...」

「さすが、お見事な剣捌きですね。」

「えへへっ!ありがと、ルーナ!」

 

白い少年の背後に現れたメイド服の少女──"ルーナ・ファンタジア"は、柔和な笑顔と共に少年に賛辞を贈る。彼女の言葉を聞いた白い少年は、少し恥ずかしそうにしながらも無邪気な笑みを返した。その笑顔を見たルーナは優しく微笑むと、言葉を続ける。

 

「1つ、ご報告があるんです...紅魔館に、"イレギュラー"が来訪しました。」

「そっか...!」

 

ルーナの報告を聞いた白い少年は目を爛々と輝かせ、楽しそうに笑うと、誰に聞かせるわけでもない小さく声で呟いた。

 

「幻想郷へようこそ..."世界の破壊者"さん。」

 

白い少年がイレギュラーに向けて投げかけた歓迎の言葉は、旧都の喧騒の中に消えていったのだった...

 

~次回予告~

 

「次はどんな世界なんでしょうか?」

 

「俺は、門矢(かどや)(つかさ)。」

 

「私が、護るッ!!」

 

「わたしが、壊すッ!!」

 

「「変身っ!!」」

 

『カメンライド...』

『ディケイド!』

 

第13話 ~破壊者(ディケイド)破壊者(フランドール)

 

全てを破壊し、全てを繫げ!

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~星熊勇儀~

 

地底の旧都に住まう鬼で、"力の勇儀"と称される女性。"怪力乱神を持つ程度の能力"の持ち主。赤い一本角が特徴的で、性格・言動ともに豪快奔放。また、かなりの酒豪で、いつも赤い杯を持ち歩いている。旧都の設立にも携わった人物で、その姉御肌な人柄も相まって彼女を慕う者は多い。旧都に迷い込んでいたヒビキと協力し、響鬼の力を使って魔化網退治を行っている。

 

~ヒビキ~

 

肉体を極限まで鍛え上げ、魔化網から現世を護るために闘う"鬼"の一人である30代前半の男性。本名は日高仁志。物腰は柔らかく、誰にでも分け隔てなく接する気さくな性格。だが、年長者としての落ち着きもあり、頼れる大人の一面もある。趣味は鍛えることであり、基本的な筋トレはもちろん、太鼓を利用した音撃のトレーニングも欠かさない。旧都に迷い込んでからは、勇儀のもとで暮らしている。

 

~響鬼(勇儀)~

 

ヒビキとシンクロした勇儀が、"変身音叉・音角"を使用して変身した姿。本来、響鬼への変身は服が燃え尽きる弊害を伴うが、勇儀の妖術で服をコーティングすることで対策している。一対の打撃武器、"音撃棒・烈火"を主力装備としており、鍛え上げられた肉体による機敏な動きと、強烈な近接攻撃が特長。また、妖術を応用した技も臨機応変に使用し、火炎弾を放出する"鬼棒術・烈火弾"や、紫炎を纏った拳を振るう"鬼闘術・炎獄拳"などがある。必殺技は、巨大化した音撃鼓を音撃棒で叩いて相手に音撃を叩き込む"音撃打"各種。




第十二之巻、ご覧頂きありがとうございました!いかがでしたでしょうか?

今回は、少々特殊な展開!勇儀とヒビキが初めて出会うシーンではなく、いくつか場数を踏んだ後の戦いを描いてみました!これは、響鬼本編の最初のヒビキさんの戦いが洗練されていた印象が強かったからです!響鬼さんがおどおどしながら闘うって、あんまり想像つきませんからね...そして次回!幻想郷に現れるライダーもついに10人目!10人目といえば...読んでる皆さんは、"だいたい分かって"ますよね?

それでは、チャオ!
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