さぁ、とうとう10人目!ようやく1章の折り返しです!
それでは、どうぞ!
どうして、わたしは生きているのか...ふと疑問に思うことがある。
ずっとずっと暗闇の中、時間の流れも分からない小さな部屋で一人ぼっち。太陽も、月も、星も見えない部屋の中にあるのは、わたしの憎しみと、疑念と、このまま死んでいく恐怖だけ。この狭い世界で、わたしが生きている意味なんて本当にあるのだろうか?そんなことを考え始めると、頭の中が狂気と苦しみでいっぱいになる。それが、小さい心の中でグルグルと渦巻いて、わたしの心を粉々に壊す...
わたしは、
──悪魔だから。
「う~ん...40点ってとこかしら。」
昼下がり、紅魔館の自室。紅茶を口にし、ティーカップを置いたレミリアは、苦笑いを浮かべながら評価を述べた。その評価を向けた相手は、着慣れないタキシードに身を包んだ渡。紅魔館に住み込みで働くことになって三日目、渡は咲夜の指導を受けながら執事として活動している。先ほどレミリアの飲んだ紅茶は渡が淹れたもので、それ故に評価が半分を下回っているのだ。微妙な点数を賜った渡は、やっぱりといったような顔でため息をつく。
「やっぱり、そうですよね...ごめんなさい...」
「あっ、別に謝らなくていいわよ?私が無理に頼んだんだし、三日でこの味なら申し分ない。むしろ、ここまでの味が出せたのは賞賛に値するわ。やっぱり、ちゃんと咲夜から指導は受けてるのね...」
少し気落ちした渡の反応を見たレミリアは、すぐさまフォローを入れる。レミリアの言葉を受けて気を取り直し、うなだれていた顔を上げた渡は、彼女の少し憂いを帯びた表情を見て疑問に思ったことを尋ねた。
「あの、もしかして...咲夜さん、何かあったんですか?」
「ん?まぁ、ね...あなたが来てからなんだけど、様子が変なのよ。渡のことを聞くと、変にはぐらかして答えないし...」
渡に咲夜のことを尋ねられたレミリアは、気掛かりそうな表情で咲夜の近況を答えた。咲夜の近況を聞かされた渡だが、自分が来たことによる変化など本人に分かる由もない。咲夜に迷惑をかけているのか、不安と心配を感じた渡の心境を汲み取ったレミリアは、優しく言葉を続ける。
「まっ、きっと環境が変わって戸惑ってるだけね。新しい相手との付き合いが始まって、何も変わらない人間なんていないし...渡は気にしなくていいよ。」
「そうですか...でも、僕も咲夜さんに気を配ってみます!」
渡の言葉を聞いたレミリアは、自分の忠臣を気遣ってくれる渡の優しさに微笑み、感謝を述べる。
「ありがとう、お願いするわ。昼休みだったのに、時間取ってごめんね。」
「ううん、気にしないで。それじゃ、僕は行きますね!」
明るい笑顔で部屋を出て行った渡の背中を見つめるレミリアは、クスリと笑う。
「ふふっ...言葉遣いは、まだ勉強中みたいね。」
その言葉に呆れや憤りのような感情は含まれておらず、どこか喜びさえ感じさせる口調だった。一人残った部屋でティーカップに手を伸ばし、少し渋い紅茶を飲み干したレミリアは、「たまには、こういうのも良いわね。」と笑顔を浮かべると、今日届けられた文々。新聞に目を通し始める。「姿無き通り魔!?白虎の里の連続切り裂き事件!」という記事に添付されていた写真には、ある衝撃の事実が隠れていた...
一方、レミリアの部屋を出た渡は、午後の予定であるエントランスの清掃を行うために廊下を進んでいた。渡が廊下のT字路にさしかかった所で、左の廊下から渦中の人物──十六夜咲夜がユラリと現れ、渡の行く手を塞いだ。忽然と現れた彼女に一瞬驚いた渡だったが、すぐに咲夜に声をかける。
「あっ、咲夜さん!レミリアさんが心配してましたよ?」
「...お嬢様の名を...気安く呼ぶなッ...!」
渡の声を聞いた咲夜は、突然、ギロリと渡を睨みつける。その眼差しには憎しみと怨みが渦巻いており、なにより強く輝いていたのは、迷いのない殺意だった。仇敵にむけるような眼差しを向けられて動揺する渡をよそに、目の下にくまがある咲夜は、渡を追い込むように言葉を並べる。
「さっ、咲夜さん...?」
「あなた、お嬢様に不味い茶を飲ませたわね...!その上、お嬢様に向かって無礼な物言いを...!下賎な人間が...お前がここに来て三日、お嬢様の言いつけもあって堪えていたけど...もう我慢の限界...!お前は、お嬢様を危険に晒す邪な存在...私が、排除する...!!」
一方的に恨み言を言い放った咲夜は、懐からドーパントタイプのガイアメモリを取り出すと、スイッチを押して起動する。そのガイアメモリには、右に向いた長針、左を向いた短針、下を向いた秒針で構成された「T」のシンボルが刻まれていた。
『タイム!』
"タイムメモリ"から流れたガイアウィスパーに反応し、左手の手のひらに浮き出てきた生体コネクタを見せつけた咲夜は猟奇的な笑みを浮かべ、タイムメモリの銅色端子を生体コネクタに押し付けた。タイムメモリを吸収した咲夜の身体は金色の光に包まれ、金の懐中時計を象った怪人──"タイムドーパント"へと変貌を遂げる。両腕に備えられている長針と短針を模したブレードをこすりあわせて研いだタイムドーパントは、渡の首を狙ってブレードを振るった。
「うわっ...!」
咲夜の凶刃に襲われた渡は、なんとか逃れるため咄嗟に窓に飛び込み、ガラスを割りながら紅魔館の中庭に落下した。だが、急遽飛び出したせいで体勢が整わなかった渡は、背中から地面に落ちていく。
「渡っ!」
飛び出した廊下は紅魔館の二階であり、地上までは約10メートル。落下の激痛を覚悟した渡だったが、渡の危機に飛来したキバットがタキシードの胸ぐらを咥え、その勢いを押し殺した。キバットのおかげで安全に地面に降りることが出来た渡は、キバットに礼を言って急いで立ち上がるが、渡を付け狙う咲夜もまた、中庭に飛び降りてくる。
「大丈夫か、渡?咲夜のやつをこっそり尾行してて正解だったぜ...」
「ありがとう、キバット...助かったよ。」
「紅渡...お前は血と肉すべてをお嬢様のディナーにしてあげる。キバットは、粉々に切り刻んで花の肥料にでもしてあげようかしら?まぁどちらにせよ、死してお嬢様に尽くせることを光栄に思いなさい...」
タイムドーパントに変化してなお、殺意に満ちた言葉を淡々と並べる咲夜は、自分が端正に手入れした中庭を踏みしめて渡とキバットに迫る...
「次はどんな世界なんでしょうか?」
テーブルに乱雑に並べられた写真を眺めていた女性──"光夏海"は、何気なく呟いた。彼女が眺めていた写真はどれも歪なものばかりで、心霊写真のように他の人の顔が浮き出ているものや、破滅的にピンボケしているものまで揃っている。唐突な夏海の呟きに、隣に座っている青年が反応した。
「そうだなぁ...ビルドの世界は兵器のライダーだったし、若手社長のライダーとか?」
「まさか~!ユウスケ、流石にないんじゃないですか?」
「いやいや、ブレイドの世界にも居たじゃない!社長のライダー!まぁ、悪いやつだったけどさ。」
明朗な青年──"小野寺ユウスケ"はそう言うと、微妙な表情を浮かべて夏海に笑いかける。苦い思い出に二人が苦笑する中、ピンクの二眼トイカメラを首から下げた茶髪の男がテーブルに歩み寄ってきた。
「社長だろうが王様だろうが、どうせ俺には及ばない。なんてったって俺、
非常に偉そうに振る舞いながらテーブルを囲む椅子の一つに座った男──門矢士は、勝ち誇るように指を天に向けた。3人がいるのは「光写真館」というレトロチックな写真館の、撮影スタジオ兼リビングだ。撮影スタジオであるため、部屋には巨大な背景ロールがかけられており、現在の絵には幾何学模様の刻まれた巨大な石壁を貫通する白い立体数式が描かれている。二人の前でふんぞり返っている士を、夏海は呆れたような目で見つめる。
「はいはい、士君はすごいですねー。社長よりも凄いなら現像代とフィルム代、あと家賃もちゃんと払って下さいよ!」
「現像代とフィルム代はともかく、家賃まで払わせる気かよ!?」
「あっ、そうだ士!お金が要るなら、お前の写真をまとめた写真集でも売り出したらどうだ?もの珍しさで売れるかも知れないぞ?」
「ほぉ...ユウスケ、それは挑発ってことでいいんだよなぁ...?」
そんな冗談を交わした士はユウスケの背後に回り込み、「ほぉ~ら、頭の破壊者様が、お前の万年お花畑な頭を破壊してやるよ!」とユウスケの両こめかみをグリグリと押しこむ。この中学生の昼休みのような光景からすると一般人に見える三人だが、彼らの正体は"世界の旅人"。いくつもの可能性が分岐した平行世界──俗に言うパラレルワールドを渡り歩く旅人たちであり、彼らの旅宿こそがこの光写真館だ。
「い、痛い痛い!ごめん、ごめんって士ぁ!」
「まったく、しょうがねぇなぁ...じゃ、許してやる代わり、俺の家賃を払ってもらおうか?」
「えっ!?いや、ちょっと馬鹿にした慰謝料にしては高額すぎるでしょ!?」
「夏海、みんなと居ると毎日賑やかでいいね!」
士とユウスケの下らないじゃれ合いを眺めていた夏海に、リビングと繋がっているダイニングルームから顔を覗かせた老人が笑顔を浮かべる。穏やかな笑みが柔らかい印象を与えるその老人は、夏海の祖父である"光栄次郎"。彼の肩に乗っていた小さな純白のコウモリ──"キバーラ"が飛び立ち、煙を上げているこめかみを撫でるユウスケの前に降り立った。
「ねぇねぇ、士!ユウスケの吸血権も追加してちょうだい!最近ご無沙汰だったし、いいでしょぉ?」
「ははっ、そりゃいいサービスだな!そういうオマケは大歓迎だ!」
「やった~♪じゃ、早速ぅ...」
無邪気な声をしたキバーラの提案を、椅子に腰掛けた士はニヒルな笑みを浮かべながら快諾する。不正な脅迫主と提携したキバーラは、小さな翼をはためかせてユウスケの首筋に飛びかかろうとする。
「うわっ!?止めろってキバーラ!来んな、来んなぁ!」
キバーラから逃れようとしたユウスケは、椅子から転げ落ちて逃げ回る。その最中、慌てたユウスケはバックロールの隣の柱にぶつかり、勢いそのままに柱にかかっている鎖を引っ張ってしまった。新たなバックロールが垂れ下がり、前の絵を覆い隠す。光写真館におけるバックロールの切り替わりは、次の世界に移動した合図。次なる世界にたどり着いた旅人ご一行はバックロールの前に集合し、その絵を見つめる。そこに描かれていたのは──
「"女の子"、でしょうか...?」
──うつむき加減で座り込む少女の姿だった。漆黒の闇の中でうずくまり、その小さな体には鎖が巻き付いており、まるで囚われた重罪人のような扱いを受けている。あまりに惨い光景が描かれたバックロールを眺めていたユウスケは、重苦しい声で小さく呟く。
「なんか、嫌な雰囲気の絵だなぁ...拷問みたい。まさか、独裁国家の世界とかじゃないよな...?」
「さぁな...まぁ、適当にふらついてれば分かるだろ。」
いつも通り気だるそうな声でそう言った士は、暗い雰囲気のバックロールの前を早々に離れ、リビングから廊下へと出て行く。彼がこの世界の内情を探りに行こうとしていることを察したユウスケは、「あっ、士!俺も行く!」と言って士の後に続いた。だが、廊下に出た士たちの前に現れたのは──
「なんだ、このドア?」
──見覚えのないドアだった。光写真館一階のドアといえば、スタジオに繋がるドアと、現像室に繋がるドア、あとはトイレくらいのものである。それにも関わらず、スタジオの扉の真向かいに設置された謎のドアは、異質というより他にない。
「おいおい、いつの間に増築してたんだよ?」
「いや、そんな様子なかっただろ!でも、昨日までドアなんてなかったよなぁ...」
「ま、開けてみりゃ分かるだろ。」
士の皮肉にすぐさまツッコミを入れたユウスケも、世にも奇妙なドアの出現に首を傾げる。だが、そんな摩訶不思議な出来事が起ころうと、変わらぬ余裕と度胸が据わっているのが門矢士という男なのだ。怖じ気付くことなく、まっすぐドアノブに手を伸ばし、扉を開ける。その先には、端正な作りの廊下が広がっていた。
「廊下と廊下を扉で繋げるなんて、ずいぶん前衛的な間取りじゃないか。」
「あっ!おい、士!また勝手に...!他人様の家だったらどうするんだよ!」
「俺の家の扉と繋がってるんだから、俺の家だろ。さて、どこから行くかな...」
ユウスケとは対照的に傍若無人な士は、まるで公園を散歩するかのように廊下をぶらりと歩き出す。置いて行かれかけたユウスケも慌てて士に続き、二人はこの屋敷──紅魔館の散策を開始した...
「はぁ...はぁ...!」
「フフッ...どうしたのかしらァ?もう虫の息じゃない?」
タイムドーパントとしての姿を曝した咲夜は、金色のエネルギーナイフの雨を降らせ、渡を着々と追い詰めていた。だが、そのナイフは急所を狙うものではなく、渡が回避した後、腕やふくらはぎに掠めるように計算されている。まるで、逃げ場を失ったネズミをなぶり殺しにするかのように。怪物としての表皮に覆われた咲夜の表情は察せないが、その顔が狂気に歪んでいることは明らかだった。
「お前は楽には殺してあげないわ...苦しみ抜いた果てに、無惨に殺してア・ゲ・ル♪」
冷静沈着、完璧で瀟洒ないつもの態度からは想像出来ないようなセリフを述べた咲夜は、空中に金色のエネルギーナイフを6本並べ、全身にかすり傷を負った渡に放つ。その光刃が渡の眼前に迫った瞬間──
「神槍【スピア・ザ・グングニル】!!」
──二階の廊下に駆けつけたレミリアの投射したグングニルが、ナイフを粉々に粉砕した。渡の窮地を救ったレミリアは、日笠をさして中庭へと降り立つ。異形の化け物と化してしまった臣従を冷たい目で見つめる彼女の手には、一冊の新聞が握られていた。
「あなた...咲夜ね?」
「流石はお嬢様。この姿になろうとも、私のことを理解して下さるのですね...♪」
「えぇ...あなたの事なら、なんでも分かってるつもりだった。知らなかったのは、あなたが"猟奇的な殺人未遂犯だった"ってことかしら...」
負傷した渡を庇うように立ち、少しだけ表情を曇らせたレミリアは、その手に握った新聞を咲夜に突きつけた。レミリアの言葉に耳を疑った渡は、その新聞を覗き込む。そこに書いてあったのは、白虎の里で頻繁している切り裂き事件に関する情報だった。
「ここ一週間で五件、人里で突然に人が切りつけられる事件が起きた。その被害者たちは、直近で私が関わりを持った人間ばかりだった...事件現場の写真の全てに、騒ぎを聞きつけた野次馬の中に紛れたあなたが写っていたわ。それに、姿も見せずに人を切りつけるなんて芸当、可能な者は限られる...そうじゃなくって?」
「それって、つまり...」
「そう、この連続切りつけ事件の犯人は...咲夜、あなたよ。」
レミリアは新聞を投げ捨て、まっすぐとタイムドーパントを指差した。毅然とした虚勢を張るレミリアの頭に、渡を迎え入れたときの光景が蘇る。
(「お嬢様!!?本気ですか!?こんな素性も分からない人間を屋敷に住まわせるなんて!」)
「(もっと早く気づいてあげるべきだった...あの時、既に咲夜は...!)」
渡を送り出した後、新聞を開いたレミリアは気づいてしまったのだ。写真に写っている自分の従者が、凶行に走ってしまっていたことに。そして、その"動機"もほとんど察しがついた...だからこそ、屋敷の敷地内から聞こえた騒音が何を意味しているか理解し、反射的に駆けつけたのだ。なにも言わず、化け物の仮面をかぶり続ける咲夜に、レミリアは小さな声で問いかける。
「私のため...?」
「もちろんですわ。私の心身の全ては、お嬢様のためだけにございます。そして、私はお嬢様に近づく害獣を駆除しているだけ...その2匹もすぐに駆除致しますので、そこをおどき下さいませ...」
「そう...なら、今すぐに駆除を止めなさい!私はそんな事を頼んだ覚えはないわよ?」
威圧感を放ちながら咲夜に命令を下すレミリア。だが、咲夜は首を縦には振らなかった。
「申し訳ありませんが、出来ません。一時、主に不興を買おうとも、その危険と障害を排斥するのが従者である私の務め。それに、これは命令ではなく"約束"なんです...」
「もう、話してどうにかなる状態じゃないみたいね...渡!キバット!咲夜を止めるわ!力を貸して!」
「はいっ!」
「おう!キバって参りますぜ~!」
『ガブッ!』
「「変身...!」」
もう命令を聞き入れない怪物と化した咲夜に唇をかみしめ、渡とシンクロしたレミリアは右手に握ったキバットを左手に噛みつかせると、キバットベルトに装着してキバフォームに変身する。タイムドーパントと対峙したレミリアは、まっすぐと咲夜を見据えながら自嘲した。
「(大事な存在を守るための力だと思ってたのに、その力で咲夜と戦うことになるなんて...お母様に見られたら、叱られちゃうな...)」
「残念ですわ、お嬢様...少々手荒な真似をさせて頂きますが、ご容赦くださいね?」
「構わないわ、それはお互い様だもの。私に逆らった罰、その身に刻み込んであげる...」
主人と戦闘することを覚悟した咲夜は、長針のブレードに金色のエネルギーを纏わせ、巨大化させて振り下ろすが、レミリアはバック宙で回避し、流れるように壁を蹴った勢いをで咲夜に飛びかかる。ブレードが中庭を穿つ轟音を合図に、主従対決が幕を開けた...
一方、紅魔館の散策を開始した士は、廊下、図書館らしき空間、各個室などをぶらぶらと歩き回るうちに地下の薄気味悪い回廊を歩いていた。ちなみに、同伴者のユウスケは図書館のあたりで姿が見えなくなったのだが、士は友人が消えた程度を気にする性格ではない。当然、ユウスケへの信頼ゆえではあるのだが。
「ずいぶんと薄汚い場所だな。まっ、いわゆる牢獄ってやつか...」
そんな風に呟きながら、士はカメラのシャッターを切った。彼の言うとおり、地下の回廊は左右に鉄格子に囲まれた牢屋が並んでおり、少しばかり乾いた血の匂いが漂ってくる。だが、明らかに老朽化が進んでおり、近頃使用された形跡もなければ、牢屋の中も錆び付いた拘束具が垂れているだけだった。
「こりゃ海東の奴が放り込まれてたら、正にお似合いだな!」
もう一人の旅仲間...というより、腐れ縁のライバルが捕らわれていることを想像して爆笑する士。間違いなく劣悪で、大抵の人間は恐怖で背筋が凍るこの空間で、彼は高らかに笑う。だが、そんな常軌を逸した存在が、"もう一人"この地下空間にいた。
「アッハハ♪こんな所に人間さんだ!もしかして、フランと遊びに来てくれたの?」
士の前に現れた金髪の美少女は、到底普通といえる姿ではなかった。枝から七色の宝石が垂れ下がった異様な翼。無邪気な笑顔から覗く鋭利な牙。目の前の少女が人間でないことは、火を見るより明らかだ。だが士は、その少女の持ち合わせているどんなに異質な特徴よりも、彼女の"瞳"に引きつけられていた。そんな士を心情を知る由もなく、天真爛漫な少女は言葉を続ける。
「わたしは、"フランドール・スカーレット"!フランって呼んでね!おにーさんは?」
「俺は、門矢士。通りすがりの仮面ライダーだ。」
「そっか、よろしくね、士!」
「おにーさんっつってたのに、いきなり呼び捨てかよ!?」
士の気だるそうな突っ込みを貰ったフランは悪戯に微笑むと、顎に人差し指を当てて質問を続けた。
「ねぇねぇ、士!"かめんらいだー"...って、なぁに?渡のキバと似たようなもの?」
「渡に、キバだと?まさか、紅渡のことか?」
「うん!もしかして、友だちなの?すごい奇遇だね!」
「あぁ。まぁ、知り合いではあるな...まさか、"アイツ"もこの世界に...?」
士が旅の始まりを与えた男のことを回想したその時、轟音とともに地下全体が揺すられるように振動した。足場が不安定になった士は膝をつき、フランはふわっと空中に浮かんで振動を無効化する。古びた石材の粉塵がパラパラと落ちる中、二人の目線は天井に集まった。
「わわっ!なんの音かなぁ?」
「さぁな...隕石でも落ちたんじゃないか?」
「なんか面白そう!よぉ~し、行ってみよ~♪」
瞳からキラキラと輝きをこぼし、フランは地下回廊を猛スピードで飛んでいく。土地勘もなく、迷わずに地上に出られるかも分からない士は、ため息をつきながらフランの背中を追いかける。不本意ながら、好奇心に満ちたフランに振り回される形になった士だが、不思議と悪い気はしなかった。地下回廊を抜け、石階段を上り、一階の端正な廊下を通り抜け、扉を開け放って中庭に飛び出す。そこでは、キバフォームに変身したレミリアと、タイムドーパントに変化した咲夜による激戦が繰り広げられていた。
「あっ、お姉様!って、わわっ!あちっ!あちち!」
「お、おい、フラン!なんで燃えてんだよ!?」
フランが中庭に飛び出した瞬間、彼女の羽から煙が上がり始め、フランは自分の羽をひっつかんでふーふーする。中庭に出た途端に羽が燃え始めたことから、その原因が外にあると察しをつけた士は、フランの手を引いて屋敷の中へと引き戻す。その騒ぎのおかげで、戦闘中だった二人はフランと士の存在に気がつくことになった。
「フ、フラン!?危ないから、下がってなさい!」
「え~!?お姉様だけ楽しそうなことしてズルい!フランも交ぜて~!!」
フランに気づいたレミリアは、戦いに巻き込まないために近づかないように言い聞かせるが、駄々をこねるフランは懲りもせずに参戦しようとする。もっとも、士が洋服の襟を掴んでいるため、外に出ることは敵わないが。
「お嬢様ァ...よそ見をしている場合では、ありませんよッ!!」
だが、もはや渡を殺すこと以外は頭にない咲夜にとって、フランを気遣うレミリアの姿は絶好のターゲットとなってしまった。短針のブレードにエネルギーを纏わせ、槍のように伸びたブレードを、後ろを振り向いたレミリアの後頭部に目掛けて突き出す。
「っ!?」
その殺気を寸前で察知したレミリアは、反射的に屈んでブレードを回避した。だが、それによって引き起こされる二次災害までは予測出来なかった。伸びたブレードがフランと士のいる廊下の上階を破壊し、崩れた瓦礫がフランたちに降り注ぐ。天井の崩落を理解した士は、とっさにフランの盾になるように覆い被さった。
「(チッ...くそっ!)」
その時、護っているはずのフランが、好戦的に笑っていることなど知らずに...
「きゅっとして...」
崩れ落ちる天井を仰いだフランは、思いっきり開いた手を上に伸ばす。そして──
「...ドカーン!」
──きゅっと手を閉じた。すると、瓦礫は爆発四散するかのように粉々になり、白い粉塵だけが士の肩に舞い落ちる。これこそが、レミリアの妹である吸血鬼──フランドール・スカーレットの持ちあわせる禁呪の力..."ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"。
紙を握りつぶすかのように瓦礫を砕いたフランは、吹き抜けと化した上を見上げる粉まみれな士の肩に小さな手を乗せて、無事なことを示すように笑ってみせた。その瞬間──
「静域【タイム・エリア】...」
──フランたちとその周辺以外、すべての時間が止まった。正確に言えば、フランたちの周りにドーム状のエネルギーが張られており、その外側のすべてが制止していたのだ。
「いやぁ~、流石だねフラン!僕が助けに入ろうかと思ったのに、自力で何とかするなんて!」
唯一時が流れるその空間に現れたのは、幻想郷の各地で神出鬼没な白の少年だった。崩れた二階に腰掛け、フランたちを見下ろしていた彼は、にこやかに微笑みながら士とフランの前に飛び降りてくる。明らかに怪しげな少年に、士は疑いの目を向けながら質問する。
「お前...何者だ?」
「僕?そうだなぁ、"通りすがりの仮面ライダー"...なんてね♪」
「えっ!?あなたも士の"通りすがり友達"なの?」
士の質問を飄々とはぐらかした白の少年はコホンと咳払いし、二人のことをまっすぐに見つめると、言葉を続けた。
「悪いけど、僕のことより大事なことがあるんだよ。単刀直入に言うけど...士、君はこの世界に置ける"イレギュラー"なんだ。」
彼の"イレギュラー"という言葉に、「時間を止めて、急に現れたお前の方がよっぽどイレギュラーだろ」と内心思うフランと士だったが、話の骨を折るとツッコミどころが増えそうなので華麗にスルーする。姉の見栄っ張りなカリスマトークのおかげで、フランのスルースキルは日夜鍛えられているのだ。
「基本的に、この世界を訪れた仮面ライダーは変身能力を失い、それぞれ共鳴する少女とシンクロすることで変身資格を与えることが出来るようになる...でも、士は例外なんだ。平行世界を渡り歩いてきた影響なのか、君のディケイドの力は失われていない。」
ここで、白の少年は人差し指を立てて「しかーし!」と強調した。
「君は他のライダーたちと同じように、共鳴するパートナーと共に闘っていくことも出来る。だけど、そうした場合、君一人で変身することは出来なくなると思う。そして、君のパートナー足り得るのは...」
士をイレギュラーと呼ぶ理由を明かした白の少年は、立てていた人差し指をゆっくりと下げる。やがてその指が示したのは、士の隣に並ぶフランだった。
「えっ、わたし...?」
士と共に戦えるパートナーであると知らされたフランは、流石に今までの明るさを忘れて動揺する。無理もないだろう。さっき出会ったばかりの正体もわからない人間と、一心同体になって戦える...そんなことを突然伝えられても、そう簡単に納得行くものではないはずだ。士の選択を待つフランは、彼の端正な横顔を赤い瞳で見上げる。
「なるほど...だいたい分かった。つまり、俺だけで戦うのか、フランと一緒に戦うのか決めろ...そういう事だな?」
「そうなるね。それで士、君の答えは?」
にこやかな表情のまま、白の少年は士に改めて問いかけた。「一人で戦いを続けるのか、まだ幼い少女を戦いに巻き込むか」。まともな常人であれば、後者を選ぶことはないだろう。決断を迫られた士の脳裏に、フランの瞳の奥に感じた深い影がよぎった。
「(この世界で、俺のするべきことは...!)」
決断を下した士は、言葉の代わりに白いデジタルカメラのようなバックル──"ディケイドライバー"を取り出し、フランの前に差し出す。ハッとした顔で見上げてくるフランの目をまっすぐに見つめ、士はゆっくりと口を開いた。
「フラン、俺はお前と戦ってもいい...そう思ってる。もし、お前が"答え"を探したいなら、このバックルを受け取れ。俺たちと旅をすれば、なにか答えが見つかるかもな。」
「士...」
士の言葉を受け止めたフランは、じっとディケイドライバーを見つめる。綺麗な純白のボディに写り込んだ自分の顔をしばらく見つめたフランは、そっとディケイドライバーを手に取った。
「わたし、色んな世界を、色んな人たちを見てみたい!士と一緒だと、なんだか楽しそうだし!」
「それが、君たちの選んだ道なんだね...ここからが、君たちの時間だよ!頑張ってね!」
明るく笑顔を見せたフランに釣られて、士も柔らかく口角を上げる。微笑み合う二人を見て、満足そうに笑った白の少年は、指を鳴らした音を残して姿を消した。それと同時に周囲の時も動き出し、止まっていた鈍い音が中庭に響き出す。
「決まりだな!まずは、俺たちを瓦礫の下敷きにしようとしたアイツを片付ける!行くぞ、フラン!」
「うん!あっという間に、ドカーンってしてあげるよ~!」
そう気勢を上げた時、二人は大事なことに気がついたのだった。
「「(しまった...あの少年にシンクロの仕方教えて貰ってない!!)」」
同じように心の中で叫んだ瞬間、士はマゼンタの光に変換されてフランと解け合った。フランがレミリアから聞いていたシンクロの方法を思い浮かべたのと、士の奇跡的なまでの直感の賜物である。
「あっ、こういうことなんだ!」
士とシンクロを果たし、少し背丈が伸びたフランは、士の温もりを感じながらディケイドライバーを腰に押し付ける。すると、銀のベルトが腰に巻きついてディケイドライバーが装着された。ドライバーの左右にあるサイドハンドルを引き、バックルを90度回転させたフランは、ベルトの左側に提げられている白色のバインダー──"ライドブッカー"から、バーコードのような仮面が特徴の戦士、"仮面ライダーディケイド"が描かれたマゼンタが基調のカードを抜き出し、正面に構える。
「「変身っ!!」」
フランはかけ声に合わせてカードを捲り、裏面のバーコードのようなマークを正面にしてディケイドライバーに装填する。
『カメンライド...』
ディケイドライバーのレンズからマーク──ライダーズクレストが覗き、「KAMEN RIDE」の文字がホログラム表示される中、フランはサイドハンドルを押し込んだ。
『ディケイド!』
すると、元の形状に戻ったバックルのレンズの前に、ディケイドのライダーズクレストがホログラムで拡大表示され、レンズから九枚のプレートが射出される。それと同時にフランの周りに六つの幻影が展開され、それがフランの体に重なると、少し変わったモノクロの姿に変化した。そして、射出されたプレートがフランの帽子に突き刺さり、それによって洋服がマゼンタに色づいた。マゼンタのロングコートの上に、肩掛けな十字のデザインが施され、赤かった瞳が緑色に染まる。
仮面ライダーディケイド──世界の破壊者たるライダーの力を、フランが継承した姿だ。
「だいたい分かった...イマジンみたいなもんか。」
「さぁて、優しい優しい妹様が、お姉様の助太刀をしてあげようかな?」
ディケイドの姿に変身したフランは腰のライドブッカーを手に取り、グリップを浅く展開することでガンモードに変形させると、レミリアと交戦するタイムドーパントに向けてエネルギー弾を発射した。予想外の方向から攻撃を受けたタイムドーパントは、防ぐことが出来ずにじわりと後ずさりする。
「苦戦してるみたいだね?スーパーカリスマお姉様?」
「フ、フラン!無事だったのね、良かった...しかも、そのピンクの格好は...?っていうか、サラッとバカにするな!」
「ピンクじゃない...マ・ゼ・ン・タだ!」
ライドブッカーを構えて隣に並び立ち、息をするかのようにレミリアをディスったフランに、レミリアは安心半分、ノリツッコミ半分で声をかける。煙を上げる胸部を手で払ったタイムドーパントは、「ハァ...」と深くため息をついた。
「妹様ァ...貴方も邪魔するつもりですか...?なぜ、誰も彼も私の邪魔をするの...!?私は、貴方たちを護りたいだけなのに...ッ!!他のすべてを犠牲にしようとも...お嬢様たちは...私が、護るッ!」
憤慨して身体を震わせるタイムドーパントを指差し、フランはレミリアたちに問いかける。
「妹様って...もしかして、あれ咲夜?」
「はい...」
渡たちから、咲夜がここで暴れている成り行きと、今までに行ってきた犯行の説明を手短に受けた士は、フランの胸元をマゼンタに輝かせながら推論を語る。
「容姿を見る限り、なんかのドーパントか...ガイアメモリの副作用で思考が暴走してる可能性が高いな。」
「じゃあ、さっさと倒してメモリブレイクしてあげよっか。咲夜の暴走した想いは...わたしが、壊すッ!!」
ライドブッカーのグリップを大きく展開し、格納されていた刃の展開されたソードモードに切り替えたフランは、刃を撫でて咲夜に宣戦布告する。レミリアとフランが咲夜を正気に戻そうとする中、紅魔館の屋根の上でメイド服のフリルをなびかせながら、それを眺める少女がいた。
「さて、世界の破壊者とすべての破壊者...あなた方のお手並み拝見といきましょうか。」
白の少年に士の来訪を伝えたメイド──ルーナは静かに呟くと、懐から"黒いディケイドライバー"のバックルを取り出す。さらに、異形の怪物の顔が収められている水色を基調としたカードを複数枚手に取り、バックルに装填した。
『イリュージョンライド...』
「さぁ、いってらっしゃい...」
『ズ・グムン・バ!レイドラグーン!シカインベス!マシンガン眼魔!』
ルーナが小さく囁くと、輝く水色の粒子がバックルのレンズから放出され、フランとレミリアの前に複数の人型を作る。そして、輝きが収まった粒子たちはそれぞれ怪人へと姿を変えた。
蜘蛛の能力を持つグロンギ──ズ・グムン・バ。
トンボの特徴を持つミラーモンスター──レイドラグーン。
先日、鎧武の力を得た妖夢が葬ったインベス──シカインベス。
テンガロンハットと右手のガトリング砲が特徴の眼魔──マシンガン眼魔。
それぞれがフランたちに立ちふさがるように咲夜の前に並び、10体のレイドラグーンは怪人たちの頭上で四枚の羽で浮遊する。
「なに、こいつら!?」
「う~ん、倒してみれば分かるんじゃない?お姉様、上のトンボみたいなのお願いね~!」
「ちょっ!一番手間かかるやつを押し付けるな!」
フランとレミリアは小競り合いをしながらも、眼前の怪人の群れに突っ込んでいく。フランはグムンとシカインベスに切りかかり、レミリアはマシンガン眼魔の頭を踏み台にしてレイドラグーンに飛びかかった。
「チッ...!醜悪な化け物が...!」
想定外の援軍を得た咲夜だったが、レミリアたちを殺しかねない怪人たちは邪魔者と判断し、怪人を蹴散らしながらレミリアたちを狙う戦法に切り替える。紅魔館の中庭は、咲夜を止めんとするレミリアとフラン、彼女たちに差し向けられた怪人たち、レミリアたちを標的にする咲夜という三つ巴の戦場と化した。
「よっ!はぁっ!」
初めて手にしたライドブッカーを手足のように操り、フランはグムンとシカインベスを圧倒していく。止めどない攻勢によろめいたグムンが吐き出した糸を切り捨てると、フランは"仮面ライダークウガ"の描かれたライダーカードを取り出し、回転させたディケイドライバーに装填してサイドハンドルを押し込む。
『カメンライド...クウガ!』
すると、クウガへの変身と同じ流れでフランの全身が変化し、"クウガの姿に変身したルーミア"と、完全に同じ姿に変身した。違う点といえば、ベルトがディケイドライバーであるだけだ。クウガのマイティフォームのスタイルに合わせ、徒手空拳に切り替えたフランは、突進を仕掛けてきたシカインベスの角を掴むと、レイドラグーンを相手取るレミリアに銃口を向けていたマシンガン眼魔に投げつける。
「さて、まずは一匹片づけよっか...!」
グムンと1対1の状況に持ち込んだフランは、一気に駆け出してグムンの顔面に膝蹴りをかます。ふわりと空中に浮き上がったグムンは、回りながら地面に落ちていく。右足に炎を纏わせたフランは、その背中に正面蹴りを打ち込み、派手に吹き飛んだグムンは空中で爆発した。グムンを始末したフランは、ライドブッカーから颯爽と"仮面ライダー鎧武"の描かれたカードを取り出し、さっきと同じ手順でドライバーに装填、サイドハンドルを押し込む。
『カメンライド...鎧武!オレンジアームズ!花道!オンステージ!!』
フランは頭上に開いたクラックから降下してきたオレンジアームズをバックステップでかわすと、サッカーボールのように蹴り飛ばす。オレンジアームズはフランを狙ったマシンガン眼魔の銃弾を防ぐ盾となり、懲りもせずに突撃を敢行していたシカインベスに激突する。フランは跳ね返ってきたオレンジアームズを頭からかぶり、アームズが展開されると、"鎧武の姿に変身した妖夢"と全く同じ姿に変身した。
「ここからは、わたしたちのステージだよ!」
左手に装備された大橙丸を構えたフランは、怯んでいたシカインベスに向かって突撃し、素早く間合いに入って横一文字に大橙丸を振り抜いた。後退したシカインベスに対し、フランはライドブッカーも加えた二刀流で攻め立てる。
「鹿肉のオレンジ切りといこうか?」
「う、う~ん...よくわかんないけど、オッケー!」
苦笑いで頷いたフランは、橙色の光を纏わせた大橙丸と、マゼンタの光を纏わせたライドブッカーを舞うようにして振るう。二振りの剣に滅多切りにされたシカインベスは、耳をつんざくような奇声とともに爆発した。シカインベスを葬ったフランは、マシンガン眼魔が連射した銃弾をライドブッカーのバインダー部分でガードすると、大橙丸を投げ捨てて"仮面ライダーゴースト"が描かれたカードをドライバーに装填し、サイドハンドルを押し込む。
『カメンライド...ゴースト!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』
クウガ、鎧武と来て、次は"ゴーストの姿に変身した早苗"と全く同じ姿に変身したフランは、一瞬で身体を霧散させてマシンガン眼魔の銃撃を回避し、懐に入り込んで拳を叩き込む。腹部に正拳突きを受け、マシンガン眼魔が後ずさりした隙に、フランはドライバーからブレードモードのガンガンセイバーを召還し、霊力を利用してガンガンセイバーを空中でコントロールする。
「こんなことも出来るんだ!幽霊ってすごいね~!おりゃおりゃ~!」
ウキウキでガンガンセイバーを操るフランは、ガンガンセイバーをプロペラのように回転させてマシンガン眼魔の銃弾を防御し、銃撃が止むや否や蒼炎を纏わせたガンガンセイバーを猛進させる。猛スピードで突っ込んできたガンガンセイバーに胸部を貫かれたマシンガン眼魔は、がっくりと膝をついて爆散した。地上の怪人の一掃を終えたフランは、レイドラグーンの上を器用に渡り歩きながら戦っているレミリアに声をかける。
「さてと...お姉様~!まだ終わんないの~?」
「うっさいわ!って、誰ぇ!?」
「あぁ、この姿だから分かんないのか。ま、いいけどね~♪」
レミリアのカリスマ皆無なツッコミに呆れつつ、フランはライドブッカーとガンガンセイバーのガンモードの二丁拳銃でレイドラグーンを撃ち落としていく。それはもう楽しそうにエネルギー弾を乱射するフランは、狂気すら滲ませる威勢でレイドラグーンを蹂躙する。そんな彼女の背に、何の前触れもなく、切り裂かれるような痛みが走った。
「うっ...!なっ、なに!?」
「油断は禁物...というのですよ、妹様?」
一瞬のうちに現れた咲夜は背後からフランを斬りつけ、怪物の仮面の下で歪んだ笑みを浮かべる。そして、腰に装備されている懐中時計の竜頭を押し込むと、全身の懐中時計の針が高速回転し、今度は一瞬のうちに姿を消して見せる。次の瞬間、フランが目にしたのは、視界すべてを覆い尽くすほどに膨大な数のエネルギーナイフだった。
「そして、一度のミスで雌雄は決するもの。妹様、チェックメイトです...」
フランをエネルギーナイフで覆い尽くした咲夜は、高らかに勝利宣言を行うと、パチンと指を鳴らした。それを合図にエネルギーナイフが一斉に動き出し、フランの肢体の至る所に降り注いだ。狙いから外れたエネルギーナイフは地面で炸裂し、おびただしい砂埃を立てる。フランを再起不能と判断した咲夜は、レイドラグーンの最後の一匹を踵落としで始末したレミリアに、諭すような口調で語りかける。
「さて、お嬢様...呪われた力を持つ妹様でさえ、この力を得た私には敵わないのです。もう時間の無駄だと分かったでしょう?中の男を明け渡して下さい...あなたを傷つけたくはない...」
力に溺れる咲夜の並べた高慢な言葉を聞き届けたレミリアは、やれやれといった様子で首を横に振り、ため息をついて語り出した。
「咲夜、あなたは大事なことが分かってないわ...あの子は、その力さえも破壊する!」
レミリアが、破壊の運命を宣言した瞬間──
「そういうこと!」
『アタックライド...マグネット!』
──変わらぬフランの意気と共に、土煙から白い斬撃波が咲夜を目掛けて射出された。すっかりフランを倒したと思っていた咲夜は、虚をついた攻撃に冷静さを欠いてしまうが、反射的に斬撃波を斬りつける。真ん中から真っ二つにされた斬撃波は、白い粒子に分散して消滅した。奇襲を回避した咲夜は、土煙から現れた影に、睨みを効かせて問いかけた。
「まさか、あれをまともに喰らって、立って居られるとは思いませんでしたわ、妹様...!」
「フフッ...まぁ、状況を打開する策はいくらでもあるでしょ?そういうの、油断禁物って言うんだったよねぇ?」
~咲夜の攻撃直前~
無数の光刃を目の当たりにしたフランは、手早く二枚のカードを取り出し、"仮面ライダーブレイド"の描かれたカードを装填すると、サイドハンドルを押し込む。
『カメンライド...ブレイド!Trun up』
"輝夜のブレイドの姿"に変身したフランは、鋼鉄化したブレイドが描かれたもう一枚のカードを手早く装填し、サイドハンドルを押し込んだ。
『アタックライド...メタル!』
エネルギーナイフが動き出す寸前で全身が鋼鉄化したフランは、一斉放射された無数のエネルギーナイフを免れていたのだ。
再び咲夜の前に立ちはだかったフランは、どこか怪しげな笑顔とともに咲夜を挑発する。
「悔しかったらかかって来なよ...ご自慢の時間停止と瞬間移動でさ。それとも、その力は逃げるのにしか役立たないのかな?」
「なら、望みどおりにして
もはや、彼女のアイデンティティであったはずの忠誠心も壊れ、フランへの雪辱を果たさんとする咲夜は、腰の懐中時計の竜頭を押し込み、時間停止能力を発動しようとする。だが、全身の懐中時計の針は異様な動きで誤作動を起こした。完璧に掌握していたはずの自分の能力の異常に気づいた咲夜は、同じ場所を往復したり、急に逆回転を開始する時計の針に動揺を露わにする。
「な、なぜ...!?一体なにが起こって...!?」
「さっきの斬撃波、切り捨てる反射神経は流石だけど...あれ、磁波の塊なんだよね。時計は強力な磁気に晒されると、正確に時間を刻めなくなる...一度のミスで雌雄は決するんだよね、咲夜?」
マゼンタのモザイクに包まれ、本来のディケイドの姿に戻ったフランは、腰に戻したライドブッカーからディケイドのライダーズクレストが大きく描かれた黄色のカードを取り出し、咲夜に誇示するように突き出すと、カードを裏返してドライバーに装填する。
『ファイナルアタックライド...』
「じゃ、覚悟はいいよね?」
「その偉そうな態度も、まとめて破壊してやるよ!」
『...ディ・ディ・ディ・ディケイド!!』
フランがサイドハンドルを押し込むと、フランと咲夜の間に十枚のファイナルアタックライドのホログラムカードが出現し、整列した。そして、フランが高く跳躍するのに合わせ、カードも階段状に並びを変える。跳び蹴りの構えを取ったフランは、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。
「チェックメイト♪」
その言葉を合図に、フランは跳び蹴りの姿勢のまま突撃を開始。自分の思い描く盤面がめちゃくちゃに破壊され、思考回路がショートした咲夜を目掛けて、フランはホログラムカードの中央を貫通しながら放つ蹴り技──"ディメンションキック"を放つ。それに気づいた咲夜はエネルギーナイフで阻害しようと試みるが、放たれたエネルギーナイフの全てを粉々に砕きながら、フランは咲夜の眼前まで迫り来る。そして──
「はぁぁぁぁっ!!」「どぉりゃぁぁ!!」
「ウァ...アァァァァァ!!」
──ディメンションキックを喉元に受けた咲夜は、獣のような叫び声と共に爆発した。爆煙の中から飛び出したフランは、膝を立てて華麗に着地する。その手には、自壊寸前のタイムメモリが握られていた。タイムメモリをじっと見つめたフランは、それを軽く上に投げると、固く握った拳で叩き壊した。粉々に破壊されたメモリの残骸を見下ろすフランの表情には、どこか影がかかっていた。
「フラン...あなたも、ライダーの力を継承したのね...」
「ま、そんなところかな?それより、咲夜はどうするの?すっかり伸びちゃってるけど...」
「そうだ!さ、咲夜~!」
戦闘を終えたレミリアとフランは変身とシンクロを解除し、レミリアは気絶した咲夜に駆け寄る。初戦で華々しい無双の活躍を見せた士とフランは、なにも言わず微笑み合った。ちなみにその頃、盗人と勘違いされて大図書館の主に捕まったユウスケは、魔法に脅されながらの釈明に必死だったそうだ。
それから、咲夜はガイアメモリの副作用でしばらく意識が戻らなかった。数日後、目を覚ました咲夜はドーパントになっていた期間の記憶をほとんど失っていた。覚えていたのは、渡が紅魔館の住人として迎えられたこと程度。奇妙な事件が起こるなど幻想郷では日常の一部、というレミリアの独断により、咲夜は以前と同じ生活を送ることになった...
すべての破壊者、フランドール・スカーレット。
世界の破壊者と旅路を共にし、その紅き瞳は何を見る?
「ハハァ...こいつは都合がいい!まさか、"ゲート"が化け物になっちまうとは。現場も抑えた事だし、こりゃ使えるスクープだな。さっさと"絶望"させてやるよ...!」
戦勝に湧く紅魔館の面々は、空中の遠方から紅魔館を覗いていた鴉天狗が、一眼レフカメラを手に歪んだ笑みを浮かべていたことは、誰一人として気づいていなかった。やがて、その鋭爪が彼女の心を抉りにくることなど知らずに...
~次回予告~
「なんとも奇怪な噂ですね...」
「お前の望みを言え...どんな願いも叶えてやろう。お前が払う代償は、たった1つ...」
「ほぉら、早くビビって泣き喚けよ...それとも、痛いのが欲しいのかぁ?」
「でも、とにかくやらなきゃ...!」
「「変身!」」
「なぜ...!?か、身体が...上手く...!?」
第14話 ~寺・イン・ライナー~
キャラクター・アイテム紹介コーナー!
~フランドール・スカーレット~
495年もの間、地下室に幽閉されていたレミリアの妹。"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"の持ち主。普段は無邪気で無垢な少女だが、その身に孕んだ狂気と力は計り知れない。外界と隔絶されて生きてきたため好奇心旺盛で、新しいことや楽しいことが大好き。士と出会い、彼とシンクロすることでディケイドの力を継承した。
~門矢士~
世界の破壊者として、数多の世界を渡り歩く旅人。常に首からトイカメラを提げており、巡る世界のすべてを写したいと言っている。基本的にとても偉そうな言動が目立つが、本当は友情や仲間、思い出などを大切にする情に篤い人間。また、世界を繋ぐオーロラカーテンを自在に操ることが出来る。フランと出会い、彼女に力を貸すことを決めた。
~ディケイド(フラン)~
士とシンクロしたフランが、ディケイドライバーとディケイドのカメンライドカードを使って変身した姿。ライドブッカーを変形させたソードモードやガンモードを操り、インビジブルやイリュージョンなどのアッタクライドを使った、変幻自在な戦闘スタイルが特長。また、他のライダーのカメンライドカードを使うことで、他のライダーに変身することができる。必殺技は、ファイナルアタックライドカードで発動する"ディメンションキック"。
第13話、ご覧頂きありがとうございました!いかがでしたでしょうか?
今回はディケイドの初回を意識して、連続カメンライドの無双を描いてみました。最後が少し雑に感じるかも知れませんが、士たちのその後は数話後のウィザード編でしっかり補完しますので、しばらくお待ちください!
それでは、チャオ~!