東方時哀録   作:シェイン

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またもや前回から時間が空いてしまいまして、申し訳ありません!たぶんずっと不定期更新ですが、これからもよろしくお願いします!


第16話 〜雷鳴!命の価値〜

〈私は東風谷早苗。守矢神社の風祝、そして現人神として神奈子様と諏訪子様に仕えています。ある日、天空寺タケル君と出会い仮面ライダーゴーストの力を受け継いだ私は、襲撃してきた眼魔と呼ばれる化け物たちを撃破。それからは、行方が分からなくなった英雄のアイコンを捜しながら、幻想郷を眼魔から守るために戦っています!私たちが取り戻した英雄アイコンは、2つ...〉

 

真司「ふあぁ〜...あぁ、眠いなぁ...」

タケル「おはようございます、真司さん。」

 

午前7時、大きなあくびをかきながら寝床から這い出てきた真司に、境内の掃除に励むタケルは爽やかに挨拶する。

 

真司「ん、おはよう...タケルは早起きだな...」

タケル「まぁ、これでも寺育ちですからね。早起きぐらいは朝飯前です!」

真司「ちょっと羨ましいよ...俺は仕事柄、夜遅くまでパソコンとにらめっこしてる日もあったし。」

早苗「おはようございます、真司さん!もうすぐ朝ごはん出来ますから、ちょっと待っててくださいね〜!」

 

苦笑いする真司に、台所からひょこっと顔を覗かせた早苗が声をかける。朝日よりも明るい早苗の笑顔を見た真司は、彼女の純真さに心を打たれる。

 

真司「早苗はいい娘だなぁ...こんな健気な女子高生がいたなんて...!まさに、奇跡だよ...」

タケル「そ、そんな大袈裟な...でも、優しくていい娘なのは間違いないですよ、俺が保証します。」

諏訪子「おやおやぁ?早くも彼氏っぽくなってきたんじゃないの、タケルぅ?」

 

にやにやと悪戯な笑みを浮かべる諏訪子に、タケルは「い、いえ!そういうつもりじゃ...!」と初心な反応で弁解する。少し照れる様子の後輩をみた真司は、こっちも健気だなぁ...と心の中で微笑むのだった。だが、そんな彼の肩が突然がっしりと掴まれる。

 

神奈子「おはよう、真司...相方が頼りなくちゃ、私も全力を出せないからね。今日からみっちり鍛えてやるから、覚悟しときな!」

真司「は、はぁい...つーか、俺そんなに頼りないっすかね...?」

 

御柱を携えた加奈子に捕まった真司は、冷や汗を流しながら頭を掻く。そんな新しい朝の日常を過ごす守矢神社に、一枚の黒い羽根が舞い落ちた。

 

「いやはや、最近の守矢神社は一段と賑やかになりましたね!」

真司「え~と、君は...?」

 

一陣の風と共に境内に降り立った黒い翼を携えし少女は、首から掛けた一眼のカメラを構えて笑う。空から降り立った来訪者に困惑する真司は、怪訝な顔で尋ねる。その言葉を待ってましたと言わんばかりに、少女は大げさな構えをとる。

 

文「ふふ、よくぞ聞いてくれました!清く!正しい!幻想郷最速の新聞記者!毎度どうも、射命丸文です!」

 

 

 

 

 

早苗「それにしても、珍しいですね。文さんがセールスと取材以外の相談だなんて。」

文「ひどっ!?人を金の亡者みたいに言わないで下さいよ!」

 

早苗の計らいでちゃっかり一緒に朝食を囲む文は、妖怪の山を主なテリトリーとする妖怪──"天狗"の中でも、黒い翼を持つ"鴉天狗"に属する少女であり、でっちあげ新聞こと「文々。新聞」の記者でもある。味噌汁をすすった神奈子は、急かすように文に尋ねる。

 

神奈子「んで、その相談ってのはなんなんだ?わかっちゃいると思うが、私らは暇じゃないぞ?」

文「あぁ、そのことなんですが...ちょっと、"椛"~!恥ずかしがってないで、早くおいで~!」

椛「べ、別に恥ずかしがってるわけじゃありませんから!」

 

文の呼びかけに林から飛び出してきた白いしっぽとケモ耳を生やした、"白狼天狗"と呼ばれる種族の少女──"犬走椛"は、神奈子たちに慌てて頭を下げる。

 

椛「し、失礼致しました!お食事が終わるまで藪の中で静かにしておりますので、どうかお気になさらず...!」

タケル「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。よかったら、君も一緒に食べない?良いよね、早苗?」

早苗「もちろん、おかわりは沢山作っておきましたから!私、ごはんよそってきますね!」

 

箸をおいた早苗は台所へと戻り、境内に降りたタケルは「えっ、いえ、私は...!」と恐縮する椛の手をおもむろに取り、やさしく微笑む。

 

椛「ほぇ...!?」

タケル「ほら、行こ?」

椛「ひゃい...」

 

顔を赤くしながら手を引かれ、しっぽをぶんぶん振る椛を見た女性陣は一同に感じるのだった。

 

神奈子・諏訪子・文「(これは...天性の女たらしだ...!!)」

真司「んんっ!たまご焼きうまっ!!」

 

...なお、真司には空気を読む程度の能力は、一切備わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

椛「友達を..."河城にとり"を助けて欲しいのです。」

 

大人数でのにぎやかな朝食を終え、食後のお茶が出されたところで、改まった椛が話を切り出した。彼女の出した名前に心当たりのある神奈子は、眉をひそめる。

 

神奈子「にとり...?それって、玄武の沢の河童だよな?」

真司「えっ!?お値段以上のアレ!?」

神奈子「いや、家具は売ってないから。」

 

外の世界を知る人間にしか分からない神奈子と真司のやりとりに困惑しながらも、椛は話を続ける。

 

椛「え〜っと...最近、にとりの様子がおかしいんです。ずっとラボに籠もりっきりみたいで、少し前に会った時も、虚ろな目でブツブツとよく分からないことを呟いてたし...にとりは、どうしちゃったんでしょうか...?」

 

悲しそうな目でうなだれる椛の頭を優しく撫でた文は、今までから一転、早苗たちに真剣な眼差しを向ける。

 

文「どうか、にとりを正気に戻してもらえませんか?もちろん、タダでというつもりはありません。早苗さんたちは、アイコンと呼ばれる物を探してるんですよね?そして、それを持っていた妖夢さんは怪物に襲われた。」

早苗「そこまで調べてあるんですか...!?」

タケル「確かに探してるけど、それがどうかしたの?」

 

自身の握っている情報の真偽を確かめた文は、依頼に対する交換条件を提示する。

 

文「化け物の目撃情報や、なにか怪しい事件があれば、即時みなさんにお伝えします。自分で言うのもなんですが、私の耳は幻想郷の誰よりも早いと思っています。必ず、役に立つ情報があるはずです!どうか、お願いしますっ!」

椛「あ、文様...私からも、お願いします!」

 

頭を床につける勢いで頼み込む文に合わせ、椛も深々と頭を下げる。二人の誠意を見た守矢神社の面々は、互いの顔を見合わせ、依頼への返答を即決する。

 

早苗「顔を上げて下さい、お二人とも。」

タケル「見返りなんて要らないよ、君の大事な友達なんでしょ?」

神奈子「それに、にとりの奴にサボられちゃこっちも困る。少し叱っておくとしようかねぇ。」

真司「お、俺も行きます!なんか、久々にジャーナリスト魂が騒いできた!」

諏訪子「...これがわたしたちからの答えだよ。うちの自慢の娘たちに、どーんと任せときなさい!」

 

 

 

タケル「これがその子の家か...」

 

文と椛からの依頼を請けた守矢神社の一行は、諏訪子を留守に残して妖怪の山の麓──"玄武の沢"のほとりにあるにとりの自宅兼ラボへと足を運ぶ。入り口には「にとりの研究所」という看板が掲げられているが、その扉の取っ手には鎖が巻かれ、南京錠で厳重に封鎖されていた。

 

椛「ずっとこんな感じで、声をかけても返事をしてくれないんです...」

タケル「しょうがない...ちょっと手荒だけど...!」

椛「あっ、ちょっ...!」

 

ガンガンセイバーを構えたタケルは、鎖を目掛けてその刃を振り下ろす。だが、刃が鎖に触れた瞬間、タケルの体に電流が流れ、椛はしまったというように頭を抱えた。

 

タケル「あばばばば!?」

早苗「きゃぁ!?タケル君、しっかり!!」

文「...こんな風に、無理に破壊しようとすると電流が流れるからくりになっているみたいなんです。」

真司「なるほど...よ~く分かった...」

神奈子「要するに、触らずにぶっ壊せばいいわけだ...よし、任せときな。」

 

打開案を考じた神奈子に扉から離れるように言われた早苗は、黒こげなタケルを引きずって扉と距離を取る。それを確認した神奈子は、スペルカードから生成した、身長の1.5倍はある御柱を大きく振りかぶり──

 

神奈子「どぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

──扉に向けてフルパワーで投げつけた。まっすぐな軌道を描いた御柱は鎖もろとも扉を突き破り、にとりのラボに深々と突き刺さった。唖然とする一同をよそに、一仕事終えた神奈子はパンパンと手を払う。

 

神奈子「...よし、開いたな。行くぞ。」

一同「は、はい!神奈子様!」

 

山の神としての力(物理)を存分に見せつけた神奈子は、先陣を切って御柱の隙間から中を覗き込んだ。その直後、神奈子は血相を変えて叫ぶ。

 

神奈子「伏せろっ!!」

文「えっ!?」

 

神奈子の声に従った一行が姿勢を低くした瞬間、巨大な電磁弾が御柱を焼き尽くしながら頭上をすりぬけていった。間一髪で危機を回避した早苗は、苦笑いとともに冗談を飛ばす。

 

早苗「また防衛システム...にしては、過剰ですよね。」

神奈子「あぁ、これは..."眼魔"だ!」

 

電気眼魔「まったく、我々の偉大な研究の邪魔をしないでもらいたいなぁ?」

 

ボロボロになった入口から現れた、パラボラアンテナのような頭を持つ眼魔──"電気眼魔"は、気怠そうな声で文句を垂れる。

 

文「これが噂の化け物...!しっかり収めておかないと

!」

椛「そんなことしてる場合じゃないでしょ、文様!」

早苗「えぇ、お二人は離れていてください。」

 

神奈子「コイツがにとりをおかしくしてるのか?」

タケル「その可能性はかなり高そうです。」

真司「なら、ちゃちゃっと片付けないとな!」

 

貴重なシャッターチャンスを逃すまいとシャッターを切る文と、それを咎める椛。そんな二人を護るため、電気眼魔の前に立ちふさがった早苗と神奈子は、それぞれのパートナーとシンクロして、神奈子は水面にカードデッキを写してベルトを、早苗はゴーストドライバーとオレアイコンを用意する。

 

『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』

 

早苗・タケル・神奈子・真司「「「「変身!」」」」

 

『カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!』

 

龍騎の姿、オレ魂に変身した神奈子と早苗は、それぞれ拳とガンガンセイバーを構え、電気眼魔を威圧する。

 

早苗「さぁ、にとりを元に戻してもらいましょうか!」

電気眼魔「げぇっ!?お前、ゴーストだったのか...!なんか変な奴も居るし、面倒だなぁ...行け、お前ら!」

 

しかし、相変わらずやる気を見せない電気眼魔は、大量の眼魔アサルトを生成すると、早苗たちにけしかける。

 

タケル「あいつ...!時間稼ぎのつもりか!?」

真司「なんにせよ、コイツら倒さないとどうしようもないって!」

神奈子「同感だ、雑魚はさっさと蹴散らすぞ!」

早苗「はいっ!椛さんと文さんは、隠れててください!」

 

『SWORD VENT』

 

ドラグセイバーを装備した神奈子と、ガンガンセイバーを装備した早苗は眼魔アサルトの群れに突撃すると、華麗な剣捌きで次々と敵をなぎ倒していく。

 

 

電気眼魔「ん〜む...予想よりも早いなぁ...」

 

一方、高みの見物を決め込んでいる電気眼魔の後ろから、ゆらりと一人の少女が姿を見せる。多機能ポケット付きの水色の服に、鍵のようなアクセサリー。彼女こそが幻想郷きっての発明家──河城にとりである。

 

にとり「なんの騒ぎ...?」

電気眼魔「気にせず、お前は発明に集中するといい...もう間もなく、完成なんだろ?」

 

隈の酷い顔で尋ねるにとりに、電気眼魔はなにかの発明を続けるように促す。無言で頷いたにとりは、入口の奥に設置された機械仕掛けのゲートのようなものへと駆け寄ると、そのゲートといくつものケーブルで繋がれたパソコンを一心不乱に叩き始める。

 

にとり「もうすぐ...!もうすぐだよ...」

電気眼魔「クククッ...バカな河童だな...」

 

 

早苗・神奈子「「はあっ!」」

 

周囲の眼魔アサルトたちを一閃した早苗たちの視界に、少しずつラボへの道が切り開かれていく。しかし、突破口が出来る寸前、二人の背中を鋭利な爪刃が襲った。

 

早苗「うわっ!?」

神奈子「新手か!?」

 

奇襲に見舞われながらも体勢を整えた二人の目が捉えたのは、冥界で早苗を襲った豹の異形──"ジャガーロード"だった。

 

タケル「こいつ、白玉楼で襲ってきた...!?」

早苗「こんな時に、また邪魔をする気ですか...!」

 

タイミングの悪い二度目の襲撃に苛立ちながらも、ジャガーロードに向かって駆け出す早苗だったが、神奈子はそれを片手で制した。

 

神奈子「この獣人は私らが引き受ける...その内に、早苗たちはあの眼魔を倒せ!いいな?」

早苗「神奈子様...!分かりました、お気をつけて!」

 

早苗の激励に片手で応えた神奈子は、ジャガーロードに向かって疾走しながら、一枚のアドベントカードをドラグバイザーにベントインする。

 

『GUARD VENT』

 

神奈子「うぉぉぉぉぉ!」

ジャガーロード「グルゥッ!?」

 

ドラグレッダーの腹部を模した2枚の大盾──"ドラグシールド"を装備した神奈子は、勢いそのままにジャガーロードに突進し、タックルの要領でその場から引き離していく。

 

早苗「あなたたちに付き合ってる暇はありません!道を開けてください!」

『カイガン!ムサシ!決闘!ズバッと!超剣豪!!』

 

残った早苗は手早くムサシ魂にパーカーチェンジし、ガンガンセイバーの二刀流モードを駆使して眼魔アサルトの残党を切り捨てながら、弾丸の如く前進する。そして、眼魔アサルトの大群を切り抜けた早苗は高く飛び上がり、電気眼魔に斬りかかった。

 

早苗「お待たせしましたねっ!」

電気眼魔「来なくていいのに...俺は省エネ推進中なんだよっ!」

 

しぶしぶ戦闘を開始した電気眼魔は、ガンガンセイバーを防いだ腕に電流を流す。ガンガンセイバーを通して感電した早苗は痺れで動きが鈍くなり、電気眼魔の電気をまとった打撃をみすみす受けてしまう。

 

電気眼魔「ホラホラ、まだ待たせる気かぁ?」

早苗「ぐぅっ...身体が、言うことを...!」

タケル「距離を取って、早苗!ニュートンだ!」

早苗「はいっ...!」

『カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか〜!!』

 

離脱したムサシパーカーが電気眼魔を妨害している隙にニュートン魂にパーカーチェンジした早苗は、痺れの残る身体を無理矢理に動かし、電気眼魔に立ち向かう。

 

早苗「触られなければ怖くないっ!」

電気眼魔「うぉっ!?」

 

再び腕を振るう電気眼魔に対して、早苗は右手の斥力を活かして間隔を保ち、一方的に攻撃を加える。軽く吹き飛ばされた電気眼魔は、ラボの中でパソコンを打ち続けるにとりに目を向けると、狂気的に笑う。

 

電気眼魔「ヒャヒャ...!これでどうかなぁっ!?」

タケル「っ!?早苗っ!!」

早苗「はいっ、にとり!!」

 

にとりを狙って放たれた数発の電磁球から彼女を護るため、早苗はその身を盾にして電磁球を受ける。全身に痺れが回る中、最大の斥力を放って電気眼魔を大きく吹き飛ばした早苗は、オレ魂に戻り、至近距離での戦闘にも反応しないにとりの肩を掴む。

 

早苗「にとりっ!正気に戻ってください!」

タケル「なにを作ってるのか知らないけど、生きていてこそでしょ!?」

にとり「生きていてこそ...」

 

タケルの言葉を小さく繰り返したにとりは、キーボードの上を滑らせる手を止めると、ポケットの一つからくしゃくしゃの写真を、大事そうに取り出した。そこには優しく笑う二人の男女とにとり、そして赤毛の少女が写っていた。

 

にとり「...そうだよ。生きていて欲しいんだ、異界の大乱で死んだ妹に...家族に...そのためにこの時間転移装置を...!この発明のためなら、わたしは死んだって構うもんか!」

早苗「死んだって...構わない...」

 

 

 

 

──早苗、お前を残して行くことを許してくれ。母さんが病気で亡くなってから、父さんの心には大きな穴が出来てしまったように、喜びもなにも感じられなくなってしまった。お前の顔を見ても、笑いかけてやることも、頭を撫でてやることも出来ないんだ...

 

もう一度母さんに合うためなら、父さんは死んでも構わない。

 

こんな、ろくでもない親でごめんな...これを読んだら、守矢神社という寂れた神社を頼るといい。親切な人たちが助けてくれるはずだ。

 

身勝手な頼みだが、父さんも、母さんも、お前を心から愛していた...それだけは覚えていてくれ──

 

 

 

 

電気眼魔「...あぁ、頭にきた!もう十分だ!アイコンゲートは起動できる段階まできている!!」

にとり「アイコンゲート...?なんの話だよ!?」

タケル「あっ!に、にとりちゃん!」

 

憤慨した様子で戻ってきた電気眼魔の言葉を聞いたにとりは、愕然とした様子で電気眼魔に詰め寄る。にとりの慌てぶりを見て笑う電気眼魔は、にとりに真実を打ち明ける。

 

電気眼魔「残念だが、アレは時間転移装置なんかじゃない...お前は俺の催眠にかかって、俺の計画を忠実に実行してたってわけだ!ヒャヒャヒャ!!」

にとり「そんな...!?」

電気眼魔「本当に助かったよ。一番の功労者であるお前に、記念すべき一人目の犠牲者を務めさせてやる!」

早苗「...や、止めなさい!」

 

絶望に打ちひしがれるにとりを突き飛ばし、ゲートの中に入らせた電気眼魔は、腕から放った電流をゲートに供給する。早苗も起動を止めようとするが、麻痺した身体はうまく動かず、電源を得たゲートは静かに起動してしまう。

 

にとり「うっ...!?アァァァァ!?」

 

四肢を拘束され、高電圧に全身を蝕まれるにとりは、ゲートの中で悶え苦しむ。すると、ゲートに吸い寄せられるように部屋のガラクタの中から、色の抜け落ちた"エジソンアイコン"が飛来し、にとりの胸から七色のオーラを吸い取り始めた。

 

電気眼魔「よしよ〜し、順調だなぁ!」

早苗「いったい何を...!?」

電気眼魔「生贄にしたやつと呼応したアイコンを呼び寄せ、復活させてるのさ。ま、生贄になったやつは生命力を並々吸われて、良くて植物状態、悪けりゃ死ぬけどまっ、それで偉人の魂が蘇るんだ、価値ある犠牲じゃないか!アッヒャヒャヒャ!!」

早苗「ッ!!」

 

電気眼魔の極めて傲慢な理屈を聞いた早苗は、キッと怒りに満ちた目を見開くと、麻痺を感じせない流れるような動きでアイコンゲートを一閃した。爆発の中からにとりを抱えて抜け出すと、早苗は遠隔操作でガンガンセイバーをガンモードに切り替え、電気眼魔に連射してラボから追い出す。

 

にとり「うっ...ん...早苗...」

早苗「あなたに死んでも叶えたい願いがあるなら、私にそれを止める権利はありません。でも、あなたが死んで悲しむ人、残される人がいるってこと...忘れないでくださいね。命の価値は、成し遂げたことで決まるわけじゃない...何も成し遂げなくたって、生きている...それだけで、誰かを幸せにしてるんですから...あなたが、家族に生きていて欲しかったのと、同じように...ね。」

 

どこか悲しそうな顔でにとりに語った早苗は、優しくにとりを床に下ろすと、電気眼魔を追ってラボを飛び出して行く。その背中を見送ったにとりは、ボロボロになったラボで自嘲するようにに笑った。

 

にとり「なにやってんだろ...わたし。自分の悲しみから逃げるために、また誰かを悲しませて...わたしは...わたしは...!」

 

 

 

電気眼魔「よくも俺の計画を...!絶対に許さんぞぉっ!」

早苗・タケル「こっちのセリフだッ!!」

 

自身の計画を跡形もなく破壊された電気眼魔は、半狂乱で放電し続ける。早苗はその合間を縫って電流を躱しながら電気眼魔を狙うが、痺れの残る腕では精密な射撃が出来ず、徐々に被弾し始めてしまう。

 

早苗「まずい...このままじゃジリ貧に...」

にとり「早苗っ!」

 

にとりの声に振り返った早苗は、投げ渡された物を反射的にキャッチする。その手には、復活したエジソンアイコンが握られていた。アイコンを託したにとりは、一点の曇りもない笑顔を見せる。

 

にとり「わたしが発明家になったのは...誰かを笑顔にするためさ!悲しみから逃げるためじゃなくて、悲しみすらも乗り越えられる発明をしてみせる!だから、そいつの助けはもう要らない!頼むよ、盟友っ!!」

早苗「えぇ...!任せてください!!」

電気眼魔「ア、アイコンが蘇っただとぉ...!?」

 

自分のアイデンティティを取り戻したにとりの思いを受け止めた早苗は、エジソンアイコンを起動し、ドライバーにセットすると、素早くトリガーを操作する。

 

『カイガン!エジソン!エレキ!閃き!発明王!!』

 

ドライバーから出現した、電球のような腕を持つ"エジソンパーカーゴースト"を纏い、髪飾りは電球の意匠を持つ仮面に変わる。銀のパーカーをなびかせた早苗は、"エジソン魂"へとパーカーチェンジを果たした。顎に手を添え、何かを考えるような仕草を見せた早苗は不敵に微笑む。

 

早苗「ふっふっふっ...奇跡的な閃き、刮目なさい!」

電気眼魔「ふざけたことを...!喰らえ、最大出力ぅっ!!」

 

早苗の発言を挑発と受け取った電気眼魔は決着をつけるべく、自身の限界電圧の電磁球を放つ。しかし、その電力はすべてエジソンパーカーのアンテナに吸収され、電気眼魔渾身の電磁球は完全に消滅した。大量の電力を蓄積した早苗は、ガンガンセイバーのモノリスをアイコンタクトさせる。

 

『ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!』

早苗「命、ビリっと燃やしますよ!!」

タケル「オッケー!」

電気眼魔「ひっ、ひぃ〜!?」

 

背を向けて逃げ出す電気眼魔を射線上に捉えた早苗は、蓄積した電気をエネルギーに変換したガンガンセイバーのトリガーを引く。

 

『オメガシュート!』

 

ガンガンセイバーから放たれた雷の弾丸は、電気眼魔の背中の真ん中を穿ち──

 

電気眼魔「ぴ、ぴぎゃぁぁぁ!!」

 

──情けない断末魔を上げた電気眼魔は爆発四散した。電気眼魔の最期を見届けた早苗は振り返り、後ろで見守っていたにとりにサムズアップを送ると、ゆっくりと地面に倒れ伏すのだった...

 

 

 

沢のほとりに腰を下ろし、日の光を反射してキラキラときらめく水面を眺めるにとり。その膝では、早苗とタケルが頭を乗せてぐっすりと眠っている。早苗の頭を撫でながら、にとりは優しく呟く。

 

にとり「まったく...人にあんなこと言っておきながら、自分が死にかけてるんじゃないか...でも、ありがとう、盟友...」

文「あやや、決定的瞬間は逃してしまいましたか...でも、スクープじゃないですが...」

 

戻ってきた文は、玄武の沢とにとり、彼女の膝で眠る早苗とタケルをレンズに写すと──

 

文「いい絵、ですね。」

 

──その美しい風景をカメラに残すのだった。シャッターを切る音で文に気づいたにとりは、背中越しに声をかける。

 

にとり「文か...あなたと椛が早苗たちに頼んでくれたんでしょ?文も椛も、相変わらずお人好しな天狗だね。私の周りには、こんなお人好しな..."盟友"がたくさんいるんだ...やっぱり、死んでなんていられないな。」

 

電気眼魔に利用された研究は形にならなかったが、にとりはどんな発明品よりも価値のあるものに気づくことができた。にとりの呟いた言葉に、眠っている早苗とタケルが少し微笑んだのは、気のせいではないのだろう...

 

文「あれ、そういえば椛はどこまで逃げたんでしょう?まったく、いくつになっても怖がりですね...ま、そういう所が可愛いんですけど!」

 

 

〜次回予告〜

 

真司「くっそ...なんなんだコイツら!?」

 

翔一「俺たちもお手伝いしますよ!」

 

神子「行きましょう、翔一君!」

 

神子・翔一「「変ッ身!!」」

 

???「龍騎、八坂神奈子...ここであなたを倒す!!」

 

第17話 〜光炎の双龍〜

 

目覚めろ、その魂!




第16話、ここまで読んでいただきありがとうございました!

今回はちょっと展開を早くしたので、雑さを感じてしまうかもしれませんが、どうでしたか...?ですが、早苗の回想は彼女の核心の片鱗ですので、かなり重要な回でもあります。

次回は、ジャガーロードを引き受けた神奈子たちのターン。予告から分かる通りアギト編でもあり、神奈子と何者かが闘う龍騎編の始動回も兼ねています!かなり難しい回になりそうですが、頑張りますね!

それでは、チャオ〜!

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